2024/10/16 のログ
ご案内:「喫茶「Under the Rose」」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「喫茶「Under the Rose」」に五百森 伽怜さんが現れました。
ノーフェイス >  
店員に通されたのは、薄暗がりで明かりも僅かの、狭くすらある個室だ。
木製のちょっとわくわくする感じの内装は、まさに秘密基地。
ひっかけてたカーディガンを脱いで椅子に休めると、脚を組み組みメニューを手にとった。

「暖房効いてる。もう外も肌寒くなってきたもんね」

何においてもデジタル化著しい昨今で、手元に重量と感触を感じる"おしながき"。

「なに頼むー?いろいろあるケド」

夕刻の学生街、不意にばったりと知った顔に出くわした。
相手のこと(風紀びいき)を思うなら、そういう状況では退散するべきだったのかもしれないが。
出会い頭に、若干ピリついた空気を感じさせてしまったこともありつつ。
そして相手方のほうから、用事もあるということなので。
偶然そこにあった馴染みの店に連れ込んだ。あとは出るタイミングをずらせば問題あるまい。
逢瀬を隠蔽する手管に慣れすぎている。

五百森 伽怜 >  
柔らかな照明が心地よい暖かさをもたらすその空間。
まるで別世界だ。
本当に先まで居た空間とドア数枚しか隔てていないのか、と。
疑ってしまいたくなるほどに、雑多な外界(喧騒)から隔絶された、
一つの洗練された、ちょっと気分の良くなる世界が演出されている。

こちらはと言えば――初めて檻の外に出された動物園の子鹿のように、
目の置き場を探している。
スカートの上にぎゅっと握った両拳を置いて、
さあ声をかけたのは良いが、どう切り出したものか、と。
頭の中でぐるぐると思考のミキサーをフル回転させているのである。

何を頼むかと、そう聞かれれば。
眼前の相手が持つおしながき、
その裏面にある文字から見知った文字をささっと見つけると、
そのメニューを口にしようとして。

「……お゛っ……おっ……」

潰れた蛙のような声が出た。

それでまた恥ずかしくなって、数秒の時を見送った後。

「おおおオレンジジュースで……!」

拳を握って気合を入れて、そこまで口にした後、
ふぅ、と一つ深呼吸をして、改めて前に向き直った。

―――
――

机を挟んで見える、少女の容貌。
ノーフェイスから見れば。
艷やかな紫色の髪、双眸(アメジスト)
その輪郭もどことなく、
前に見た時よりも少し女性的に――大人びて見えるだろうか。

ノーフェイス >  
こんな場所で、ふたりきり。
先日のことを考えれば自分もできれば避けたかった状況ではあるけれども、
いまもきょときょと忙しなく動く彼女の"眼"は、
どうやら薬の抑制によって人間の側に寄れているようだった。

「……………」

じー。
見つめている。

素の表情であるからか、あるいは三日会わざればという慣用句。
……もしくは識ってしまったから、どうにも受け取れる変化か。
まっすぐに、伽怜の顔をみつめている。ひと月ぶり。自分からすれば、久々だ。

彫像のように整った、人によれば負の印象を抱くその貌は、
なにやらひと仕事終えた様子の姿に、ふっと破顔した。
ちょんちょん、とこめかみより少し上を指でつつく仕草。
帽子取ったら

「フフフ。一世一代ってカンジ。
 オレンジジュース頼むのに、そんなに勇気いる?
 ……甘いの欲しいな。ボクはホットココアで」

店員にでなくても、そうしてお品書きに吹き込めば。
ひっそりと、持ってきてくれるお店だ。気づかれずに聴かれずに。

「こうやって落ち着いてると、少し印象変わるね」

メニューを戻した。
正対は……ちょっとアレだった状況の記憶ばかりだったので。

五百森 伽怜 >  
前回二人きりで会った時と決定的に違う点は二つある。
その一つが、薬をしっかり飲んできているという点だ。

凝視するノーフェイス。
流石に薬を飲んでいるとはいえ、誰かと真正面から視線を交え続けるのは
少し怖い。
故に緊張した面持ちでその凝視を受け流そうと、
お品書きの裏面に目をやっていたのだが――

