2024/10/26 のログ
ご案内:「常世渋谷 中央街」に武知一実さんが現れました。
ご案内:「常世渋谷 中央街」にリリィさんが現れました。
■武知一実 >
オレの言葉を受けてリリィがフリーズする。
何でだ、そんなに衝撃的な事を言った覚えはねえし、傷つくような事な気もねえ。
少し待ってリリィが再び口を開くが、細い声で何やら納得した様子を告げるだけだった。
「ああ、だから機会があった時はアンタが透明になっとけ、な?」
ちゃんと理解を得られたのかいまいち心配だが、念は押しておこう。
一度鏡か何か見せてやった方が良いかもしれねえな……それともスマホで撮るか。いや、難易度高ぇわ。
何やら自分の頬を伸ばしてるリリィを見つつ、首をかしげるオレだった。
「なるほど……確かにそれもそうだ」
一理ある。納得せざるを得ない言葉に頷くしかない。
なら、オレも照れとかそう言うのは極力耐えれるように努力しねえとか。
「ま、まあそのことは追々考えりゃ良い」
休戦だ休戦。もうそもそも何でこんな話になったのかすら忘れた。忘れたったら忘れた!
「ああ、褒めてるつもりなんだが。
黙ってじっとしてりゃ大人っぽく見える。まあ口を開けば年相応って感じだけど……って、リリィの歳知らねえなオレ」
歳相応っつーか、オレらの年代と変わらねえように思える。
とはいえ実年齢相応に見られ難いオレが評するのも、変な話だけどな。
「おう、サンキュー
こういう格好も初めてしたからな、いまいち自分じゃ似合ってんのか分からねえが……アンタがそう言うなら悪い気分はしねえ」
周囲の好奇の視線もちっとは気にならなくもなる。
まあ今はオレよりもリリィの方に向いてる気がしなくもないが。
髪とか目立つからな、白いし。
「……ん? 何か変だったか?―――ッ」
何かに気づいた様子のリリィがオレの頭上へと手を伸ばす。
髪とか跳ねてただろうかと、軽く頭を下げて弄りやすい様にすれば、自然とオレの視線も下がって。
気付けば目の前に、リリィの胸元があった。白い肌が店内の照明に照らされて一層白く映える。
……デカいとは思ってたけど、やっぱ、本物なんだな……と先のマーメイドの時の事も思い起こされながら、そんな感想を抱き。
「……あ、ああ、ありがとな。うん」
慌てて我に返って、一歩離れたリリィに礼を言った。
ヤバい、また顔赤くなってんじゃねえかオレ……
■リリィ >
目と口を棒線みたいに横一文字に引き伸ばして頬を捏ねる姿は大層間抜けだっただろうか。
こくりと頷き、伸ばしたせいで若干赤みの強くなった頬を解放して。
「まあ、あの、極力人目があるところでは我慢しますね。……極力!」
元より食いしん坊な性である。
絶対とは言わない。
兎も角、そう、祭りだ祭り。
少年の理解も得た様子なので、祭りを楽しむことに注力しよう、そうしよう。
「褒めるの下手くそですか、もう。
いえ、だからこそ、ああこの人本当に思ったこと口に出してるんだなぁってなってこっちとしては恥ずかしくなるんですけど。」
後半は呆れと照れが綯交ぜになった、半ば独り言めいた声色だ。
じと、と恨めしげな半目が向く。
「わたしが幾つか気になりますか? どうします、すんごい年上だったりしたら。」
何百歳とか。
半目を細く弧に変えて、悪戯ぽく笑った。
さてその後だ。
思春期真っ盛りの少年の目に毒ともなり得るたわわを見せつけているとも露知らず、頭を下げてもらってしっかりと耳の位置を調整。ついでにカチューシャに巻き込まれていた可哀想な毛束もちょいちょいと整えておいてあげた。
「ばっちりですよ。鏡は見てないんですか?
