2026/02/24 のログ
■杉本久遠 >
「む――腑抜けたように見えるか?」
そう言われると、少し困ったように自分の頬を摘まんだ。
確かに、表情は緩んでいた。
彼女に甘えて、安心と安らぎを感じていたのは間違いじゃない。
「一区切りついたのはそうだが――いや、少し休みたいのかもしれないな。
本当に平凡な、つまらない、穏やかな時間って言うのも。
君と過ごしてみたい、そう思うのも確かだからな」
それが腑抜けたというのなら、今、一時は腑抜けていたいと思うのだ。
こんな、甘く優しい声で、意地の悪い言葉を告げられる時間さえ、シアワセに感じられるのだから。
「シャンティ」
名前を呼んで、体を起こす。
今度は、甘えさせてくれた彼女を、そっと腕の中へ抱き寄せた。
「いいんだ、『そこ』にもう悔いはない。
だが、新しい夢も理想も――願いもちゃんとある。
その一つが、君との時間。
幸せに出来るかはわからんが、オレはこうしているのが、本当に幸せなんだ」
彼女の細い体から感じる、確かな温かさ。
それは、けして人形ではない、生きた人間であって、愛しい人だ。
「なあに、君を飽きさせるつもりはないさ。
贅沢な話だが――君とのこうした時間を、他の誰かに譲ってやるつもりはないからな」
そう言って、彼女の頬に手を添えて、近い距離で見つめながら照れ臭そうに。
けれど大真面目に言って笑うのだ。
■シャンティ > 「そう、ねぇ……"そこ"……はぁ……あと、で……検、証……する、と、してぇ……」
腑抜けたように見えるかどうか。それは人によるだろう。
少なくとも、本人はそうは思っていない。ただ、緩んだ顔は確かであった。
だから、心のスキマを……
「ふふ……あは、あはは……ふふ……あははははは」
抱き寄せられた腕の中で、女が笑う。
哄笑というには気だるく、甘やかな声であったが普段よりも高らかに笑った。
「ざぁ、ん……ねん……ふふ。」
いつしか笑いはいつもの忍ぶような笑いに戻っていた。
「ロボット、みた、い……に……なった、久遠、も……面白、そう……だった、けれ、どぉ……それ、なら……仕方、ない……わ、ねぇ……?」
くすくすと笑いながら、平然と口にする。
「そう……悔い、は……ない、の……ねぇ……ふふ。いつ、か……そう、なった、ら……遠慮、しな、くて……いい、わ、よぉ……?それ、と……ふふ。私……趣味、が……悪い、わ……よぉ?」
くすくす、と笑う。
「そし、て……な、ら……ふふ。夢……の、前……に、片、付け……る、もの……は、片付、け……ない、と……ね、ぇ?」
■杉本久遠 >
「その時は厭わんが――そうはならんさ。
なぁに、君の趣味がとても『イイ』事はよく知ってる。
それもひっくるめて、今は君の事が愛おしいんだ、シャンティ」
自分でも驚くくらい、あっさりと。
そんな台詞が照れもなく滑り出た。
心の底から抱いている感情だからこそか、挫折を経験して、少しは男として成長したのかもしれない。
「あー。
あぁー」
夢の前に片付けなくちゃいけない事。
そう言われて、急に情けない声が漏れた。
へにょ、と情けない顔になって、彼女の肩口に顔をうずめる。
「うぐぐ――がんばる、頑張るから、試験に間に合う勉強方、教えてくれ。
あと、ご褒美くれ」
成長したかと思えたのも束の間。
すぐに情けない、試験に負けそうな受験生に逆戻りだった。
■シャンティ > 「あら、あら……」
くすくすと笑う。
先程までのある種、堂々とした宣言とは打って変わって意気消沈してしまった男。
情けなさで言えば、気の抜けていたときより酷いかもしれない。
それでも、女は面白そうに笑った。
「なん、なら……夢、の……ため、に……必要、な……こと、よぉ……?学び、は……生き、る……もの、だ、しぃ……?」
科目に依っては将来の仕事に生きることもある。それを差し引いても、必要に応じて興味のないこと、苦手なことを学ばねばならないことも起こり得る。その時に対処できるだけの対応力は身につけて損はない。学習は、その行為自体が学びだ。
「仕方、ない……わ、ねぇ……これ、で……落第、なん、て……永遠、ちゃん、に……申し、訳……たた、ない……し?」
久遠の妹、というだけではない。"あの性質"は面白い、と思っている。だから、割と気に入っているのだった。
「今回、は……要点、を……出し、て……あげ、る……わ、ね?」
