2024/11/15 のログ
ご案内:「『きぬさら線』」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
大変容より数十年。
異常が日常となった時代。
都市伝説や民話の類は、何かしらのタネがあるものとして取り扱われ、
根も葉もない噂が実をつけることもままあり、
空想という単語が当てはめられる事態は、滅法少なくなっている。
世界は激変し、鮮やかに、綺羅びやかになっているようでいて、
どこか淋しく味気ない寂寥感が秋風のように吹き抜ける心地でもあった。
「――『きぬさら線』ね」
白く大きな手には、学生手帳が。
画面に表示されているのはSNSの、シンプルなテキストログ。
作りたてのアカウントが発信している、まあ、古式ゆかしい創作話のタイトルだった。
■『みすは』 >
「きぬさら線」をご存知ですか?
調べても、島内にも、日本にも、そんな路線はないそうですね。
夜半までに講義があって、前日は朝方まで部活でした。
冬休みの旅行の費用を捻出するために、ちょっと無理をしていて。
朦朧としながら寮に帰ろうと、いつもの地下鉄の、いつもの電車に乗り込んだはずでした。
■ノーフェイス >
存在しない場所に迷い込むだとか。
電車や駅にまつわる怪談話は、世界各地、どの時代においても枚挙に暇がない。
取り決められた時刻表通りに、他者の意思でひた走る閉じられた交通機関は、
乗り過ごしや居眠りなんかで、まったく知らないところに連れて行かれることも多い。
尾鰭に背鰭までつけてしまえば、いっぱしのおはなしの出来上がり――ということ。
大変容まえからありがちなお話が、なぜ小さい規模とはいえバズったのかといえば。
この『きぬさら線』を探そう、なんてムーブメントが起こったからに他ならない。
「さいきん平和だったからねえ」
画面をスクロールしていくと、地下鉄で確かにその路線を走る電車に乗った、だとか。
落第街にあったはず、色々あって廃線になっただとか、その話題に触れてはならぬ――
わいわいと囃し立てて盛り上げようというノリは、いかにもな暇つぶしだった。
つくりばなしだと解っていてノってるやつが、きっと九割。
――。
■『みすは』 >
気がつくとすごく古い感じの車内にいて、外は真っ暗で、乗客は私ひとりだけでした。
いくらピークタイムを過ぎているからって、私以外誰も乗ってないなんてありえないのに、
ごとんごとんという音と、少し揺れている吊り革を見ていると、妙に不安になってきて。
そのとき、
『本日はきぬさら線をご利用頂き、誠にありがとうございます』
――たぶん女の人の声だったと思います。
車掌さんが乗ってるのかなって、先頭車両まで行ったんです。
あ、私が乗っていたのは、五号車でした。
■ノーフェイス >
存在しない路線。
常世渋谷には裏側がある――なんて噂もあるし。
自分もそれっぽい場所に取り込まれた経験もあるものだから、
どうでもいいものと笑い飛ばすことはするまい。
ただこの時勢だ。そんなものが確認されたら速やかに事件になるし、
早急な解明と解決が執り行われるのが、侘びしくも世の常である、が――
『本日はきぬさら線をご利用頂き、誠にありがとうございます』
女性の声で、音質の悪い車内放送が響いた。
「……フフフ。いやあ、びっくりだね」
肩を竦めて、ひとり笑う。
そう、ひとり。珍しくも、車内には自分ひとりだった。
古めかしい列車だ。電気式なのか。もしかしたらディーゼルやもしれない。
「マジで実在してたのか、『きぬさら線』」
都市伝説の類にあんまり興味のない自分が、
たまたま受信できるほど広まった情報。
いつも使っている私鉄の搭乗口をくぐったはずが、
紙芝居の背景を入れ替えたように、走行中のレトロ車両に取り込まれていた。
学生手帳は、オフラインだ。
地下鉄だろうと落第街だろうと、システム・テスラの電波を拾いそこねるなど早々あることではない。
■『みすは』 >
ところが、運転室には誰もいなくって。
自動運転もいまどき珍しくはないですけど、そういう感じじゃなかったんですよ。
私、すごく恐くなって、必死に最後尾まで走って、自分以外の誰かが乗っていないか。
