2024/11/08 のログ
■Dr.イーリス > 大変容が起きたのはイーリスが生まれるよりも昔の話。
魔術や異能が当たり前のようにある時代の子であり、科学しかなかった時代は歴史の中でしかない、そんな感覚もある。
「ありがとうございます。出来る限りで、エルピスさんやみなさんのご迷惑にはならないようがんばってみますね」
正直なところ、気を付けていてもまた何かしらの小さな問題は起こるだろう……。
そこは申し訳なく思いつつも、受け入れてくださっているみなさんにとても感謝。
地下ラボの安全設計はしっかしなされているし、それにあまりに危険すぎる実験を地下ラボで行う事もない。あくまで小さな問題にとどまるもので、致命的な問題にはなり得ない。
モニターに図を描いて、ふとエルピスさんに振り返ると、目が合う。
イーリスは目が合ったエルピスさんに、にこっ、と笑みを浮かべた。
「……そうなりますね。基となる要素は様々です。異能者の遺伝子や細胞を採取したからと言って、必ずしも目的の異能が手に入るわけでもないのがかつて苦労した点ではありますね。今はピンポイントで異能を造れる遺伝子や細胞を生み出しているので、いわゆるハズレの可能性はかなり減りました。最近では、AIがバイオテクノロジーを用いて非実在異能者の遺伝子や細胞を異能を生み出す《異能生成AI》なんてものを開発しましたね」
以前から開発していた《魔術生成AI》の異能バージョンとでも言えばいいだろうか。それが《異能生成AI》。
だが、いくら非実在異能者とは言え、かつてのイーリスは無許可で遺伝子や細胞を気づかれないように島民から採取していた。希望を失って諦観していた不良時代は、色んな方面で道を踏み外してしまっていたものだ……。
落第街の少し宜しくない倫理に基づいて手に入れた遺伝子やデータがなければ、こういった異能を作成する技術を手に入れられなかったのは皮肉なものだ。
エルピスさんに視線を移す。
実在する『故エルピス』さんを継いだエルピス・シズメさん。
だけど、エルピス・シズメさんはエルピス・シズメさんだ。
イーリスが恋するのは、エルピス・シズメさんただひとり。
『故エルピス』さんは親で、エルピス・シズメさんが子のような関係。
イーリスは、そう思っている。
イーリスが申し訳なく思う点は、遺伝子や細胞の採取を無許可で奪うような事をしている点にある。
エルピス・シズメさんは、『故エルピス』さんに望まれて生まれたものだと思っている。
「ありがとうございます、えるぴすさん。あなたがそう仰ってくださるなら、私も少し楽な気持ちになれます」
エルピスさんの言葉で、イーリスの心がとても和らぐ。
エルピスさんの優しさがイーリスを温かい気持ちにさせてくれる。
エルピス・シズメさんの芯とも言える成果物《囚う心》について、ずっとイーリスの胸の奥に仕舞っている。
やさしいエルピスさんには、とても過酷な真実……。
エルピスさんが傷ついてほしくないから……エルピスさんがとても大切だから……。
過酷な現実を伝えずにいた……。それが、誰も傷つかずにいられる道だから……。
■エルピス・シズメ >
実在と非実在のあいま。
イーリスもエルピスも、故エルピスを親と観測してエルピス・シズメを子と定義している。
であるのならば、エルピス・シズメは実在から産まれた、実在と非実在のあいまにある。
そう定義されることはたぶん大事だし、少なくとも二人の気持ちは安らぐ。
…
「うん……。おさらいは大体済んだから、ちょっとお茶にしようか。
とりあえず……異能の研究が一番大変;なのはわかったよ。常世学園がある理由も……そう言う所も、あると思う。」
科学は明確な地球の物理法則に根差している。
魔術は明確な魔術体系の法則を有し、〝まほう〟であっても最低限の体系は観測できる。
だが──異能はその個々人に根差すことが多い。
同じ事象であっても原理はは大いに異なる。
当然、異能を再現する異能;科学もカタチは様々だ。
望む異能を生成するものもあれば、
望む異能を再現するものもある。
どちらとも正確ではなく、多少のゆらぎや生じるし再現;生成できないものも少なくはない。
それくらい、あいまいなもの。同時に、〝まほう〟が異能でない理由。
少なくとも人間一つの情報を用意する、に近しいものがある。
勉強に煮詰まったものを感じたので、焦る必要はないと休息を申し出た。
「〝まほう〟の方はたぶん……順調だと思う。
出来ることが増えたと思うから、今度テストに付き合ってくれると嬉しいな。」
どこか逸らすように、別の話題を振る。
ある意味では……眼をそらしている気もした。
(イーリスが向き合うべきではないというものだから……)
(まだ……そうしていたい。)
でも、いつかどこかで向き合わないといけない気がする。
