2024/10/27 のログ
ご案内:「ボロアパートの一室」に武知一実さんが現れました。
ご案内:「ボロアパートの一室」にリリィさんが現れました。
■武知一実 >
「……ふぅ、やっと帰って来れた」
常世渋谷での仮装選びも無事に終えて、塒にしているボロアパートへと帰還したオレら。
思ったよりも時間を食ってしまったのは、主にオレの足が気を抜けばすぐ生まれたての小鹿の様になってしまうからだった。
こんな状態にした下手人は終始ツヤツヤした顔で『良ければ抱えて飛びましょうか』と提案してくれたが、オレなりに低調にお断りして今に至る。
「オレのもアンタのも、とりあえずこの部屋に置いといて良いよな?」
まだハロウィン当日までは日があったはずだ。
それまでは収納に空きがあるオレの部屋に置いとくのが得策だろう。
というか、
「そもそも、アンタ引っ越しは済んだのか?
堅磐寮に住むとかって聞いてたが」
制服姿で宿無し状態になったりしてねえよな、と今更な確認。
■リリィ >
「むぅ、男心というのはむずかしいものですね。」
満腹とは言えずとも、空腹でなければ人を抱えて飛ぶなんて造作もないことなのに。
ふらつく様子を見てる度に提案したが結局断られたまま辿り着いてしまった。
ちょっとだけ唇を尖らせながらお邪魔することに。
「はい、お願いします。かずみん様が買ったものなので、わたしは必要な時にお借りするということで。」
頷いて改めて確認。まあ、必要な時なんてハロウィンくらいしか思いつかないけれど。
あるいはコスチュームプレイ?なんだっけか、気分を変えたいとき、だったか。
……気分。先程あんなにもおいしかったのは、それが違ったからなんだろうな。
物思いに耽っていた為に、反応が一瞬遅れた。
「え?あ、引っ越しですか?
ええ、済んでますよ。元々着の身着のままだったので手続きさえしてしまえばあとは簡単でした。」
本当は着の身着のままですらなかったんだけど、まあそれは告げる必要もないだろう。
■武知一実 >
「オレにも一応沽券と言うものがあってな……」
本音を言えば、さっきの今で再びリリィと体を寄せ合うというのに耐えられなかっただけなんだが。
それも含めて沽券に係わるんだ。係わるったら係わるんだ。
……まあ、そんなことは置いといて。
「まあ誰が買ったかなんてのは些細な事だからいいんだけどよ……」
購入者に決定権があるみたいに言われても、オレが着るのは狼男――人狼の仮装だけだ。
魔女の方は着れない。着ようとも思わない。だからリリィが持ってるのが良いかもとも思ったんだが……
まだ入寮して日が浅いということもあり、一旦はオレの部屋に置いとこうという結論に至った。
「なにポケーッとしてやがんだ。
荷物らしい荷物も特に無かったんだな。
……メールじゃ服も制服と看護士の以外ほぼ無いって話だったが、ホントか?」
制服を買いに行くのも看護士姿で行ったからなコイツ。
さすがに休みの日でも制服姿で出歩くのはどうかと思わなくもねえし、だからと言って看護士姿も似たり寄ったりだ。
ついでに寄り道してコイツの私服を見繕えれば良かったんだが、寄り道する余裕なんてオレの膝にはもう無い。
■リリィ >
「意地っ張りですねぇ、全部わたしの所為にしてしまえば余程楽でしょうに。」
ふ、と、鼻から息を抜いて肩を下げる。
しょうがないなぁと言わんばかりの穏やかな微笑みだった。
些細というには少々値が張った気もするが、ここで言及するのはそれこそ野暮ってやつだろう。
ありがとうございます、と、何度目かのお礼だけ告げておく。
「そんなことでウソなんか吐きませんよぉ。
学園に通う為のものを買ったら私物を買う分残らなくて。
幸い今は部屋を一人で使わせていただいているので、部屋の中でナース服着てようが制服着てようが何も着てなかろうが誰にもご迷惑はかけてません!」
どや!と胸を張る。ばいんっ!ってなった。いつもの。
だから正直、仮装に関しては(も)助かったのだった。
今日浮いた分は街を練り歩く時の遊ぶように使える。※尚私物。
■武知一実 >
残念ながら楽な道を自ら選べるような性根じゃねえんだわ。
しかし、何だな。リリィにヤレヤレみたいな顔されるのちょっと心外と言うか腹立つな?
まあ、それはいい。オレがちょっと我慢すりゃ良いだけだから。
リリィからの礼に、ひらひらと手を振って流す。確かに値は張ったが想定内なので問題ない。
明日からちょっとまたバイトを増やしゃあ良いだけだ。
「まあ、うん……服持ってないなんて嘘吐かれても反応に困るしな……?
けど、嘘以上に真だった時の方が反応に困るんだなってちょっと思い知った気もするんだが……」
何で得意げなのコイツ、と思わなくもない。
が、オレの視線は自然と揺れるモノへと向いた。
掌にまだ、試着室での感触とかが残ってる気がして、顔が熱くなる。
「と、とにかくだ。当面の私服としてオレのパーカー何着ややるから。
アンタは着古したのでいいって言ってたけどよ、オレだってこの島に来てまだ半年だ、そんなに古くはなってないからよ」
仮装をしまうついでに前以て見繕っておいたパーカーを入れ替わりで何着か、クローゼットから取り出す。
買ったはいいが手持ちのジーンズと合わなかったり、スニーカーと合わなかったり、そもそも一時の気の迷いで買ったものだったりと今後着る予定のない物ばかりだから、持っていかれる分には何ら問題は無い。
■リリィ >
一瞬ピリついたような気がする。キノセイカナ?
