2024/11/04 のログ
ご案内:「Free5 研究区408研究室」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「Free5 研究区408研究室」に挟道 明臣さんが現れました。
挟道 明臣 >  
━━目が覚める。
見覚えのある私室、その壁面のホログラフに映った日付に目を移せば既に11月。
あれから(第二方舟)からまる一か月以上が過ぎていた。
無事とは言い難いながらもどうにかここに帰りつき、死んだように眠り続けていたらしい。

多量の出血などでの意識低下があった訳でも無い。
思い当たるのは絶対的に身体に合わない(神性)に限界まで毒された事と、
状況がそうさせたとはいえ、明らかな過剰摂取(オーバードーズ)もある。
何より━━

(使いすぎ、か)

今までになかった違和感、肩口から首筋にまで伸びてきた種子の浸食。
背と首。
そこに感じる堅い感触が皮膚を突き破って表出した根の一部なのだと理解すれば、
仕方のない事とはいえ、否応なしに幾らか気が重くなる。
完全に置換された左腕自体は、幾ら破損したとしても自己再生される。
とはいえ、そこに一体化した神経や直結した生身(部分)は、無事ではすまなかったらしい。

「……こんな状態でも給金が出てやがる、最高か?」

涙が出る程労働者に優しい環境だった。思わず声も出る。
いや、まぁ傷病手当なんて物の該当する記載は無かったのだが。
表立って事を構えない限りは、俺はあの場所から無事に帰参した扱いになっている。
外に向けては怪我も何もなく、通常通りに研究室内にて勤務中といったワケだ。

身体を起こす事すら億劫で、横になったまま諸々の通知に目を通していく。
研究室のネットワークを間借りした個別の秘匿回線に、荷物預け入れの通知が一通。

名義人は、焔城鳴火。
偽名を使うという事もせず直球で来るあたりはシステム(倉庫)が信頼されているというべきか。

ふと、足音が聞こえて雑多に表示させていたログをしまい込む。

神樹椎苗 >  
 私室のはずだが、許可もなく扉が開く。
 そんな事が出来るのは、この408に置いて、青年の主治医たる女性と、傍若無人を絵に描いたような被検体(おなかま)だけだった。

「――む」

 まさに接待終わり、といった出で立ちで、ドレスの幼女が我が物顔で部屋に入っていく。

「ようやく目が覚めましたか。
 あの『お花畑』にも連絡しときますね」

 そう言いながら、意外そうなくせに準備はよく。
 青年にその『お花畑』の主治医、特製の【抑制剤入りのなぜか美味い飲料】を放り投げて渡した。
 その一方の手には小さな医療鞄。
 恐らく中には、注射型の抑制剤が入っているのだろう。
 

挟道 明臣 >  
「プライバシーとかさぁ!?」

言ってはみたが当然んなもん無い。
ノックすら無しのノータイムでの入室は常の事。

「おかげさまでな、寝てた方が他の奴らの仕事も少ないだろうに悪いことしたか」

バイタルの監視とまでは行かずとも、近しい事はこの施設内では避けられない。
今のところ挙動が安定しているとはいえ、変異体絡みの被検体。
暴走なんか起こせばシャレにならないからこそ、異変があれば速やかに鎮圧できる用意がされている。

手渡される、等という穏やかな挙動とは真逆の乱雑さで投げられた物を受け取り、口に含む。
久方ぶりの刺激に舌が痺れるような感覚があったが、それも一瞬。
覚えのある清涼感のある風味を、殆ど一息に飲み干して、蓋をする。

「そんで? そんなおめかししてどうした。
 お医者さんごっこには向かねぇぞ」

今にも転びそうな小さなシルエットに視線を移す。
馬子にも衣装とは言うが、暴れる猫でもドレスが着れるとは恐れ入った。

神樹椎苗 >  
「お互いプライバシーに配慮してもらえる生き物ではないでしょう。
 ま、お前に関しては表に出せない、って意味でデリケートすぎますしね」

 ずかずか部屋に入り、適当に椅子に座る。
 勝手知ったる極まれりだ。
 なお、同じような事をした後、青年の主治医は椅子ではなく、青年に抱き着くのだが。

「はぁ~~――これだから研究と治療を受けてればいいだけの『変態』は楽でいいですね。
 しいは、主任のお願いで『出資者様方』の御持て成しですよ。
 お前も、『お花畑』も表の舞台にゃでれねーでしょう。
 おかげ様で、しいがこんな慣れねー恰好で接待してんですよ。
 クソみたいなロリコン親父のセクハラを我慢しながら」

