2024/10/08 のログ
ご案内:「伊都波家・リビング」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
「悠薇ー? 母さんー?」
今日は休日。
委員会活動の休日とも重なって、完全オフ。
とはいえ早起きして道場での稽古などのルーティンは変わらず。
一頻り汗を流して、朝シャワーを終えてリビングに来ると人の気配がしない。
「? どこか出かけるって言ってたっけ…」
妹、悠薇…は委員会の活動に出かけたのかもしれない。
父も母もまだそれほど年というわけではなく、活動的。
家に一人。
案外貴重な時間かも?と、キッチンテーブルに立つととりあえずお湯を沸かす。
麦茶のパックを取り出して、沸かしたやかんにぽいと投入、蓋をする。
一家四人。お茶は毎日沸かさないといけない。
「さて…」
まだ少し湿りを感じる長い髪をさらりと撫でて、リビングのソファへと落ち着く。
■伊都波 凛霞 >
手帳(オモイカネ)を手に、視線を落とす。
ぱぱっと手元を忙しく動かして、数人、仲の良いグループにおはようのメッセージを送る。
【おはよう~】
【今日はお休み!何しようかな?】
【どこか出かけたりするの?放課後空いてるから一緒する?】
【たまには家でのんびりするのもいいかな~、悩み!】
【そういえば学生街に新しいお店が出来てて───】
「晴れてたら、午後からは出かけてもいいかな」
独りごちながら、大窓の外を見る。
快晴とは言い難い、そんな秋の曇り空。
朝には朝焼けも見えていたし、天気も崩れるかもしれない。
■伊都波 凛霞 >
「──、と…そうだ」
慰安旅行の折、悠薇からもらっていた音声データ。
プレゼント、って言ってたような気もする。
自分がいない時に聞いてね。と念を押されたもの。
■伊都波 凛霞 >
イヤホンジャックに端子を接続して、
ちゃんと日付をつけてわかりやすく保存しておいた、音声データを再生する。
聞こえてきたのは…なんだろう、店内の音?
聞いたことのある音楽が流れてる、そんな内に
『――お姉さん。元気出してっ』
「ん?」
誰の声だろう。聞いたことはある気がする。
流石にすぐには気づかない。歌声のように抑揚があったりするわけでもないから。
『最高の公演でキミを待ってる。Catch up soon
アナタのノーフェイスより、愛と感謝を込めて!』
「ふえぇっ!?」
うっすらそうじゃないかなでもまさかねって思ってたのに名乗りまで入ってるじゃないの???
思わず変な声が出た…。
え?なんで悠薇がこんな音声データを?プレゼントって、そういうこと?
もちろん、秩序風紀を維持する機構の一員として、大っぴらに彼女のフォロワーであることを公言は出来ない。音楽に罪はないと思うけれど、立場というのはそういうものだろうとも思う。
ただ、妹は…身内だから、彼女の音楽の良さなんかを語ったりはしていたから、大ファンであることは知っていた。
にしてもまさかのまさか、どうして。
大混乱の姉である。
『……ほーら、キミの番だよ妹ちゃん?』
「……?」
まだ続きが、ある。
■伊都波 凛霞 >
『……どんなに!』
聞き慣れた妹の声。なんだか弾かれたような、ちょっと上擦ってしまった、そんな声
『時が経っても、帰ってきてね』
『ずっと、家で待ってるから』
『おかえりっていうから』
『───だから、絶対帰ってきてね』
『傍に、いるから』
「───」
必死に訴えるような、どこか涙声…。
普段二人で話す時だって、こんなトーンの妹の声、あんまり聞いたコトなかった。
"──どんなに時が経っても"
「…もう、急に何それ」
自然、聞いていただけなのにぽろりと小さな雫が目尻から溢れた。
指先でそれを掬うように拭。情緒の乱高下、何このプレゼント。
「──ちゃんと、毎日帰宅してるじゃない」
ソファに深く背を沈めて─、天井を仰ぐ。
音声データは、そこで終わっていた。
■伊都波 凛霞 >
にしても、びっくりした。
まだ少し心臓の脈拍が早いよ。
「前半と後半で感情ジェットコースターすぎない?」
くすり、笑みが溢れる。
ノースフェイスさん。
以前警邏中に偶然出会った時に思わずちょっと…よくない…ミーハーなところが出ちゃって、
それを嫌がらずに、むしろ嬉しそうにしてくれたのが印象深かった。
本当は、風紀委員っていう立場的にはいけなかったのかもしれないけど…。
でもそれほどに彼女の音楽は魅力的で、心を揺さぶってくれる。
夜に吠えるもの…違反部活と扱われている組織の違反生ミュージシャンの一人。
来歴不明、正体不明、だからこそその音楽だけが純粋に心を打つ。
最初は、配信サイトでたまたま耳にしただけだったのが、気がつけば勉強中、作業の合間、休み時間…彼女の音を追うように。
「…また会いたいなあ。会わなきゃね」
次は風紀委員の腕章に腕を通さず、一人のリスナーとして純粋に彼女の音を楽しみたい。
まさかまさか、妹から彼女の声をプレゼントされるなんて、思ってもいなかった。すごいサプライズ。
───それから…。
■伊都波 凛霞 >
もう一度、音声データを再生する。
ノーフェイスさんのパートは、思わずにやけてしまう。
そして、聞き慣れた声の、後半パート。
「…どんなに、時が経っても……か」
時が経てば、いなくなってしまう人がいる。
今楽しく過ごしている友人だって、信頼の置ける仲間だって過ごせる時間は有限に違いない。
"側にいるから"
「───」
とす、とソファに駆け直す。
手帳へと落ちる視線は、どこか安堵の色。
ずっと側にいると思っていたのに、夏の終わりと共に、側にいられなくなってしまった友人。
自分はどれだけ時が経っても、側にいるって──そんな、妹の精一杯の、姉への労りだ。
「言ったなー?」
「お姉ちゃんは、悠薇が側にいてくれるだけで無敵になっちゃうんだからね」
視線をもう一度、外へと向ける。
朝焼けの僅かに残る茜空。
夏の輝きの終わりとはまた違う…会えなくなった人を思わせる色だ。
■伊都波 凛霞 >
手帳を閉じて、立ち上がる。
ぐっぐっ、とツイストストレッチ。からの、ぐぐーっと背伸びをして、深呼吸。
「──よしっ。今日は部屋の掃除でもするかぁ」
帰ることを許される場所。
待っている人がいる環境の有り難さを噛み締めよう。
妹が帰ってきたら、どう声をかけようかな。
そんなことを考えながら、清掃を始める休日の朝。
たまには外に出かけず、家で休みを満喫するのも悪くない───
ご案内:「伊都波家・リビング」から伊都波 凛霞さんが去りました。