彼女のサインに気づいて、慌てて帽子を脱いで、
そのままの勢いで手近な椅子の上に、軽く放るように置いた。
ぽふ、と音を立てて力なく横たわる帽子。

「やっぱり……そう見えるッスか」

静かに、一瞬だけ目を伏せた後に、すぐに前を向く。

「ま、まぁ……この間に会った時は、薬も切らしてて、
 大変お見苦しいところをお見せしてしまったッスからね。
 いや、ほんと……申し訳なく……」

あはは、と困ったように笑って、ぺこぺこと頭を下げる。

「……曲、一通りは聴かせて貰ったッスよ。
 お礼代わりのつもりだったッスけど、どれもこれも良かったッス」

そうして、きちんと礼はしたことを告げる。

―――
――

彫刻に相対するは、生の輝きである。
健康的で、瑞々しい肌。
計算されたかのような美と、自然にそこにあるが故の美。
一挙手一投足。生の躍動の内に、猫の如くしなやかな魅惑を秘めている。

ノーフェイス >  
(…………なんか……)

あの夜とはまたちがった、妙に視線が吸い寄せられる感覚。
もちろん若いし色々みなぎっているので自然なことではあるけれど。
印象は、変わった。変わりはしたが、違和感はなかった。
――よくみているほうの姿に、近づいている感じがした。
自分がその下の有り様を、識ってしまったからか、それとも――

「まァさすがに、朝起きたら半裸で落ちてたときはびっくりしたケド。
 女の子泊めるのも、ごはんつくるのも、べつにイヤなコトじゃないし。
 気にしなくてイイってば……ま、お互いよく我慢しましたってコトで」

どんな夜を過ごしていたか、を仄めかしながらも。
自分がお縄になってないのは、彼女の厚意がゆえでもある。
にや、と歪ませた唇を、いつの間にか届いていた湯気をたてるカップで隠して。

「――ホント?」

かちゃん。
少し危うくソーサーに置きながら、僅かに身を乗り出した。

「嬉しい!……キミをふるわせられたなら、冥利だよ!
 聴いてくれてありがと。……ああいや、お礼は言わせてね」

ぱっと顔を明るくして、手でも握りそうな勢い。
いまや数字でいえば相当に大きくとも、そこにおいては傲慢になれない。 
聴くことを要求したのだが、どうしてもそう、感謝はあるので。
手を合わせて片目を瞑り、勘弁を願った。

「キミの記事も読んでるよ。先日のは特に良かった。
 やっぱり追いかけるようなルポが熱入ってるよな。
 なんか、いままでよりも更に元気みなぎってるカンジで」

椅子の背もたれに戻ると、声を弾ませて上機嫌なまま。
見せる貌は年齢相応の相である、けれども。

「……それで、またプライベートで逢いたくなっちゃったって?」

リスナーと、読者とで。間接的につながりはあるのに。
からかうような言葉半分、もう半分はときほぐすように柔らかく、
この機に至った用事を問うて、ココアをひとくち含んだ。

五百森 伽怜 >  
「嘘は言わないッス。
 犯罪に手を染めてる人の考えは分からないッスけど……
 それでも、生み出したものには正直、痺れたッス。
 特にHowler in the Nightの疾走感には。
 
 ……ということで、お礼はしたッスから。
 貸し借りはここで無しにさせて貰うッス」

一番響いたのはあの夜の演奏なのであるが、
そんなことはわざわざここで言わずとも、あの自分の醜態を見れば
分かっている筈だろう。
ノーフェイスは犯罪者である。
あの夜を、夢を共に過ごしても、五百森はそのことを忘れない。
故に、貸し借りはここで帳消しであることを宣言する。
それは気にしなくて良い、と口にしたノーフェイスの意見を
尊重するものでもあろうが。

「記事を読んでくれてるのは、嬉しいッス。
 他の皆も良い記事をたくさん書いてるから、良かったらまた
 意見をあげてほしいッス」

そっと目を少しだけ上に向けて、その表情を真正面から見やる。
目に映るのは彫刻が、朗らかに、表情豊かに身を乗り出す姿。
思ったより人間味があるように見える。
お互い、これまであった時よりも素が出ているのかもしれない。
そんなこともあって、少しばかり呼吸も穏やかに。
少しは、冷静に話せようというものだ。