 不愉快そうに、相当疲労の籠ったため息を吐いた。

「ああ、そう、その『お花畑』な主治医が、とんでもなく怒ってましたよ。
 お前の処置しながら、涙目になってました。
 んでもって、その後、ボロボロ泣いちまうもんで、仕方なく慰めてやったしぃに、五体投地で感謝するといーです」

 へっ、と笑いつつ。

「――しかしまた。
 随分と面倒な連中に関わっちまったみてーですね?」

 なにに、とは言わず。
 常世島内外に広範な専用ネットワークを構築している『演算機』は呆れたような声をだした。
 

挟道 明臣 >  
「そもそも人様にどうにかこうにか生かしてもらってる立場だからな。
 研究区ん中だけでも自由にさせてもらってるだけでもありがてぇ話だ」

実際には落第街にも所要があって顔を出す事もあるにはあるが、
その全てを目敏く咎められるというほどでもない。
他所様に影響するようなおイタが過ぎればお叱りでは済みはしないが……

「なんだ出資者様さながらの振る舞いをご所望か?」

コイツは、相変わらず人の事を妙な符号で呼ぶ。
いや、不名誉甚だしい呼び名なのだから何度か指摘したが、既に諦めた。
一通り軽口を叩いた後で、お疲れさんと短く労いの言葉は述べておく。

「あー……随分長い事寝てたもんでな。
 何処まで408は、お前は知ってる? あれからどうなった」

内部で起こった事はウェブ上を流し見する限り正確には流出していない。
が、それも表立ってはの話だ。
ここに来たこのちっこいのが指す連中についての動向。
アングラ界隈とお偉方が急いて揉み消しにかかるお話に水を向ける。

神樹椎苗 >  
「ほんとに、つくづくお仲間(・・・)ですからね。
 ま、しいは島の中なら自由ですが」

 その代わり、面倒事をどんどこ押し付けられるのだが。
 そして、その『お花畑』の研究者曰く、椎苗にも異常が少なからず出ているのだから、どちらがマシかと言った所だ。

「おおっと、間違えました『変異体』ですね。
 別にしいを抱くくらい構いませんけどね。
 寝起きですし、溜まったもん抜いてやりましょうか?」

 年下にこの手の話をされるのを嫌がるのを知って、わざと露骨な言い方をする。
 まあ実際は、そんな事すれば『お花畑の主治医』が不貞腐れてしまうだろうからしないのだが。

「408としては、『何も知りません(・・・・・・・)』。
 『お花畑』としい、個人としてはそれなりに、と言った所ですね。
 ――とりあえず、後で埋め合わせしとくことですね」

 あの子供より幼い精神性の主治医なら、気が済むまで抱きしめてでも居れば満足するだろうが。

「ま、さすがは方舟(アーク)の手際ですよ。
 生存者の記憶操作に、表向きには完璧な事故(・・)としての処理。
 しいも、お前()が持ってきた端末が無ければ内部での情報はお前から聞くしかなかったでしょうね」

 そう言いながら、椅子に乗ったままぐるぐると回り始める。
 接待で疲れた後の、気だるい退屈さが空転している。

「少なくとも、あの後、『鳳凰』は今まで存命ですよ。
 『霊亀』の方も同様、病院でしっかり監視体制です。
 直近で問題があるとすれば、お前の所属がウチだと割れてる事と、かなり深く情報を引っ張り出してきた事。
 あとは『鳳凰』が後、何日生きていられるか、って所ですかね」

 そう話しながらぐるぐる回る。

「お前の方はまあ、何とでもします。
 というか、向こうも、ウチ相手に正面から喧嘩を売りにはこねーでしょう。
 ただ、『鳳凰』の方はどうなる事やら、ですね。
 この一ヶ月ほど、手出しされていない事すら不思議なくらいですし。
 ――アルカディア計画、でしたっけ?
 現状、あの『鳳凰』ほどに適した素体なんていないでしょう」