それなら二人で並んでるとこ、見てみましょうよ!」
人差し指と親指でマルを作って太鼓判をポンと押す。
ほんのり赤い頬に首を傾げながら、全身鑑の前に二人で赴き並んで立つ。
魔女と狼男。相性はバッチリ。
「わぁ、結構いいんじゃないですか? ハロウィンっぽい!」
ポンコツ淫魔的にはこれで決めてもいいんじゃないかな、って思うのだが。
少年の感想や如何に。窺うように振り返っては首を傾げる。
■武知一実 >
「なるべく人の少なそうなとこ探すから、一緒にいる時に人の居るところで腹減ったら早めに言えよな……」
まあ、誰だって我慢のならないもんが一つ二つあるもんだ。
それでも努力するってんなら、補助してやるのが道理ってもんだろ。
んまあ、この話はこれくらいにしといて、だ。
「言われてみりゃ素直に喜ばれた事って少ねェな。
褒めンの下手なのか、オレ……」
デリカシー終わっとる、と言われることは多々あれど、褒めるの下手とは具体的過ぎてちょっと凹む。
まあ、デリカシー始めさせる方法よりは、まだ何とか出来る気がするだけマシ……なんだろうか。
「あァ?……綺麗な婆さんなんだな、って思う」
どうするも何も、どうしようもねえだろそんなもん。
見た目はオレらと大して変わらねえし、言動もそうだし、実際の歳が幾つだからと言って何か変わるもんでもねえし。
ただ、長生きしてんだなーくらいに思うだけだ。
リリィがオレの頭の上で何をしてるかよりも、上げた腕が動く度に小刻みに震えるものに意識が向いちまってどうにもならず。
離れてようやく、ああ耳とか髪とか変だったんだな、と改めて実感する始末。
リリィの様子を見るに、無自覚でやってんだなと容易に想像がつく。……やっぱ淫魔なんだな、コイツ……。
「一応試着室の中の鏡は見てたんだけどな、細かいところまで気にしなかったわ。
まあ並んでどう見えてるかってのも気にはなるし……」
とリリィと連れ立って鏡の前に立つ。
おお、まあ催事の仮装って感じはするし、これで街なかを歩いても不思議じゃねえ……か。
「ああ、良いんじゃねえか?
あとはまあ、自分で見てて気になったのとかあれば試してみんのも良いかもな。
次ン時の参考になるかもしれねえし」
次にこういうとこに来るのはいつになるか分からねえし、ハロウィンは年一回しかねえんだろう?
だったらこの機会に来年を見据えて違う仮装を探しておくのも悪くねえと思うんだが。
■リリィ >
はぁい、と、間延びしつつも良い子の返事。
「ん、でも、良いと思ったことを伝えること自体はとても素晴らしいことだと思います。」
凹んでる様子に慌てて告げた言葉は、何処か弁解めいた風になってしまうだろうか。
慌てるあまり身振り手振りもある所為で余計にそう見えるかもしれないけど、本心だ。
しかし継ぐ句にぱたぱたとした動きが軋むように停止する。前言撤回したくなった。
「ばっ……いえ、これもかずみん様的には褒めてる?ん、でしょうか……。」
婆さん。なんて心を抉る響きなのか。否、婆さんじゃないけど。違うけど。
心は抉れても豊かなままの胸元へ手を宛ててぶつぶつと独り言を繰り返す。
確かに髪は白いけど。婆さんじゃないやい。ぴちぴちだもん。
はっとして鏡を臨む。うん、やっぱりいい感じ。
意識が切り替われば後は早い。少年の言葉に笑顔で頷いた。
「そうしましょう。
ね、吸血鬼とか着てみちゃいます?」
当然のように来年を語る様子にひっそりと両目を細める。
裏地が赤いマントは兎も角、フリルたっぷりのドレッシーなシャツを着こなす姿を想像したらついつい笑ってしまったが。
自分が来年着るならばなにがいいかな。
ポンコツ淫魔が気にするのは被り物系らしい。ジャックオランタンやガイコツのマスクとか、フルフェイスばかり手に取っている。センス……。
■武知一実 >
「そうか……伝わるなら何でもいいって訳でもねえんだな」
まあ凹みはするがそれを引き摺る気はねえんだが、リリィに変に気を使わせちまったみてえだ。
が、すぐに表情含めてリリィが硬直する。
「本当にアンタがすごい年上だったらの話だろが。
まあ、知らなくて困ることもねえから、ホントの歳なんて言いたくなかったら言わなくても良いけどよ」
そういや女性に年齢の話は良くない、とダチに言われた覚えもある。
誰でもいつかは爺さん婆さんになるわけだし、気にしなくても良いんじゃねえかとは思うが。
けどまあ、年上に見られたくないってのなら、わかる。すごく分かる。
とはいえ鏡に映ったオレらを見て機嫌を取り戻したリリィ。
オレの提案に頷いて、吸血鬼の衣装なんかを勧めて来るが、吸血鬼ってどんな格好するんだ……?
