2024/08/10 のログ
エルピス・シズメ >  
 イーリスの言葉に反して、逃げずに喰らった。
 逃げるという選択肢はなかったのかもしれない。
  
「……だめか、血肉の一部でも、持ち帰りたかったんだけど。
 僕がもうちょっと大喰らいなら違ったかな。」

 流石に歯が立たない。
 諦め半分に苦笑する。

「キミの勝ちだ。紅き月輪ノ王熊。
 呪いを受けるのが僕で良かった。イーリスには勝ってもらわないといけないからね。」

 喧嘩を終えた人間がするように寝そべり、身体を楽にする。
 怪しく煌めく月夜も、こんなところで見る分には悪くない様に思えた。

「僕とキミ……いや、お前はこれで一勝一敗だ。」
「その勝利の味とこの事実、忘れないように。」

「いや、その前にイーリスがお前を仕留めるから、引き分けか。あーあ──。」

 やっぱそんなことはない。
 だって、どうしても。

「悔しい。」

 意の籠った呪いを一身に受け止め、眼を閉じる──。
 

紅き月輪ノ王熊 > 「ははは、ぬかすねえ!エルピスきゅん。」

「じゃあ、"一勝一分"ねえ―――ま、いいや。おじさんもキミの事気に入ったしねー。」

「―――悔しさを感じてくれてありがとエルピスきゅん。」
「その顔でご飯3杯はイケるねッ♪」

言葉を聞きながら笑う。
だが、これから行うのは愉しい談笑ではないのだけれど。
まるでそうであるかのような雰囲気。

「さてと。」

「キミに呪いをかけよう」

「幸せを感じれば感じる程、苦痛を味わう呪いを!」

「死んだほうがマシだと思えるほどの、苦痛を!」

呪縛が、その身を、蝕んでいく。


「美味しいご飯を食べた時!」

「気持ちよく眠りについた時!」

「そして。」

紅き月輪ノ王熊 >  


        「愛しい人に愛された時」


 

紅き月輪ノ王熊 > 「この呪いはキミを苦しめるだろう…!!」

「だが」

「例外処理だ」

「キミには慈悲を与えよう」

「この呪縛があったとして。」
「"キミがイーリスを愛した時に感じる幸せ"には、反応しないのだ。」
「なぜならイーリスを愛する気持ちは!」
「王様が痛い程理解できるからだ!!」

「常に」

「彼女を愛し続けるこの気持ちはキミも同じだろう?!」

「故に、慈悲をあげよう」

「彼女を愛する気持ちが途絶えぬのは、当然のことだからねッッ!!」


敢えて。
その呪縛に制限を付けたことを宣言した―――

エルピス・シズメ >  
「……キミらしい呪いだが、奇妙な例外を付けてくれる。
 変な性癖が芽生えたらどうしてくれるんだ。」

 呪いを認め、少し笑う。
 だが、そこに恐怖と絶望はない。
 否、覆い隠している。

 ある種、シンプルな慈悲よりも厄介だ。
 彼女を愛する事だけを認める、愛される事には傷みを与える。

「ただね、王様。痛みって案外、幸福の隣人だったりするんだよ。
 ──キミがもっと人間に近づけば、分かるかもね。」

 イーリスは常に痛みを抱えていた。
 故エルピスは死と共に幸福を得た。

「……エルピスは、痛みと共にあることぐらい、慣れている。
 その慈悲は美味しいものとしていただくよ。だってさ──」

エルピス・シズメ >  
 
「『死んだら』、痛くないんだ。」

 
 

ご案内:「落第街裏通り・廃材溜まり」からエルピス・シズメさんが去りました。
紅き月輪ノ王熊 >     「……じゃ、一生、分からないだろうなぁ」
    「ま、その一生も終わっちゃってるんだけどね♪」


 