兎も角、なによりも先ずは三つ指をついて深々とお礼を伝えるのが先だ。
「有り難うございます、たすかります。
でも、いいんですか?お古って言ってたから、わたしてっきり。」
着古してもう部屋着にしているようなものを頂けるのだとばっかり思っていた。
言外に含ませてはひとみをまるく転がして、並べられるものを見た。
見事にパーカーだらけだ。いや、有り難いんだけど。パーカー以外持ってないの?ジャージとか??
っていう疑問は呑み込んで臓腑に沈めて、取り出されたものから一着手に取る。
着用頻度によるだろうが、半年程度じゃくたびれてるとは到底言えまい。なんならあんまり着てないっぽいし。
布地をふこふこ揉んで楽しみ……じゃなかった、確かめながら、ふと呟く。
「素朴な疑問なんですが、かずみん様ってどうしてそう自ら進んで苦労をしょい込むんです?
……マゾですか?」
めちゃくちゃ失礼なことを言っている自覚があるのかどうか。
心底不思議そうに少年を見ているから、恐らくなさそう。
ただ、出会ってからまだ一ヶ月も経っていないのに、さんざ苦労をかけている自覚はある模様。
服のことだって、反応に困るならそもそも放っておけばいいことなのでは。きっと、大抵の人はそうやって生きているのに。
「ああ、だからかな?」
頭の中の思考を追って独り言ちた。
普通を知らないからこそ、なんだろうか。
■武知一実 >
「さすがに幾ら腹ペコ淫魔相手だからって自分が散々来た服を施すほどじゃねえよ」
一体オレを何だと思ってるのか。(1回目)
単純にリリィが何事も無く学園生活を送れるように、という気遣いしかねえよ。
とはいえ、オレのお古なんてパーカーくらいしかねえ訳だが。
並べたパーカーの内一着を手に取って検分するリリィを見ながら、もう少しコイツの生活が落ち着いたら私服を探しに出るのも良いかもしれねえな、と思う。
とはいえ、女子の服の良しあしなんてオレには判らんし、ましてや翼と角と尻尾がある女子となると尚更だ。
今度クラスメイトにそれとなく聞いてみるのが良いかもしれねえ……
と、ぼんやり考えていたところで、パーカーを見ていたリリィがこっちを向いて口を開く
「……はァ???」
一体オレを何だと思ってるのか。(2回目)
マゾ?……え?マゾヒストのマゾ?他にねえよな?
突然の罵倒に呆気にとられているオレを尻目に、何やら考えた末に結論に至ったらしいリリィ。
「いや、だからか、って何? 一体何だったらオレがマゾになるんだよ?」
一体オレを何だと思ってるのか。(3回目)
ちょっと真面目に問い質したくなってきた。
■リリィ >
「わたしは散々着た服で十分以上にたすかるんですけどね。」
広げてみたら、成る程大きい。
少年から見てオーバーサイズらしいから、確かにこれならワンピースとして着れそうだ。まあ、ワンピースとして着ようとしたらさすがに丈は短めになるだろうけど。
「わぁ、すごい。なんだかガチって感じのリアクションですね!」
当のポンコツ淫魔は呑気に笑っとる。
いや、まあ、ガチな「はぁ?」にさすがにマゾは言い過ぎだったかとすぐに謝罪したけども。
「だって、不思議なんですもん。メリットとデメリットが釣り合ってないですよ、絶対。
だからどうしてなのかなって思って考えたら、そもそもの基準や物差しが違うのかな、って。」
広げたパーカーを身体に宛がいながらする説明は、淡々とした口振りにて行われる。
ふこふこした生地の厚いパーカーだ。これならこれからの季節も着れそう。
試しに一回制服の上から着てみよう。ネクタイは邪魔だから解いてしまえ。
■武知一実 >
「それに、散々着てるって事はそれなりに気に入ってるヤツだろうしな」
さすがにそれを人に譲るかというと、どうだろう。
きっと着れなくなるまで着続けると思う。
「ちょっと一発ビリっとイッとくか? ん?」
冷静であろうと努力しているオレでも、そろそろ堪忍袋の緒が切れるぞ?
まあ、謝って貰ったのでチャラにはするが。いや、やっぱツケにしとこ。
「そうかぁ?別に釣り合ってねえ程じゃねえと思うが
……まあそれは置いといて。 一応アンタの考察を聞いとこうか」
ふん、と腕組みしてリリィの話を傾聴するつもりになる。
リリィが手にしている春のまだ肌寒いころに買ったパーカーだから、秋から冬の頭くらいまでは着れることだろう。
と、思っていたら突然ネクタイを解き始めた。え、ちょ、え?ま、待って、え?
