2024/08/25 のログ
ご案内:「『数ある事務所』―新館2階の客室―」にさんが現れました。
> 「―――…?」

目が覚めた。ぼんやりとした赤い双眸が見知らぬ天井を見上げて。
ややあってから、条件反射のようにガバッ!と、上半身を起こした。
周囲を素早くきょろきょろと見渡してから――あ、そうかと思い出したように一息。

「…そういや、昨日からここに世話になってんだっけか。」

自分で決めたとはいえ、自分はあの白黒の仮面連中から絶賛ヘイト中の身だ。
この【事務所】の施設説明は既に受けているし、聞いた限りでは仮面の連中も早々に手は出し辛い…と、思う。

「…つっても、”ギフト”で強化された連中だしなぁ。どんな異能や魔術かにもよるが。」

…あるいは達人に匹敵する武芸者か。実はこれが一番厄介だ――スラムの或る共闘で苦戦したのもこのタイプ。
なまじ、異能や魔術に頼らず己の技巧と身体能力で攻め立てて来るのが、下手な異能や魔術の強化より質が悪い。

(あん時は時間稼ぎ目的とはいえ、ほぼ防戦一方だったし…今後、あの手の奴とやり合う事もまたありそうだし。)

防御面は矢張り課題になる。回避と”いなし”は得意分野だが、純粋な防御力はそこまで高くない。
せいぜい、魔術の応用である程度攻撃の威力を緩和するか逸らすか弾くか。

「――――…。」

無言で、部屋の隅に立てかけた4本の刀を見遣る。鍔と柄を固く結ぶ細い鎖――”抜けない”刀。
これを抜刀する時が来なければいいと思う…まぁ、例え死に瀕しても今は抜刀する気は無いが。

> (しっかし、思ったより熟睡しちまった…見知らぬ場所でここまで眠りが深いのも久々だぜ。)

うーん、ここの住人達は信頼出来そうとはいえ、どうにも危機感が足りないぞ俺。
眉間に拳を当てて小さく唸る。連日の逃亡生活じみたもので思ったより疲労が蓄積してたか?

「…そりゃ、あんだけ団体さんにほぼ毎日追いかけ回されりゃこうもなるか…やれやれ。」

モテる男は辛いね――でも、俺は女の子にはモテたいけど、血気盛んな連中はノーサンキューなんだ…。
でも、現実は非情なので男女問わず物騒な連中ばかり追いかけてくる。

(うーむ、想定より連中のヘイトが俺に集中してる気がする…やっぱ挑発が効いたか?)

正直、”元凶”であろうあの旦那については今は後回しだ。
問題はギフトを授かった連中…特に、強力な力を手に入れて半端に過激なタイプが面倒。

「理不尽に反逆を――ねぇ。」

果たして今の状況が反逆なんて大層なものか?無秩序に統制もクソもなく、ただ暴れているだけでは?

「…ここは安全そうとはいえ確実じゃねぇ。イーリスやナナや…確かエルピス、だっけ。家主さんの名前は。」

そいつらに下手に火の粉が降りかかるのは避けたい。俺が追われるのは俺が挑発した事による自業自得だとして。
関係ない連中を巻き込むのは気が引けるものだろう。俺にだってまぁ、そのくらいの良心ぽい何かはある…つもり。

> 「…ま、世話になる分、手伝えそうな事は手伝うかぁ。」

こう見えて家事全般はきちんと出来る…そう、出来るのだ。
偶にこれを言うと意外そうな顔をされるが、普通に出来る。

「…学生時代に気紛れで料理の特訓とかしてたしなぁ。」

今思うとやってて正解だったな…こっち側に落ちても地道に続けてたからそれなりの腕前にはなった。
当然、掃除とか洗濯とか簡単な日曜大工や何やらも出来る…日常生活スキルは大事です。

「あとは――んー、ドラゴンに変化するのは今の俺じゃ対処法が分からんし…。」

そっちもちょいと後回しにするしかない。いきなり腕がドラゴンになったら困るけど仕方ない。
マルチタスクは苦手なんで、あれやこれやと思考を巡らせて手を伸ばしても中途半端だ。

「――当面は、ここに世話になりつつ”ギフト”関連の情報収集…と、嫌だけどまた連中と追いかけっこかねぇ。」

本当、思ったより数が多くて何度か撃退したけど嫌になる…台所の黒い悪魔らかお前らは。
ともあれ――…

「…このままって事ぁねぇだろうな…いずれにしろ、何かまた状況が動くだろうし。」

思ったより首を突っ込んでしまっているので、静観を決め込む訳にもいかない。
――と、いうか【悪竜】の悪名が連中の中では結構浸透しているから無視も出来ん。

「いやぁ…ほーんと、何で俺はノリでやらかすかなぁ。」

項垂れてそう呟くが、後悔も反省もとっくに後の祭りだ。それに――理由なんて決まっている。

状況が混沌としている方が面白いから…ただの愉快犯だなこれ!!
自分でも自覚の或る”悪癖”だが、冷静な視点で見ると最悪だコイツ…あ、俺か。まさに【悪竜】。

> まぁ、別に俺は善人でも何でもない。結局はこっち側に”戻ってきた”人間だ。
それに後悔や慚愧が全く無いかと言われたら…まぁ、ちょっぴりあるのは否定しきれん。

「”善悪正誤より己の筋を通せ”――爺ちゃんの言った通りに生きてみるのは中々難しいわ。」

苦笑いを浮かべつつ、流石に結構長い時間寝ていたので睡眠不足や疲労感は大分緩和された。
ベッドから完全に起き上がって軽く身支度を整える。取り敢えず後で家主さんとも面通しがあるし。

「さーーて…ここの家主さんはどんな人間かねぇ。」

そこはちょっと楽しみだ…あ、勿論最低限の礼儀はきちんとする。世話になる身だからな。
まぁ、そんなこんなで一度部屋を出て――案の定、しばらく迷ったとかなんとか。

ご案内:「『数ある事務所』―新館2階の客室―」からさんが去りました。