2026/02/23 のログ
ご案内:「とある古本屋の居住部分にて」にシャンティさんが現れました。
ご案内:「とある古本屋の居住部分にて」に杉本久遠さんが現れました。
杉本久遠 >  
「――ぐわぁぁぁっ!」

 静かな部屋に、まるで三下のやられ役のような悲鳴があがった。
 両手で頭を抱え、机の上に突っ伏す、無駄に体格だけはいい男。
 杉本久遠は、幾つも広げられた参考書に震えながら手を伸ばした。

「も、もしかしたら、採点ミスかもしれん!
 もう一度見直しをしなければッ」

 月は二月、季節は年度末。
 多くの学生を悩ませる期末試験であり、久遠にとっては卒業試験も兼ねる、大事な試験である。
 素行はよく、部活動でも成績を残し、ボランティアや各委員会の手伝いと幅広く活動していた分、多くの項目はすでに免除されているのだが。

「は、半分にも届かない、そう言うものなのか――!?」

 それでも当然、卒試となれば最低限の必修科目があり、教員を目指すとなれば、更に必須項目が増える。
 とはいえ、久遠が受ける各種試験の合格ラインは、各科目六割。
 そこまで高いハードルではない、はずだった。

「合格点なのは、運動、解剖、生物、生理、数学、物理――」

 ぶつぶつと呟く声は、一般的には苦しむ学生が多い部類の科目を並べる。
 幸いなのかどうか、これらの科目に関しては成績が良かったのだが。
 文系科目を中心に、ほとんどの科目の模擬試験にて、五割以下の点数なのだ。
 これまでの進級をほぼ、試験ではなく社会貢献で通してきたツケが、ついに回って来たらしい。
 

シャンティ > ゆるく、サリーを体に巻き付けた女はしばらく黙って男の様子を見ていた。
この部屋の主である。

「あら、あら……」

くすくすと笑う。
眼の前の男の一喜一憂を面白がるような、そんな笑い。

女自身も試験を目の前にしているが、こと座学については完璧に近い。
みたものを全て記憶できるのだから、当然ではある。

「ざぁ、ん……ねん……採点、は……絶対……よぉ……?」

そして、きちんと追い打ちをかける。
一字一句全てを読み取り、想定される採点まで再現していた。
おそらく、同じ問題を教員に採点させればほぼ同じ点数になるはずである。

「ふふ……で、もぉ……この辺、は……できて、るの、よねぇ……?
 」

机に突っ伏した男の隣に座り込んで、合格点に達した科目を一つ一つ指差し確認する。
一般的には苦手とする学生が多いことを考えれば、まだマシなのかもしれない。

「それ、でぇ……どう……する、の……か、しらぁ……?」

くすくす、と今度は顔を覗き込んで笑う。

杉本久遠 >  
「むぅぅ。
 そのだな、一つ根本的な問いなんだが」

 ぐったりと、疲れた様子で婚約者を見つめ返し。
 やっぱり綺麗だなあ、なんて現実逃避しそうになるが。

「なあ、勉強ってどうやったらいいんだ?」

 試験直前に訊くような事ではなかった。

「いやなんと言ったらいいか。
 試験勉強らしい試験勉強なんて、やったことがないんだ。
 恥ずかしい話だが、なにから始めればいいかもわからん」

 などと、自宅で勉強しようとしてた久遠は、随分と参ったらしい。
 あんまりだったものだから、彼女の元に逃げ込んできた――もとい、試験勉強を見て貰いに来た、ということだ。
 彼女と一緒なら多少は頑張れるかと思った久遠だったが、やはり苦しい物は苦しいらしい。
 

シャンティ > 男から、身も蓋もない質問が飛んでくる。
根本的、という本人の言の通りであり、今更の内容でもあった。

「んー……そう、ねぇ……」

それでも、人差し指を、色素の薄い唇に当てて考える。
"自身のやり方"は人には使えない。
ノートでも参考書でも全て覚えてじっくり理解する、など無法の領域なのはわかっている。