■リリィ >
「確かに。」
ド正論に肩を揺らしてくすくすと笑う。
解いたネクタイは傍らに置くが、当然それ以上脱ぎだすことはない。
例えポンコツ淫魔だとて……ん??淫魔なら脱ぐのが正解なのか??しらね。
首元を軽く寛がせたら、パーカーの裾を開いて中へ潜り込む。
右腕を差し込んで、左腕も差し込んで、最後に頭を……頭……あた……、
「た、助けてくださぁい。角が引っ掛かって頭が抜けません~!」
もだもだうごうご。
珍妙なダンスみたいな動きをしてたから、少年の堪忍袋が悲鳴をあげているのにも気付かない。
手伝ってもらうか一旦角を消すかして、ぷは、と新鮮な息を吸う。
「ふぅ……パーカーって着るの大変なんですねぇ。
で、なんでしたっけ。ああそうだ、かずみん様がマ……じゃなくて、
度を越したお人好しなのはなぜかってお話ですっけ。」
前ならえをするみたく両腕を伸ばしてみても、指先すら出てこない。大きい。
「だからええと、かずみん様は実験体……だったわけでしょう?
誰かに何かを言われて、誰かの為に何かをする――我が身を犠牲にする、というのが根付いてしまっているのではないでしょうか。
そりゃあ世の中やさしい人だってたくさんいますよ。
でも大半はお腹をすかせた猫がいたとして、手持ちの食べ物を分けることはあっても、わざわざ猫が食べられるものを買って与える人は少数派だと思います。」
腕を曲げて袖に鼻先を埋めて、すんすん。匂いを嗅いでみる。
■武知一実 >
「……何してんだよ……ったく」
リリィがネクタイを外せば、相も変わらずのパツパツ具合。
よくもこれでまあ今日一日もったもんだな、と思わざる得ない。
……いや、ショップでは脱いだり着たりしてたけどもさぁ。
等と考えていたら、リリィが珍妙な踊りを踊り始めた。何やってんだ、マジで。
ちょっとイラっとしてた気分も何処かへと霧散していき、オレはリリィへと近づくと角が引っ掛かっていた襟元を開いて頭を出してやる。
「前がジッパーになってるのもあるから、そっちも持ってくか」
呆れながらも並べたパーカーの内、一着を脇へ退ける。サイズは……まあ今試そうとしてるのと同じだから大丈夫だろ。
そして再び話し出したリリィに耳を傾け……傾ける……。
「……べつに。
別にオレぁ我が身を犠牲にしたりしてる気は無いって散々言ってんだろ?
したいと思ったことをしてるだけだ、アンタに精気を分けてんのも、服を工面してんのもな。
得らしい得……もねえが、損もしてねえ。オレから言えんのはそれだけ―――って真面目に話す気あんのかオイ」
さっきから合間合間に可愛い仕草挟んでくんじゃねえよ。
ていうか嗅ぐな、一応洗濯はしっかりしたが嗅ぐな!恥ずかしいだろ!!
……変な匂いとかしないよな?大丈夫か?
■リリィ >
「角の先端がこう……くいっと。」
引っ掛かったんです。自分悪くない。とでも言いたげなポンコツ淫魔であった。
手伝ってもらったらきちんとお礼を告げて、ヘンテコダンスはおしまい。
ぼさぼさになった髪を手櫛で整える。
「えっ、だ、大丈夫ですよ!次はもっとうまくやります。」
欲しいという前に与えられるこの感覚。至れり尽くせりってこういうことなのだろうか。
ポンコツ淫魔は少年の着るものが足りなくなることを危惧して慌てて首を振った。
「でも、実際になくなってるものがあるじゃないですか。精気然り、服然り。」
苦労して帰ってきた記憶は新しかろうし、突っ込まれて嗅ぐのを止めて腕を広げてみせる。このパーカーだってあげたらなくなる。当然の事だ。
「色々言ってはいますけど、本当にただ疑問に思っただけで、悪いことだとは言ってないですからね。
まあ、その内痛い目みそうだなぁ、とは思ってますが。」
というか、自分が痛い目みせそうだなぁ、とは思ってる。
「ね、似合ってます?」
首を傾げた。
■武知一実 >
「アンタ時々自分の身体特徴忘れるのどーにかならんのか!」
全く、普通自分の頭に角生えてたら服着る時とか気を付けるもんじゃねえのか……?
オレには角なんてねえから分からねえが、案外他の角持ちも忘れたりすんのか……?
もし角の生えた知り合いがコイツ以外にも出来たら、聞いてみよう。
「良いんだよ、どうせタンスの肥やしになるのがオチなのも幾つかあんだからよ」
まだまだパーカーはいっぱいある。バイト代が入るたびに買ってるから一週間日替わりで着回しても余裕なくらいある。
一着二着減ったところで、何週間か後になってあげた事を思い出すくらいだろう。
これって浪費癖か……? もう少し考えて買った方が良いのか……?
「なくなるったって一時的に、だろ。
精気はちょっと休みゃ快復するし、服だって新しく買えや良いだけだ。
それに、ただ無くなる訳じゃねえ。精気も服も、アンタの役に立つんだろ?」
その結果にオレは満足するし、それは安い満足だとも思わねえ。
まあ、精気も服も、渡してすぐ棄てられるってんならだいぶ考えもんだとは思うが、そんなことする奴じゃねえってのは把握してるしな。
「……こう見えて外側も内側も結構頑健に出来てんだ。
多少の事じゃ痛いどころか屁とすら思わねえよ」
この島に来るまでに見舞われたことに比べりゃ、喧嘩で怪我を負う事まで些末事みてえなもんだ。
リリィが何を心配してんのか知らねえが、杞憂だろ、と鼻で笑うしかない。
「ああ。やっぱりオレが着てんのとは印象が変わるもんだな」
ちょっと袖が長かったか。まあその分裾が腿まで行くから大目に見て欲しいもんだが。
■リリィ >
「うーん、気をつけてはいるつもりなんですけどねぇ。」
曖昧に語尾を伸ばしては頬を掻く。
ついついうっかりしてしまうのだった。
「そうなんですか? へぇ、意外。」
仮装を選んでいた時の会話からして、然程ファッションに興味がある方ではない様子だったが。
なんだかんだ言いながらパーカーが大好きなのか、或いはそれを買うという行為をストレス発散にしているのか。
目を丸くして少年を見る。
「失った精気を補うためには栄養や休息が必要ですし、服を新しく買うのにもお金が必要ですよ?