今から本人がやるには時間がなさすぎる。その点、女の脳には選択していないものも含めて全ての教科の要点が詰まっている。それを出力するだけなのだから、これ以上の時短はないだろう。
「ふふ……贅沢、ねぇ……?じゃ、あ……」
耳元に、口を寄せる。
「でき、たら……あま、ぁい、の……あ、げ、る……わ?」
■杉本久遠 >
「おおっ、すまん、本当に助かる――?」
彼女の顔が近寄ってくる。
なにかと思えば――、
「ばっ、な、ななな――!?」
ぼん、と音でもなったかのように、頭に血が上って、顔が真っ赤に染まる。
心臓が激しく脈打つと同時に、脳裏には、あれやらこれやら、様々な煩悩が浮かんでは消えずに意識を圧迫していく。
こればっかりは仕方ない、朴念仁であっても健全な男なのである。
愛しい女性に、耳元で甘く囁かれたら、すっとぼけるのも無理ってもので。
「ま、まった、まった――その、オレは、う、ううむぅぅぅ」
唸りながら、彼女を抱きしめてしまう。
久遠の頭の中を、健全な煩悩が駆け巡る。
心音も、体温も、感情や思考の動きまで、読み取られている気がしてますます、彼女の顔が見れなくなる。
そして、恐らくその通り、ほとんど筒抜けのようなものなのだろう。
彼女が期待したものかはわからないが、久遠にしては珍しく、真っ当に『男性』らしい反応だったかもしれない。
■シャンティ > 「あら、あら……」
くすくす、くすくすと女は笑う。
抱きしめられた体に、脈打つ鼓動が伝わってくる。
読むまでもなく、様々な想像を巡らせていることが予想できる。
「なに、を……想像、した、の……か、し、らぁ……?」
わかっているだろうにも関わらず、吐息のような声が甘やかに囁く。
「それ、とも……いや、なの……か、しらぁ……?疲れ、にも……効く、と……思った、の、だけ、れ、どぉ……」
くすくす、と笑う声が男の耳朶を打つ。
「だって……」
■杉本久遠 >
「あ、あー。
あぁー――」
なにを囁かれたのか、ホッとしたようであり、残念そうでもあり、嬉しそうでもある。
そんな複雑な表情でゆっくりと彼女から離れる。
そっと、困ったように彼女の髪に指を通して、大きく深呼吸。
「それは、なんだ。
期待しても、いいのか?」
まだ赤い顔で頭を掻きながら、そっと彼女の手に自分の手を重ねる。
「いや、するなと言われても、期待するぞ?
そりゃあもう、ほんっとに期待するからな?」
そう言いながら、彼女の細い指に、自分のゴツゴツとした指を絡める。
まだ心臓は喜びに跳ねているし、彼女の甘いささやきが頭の中で反響し続けているが。
■シャンティ > 「ふふ……さ、あ?
私、から……は、なん、とも……?」
くすくすと笑う。待てかお預けか。
なんともいえない種類の笑いで。
「あと、はぁ……」
色素の薄い、銀髪が揺れる。
虚ろな瞳が、男の顔を映す。
薄い唇が、わずかに三日月を描く。
「頑、張り……し、だい……かも……しれ、ない……わ、ね?」
■杉本久遠 >
「よし――よしっ!」
彼女の手からそっと手を離した後。
バシン、と痛そうな音を立てて、自分の頬を挟むように引っぱたいた。
「気合入った!
うぉぉぉぉ――やるぞぉっ!」
両手をぐっと上げて。
それこそ、スイムの試合前のように。
「シャンティッ!
ビシバシと教えてくれっ。
次は合格点取って見せる!」
そう言いながら、折りかねない勢いでペンを執る。
一体、何をささやかれたのやら。
先ほどまでと、やる気が段違いなのだった。
■シャンティ > 「現、金……ねぇ」
男の様子に、くすくすと笑う。
この明快さもまた、この男らしさ、なのかもしれない。
「さ、て……じゃ、あ……」
女が何事かを呟くと、大量の紙が舞い、ペンが踊りだした。
魔術を使用した、ある種の自動書記である。
「まず、は……要点、を……書き、出す……わ。読ん、で……考え、て……みな、さい?わか、らない、なら……聞い、て」
唇が三日月に、妖しく歪む
「ビシ、ビシ……だ、なん、て……ふふ。な、ら……手、加減……し、ない……わ、よぉ?」
こうして、指導が始まった。
的確に整理された情報と、説明。内容としては完璧である。
ただ、恐ろしいほどに無感情に機械的に判断、指導、指摘が続く。
果たして耐えることは出来るのか。
■杉本久遠 >
――さて、どれだけ指導が続いた事か。
久遠はげっそりとした様子で、机に倒れ掛かって、隣で採点してくれている鬼教官――もとい、愛しい婚約者を見ていた。
「――スイムの強化合宿よりもしんどかったぞ。
確かに、ビシバシ頼んだが、楽しんでただろう?