「時間、が……あれ、ばぁ……分析、理解……再現……なの、だろう、けれ、どぉ……」

一つ一つのことを分析して、それを理解して、改めて解答という形で再現する。
理想の学習というのは、そうあるものだろう。
問題は、今が試験直前であることだろう。当然のことながら時間の猶予がない。
女は考える。

「今、から……だ、とぉ……いわゆ、る……ヤマを、張って……覚え、る……と、か?
 ふふ……カンニング、ペーパー……は、オススメ、しな、い……わ、ねぇ」

カンニングなら、その気になれば男の異能で別の方法で可能かもしれない。
もっとも、本人の性格からして採用はしないだろう。
仮に採用しても露呈する可能性は高い。

「要点、を……まと、める……の、も……いい、けれ、どぉ……科目、次第……か、しら……ねぇ」

小さく、首を傾げて見せる。

「それ、に……して、もぉ……運動、は……とも、かくぅ……数学、とかは……でき、る……のに……なに、が……駄目、なの……か、しらぁ……?」

杉本久遠 >  
「ヤマか、聞いた事はある」

 この男、試験に対する認識レベルが低すぎるかもしれない。

「物理はスポーツ、エアースイムにも直結する知識だったからなあ。
 それで、物理を理解するには数学が必要だったから、自然と覚えたというか。
 計算して、『こうしたら早くなるんじゃないか?』と思ったことを実践してるうちに覚えた、というか」

 ようするに、エアースイムに繋がる科目に関しては、特別に勉強しないでも知識として身についているらしい。
 つまり、エアースイムに直接繋がっていなかった科目こそ、壊滅的なのだろう。

「うーん――特に、地歴、公民、国語でも古文なんかはさっぱりだ。
 語学もわからん。
 英語が並んでるのを見るだけで眩暈がしそうになる」

 などと言いつつ、こめかみを抑えた。

「一般教養、ってやけに範囲が広くないか?
 ほんとにこれ、一般的なものなのか?
 それに教職教養?
 理念?
 関係法規もやけに多くないか?
 これ、全部覚えなくちゃだめなのか?」

 こういう時に、無駄に真面目で不器用な、妹曰くおバカさんは、1~10まで全部覚えようとしてしまうのである。
 要点を抑える、ヤマを張って覚える、過去問から定型になっている所だけ抑える、といったやり方が思いつかないのだった。
 

シャンティ > 「そう、ねぇ……」

あまりにも生真面目である。この男の特徴とも言える部分であるので、やむを得ないとも言えるが。
それをどうにか解決しながら、問題に向かわせなければならない。
女自身、別に教えることが好きというわけではない。

「ふふ……たと、えば、ぁ……記憶、を……脳、に……焼き、つけ、る……とか、は……でき、る……わ、よぉ……魔術、的、に……ね?」

だいぶ邪法に近い魔術である。勿論、副作用もあり得る。
リスクとリターンを考えればだいぶよくない方法かもしれない。

「ふふ……教養、は……教養、よ、ぉ……人、の……築き、あげ……て、きた……こと、の……集、大成……知る、こと……で、あら、ゆる……こと、に……向き、あえ、る……の、よ?ほ、ら……自分、でも……いった、で、しょう? 物理、の……ため、のぉ……数学、とか……ね?世界、は……様、々……に、結び、つい、て……いる、の……だ、ものぉ……」

くすくす、と笑う。

「だか、らぁ……理想、は……全部、覚え、る……よぉ……もち、ろん……た、だ……そう、ねぇ……考え、方は……色々、だけ、れ、どぉ……歴史、なんか、はぁ……流れ、とか……理由、で……関連、付け……たり、は……する、わ、ね」
 