「オレの方はまた次もアンタが選んでくれりゃ良い。
それよか、そんなん被ってたら楽しんでるアンタの顔見らんねえじゃねえか」
表情が分からなけりゃ本当に楽しんでるかどうか判断のしようがない。
まあ、コイツの場合全身から楽しんでるオーラみたいなのが出てるから、全く分からねえ訳じゃねえけど……
■リリィ >
下唇を人差し指で突き上げながら、何かを考えるように視線が斜め上を向いて数秒。
手を下ろし、前髪に隠れた瞳が少年を真っ直ぐに見つめる。
「例えばですけど……
鷹のように鋭い眼光をしてらっしゃいますね。とても15才とは思えません。
……って言われたら褒めてるの?それ?ってなるじゃないですか。
でも、
貫禄があって素敵ですよ。
……こう言われたらちょっと違いません?」
伝える情報の取捨選択やら伝え方やらのお話。
ピンポイントで少年が気にしているところを突いているのは気付かない模様。
年齢に関しては、突っ込まれないならば程々で流してしまわん。
否、数百歳とかではない。断じて。
「またそういう……ああもう!じゃあ、こーんなネタ衣装選んでも着てくれるんですかぁ?」
ヘタすれば口説いてるとも捉えられかねない少年の科白に頬を膨らませた。
今度そこら辺をきちんと教えてあげることにするとして、今は手にしていた南瓜のマスクを置いてハンガーラックから衣装を引き抜く。
着ぐるみのバナナとか、ピッチピチのヒーロースーツとか。明らかネタ枠だけど、本当に着たら「ウワァ……」ってなりそうなチョイス。
ちょっとした照れ隠しというか、意趣返しというか、そういう心算。本当に着せようとも、着てくれるとも思っちゃいない。
■武知一実 >
「ふぅん、なるほど……な?
そもそも目つきの話されてる時点で褒められてねえような気もするが……」
別にそんな貫禄要らねえんだが、と思うがあくまでたとえ話。
いちいち噛みつく様なことじゃねえし、誉め言葉の喩えとして出してるんだから、リリィにその気は更々ねえんだろう。
ただまあ、どのみち15歳にゃ見えねえんだな、って思わざるを得ないと言うか……むぅ。
まあ、つまるところ年齢の話もそういう事なんだろう、と捉えることにする。
リリィの実年齢が何歳だろうと、まあオレが何か変える訳でもねえしな。
「あァ?……別に、アンタが本当に似合ってると思ってくれんなら、やぶさかじゃねえが……
絶対ただ面白そうだからで選んでんだろ、それ……」
来たばかりの時の獣耳ン時と同じ匂いを感じる。
さすがにオレでもそれくらい分かる。本気で着せるつもりはまるで無いんだと思える様な選択だ。
けれど、まあ言った通り、コイツが本気で似合うと思ってくれてんなら、試しみるくらいはしても良いが。
真意の程を見定めようと、じっ、とリリィを見据える。どうなんだ、ん?
■リリィ >
「綺麗がつけば婆さんがゆるされるのではないというお話も含んでいます。
でも、わたしはかずみん様の目も好きですけどね。普段キリッ!としてる分、柔らかくなった時がすごく可愛らしくて。」
不敵っぽく目端口端を釣り上げた直後、ぱっと表情を明るくして朗らかに笑った。
まあ、笑いかけてもらった回数は数えるほどなので、思い浮かべているのは主に吸精の時の蕩けた顔なのだが。それはお口をチャックしておく。
不満げに拗ねた顔もまた年相応なのだろう。
ふふ、と、微かな笑みに息が揺れる。
「吝かじゃないんですか!?……吝かじゃないん…ですか……!?」
おもわずと二度見するポンコツ淫魔を見るに、面白がってるのは明白。
真っ直ぐに注がれる見極めるような視線に、つつつ……と目を逸らした。黒確だ。
そっとネタ衣装をしまって、真面目に物色することにしよう。
「えーと……囚人服……は、似合いすぎて笑えなさそうだから止めておきましょう。逆に警官の恰好はどうですか?
