2024/08/13 のログ
シア > 「……」

不自然なまでに、自然に友好的な態度。
言葉も、態度も、普通に考えれば警戒に値しない。

だから、けれど、止めることはなく眼の前まで招き入れる。

「……そう」

表情を変えることもなく、こちらも不自然なほど自然に佇んで見る。
その言葉さえも、端的ではあるが自然な言葉で応える。

「なるほど。
 予想するよ、ここはあなたの世界と違うと。
 他の世界からよくいろいろなものが来るらしい、この島は。」

ノイズを無視して、伝えるべきことを伝える
これが正確な情報なのか、少し悩むところはあるが断片的な情報でも多分正しいだろうと思う。

「……へえ。」

急に変わる様子。硬質の声、用意されたような型通り、というようなセリフ。
これはこれで、不自然すぎて奇妙である。

「忍び、そうなんだ。それにしても……日ノ本……
 近い感じの世界だね、この世界と。あるのかな、そんなのが」

こうなると、どこまでが嘘で、どこまでが真実なのか。
それとも、全てが作り物なのか……考えるだけ、深みにハマりそうだ。

「……わかった、事情は。どうしたいの、貴方は」

里中いのはち >  
なれば黒尽くめの忍び装束は少女の目前に、なんら警戒なく佇むだろう。互いの手を伸ばせば届く程、近く。
自然、身長差で目線は下に。

「ほう!此処は外つ国ではなく異界でござったか!
 つまり拙者はいわゆる神隠しに遭ってしまったようなものでござると。なればやはり貴殿は拙者にとっての女神ではあるまいか?」

山なりの瞳が大仰な程に丸く成る。
ふぅむ、と、唸るが如き声が喉の奥より絞り出されるが、継ぐ句は変わらず朗らかな笑みに彩られん。

さてそんな些事は兎も角として、――口上を述べた。それを聞いた少女の反応を窺う際のみ、墨色の瞳が何処か鋭さを孕んで細く成るか。瞬き程の儚さではあるが。

「その反応を見るに、成る程確かに此処は拙者の居た世界ではない様子。
 ――……ぅん?」

先程彼方へと放り捨てた択が舞い戻ってきた。
思案に耽りかけた瞳がころりと少女へ向けられる。それは上背に反して幼さを残す色味。

「今、“どうしたい”、と? 拙者に――忍びに意思を尋ねた?」

おもわずと周囲を見回す。当然、此処には今少女と男、二人のみ。なればおのずと答えは出ようが、よもや、といった心地であった。

シア > じっと見上げる。
その視線はごく自然に、相手を見つめるのみ。

「女神じゃないよ、ボクは。」

同じことを同じように繰り返して言う。
機械的なようにも、皮肉にも聞こえるかもしれない。
満面な笑顔に対して、無表情でもないが自然に不自然な真顔で応える。

「あぁ――わからない、ちょっと。
 忍び、とか、日ノ本、とか。似たようなものがあるから、こっちにも。
 だから。自信が少しなくなった、違う世界なのかどうか」

ただでさえ、そういった怪現象の類には明るくない。
実は、過去から跳んできた、といったこともあるのかもしれない。

「……ああ」

その問い。
"忍びに意思を尋ねた?"
その意味に、気づく。

「ん……失敗だった。
 意思は、問うものじゃなかったかな。
 言い直しが許されるなら……任務のために必要なことはある、かな。
 ただ、戻る方法ってなると難しいかも知れない。少なくともボクは知らない」

里中いのはち >  
対するは、はは!と、快晴の空が如き晴れやかなる笑み。

「異なことを申すでござるなぁ。此処が異界であるならば、拙者のいた世界から見て神の世である可能性も捨てきることは出来ぬでござろう?
 嗚呼、もしくは男神という可能性もあったでござるか。然らば重ねて失礼を。」

要するに言葉遊びでしかない。ニコニコと懐っこい笑みは崩れず。

「なんにせよ、此処は拙者が知る世ではない様子。
 然し、似通う点があるというのは朗報でござる!」

腕を組み、ウンウンと首を縦に振る動作。

「否、拙者の方こそあいすまぬ。なにせ初めての経験であった故、狼狽えてしまったでござる。いやぁ未熟未熟!お恥ずかしい!」

わははと明るい哄笑、その末尾が熱気に溶けるが如く失せるまで少女の言葉に応じなんだは、思考を纏める為の僅かな時間を要したからだ。

「拙者が里より命ぜられていた任務は既に終えている。
 同輩に報告を任せ、あとは帰還するのみであった故、正直どうしたものかと途方に暮れているでござるよ。
 帰還も命ぜられているわけでなし、このまま枯れ果てる迄茫洋と佇んでいるか、はたまた一縷の望みをかけて帰還の術を探るか。拙者としては前者が楽かと思うところでござるが!」