そういう覚え方もある。ただ、それはあくまで余裕のある時の考え方である。

「じゃ、あ……ひと、まず……は……たと、えば……の、話。あな、たが……人に……教え、ると……し、てぇ……本、の……通り、に……読む、だけ……に、する?」

そう、問いかけた。

杉本久遠 >  
「脳に焼き付ける――ちょっと怖い話だな」

 しかし、少し興味が無いわけではなく、一瞬、『少年』の表情を見せてしまう。
 男はいくつになっても、少年ハートが忘れられないのかもしれない。

「む、むぅ?
 つまり、一通り理解すれば、それぞれの分野でもより理解が深まる、ということか?
 そう言う事なら、確かに全部覚える事が理想的だな」

 と、納得しつつも、眉根が寄って難しい顔になってしまう。
 関連付けて覚えるにしても、何がどう繋がるのかすら、ちんぷんかんぷんな久遠である。
 そんな、つい泣き言を言いそうになって居たところに、婚約者からの問いであった。

「うーん、参考書を読むだけで覚えられるなら、そもそも俺が今困ってないわけだな?
 で、参考書を読めばわかるなら、教員もいらん、皆、自習で困らないはずだ。
 なら、そうだなぁ」

 身体を起こして、ソファに寄りかかると、頭の後ろで手を組んだ。

「一回聞いて覚えられる事には限界もある。
 要点を抑えて、可能な限り簡略化して伝えると思うな。
 複雑になればなるほど、覚えるのが難しくなる。
 後は、体験が伴うように出来れば一番なんだろうが」

 座学で体験を伴わせる、って難しそうだなあ、と。
 前かがみになっていた体を伸ばすように背を伸ばす。
 血流が急に動いて、一瞬眩暈がした。
 

シャンティ > 「ふふ……ドーピング、ね……よう、する……に」

くすくす、くすくす、と無邪気なような笑顔で言う。
内容としては、だいぶ黒い内容であるにも関わらず。

「学、習……の、本質、は……それ、よぉ……? 歴史、は……な、ぜ……そう、なった、か……と、か。そう、ねぇ……たと、えばぁ……私、は……くわ、しく、ない……けれ、どぉ……泳ぎ、方、とか……変化、ある、で、しょう?なぜ、そう、だった、のか……なぜ、変えた、のか……と、か。そう、いう、のが……関連、付け……よ」

例えば、用語一つとっても由来は非常にシンプルだったりすることもそれなりにある。
化学物質の和名など、化学式をそのまま翻訳しただけだとか。法律名など、内容を反映させていたりなど。
ただ、その事実があってもそれは積み重ね。短時間ですべてを網羅は出来ない。

「ふふ……」

男の思考が漏れる言葉と、組み上がっていく回答を聞きながら女は笑う。
それから、今まで唇に当てていた人差し指を相手の眼前まで持っていった。

「そ、れ」

一音ごとに合わせて、小さく指を振る。
もう要訣にはたどり着いている。

「そ、れ……を、自分、で……やる、のが……勉強、よぉ……?これ、だって……時間、は……かか、る……けれ、どぉ……そう、ね。それ、と……体験、は……難、しい……わ、ね?人、に……よって、は……動作、とか……そう、いう、の……で、記憶、に……結び、つけ、たり……する、みた、い……だ、けれ、ど……ね」

いわゆる、書き出し式の記憶術というものである。書くという動作とともに記憶に結びつけていく。目で見るとい経験と字で書くという経験、それに紙面に書き出す行為そのものが紙の試験の疑似再現ともなる。もっとも、それが効果的かどうかは人にもよるのであるが。

「あ、ら……知恵、熱……?」

めまいの様子に気づいたのか、女はもう一度、男の顔を覗き込む。

杉本久遠 >  
「関連付け――確かにそうだな。
 スポーツ史なら覚えられるんだが、そう言う事か」

 自分の趣味や興味に繋がっているからこそ、枝葉に掛かる事、雑学的な事まで自然と覚えられてしまう。
 となれば、まずは苦手意識を乗り越えて興味を持たないといけないかもしれない。

「むっ」

 彼女の指の動きを自然と目で追ってしまう。
 こういった仕草の一つ一つが愛らしいと思ってしまうのだが、これは彼女に魅了されてるのだろうか。
 なんて、他愛のない事が頭に浮かんだ。

