2024/10/19 のログ
ご案内:「ボロアパートの一室」に武知一実さんが現れました。
ご案内:「ボロアパートの一室」にリリィさんが現れました。
武知一実 >  
「ふぅ、言った通りだろ? 何も無ェボロアパートだって」

商店街での買い物をしたその後───
定期的な吸精を行うなら、オレの住んでるとこくらいは知っといても良いだろうと思い立って提案してみたところ、こうして連れてくる事になった。
だってコイツ、連絡手段持ってねえっつーんだもんよ。

案内したのはまあ見るも見事にオンボロなアパート。
二階建て一棟10部屋の木造アパート。築年数は知らんけど、たぶんオレよりは年上だろう。
ちなみにオレ以外の住人は存在してるのか知らない。大家は確か近いところのマンションに住んでたはず。
老朽が進んでる、という感じではないが兎に角ボロイアパートだ。

「……中も見てくか?」

仮にも男の一人暮らし、淫魔とは言え異性を上げるのは世間的に見て宜しくないのでは?
そんなことを考えるが、どのみちコイツが腹減らしたら上がるんだし良いか、とも思う。
ちょっと悩んで、部屋に上がるかどうかの判断は本人に委ねた。

リリィ >  
物珍しげに周囲を窺い覗い少年の半歩後ろをついて歩くこと幾許か。
辿り着いたそのアパートは確かにボロ……否、古めかし……素朴な、然し歴史を感じさせる趣で、

「……かずみん様は正直者ですね、知ってましたけど。」

昔話だったらきっと得する方のおじいさんだ。少年だけど。
オンボロアパートを見上げて呻くような感想をあげる。少年に言及することでアパートへの発言を回避するという、ポンコツ淫魔にしてはせせこましい技とか用いりながら。
多分このポンコツは昔話だったら幸せになれない方のばあさんだろう。しらんけど。

「突然お邪魔しても問題ないのでしたらぜひ。
 これだけボ……あの、えー……古式ゆかしい建物ですから、中はどうなってるのかなーって純粋に気になります。
 あ、もちろん襲ったりしないから安心していただいて大丈夫ですからねっ!」

おっすおら淫魔!ってことで、口をもにもにさせて言葉を探すも、お邪魔することに関しては前向きな様子。
踏んじゃいけないゾーンとかない?大丈夫??

武知一実 >  
「すぐにバレる嘘ついてもしゃーねぇだろ。
 ま、見た目よりはしっかりしてるし、家賃は激安だから助かってんだけどな」

そう、ボロい見た目の割に造りはしっかりしていて、踏んだらぶち破れる床とかもない。
あくまでも古臭い見た目で設計されたのかもしれない。きっと昔の建築関係の部活がレトロかぶれになって建てたんだろう……多分だけど。

「じゃあ部屋まで案内するからついて来てくれ。
 ……さっき飯食ったばかりだし、幾ら淫魔(アンタ)でもそうすぐに腹も減らんだろ」

普通逆なんじゃねえかなあ、そういうこと言うの。
とは言え内装も見ていく事に乗り気であることにひとまず安堵する。吸精が必要になるたびに適した場所を探すのも手間だし。
それじゃあ、とボロっちぃアパートのボロっちぃ階段を上がって角の部屋、206号室へと向かう。

「部屋の中も何も無ェけどな。最低限の家具だけで……ほら」

部屋の扉を開けて中へ入るように促す。
狭い玄関、細い廊下の先に古さの割には広い8畳間が一つと6畳間が一つの2DK風呂トイレ別。
やっぱりレトロリスペクトで造られた建物かもしれん、と改めて思う。ちなみに両部屋とも殺風景オブ殺風景だ。

リリィ >  
「かずみん様、かずみん様。世の中にはオブラートと言うものもありまして。」

或いは日本人らしく謙遜……に、ならないか。このオンボロさだと。
そんなことを日本人どころか人ではないポンコツ淫魔は頭の片隅で考える。

頷きながらアパートを進む最中、目でも手でも足でもしっかりと確認したが、見た目に反して問題はなさげ。
ポンコツ淫魔にとっては結構重要なポイントだ。これなら盛大に転んでも大丈夫だろう。