情けなく声もあげてたと思います。
■ノーフェイス >
「わぉ。マジでいない」
がらり、と手引きの戸をずらして先頭車両を覗く。
古い操縦桿やら計器やらが並ぶ運転席は、見事に空っぽだ。
踵を返す。木製の床をぎしぎしと踏んで、無人の一号車から二号車――そしてもといた五号車へ。
「確か、六両編成で――」
五号車の端へ。
重厚なレバーを掴んで、扉を引く。
連結部から外へ出られないか――と思ったが、そうもいかないらしい。
「気の利かないテレビゲームがこんな感じだよな」
手を伸ばすと、掌が見えない壁に阻まれる。
列車の形をした結界だ。待っていればどこかにたどり着くかもしれないが。
駅のない円形の路線をずっと回っている――なんて可能性もある。
なにせ、この話にはオチがない。
ただ、奇妙な夢を見たと。その続きが見たくてしょうがないと。
投稿者の、真偽定かならぬ切実な意思を無視して、「きぬさら線」の捜索は続いている。
「――たしか、最後尾には――」
■『みすは』 >
六号車には、小さい女の子がいたんです。
見慣れない格好をしてたんですが、なんだかこう、
不思議と、この電車にぴったりだな…っていう格好をしていて。
可愛い子でした。怖がっても居ない様子で、私にこう聞いたんです。
「パパとママ、どこにいるか知らない?」
迷子になっちゃったんでしょうか。
御夫婦で職員をされている先生方もいるし、
私も迷子になっちゃったんだ、というと、その子は「そうなんだ」と言って。
駅についたら風紀委員会に電話しよう、と、女の子が泣き出さないようにどうにかなだめようとして。
いいえ、実際は私が泣き出しそうで必死だったのもあるんですが。
女の子はまっすぐ私を見て、
「わたしのなまえ、しってる?」
気がつくと、私はいつも使っている電車にいました。
うたた寝しちゃってたみたいで、うっかり寝過ごしちゃうところで。
ただの夢、かと思うんですが……慌てて帰った寮で寝ても、夢の続きがみられるわけもなくて。
あの女の子誰だったんだろう。無事にご両親に会えたんでしょうか。なんだか後味が悪いというか。
もし、「きぬさら線」が本当にあるのなら、昔なにかの事件があったとかかな…と思うんですけど。
ご存知の方、いらっしゃいますか?
ご案内:「『きぬさら線』」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「『きぬさら線』」にノーフェイスさんが現れました。
ご案内:「『きぬさら線』」に鶴博 波都さんが現れました。
■『きぬさら線』 >
――『きぬさら線』。
存在しない路線を探し、ちらほら、探検気分の駅利用者が見え始める頃。
吹けば消えるブームとて、何かが起こっては運行に差し支える。
情報の周知が事務的に行われたその日のこと。
朝のラッシュを捌き終え、業務が恙無く終わり。
回送列車は休むために車庫へ戻り、運転手は諸々の手続きを終えて運転席を立つ。
立ち上がり背を向けて降車せんとしたそのときのことだ。
瞬きひとつのうちに、列車が再び走行しだした。
否、走行していた。既に速度が出た状態で、がたん、ごとん、と規則正しいリズムが車体を響かせる。
運転車両の内装も、まるで百年以上も時代が逆行したかのように。
――そう、資料で学習するかのような、古めかしいディーゼル機関車へと様変わりしている。
乗客はもはやただひとりとしているはずもないが、同僚の乗務員の姿も、どこにもなかった。
■鶴博 波都 >
「あれ、えーと……」
何時の間にか動き出していた列車。
時間を確かめようとして学生手帳を開けば、オフラインだ。
鉄道委員である以上、列車運行中の電波状況にもそれなり理解がある。
ゆえに電波が通らないことなどそうそうない。そもそも、オフライン表示はこのようなものだっただろうか──?
「むむ……なんか変ですね。」
自分で自分でほっぺをつつく。
同僚や学友によくやられるスキンシップだが、今は古典的な夢かどうか確かめるおまじない。
当然、それで何かわかるはずもない。
「わかりません! ……とりあえず、車内をもう少し調べてみましょう。」
この不思議な状況がそれなのだろうか?