「ということは、今オレがするべきは、要点の整理、か?
 どこが要点になるかもわからんのだが――」

 彼女の顔が近づくと、ぅ、と一瞬息を呑んでしまう。
 数度、大きく跳ねた心臓に、やはり魅了されてそうだなあ、と顔を赤くしながら苦笑。

「あー、ああ。
 少し休憩した方がいいかもしれん」

 なんて言いながら。
 隣の彼女へと体を寄せて、そっと頭を肩へもたれさせてみる。
 あまり体重が乗らないように、背筋と腹筋で体を支えながらだが。
 一先ず頑張ったから褒めてくれ、とでも言いたそうな。
 たまには甘えさせてほしい、とでも云うような。
 

シャンティ > 「そう……もう、一つ、は……わか、り……やす、い……方、に……ひきつ、ける……ね。これ、は……気を、つけな、い……とぉ……勘、違い……で、理解……して、しまう、ことも、ある、けれ、どぉ……」

趣味や興味に繋がっているから覚えやすい。それは多くの人間がそうだろう。それであれば、自分の興味関心のあることに寄せて理解する、という方法もある。ただし、これは誤解を生むこともあるので注意が必要である。

「そう、ね……本当、は……それ、が……一、番……ね」

全てを自分だけでやるのであれば、当然自分自身で要点を整理しなければならない。これから先、学習を続けるのであればいずれにしてもそういう時が来るだろう。

「とは、いえ……緊急、だ、し……あ、ら」

そこまでいいかけたところで、男の頭が女の肩に乗ってくる。人間の頭というのは、それなりに重い。
その割にあまり重量を感じていないのは、"読み取れる"通り加減されているからだろう。
それでも、おそらくは女の薄い肉の質感は伝わるだろうか。
女は、くすくすと笑う。

「甘え、ん……坊、ねぇ……よし、よし……して、ほ、しい……の、かし、らぁ……?」

頭の乗った側とは反対の手で、男の髪を弄くる。

「動画、でも……とって、おく、か、しらぁ……」

あの可愛らしい妹に見せたら、どんな顔をするだろうか、と女は心のなかで笑う。

杉本久遠 >  
「うむ、少し甘やかされたい」

 耳が真っ赤になってるのが見られてしまうだろう。
 それでも、照れよりも、彼女と触れ合える時間が欲しかったのだ。
 つまり、頑張るための癒し、エネルギーチャージだ。

「ど、動画?
 まあ、構わんが、面白い物か?」

 誰かに見せられるとか、そんな事は一切思い浮かばない辺り、いつも通りである。

「――ああでも、そう言えば二人で写真や動画を撮ったり、なんて事もやってなかったな。
 春になったら、二人で桜でも見に行くか?
 花見とかもいいよなあ」

 なんて、すっかり気の抜けた調子で。
 いつからか、いつの間にか、彼女にだらけた自分を見せるのも、不安でなくなっていた。
 彼女の心の内がどうであれ、久遠にとっては。
 どんな自分を見せても大丈夫、と信じられる、本当に特別な女性になっていた。
 

シャンティ > 髪をいじり、頭をなでる。
まるで、子どもをあやすように。

「桜……あぁ……日本、の、風習……だった……か、しらぁ……」

男から気の抜けた声で、平和な穏当な未来が語られた。
穏やかで、何事もない、危険もない、挑戦もない

「あ、ら……腑、抜け……ちゃっ、た……か、しらぁ……?」

トーンは変わらない。いつもの気だるい声。

「一、区切……り、つい、た……か、ら?終わ、り……が、きた、か……ら?」

甘やかな穏やかな声で、言葉が重なる。

「ふふ……そう、いえ……ば、さっき……脳、に……焼き、つけ、る……話、を……した、けれ、どぉ……」

肩に頭が乗っている分、吐息が近い。

「改造……すれ、ば……脳、だ、って……肉体、だって……伸ば、せる……わ、よぉ……? 今、より、も……もっと……ずっと……すぐ、れた……あな、た……に」

囁きが聞こえる。

「私、には……でき、る……わ、よ?」

囁きが伝わる