海賊という手もありますね…… あ、こういうカッチリしたのも似合うかもしれません!どうでしょう?」
並べて見せるのは王道の吸血鬼にアメリカナイズな警察官の服と、何処かで見たようなパイレーツ服に、聖職者が着るような修道服。
最後のチョイスは淫魔的にはどうなのか。多分ポンコツなのでなにも考えていない。
■武知一実 >
「なるほどな……でも他に言い様もねえだろがよ……
別に普段からキリッとさせてるつもりはねえんだけどよ?……まあ、アンタがそう言うんなら、悪くねえのかな……」
オレとしては日頃から柔らかな眼差しを向けてるつもりで居たんだが? だが……
そんなに温度差のある表情をするときがあったのだろう。リリィがそう思うのだから、他の奴らも同様に思うときがあるのかもしれない。
……やっぱ目元のマッサージは毎朝続けた方が良いんだろうな。朝はもうちょっと寝てえんだが。
「ああ、アンタがその気ならな?
オレは大抵何着ても似合うのかどうか自分じゃ分かんねえし」
だから、そうさっきのリリィの言葉を借りればジャッジしてくれる誰かが居るというのは心強い。
いや、ダチが居ねえ訳じゃねえんだが、あいつら悪ノリが過ぎる時があるし、かと思えば変に気ぃ使ってくるし……
とは言えリリィもリリィで悪ノリするきらいがあるみてえだが。
「どうでしょう?と言われてもオレからすりゃどれもホントに似合うのか?ってのが正直なとこなんだけどよ……
そもそも、オレのばっかり選んでねえか?
……オレは、アンタがもっと色んな衣装を試して楽しんで貰いてえって言ったつもりなんだが」
学生服になる前は看護士服着ずっぱりだったみてえだし、懐事情からあんまり服持ってないって話だったしな。
だったら今回を機に色々着てみるのも悪くねえんじゃねえか……って提案したつもりだったんだが。
制服選んでる時も楽しそうにしてたんだしよ。
■リリィ >
「逆にわたしは垂れ目なので、ちょこっとだけ羨ましかったりもします。
隣の芝生はなんとやら……ですね。」
人差し指を使って、前髪の下で眦をきゅ、と吊り上げてみる。少しは凛々しくなっただろうか。
どちらにせよ有事でなければ積極的に瞳を晒す気もないので、唯の詮無い雑談でしかない。
「お洒落にはあまり興味がないですか?
これは仮装ですけど……普段の装いに関しては似合う似合わないより、好きなものを着ればいいと思いますよ。」
そも、最近借り物のナース服から制服にジョブチェンはしたが、私服をほぼほぼ持っていないので偉そうに講釈を垂れていい立場ではない。
ボツになった衣装を皺にならないように気をつけて元の位置へ戻しながら、着てくださいって言ったら着てくれるのか……とパツパツヒーロー衣装を見下ろした。
好奇心と罪悪感が鬩ぎあった結果、ひとまず……ひとまずはしまうことにする。
自分がネタになるのはいいが、人様をネタにする度胸は……このポンコツ淫魔にはなかった……。
「実際に合うかどうかは着てみないとなんとも言えないので、気に入ったものがあったら着てみてくださいよ。
わたし、自分が着るならって目線で選ぶと、なるべく隠れられるもの選んじゃいますし……。
それに、かずみん様が色々着てるの見るのも楽しいですよ!」
フルフェイスの被り物とか、フード付きのポンチョにおばけの顔がプリントされているようなものだとか、そういったものをチョイスしがち。
でもそれはさっき遠回しなNGを頂いたので我慢する所存。
そんなことよりも、と、少年に衣装を押し付け試着室の方へ押し込んでしまわんとする。
■武知一実 >
「そういうもんか……。
ああ、オレも好きだぞ、アンタの目」
普段前髪おろしてる所為か、吸精の後に間近に顔がある時くらいしか確りと見る機会はねえけど。
本人が言う通り、オレとは真逆で目尻が下がってて、柔和そうな印象を受ける。
まあ、それよりも喜怒哀楽がコロコロ変わって飽きないからってのが大きいが……それだと目元じゃなくて表情の話になっちまうな……。
「興味が無いわけじゃねえが、自分に似合うのかどうか分からねえって話だな。
普段着るのはもっぱらパーカーだしな、着てて楽っつーか……」
好きな服装、と言われりゃ少し大きめで余裕がある方が良い、と思う。
たまにオレが着るにしてもオーバーサイズのとかも選ぶし、あとはスニーカーくらいか。好みで選ぶのは。
そんなことを考えながら、明らかなネタ衣装を戻していくリリィを見る。推してこないあたりを見ると、本当に面白半分で選んだんか。
「確かに着てみないと分からねえってのはそうだな……
まあさっきから選んでるのも顔が隠れるもんばっかりだが……アンタ顔立ちもスタイルも悪かねえんだから、もうちょっと自信持てよ。
……チッ、じゃあしょうがねえな」