鉄道委員として日常の身にはいる存在だが、〝不思議なこと〟は何度か経験している。
それらの大半が良く分からなかったり、よく覚えていないもの。
非日常の怪異であるが、鉄道委員としては普通のこと、と思っている。
怪我らしい怪我をしていない、と言うのもあるが──。
「確か最近は、『きぬさら駅』みたいな話も周知されていましたっけ……。
一応、基本の制服じゃなくてこっちを着てきましたけれど。」
そう言いながら、着込んでいる鉄道委員向けの対穢装束に視線を向ける。
鶴博 波都は、だいたい鉄道委員向けの対穢装束か制服の二択だ。
運が良かった。
そんなことを思いながら『今の車両』を探索する。
ほんの少し、声を張り上げて。
「誰かいませんかー?」
■ノーフェイス >
張り上げられた声に、こたえる声はなかった。
運転車両には当然、同乗している者もいない。
古めかしい操縦盤が、計器の針を震わせているばかり。
ただ、こたえなかったのは声だけだ。
音。
木製の――そう、今どきの列車としてはまずない、木製の床板を踏みしめる足音。
固い靴底が軋ませる。テンポや歩幅はずいぶん大きく軽快で。
誰かいないか、という問いかけに応じたものであるのは明白だった。
ふしぎと――隣の車両に繋がる扉ののぞき窓は、曇っていて、向こう側はよく見えない。
ただ、なにかの影がそこに浮かび上がるとともに、足音は止んだ。
向こうに何かがいる。
そればかりは確かで、しかし、相手方からのアクションは今のところは、ない。
ひとつ、伺っているのか。ふたつ、開けることができないか、だ。
■鶴博 波都 >
「誰か……います?」
鶴博波都に実戦の経験はほとんどない。
だが、鉄道委員としての車両内の点検を行った経験は数知れず。
故に、誰かが居るかどうかはその経験則から分かるもの。
向こうの車両に誰かいると、ゆっくり歩く。
腰には緊急用の非致死性ゴム弾の拳銃が下げられているが、
その銃に手を掛けることなく、無手で歩いて、慎重に開こうとする。
開くのならば開けるだろう。開かないのなら、暫く力を込めてみるだろう。
■ノーフェイス >
扉は重い。開かない――というよりは、古い作りだからだろう。
それでも力を込めればするりと横にスライドし、向こう側にいた人物が露わになる。
「…………」
真っ暗闇の背景に、頼りなく繋がれた車両同士の連結部を挟んで。
おなじく、車両側のドアを開いたまま、運転席から現れたあなたをみて、
不思議そうに黄金の瞳を瞬かせているのは、あまりに目立つ貌。
この顔にピンと来たら――なんて人相書きも渡されたかもしれない、不法入島者。
会ったことがない相手も、なぜか既視感を抱く存在が。
「ハロー」
男か女か判じかねるよく通る声とともに、
どこか野生の獣めいた鋭い笑みを浮かべる。
「さっきまで、先頭車両にはだれもいなかったと思ったケド。
可愛らしいキミは……この列車の運転手さん?」
敵意の類はなく、泰然としたまま誰何してくる。
そう問うのも当然だ。だってあなたはそういう格好をしているのだもの。
■鶴博 波都 >
「んんんしょ……こらしょ……建付けと言うよりシンプルに重い……」
重たい扉を開きながら、ようやくこの列車の作りが普段の列車と違うものと意識する。
全体的に古めかしく、重厚とも軽薄とも言える洗練されてない列車。
床材は木材だし、扉も重い。計器も雰囲気も古めかしい。
「あっ! こんにちは!」
既視感を抱くから知り合いだろう、と、にこやかに挨拶を交わす。
そうしてから、そのものが指名手配犯の人格書きと類似していることに気付く。
既視感を抱かせる作用の後押しも働き、その情報はピンとくる。
「指名手配のひと……初めてみました!
罪状は……なんでしたっけ?」
警戒心を抱いていない訳ではないのだが、さらりと素直な感情を口にする。
口にしてから、はた、と、気付いて。一歩下がる。僅かな警戒。良くも悪くも素人らしい百面相。
もしかすれば、既視感が齎した友人気分が抜けていなかったのかもしれない。
そんな動きを見せた後、こほん、と、咳払いして気を取り直して質問に答える。
「えっと、わかりません。
二年生の鶴博 波都です。鉄道委員をしています。
この状況に心当たりはありますか?」
腕章を制帽を整えて、栗色の瞳で金色の瞳を見つめる。
そこには一般人の鶴博 波都ではなく、気を取り直して冷静に努めている鉄道委員の姿がある。
敵愾心のようなものはない。
指名手配犯を前にしたことなど、ないのだから。
■ノーフェイス >
「不法居住と不法占拠。その他諸々。
いちばんの罪は、出逢う者すべての心を奪ってきてしまったコトかも?
漂泊の音楽家、名乗るなら名無しとでも」
顔見知り/貌無しと伝わる者はそう名乗った。
両のてのひらを見せる――白い手は大きく、指は細く長かった。演奏者の手。
「どうぞ」
犯罪者であることをなにひとつ恥じずとも、それを誇ることもない。
扉をおさえたままで、自分の体を車両のほうに乗り入れる。
彼女の進行方向への道を開け、轟々と風の音のやかましい連結部から車内へいざなう。
「鉄道委員って……キミみたいに可愛い子も多いの?
それだったらぜひ通わせてもらいたいね。手が前に回らないならだケド――名刺ある?
