2024/06/26 のログ
ご案内:「『灰の劇場』」にノーフェイスさんが現れました。
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混沌の坩堝
狂乱の宴
夜に吼えるもの
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落第街を徘徊する、顔見知りの隣人。軽薄なるノーフェイス。
舞台に立つ存在は、いつしか住み着いた紅いまぼろしとは――別人だ。
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鬼気迫る。
歌声も、立ち振舞いも。一挙手一投足に至るまで。
声を上げ、煽り、叫び、泣き―――
綿密に計算された照明配置、練り込まれた構成。
入念なリハーサルによって完成度を高め抜いた、選りすぐりの変人どもによる演奏。
財を投じ趣を凝らし、名高き箱に迫るほどの音響が揃ってなお、
埋もれるどころか、より磨かれたように輝きを増しながら、
命を燃やしてうたっていた。
音源の作り込みに病的なこだわりが伺えるうえで、
とにかくライヴがヤバいと伝聞が走り回るこの存在。
いまや、そのクオリティは初公演となるハロウィンの夜とは比にならない。
圧倒的な成長性でもって、公演ごとに化け続ける怪物が、吼える。
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無我、入神――
様々な言葉で言いあらわされる、人間の到達点……極限集中状態。
そうあることが自然であるかのようにそこへ突入し、
たっぷり2時間強――公演を通して入り続ける。
美貌、天稟、修練、感性――そして、飢餓を兼ね備えただけに飽き足らず。
神を降ろす生贄か、戦の呼び水たる託宣の巫女のような。
まなざしひとつで城を陥す美姫、そしてあるときはたったひとりの孤独な少年――
貌なき音楽家の、千の貌を表に現す能力が、
一切の容赦なく、発揮される。
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奮い立たせるような、あるいは、叩き潰すような。
技を見せ付けるのではなく、示し、証すのだ。
完全解放されたみずからの性能を、すべて音楽へ傾ける天上の楽器。
示される輝きは熱く、そして残酷なほどに力強く。
切り裂くように甲高く、もがくように低く、蕩けるように甘く。
喜びも、怒りも、悲しみも、快楽も。
痛み、苦しみ、別れ、憎しみ、渇望、在ることそのもの。
みずからの混沌に刻み込まれたすべてを解き放ち、ふるわせる。
理性の奥底にある原初衝動へ訴えかける――そう定義された芸術を刻みつける。
音の波は、炎のように、刃か棘のように、暴力的に――
共鳴し、惹きつける。
死と隣合わせの、燃えさかる欲動。
芸術による教唆犯、あるいは煽動者。
■ノーフェイス >
――スクリーミングとシャウトで棘々しく彩られるヴァース。
空白の息を挟んで、疾走感に満ちたメロディアスなコーラスへ。
B♭mを調として歌い上げられる、異なるふたつの曲を融合させたようなナンバーは。
狂気と理性、渇望と悲憤がひとつの楽曲のなかでせめぎ合っている。
ラストコーラスの前にだけ存在するブリッジがひときわ異彩を放つ特異構成。
遠く、遠く手を伸ばすような、切なるロングトーン。
高らかに――――静まっていく演奏とともに、落ちる照明とともに、闇に呑まれ――
そしてまた、溢れる光とともに奔り出す。
その詞に描かれる主役は、理想を追い、理想に追われるだれか。
燃え尽きんばかりの激しい哀切をかかえながら、
届くかもわからぬ見果てぬ夢を、狂おしいほどに求めて駆ける、ひとりの人間の物語だ。
■ノーフェイス >
出来たてのとっておき、「The Edge」。
まだ音源化されていない完全新作に全霊を捧ぐ。
混沌にとじこめた――だれかを。
あるいは、それに共鳴したみずからが創り出した、歌を。
■ノーフェイス >
「………………」
汗にまみれ、肩を上下させながら。
振り絞り、満身創痍の肉体は、マイクスタンドにすがる有り様で。
ふりそそぐ歓喜と狂気に、顔を上げ――目を閉じて、しばし、浴びる。
あふれんばかりの快楽に、ただ浸る。
こうして歌うときにだけ、歌い抜いたときにだけ。
呼吸よりも、心拍よりもずっと確かに――生きていられた。
やがて、ずるりと手を引き剥がし、前に出た。
いつものように嗤うことも、MCを繰ることもなく。
粛然と――狂熱の闘技場を満たす聴衆に、血の色の髪を垂らして、深々、頭を下げる。
舞台上では言葉少なで、いつもこうして締めくくる。
尾を引く熱は、そのままに――――忘れられぬ夜を刻みつけながら。
照明が落ちる。闇と、静まりきらぬ高揚が逃げ場を求めたざわめきばかりが。
今宵の公演は、終わった。
差し出した招待状のゆくえを、まだ知らぬままに。
ご案内:「『灰の劇場』」からノーフェイスさんが去りました。