2024/10/28 のログ
■リリィ >
「……背が高ければいいんですか?」
きょとんとして首を傾げる。それならば話は簡単だ。
男の姿になれば、少なくとも今の少年よりは背も高い。でもそれだとママでなくてパパになる。果たしてそれでもいいんだろうか。
と、ちょっとずれたことを考えてたポンコツ淫魔である。
「あ、あれはだって、急でしたし……それに、抱っこにいかがわしい気持ちは微塵もありませんから。」
心構えが違うんだ、心構えが。多分。何も考えてなかったわけじゃない。
目が高速で泳いでいるけど、断じて違うのだ。
「だってぇ……。」
尚も言い募ろうとするが、だっての続きは出てこない。袖ぺしってやっちゃったし。
「え、嫌です。着て帰ります。」
すぐさま手を引っ込めて我が身を抱くように半身を退く。
脱がぬ、絶対にだ。という意思が窺える。
■武知一実 >
「そういう問題じゃねえよ」
バッサリ。
自分でも加減しろよと思うような声音で否定が出た。
いや、だってお前、背が高ければいいよ、って言うと思われたんか今の流れで??
ともかく、コイツに母性も父性も見出せねえなというのは強く理解した……。
「さっきのだって元々いかがわしい気持なんか無かったっつーんだよ」
何言ってんだコイツは。
まあ、実際何も考えてなかったんだろうな。そして次の機会があったとしても、その時も何も考えないんだろうな。
……ある意味、リリィらしいと言えばリリィらしい。
「だってもへったくれもあるか……ったく」
溜息の一つくらい零しても許される気がする。
だが、溜息は出ず、口元に少し笑みが浮かんだだけだった。
まあ行動はどうあれ、オレを気遣ってくれたのは理解しているし、その気持ちが嬉しく思えたのは違いないのだから。
「脱げって。そのままじゃ翼出せねえだろ。
歩いて帰るってんなら寮まで送るからな」
枕元に置いていた袋を手繰り寄せ、リリィを見据える。
てかいつの間にそんな気に入ったんだよ。最初は本当に貰って良いのか気遣ってたじゃねえか。
■リリィ >
素気無い一言にあるぇ~?といった顔をするポンコツ淫魔だった。
平たく言えば間抜け面である。
「最初はそうでも途中からおいしそうなにおいしてましたよ。」
咎めるわけではない。咎められるわけがない。
結果食“欲”に屈したのは此方なのだから。だからそう、ただ事実を指摘しているだけだ。
だからこそ思いっきり鷲掴みにされたことに関しては言及しない。
なんだかんだと言っているが、その口許に笑みが見えれば途端嬉しそうにするのがこのポンコツ淫魔であるからして。
きっと今後も良かれと思って色々やらかしていくんだろう。多分。
我が身を抱いて嫌々と首を振る。
「ぐぬぬ。脱げだなんて……かずみん様のえっち!」
が、余計な手間をかけさせる――現在進行形でかけてる手間はカウントしないものとする――のは忍びない。
最後っ屁みたいな八つ当たりをぶつけたら、渋々とパーカーを脱……、
角が……引っ掛かるんだよなぁ……。
兎も角、リピート再生めくうごうごしながらパーカーを脱ぐ。髪も服もめちゃくちゃだから、急いで取り繕った。
脱いだパーカーは畳んで、忘れない内にネクタイも締めておこう。少々拙いがきちんと結べる。ドヤァ。
■武知一実 >
リリィの間の抜けた顔も最早見慣れたもんだ。
いや、そんな見慣れるほどコイツと知り合って日が経ってるか……?
「ンなわけ……」
あるか、と否定しようとして言葉に詰まった。
あの時、美味しそうな匂いとやらをリリィが指摘した時。
オレは何を考えていたのか、自分でも判然としない。
………いやいやいや、そもそもコイツの言うおいしそうなにおいって何なのか分からねえんだぞ。
ふぅ、と補足息を吐くと共に口元の笑みを消す。
あんまりコイツに調子に乗らせると碌なことにならないのは経験済みだ。というか毎回経験してる気がする。
今はひとまず駄々っ子になってる淫魔にパーカーを脱がせるのが先決だ。
「淫魔にだけは言われたくねえんだが!?」
全くもって解せぬ。どのツラとカラダ提げて宣ってるんだコイツは。
……いや、それだとオレがリリィがえっちである事を認めてるって事に……う、うーん……?
そんな些細な事で悩んでる間に、リリィはあきらめたようにパーカーを脱ぎ……脱げてない……
着る時と同じく角が引っ掛かって脱げないらしい。だから脱ぎたがらなかったのか……?
今度は手を貸さず、リリィが一人で着替えられるように見守った。
悪戦苦闘の果てにパーカーを脱ぎ、乱れを整えてネクタイを締めるまで。色々と思うところはあったけど見守った。
「はい、一人でちゃんと出来て偉いな」
畳まれたパーカーを手提げ袋にしまって、ついでにもう一着同じ大きさのパーカーも忍ばせる。前がジッパー式の奴。
それをリリィへと差し出し、ドヤ顔へと褒めてやった。
■リリィ >
「ホントウですもん!」
心外だとばかりに頬を膨らませる。
なにやら苦悩している姿を横目に鼻から息を抜いた。
ご尤もなツッコミはパーカーを脱ぐのに必死で聞こえてなかったことにする。
兎角、変なダンスを踊りながらも一人で脱いで、畳んで、身支度を済ませると、少年が褒めてくれた。
その頃にはすっかり何を話していたかを忘れているから、にっこりと邪気のない笑顔で鼻を鳴らすのである。
どやさ!
「ありがとうございます。このお礼はまたいつか。」
いい加減ツケも幾つ溜まってるのか把握しきらん。
具体的になにするとかは考えていないが、感謝だけはしっかりと告げて袋を受け取り、その膨らみと重さを確かめるように何度か揺らしてからゆっくり立ち上がる。
「服を受け取るだけにしては長々と居座ってしまってすみません。でも、楽しかったです。
一緒に仮装で練り歩くのも楽しみにしてますね!」
ぺこりと一度頭を下げたら玄関の方へ。
振り向いて手を振ってから扉を閉める。程なく、羽搏く音が届くかどうか。
■武知一実 >
「だったら……外の奴らだろ、きっと。ああ、きっとそうだ」
話に聞く限りだとイベントにかこつけて恋人との進展を狙う輩も多いらしい。
そういった奴らの興奮なり快感なりをリリィは嗅ぎ取ったのだろう。
……そう思っておこう、うん、そうしよう。
「ああ、いつかな」
パーカーの入った手提げを渡して、リリィの礼の言葉に短く返す。
別に礼なんて要らねえし、期待もしてない。勿論、悪い意味で言ってるわけじゃない。
そんなもん必要とする間柄じゃねえだろ、ってだけの話だ。
「おうよ、またどっか行きてえ時はメールなりなんなりしてくれりゃいい。
気を付けて帰れよ、風邪なんか引いてハロウィン当日に行けませんなんて事になんじゃねえぞ?」
楽しみにしてるのはアンタだけじゃない、と暗に告げながら。
玄関の扉が閉まるまで見送って。
その後は部屋に戻り、寝室側の窓を開けると窓枠に腰掛けて。
羽音が遠ざかっていくのを聞きながら、夜空を眺めたのだった。
―――はぁ、何かすげえ濃い半日だった気がする。
ご案内:「ボロアパートの一室」からリリィさんが去りました。
ご案内:「ボロアパートの一室」から武知一実さんが去りました。