いちおう確認させてほしいな。古い列車に車掌さん、セットに思えちゃうから」
ぽすり、と座席に座り、長い脚を組み。
「ん」
この状況に心当たりはあるか。
と聞かれれば、白いひとさしゆびを立てて、ちょい、と天井を指差すと。
『本日はきぬさら線をご利用頂き、誠にありがとうございます』
古いスピーカーを通して、ざらついた音質の車内放送が流れる。
女性の声だ。低く落ち着いた音。しかし、波都からすれば、どこか聞き覚えのある声かもしれない。
■鶴博 波都 >
「ミュージシャンさんなんですね。
うーん……素直に手続きして棲まないんですか?」
素朴かつ素直な疑問。どうしてそうしないのだろう。
罪状も、言っているものは大した事がない気がする。
だからこそ、真正面からノーフェイスと名乗る音楽家に尋ねた。
両手を挙げれば白く細い指に目が行く。
ホールドアップのニュアンスも察するまで時間が掛かった。
「えーと、名刺はちょっと持ってないです。
オモイカネ8ならありますけど、見ての通りで……。
……あっこの子の車掌さんではないです。」
ノーフェイスに誘われるまま、車両を移る。
状況が状況故にどう扱っていいか分からず、腹芸などをする気質でもない。
故に、すんなり会話や質問を受け入れてしまう。
名刺の代わりに、学生手帳を見せる。
オフライン上では一応の身分は提示されるか。
「この声は……ノーフェイスさん、聞き覚え有りますか?」
この声も聞き覚えがある気がする。
そういうものなのか、本当にそうなのかはあまり判別が付かない。
特異な状況に身を置かれていることだけ、理解している。
■ノーフェイス >
「探し物をしてたから、そういうわけにはいかなかった。
きちんと身分を登録して、正規の島民になっちゃうと……いろいろ都合が悪くて」
打てば響くようにして、問われたことにはするりと応えた。
とはいえ、内容はふわふわと曖昧なもの。肝心なところがぼかされている。
「まァ三年かかってやーっと見つかったから、もう別にイイんだケドさ」
組んだ脚をぷらぷら。どこか力が抜けたように肩を竦める。
うれしい発見、という風情ではない。
ぱっと表情を明るくして、改めて見上げると。
「じゃ、ボクもキミに聞いていいよな?
どうして波都は鉄道委員になったのかな、とか。
ここに来る直前、どうしてたのかなとか。あと恋人いる?
この子……、……ああ、なるほど」
とん、と床についているほうの脚が、靴底で軽くスタンプ。
列車のことか。随分と古めかしい車両である。
興味は眼の前の少女にばかり。軽口は軽口だが、声について問われると。
自分の分のオモイカネ8を取り出して、慣れた手つきで操作する。
画面を見せた。録音機能が立ち上がっている。
「……いまの放送。
真似して喋ってごらん。静かに、抑えて。普段より低く――」
できる?
そう問いたげに、黄金の視線が画面から波都へとすいと上がった。
■鶴博 波都 >
「そういうもの、なんですね。」
ごまかしはあれど嘘はついていないだろう。
ただ、色々な含みのある言葉を表現するセンスを鶴博 波都はもってなかった。
ありのままの証言を受け容れ、納得する。
独特な音楽家さんなのかな? 何て思考の択も過る。
一旦、自分もノーフェイスの隣に座る事にした。
「始めは『適正』ありきで、出来そうな所に入りましたけど……
いまはわかりやすく、みんなのためになるところです。
快適なインフラは、むずかしい話を抜きにみんなの役に立つ気がして。」
なった理由は適正ありき。
その運用が鉄道委員として、列車の運転などにあてがわれたのは本人の気質と時の運。
会話の最中で察した素振りが見えた。
列車が揺れる音に、木を叩く音が響く。
録音機能が立ち上がっている、オモイカネ8を見れば……。
暫し困った素振りで、考えを巡らせる。
「ヘンなことには使わないでくださいね。
あと、私は鉄道委員なので、なんとかなったら鉄道公安局に引き渡す義務があります。」
そのまま受け入れたい所だったが、
少し前に無警戒すぎることを指摘されたばかり。
「そして、3年間も捕まらなかった人を、どうにかできる気はしません。
だけど信用しますから、お願いしますね。それでは……」
金色の視線から目をそらさない。
小動物のような虚勢を張ってから指示通りに放送を真似る。
『本日はきぬさら線をご利用頂き、誠にありがとうございます』
声の主がどういうものであれ、線路名以外は何度も口にした言葉。
要求に寸分違わず、静かに、抑えて。普段より低く――当たり前のように音色を口にする。
鉄道委員としての業務を日常の一つとして遂行する彼女にとって、
最早間違える事のない、当然なアナウンス。
ノーフェイスの要求通りに喋ってみたが、結果はどうなるか。
■ノーフェイス >
「そう。そういうもの。
非効率で遠回りなようでも、ボクがどう生きていくかのうえでは欠かせない選択だった。
妥協はしたくなかったし、その哲学を徹せる能力と運がボクにはあった」
ライフスタイルの意識的な選択に過ぎないよ、と。
それは他者への悪影響を考えていない、我の徒の言葉ではあるけれど。
少なくとも、まあ、変わり者の部類にいる人間ではあるらしい。
「あァ、学校側がいろいろ教えてくれるんだっけ」
適正、という言葉を経て、少し興味がそそられたようだ。
「気がする――というより事実だよ、ソレは。
現にボクも……まァ使うのは私鉄ばっかりだケド」
公営は特にセキュリティが厳しいので。
「ヘンなコトってなあに?夜毎に再生してキミを思い浮かべたり?