だけどそれは……今日じゃない。そう思って、まほうの話題を振る。
僕が〝まほう〟を習得することに意欲的なのも、そこにあるような気も……ちょっとだけする。
さすがにこれは気のせいかな、とも思いながらクッキーを手に取って、半分食べる。
「えっと……あーん、する?」
半分食べたクッキーをそれとなく差し出してみる。
おいしいものを分かち合って食べる事は、とてもしあわせ。
■Dr.イーリス > 意味合いは多分異なるだろうけど、イーリスにとってはエルピスさんは紛れもなく実在し、非実在の存在ではない。
『故エルピス』さんという実在から生まれた、また別の実在がエルピス・シズメさん。イーリスの感覚としては、そういった感じ。
まさしく親と子。
「はい。クッキーも美味しく焼けていますからね」
笑みを浮かべて頷き、ティーカップを手に取り、香りを嗜みつつ紅茶を口にする。
「そうですね……。異能研究は難しい分野ではありますからね。私の技術も、難点が多くあります」
ギフト騒動の首魁ギフターさんが齎すギフトもヒントになった《異能生成AI》。だが最近新たに開発した《異能生成AI》もやはりまだまだ課題がいっぱい……。異能研究の分野が難しい事を表していると言えるだろう。
加えて、その名通り違法に分類される《違法改造異能》はもう使わなくなった。バージョンアップした《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅳ》は、《違法改造異能》がオミットされている。
イーリスの底が見えない好奇心は、知識や技術をどこまでも探求してしまう。完璧なるデウス・エクス・マキナなる技術を目指したい。
けれど、様々な課題が解決できず、デウス・エクス・マキナがまだ遠くにあると実感せざるを得ない……。
「ふふ、〝まほう〟が順調でよかったです。えるぴすさんが色んな経験をして、頑張ってきた成果ですね。〝まほう〟のテスト、是非お付き合いさせてください」
笑顔でこくんと頷いてみせる。
出来ることが増えたという事で、とてもたのしみ。
エルピスさんはクッキーを半分食べたあと、残り半分をイーリスのお口に差し出す。
少し頬を染めながら、イーリスはこくこくと首を立てに振り、半分のクッキーに自身のお口をゆっくり持っていく。
「……あむ」
咀嚼。
普通にクッキーを食べるよりも、エルピスさんと半分で分かち合った方がずっとずっと美味しく、そしてしあわせに感じられる。
とてもとても……お胸がぽかぽか……。
「とても……おいしくて……しあわせです……。えるぴすさん……これも、はんぶんこしましょう……」
イーリスはにへらと笑ったあと、クッキーを摘まみ、自身のお口にもっていきクッキーを咥える。その咥えたクッキーをエルピスさんにお口に近づけていく。
■エルピス・シズメ >
イーリスの持つ技術と理念をおさらいして、また一つイーリスのことを深く知る。
それと同時に、エルピスとしても少しずつ着実に、イーリスの技術を理解していく。
イーリスがどういう視線で技術と向き合っているかを知る事が、少したのしい。
ともあれ、むずかしいお勉強は一旦おしまい。
「んっ……あむ。」
イーリスからのクッキーを、口付けるように受け取る。
口と口が合わさりながら、別つのではなく分かち合うように口付を交わしてから惜しむ様に割る。
異能によって虹の希跡が行われているので、今日はなにもしなくても同じ目線。
「えへへ……おいしいね、イーリス。」
そんなこんなで、勉強の後はたのしいお茶会。
暫くの間、味覚的にも気持ち的にも甘いひと時を過ごした。
ご案内:「『数ある事務所』地下ラボ」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「『数ある事務所』地下ラボ」にエルピス・シズメさんが現れました。
■Dr.イーリス > 「…………んんっ……」
(える……ぴす……さん……。すごく……しあわせなあじ……。お口の中だけではなくて、全身が蕩けていくような、とても心地の良い感覚……)
えるぴすさんといーりす、ふたりのお口が合わさる。
口づけを交わして、えるぴすさんとクッキー、その両方のあまくてしあわせな味がいーりすのお口いっぱいに広がって、しあわせに包み込まれていく。
(すき……えるぴすさん……すき……すき……)
いーりすの胸部、《パンドラ・コアMk-Ⅱ》が桃色の輝いて、ハートエフェクトが辺りに散らばっていく。
その後も、ふたりのとても幸せなお茶会は続いた。
ご案内:「『数ある事務所』地下ラボ」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「『数ある事務所』地下ラボ」からエルピス・シズメさんが去りました。