犠牲とまではいかないにしろ、何かを与えるならば、その分何かは失われるでしょう。
それに見合うものをわたしはかずみん様にお返しできているのかなって、少し思っただけです。」
いや、話している内に浮かんだという方が正しいか。別に少年がいいというならいいんだろうけど。
此方から与えられるものを突き返したりはしないし、殊更騒ぐ気も気に病むこともない。だからこその、“素朴な疑問”だ。
「まあ……確かにふつうの人よりは丈夫……なのかなぁ。」
比較対象がないからなんともいえないけれど。もうふらついていないのを見るに、その通りなのだろう。
「ふふーん♪」
肯定に満足そうに鼻を鳴らして袖を口許へ寄せる。ぬくぬく。
■武知一実 >
「オレから言わせて貰えば、アンタの方がもうちょっと自分を顧みた方が良いと思うんだが」
様々な面において。
まあ、それをしないからこそ、オレはコイツについつい手を貸しちまうのかもしれねえが。
「店ではよく見えても、実際買って来てみるとスニーカーと合わなかったりな。
何かしっくり来ないって程度だけど、着る気にならなくなっちまうんだよ。
あんまり着るものに頓着はしねえが、それでも着れりゃ良いってもんでもないらしいな」
自分の事ながらいまいち理解に苦しむが。
おおよそガキの頃に着てた色の組み合わせに近かったりで敬遠しちまうのかもしれねな。
「そんなの、生きてりゃ普段からやってる事だろ?
しなくて良い事をする様になってるわけじゃねえし、考え過ぎだっつの。
それに、アンタからちゃんと代価は貰ってる。そこは、……まあ、心配しなくていい。むしろ、すんじゃねえよ!」
これまでの吸精を思い返してまたしても顔が熱くなってきた。
誤魔化しも兼ねて無理やり語尾を荒げる。
それとも、いちいち報告されなきゃ気が済まねえとか、そんなことはねえ……よな……?
「昔はその場で意識失うみてえに寝ることもあったからな、それに比べりゃアンタの吸精後の怠さなんて可愛いもんだ」
どのような異能を宿しても問題なく稼働する器として身体作りをしてた賜物だな、と今となっちゃ笑い話だ。
お陰で打たれ強さと回復力は折り紙付きだ。見た目からじゃ、そんな分からねえかもしれねえが。
「……ご機嫌だな。 てか、寒かったのか?」
平然としてたから意識しなかったが、確かに日が落ちてからは冷える日も増えて来た。
もしかすると制服のままだと寒かったのかもしれねえ、と今更反省する。
■リリィ >
「例えばどんなところを?」
身体的特徴を稀によくうっかり意識の外に追いやってしまうところとか?
きょときょとと瞳を転がしながら訊ねる。
「なるほど。でも、いいと思いますよ。
なんでもいいっていうのは結局何もいらないっていうのと同義だと思いますし。」
欲はないよりある方がずっと健全だ。悪魔的にもその方が好感が持てるし。
「考え……過ぎてますか?
うーん。あれ、かずみん様、顔が赤いですよ。」
語気が荒くなるのに瞬きながら、じっと掌を……見下ろそうとしたけどダボダボの袖で覆われているんだった。
無意味にぱたぱたと揺らして余った先端の布をはためかせて遊びながら少年の頬の赤みを指摘するとして。
「ぬっ。」
可哀想な話の気配に眉間に皺ッ。
笑い話じゃないんだよなぁ……。
「え?ああ、いえ、単純にうれしくて。
あったかいですね。ありがとうございます。」
■武知一実 >
「とりあえず第一は粗忽さだな。ブランコに嵌ったりとか」
何度も擦って悪い気が無くはないが、それでも初対面の第一印象として強烈過ぎたので大目に見て欲しい。
普通居ねえだろ、ブランコにすっぽり嵌る奴。
「ああ、考え過ぎと言うか、心配し過ぎと言うか……
うっさい、ほっとけ。少し暑いんだよ」
とりあえず制服の上着脱いでおくか……。
余った袖で遊んでる姿は、淫魔らしさなんて欠片も無いんだよなあコイツ……。
「ま、世の中何が功を奏するか分かったもんじゃねえし、そう考えたらオレの半生も無駄じゃねえんだな……って」
あ、何かすごい眉間に皺。
良いだろ別に、過去は過去。過ぎたもんはどうしようもねえんだから。
「お、おう。そうか。
もし暑いとか寒いとかあれば言えよ、調節するからよ」
主に窓の開け閉めで。
エアコンもあるにはあるが、延長コード引っ張り出さなきゃならねえから面倒なんだよな……
■リリィ >
「うっ!あ、あれは、だって、お、お尻が……いえ、ブランコが思いのほか小さかったんですっ!」
真っ赤な顔で吼える。がるる。
おケツが大きかったわけではない。断じて。違うのだ。
「考え過ぎはともかく、心配し過ぎはかずみん様には言われたくないです。」
世話焼きママみたいな少年に言われることじゃないと主張。
片手を高く持ち上げて、余った袖をプロペラみたいにくるくる回す。異議アーリ!
