2024/06/11 のログ
ご案内:「常世総合病院 異能封印個室」に葉薊 証さんが現れました。
風紀委員の先輩 > 『…起きたか、葉薊。調子はどうだ?』
葉薊 証 > 白い光が億劫に感じ、瞼を上げるのを拒んでいるとすぐ隣から聞きなれた声が聞こえてくる。
首だけを動かして声の下ほうへと視線を向ければ、何時も良くしてくれている先輩の姿があった。
いつもなら印象からキビキビとしており、まっすぐな先輩の瞳が、今日は随分と重たい。
光がなく、心なしか下を向いているような感じがする。

「…ぇんぁぃ」

先輩を呼ぶ。
だが、思ったように声が出ない。かすれてしまい、発音がうまくいかない。

風紀委員の先輩 > 『無理に喋るな。水を飲ませてやるからちょっと待て』
葉薊 証 > 「…ぁぃ…」

先輩が枕元のテーブルに置かれたペットボトルを手に取る。
そして蓋をあけ、飲ませるべく口元へと持ってくる。

「ぁいおうぶ…」

大丈夫、自分で飲めます。そう言い体を起こそうとするが力が入らない。
ならば、寝転がったままでも自分で飲もうと―

「ぁがっ?!」

右腕をいつものように動かした時だった。
ジンジンと激痛が走り、ベッドの上でのたうちまわる。
足をばたつかせ、両腕を振り回そうと…したのだが、四肢が思うように動かない。
もどかしさと腕の苦痛、そして左足を動かすと発生する左足の痛みに更にのたうち悲鳴を上げながらのたうちまわる。

風紀委員の先輩 > 『落ち着け葉薊!動けば余計に痛いぞ!』

先輩が少年に話しかけながら、少年の口元に吸引機を当てる。
そこから出てくる煙のようなものを吸うにつれて、少年の動きがおとなしくなり、苦悶の表情も和らいでいく。

『落ち着け、落ち着くんだ葉薊。お前の右腕は今折れているんだ。水は私が飲ませてやるから、おとなしくしていろ』

葉薊 証 > 「……ぁぃ…」

痛みが和らいでいく感覚と共に落ち着きを取り戻し、思考にも余裕が生まれ始める。
先輩が今度こそ水を飲ませてくれている間、喉を通るぬるま湯に小さな幸せを感じる。
そして、ここはどこだろうとか、何でこんなところにいるのかとか、思考を巡らせていく。

そして、口元からペットボトルが離れてすぐ、先輩に尋ねる。

「ェンタクロウは…ぁいつは…どうなりましたぁ…」

昨夜のことを思い出し、怪我人とは思えない憎しみに満ちた目で先輩を見つめる。
目だけではない、歯と歯を強く軋ませておりその音がかすかに病室に広がる。

風紀委員の先輩 > 『今から説明してやるから、最後まで大人しくしていてくれよ』

ため息をつくでも、呆れるでもない。
相変わらず暗い表情と少年を見下ろしながら、一つ一つ話始める。

『まずは…すまなかった、葉薊。私がお前を置いて行ってしまったばっかりに…すまなかった…本当に…すまない』

先輩の表情がますます重く、暗くなる。
先輩は責任を感じていた。自分が少年をあそこに置き去りにしたせいで、テンタクロウに襲われ、こんなことになってしまったと。
自分が一緒にいてやれば、少なくともここまでの事態は避けられただろうと。

葉薊 証 > 「…先輩…」

先輩の表情を見た少年の目から憎しみが抜け、代わりに後悔と懺悔…反省の色に染まる。
自分の軽率な行動のせいで、いつもよくしてくれている先輩がこれほど苦しい思いをしているとは思わなかったのだ。

「…気にしないでください…僕が悪かったんです…
助けも呼ばないで危険な相手に…僕の自業自得です」

「だから…先輩のせいではないです…僕がごめんなさい。…」

出来ることなら、五体投地で謝りたいぐらいだが、今はそれは出来ない。

「それに、先輩が助けにきてくれたから僕はこれだけで済んだんです…ありがとうございます」

先輩がそんな暗い顔をする必要はない。いつも通りのまっすぐで活気のある顔を見せて…

風紀委員の先輩 > 『…本当に、すまない。』

少年の言葉に何とも言えない泣き出してしまいそうな表情を見せたあと、最後に、より一層重く謝る。
少年の思いは伝わったようだが、自責の念もそれに負けない重たさであったようだ。

しばし俯いた後、先ほどよりは少しマシな表情で顔を上げる。

『…まだ伝えなければならないことはあるからな。落ち着いて聞いてくれよ』

『まずは葉薊、お前の状況から説明してやる。お前は大量出血と右腕と左足の裂傷、最後に右の上腕の骨にヒビが入っている。
昨晩はショックもあって正直ヤバい状態だったが、あとはおとなしくしていればどれもちゃんと治る』

少年の状態は幸運とも言えるものであった。
あのテンタクロウにつかまって、一番重たい怪我が骨のヒビ。次点で裂傷二つ。
裂傷は一生ものの傷になるだろうが、それでも何れも後遺症にはならないと診断された。