 300%というあり得ない数値の適合率。
 計画の母体として考えたら、これ以上ない存在だろう。
 無事な事の方が、不気味と言っていい。
 

挟道 明臣 >  
「馬鹿言え、自分より身長(タッパ)の低いガキが抱けるか」

相変わらず口を開けば品とは程遠いボキャブラリが飛び出てくる。
事実かどうかはともかくとして、ロリコン趣味も無いので普段通りに適当にあしらう。
衆人環視とまでは言わずとも割と研究室内からしたら明け透けな場所で欲を発散するほど無邪気でも無い。

「まぁ、気が済むまで頭撫でるくらいの仕事はするさ。
 どうせこのコンディションなら当面は実験だなんだで拘束も無いだろ」
「それより、なんつった……?」

鳳凰に霊亀、聞いたことの無い呼び名だが……前者の方は当たりが付いた。
焔城鳴火、ノアの箱舟(貸金庫)に荷物を預けた者でもあり、あの場所を共に生き延びた亜麻色。
存命、という言い方にこそ若干の引っ掛かりを覚えるが、ひとまずは安心もする。
わざわざ顔には出しはしないが、人並の感性を持ち合わせているのだから。

「━━襲われるってか?」

ぐるりぐるりと、遠心力に従って振り回される足を掴んで、問う。
意図せず目の前で裾がバサリと広がって、その先に何かが見えた。
装飾華美なシルク調の白。━━見なかったことにしよう。

「んで、その霊亀ってのは誰だ。
 ちっと思い当たる節がねぇ、鳴火のお友達(古馴染み)って所か」

病院で監視体制というからには、あの施設で直接見かけた連中では無さそうだが。
第一方舟を含め、幾つか出てきた人名を頭の中に浮かべてみるが連想される相手がいない。

この少女は基本的に嫌味な奴だ。
嫌味な奴だから、なのだろう。
手遅れになってからなら諦めもつく話を、こうやってちらつかせて来る。
大切だという物を預かった手前もあるが、改めて窮状にあるのを聞かされれば無視することはできない。

「つっても、多少人間やめた程度で組織を相手にどうこうするのは無茶があるぞ」

神樹椎苗 >  
「お前が嫁に貰ってやりゃあ百点満点でしょうが。
 いまいちガキくせーですが、一応、男女として好意持たれてんのくれーはわかんでしょーに」

 そうあの『お花畑』がこの被検体に入れ込んでるのには、好奇心以上の理由がある。
 非常に幼い精神性だが、だからこそ自分を大事にしてくれる相手には敏感なのだ。

「はあ、襲われない理由がねーでしょう」

 脚を掴まれつつ、なにを当然なことを、と。

「『霊亀』は、『鳳凰』の幼馴染。
 現在の名をポーラ・スー、かつての名をホシノモリアルカ。
 第一方舟(ファーストアーク)の星核移植被検体四番。
 今は病院で辛うじて生きてる――まあ、死んでいないだけ、と言った有様ですが」

 そう言いながら青年の端末に、病院から手に入れたのだろうその『霊亀』のカルテを送る。
 大量の失血性ショックによる、脳の一部壊死、多臓器不全、四肢の運動麻痺、自発呼吸の停止。
 意識があり、会話が出来る状態と言うのだけでも奇跡的だろう。

「――組織でなければ、無理ってほどでもないでしょう」

 そう、わざと、手が届きそうな情報をちらつかせる。
 青年のよく知っている通り、嫌味なクソガキである。

「どうも、計画を進めたい派閥と、計画を潰したい派閥で内輪もめしてるようですよ。
 第二での事故も、潰したい連中からしたら叩くチャンスですからね。
 恐らく、組織だって計画を進めるのは、かなり難しい状況なはずです」

 しかし、だからこそ。

「それこそ、計画を一気に進められる切り札でもなければ。
 ですが、そんな無理やりに進めた計画についてくる組織人は多くはねーでしょう。
 完全に孤立とまではいかねーでしょうが、内側に入り込む隙くらいは見つかるんじゃねーですか?」

 実際に、これまで『鳳凰』が無事だったのが証拠になる。
 恐らく方舟(アーク)内での方針でもめているのだろう。
 そしてコレだけ長い時間、監視だけで留まっているという事は――大多数は計画に懐疑的であるという事に他ならない。
 

挟道 明臣 >  
「……さぁ、どうだか」

心の機微とか言う物が、全く分からないという程に心無いつもりは無い。
向けられている好意や善意が本物かどうかを見抜く事にも随分慣れてきたつもりでいる。
ただ、それを受け取るにはあまりにも己は狭量で。
器が小さい。というよりも誰かを受け止められる程の敷地が残っていない。
あった筈の領域ごと、亡くした誰かと一緒に落っことして来たみたいに、
踏み出せるほどの足の踏み場が、もう残されていないのだ。