――フフフ。キミの管轄車両じゃないんだろ?きぬさら線上でも義務は発生するの。
まァ、その話はどうにかなったら、だな」
録音が終了すると、少し沈黙。
そののち――車内放送が流れ始める前兆の、プツッ、というスピーカーがオンになる音に合わせて再生を押す。
『『本日はきぬさら線をご利用頂き、誠にありがとうございます』』
音質や若干のテンポの違いはあれど。
音が、重なる――同じ声。
「キミと同じ声。――最初からそうだった気がする。
いちど聞いた声色はまず忘れないんだケド、ちょっと妙だね。
……『適正』って言ったよな。キミはなにが出来るんだ?」
立ち上がり、こっち、と後部車両への道を示す。
なにかあてがあるらしく、重たい扉を開けて、客室へと足を進めた。
■鶴博 波都 >
「折り合いが付かないものは、しょうがないのでしょうか。」
眉を下げて、悲しそうな顔。
確たる哲学と矜持のもと、敢えてそうしている不法侵入者と話したことはこれが初めて。
目の前にいる不法滞在者が、常世島の秩序機構とは相いれないことを受け留めきれていない。
鉄道委員としては、立ち向かわなければいけないもの。
恐怖や哀しみや義務感、普遍的な少女の倫理観が入り混じった昏い感情を顔に出す。
「はい。ちゃんと調べて教えて貰ったものです。
私は、常世学園にお世話になっている身ですから。」
自力では知り得なかった適正。
異能の開花の有無や性質。
鶴博 波都は、常世学園の恩恵を受けている側の少女だ。
「む、むう……だって、分からないですから。
念のためです、念のためっ!」
からかいの言葉で気を取り直したのか、頬を膨らましてわざとらしく反発してみせる。
会ったことがない相手なのに、なぜか既視感を抱く作用がポジティブに働き、
彼女の距離感を縮めているのだろうか。
そして、録音から再生された自分の声はアナウンスと同じ様になる。
鶴博 波都は、不思議そうに首を傾げるも──。
「? 同じですね。そう言う風にしたからそうなる……
……あっ!何故かアナウンスが私なんですね! 扉も開きましたし、行きましょう!」
そういう風にしたのだからそうなるだろう。
それだけ当然のものであったが故に、反応が遅れる。
「適正の方は、全兵科適性才能。と呼んでいました。
機械や兵器、操縦物全般への適正らしいですね。私が色んな子……
列車や乗り物を操縦出来るのは、先天的な才能みたいです。」
定義された名称と効果は、物々しいもの。
それらが良く分からないから、日常における運転へと活かす事にした。
そんなことを付け加えながら、次の車両へと向かう。
■ノーフェイス >
「……『きぬさら駅』の原文。
みすは、ってアカウントが投稿した、まァたぶん創作の、夢日記においては。
アナウンスは女性の声だと明記されてた。
女性車掌がちょうどいい配役だったんだろう。
キミがくるまえは、どんな声で語ってたか、不思議と思い出せない。
この声、だった気がする――ちょっと気持ち悪いね」
そういうことになった、という環境的な作用が見える。
かなりルールが曖昧な空間だ。
古めかしい客室。座席はすべて空席だ。誰もいない。
ゆらゆらと吊り革が揺れていて、歩くたびにぎしぎしと音を立てる。
「ボクはキミと対面する10分くらい前まで学生街の私鉄駅にいた。
夢日記と同じ、ドアを潜った瞬間に転移させられてた――
――確認するけど、キミが来たのはxxxx年の11月15日、時刻は――で、合ってる?」
大凡の終業時間、定刻通り。何時ものように退車する時刻であるはず。
自分の顔を識っているということはおそらく別の世界から来た二人ではないはずだと。
状況の確認を行う。
「それ、異能じゃなくて?……ああ、伸びしろがあるって感じか。
この島だと、喧嘩に使いたがるヤツが多そうな――羨まれそうな才能だね。
そこで、キミは出来そうな鉄道委員を選んで。
いまはこうして人々の暮らしを助ける仕事に、やりがいを見出している――」
ぎ、ぎ、と一号車から、二号車。
何も変わらない。
「――でも、折り合いをつけたいの?