オレだってリリィを見てるのを楽しんでるのだから、そう言われてしまえば着る他ねえな。
押し付けられた衣装を手に、試着室へと戻る。……てか、まずこの狼男の服脱がないとか……
そんなわけで、渡された衣装前部に袖を通してみる。
着やすそうなのから試してみるんだが、普段着なれないもんを着るというのが思ったよりも面倒だな。
悪戦苦闘しつつも袖を通し、リリィに見て貰うとすっか……
1着目。修道服。一番着るの楽そうだった。実際のとこは重ね着に重ね着を繰り返すと聞いたことがある。
2着目。警官服。本土のおまわりが着るようなのじゃねえが、どことなく風紀の制服みたいで落ち着かねえ。
3着目。海賊。色々と小物やらが多いが、ダボっとした感じのパンツとかは嫌いじゃねえな、あとはコートも。
4着目。吸血鬼。普段吸われる側が吸う奴の服着せられるってのが変な感じだな。吸血鬼と言うかどっかの貴族みてえな……マントは悪くねえと思うが、全体的にカチッとしててどっか堅苦しい。バイトで着た執事ン時を思い出す。
自分で鏡を見た感じは全体的になんか、“不良”が頭に付きそうな気がするが、どうだろう。
あ、海賊は元が悪よりだから不良もへったくれもねえか。
■リリィ >
「おっとと、ありがとうございます。いいですね、その調子ですよ!」
若干照れくささはあるものの、素直に受け止められる褒め言葉に相好を崩した。
乱れた前髪を指先で整えて瞳を隠して一息吐く。
「ああそっか、お年頃ですもんね。
似合う似合わないは大事な問題かぁ。」
って、その割にはパーカーチョイスの理由は楽だからなのか。
肩を脱力させて苦笑い。
似合う似合わないの話をするならシルエットの把握が必要になるが、如何せん少年が好んで着るパーカーは体型を隠してしまうので下手なことは言えずに口を閉じることになる。
「んん、だって隠してる方が落ち着くんですもん。そういう性格なんですぅ。」
ちょいと唇を尖らせてぶーたれるが、不承不承と試着室へ向かう姿にはご満悦。
着替えの合間に他の衣装もチェックしつつ、始まったファッションショーに瞳を輝かせた。
が、軒並みコスプレっぽくなるポンコツ淫魔に対し、少年は全て不良がついてくるらしい。
喉の奥に笑みを詰めて、噴きださないようにどうにか堪えられた……だろうか。
不良神父。不良警官。ここら辺はありそう。似合っている。
海賊。目付きの悪さもあって似合わない筈もなく。
吸血鬼……これは少々意外だが、悪くないように思えるのは着慣れてるというか、こなれてる感があるからだろうか。
ぱちぱちと笑顔で拍手。
「どれもお似合いですよ!強いて言うならー……んん、警察服、かな?」
海賊服は似合いすぎてて逆にコメントし辛かった。
先程の会話から目付きの悪さを気にしていることは察していたから、除外しとこね。せやね。
「あ、でも……すみません、もう一回これ着てもらっていいですか?」
頭の上に豆電球が閃く。
手を合わせて修道服を示したら、その他の衣装は受け取って元の場所に戻してこよう。
そのあとで、少年が着替えてる間にポンコツ淫魔も隣の試着室に引っ込んでいく。
どうやら着用に手間がかかるようなので、然程時差なく此方も着替えを終えることだろう。
■武知一実 >
「……いまいちこれまでと違いが分からねえんだが。
ひとまず、好きだ、って言えば良いのか……?」
分からん……一概にこう、じゃなくて時と場合と相手に因ったりするんだろうことは想像つくが。
「いや、あまりにも似合わねえと笑われたりすんだろ。
面と向かって笑われなくとも、変に周りに気を遣わせることにもなっちまうし」
だから変にあれこれと……俗な言い方すれば冒険せずに、無難なパーカーで落ち着いてるところはある。
後はまあ、変に小洒落た格好しても喧嘩の時に汚れちまう可能性を考えたら、な……。
「……そうかよ」
の割には人魚風に魔女風と、リリィの言とは正反対な衣装を着てくれている。
内心やっぱり落ち着かねえんだろうか、だったらさっさと制服に戻って貰っても良いんだが……と思わなくもない。
が、そんなことを告げる前に試着室へと押し込まれて。
……で、あれこれ試して今に至ると。
「別に拍手なんかせんで良いッつの。他の奴らが何事かって見てくんだろ」
ったく、と頬を掻きながらリリィに手を振って止めるように促す。
どのみち面白がって選んでんじゃねえか、と思えるような顔になってる時もあったが、まあ楽しんでんなら良しとしよう。
「警官か……風紀みてえで落ち着かねえんだけどな」
サングラスでも掛けりゃ目つきの悪さも隠せるだろうか。逆効果?……まあ、うん。知ってた。
さて一通り披露したことだしさっさと制服に戻ろう、と引っ込む前にリリィから提案があって。
「……修道服を?