男は尚も明るく笑う。

シア > 「女だよ、一応。間違っていない、そこは。
 それと。ないと思うよ、神の世ということは。」

もしここが神の世などというものであれば、誰も彼もが異能とかいう力が使えておかしくないはずだ。
そもそもにして、少女自身が神というものを信じていない、ということもある。

「多分困らないはず、生きることには。驚くことはあるかも知れないけれど、ひょっとしたら。
 あるとかね、知らない物が」

世界観的に、少し古そうな感じもある。
もし本当にそうならば、みたこともきいたこともないような科学の産物や魔法の産物に出会うかも知れない。
もしかすると高度に発達した忍者なのかも知れないが。

「ふぅん……未熟と考えるんだ、それは。
 なんて応えるんだろうね、熟していたら」

未熟……そうか、未熟なのか。
狼狽えたことが? 疑念を抱いたことが?
それなら、熟すというのはどういうことなのか。
迷うこと無く選べることなのか。応えを用意してあることなのか。

「……………」

忍者の物言いに、ほんの僅かに黙る。
何かを一瞬良いそうになり、口をつぐむ。
それは一瞬のことだったのか。それとも長きに渡る時間だったのか。

「……そう。でも。
 そのうち干からびて死ぬね、前者だと。楽だけど。
 死ぬべきなの、忍びは?」

小さく首を傾げた

里中いのはち >  
「然り。もしおのこであらば、我が里有数の女変化の使い手になれようとも。」

墨色を細く引き絞り、弧を描く。
尚も神でないと言い募るには「はっはっは!」と、よく通る其れが重なろう。

「全く異なる世界であらば、拙者此処で案山子と化していたでござるよ!
 言葉が通じるのみならず、似通う世ならば多少足掻いてみてもいいかもしれぬ!」

と、そんな冗句――のようなかろさではあるが、恐らくは選び得た択である――を連ね、ふと、

「そういえば、貴殿の名を聞いておらなんだな。
 良ければ教えてもらえると拙者としては話し易くなって有り難いのでござるが。」

軽い口調だ。断られてもなんら気にしないであろうことが透けて見える程。

「む、なかなか難いことを。そうでござるなぁ、いのいちならば……ううん、「是非も無し。」――と、そう答える気がするでござるよ。」

物真似だろうか、その一言を告げる瞬間、酷く温度のない声色に成る。人のぬくみも、つめたささえ感じ得ない、唯の音の羅列が如き。
或いはそれは答えではないのかもしれないが、つまりは此の男の言う忍びとは、そういう存在であるということに他ならぬ。

少女が口を噤む。其の時の長短に関わらず、其処に躊躇いのようなものを覚ったが。

「拙者、未だ主君なき忍び故。里に帰属してはいても、替えの利く部品でしかないのでござるよ。
 主君もなく、命もなくば、箪笥の隙間に転がった歯車の行く末なぞ誰が気にしよう?」

極々当然のことを告げる。そんな口調だ。さて、少女の反応や如何に?
墨色は探るように少女を柔らかく射抜く。

シア > 「そうだね。足掻く方法はあると思うよ、それなりには」

実際、この島ならば比較的自由度が高く暮らすことはできるだろう。
帰る方法についても、研究している人々はいるかも知れない。
可能性の話にはなるが、0よりは多い、になるはずだ。