お仕事とはすこしはずれたコトだよな。ボクをどうしたいんだ?」
人々の暮らしの邪魔になり得る存在だからか。そうすることで人々の為になるからか。
前を向いたまま、軽い調子で。
さっき、哀しげな顔を見せたことを、いまになって問うた。
■鶴博 波都 >
「『きぬさら駅』。確か、鉄道委員でも注意勧告があった気がします。
……うーん、そういうものなんですね。怪異とか夢日記とか、いろいろ不思議です。」
あるがままに受け入れる。
違和感は覚えれど、それを嫌悪感と受け容れなかったらしい。
不思議を不思議の大枠のまま受け留めた。
「誰もいない、旧い座席……ぁ、はい。合っていると思います。
いつも通りに業務を終わらせているなら、そうなるはずですから。」
時刻と状況のすり合わせ。
今更感もあるが、整合が取れていることを確認。
「はい。そんな感じで今まで過ごしていました。
言う通り、才能の部類みたいです。とりあえず、大体の子は動かせます。
感覚が先に来て、後で振り返って言語化する……って続けていたら運転が凄く上手くなりました!」
何だかんだで自分の才能。
振り返りながら語る彼女は何処か得意げ。
「喧嘩に使うことは、最近まで考えもしなかったです。
異能の方も最近発現しましたけど、持て余しちゃってます。」
そんな彼女にとっての日々の悩みを呟きながら、すいすいと進んで行く。
特に問題がなければ、車両を移りながら話を続けていく。
「どうにもできないです。流れに身を任せるしかありません。」
どうしたいか、と、問われるとすんなりと答えを返す。
「鉄道委員としては公安局に引き渡したり夢日記?の参考人にするべきだと思います。
でもそもそもこの状況で戻らないといけないですから、流れに身を任せるしかありません。」
ネガティブな感情を抱けば、視線を落とす。
結局のところ、手に負える相手ではないと言う認識なのだろう。
「『きぬさら駅』のことは良く分からないので、とりあえずこのまま進んで行こうと思います。
危なくなったり、するべきことを知ってたら教えてくださいね。どうにか戻るのが第一ですから。」
とは言え、完全にノーフェイスに頼り切るつもりはないらしい。
先ほどよりも警戒の色は強く、明らかに気を張っている事が見て取れる。
■ノーフェイス >
「ひとつずつ。
できないコトができるようになったり、新しいコトを覚えたトキの感覚、イイよな。
階段をひとつのぼって、新しい段をしっかりと踏みしめたような……達成感がある」
得意げな様子には、にひ、と子供っぽく笑って同意を示す。
「才能ってのは自分で気づいて、使いこなさなきゃ意味がない。
というよりも、そうやって自己証明を成してはじめて才能になるというか――
あるだけじゃダメだし、もし理想の実現を阻むなら、それは単なる呪いか枷だ」
そういう時代だった。異能といった、わかりやすい才能が可視化される。
当然、そのなかで"ない者"も、当たり前にいる。
「波都はスゴいヒトなんだね」
優れた才能をもって、ひとかどの運転手として己の存在を証明している。
それができぬ者も、届かぬ者も多いなかで。評価の声はまっすぐだ。
三号車も、変わらない。四号車も、静かなものだ。
「――ボクをどうにかしたい、と思っていて、でもどうにもできない?
それはどうして?キミが役に立ちたいと考えてる、多くの島民のため?
……なにが足りない。暴力?情報?」
流れに身を任せる、という言葉には、少し引っかかるものがあったらしく。
五号車に入ると、立ち止まった。
まだ後部に車両はある。
「六両編成。あの扉の先が最後。
『きぬさら線』は、投稿者が列車の座席で寝オチして――変な夢を見た。
そういう筋書き。
この、『架空の路線』を走る、古い電車にいつのまにかいて。
あのむこうに、小さい女の子がいて。
両親の所在と自分の名前をきいてくるんだ……ってさ」
行く?と問いたげに、久方に視線を向けた。
■鶴博 波都 >
「そう。それです! 振り返ってみると一個階段を登ってて、嬉しくなります。
私は鉄道委員を楽しみながら従事し続けられたから、とても運転が上手くなったと思います。」
共感を覚えるものがあったことが嬉しいのは、無垢な笑顔を返す。
共感できるものが多ければ多い程、自分の心の中の隔意は減る。
「その辺りは、あんまり考えたこともありませんでした。
才能や異能に苦しむ人は……呪い……。
そうなることもあるんですね。振り返って、初めて意識しました。」
幾らかの人の顔が浮かぶ。
ここ最近、才能や異能、と言うものに向き合う機会や話題が多かった。
自分にとって当たり前のものだったり、無自覚だったりする力。
それらに悩みを持つものと、話し込んだ記憶がある。
非異能であることを気にしながら、才能でカバーする風紀委員。
才能として格闘技に従じ、最終的に才能によって愛弟子に負けた保険の先生。
他にも後輩や同僚と、色々な話をした気がする。
「何が足りないんでしょう。
暴力や情報も、あるかもしれませんが……
実際のところ、イメージができないんです。」