「そうだったらいいんですけどね~。」

腹の虫? きゅる……きゅる……って小さく鳴いてるよ、当然だ。
頗る燃費が悪い。そも、腹いっぱい食べてたら破産するからってそんな食べなかったのもあるのだが。

さてさてそうして軽口を叩く内に程なくして少年の塒その本陣へと辿り着く。
お邪魔しますと扉を潜ると先ずはいかにも一人暮らし用といった様子の狭い玄関。
然し中は存外広い。つっかえない様に靴を脱いでお邪魔しながら、しげしげと興味深げに頻りに視線を巡らせる。

「案外広いんですね。わ、お部屋がふたつ……も……?」

生活感イズ何処?ミニマリスト??

武知一実 >  
「なんか昔のゼリーみたいなお菓子包んでるやつだろ」

それくらい知ってらぁ。
別に謙遜も忖度もなく、オレは事実をそのまんま言ってるだけだ。
相手が個々の大家とか建築を担ったとかならもうちょっと言葉を選ぶが、ほぼほぼ無関係の野良淫魔に見栄を張る理由も無い。

部屋に着くまでの間、やたらとあちこち気にしていた様だが、何か気になるもんでもあったんだろうか。
それとも単に物珍しいだけか。どちらにせよ、何故だろうか穏やかではない空気を感じる……気にせんとこ。

「………まあ、うん。アンタにしちゃよく抑えたと思う」

買い物後の食事を思い出す。
奢りますから、と押し切られて入った先で給料袋とメニューを交互に見て劇画みたいな顔になったリリィ。
その後注文した量は、お前突然便秘にでもなったのか?と思わずにいられなかった。それでも一般の女子よりは多かったけどな?

部屋へとリリィを通し、後に続く形でオレも部屋に入る。カギは掛けない。ちょっと気合を入れてドアノブを回せば外れるカギ、掛ける意味が無いからな。
きょろきょろと部屋内を見て回るリリィを見つつ、以前同級生が話していた、ケージを買い替えた後のハムスターの様子を思い出した。

「おう、片方は寝室として使ってんだけど……先に何も無ェって言ったよなオレ」

6畳間には簡素なベッドが一つと本棚。
8畳間には机と椅子とキャビネット。全部リサイクルショップで中古で買ったやつ。
……終わり。一応収納として6畳間にはクローゼットもついてるので、大抵のものはそこにぶち込んである。つっても、服とボディバッグだけだが。

リリィ >  
「ボケですか?素ですか?わたしは今ツッコミ力を試されています?」

分かり易いようでいまいち掴みきれない少年にポンコツ淫魔は神妙な顔つき。
虚栄心とかとは無縁なんだろうな、ってことだけは分かった。

あれ?鍵は?と不思議に思いながらも一先ずは呑み込む。一先ずは。

そんなことより、友人宅訪問のお約束っぽくエロ本どこですか~?とかやろうと思ってたのに、あんまりにも何もないから口を閉ざした。
必要最低限のものだけ置きましたって感じの部屋は、なんというか、伽藍洞というか、空虚というか。
なんとなくだけど物寂しい。ちょっとだけへの字口になる。

「にしても……テレビもないって、普段どうやって時間潰してるんです?」

そも家なし淫魔に言われるこっちゃねえとか言われたら黙るしかないが。
年頃の男子高校生の部屋って言うには殺風景すぎる気がして、若干曲がった侭の口で問うては首を傾げた。

武知一実 >  
「アンタにツッコミを期待するようになったら終いじゃねえか」

適当に聞き流せ、そこは。
何とも言えない顔になっているリリィに言われると微妙に腹立つ。
まあ、主要構成分ツッコミどころで出来てる奴からすればオレのボケなんて些細過ぎて気付きにくいんだろう。

心なしかワクワク感を纏わせていたリリィからワクワク感が抜けていくのが目に見えて分かる。何を期待してたんだお前。
以前に一度だけ普段ツルんでる奴が来たことがあったが、全く同じだったのを思い出した。え、リリィ(コイツ)男子高生と同じ感性?

