2024/10/09 のログ
■挟道 明臣 > 【9/25 10:03】【適合値:002%】【浸食値:1】【事務室~】
ひとまずは━━事務室か。
外部に連絡を取るのであれば警備室の方が良い気もするが、この事態だ。
寧ろ警備室に詰めてる連中が飛び出して来ないのがおかしい。
となると手遅れかもっとタチの悪い自体といった所だろう。
なんにせよ、こうなると金庫に回収された小道具が惜しい。
たいていの電子ロックの解除なら太刀打ちできる代物も手元に無ければ意味が無い。
「……お?」
扉に手をかけた感触で分かる、施錠されていない。
が、安全なんてものが確保されている訳もなく。
「離れてろ!」
殆ど吼えるようにして、様子を見に来た人の群れを威圧する。
そのままの意味で全員に危険が及ぶし、いざって時に逃げ道塞がれると俺が死ぬ。
この状況での白衣を着た人間の指示は良く効いたらしく、
退路を確保した事を確認してから、正面突破。
「うーわ……」
迫って来る危険こそないが、目に映る光景に絶句した。
ドールハウスに適当に塗料をひっくり返したような、惨状。
この全てが、人。
人だったものなのだろうと、そう理解すると胸の奥に吐き気を覚える。
アレに素手で触ったりひっかぶったりするのは絶対にNGな事だけは分かる。
即座にあぁなるのか、徐々に浸食されるのかは分からないが避けるべきなのは間違いない。
間違いない、が。
「やっぱダメか」
器用に水を避けて辿り着いたキーボックスには電子ロック。
試しに自分の物で試してみたが権限不足のエラー音が鳴るばかり。
権限が足りそうな物と言えば、そこら中に散った職員のリストバンド。
誰かに取らせる選択肢はない。
誰かを犠牲にする選択肢を、俺が選べるはずがない。
■挟道 明臣 > 【9/25 10:14】【適合値:002%】【浸食値:1】【事務室~】
選択肢は他にない。
それなら、やるだけだ。
外れを引いた分だけ死に近づくなら、確実な所だけを狙うまで。
鍵の施錠に関わる人間を想起しろ、出入口との距離、身に着けている物。
━━足跡のサイズとパンプスの跡。
「……コイツか」
扉の付近、女性物のブラウスの陰に隠れたリストバンドを靴の先で手繰り寄せる。
表記はDランクだが、要件は満たしていたらしい。ボックスは開いた。
おっかなびっくり拾い上げたが、直ぐにどうこうなる物でも無いらしい。
あるいは個人差があるのかもしれないが。
ともあれ、目当ての警備室のキーは手に入った。
内部で暗号配列が毎日書き変わる照合式の電子キー。
「コイツで警備室は開くとして……金庫はどうだ?」
電子ロックのタイプは違うが、リストバンドの認証とパスロックの二重キー。
ランクこそ低いが職員パスである事に変わりはない、パスは最悪視てしまえば良い。
端末が生きているなら……試してみるか。
それが、間違いだった。
不用意な事は控えるべきだと、認識していたのに。
可否はともかくパスの認証を偽装する為にはそのコードを見なくてはならない。
「……は? んだこれ」
内部のエディタにアクセスした瞬間、意識が暗転した
■いつかの光景 > 「へー、制服着るとそーなるんだ」
鈴を転がしたような声。
風に吹かれて花が舞うように、二房の黒の髪束を靡かせて彼女は言った。
「……なんかダサいかも」
酷い言われようだった。
仮にも分かりやすい国家権力の端くれを表す薄青のシャツに濃紺のベスト。
「違う違う! 馬鹿にしてるとかじゃなくって。
ただちぐはぐというか。こう、シンプルに似合ってない感じ?
だって今までチンピラみたいな恰好ばっかりだったし!」
言い直されるたびにフォローができないという事だけが煮詰められていく。
良いんだよ、似合うとか似合わないとかは。
俺が━━
「━━似合うようにありたいって思ってるだけで良い、でしょ?
あの制服が似合うようにって口癖みたいだったし」
まぁ、袖を通してみたら結果として似合いやしなかったんだが。
でも心意気くらいは良いだろ?
悪意に誰かが怯えて生きずに済むように。
憧れた正義の背中に、自分自身が成れるように。
守りたい人を、この手で守れるように。
「良いじゃん、無理しない程度に頑張ってよ。
お兄━━」
■挟道 明臣 > 【9/25 10:19】【適合値:002%】【浸食値:2】【事務室~】
「━━━━っけんな」
俺の記憶に、勝手に触れるな。
端末に拳を叩きつけて、怒りのままに覚醒する。
何秒経った、いや何分か?
悪趣味な異能だと、いつか残された思念に揶揄された事があったが全くだ。
悪趣味が過ぎる。
改竄は不可能だ。少なくともマトモなコードではない。
そもそも文字として成立しているようには到底思えない。
Dランクのリストバンドと、警備室の電子キー。
収穫はあったが、自分の手元のリストバンドの数値にも変化があった。
メモリが一つ増えている。
黒い水から引っ張り上げた物がメモリの上限を超えて11段階になっていたあたり、そこがデッドラインか。
「その手前でも、こんなもん見せられ続けたら頭おかしくなるっつの……」
他にも気になる物が無いと言えば嘘になるが、手に負える物でも無い。
ひとまず撤退して、本命は警備室。
踏み出す足が一歩ずつ重たくなる。
見せられた光景がフラッシュバックして、そのまま目を閉じてしまいたくなる。
それでも、前へ。
外部に繋がるかはともかくとして、今はただ前へ。
【9/25 10:23】【警備室~】
ご案内:「Free4 第二方舟」から挟道 明臣さんが去りました。