紅き月輪ノ王熊 > ほどなく

彼らの事務所に、
エルピスの
無惨な
呪われた姿が届くだろう

紅い花束に覆われて、

呪縛で文字を刻まれて

「イーリス、決戦(デート)のお誘いだ」

と。

ご案内:「落第街裏通り・廃材溜まり」から紅き月輪ノ王熊さんが去りました。
ご案内:「数ある事務所」にエルピス・シズメさんが現れました。
エルピス・シズメ >    
 届けられた傷と呪いに濡れたエルピスのイーリスが回収し、治療にあたっているであろう、その明朝。

 一つの例外処理(呪い)が治療の最中、エルピスの中に残っていた殺害欲と対消滅する形で──消失した。
 
 イーリスの治療の効果か、エルピスの中にあったエミュレイタとしての残滓か、定かではないが──。

 治療の最中で、ロッソルーナ・エミュレイタとしての力の残滓が、食い合う形で呪いを弱めた。
  

ご案内:「数ある事務所」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「だれかの夢の中」に『殺害欲』だったものさんが現れました。
『殺害欲』だったもの >  
 だれかの悪夢の中。
 強い呪縛が張り巡らされ、悪意の籠った呪縛がだれかを苦しめている。

 その宙に佇む、赤き者。
 本来ならば無垢なるものから産まれた純粋な殺害欲であり、人格を持たない単なる欲。
 長きに渡り身に宿され、想いによって捏ね上げられた結果、一つの怪物として育った意志。

 長きにわたり分かち合い、身に宿していたが故に残っていた呪いの残滓。
 純粋な殺害欲と呼ぶには、変わりすぎてしまった感情。

私に形をくれた(私を産んだ)餞別だ。エルピス(パパ)イーリス(ママ)。」
「こいつは彼方に持っていく。親孝行ぐらいさせてくれ。熊野郎(じじい)。」

 最初で最後の言葉を発し──
 
 ──ひとつの呪いが、呪いのひとつ(例外処理)を持ち去った。
 

ご案内:「だれかの夢の中」から『殺害欲』だったものさんが去りました。
ご案内:「数ある事務所」にDr.イーリスさんが現れました。
Dr.イーリス > “王”により、呪われたエルピスさんが届けられた。
ご丁寧に、紅い花束に覆われて……。

すぐイーリスは、エルピスさんに治療を施す。
治療は応接間で行った。
“王”呪いは解析が進んでいるので、診断はある程度スムーズだ。

「呪いが強すぎます……! しかし、なんとしてもエルピスさんを救います……!」

しかし、呪いが強い……。
薬物投与及び呪いを緩和するための施術を行っていたが、相変わらず“王”の呪いは厄介……。

Dr.イーリス > エルピスさんが苦しそうにしている……。

「……この処置でも、呪いが弱まらない…………。そんな事って……」

イーリスの表情が青ざめる。
呪いが弱まってくれない。
このままでは呪いがエルピスさんを蝕み、苦しめていく。
ただでさえエルピスさんは、“王”によりイーリスに植え付けられた殺害欲を継いでいるのだ。

そんな時に、事態は急変する。

「……殺害欲の呪いと今回の呪いが対消滅しています……!?」

なんと、殺害欲が呪いを打ち消していた。呪いの対消滅。

「ロッソルーナ・エミュレイタさん……? 私達の子……。待ってください……! せっかくこの世に生まれてきたのに、消えてしまうなんて……!!」

ロッソルーナ・エミュレイタさんが対消滅していく、その様子をイーリスは悲しむように叫んだ。
ママと呼んでくれて、パパを救うために自ら犠牲になる我が子に、愛情を抱いていた……。

Dr.イーリス > 「……エルピスさんの呪いは、私がなんとかしますから……!」

その叫びも空しく、ロッソルーナ・エミュレイタさんは呪いの一部と共に消滅する。

「……私達の子……。親を救うために……。ありがとうございました……」

我が子が、命を捨ててまでエルピスさんを救った。なら、イーリスもエルピスさんをなんとしても助ける!