「大抵は外に出てバイトしてるか散歩してんな。
 時々はスマホ見たりもするけど……ああ、もっぱら外に居る。
 しゃあねえだろ、異能の都合上、家電はそんなに置けねえんだからよ」

それが何か、と怪訝そうな顔でリリィを見やる。
にしても、制服姿の(見た目は)女子が自室に居るってのに、なんで内装批評受けてんだろうオレ。
この淫魔、ハッピールームアカデミーの人か何かか?

リリィ >  
「ちょっと、どういう意味ですか!?
 わたしだってがんばればツッコミのひとつやふたつやみっつやよっつくらい!」

心外だとでも言いたげな気色ばんだ声は、くらい!で止まる。※できるとは言わない。
不満げに膨れた頬からふすと空気を抜くかわりに、下唇を出して拗ねておく。※でもできるとは言わない。

「そんな余生をのんびり過ごすおじいちゃんみたいな……。」

バイトは兎も角、思春期ダンスィの主な趣味?が散歩て。
あんぐりと口が半開きになる。
が、異能に関する話題が上れば、はたりと瞬き傾いでいた頭を元の位置へ。

「異能の都合上? ……もしかして、かずみん様って電気に関係する異能をお持ちだったりするんです?」

思い出すのは先の買い物で聞こえてきたスパークめいた音と、公園で血を分けてもらった時のこと。
そも此処に訪れたのは内見的な意味合いもあったが、定期的な吸精の対価――に関連するとおもわれる、少年の事情をお伺いする為だ。
腰を据えてお話を聞かんと落ち着……どこに座ればいいんだろう。床?床かな?
少年の顔色を窺いつつ床に正座。

武知一実 >  
「どう見たってアンタはツッコまれる専門じゃねえか
 ほら、出来るって言わねえし。4つくらい何なんだよ、8つに増やせるとかか?」

あ、そうだ今度でっけぇ姿見とか買って来て置いておこう。
お前どのツラ提げてそんな事言えんだ、って時に使えるかもしれない。

「実際似たようなもんだからな。
 まあ、慣れちまえば快適なもんだ。そのお陰でアンタと知り合ったようなもんだし」

外をぶらつく趣味でもなけりゃ、公園でブランコに嵌った淫魔と遭遇することも無かった。
そう考えれば悪い事でもない様に思え……いや、どうかな……どうだろ……
やっぱもうちょっと何かインドアな趣味を持つべき……か?

「ああ、特別に話すようなことでも無かったから言ってなかったけどな。
 ……ほれ、この通り」

オレは右手を一度強く握り、パッと解く。青白く瞬くような火花放電(スパーク)が宙に弾けて散った。

「こいつは元々オレが生まれつき持ってた異能じゃねえから、制御も思うように出来なくてな。
 感情の昂りとかでも漏電す(バチ)るから、電子機器はすこぶる相性が悪ィんだ」

なので本当に必要最低限の家電しか置いていない。
それはそうと、床に正座したリリィを見てさすがに客人を床に座らせるのはどうか、と思う。

「大した話をする訳でもねえんだから、床に正座すんな、そこの椅子かベッドにでも座っとけ」

今度座布団でも買っとくか。

リリィ >  
「ぐっ……ひ、ひとを見た目で判断しちゃいけないんですよっ!」

呻く。
反論が小学生みたいになった。そのうちばーかばーかとか言い出すかもしれない。

「んん……それはまあ…………待ってください、なんかちょっと悩んでません??」

読心術なぞ会得してはいねども、その悩ましげな様子でなんとなくだけど心の内を悟る。
じと、とした目で少年を見るのだ。が、出会ってから世話と迷惑しかかけていないのでそれ以上不満は言わない。ただむすくれるだけだ。
メリットはこれからきっと感じてもらえることができるはず。たぶん。おそらく、きっと。……うん。
膨れっ面もすぐに勢い失せて気まずげに目線がうろと彷徨った。