『入院は1週間程度で済むそうだ。退院後も数日はギプスは外せんだろうが…まあマシな方だ』

葉薊 証 > 「そうですか…」

まだましな部類…なのだが、少年は深刻な表情をしていた。
何せ、入院したのは人生初だ。病室ですら…初めてだったはず。
そんな人生を送ってきた少年が突然1週間入院と告げられ、深刻にならない筈がなかった。

だが、それよりも…

「続きを話してください」

少し冷めた感じで催促する。

風紀委員の先輩 > 『…ああ、続けるぞ。』

先輩も、少年が何を一番聞きたがっているか分かっている。
だが、その前に話さなければならない事がある。

『次に、お前に下される処罰に…ついてだ』

葉薊 証 > 「処罰…?!」

予想だにしていなかった言葉に、目を丸くし起き上がろうとする少年。
また変に身体を動かそうとしたものだから痛みが全身を巡る。
今回はすぐに静止出来た為に、痛いだけで済んだが…
「いたたたた…」なんて言いながら再び大人しくなった。

風紀委員の先輩 > 『ああ、お前は指示に背き単独で敵に突撃し、援助要請も報告も行わず独断で戦闘行為を開始。
ここまでは、まあ処罰されるほどではない。』

一息空けて

『だが、負傷したことで不安定になったお前は、異能を暴発させ周囲のビルを破壊。その結果、一般生徒に怪我人が出た。』

『重傷者は一人だけだが、異能の余波によるものと思われる不調を訴える者も出ている。
それらを踏まえ、お前には2週間の謹慎を命ずる。
授業に出る分には構わんが、放課後は即座に帰宅する事。勿論巡回や警邏も禁止だ。学生街であってもな』

一般人に被害を出したわりには、軽い処罰なのではないだろうか。
新入生であることや、本人の受けた被害、戦闘行為自体に周囲を巻き込まなかった判断などが加味されたうえでの処罰である。
…この先輩も監督責任を問われ、処罰を受けているのだが…それは、ここで話す必要はないだろう。

葉薊 証 > 「えっ?!」

異能が暴発…ああ、思い出した。あの時、テンタクロウを殺してやろうと…
その時に一般人に被害が出た…なんという事だ…

少年が再び深刻な、罪悪感に満ち恐怖に直面した表情を見せる。
まさか、人を救うべき自分が人を救うべき相手を傷つけるだなんて。
しかも、”また”異能で…

「わかり…ました。」

処罰自体は軽い方だ。1週間入院な事を考えれば、実質1週間の入院だし授業にも出ていい。
かなり寛大な対応と言える。だが、自分のしでかしたことを考えると、幸運だとかそんなことは思えなかった。

風紀委員の先輩 > 『まあ、そう落ち込むな。失敗は誰にでもある。』

少年の額にぽんと手を置き、慰める。
自分もかつては失敗したものだ。程度の差こそあれ、失敗とはだれもが通る道なのだから、誰も責めることは無い。

『最後に…テンタクロウだが』

『逃げられた。だが次こそは捕まえる。だから私たちに任せてくれ』

強気に告げる。陰っていた表情を出来るだけ心強いものに見せられるように。

葉薊 証 > 「…お願いします。絶対に捕まえてください」

本当は、自分が捕まえたい。だが、この体たらくで、しかも一般人まで傷つけて。
今回の敗因だってそうだ。どれが敗因とか以前に、何もかもが敗因だ。
手も足もでなかった。この状態で再び戦っても…勝ち目なんて、ないだろう。

だから、素直に任せる。もし、先輩たちが捕まえられなくて、僕も強くなっていたのなら…その時は今度こそ…

「…ところでこの拘束、外してもらえませんか…?背中が痒くて…」

少年はベッドに縛り付けられていた。理由は単純明快。暴れると予想されたから。
背中すらかけないことにご不満な様子だ。

風紀委員の先輩 > 『あーすまないがそれは無理だ。
また医者とでも相談してくれ』

首を振って立ち上がる。そもそもこういうものは簡単に外せるようにはできていない。

『それぐらいの事が言えるなら大丈夫そうだな。それじゃあ次は差し入れを持ってきてやるから…
ふぁぁ…実は寝てなくてな…帰って寝るよ』

そう言いながら病室のドアの方へと歩いていく先輩。

『それじゃあ、元気でな。暴れて困らせるんじゃないぞー』

葉薊 証 > 「え?!先輩!待って!」

せめて背中をかいてほしい。そう言おうとしたのだが、先輩は去っていってしまう。
病室のドアが無慈悲にもしまる音を聞き、無表情で天井へと視線をシフトさせる。

「…」

「先輩…ずっと居てくれたんだ」

先ほどまで先輩の居た方を見ると、先輩に隠れて見えなかった時計が見える。
時刻は18時。昨日から今まで、ずっと意識が無かったであろうことを考えると…ほぼ一日、その前も含めれば1.5日は寝ていない事になる。
次あったらありがとう、そう伝えようと思った。

「…僕も寝ようかな…」

やる事もないし。身体は動かない。
次起きたら腕の痛みとかも多少はマシになっているだろう。
そんなことを思いながら瞼を閉じた…




「ねれない…」

寝れたのは6時間後。生活習慣は偉大である。

ご案内:「常世総合病院 異能封印個室」から葉薊 証さんが去りました。