自分がこの音楽家を捕縛する光景が想像できない。
だから流れに身を任せるしかないし、踏み込み切れない。
古風で不思議な怪列車は、このような状況で無ければ風情のあったものかもしれない。
ただ、夢日記を起点とする特異的な状況と、指名手配犯と一緒であるため雰囲気を堪能する余裕は少ししかない。
逆に言うと、少しだけある。
そうして、6号車の手前、最後の扉の前までたどり着く。
歩いている間に、考えが纏まったらしい。
「暴力も情報も足りないけど、決断力と……余裕、でしょうか。」
「あと、私はスゴい人って気はあんまりしないです。
でも、ありがとうございます。謙遜しすぎも良くないですから、素直に受け取っちゃいます。」
言葉には出さないが、歩く度に生じる木板が軋む音。
潤滑さがすり減った重厚なドア。
車両間で響く風の音。今ではお目に掛かれない古風や列車内。
なんとなく、"怖いものじゃなかったら素敵なのに。"
そんな気持ちを抱いていた。
「そしてそのイメージを考えるよりは、音楽家さんと脱出したい……と私は思います。
音楽家さんに絆された訳じゃないですけれど……犠牲者はない方がいいです。」
自分だけ助かろうと言うイメージは描いていない。
偽善のようにも、合理のようにも思える。
「だから、どうにもできません。……ううん。しません。
それよりもイメージするべきものがあって、一人より二人の方が効率は良いです。」
最期の扉を見据える。『きぬさら線』は夢オチで、
ラストも不思議な少女が両親の所在と自分の名前を住所を聞いてくるらしい。
与えられた情報を呑み込み、安堵する。
「準備が出来ましたから、私が開きますね。
音楽家さんの方がずっと強くてスゴくても怖くても、
車内点検は私の……鉄道委員のお仕事ですから。」
アイコンタクトを受ければ言葉で返した後、頷く。
二人で行くことを確かめた後、最後の扉を開く──。
■ノーフェイス >
「なにかを成せるヒト、成し遂げられたヒト。
自覚して研鑽した能力を発揮し、社会に承認され、評価されている。
……ボクから視て、キミはスゴいヒトの範疇」
言い返せば。
それができない人間も、大勢いるから。
足りなかったのは、才能か、努力か。
「おたがい脱出しなきゃ電車内でアダムとイヴだしね。
より明確に思い描ける、優先順位の高いコトをまずは片付けよう。
……まァ、キミとだったら悪かないとは思うケド。予行演習しとく?」
くっくっ、と肩を震わせた。余裕がある。虚勢か、本気かはいざ知らず。
そして目的はひとまず合致している。であれば、捕らえる必要性は――いまのところは、ない。
無論、鉄道委の義務である。社会に反する存在であり、害でもあろうが。
「…………。
このまんまだって、心は通って、たのしいコトはできるんじゃないかな」
それがイメージの妨げになっているのではないかと。
小さく、静かに。しかし、その歌はあまりにはっきりと――
扉が開く。
「列車内では鉄道委員が神様かも」
肩を竦めて、隣の車両へ。
■少女 >
――拍子抜けするほど。
そこは、他の車両といっしょだ。
ただひとり、そこに。
この車両に、世界観に、時代観に。
とても似つかわしい、古風な着物を着た――そうだ。
資料に書いてあった、当時の搭乗風景にも書いてあったような。
お人形さんのような少女が、ぱたぱたと暇そうに足を揺らしていた。
すこし遅れて、気付いたらしい。
あまり愛想はなくとも整った顔が、きょろりと二人のほうを向く。
視線は、まず鉄道委員の少女に。
次に、音楽家に――そして、鉄道委員の少女に再び戻って。
首を傾いだ。「誰?」そう問うように。
■鶴博 波都 >
「神様はお客様です。きっと。」
明確な賛辞には素直には頷いて。
情事の色のある冗句には困惑気味に首を振った。
維持を示唆する呟きには理解に悩む素振りを見せた。
開いた先、他の車両と変わらぬ車両。
そこに佇むのは、古風な少女。人形のような綺麗さだ。
ばっちりとその存在を認めてから視線を合わせて、こう答える。
「わたしは鉄道委員の鶴博波都です。
お嬢さんは、どこに行くんですか?」
自然に名乗り、不思議と行先を尋ねていた。
共に歩いていた、指名手配の音楽家の方はどう応えるか──視線を移す。
■少女 >
ああ、そのコは――
そう音楽家がなにかを言い添えようとしたところで。
「わかんない」
着物の少女はただ、鉄道委員に対して首を横に振った。
ほんとうに、幼い。年の頃であれば、十にも満たぬ。
それこそひとりで列車に乗るということはそうそうないだろう。
「……パパとママは?」
表情は薄いままだ。
対等な目線。鉄道委員としての模範を示すような姿に対しては、しかし。
どこか縋るような文言に聴こえたかもしれない。
■ノーフェイス >
「……喋れるんだ」
へえ、と不可思議な感嘆を示している。
音楽家は腕を組んで、扉横の席に座っていた。
視線に対してはひらひらと手を振って、鉄道委員に任せる構え。
――既に接触を図った後、であるらしく。
少女と対話する意思は、いまのところないらしい。