一度見りゃ十分だろに……まあ、分かったよ」
他ならぬリリィの頼みならと試着室へと引っ込んで修道服に再度袖を通す。
着るの自体は難しくないが、重ね着が多いせいで手間がかかる……まあ、これは仮装だから、多少簡略化はされてるみてえだが。
「おい、これで良いのか……?」
試着室から出てみれば、淫魔女(ひでー字面だな)の姿は無かった。
何処行きやがった?そういや、隣で物音がしてたなと試着室前で隣を気にしつつ待機。
■リリィ >
「あぁ~……そうきますかぁ……。
いえ、いいえ、かずみん様の場合誤解を招きかねないタイミングでも構わず用いりそうなので、好きは封印しましょう。
それは然るべきときに、然るべき相手に言うべき言葉です。」
軽く頭を抱えて悩ましげに唸った後で、ゆるゆると首を振る。
好きの乱用、ダメゼッタイ。標語みたいになった。
「よっぽど奇抜な恰好しなきゃ大丈夫だと思うんですけどねぇ……。
パーカー以外だったらどんな格好がお好きなんです?」
笑われたり気を遣わせたりするほどドギツイ恰好をしてしまうのだろうか。
さらりと聞かされた少年の境遇を思えばあり得ない話ではない。
逆に好きを突き詰めたらどんな格好をするのか気になってきた。
「似合ってるんだから見られたっていいじゃないですか。」
言いながらも、注目される居心地の悪さには覚えがあるので素直に手を止める。
以降はニコニコと笑顔で眺めることになっただろうか。
風紀委員を苦手とする口振りにほんのりと苦味を雑ぜつつ提案の後にダブルお着替えタイムと相成って。
「かずみん様かずみん様、こっちですこっち。隣ですよー。」
着替えを終えたと思しき少年に生首から声がかかる。
カーテンから首と片手だけをひょっこり出して手招き。
それに従い少年が来れば、貝殻ビキニの時と同じく試着室の中でのみ我が身を晒す。
艶のある生地はチューブトップとショートパンツと面積控えめ。
その代わり、谷間やデコルテなんかは細かな編み目のレースが透けつつも隠してくれているのでご安心(?)。
極めつけには太腿に細いベルトとそれと繋がる網タイツ。
その上で、自前の角、翼、尻尾が揃い踏みとなれば、
「じゃじゃーん、どうです?淫魔のコスプレ……なんちゃって。」
ここ、笑うところです。
■武知一実 >
「別に思ったら言うだけなんだけどよ……
まあ、分かった。然るべき時っていつだ……」
前も似たようなことを別の人から言われた覚えがある。
別にいいだろ、好きなもんを好きって言ったって。それで何か迷惑掛かる訳でも無ェし。
「ここ来て初っ端に人に耳着けさせて笑った奴が言うか??
あ?……あー、うーん……あ、ジャージとかか」
パーカー以外に着るものと言えば、授業で使うジャージ。
あれならゆったり感は無いが、動きやすくて嫌いじゃねえ。
こう考えると、オレの好きな服装ってのは機能性に富んでるもの、って事になんのかね……?