「かずみん様は、恨んだりはしていないんですか?
施設の方々やご両親だとかのことを。」
既に消化済みなのだろうか。見た目はともかく、未だ幼いこの少年が?
ならばなんの関係もないポンコツが憤慨するのもおかしな話だと言われれば納得はする。多分。眉間しわっしわだけど。
「はーい。
……冬場に吸いに来たら凍ってる……!とか、嫌ですからね?」
いちおう、念の為、釘をぷす。
■武知一実 >
「はいはい、そういう事にしとこうかね……いや、ブランコの事だけじゃねえからな?!」
座る時に分かるだろうが。分からなかったことを含めて粗忽だと言ってるんだが。
誰もケツの話なんてしてねえよ、と言わざるを得ない。胸はともかく尻は見た覚えもねえし。
「心配にもなるってもんだろ、アンタのその抜けっぷりは……」
異議は却下。
異議申し立てるくらいならもうちょっとしっかりしろ。
「あァ?恨んでどうなるってんだよ。
たまたまそういう星の巡りに当たったってだけだ、根に持ったところで何の得にもならねえしな」
そんな変わらねえ事より、もうちっと生産性のある事を考える方がマシだ。
まあ、それでリリィが納得するかどうかは知らねえが。
「凍る程冷え込む……の、か?
考えてみりゃずっと研究施設ン中に居たから、本格的な冬の寒さって分からねえな……」
どのみち凍ってる事は無いとは思うが。
重ね着とか布団で調整出来んだろ……多分。
■リリィ >
「……? 他にわたし、なにかしましたっけ。」
きょっとーんとしてる。自分、なにかしちゃいました?の顔してる。
半ば無意識に傾けていた頭を元の位置に戻して、腕を組んで思い出そうとするが、一分経っても二分経っても思い出せなかった。
ということは多分なにもミスをしていないのだろう、ヨシ。
「空腹で倒れることが減ってからはだいぶマシになりましたもん。」
多分、恐らくは。だよね?うん。
キリッと眉を吊り上げて、凛々しい顔をしてみた。半分くらい前髪で隠れているけど。
への字口だけはよく見える。
「えぇ……。それは達観ですか? それとも諦観?
欲がないのか、気付いてないのか、知らないだけか……わたし、気になります。」
まあ、それを確かめる為のわたしなんだけど。
異議申し立てが却下されてしまったので、手をおろすかわりにじーっと少年を見る。見つめる。じーーーーっ。
「お外に出してもらえることもなかったんです?」
凍死はなくとも、風邪ひきそうだったら「さむいです」って言えば暖房用意してくれるだろうか……。
■武知一実 >
「そう言うとこォ!!!」
言っても無駄かなあと思ったが、予想以上に無駄だった!
けれどまあ、こういう前向きさ……じゃねえな、何だろう、楽観さは見習いたいもんだ。
……じゃなくッてぇ!その楽観を他人に向けろっつー話だったのでは!?
「……まあ、その辺の事はオレに感謝しろよな。
いや、オレじゃなくても誰かしら精気くらい分け与えたろうけどな」
考えてみりゃオレである必要性は無かったわけで。
けどまあ、現状はこうしてオレがリリィの供給源を担ってる。
変な縁だよなあ、と今更ながら少し感慨深くなっちまう。
「どっちだろな、まあ好きに決めてくれ。どっちでも構わねえよ。
あんまりイライラしたりしてても、雷が漏れるしな」
欲が無いというよか、無意識のうちに自分で欲を消してるという方が正しい気も最近はして来た。
まあ、そんな考えに至れたのも、吸精によって性欲の芽のようなものを感じるようになったから、だが。
「ああ、12年くらい、ずーっとあれは研究室っつーのか? まあ、屋内に居たわけだ。
環境は人が生きるのに最適な状態に保たれてたしな……」
去年までそこに居たのに、何だかずいぶん昔の様に思える。
或いは悪い夢のような。まあ、戻りたいとは一切思わねえな。
■リリィ >
「そういう……とこ……?」
解せぬ、と、目が口が如実に語る。
そういう……とこ……?? ???
「食べ物は分けて頂きましたが、精気をくださったのはかずみん様がはじめてでしたよ。
ああ、でも、食おうと思えば難しいことではないのでは、と仰る方はいらっしゃいましたねぇ。」
いきなりカッターでスパッとした時は本当に驚いたものだと、目を細めて語る。
過去というほど過ぎて時が経ったわけではないが、なんだか懐かしい心地だ。
次いでいつか出会った狐耳の少女を思い出す。奢ってもらった油淋鶏はものすごく美味しかった。じゅるり。
「んもう。……異能の制御に進展はありました?」
ぞんざいな言い方に頬を膨らませる。
すぐに空気を抜いて言葉を続けた。
下ろした手が太腿の辺りでぱたぱたしている。
「ンー……むぐぐ、むぐぐぐ……!」
この、形容しがたい感情はなんだろう。
取り敢えず、少年があんまりにも怒らないので、代わりにぷんすこしておこう。
ぱたぱたしていた袖の動きがちょっと激しくなった。
■武知一実 >
「……まあ、もういいわアンタはそのままで」
オレがしっかりしねえと……
……いや、さすがにそこまで面倒見切れねえから!?