その後、施術は無事に終わった。
エルピスさんとイーリスを親と呼んでくれた“子”によって、エルピスさんの呪いは弱まった。
程なくしてエルピスさんは目を覚ますだろう。

ご案内:「数ある事務所」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「数ある事務所」にエルピス・シズメさんが現れました。
ご案内:「数ある事務所」にDr.イーリスさんが現れました。
エルピス・シズメ >    
 治療は長期に渡る。
 呪縛と創傷を相手取る以上、持久戦は免れない。
 
 『ロッソルーナ・エミュレイタ』──人格を持った『殺害欲』の遺志が"例外処理"(愛を感じない)を持ち去ったと言えど、
 事態は好転していない。

 むしろ、"事態そのもの"は悪化している。
 混濁したエルピスの意識がイーリスに向く度に、比例の呪いは苦痛を与える。

 だとしても、彼は混濁した意識の中でこう考えた。

(……■■■なくて、すんだ。)
 
 それが語られることはない。ただ、結果として『彼の心が折れず』に救われた。
 自分の中から何かが去った喪失感と、苦痛と絶望。
 殺害欲と言えど、カタチとなった人格に肩代わりさせた悔悟。犠牲の上に立つ、罪悪感。

 救いの代償を引き摺りながら、治療を受けている。
 ──手違えさえなければ、創傷の回復は終わるだろう。
 呪縛に関しては、完治は難しいと言えど『目途』は立つ。
 

 

Dr.イーリス > 施術は応接間のテーブルにシーツを敷いて行われた。

施術の間、イーリスはエルピスさんに愛情を注いでいたという事にはなる。
呪いの解析でその正体を把握した後も、イーリスは愛情を押さえようと意識はしていてもそのような器用な事が出来ない。
イーリスの愛情がエルピスさんを苦しめると頭で理解しても、押さえられない。

長期に渡る治療。
昨夜の戦いから丸一日が経って、施術が終わったのは夜。
エルピスさんが目を覚ますのはさらにそこから数時間後になるだろう。
壊れた義手義足は手をつけていない。優先すべき治療があるので後回しにしている。
エルピスさんの創傷は回復しきれていないけど命に別状はないだろう。
呪いは、殺害欲『ロッソルーナ・エミュレイタ』が対消滅させた事以外は、多少弱められた程度……。
出来る限り呪いの苦痛が軽減されるように治療はしたけど、それでもエルピスさんは呪いで苦しめられる事になるだろう……。

目を覚ましたエルピスさんの周囲には、様々な医療用のメカが取り囲んでいる。
《常世フェイルド・スチューデント》のアジトのラボにあったのを不良集団達に急いで持ってこさせた。

今、イーリスは応接間の端で機械仕掛けの車椅子に座り、目を瞑っていた。
長い施術で少々疲れた。

エルピス・シズメ >  
 ──紆余曲折を経て、目を覚ます。
 混濁した意識を覚醒させ、自我を保ち直した。

「……。」

 状況を判断するには時間が掛かった。
 ただ、自分が死ななかったのは『イーリスの献身的な治療』に因るものだと理解できた。

(……それも折り込み済みだろうってことも。)

 痛む頭で自他への嫌悪を覚えながら、真っ先にイーリスに目を向ける。真っ先に発した言葉は──。

「ごめん。」

 弱々しい謝罪の言葉。
 強がり、折れなかったとは言え、まだ弱っている。

Dr.イーリス > エルピスさんと“王”の戦いの最中、メカニカル・サイキッカーは、不良集団アジトのラボで調整中で動かせなかった。今もこの場にいません。(ソロルの時の描写も含めて修正しました)