「……最近。夢、見てないッスか?
 ありふれた夢じゃなくて、その……あたしの夢、というか……
 何と言うか……その……」

言葉にするのはいくら個室といえど、憚られるコト。
スカートの上の両拳を握る力がきゅっと強くなり、
胸は締め付けられるように感じ、顔は熱くなる。

視線はふわふわと左右に泳いで、逃げ場を探している。
しかし、この場にやって来たのは自分だ。
ここで、決着をつけねばならない。
今度は自分の意志で拳を握って、くっと前を見て。

「……よくない、やつ……」

ここまで口にしたは良いものの、滝のように汗が流れていくのを感じる。
口はそこで一旦止まった。視線だけがふよふよと動き続けている。

ノーフェイス >  
「羞恥心も」

宙を踊った指先が、みずからの白い喉を撫でる。
首から背にかけては細いシルエットであるものの、喉に背に――
しっかり鍛えられた野性味がある。うたうものの筋肉のつきかた。

「……理性も、道徳も」

肩を滑って、片方だけのショルダーストラップに人差し指が通る。
それをぐいと引っ張って見せれば、肌色の面積は弥増して。

「脱ぎ捨てたあとに、のこった場所で受け止めてほしい。
 いつかだれかに言ったコト。そういうものだって思ってるから」

指を外して、ストラップの伸縮が膚をたたくとともに、にひ、と笑った。
犯罪者(ボク)考えなんて、わかろうとしなくていい。
そのより奥底の間で生まれたグレーゾーンをこそ、ふるえであり芸術と考えれば。

「アレさ。ほんとに最初のほうにカタチになった(ヤツ)でね。
 いまよりもっと青かったときのボクのかたち」

少し恥ずかしげに笑うのだけれども。
きょと、と切り出されたことに対しては、不思議そうに黄金瞳を瞬かせる。

「夢はよくみるほうだケド」

感受性が強いからか、受け取る情報の多さか。
そして多くの夢を憶えている性質だった。悪い夢も。

「――いや?」

果たして問われれば、ふたたびココアのカップを手にとって、口をつけた。
少しだけ飲みやすい温度になったそれで、体を内側から温める。
つとめて軽い調子で、揺れる褐色の水面に落ちていた視線が。
す、とそちらに上目で向いて、唇が艶然と笑った。

「キミと過ごすのは、イイ時間だから」

五百森 伽怜 >  
いい時間。

ノーフェイスの挑発するような一連の仕草に、
緊張からか――固い唾を飲み込んだ後。

続く言葉を口にしようとして、その言葉に一瞬遮られた。
少しだけテーブルの上に視線を落としてから、
ぱく、と。
真正面から何かしら抗議しようとして口を開けて――引っ込めて。
右肘を机に置き、少し震える指で口元を隠しながら、
視線を逸らし。

「……やっぱり、見てるんスね、あたしの夢」

控えめにぽつり、とそう返した。

「やっぱりあたし一人だけの夢じゃなかった。
 サキュバスの本来の能力――あたし達の夢は繋がってるんスよ。
 それで、その……あんなこととか、こんなこととか……」

ぽそぽそ、と声はどんどん弱まっていったが。

「と、とにかく!
 今の状態は良くないッス。
 ノーフェイスはどんどん……せ、活力を奪われるし、
 あたしはあたしで……栄養が行き届きすぎて、その……
 色々、色々困ってるッス……」

近頃、男子たちからの目線や声かけが変わってきた。
薬を飲んで教室の隅で縮こまっていればあまり声をかけられなかったのに、
声をかけてくる男子が少し増えてきた。目を、覗き込んで。
自分自身でも、
普段の雰囲気や――ほんのり身体つきも、変わってきたと感じる。
避けたい方(サキュバスとしての方)に、だ。