「まだ誰とも知れねえ他人ばかりだから良いけどな、知り合いに見られたら小っ恥ずかしいだろうがよ」
仮装してる自分もだが、同じく仮装した淫魔に拍手されてる事も。
いや、本来恥ずべきことなんて何も無い筈なのだが、何と言うか、あまり知り合いに見られたくはない。
何故か……説明が面倒だから。そういう事にしとこう。
「やっぱり隣に居やがったのか」
試着室を出て待ち始めればすぐに声が掛かった。
カーテンから頭を出したリリィが手招くままに、其方へと寄っていけば。
光沢のある衣服に身を包んだ、リリィの姿。面積小さめだが今度はオレが選んだものではない。
人が着替えてる間に何選んでんだ、と疑問を口にする前に、リリィから“淫魔の仮装”と言われて。
…………。
「……お前なあ、コスプレったって淫魔の特徴はほぼ自前じゃねえか……!」
レッサーパンダがジャイアントパンダの着包み着るような真似をするんじゃねえよ。
そもそも淫魔って女性だけじゃねえよな?え?男の淫魔もそういう格好すんの?……!
「うわ……わ、悪いリリィ。ちょっと奥行ってくれ奥」
どうツッコんでくれよう、と考えるオレの視界の端に、知り合いの姿が映る。
幸い修道服が功を奏したか、一目でオレとは気付かれなかったようで。
しかし近付かれれば分からないと身を隠すべく、目の前のリリィの居る試着室へと逃げ込もうと。悪いリリィ、ちょっと詰めてくれ。
■リリィ >
「そりゃあもう、ラブがロマンスでランデブーなその時ですよっ!」
ぐ、っと拳を握っての力説から、解いた拳を組んでうっとりと表情を和らげる。
今ポンコツ淫魔の頭を割ったら、パステルカラーのピンクと点描に、薔薇とか百合とかの花が咲き乱れているのだろう。多分。
まあ、すぐにジャージという単語で現実へと引き戻されるのだが。
かく、と首を垂らして手を解く。
「ジャージでお洒落は……中々上級者向けなのではないでしょうか。
きっちり着こなした上で余程スタイルがよくないと難しい気がします。」
スレンダーでモデル体型の男女ならワンチャン?
少年のジャージ姿は……まあ、不良少年……ですよね……。
「そんなものですか?ばったりあったら一緒に仮装で練り歩こうぜ!みたいには?」
ならないのだろうか。ならなさそう。
コミュ力がないわけではないだろうが、自ら率先して催しに飛び込むようなタイプには見えない。
だからこそこうしてポンコツ淫魔が引っ張り出したわけだし。
「むー、滑っちゃいましたか。
残念……え? わ、ちょ、えぇと??」
なんて話がフラグになったか。
身を張ったギャグに笑ってもらえるかと思いきや、何処か呆れたようなツッコミに不満そうに眉を寄せていたところ、ぐいぐいと少年が試着室に押し入ってくる。
元より真正面に立たねば見えないように一歩引いたところに立っていたから、何が起こったか理解する間もなく追いやられてしまった。
着替えをする為の最低限のスペースがあるとはいえ、畳んだ翼は出しっ放しだし、足許や壁には脱いだ制服や衣装が置いてあってあまり余裕があるとは言えない。
多少なり身体が触れ合うことになるだろうか。
「どうしました?なにかありました?」
焦ったような少年の様子から、すぐさまに追い出したりはしない。
声を潜めて窺うように少年を見上げる。
■武知一実 >
「さっぱり分からん」
さっぱりわからん。
らぶがろまんすでらんでぶーでとぅぎゃざーしようぜ???