瞬く僅かばかりの閃光。

に、自然と瞳は其方へ釣られる。

「ふぅむ、成る程……後天的なものなんですか。それで持て余していると。」

やたらと姿勢よく床に座しては頻りに頷く。

「感情の昂ぶりがトリガーに……って、その、かずみん様が悩んでいるのも、それが関係している、ってことでしょうか。」

性欲に関する彼是なんて、まさに感情の昂ぶりそのものである。
なれば性欲どうのに悩んでいるというよりも、異能の制御に悩んでいる、という方が正しいんだろうか。
顎に手を添えて考えを巡らせる中、移動を勧められたら少しだけ悩む素振り。

「んー……いえ、大丈夫ですよ。椅子はひとつしかありませんし。かといって寝具に座るのは……、」

ちらりと少年を見る。
気にするんじゃないかな、って思って顔色を確かめる為だが、勧めるのだから気にしてないのだろうか。
なんともちぐはぐな少年だと改めて心の内でのみ抱く感想がある。

武知一実 >  
「言動でも判断してるから心配すんな」

見た目だけで判断してたらこんな評価出て来るかよ。
とまあ、一応見た目(だけ)は良いリリィへと答える。見た目(だけ)は。

「いや、悩んでるというかちょっと反省してると言うか……まあ、遅かれ早かれだろうから、考えるだけ無駄か」

今後は面白半分で淫魔とか拾わないようにしよう。いや普通面白半分で淫魔拾わねえな?
ともあれリリィ(コイツ)が最初で最後だろう。複数の淫魔と契約とか、きっとオレの身体が持たない。
何故か目が泳いでるリリィを見ながらそんな決意を新たにする。

パチパチと瞬間的に放電した後は軽く手を振って残滓を払う。
意図して出すのだけなら簡単なんだけどな、ホント。

「そういうこった。
 出来る限り暴発しない様な指導は常世島(ココ)に来る前から受けてたんだが……
 その所為かどうも感情の起伏が平坦っつーか……淡白になってんじゃねえかと思うってのが一要因だな」

まあ生来的な性格もあるかもしれねえが。
人格形成(そのへん)の話までする方がいいのか、どうなのか……

「いや、変に正座されて足痺れたりされても困るからよ。
 確かにベッドは寝るとこであって座るとこじゃないかもしれねえが、まあソファで寝る奴もいるんだからベッドに座ったって良いじゃねえか」

何を躊躇ってんだろうコイツ……。
いちいち窺いを立てるような視線が気にかかる。
まあ、初めて訪れた他人の家だから落ち着かないってだけなんだろうとは思うが。こんな殺風景、自分ちだと思って寛げっても無理な話か。

リリィ >  
「ふぬぐぐぐぐわー!」

反論が出来なかったので威嚇しておいた。
クワッと目を見開い――ても前髪で隠れてるからあんまり意味はないので、両手を熊手っぽくして厳つさの演出。

「反省?今の話で反省するポイントありました??
 泣きますよ、いいんですか、泣きますよ。」

オンボロアパートにポンコツ淫魔の鳴き……じゃない、泣き声が響くぞ。
他に住人がいるかどうかも定かでないらしいが、壁ドンとかでそれも分かるかもしらん。一石二鳥ってわけだ。
尚、その後の少年の生活は顧みないものとする。

「ははぁ、道理で。いろんなことがちょっとずつ納得できました。
 でも、そういうのを気にする……ってことは、根の感性は普通というかなんというか。」

但しまだ“ちょっと”だけ。
多少構えはしたものの、あまり特別扱いというか、腫物扱いはしない方がいいのだろう。
少しずつ少しずつ擦り合わせていく。

「そのくせ変なところでピュアだから、わたしはちょっと戸惑うんですよね!?
 あの、……いえ、ではお言葉に甘えて失礼します……。」

ほんのりと頬を染めながら立ち上がり、改め寝具へと腰を下ろして落ち着くことに。
きし、とスプリングが軋む音。
少年が落ち着くのを待ってから口を開こう。

「で。先程仰っていたようなことを確かめるのに、わたしの吸精行為がかずみん様のメリットになる、と。
 ……うぅん、後付け感が拭えない気がするんですよね。
 いえ、かずみん様のご厚意なのはわかっているんですが、わたしとしては自分をもっと大事にしろと言いたくなるといいますか。」