エルピスさんが目を覚ますと、イーリスの体内コンピューターから知らせがくる。
目を開けて、エルピスさんの方を向いた。

「エルピスさん……! よかったです、目を覚ましてくれて……!!」

急ぎ車椅子を動かしてエルピスさんの傍に移動し、潤んだ瞳で、傷で痛くならない程度の力でエルピスさんを抱きしめる。

「よかったです……。死んでしまうのではないかととても心配でした……。ちゃんと目を開けてくれてよかった……」

愛したエルピスさんに、愛が注がれる。
“王”の呪いは悪辣だ。その愛が苦痛に変わるのだから……。

エルピス・シズメ >  
 愛に比例し苦痛が増え、赤い文殊として伝わる。
 悪趣味な幸福の証明。『例外処理』が除かれた以上、呪いは嘘を付かない。

 そのことだけがこの場に於ける救いであり、王の目論見の外に在る状況。

「……うん、ぎりぎり、生きのこれた。ありがとう、イーリス。」

 一言一言が身体を苛む。隠し切れぬ脂汗と苦悶、笑顔に混ざる。
 
 (それでもましだ。)

 痛みの中で冷静さを取り戻す。
 必然と偶然で、この結果を手繰り寄せたのだ。
 やることを考えなければ。……そう考えると、再び痛む。
 
「ぐ、っ……そうこ、から、空色の浴衣がある、から……」

 取ってきて欲しい、と言いたげだ。
 倉庫に向かえば、少し露出の多い彼向けにあつられられた空色の浴衣がある。

 ……彼が『お義姉ちゃん』と呼ぶ魔王手製のマジックアイテム。
 別の魔による加護を以って、多少なりとも柔らげようとの魂胆だ。

Dr.イーリス > エルピスさんが目を覚まして喜んでいたが、はっ、とそれがエルピスさんを苦しめている事を思い出して、エルピスさんから離れ車椅子を座り直した。
痛みに苦しむエルピスさんを見て心配げな表情をするが、すぐにツンとした形相を意識する。

「……気が変わりました。あなたが呪われている間、別に私はあなたの事なんて好きではありません。これっぽっちも、全然好きではなくなりました」

凄く不器用にツンと突き放すように口にするが、内心の罪悪感、心からではないただただ表面だけの言葉、そもそもその言動自体がエルピスさんを出来る限り呪いで苦しめないようにと愛からくるもの、というのも合わさり、イーリスの意に反して呪いによりエルピスさんを苦しめ続ける羽目になるだろうか。
そもそも、イーリスは心から愛情を誤魔化すなどという器用な事が全然できない。

「空色の浴衣ですね。取ってきますね」

一旦応接間を出て、二階の倉庫に向かう。この機械仕掛けの車椅子は便利なもので、階段を上がる時は足が生えて登った。
しばらくして、空色の浴衣を持ってきて応接間に戻る。

「解析などしていないので詳しくは分かりませんが、見たところマジックアイテムの類ですね。お着替え、手伝います」

マジックアイテムという事で、エルピスさんの苦痛を和らげる効力もあるのだろうと察する。
エルピスさんは呪いと創傷の痛み、義手義足が壊された事で着替えるのも苦労すると思い、こちらも車椅子でお手伝いといいながらも微力ながら、お着替えを手伝おうとしていた。

エルピス・シズメ >   
「それは……いちばん、嘘でも嫌……。」

 彼の最も恐れていた言葉。
 肉体と精神の両面に、大きな傷を付けた。

「おねがい。」

 恐れるような、弱弱しい、懇願。
 彼が懇願したことは、あっただろうか?

 それでも一度は状況は落ち着き、着付けが終わる。
 おそらく、特筆すべき効果がある訳ではない。ないが、それでも概念の拮抗は産まれる。
 身体を蝕む呪いがまた一段、緩和されたが──
 
「……。」

 俯いたままだ。彼に元気がない。
 嘘だとは理解した上で、強い沈潜を齎している。

 まだ見せていなかった弱さの一つを、覗かせた。
 

Dr.イーリス > 「……あの……えっと…………」

エルピスさんの懇願に、イーリスは動揺して瞳が左右に動き、涙が少しずつ溢れ出す。
着付けが終わった後も、彼はとても弱々しく俯いていた。

彼を愛しても、呪いを押さえるために愛を押さえていても、どちらにしても彼を傷つけてしまう……。
どうあっても、エルピスさんを苦しめてしまう……。

(“王”……!!)

