2025/07/08 のログ
ご案内:「作刀部活「韴霊」工房」に御津羽 つるぎさんが現れました。
■御津羽 つるぎ > 研がれ磨かれ、姿をあらわす。
陽光に照らすその刀。刀の定義を揺さぶる異形。
ほんの小さな短剣、あるいは飛刀。
呪術式の天窓から注ぐ陽光に透かす。
火を扱っていない時は、こうして地下深くに光を取り込む。
果たして光を照り返す《聖蛇》は、その重さと尺をほんの少し痩せさせながらも…
往年の冴えと浄の気を取り戻し、蘇っていた。
十五本のうちの、十一本目。
ただでさえ尋常でない形状の刀の、それも修繕。
単純試算で通常の十五倍である作業を更に困難たらしめている、奇剣の始末。
請け負った仕事の出来栄えをしばらく確認して…長い息を吐いた。
■御津羽 つるぎ > 「いま何月なんでしょうねえ…」
あれからしばらく作業に没頭した。《聖蛇》の科学的、及び呪術的解析を経て、
修繕という仕事にかかってほぼ休みなく、四分の三あまりの工程を終えた。
刀の修繕は、非効率で非現実的なもの。
曲がって、毀れて、折れたなら、新しいものを仕入れたほうがよほど安く上がる。
日本古来の鍛錬は複雑で繊細だった。
だから買い替えを提案したものの…それとは別に、誂え物だから蘇らせて欲しいと。
一本分の金額と、剣士としての姿を引き換えに引き受けた。
それとは別に…この《聖蛇》から学びを得ることが出来るかもしれない。
そんな興味で始めた仕事が、もう四分の三終わった。
■御津羽 つるぎ > とても心の籠もった剣だ。
誰かのために鍛えられた、精魂の尽くされた品だ。
この労苦に多額を引き換えたわけではなく、譲り渡されたものだというのだから。
暁なる刀工はどれほど青霧在に、あるいは彼女が剣を譲った者すべてに、
強い情を抱いて、この魂の精髄を分けたのだろう?
そうすることが彼女にとって大事なものなのかもしれぬ。
戦う者の無事を祈り、守るために作刀しているのかもしれぬ。
その人柄が刀に、単なる凶器以外の意味を与えたのか…?
「だけれど、毀れてしまった」
だから…暁を頼ることは自分にもできない。
丹念に乾かした刀を、専用の鞘に休め、瓶の水を煽った。
湯浴みと洗濯が必要だ。もう夏になっているのかもしれない。
■御津羽 つるぎ > 自分のための剣。
自分だけの剣。
そして、自分にとっての佳い剣。
遠い遠い夢を見るようにして天窓のむこうの太陽を眺める。
だが…どれだけ非現実なことだって、考えるだけで胸が高鳴る。
苦しいことも辛い思いもするが、それを仕上げた瞬間を。
その先にことを考えるだけでいくらだって頑張れる。
どんなことだってやれる気がしてくる。
「明日からも、頑張りましょう…!」
十五を磨き抜いた先に得られる確かなものなどなにひとつないが。
無駄ではないはず。この道筋に嘘はないはず。必ず自分の剣に続いているはず。
だから、《韴霊》からは槌の音が響き続ける。
ご案内:「作刀部活「韴霊」工房」から御津羽 つるぎさんが去りました。