2024/06/12 のログ
ご案内:「常世総合病院 一般病棟個室」に緋月さんが現れました。
緋月 > 「……はぁ。」

ベッドで上半身を持ち上げた少女が、小さく息を吐く。
昨晩の騒動で怪我をしたので、念の為病院へ搬送されることになったのだ。

幸い、診断は「軽傷」。
胸部に強い打撲を受けた他は、擦り傷と火傷位。
その擦り傷と火傷も大したものではない。

「明日か明後日には、退院しても大丈夫だ…という事、でしたね。」

医師の診断を思い出し、独りごちる。
今日も居候先には帰れそうにない。
昨晩の騒動の後に現れた風紀委員に、居候先の方の名前を伝えてはいたが、心配をさせてしまっているかもしれない。
少し気が重くなりつつ、ベッドの傍らを見る。

白塗りの鞘に収められた日本刀が置かれている。
柄と鍔、鞘の根本に厳重に鎖がかけられ、南京錠で固定されていた。
搬送に当たった風紀委員に無理を言って、病院にいる間はこの状態にする事で持ち込みを何とか許して貰ったのだ。

緋月 > 「……あなたも、お疲れ様です。」

小さく呟きながら、刀の柄頭を軽く撫でる。
あの怪人には碌に傷を負わせられなかった――というか、恐らくあの服は鎧のようなものだろう。
それを着る者には傷一つ負わせられなかったに違いない。
だが、それで充分だった。

「本当に来てくれましたね、風紀委員。
あのまま、あそこから逃げたのなら、あの街で犠牲になった方はいない、と良いのですが…。」

現場に駆け付けた風紀委員には、あのブザーという機械を動かしてから、兎に角逃げ回って時間を稼いだと説明した。
あの時逃げ出していた女の人は、無事だっただろうか。
聴き取りか何かで分かるといいが…それが自分に知らされるかは、怪しい所だ。

「……それと、再度の事情聴取、ですか。」

何しろ現場があの有様である。
自分も怪我を負っていたので事情の説明と委員の側からの質問は最小限で終わった。
此処に運ばれる前に、もしかしたら入院中に事情聴取に委員が訪ねて来るかも知れないとは、言われていた。

「…何とか誤魔化せるといいんですけど。」

自分が戦った、などと下手には言えない。
委員会街での一件から、まだ日もそれ程経っていないのだ。
居候先の緋彩さんに迷惑がかかる真似は、出来る限りしたくない。
何とか、逃げ回って風紀委員が駆けつけるまで時間を稼いだ。
そういう事にしておこう。

緋月 > 「――――よしっ。」

ふっ、と軽く気合を入れる。
あまり腐っていても仕方がない。心が弱れば身体も弱る。
ならば、いつ訪れてもおかしくない風紀委員の聴取に備えて、少しでも体の調子を戻しておくべきだ。

(差し当たり、調息法で怪我を少しでも軽くしておきましょう。)

目を閉じて両手を合わせる。
精神を落ち着け、呼吸を整える。
ゆっくりと息を吸って、吐く。
大気に満ちる氣を取り込む形をイメージする。

ホォォォ、と、奇妙な呼吸音が、病室から小さく響き始めた。

緋月 > 「ホォォォ……シィィィ……。」

どれ程の時間、調息法を続けていたのか。
一段落をつけ、窓の外を見てみると、日が傾き始めている。
サイドテーブルの置時計を見ると、もう午後も4時を超えた所だ。

「もうこんな時間…。
風紀委員の方が来るなら、この辺りの時間帯ですかね。」

ちら、と病室のドアを見る。
誰かが来ている気配はない。

「あの現場を片付けるので、時間がかかっているんでしょうか…?」

幾らかは自分もやらかした事だが、それでも随分と現場は荒れた筈。
もしかしたら、その検証などで人手を取られているのかもしれない、と思い始めていた。

緋月 > 身体を休める為に横になったり、ごろりと寝返りを打ってみたり。
そんなこんなの間に、もう窓から見える日はすっかり沈む所だ。

「…今日は忙しかったのかな。
まあ、ゆっくり休めたから良しとしましょう。」

うーん、と体を伸ばし、病院服の少女はベッドから起き上がる。
傍にあったスリッパをはくと、ぱたぱたと病室のドアまで近づき、錠を下ろす。
見回りに来る看護師にはマスターキーで開けられるかも知れないが、それはそれだ。
窓にもロックをかけ、カーテンを閉める。

「今日はもう、休みましょう――。」

ゆっくり眠れば怪我の治りも早くなる。
ベッドに戻ると、ごろりと横になった。

ご案内:「常世総合病院 一般病棟個室」から緋月さんが去りました。