せめて学園内で要らん騒ぎを起こさない様に目を光らせておく必要がある程度で……どうか、どうか……
「まあ、実際難しくねえんだろうな。
とはいえ、それが出来るならとうにやってたろうし、やってなかったって事は、そういう事なんだろ」
その誰かが言う通り、無差別に吸精を行う事だって出来た筈だ、何せ正真正銘の淫魔なんだから。
それをしなかったって事は、出来なかったか、したくなかったかの二択となる。オレは後者だと思いたい。
「……ああ、そうそう。アンタに吸精して貰うようになってから、いい意味で脱力してるってのかな。
身体から緊張が抜けて、今までよりも雷を操る精度は上がったみてえだ、ありがとな」
そうだそうだ、その事を伝えるのを忘れてた。
礼を言おうと思ってたんだが、それどころじゃなかったしな。
まあ因果関係の証拠がある訳じゃないってのがオレの中で引っ掛かってたのかもしれねえが。
「そもそも研究所の連中はともかく、お袋なんて顔も思い出せねえくらいだしな、恨みようが無ェよ。
たまに外で親子連れなんか見ると、ちったぁ羨ましく思う時もあるけどな」
羨ましいと言うのも何か違う気がするが、一番近い感覚として羨ましい、が適当だと思った。
だから何だ、くらいの感傷だけどな。
■リリィ >
「なんだか諦められてしまった気がします。」
およよと余った袖を顔前に翳して足を崩す。しくしくさめざめ。棒読み。
まあ、泣き真似は冗談だとしても、そんなにひどいかなぁ、と、ポンコツ淫魔は考える。
……ひどいかもしれないな? でも、淫魔としては下の下のゲゲゲ。
要らん騒ぎなんて起こしようもない。というのが、ポンコツ淫魔が自分に下す所感。
「それはそうでしょう。無理矢理なんてよくないです。」
合意の上ならば?――前だったら即座によくないと答えただろうか。
今は、というか、特に今日は、食欲に屈してしまった直後なのでお口をチャック。スン。
「!効果があったんですね!よかったです。
精度があがって操る感覚をもっときちんと身に付けたら漏れることもなくなるでしょうか。」
声を華やがせて手を合わせる。ぽふっと間抜けな音がした。
楽観が過ぎるだろうか? でも、一歩でも半歩でも前進しているというならばこれ以上嬉しいことはない。
先程迄のむすくれた不細工な顔は今はなく、比較的穏やかな気持ちでその言葉も聞けよう。
「羨ましい……羨ましいんですか。ふーむ。手を繋いでお散歩いきます?
あ、それとも抱っこしてさしあげましょうか!」
名案!って感じで先程聞こえた間抜けな音がもう一度鳴る。
■武知一実 >
「そんな事ねえよ……いや、ちょっとはあるかも」
ここまで来ると周りが対策を講じる方が効果がありそうだ。
そういう意味では諦めと言えるかもしれない。
まあ空腹時でなければまだしっかりしてるみてえだし、今後も極力限度を超えた空腹状態を作らなければ問題は無い、という事だ。
……うん、まあ、理屈はそうなんだけども。手段がな?
「理解はされねえかもしれねえけど、そういうとこがアンタが信用出来るって思えるとこなんだよな」
淫魔として当然の事をしてるだけなのに、相手を気遣い反省もする。
自己を優先しない辺りが、どっか共感を呼ぶのかもしれない。いや、オレは自分を優先してるけど。
だからまあ、リリィになら精気を提供しても良いかな、と思えるんだ。
「漏れるのとはまた別だろうけどな。
あくまで意識して放出する分の精度が上がったってだけで、無意識に出ちまう方は相変わらずってとこだ」
けれどまあ、進展は進展。
ついでに、吸精中に漏電させる事もどうにか抑えられてる事も制御が出来てる、と言えなくもない……のか?
「何でアンタが母親役に立候補して来んだよ。
いざやったら恥ずかしさに負ける癖に」
ぽふっ、じゃねえんだよ、ぽふっ、じゃ。
やれやれ……と思いつつ、まあ頭ごなしに否定するのもな、と考え直す。
「……んじゃ、試しみてるか? 抱っこ」
まあ、ここなら周囲の目とかも気にする必要ねえしな。
■リリィ >
「えー。」
不満げに唇を尖らせる。少年に見捨てられたらこのポンコツは……ポンコツは……どうなるんだろう。
まあ、お人好しの少年だから、なんだかんだとお世話を焼いてくれるってシンジテルヨ。
「ふむ?いえ、理解しましたよ。かずみん様は俗に言う、チョロインなんですね!」
ずびし!と少年の鼻先に袖を突き立てる。
恰好つかない。知ってた。
すぐに腕を引いて組む。
なるほどなー、チョロインかー、と、自らの言葉に深く納得している様子。
「んんー……実際問題どういうコトなんでしょうね。
感情の乱れが原因で、無意識に力が漏れてしまう……。
漏れ出てしまうということは、つまり力が有り余っている、ということ?」
腕を組んでヤジロベエみたいに左右に揺れる。
ハッ!
「ママって呼んでもいいですよ?」
ドヤ!とても自信満々の表情。ポンコツ淫魔マ。
明らか触れるなキケンの標識が必要だ。
てっきり溜息一つで流されるかと思っていたのでキョトンとしてしまったが、
「……! お任せください!わたしが意外と頼もしいというところを見せてあげましょう!」
跳ねるように立ち上がったら笑顔で両腕を広げる。
縦抱き横抱き肩車、なんでもござれだ。さあこい。
■武知一実 >
「まあ、今ンとこはって感じだけどな」
何が不満なんだ、と半眼を返す。
本当に、長い付き合いになりそうだなこの淫魔とは。
「………?」
突然何を言い出したのコイツ……?