腕を組みながら悩ましげに眉を寄せて淫魔がなんか言っている。

武知一実 >  
「やめろやめろ、ボタン飛ぶぞ」

看護士服なら問題無い様な動作も、今は学園の制服姿なので何が起こるか分からない。
……いや、飯屋に入る時に看護士服のままってのはどうよ、と言って着替えて貰ったのはオレだけども。だって周りの目がさあ……

「マジで遠慮もクソもなく泣きそうだから止めてくれ。
 他の住人に迷惑掛けて追い出されたら困るし……」

角部屋だからそんなに迷惑掛からんとも思うけどな。
そもそも隣に誰か住んでるのかどうか……見た事も物音も無いんだよな。
ちなみに下の階、106号室は大家が倉庫代わりに使ってるから無人なのは知ってる。

「まあ、今まで同じ年代の奴らと関わることって殆ど無かったからな。
 こうして学生生活を送ってみりゃ、他の奴らと違うって事にも気付くさ。気付いたらそりゃ気にもするだろ」

自分の中での“普通”が揺らげば気にもなろうってもんだ。
そこでオレはオレだから、と気にしないってことは出来ない程度には不器用って事でもあるんだろうが。

「ピュア?……そうかぁ?
 おう、次来たときには座布団か何か用意しとくからよ」

ベッドへ移ったリリィを見送って、ふぅ、と息を吐く。
自分の事なのにこうして話してみるとどこか他人事にも思えるから何だか変な感覚だ。
しかも話してる相手は淫魔だしな。

「まぁ……実際後付け臭いとはオレも思っちゃいるが。
 これでもかなり自分を大事にはしちゃ居るんだけどよ。
 基本的に自分の為に動いてるわけだしな、アンタとのこと含めて」

こう言って理解を得られる気はしねえから、もうちょっと付け足しておいた方が良い……んだろうか。
まあ、隠すことでもねえし。

「……常世島に来る前は、本土の研究施設で異能研究の実験体やってたからな。
 あの頃に比べたらかなり自由に生きてるつもりなんだが」

リリィ >  
「今はかずみん様がいるから弾けても大丈夫です。」

ド ヤ 顔 し た 。

ふふん!ってな感じの面で背を軽く反って胸を張ってみると、ボタンがみしって言った気がするのですぐさま元の姿勢に戻るのだが。
弾けても大丈夫とはいえ、買ったばかりの制服を傷モノにしたいわけじゃないので、以降は大人しくしている……の、かもしれない。忘れない限りは。
とりあえず今のところは動作が少しだけ小振りになった。

「いじわる言うからです~。」

語尾を伸ばしてついでに「イー」と歯をむき出しにする。
気安い遣り取りの時は子供じみて表情がくるくると変わるが、少年が口を開けば百面相はなりを潜めるのでご安心。

「んん?えっと、よっぽど田舎でお育ちに?」

少年の口振りにポンコツ淫魔の頭上にハテナが浮かぶ。
後々それは解消されることになるのだが、それまで暫くは?が目に見えるような顔つきだったか。

「有り難うございます。でも、あんまり気にしないでくださいね。」

苦労してるのは聞いているから、余計な出費はなるだけ抑えてもらいたい気持ちで苦笑い。

「そうですか?……そうなんでしょうか。まあ、お役に立てるならばいいんですが。」

出会ってから今まで、世話ばかりかけている自覚があるから渋い表情にもなるってもので。
だがまあ、少年が是というのであらばそれに異論は……よっぽどじゃなきゃ挟む心算はない。
ちょっと唇がツンと尖るだけ。