楽しんでたよな?
必死に目を回すオレをみて楽しんでたよな?」
ある種の信頼、そこからの確信であったりする。
頭が痛い上に目が回っているようで、浮遊感があった。
完全に糖分及び脳酸欠である。
頑張り過ぎた代償だった。
「さすがにいきなり合格ライン、とはいかん、とは思うが。
手ごたえは、あった、ぞ――」
久遠は勉学が出来ないわけではなく、地頭が悪いわけでもない。
単純に、勉強の仕方が分からなかっただけなのだ。
彼女の指導は厳しかったが、だからこそ、模試問題を解いていた時に確かな手ごたえを感じていた。
とはいえ、それが点数に繋がっているかは別問題。
愛しい教官殿の、採点が終わるのを息を呑んで待つのだった。
■シャンティ > 「ふぅん?へぇ……?」
採点をしながら、面白そうに声を上げる。
その声音からは、正答しているのかどうかは伝わらない。
「……あ、ら。心外、だ、わぁ? これ、で、も……まじ、め……に、教え、る……こと、に……全力……使った、の、にぃ……ふふ。ま、あ……ギリギリ、の……ライン、で……必死、に……なる、の……は、面白、かった、けれ、ど……ね?」
生かさず殺さず。その絶妙なラインを狙って指導していたとすんなり白状する。
当然、そこに四苦八苦する姿を楽しんでいた、という予想通りのことも。
「それ、は……それ、と、し……て、ぇ……」
はい、とばかりに渡される紙束。そこには無惨な点数が広がる。
よくみれば、一番最初の模試の結果である。
「ひどい、わ、ねぇ……これ。じゃ、あ……こっち、はぁ……」
手にした束を面白そうに見る。
「よ、かった……わ、ねぇ……5割、は……越え、た……わ、よぉ?」
それは5割にすら届かなかった先程と比べれば、間違いなく成果である。
ただし
「で、もぉ……ざぁ、ん……ねん。合格、に、は……足り、ない……わ、ねぇ」
ふわり、と模試が宙に浮く。
そこには、合格点である6割にまでは満たない点数が並んでいた。
ただ――
全てでは、ない
そこに並んでいない科目が、幾つかあった。
「合格、も……ある、けれ、どぉ……あら、あら……
原因、は……教え、かた……か、しら。ご褒美、かし、ら……ねぇ?」
そのどちらかが、悪かったのだろう、と薄く笑う。
■杉本久遠 >
遊ばれてるなぁ、と。
流石の久遠も実感して、ふらふらする中で苦笑を浮かべる。
渡された紙面を見れば、そこには見るも無残な数字ばかり。
「って、これ最初のじゃないか」
そうツッコんでから、教官の評価に目を丸くした。
確かに全てが合格ラインではないが――平均点は明らかに上がっている。
「いや、これは、うん。
やっぱり、凄いな、君は」
ふらつく頭を抑えながら体を起こす。
背もたれに寄りかかりながら、チカチカとする目で、必死に採点結果を確認した。
何が間違っているのかすらわからなかった最初の模擬テストと違って、なにを間違えたか、曖昧なままか、覚え違いをしていたか。
点が取れなかった理由がちゃんとわかるのだ。
「はは、教え方は厳しかったが、うん、これは。
ご褒美をあげなくちゃいけないのはオレの方になってしまうな」
厳しかったが、おかげで勉強のやり方は、しっかりと叩きこまれた。
本試験が間近に迫っているとはいえ、これなら十分に合格点まで届く希望が見える。
「君はオレに足りなかったところをしっかり学ばせてくれたよ。
これは、ちゃんとお礼をしないとな。
――そう言えば、いつも君から色んなものを貰ってばかりだった」
なんだかんだ、イベントの時はプレゼントなど欠かさない久遠だったが、それは特別なモノという感覚ではないらしい。
自分が贈りたいから贈っただけ、という自認だった。
つまり、久遠からしてみれば、彼女のほしいと思うもの渡せていないのである。
「なあ、君は何か欲しいものはないのか?