全ては“王”のせいだ。一瞬、“王”に怒りを覚えるも、すぐ意識はエルピスさんに戻る。

「……ごめん……なさい……ひくっ…………」

僅かに嗚咽を上げながら謝罪する。

「私は……どうしたら…………」

愛したらエルピスさんを苦しめる……。愛しないよう意識して突き放せばさらにエルピスさんを苦しめる……。
“王”を倒せば呪いは解けるだろう……。呪いを解けた後は、いっぱいエルピスさんを愛したい。
だけどそれまでどうすればいい……?
イーリスの愛だけではない。エルピスさんは、幸福を感じれば苦痛になる……。

どうしたら……。

エルピス・シズメ >    
「大丈夫。痛い方が、いいから、すきでいて……。」

 異常なまでのお人よし。
 悪意に対する強い察知力。
 既視感から成り立つ観察眼。
 すぐに他人を信頼する性分。

 その強さの源であり、裏側にある『ひとつの弱さ』。

 たまたま上手く行ってたからこそ覆い隠されていた彼の欠点。

「ごめん。わがままで……
 ……痛いだけなら、死なないから……次を、かんがえよう。」

 縋るように、イーリスへと身体を近づける。

 彼は、あるいは彼も、自尊心が低い。(みすてないで。)

Dr.イーリス > 「……痛い思い……いっぱいさせてしまいますよ……」

イーリスも呪い受けた身で、よく理解していた。
鎮痛剤もエルピスさんに投与しているけど、それでも痛みで苦しむのは変わらない。

「エル……ピス……さん……」

見捨てなんてしない。見捨てるわけない。
“王”を討滅する作戦を進めると共に、エルピスさんの呪いに関する研究も並行して行うつもりでいる。

「すき……です……。エルピスさんを苦しめると頭では分かっていても、誤魔化せないぐらいあなたを愛してます……」

エルピスさんが身体を近づけると、彼の背中に両手を回して、ぎゅっと抱擁した。
そうしたら、呪いがエルピスさんを蝕み苦しめるのだろう。

「ううぅ…………」

エルピスさんの苦痛を想像して、嗚咽をあげてしまう。
イーリスの呪いと密接に関わる『殺害欲』『ロッソルーナ・エミュレイタ』がまだエルピスさんに残っていれば、あるいは研究次第で“王”にも行ったような呪いの“繋がり”でイーリスにも痛みを分かち合う方法を考える事が出来たのだろうか……。
エルピスさんの今の呪いは発動者こそ同じだが、呪いそのものは別だ……。

エルピス・シズメ >  
「なかないで。僕は痛みには強いから。いや、でも。」

 彼自身、身体の痛みは恐れない。
 肉体的、魔術的な苦痛に関しては非常に強い。
 それよりも怖いものがあるから。
 
「招待状が来ているなら、全力を賭して王に勝てばいい。
 痛みは怖くない。僕が託した切り札も、遠慮なく使って。」

 少しずつ理性を取り戻し、目を瞑る。

(僕の弱さに目を向けるのは、今じゃない。)
(愛しているイーリスを泣かせたくない。)