人のパーカー着て、袖ダルダルなのに人の事指さして。
チョロイン?……え、何言ってんの?お腹空いたのか?
「まあ、後付け異能なんて真っ当な理屈で考えても仕方ねえ、って事なのかもな。
理屈でどうこう出来るんなら、オレも研究所から廃棄されなかったろうし」
本土の研究員があれこれ考えて解明出来なかったもんが素人と淫魔に解る訳が無い。
ちょっと考えてみりゃ道理だ。むしろこんな風に操作精度を上げることが出来ただけでも奇跡なのかもしれない。
「調子に乗んな」
アンタのどこに母性を見出せと……?
まあそんな冗談は置いといて、だ。
いつになく乗り気のリリィが立ち上がり、此方へと腕を広げてみせる。
着ているパーカーのおかげか、体形は普段よりも分かりづらい。これなら、まあ抵抗も少ないな。
よし、と意を決してオレはリリィの腕の中へと入り、その体を抱き締めてみた。
「うん……それで、ここからどうするんだママ?」
■リリィ >
なるほどつまり、多少なりとも頼りになるところを見せればいい……抱っこを成功させればいいんですね、わかります。
なんでそうなったかポンコツ淫魔自身わかってないが、兎に角分かった。
だからそのきょっとーんとするのを今すぐにやめなさい。するのはいいけど、されるのはむっとなるのだ。我侭なので。
ふぅむ、と一つ息を吐く。
「能力を付与することができたなら、取り除くことも可能なのでは、と思うのですが。
もしもその力を失くせるとしたら、かずみん様は手放しますか? それとも無能力は嫌?」
身を寄せる青年を極々普通にむぎゅっと抱く。分厚い布越しでも確かな感触。
唯の雑談。意味などないもしもを語らいながら、
「こうします。」
よいしょ、と、背中に回した手を下げて臀部の下を抱え込むようにした上で、袖をまさぐり指を組んで外れないようにする。
あとは曲げた膝を伸ばせばひょいっと持ち上がる。簡単な話だ。
まあ、少々バランスが悪いだろうから、少年には首に手をまわしてもろて。
ポンコツ淫魔の腕に座ってもらうようなイメージ。
「こわくないですか?横抱きの方がよかったかな。でも子供を抱くならこうですよね。」
なんなら高い高いとかしようかと笑う。
■武知一実 >
何を言ってるのか、意味を図りかねていたらリリィの表情が曇った。
何だかとても理不尽なものを感じざるを得ない。
まあ、深い意味は無いんだろうなと割り切って、怪訝そうな顔をするのは止めることにするが。
「うーん……似たようなことを別の人にも聞かれたことがあんだけどな。
後付だろうと結局はオレの身体の一部なのは違いねえんだし、手放すのは……何か、自分と向き合うのを放棄したみてえで嫌なんだよな」
自分でも滅茶苦茶な事言ってるのは分かってる。
自分のこの異能を、厄介なものだとは思ってるが嫌ってるわけではねえんだ。
だからこうして、淫魔に協力を求めてまでどうにかしようとしてるんだしな。
「こうするって……うぉわっ!?」
さすがに抱き上げられるのは想定外だった。
腕力がある事は聞いていたが、こうして目の当たりにすると驚きが隠せない。
でもこれ、どっちかと言えば組体操みてえだな……。
それに、膝に何か、重くて柔いものが乗っかってるような……
「怖くは無い……と言えば嘘になるけどよ、もうちょっと無かったのか、何か」
これじゃママよりもパパだろ、と言う事すら憚られるような違和感。
リリィの首に手を回し、少し高くなった視点に新鮮さを覚えながらリリィを見下ろす。
■リリィ >
「ふぅん……強情っぱりですね。」
はたりと瞬いたその後で、ぱっと笑った。面白そうに。
否、実際面白いのはこの状況か?
なんせ体格差――身長差があるから、首に手を回すというか、頭を抱えるみたいな形になりかねない。
なりかねないが、まあ、抱き上げる分には苦労はないので、がんばってバランスをとってもらいたい。
「何かってなんですか、紛うことなき抱っこでしょう?
んー……あ、わかりました、こうですね!」
何が不満なのかと上にある少年の顔を見上げて思案した結果、あやしてほしいんだな!となったので、そのままゆらゆら揺れてみる。ゆーらゆら。
「ね?わたしって結構ちから持ちでしょう。このままお空飛んでも落としたりはしませんよ。」
時折抱え直したりしながら存分に堪能してもらう。
「あとは親子っていうとー……うーん、ご本を読んであげたりでしょうか。
正直わたしもふつうの親子がどうこうってあんまりよくわかんないんですよねぇ。」
■武知一実 >
「ま、まあ、オレの事だから出来ればオレが解決……まではいかなくとも、落しどころを見つけるのが筋かと思ってよ」
強情ならリリィも大概だと思うが、そんな事言ってる状況じゃない。
自分より身長の低い相手に抱き上げられているという状況を、頭が理解を拒んでいる気がする。
まあ幾ら理解を拒もうとしたところで抱き上げられている事実そのものは変わらないため、ちょっとした混乱状態だ。
「いや、それはそうなんだけどよ……!