オレにしてほしい事でもいいぞ。
出来る事なら、なんだってやらせてくれ」
暗中模索しかなかった道行を、希望で照らしてくれた彼女には、感謝してもし足りない。
これではご褒美をもらう所じゃない、と。
■シャンティ > 明日が試験であれば、少々大変であっただろう。幸いなことに、今少しだけ時間に余裕がある。
この結果であれば、まだ間に合う可能性は十二分にあった。
ひとまず、今日のところは消耗も激しく続きは考えないほうがいいだろう。
女は、そう判断する。
男も、そう考えているのか当面の結果を確認して安堵した様子を見せる。
そのうえで
「私?」
欲しいもの、という提案をされた。
「ふふ……欲しい、もの……ね……そう、ね。ふふ。」
くすくす、と。くすくす、と。笑う
■シャンティ > 「もう、欲しい、もの……は、ない……わ?」
そういって、笑った
■杉本久遠 >
「――そうか」
それを聞いて、彼女の左手をそっと取る。
そこに輝かせてくれている、証しをなぞった。
「なら、また何か欲しいと思わせないとだな。
もう一度、約束だ。
オレは君に、新しい願いを抱かせて見せる」
そう言って、いつものように、どこから出るのか分からない、自信に満ちた笑顔を向け――
「――っ、いたたた」
ズキンと鈍く痛む側頭部を抑えて呻くのだった。
なんとも締まらない。
どこか情けない苦笑は、真っすぐに真摯な想いを――恐らくは愛情というものを、彼女へと向けていた。
■シャンティ > 「ふふ……どう、か、しら……ね。
多分……大変、よぉ……?」
くすくすと女は笑う。
ライトの作り出す影を乗せて、薄く、暗く。
「あら、あら……」
そして、自信に満ちた笑顔から、情けない笑いに落ちていくところまでを見る。
だいぶ疲労の限界なのだろう。
「仕方、ない……わ、ね。
頑張、った……の、だし……ご褒美、あげ、ない……と、ね?」
そういって……笑った
■杉本久遠 >
「むっ」
ご褒美、と聞いては、眉が上がる。
ただこの瞬間――愛しい人の笑顔だけでも十分すぎたのだが。
「いいのか?
まだ安全圏には届いてないが」
期待と嬉しさがハッキリと表情に浮かぶが、少しだけ迷った様子。
とはいえ。
じっとしていられないくらいに、そわそわしているのだが。
「ん、んんっ。
それじゃあ、その、ご褒美をありがたく頂戴しないと、な」
ついつい姿勢を正してお座りしてしまう。
まるで、待て、をされている大型犬さながら。
■シャンティ > 「ああ――そう、ねぇ……
ま、あ……前、借り……か、しら?
安全圏……いく、で、しょう?」
いいのか、という言葉にしばし考えるようにしてから結論づける。
安全圏までいく、という確信と。同時に、行くことを要望している、とも取れる言葉。
もし、いかなければ?それは、想像に任せるしかない。
「じゃ、あ……目を、つぶ、って?」
そうして、正座する大型犬に向けて近づいて――
手を差し伸べて
細く、美しい指先が口に、なにかを押し込む
「ふふ……ハッピー、バレンタイン……ね?」
それは、あまい、あまいチョコレートであった
「今回、の……成果、だと……これ、まで……ねぇ?」
そうして、笑ったのであった。
■杉本久遠 >
「前借り、な。
期待してくれるなら、もちろん応えて見せるさ」
不思議と、やれる、という確信がある。
もし届かなければ?
そんな不安はいつの間にか消し飛んでいた。
「――え?
目を瞑るのか?」
困惑と、少しばかりの緊張と共に目を閉じると。
口の中に押し込まれた、甘く蕩ける幸福感。
その幸せを噛み締めつつ、ふと。
今回はこれまで、ということは、これ以上があるのだろうか、と脳裏に浮かんで。
「――ぉ?」
くら、と。
世界が回った。
頑張りすぎたのかもしれない。
一時の間、意識が遠のく。
久遠は幸せそうな表情のまま、ソファの上にひっくりかえるのだった。
ご案内:「とある古本屋の居住部分にて」からシャンティさんが去りました。
ご案内:「とある古本屋の居住部分にて」から杉本久遠さんが去りました。