「だろうな……研究者だとか科学者が見逃せる逸材じゃねぇんだろうし。
 あの手の分野はからっきしだが、そもそも真っ当に掻き集められる素材じゃあそこまでにはならないんだろ」

適正という物が誰にでも多少なりともあるものだとしても、
それは砂の海から一粒のダイヤを探すような物になる。
なまじ適正がある人間だろうと、無茶をすればどうなるかはあそこで水卜が成った物を見ればわかる。

「星護有瑠華」

復唱。
ポーラ・スーという名前は知らなかったが、その名には覚えがあった。
会ったことがあるとは言わないが、その断片を見た事がある。
心臓、アルカディアの星核としての姿を。

「んで、このポーラってのはいつからこんな重篤状態なんだ。
 此処まできな臭いと病状がどうとかって問題じゃねぇ、何が契機になったか、だ」

大写しにしてスライドしていくカルテは、おおよそ完治は絶望的。
機械に生かされていると言っても差し支えない状態だが、寧ろ問題はそれがホシノモリアルカであるなら、だ。
この少女や主治医にも明かしていないあの心臓と、この肉体はどう繋がって来る。

「そりゃ、揉めもするだろうさ。
 行ってみてわかったが、方舟って組織自体の組織系統と人間の使い方が無茶苦茶だからな。
 パンジーだって渡された花の種が別種だったらガキでも怒るぞ」

しかし、両極に分かれているというのは意外ではあった。
潰したい連中って言う奴らがいるのは『星の鍵』を作った連中の意思を継いだ奴らがいたという訳か。

「実際第二でここまでやらかしたからにはデカい動きを取りづらいってのはあるんだろうが……」

だったら、だ。
目下の一番の危険にさらされているのは鳴火として、次点はポーラ・スー(ホシノモリアルカ)
ただ、急進派にとって第二から回収し損ねた一番の痛手は星核(心臓)なのだろう。
アレがアルカディアそのものでないにせよ、代用が利く物でも無いだろう。

「隙……な。
 尻尾切りの鼬ごっこになるだけだし、先手を打って殴りかかるってのは論外なんだが━━」

このまま襲われるまで見ておくという訳にもいかないか。

神樹椎苗 >  
「――まったく、世話が焼けますね」

 そう言いながら、軽く肩を竦めた。

「『霊亀』が大量失血によって危篤状態になったのは、九月の十九日。
 突然、少量の血を吐いて(・・・・・・・・)倒れたそうです。
 タイミングとしては、非常に胡散臭いところですが」

 第二方舟での事故と、直接結びつけるには少しばかり『ズレ』があるのが気になるが。
 無関係と切り捨てるには、絶妙なタイミングと言えるだろう。
 そして、目撃された症状と、病院で精査された症状の差。
 さらに言うなら。

「表向きのカルテには書いてねーですが。
 どうやらその『霊亀』には、心臓が無いらしいですよ。
 そのせいで、原因も分からずじまいだとか」

 小さなバッグから名刺ケースを取り出して、一枚を青年に向けて投げる。
 そこには、医療施設で救命医療をしている人間の名前が書かれていた。

「――接待ってのも、無駄にならねえもんです。
 人の口には戸が立てられねーですからね」

 自分の胸元を、とんとんと叩く。

「そんなにひでーもんだったんですか。
 となると、計画の推進派にとっちゃ、次にいつ動くか、慎重にならざるをえねぇんでしょうね。
 ただそれは、その動いたタイミングこそ尻尾を掴むチャンスとも言えます」

 先手を打つのは論外、という青年に腕を組みつつ眉をしかめる。

「その時は、信用できる手足、もしくは頭が直接出てくる可能性がありますね。
 そこで叩ければ理想ですが」

 そのタイミングを読ませてくれるほど優しくはないだろう。
 となれば、確実なのは四六時中貼り付いてる事だが。

「――それはそれで無理でしょうね」

 肩をすくめて首を振った。

「ああ、そういえば」

 そこでふと思い出したように。

「お前が寝てる間に、あの『紅い女』と『鳳凰』が接触してましたよ。
 恐らく、何らかの情報をやり取りしたんでしょうね。
 しいにも、島の外に連絡を秘密裏に取るように『鳳凰』から依頼が着ましたし」