「ん。ボク? シアだよ、ボクは」

断られても気にしない、という空気を感じ取ってはいた。
感じ取ってはいたが、しかし。名前を聞かれれば、そう名乗る。

「でも。答えじゃないよね、それは貴方の。」

いのいちならば、と付けた。
同意見であろうと、あくまで他人の言葉に仮託している。
それは本人の言葉とは言えないだろう。

「うん。そうだね、それは。思いを寄せる必要はないね、替えの効く部品に。」

合理的に考えれば、行方の知れなくなった替えの効く歯車など一々気にすることはないだろう。
必要なら補充すればいいだけのことだ。

「ただ。使い道はあるよね、あったらあったで。
 わかるけどさ、使えなくなった道具なら。
 無意味だと思う、ただ死ぬだけは。三流じゃないかな、道具としても」

道具としての意見に否やはない。それは必要なことなのだから。
ただ、少女は考える。
道具が自ら死を選ぶことは、怠慢なのではないか、と。

「もちろん。命令なら良いと思う、死ぬことが。」

それからしばし考える。

「ああ。あった、もう一つ。
 選んだのならいいのかもね、貴方が。
 決めることじゃないけどね、それをボクが。」

こちらも射抜いてくる目に臆することも、警戒することもない。
ただ、普通に当たり前のことを話すように、当たり前に答えた。

里中いのはち >  
可能性の話と、少女の名。それらを一先ずは頷く動作一つで胸の内に仕舞う。
それよりも、少女が先程見せた逡巡、其の委細を探らんとしながらに、戯れのような言の葉遊びに興じていよう。

「然り。拙者は飽く迄も“いのはち”故に。」

いの組――主を持たぬ育成機関、その組み分けの中では優秀なものが属する。
此の男は、その中でも八の位を冠する。組み分けの詳細どころか便宜上と告げた名の意味すら説明はせぬけれど。――命がない、唯それだけの理由だが。

少女との綱渡りじみた遣り取りを楽しむが如く、頭巾の下の唇は緩やかな弧を描く。

――三流と。そう称されて尚、それは崩れず、目許も矢張りニコニコとした其れの侭。

「シア殿は随分と物持ちがよいのでござるな。良き事よ。
 だが、それはシア殿の申す通り、“道具”の弁でござる。拙者は未熟な道具未満、唯の歯車故。」

肩を竦める動作。
して?

「嗚呼、ふむ。貴殿は選ばぬことさえ自身の選択の内であると、そう考えるのでござるな?
 然り然り。そう言われてしまうとそれこそ是非も無し、という他ないでござるが。」

顎を擦る。墨色がちぃと余所を向いた。

「そうさなぁ、であらば……此処がどういう世であるか、シア殿がどういう御仁であるか、見定めてから判断する――選択を先延ばしにする、というのが、歯車として在るべき姿でござろうか。」

流れに身を任せるのも一興。
なれば男が行うべきは、

「シア殿が女神でないことは重々承知の上でござるが、更なる慈悲を賜りたく。
 確か、常世島――でござったか。どの様な場所で、どのような理の元に在るのか。触りで構わぬ。智を授けてもらえるのであらば、怠惰な拙者もひと踏ん張り出来るといふもの。」

シア > 「そう。いのいちとは別の駒だよね、貴方は。」

だとしても、意識を共有するという可能性はある。
しかし、いのいちの発言、ということなら個々の個性は認められている、ということだ。
それなら、彼自身は?
なんとなく、相手の様子を覗き込む。

「違いかも知れないけれどね、教育の。
 押し付けるつもりはないよ、ボクも。
 理屈も使い道もそれぞれだしね、道具も歯車も。」

全く同じかと言われれば、違うものだろう。
その辺りを話し合うつもりもないので、そこには言及しない。
別に説得したいわけでもないのだ。あくまで考えを伝えるのみである。

「スイッチがないからね、人には。
 止めてもらえるなら楽なんだけど、用済みなら。」

人であるがゆえに、意識が、意志があるがゆえに、その行動は選択を逃れられない。
詭弁のようであるが、本人にそのつもりはない。
彼女なりに合理的に考えた結果、そういう答えがでた、というだけである。

「……ん?」

いのはちが、初めて視線を僅かにそらす。ほんの僅かだが、それは見逃さなかった。
それから、彼が口にしたこと。

世のことはともかく、自分を見定める?
少女は訝しんだ。今のどこに、自分を見定める要素があるのか。
疑念を出さずに、瞳だけが男をほんの少しだけ強くみた。

けれど、次いで出てきた質問については得心が行く。
今まさに、重要な情報であろう。

「先に言うけど、一応。ボクの知ってるのは大した内容じゃないよ、間諜するほど。
 それと。世界のことわからないからさ、いのはちの。
 わからないことはきいてみて、細かすぎるのは後で調べてほしいけど」