そして――夢から醒めない。
物語は完結せず、脱出の道筋は、ぱたりと途絶えてしまった。
夢オチで終わるなら。
最初に運転席で、頬を引っ張った時点で、あるいは終わる筈なのだから。
■鶴博 波都 >
「うーん……。」
思案する。
どう答えるべきなのか。夢はまだ続いている。
音楽家──ノーフェイスが手を振って委任した素振りを見せれば、
少しの間考え込んで、思考を纏めてから口を開く。
(決して過去と未来が一方通行、と言う訳ではないけれど──)
「パパとママなら、次の駅で会えますよ。」
「私とこの音楽家さんは、次の次の駅で降ります。」
先ほど呟かれた、『列車内では鉄道委員が神様かも』と言うフレーズ。
本当にそうかは分からないけれど、もしそうならば──。
「ちょっと、運転席に行ってきますね。お嬢さん、音楽家さん。
大丈夫。わたしが、ちゃんとみんなを目的地に送り届けます。」
オチはそういうイメージであってほしい。
陳腐で簡単な結末だけれど、私がそれが良い。
「と言う訳で行ってきます。音楽家さん。」
そう思いながら先頭車両へ進む。;
古めかしい操縦盤が動き、計器の針が確かに揺れていることを確かめれる。
(だから、同じ声だったのかもしれませんね。)
しばらくすると、車内放送が流れ始める前兆の、プツッ、というスピーカーがオンになる音が響く。
スピーカーから流れるアナウンスは低く静かに抑えながらも、
眠るものを優しく揺り起こすように、告げる。
■鶴博 波都 >
『本日はきぬさら線をご利用頂き、誠にありがとうございます。』
■ノーフェイス >
――停車。
丁寧で、なんとも見事な運転だった。
金切り声のような音が立ってしまうのは仕方がない。古い列車なんだもの。
立ち上がって、手開きの扉を開いてやると、
少女は迎えに来た両親のもとに、当たり前のように降りた。
頭を下げる夫妻と、手を振る少女の幻像を見送る。
「…………家族といっしょの、ハッピーエンドか」
すこしだけ。どこか羨むように少女の背を見送りながらも――
迎えにきた両親は、影絵のように人相を識別できない存在だった。
当然だ。
少女には、両親などいない。過去もなければ未来もなかった。
島にいるどこかの誰かが、手慰みに書いた、既存の都市伝説のパッチワーク。
その種が、複数の知性、きぬさら線をさがすムーブメントという土壌と交わり、
――怪異を、命を育むようにしてつくりだした、
作者に産んだ自覚もない、産みっぱなしの私生児。
「波都には、あのコが日本人に視えていたのかな。
……てことは、列車も……?」
音楽家には、果たして。
――祖国の古めかしいディーゼル車の内装と。
美しい金髪をした、碧眼の少女が視えていた。
視るものに依存した、儚い、一つのいのちを見送った。
自分だったら残酷にも、たしかに事実を伝えて、どうするか選ばせたろう。
ではもし誰も訪れなかったらどうなっただろうか。
知らない場所へ向かう列車、知らない孤独な少女。
ふとしたことでそんな環境に迷い込んでしまう、誰か。
そこに、集合意識が非日常を求めてしまうなら。
きっと、ハッピーエンドにはならなかったはずだ。
歪み、狂わせ、手垢に塗れさせた、紋切り型の怪談話へ。
■ノーフェイス >
―――。
「きちんと帰れたみたいだよ。
今回は……どうすればいいのか、はっきり思い描けたかな?」
運転車両に戻ってきた音楽家は、そう言うと座れそうなところに座した。
少女からは御礼も何もなかった。だって、列車は平常運行なのだから。
余計なことは告げないまま、脚を組み組み。
「さっき、キミは言ったな。
そうなることもあるのかと。
かんたんだ。キミの能力を見出したものが、選択の余地を与えなければ。
キミを殺戮兵器にだって仕立てることができるだろう」
いくらでも、いくらでも。
そっちも上手くなり得るのなら、それは呪わしい宿業になる。
「やりたいこと、なりたいもの。……理想の自分。
それを実現し、証明しようとする活動。
ボクはそれに人生を捧げている――それができてるから、きっと運が良い」
階段をひとつひとつ上がるように。
それを行う環境に、表も裏も関係はない。そこに自分を置いていない。
「さて、運転手さん。
ボクとキミは次の駅で降りるみたいだケド――
ふたりのエンディングは、逮捕劇で終わるのかな?」
冗談めかして、そんな話を。
否でも是でも関係なかった。流れる侭だ。ひとり、無事に送り出した鉄道員の決断に従おう。
■鶴博 波都 >
「はい。この子のおかげで、思い描けました。送り届けます。
そのことについては、そうですね──宿題にさせてください。」
そうして、夢の一つは終わる。
お互いに目覚める場所が違う事は予見していた。
逮捕劇のために運行ではなかった。
車掌として送り届ける為の運行、宿題として一つの課題を残したままにする。
それはそれとして、二人を現実へと届けるだろう──。
ご案内:「『きぬさら線』」から鶴博 波都さんが去りました。
ご案内:「『きぬさら線』」からノーフェイスさんが去りました。