 イーリスの肩を掴み、奮い立たせるように立ち上がる。
 動かすことすらままならぬ身体を、気力だけで動かす。
 
「イーリスが一人で乗り越えて、勝って欲しいと思ったけど気が変わった。」
「泣かせてまでそうして欲しくない。だから、『僕も戦うことにする』」

 悲壮の覚悟で送り出したくはない。
 託したものを使うことを、躊躇わせたくない。
 
「と言っても、足手まといになるからその場には行けない。」
「もしかすると、逆効果かもしれない。でもたぶん、こうした方が『気兼ねなく戦える』。」

 異能を介し、炉を起点にして──『継ぐ』だけではなく、『継ぎ合う』。
 痛みを『継いで』引き受ける。力を『継いで』貰う。『想いを継いで』と。

「愛してる。ううん。これからも愛する。」

 一時の感情では終わらぬ様に、最大級の苦痛を誓約に換える。
 痛みもまた、感情の引き金にあるものだ。
 

エルピス・シズメ >  
 ふたたびイーリスを抱きしめる。
 赦されるのならば、考えられる限りの『愛の表現』──接吻を望む。 

 望みが叶うのならば、呪縛の『悶えるような刺激』がイーリスの全身を駆け巡ることと引き換えに『再び繋がる』。

 
「信じて。」


 受けるかどうかは、イーリス次第だ。

 

Dr.イーリス > 「……エルピスさん。“王”を倒して……必ず、エルピスさんの呪いを解きます……!」

なかないで、そう言ってくれたから、イーリスは泣き止む事にした。
やるべき事は明確なのだ。“王”を倒せばいい。

「“王”は、エルピスさんと一緒に招待状もこの事務所に置いていきました。決戦の日、“王”を滅します。どうかそれまで、耐えてください……」

エルピスさんのため、するべき事はこれまでと何も変わらない。
倒すべきは“王”。
エリピスさんが無理に立ち上がる姿をイーリスは心配げに眺めていた。

「エルピスさんも一緒に……」

それは、心強い……とは思う……。
だけど、正直……“王”との決戦までにエルピスさんが戦える状態になっている事はないと診断できる……。
招待状の日付まで、もう近い。

エルピスさんに抱擁していただき、目を瞑り、

「エルピスさん…………」

──そして、互いの唇が重なり合う。

(……愛してます)

十数秒、エルピスさんの唇の感触を味わう。
エルピスさんの愛が伝わってくる。その愛が全身を駆け巡る、とても幸せな感覚。
ぽかぽかと温かい時間。そんな十数秒。

やがて、エルピスさんの唇から離れる。

「……これは…………」

エルピスさんと『継ぎ合う』、そんな感覚。
力をエルピスさんから『継いで』、想いもエルピスさんから『継ぎ』、そして痛みすらも『継がれる』。

「……ッ!! ぐぐ……ああああああぁぁぁ……!!」

痛みで、悲鳴を上げる。
エルピスさんが味わっていた痛み……。これでもきっとほんの一部。
痛くて痛くて……苦しい。

耐えなきゃ……。エルピスさんもこの痛みに耐えているんだから……。
エルピスさんから継いだ想いもも合わさり、苦しみに耐えるよう頑張ろうとする……。

「……ううぐ…………あああぁっ…………!! はぁ……はぁ…………。私はエルピスさんを愛しているから……これぐらい受け止めます……!!」

自分の身体を両手で抱き、息を荒くして涙目になりながらも、苦痛を我慢する。

エルピス・シズメ >  
「ううん。『これ』は受け止めるんじゃない。大丈夫。」

 首を振り、真正面から堪えようするイーリスに優しく伝える。
 苦しむイーリスを再三抱きしめる。
 
「大丈夫。病める呪いも。」

「痛む苦痛も。」

「ぜんぶ、糧になる。──落ち着いて、循環させて。
 受けきれない時は、僕を意識して。エネルギーの流れを意識して──。」

 苦痛の受け流し方を伝える。
 炉があるのなら、その傷みすら力に出来る。
 感覚を通じて、感覚から生じる感情をリソースとして循環させるように伝える。

「耐えれない分は僕が受け留める。」
「イーリスが回復したら力を送り届ける。」

 イーリスの苦痛が一気に和らぐ。
 送り届けたものを一度回収する。

「……本番で、これを繰り返す。
 これなら一緒に戦えるし、ダメージを引き受ける事も出来る。
 リソースとダメージの、コントロール。」

 大きな呼吸を繰り返し、そうやってみせる。
 とは言え急ごしらえの荒業だ。やらない方が良いのかもしれない。

 一旦、顔を確認しよう。

「出来そう、イーリス?
 別のプランも、あるけれど──。」