 恐らくは、第二方舟にいた者同士の情報交換。
 もしくは『鳳凰』の昔話を掘り返していたというところだろう。
 

挟道 明臣 >
「九月の……」

あの状態になるのに低度の喀血で済むか?
そもそも真っ当にあのカルテ通りになるなら、前兆が無いとも思えない。
直後というには日が開いているが、無関係というには無視できない。
第二方舟の事件が起こった事と水卜の暴走。
それに理由を付けるのであれば……

「代替品に置き換わってた、とかじゃあなく?
 心臓が無い状態で成り立ってたってのか」

例えばそう━━摘出された心臓と身体がリンクしていて、心臓の側に何かがあったとしたら。
物理的に切除された臓器が他の肉体に影響を及ぼす事など、まずないが。
ないが、理屈が通じない世界に合わせて思考を捻じ曲げるしかない。

「お手柄じゃんちびっこ。
 見飽きたしパンツしまって良いぞ」

とんと縁が無いが、社交界とやらは情報の零れやすい場所でもあるらしい。
言いつつ握っていた手を離して、熟考。

「ヒトの命だとか信頼だとか、そういう物を纏めてリソースって言い切るなら……
 アイツらも自分たちが動くたびにそれをどれだけ失う事かはわかってるだろうからな。
 その上で動いて来るなら━━」

末端ではなく、中核にある人物が少なくとも陣頭に立つか指揮はする。
少女の言葉と、思考が合致する。

「赤い女……あぁ、ノーフェイスか。
 ……いや、なんでアイツが出てくる」

落第街発の音楽家にして顔見知り。
底知れない実力を隠し続けている女だが、ピンポイントにこんなヤマに首を突っ込んでくる理由が無い。
見世物にしたってアイツ好みの物とは、程遠いだろう。

「……ひとまずは、アイツに会ってみるか」

何を知っているか、どの立場にいるのかも分からないが。
敵だ味方だ、という存在ではないにせよどこを向いているのかは知っておかなければならない。
鳴火自身に接触するのも考えたが、何処に目があるかが分からない以上は得策ではないだろう。
託された物があるからには、その在処と結び付けさせてはならない。

「あっちのほうは、趣味の監視カメラ鑑賞会でも再開するか……」

神樹椎苗 >  
「む、もう満足ですか?
 しいとしてはもうしばらく視姦されても構わねえんですが」

 そう言うと、残念そうに足を組みなおす。
 この身なりで無暗やたらと性欲が強いせいで、珠に疵だらけなのだが。

「臓器を肉体から物理的に切り離して保存する術は、古代から存在します。
 しいが管理してる神器にも存在していますしね。
 ただ、こと『霊亀』の状態に関しては――」

 少し考えるように間を置いて。

「――切り離して保存していた心臓から、血液を搾り取ったって所でしょうか。
 つまり、第二方舟に在っただろう、『アルカディアの心臓』から血を搾り取って何かに利用したんでしょう」

 ここで、青年は致命的な勘違いに気づくだろう。
 第二方舟に存在したのは『ホシノモリアルカの心臓』であって、『アルカディアの心臓』ではなかったのだ。
 それを、こと、情報の収集と精査、演算予測の能力に特化している、このちびっこすら、把握できていない。

「いずれにせよ、『霊亀』も『鳳凰』も、奴らにとって無価値になる事はねーですからね。
 少なくともチャンスは二回あると言えます」

 青年にとって問題があるとすれば。
 一回のチャンスを見逃す事すら、不愉快だろう事か。

「ん、あの『紅い女』も方舟にいたみてーですからね。
 最近、うちの神器を持って行ったりもしやがって、随分楽しんでるみてーですが。
 一先ず会う、ってのには同意ですね。
 間接的に『鳳凰』からの情報も聞けるでしょうし」

 会ってみるか、という言葉には同意見だった。
 ここで軽々に『鳳凰』の元に向かうと言い出したら、殴っていたところだ。

「いい趣味してますね。
 探偵業の再開ですか?」

 と、言った所で。

「ああ、そう言えばですが」

 頭の中でいくつかの回線を中継し、青年の端末へと一つの通信を繋げる。

「お前が寝てる間に、お前と話したいってヤツから何度か連絡が着てましたよ」

 その言葉通り、発信元不明の着信が、青年の端末を鳴らすだろう。