仮に、異世界人を装ったスパイ、などということがあっても、少女の知る程度のなら問題はない。
そこまで気を使ってやるギリもないのだが。

「世界が変わったんだ、何年も前のことだけど、
 異世界から人が来たり、いのはちのように。妖怪が出たり、怪異といわれる。
 目覚めたり、人が不思議な力に。」

相手の文明レベル、知識レベルが読み切れないので、それっぽい言葉でなんとなく説明してみる

「で。実験場なの、この島は。してる。
 そう。色々なものをまぜこぜにしてうまくいくか実験、不思議な力を持った人間とか、怪異とかが。
 変な島、そういう」

話していて、自分でもだいぶよくわからない世界だと思う。果たして相手に通じるのか。
相手の出方を伺うように、黒の瞳で見つめた。

里中いのはち >  
別の駒。別の部品。少女の推察に異を唱えることはない。
ただただに目許に笑みを滲ませるばかり也。

よく似た色の瞳が交わる。

「フッフフ! 愉快な御仁でござるな。
 シア殿の胸の内に在るは――好奇心、でござるかな?」

ころころと弾む笑い声が布越しより。
真っ直ぐにその目を迎えては見返さん。さて少女は此の男から何を汲み取るのか。

「まっことその通りでござる! 停止機構があらば抜け忍の対処も楽になろうに。帰還が叶った折には上の者に上奏致そう。シア殿は賢き者よ!」

言葉尻が楽しげに揺れた。

さて、そうしての僅かな思案から、男が選び取るは――其れもまた選択の内には違いなくとも。
何処までも、意思なきものの其れである。

少女の瞳がその色を強くするならば、ふ、と緩む呼気があり、

「否否、深い意味はござらんよ。任務外の拙者の言の葉なぞ、空に浮かぶ白雲よりもふわふわであるからして。」

ゆるりと首を振る。さて。
応じてくれるらしい少女の言葉、情報、些細な欠片一つたりとて逃すまいと、其の時ばかりは墨色に真剣な光が宿るだろうか。

少女が言葉を継ぐ間は、唯々口を閉ざしている。

「ふぅむ……物の怪の類は拙者の世界にも居たが、あまり身近なものではござらんかった。此の島はそういった存在の坩堝であると。いやはや、中々に面白き世でござる!」

ぱっ、と、思い出したように明るく笑みを浮かべん。

「よぅし、シア殿! 貴殿は女神ではないが、女神の如く慈悲深き御仁の様子!なれば拙者は其処に付け込むことに致す!
 さ、斯様な不毛の地にはおさらばし、盛り場――とまでは行かずとも、人里まで赴こうではないか!
 なに、拙者もいのはちと言えど忍びの里の者。恩義にはきちんと報いる故、安心して恩を売りまくるとよいでござるよ!わっはっは!」

極々自然な動作でもって、少女の肩を捉え抱かんとす。何気ない所作である。
だがしかし、無論のこと、少女にはそれを拒むという選択ある。
あるが、道案内をして頂ければ此の男は言葉通りに恩を借りとして胸に留めておく心算。

さて、如何あれ――些細なる歯車がひとつ、この島に紛れ込むことに。ニンニン。

ご案内:「転移荒野」から里中いのはちさんが去りました。
シア > 「……好奇心?」

なるほど、そういう見方もあるか。これは先程の問答に似た、然り、というべきところか。
自分では調査の一環のつもりであったが……そうも言えるかも知れない。
……実際のところは、どうなのだろう。

「……賢くはないよ、べつに。」

賢くないからこそ、困ることがある。
そうであれば、もっと正解を選べるはずなのに。もっと上手く立ち回れるはずなのに。
しかし、不完全性を悔やんでも仕方がない。
あるもので、できることを成すだけだ。

「慈悲深くはないよ、ボクは。
 一員として行動しているだけだし、学園の。」

それが正しいのかは若干わからないところもある。
しかし、この学園の一員であるからには怪異やら異世界人やらに対応するのは常とするべき、なのだろう。
……おそらくだが。

「……歓楽街か学生街かな、じゃあ」

盛り場といわれて心当たりはその辺りである。
後は行ってみて、解き放てばどうとでもなるだろうきっと。
そういう場所に行っての心得も、おそらく身についているだろうし。

そう思いながら、肩をだこうとする腕は自然な体捌きで躱して、案内に立つだろう。
恩や借りなどいらない、と口にしながらも……

ご案内:「転移荒野」からシアさんが去りました。