それも思わぬ言葉にすぐに解けた。

「実験体――とは、穏やかじゃありませんね。後天的な異能とはそういうことですか。
 ……ああ、そっか。だから比較対象がなくて? ――ふむ。」

先程浮かんだハテナが霧散する。理解と納得を胸に、小さく息を洩らした。

「確かに、嬉しいとか楽しいとか、或いは悲しいだとか――そういった“感情”をひとつずつ確かめていくよりは、わたしの吸精行為は簡単で確実ではありますね。」

なんせ、理屈も何もなく“そういうもの”として成り立っている行為だ。
ポンコツ淫魔としても今後糧を得る為に悩むことが格段に減るのも事実。
なればWin-Winってやつなのかもしれない。

武知一実 >  
「そりゃそうなんだが……いや、そういうことじゃなくてな?」

オレの事を専属ミシンか何かかと思ってんのかコラ。
とは言えこのままこの淫魔が猫背になられても困……らなくねえ?オレ全く困らなくねえ??
忠告が効いたのか、少し動きが大人しくなるリリィだった。分かれば宜しい。

「言ってねえよ」

意地悪な事言うメリットが一切無い。清々しいくらい無い。
まったく、と見た目は大人中身は子供の淫魔を前に、軽く頭を抱えるオレだった。

「まあ田舎……ではあったか」

山の中ではあったけれど、言うほど辺境でも無かったような。
まあ、もう帰る気はねえから確かめようもねえんだけど。

「座布団の一枚や二枚、大した出費でもねえからな」

そんなに心配されるほど貧窮しとらんわ、と思わずにいられない。
誰かと違って食費がバカ掛かる訳じゃねえし。

「ホント淫魔だって癖して人のこと気にするとか、変な奴だよなアンタ」

まあ、そこが面白いのもあって構ってんだが。

「やってた側からしちゃあ、日常だからな。穏やかかそうでないかなんて分からねえもんさ。
 まだ3つか4つか……それくらいの時に母親に売られてな?
 そっからは無能力者に異能を後付出来るかって研究のモルモットだ。その結果、まあ完全な制御が出来ないもんが出来上がって、半ば廃棄同然にこの学校に入れられた、ってワケだ」

聞いてて楽しいもんでもないし、かと言って伏せとくようなもんでもない。
まあまあよくある、運の無かった奴の生い立ちだ。

「理解して貰えたみてえだな。それに、今後吸精の時みたいな事態になった時に漏電させないよう制御の訓練にもなるし」

オレとしちゃ至れり尽くせりなんだが。
……ここで普通の男子だったら、そもそも淫魔に吸精されること自体がメリットだ、とか言うんだろか。

リリィ >  
「? ボタン飛んだらつけるのは任せろって、買い物の時に言いましたよね?」

ドヤ顔が一転、きょとんとした。あれ?自分、何か間違ってます?みたいな。
取り敢えず背中は反りもせず丸まりもせず真っ直ぐに伸びている。そのまま手を胸の辺りで組むのがこのポンコツ淫魔のデフォルトらしい。

「だって、さっきの言い方だとまるでわたしと知り合うのを後悔してるみたいな……こ、後悔してるんですか……?」

自分の言葉にはっとした。
目を軽く見開いては眉を下げて少年を見つめる。手を組んでいる態勢なのもあり、何処か祈るような画だ。

少年が後悔しているかどうか、それは兎も角としてこほんとひとつ咳払い。
話を続ける。続けるけど、ちらっちら見てる。

「そうですか?普通のことだとおもいますけど。」

普通過ぎるのだということに、自覚はない模様。
極々自然な所作である。
少年の生い立ちを聞いて痛ましげに表情を歪めるのでさえ、角と尻尾がなければ平凡な少女が胸を痛める様子と変わりない。

「はい、よくわかりました。
 ――ひとつ確認なんですけど、かずみん様は周りと違うこと……えぇと、自分が無感動な人間なんじゃないかってことを気にして、否定にしろ肯定にしろ、それを確かめたいってことで合ってます?」

一石二鳥の制御訓練もあるのだろうが、そもそもこの話の始まりはそういう話……だとこのポンコツ淫魔は認識している。
だがしかし、ポンコツを自覚しているので。そこのところのすり合わせは必須。