2024/09/13 のログ
■蒼き春雪の治癒姫 > 「えぇ……」
困惑。
困惑である。
なんかもっと凄い科学技術でやるもんだと思ってたら、
まさかの自分で首筋に注射器をぶち込んだ。
しかも慣れてないらしく、自分で自分の下唇を噛んでしまったようだ。
流石に今は癒してあげようか?とかそういう事を言えるだけの余裕はない。
しかも感染源を更にキバで…つまり、口移しするらしい。
「いやあ、なんかこう。」
「良いんだけどね…」
「思ってたのと」
「違うというか」
「良いんだけどね。」
「やるって言ったから。」
ベッドから起こされて、
首筋を晒しながら牙噛むを待っている。
■紅き機械ノ女王 > 「ふふ。もうシンプルに噛んで直接感染源を注いだ方が効率的ではないですか。私は紅き屍骸ですからね」
イーリスは紅き屍骸ノ女王になっているがこのラボにあるものに何一つ感染させてないのでそのままだ。
「感染させている最中、ちゆきさんを苦しめてしまう事になるでしょう。先程ナノマシンを注入した時のようにそこも耐えてください。申し訳ございませんが、今回は治癒も控えてください。治癒により、私の予期せぬ事が起こらないとも限りません」
例えばもし治癒により思うように感染源が注ぎ込まなかったとしたら、治療の成功率は下がる。
今回ばかりは治癒なしで耐えていただくしかない……。
■紅き機械ノ女王 >
「それでは私の感染源受け取ってください、ちゆきさん」
■紅き機械ノ女王 > ゆっくりとちゆきさんの首筋に自身の口元をもっていき、そして吸血鬼のような牙で噛む。
牙がちゆきさんの首筋を貫き、そしてイーリスの殺害欲なき感染源が大量に注がれていく。
直接注がれし感染源。
その量はあまりに多く、ちゆきさんに苦痛という形で負担をかけてしまうかもしれない。
注がれていく感染源。イーリスの計算通りなら、そのイーリスの大量の感染源が、元あるちゆきさんの感染源を浸食していくはず……。
物量と感染力、その両面がちゆきさんの元ある感染源を上書きしていく……はず。
■蒼き春雪の治癒姫 > 「え、えー……なら痛覚シャットアウトだけしとく……」
治療はダメらしいのは、なんとなく頷ける話である。
とはいえ、どうも痛いのは嫌らしい。
ごねるように苦痛を跳ねのけようと思っていたところで、
噛まれる。
直にどんどん注がれるは、殺害欲のない感染源。
「うぐ、う……!」
「……!!!」
彼女の計算は、しかして……!
(まずい……ッ!)
それは。
上書きすることは、なかった。
元あった感染源の殺害欲を、逆に反発させ、刺激してしまう。
■殺害欲 >
「死ねッッ!!!!」
■蒼き春雪の治癒姫 > すぐそばにいるイーリスを、
殺そうとして…留まる。
「……!」
確信する。
失敗だ、これは。
もう、抑えきれる保証がない。
このままいれば。
彼女を殺してしまいかねない。
最優先撃破目標である、彼女を!
「あー、ごめん、無理だったみたいだね」
にへら、と笑う。
「もう、消えるよ」
「私の事は、忘れて?」
薄くなる存在。
■蒼き春雪の治癒姫 >
「夏に降った雪だとでも、思って?」
融けていく姿。
■紅き機械ノ女王 > 「程々にお願いしますね」
ナノマシンの注入までは治癒でもなんでもしただいても成功する話だが、感染源注入による治療は別だ。
初めての試みである。
ちゆきさんが苦しい目に遭ってしまい申し訳なくはあるけど、出来る限り不確定要素は排除したい。という事で、痛覚シャットアウトも程々というお願いをした。
感染源を注ぎながらもイーリスはちゆきさんの体内に注がれる感染源を制御していた。
そして、ちゆきさんの首筋を噛み続けて逐次感染源を注入しつつ気づく。
(え……!? そ、そんな……こと……って…………)
感染源を注いでも、元あった感染源を浸食する事はなく、反発して殺害欲を刺激してしまう結果となっている。
(こ、こんなのデータ通りではないです……! いえ……)
紅き屍骸、それは幾度もイーリスのデータを覆した存在。
(研究を重ねても……今回も私の予測を超えるというのですか……! それでも、ちゆきさんが助かるには……まだ私の感染源を注ぎ込むしかないんです……!)
突然の罵声。それがちゆきさんの殺害欲からくるものであると、理解する。
そしてイーリスは頭の中では理解していた。
失敗だ……。
(分かってます……失敗なのは……。それでも、ほんの僅かに希望があるなら……!)
感染源をさらに注ぎ込めば反発されることなく飲み込んでしまえる。はっきり言って、なんの根拠もない。やらないと、ちゆきさんが殺害欲に飲まれて、緋月さんともう友人でいられなくなる……!
根拠なんてなくても、僅かでも希望があるなら……諦めない……!
だが、ちゆきさんの言葉にイーリスは歯を彼女の首筋から放してしまう。
ぐたりと、その場にぺたんと座り込んでしまった。
紅き屍骸化したイーリスの紅き右目から、涙の雫が垂れて頬の紅き文様を濡らした。
「そ、そんな…………。こんなこと…………」
ここまでして……完全感染は治療できない……?
うそ……でしょ……。
ちゆきさんは笑いながら、姿を消していく。
「ま、待って……。待ってください……! まだ……もう少し時間があります……! 今から急いで新たな治療法を見つければ…………!」
姿を消すちゆきさんに右手を伸ばして掴もうとする。だがイーリスの右手は空を掴んでしまった。
イーリス自身分かっている。ちゆきさんが支配欲に飲み込まれるまでに新たな治療法を見つけるなんて、不可能。
今回の失敗で、全て終わったのだと。
■紅き機械ノ女王 >
「ちゆきさん……! ちゆきさん…………!!」
■紅き機械ノ女王 > 涙を床に垂らしつつ、ちゆきさんの名を叫んだ。
「ぐ……ああああああぁぁぁぁ!!!」
その叫び声はやがて、呪いがイーリスを浸食していく苦しみの声へと変わっていく。
イーリスはその場で倒れた。
紅き文様はイーリスの体からなくなり、右目も元の青色に戻る。
「……追わなけれ……ば…………。ちゆ……き……さん……」
だが居場所は、分からないでもなかった。
ちゆきさんの体内に残したものがあるからだ。
一つはナノマシン、そしてもう一つは紅き機械ノ女王の感染源。
ナノマシンがイーリスの体内コンピューターに、ちゆきさんの居場所を教えてくれる。
今は少しだけ、イーリスは目を閉じる。
■蒼き春雪の治癒姫 >
「誰も、貴女も、緋月様も―――殺したくないよ。」
雪融けの水だけが、そこに残った。
■――― >
…ナノマシンは、禁書図書館の最奥を示す。
それは。
特筆すべき危険なエリア。
永遠の時の檻。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」から蒼き春雪の治癒姫さんが去りました。
ご案内:「『数ある事務所』地下の医療ラボ」から紅き機械ノ女王さんが去りました。