……えっ、何がわかっ……おおおっ!?」
抱き上げられているだけでもどうしたもんかと困惑しているオレをよそに、ゆらゆらと揺れ始めるリリィ。
待て待て待て、ただでさえ重心がぐらつくのに動くんじゃねえよ。
もう形振り構っていられず、リリィの頭に掴まってどうにかこうにかバランスをとる。
「あ、ああ。分かった分かった、分かったからそろそろ下ろしてくれ……!」
バランスを取るのもだが、やっぱり膝に当たる柔らかな感触に気が気じゃない。
動く度、抱え直される度にむにむにと押し潰してるような感覚が、その、言葉に出来ねえ……!
てか、確かパーカーの下、普通に学生服だったよな……!
「分からねえのに見切り発車でやるんじゃねえよ!
良いからもう下ろせ、すぐ下ろして――――」
■リリィ >
難儀な方へ難儀な方へ自ら突き進んでいっているようにみえる。
やっぱりマゾなんじゃなかろうか。言わないけど。
若者の努力は応援して然るべきである。
「わっ。」
ぐわし、といった風に頭を掴まれれば一時停止。
多分角とか掴みやすいんじゃないかな。しらんけど。
「楽しくありませんでした?
こわいかな。かずみん様の方がおおきいですもんね。やっぱりお姫様抱っこの方がよかったでしょうか……でもそれじゃあ親子って感じじゃないですし。」
慌てふためく様子に唇を尖らせる。
バランスは如何ともし難いが、落っことされてしまいそうな危うさはない。本当に軽々と抱えている様子。
「かずみん様だってノリ気?だったじゃないですかぁ。
そんなに慌てなくても下ろしますよ、ほら……。」
ただでさえ抱っこ慣れしていないようなので、そのまま下ろすよりはベッドに腰を下ろさせる方が安全だろうか。
寝具の方に歩み寄り、ゆっくりとその身を下ろさんとするが。
■武知一実 >
何だか生暖かい目で見られた気がした。
良いだろ別に、オレの事なんだからオレが何とかしようとしたって。
そもそも介入しようとする方が……とまで考えて、あくまでももしもの話にムキになることも無い、と深呼吸。
「楽しい楽しくないとかじゃねえの、何でこの歳でこの身長で抱き上げられてもおっかねえだけだっつの。
アンタは楽しいかもしれねえけどな、もうちょっとこっちの身も考えてくれ……!」
堕とされる心配は無いが、それでも不安定に思えて仕方が無い。実際はそんな事無いのだろうが。
とにかく、浮遊感と言うか不安定感というか、落ち着かねえんだ。
リリィの頭の角とか掴めれば多少はマシかと思うけれど、断りもなしに急にそんな事出来る訳がねえし……!
「こんな風に抱き上げられるたぁ想像もしてなかったよ!
お、おう。別にそのままパッと手を解いてくれりゃ着地はこっちで勝手にするから―――」
何故かベッドへ運ばれている。
いや、確かにそこで座れれば安全だろうけども。
……ま、まあまあまあ、何にせよ下りれるなら何だって良いや、と細かい事は気にせずにベッドの上に下ろされるオレだった。
■リリィ >
「高い高いのほうがよかったです?あ、おんぶならもっと安定するかも!」
笑っているポンコツ淫魔は存外楽しそう。だからなんだって話だが。
まあ、笑ってるのは必死な様子がちょっと面白いなんてろくでもない理由であるのは秘密だ。
「どういうの想像してたんですか。」
よいしょ、と、少年をベッドの縁に座らせて任務完了とばかりに額の汗を拭う。汗なんてかいてないけど。
「まあ、抱っこは半分くらい冗談でしたけど、甘えたくなったら甘えてくれても構いませんからね。」
少年くらいならば軽々と持ち上げられるということも証明したし、多少なり見直してもらえ……たんだろうか、わからん。
ともかく、最後に丁度いい高さになった少年の頭をぽんぽんと撫でようとして、余った袖の長さを考慮していなかった。顔面にぺしってしちゃった。
「あわわ、すみません。」
改めて少年の頭を撫でる。しまらねぇなぁ。
■武知一実 >
「自分より上背の低い相手にすることをそのまま上背の高い相手にするんじゃねえよ……
けどまあ、おんぶなら……確かに……?」
いやまあ狼狽えてしまった事の半分は他人に身体を委ねるって経験が無かった所為だと思うんだが。
だったらおんぶでも、そう差は無い気がする。はよ下ろせって言うかもしれねえ……。
「どういうのって、普通に照れて終わると思ってたわ。
さっき、試着室の中じゃ近付いただけでも無理そうだったってのに……」
いったいどういう風の吹き回しだ、とベッドに腰掛けたままジト目をリリィへと向ける。
いや、きっと何も考えてなかっただけだと思うんだが。
「今の過程を経て甘えて貰えるという結論に至れたことが一番謎だわ……」
思わず頭を抱えたくなった。いや、リリィのじゃなくてオレのな。
あんな不安定体験をして何をどう甘えろと言うのか。せめて体が縮んだ時にしてくれと心の底から思う。
そんなことを思ってたら顔に袖が当たった。ォィ。
「まったくよぉ……まあいい。
とりあえずパーカー、持ち帰り用の袋準備してあっから、そろそろ一旦脱げ」
まさかこのまま着て帰るつもりだったとか……ああ、リリィなら十分ありそうだ。