「だから、この状況を何とかしたいと……
 そう思って、声をかけたッス」

伝えるべき大きなことを伝えて、ふう、と一息。
相手の方をしっかりと見やって、返答を待つ。

ノーフェイス >  
「いやボクはぜんぜん、元気だケド」

にこっ。
体力と、せ――活力は漲り過ぎているほど。
はっきり言って異常なほどの。ゆえに、潤沢で、芳醇で、甘美なる(エサ)

「……あの夜、てっきりその眼の影響で夢みたんだとばっかりおもってたケド。
 なるほど、しっかりいただかれてたワケだ……ふぅん……?
 あれからも定期的に夢にでてきて、そう、二回目くらいからおかしーなー、とは思ってた」

こんどはしずかに、ソーサーにカップを休める。
眼を伏せて、わずかばかり思推の時間。

つづきものだったしね。
 さいしょはされるがままってカンジだったのに、どんどん――
 妄想(ゆめ)にしては、いろんなものが真に迫りすぎてた。知らない言葉まで出てきてたし」

深く腰かけ直すと、あらためてその姿をみやる。
夢よりは浅く、いままでよりは深くなっているその姿。

「ほんのちょっとだけ、残してあるからかな。ココに」

わざとらしく視線を逸らして、しゃあしゃあと可能性をさぐる物言い。
とん、とん、と指でたたくのは、胸の丘陵の中心、心臓部。

五百森 伽怜 >  
「……あたしの知る、サキュバスの代表的な捕食方法の一つッスから」

捕食。
敢えてそう表現する。
甘い表現など、するつもりは一切ない。

「…………っ……~っ……!」

夢のさわりを少しばかり摘んで語られれば、
声にならない声もあがろうというものだ。
淫魔(サキュバス)の夢。
香りも、体温も感じる、そんな夢。
それは、今もこの身体に、確かに刻まれている。

頭を振る。
相手のペースに乗せられてしまっては駄目だ。
息を一つ吸う。杖を持つ構えと同じ。
整然と、ただ静かに構えれば良いのだ。
その為にも、呼吸を落ち着けて。

「……ちょっとだけ、残してある……どういうことッスか……?」

単なる比喩か、或いはそれ以外の何かか。
意図を掴みかねるところであるし、そこは確認する。
その上で、更に相手の出方を見る。
小さく、深く呼吸をして。

ノーフェイス >  
「……………」

頬杖をつく。
細められる瞳は、若干の不満の色がある。
そこからすい、と横に動いた。

「おいしかったかどうか。
 ……くらいは、聞かせてくれてもイイんじゃなあい?
 実質無抵抗でパンもワインもたべられてたワケなんだし」

それ以上に地獄みたいな夜だったが、さすがにそれを責めるのは酷だろうが。
……その横でイイ思いをされていたとなると、ちょっと悔しくもなる。

「教えてくれたら教えたげるー。
 そこからは逃げないぜ、ボクは。
 ……なんせ、ボクの考えに踏み込もうとしてくれてるんだもん」

指先。白く長い――指。右手と左手で指先の硬さが違う。
知られている感触が、カップの取っ手を撫でた。

五百森 伽怜 >  
「だから、そのことは……このまま活力を奪うのじゃいけないと……」

と、繰り返しかけて。
深く息を吐いた。
先に伝えた言葉では足りないというのだろう。
そもそも意図せずとも口をつけてしまった身、
ならばそのことについて触れておく義務もないわけではない、と。
一つ、自分を納得させることにした。

「……正直言うと、分かんないッス。
 ここまで繋がるなんて初めてのことだったッスから……。
 
 ただ、よくないことだけど……
 あ、あれは……」

流石に、言い淀む。
言い淀んで、時間が経って。
ふと下を見やれば、ぎゅっと握った拳はもうずっと汗ばんでいて、
スカートに染みができはじめている。
太腿も熱いし、両拳はどけて、机の縁へ指をかける。

「……ま、まずくはなかった……かも……ッス……」

その白いカップを撫でる手が、まさに自分の肌を撫でる手と重なって。
自分自身に嫌悪感を抱きながら、何とかその言葉だけを渡すことができた。
それが精一杯だ。
それ以上の言葉は言えない。

そもそも、言う必要もないだろう。

あの夢の中の自分を知っていれば。