いや、最後のは違うな、言ってねえな。なんか語感的に出て来た奴だな。
ともかく、淫魔と人間とで認識の壁がだいぶデカい事を思い知った。
まだまだ学ななきゃならんことが多いな……異種族間って。
「まあ、だからオレぁあんまり洒落た格好とは縁遠いみてえだ。
……まあ、洒落た格好がしてえってワケでもねえし、今んとこはこれまで通りで良いんだよ」
それこそ然るべき時に改めて服屋に行けば良い事だ。
……然るべき時ってのが何だかは分からねえが、使い勝手は良いな。
「こういう行事は奴ら恋人と参加してえんだと。
オレが居ると変に気ぃ使わせちまうしな……それに、アンタといる方がオレも気ぃ楽だし」
イベント事の時くらいはあいつらにも気楽に楽しんで貰いてえし。
それに今年はオレぁ何もかも初体験なわけだから、説明を必要とすることもあるだろう。いちいちこっちの身の上を知らねえ奴らに説明役をさせるのも心苦しい。
「……わり、話をした矢先にダチの顔が見えた。
ちょっとどっか行くまで匿ってくれ」
リリィを押し込んでまで試着室へと入り、カーテンを閉める。
足元の衣装やリリィの制服を踏まない様に気を付ければ、自然と立てる範囲は限られて、リリィを壁際に追い遣る形となってしまった。
「そういや買い物に行くって昼に聞いた気がするが、まさか同じ店に来るとは。
大丈夫かリリィ、狭くねえか?」
密着……とまではいかなくとも、軽く体を寄せる態になりながら訊ねる。
それと……この服装、結構暑い。
■リリィ >
解せぬ……といった表情をするのが人の精気を糧とする淫魔で、
淫魔にそんな顔をさせているのが正真正銘の人間なのだから、珍妙極まりない。
と、突っ込んでくれるヒトはいないので。
「まあ、いいならいいんですけどね。」
極々軽い調子で〆とする。
先に告げた通り、着たいものを着ればいいって考えだった。
このポンコツ淫魔の場合だと、着れるものを着るという状況なのだが。余談。
「ああ~……。
ということは、今後もイベントに引っ張り出すのはわたしの仕事ですね!」
ふんすと鼻息を荒く舌のは試着室の外か中か。
カーテンが閉まる音がした。
鏡に体重をかけてしまわないように、鏡がなく、衣装をかけているわけでもない面を背にするとして。
「ん……それは大丈夫ですけど……。」
身動ぎ。
翼を消せばほんの僅かだが余白も生まれようか。
それでも身を寄せると一番飛び出てるところが真っ先に触れるのは必定。
「っ、」と、僅かに息を呑む音がした。慌てて赤らむ顔を背ける。
カーテン一枚隔てた向こうでは、少年のよく知る声が楽しげに衣装を選んでいる様子。
■武知一実 >
「むしろリリィはお洒落したいと思う方か?
まあ、その……バイト代貯まったりしたらだろうけど」
現状着れる物を着るを地で行く淫魔だけど、ある程度懐に余裕が出来たらどんな私服を選ぶのだろう。
さっきの話の感じだとジャージは着なさそうだ。楽で良いんだけどな、ジャージ。
「そうなる、のか……?
まあ声掛けてくれりゃ行くからよ、それからもな」
まあいずれはリリィにも友人が増えてそっちの付き合いの方が大事になるかもしれない。
そう言うときの為にオレもある程度イベント慣れしておかねえとな……。
「悪いな……あいつらの声がしなくなったら、すぐに出てくからよ
ちょっとだけ我慢してくれ……って、はよどっか行けよあいつら……!」
リリィの肩越しに翼が消えるのが見えた。少しでも空間を確保してくれようとしたらしい。
申し訳なさと感謝の気持ちですぐ試着室から出たいところだが、よりによってすぐ外で服選びを始めたようだ。
今出て行けば仮装して試着室の中で異性と居たという事実だけが独り歩きして尾鰭背鰭がついていつか遡上して産卵しかねない。
身体がカーテンに触れて変に揺らめかせたりしない様に気を付ければ、自然とリリィへ体を寄せる様になり。
重ね着の上からでも分かる圧が、オレの身体に当てられる。
……いや柔こいな、くそっ……。
緊張と仮装の暑さから首筋に汗が浮かぶのを感じる。
んん、そういや授業終えてからそのままここ来てんだよな……汗臭かったりしねえかな、大丈夫か?
■リリィ >
「わ、わたしですかっ?
ええと、そう、ですね……余裕が出来たらお洒落してみたいなぁ、とは、思います、ね……。」
上擦った声を上げた後ではっとした。少しだけトーンを落として話を続ける。
現状、黙っているのはなんとなく気まずいし、囁き声でもこれだけ近い距離なら聞き取るのにも苦労はあるまい。逆に外に聞こえる心配も多分ない……筈。
とはいえ、和やかに雑談を続ける、っていうのも変な状況だ。
顔を背けて目線を落とす。
黙ると余計に相手の存在を五感が拾う為、顔から湯気が出そうな有様に。
「ぅ……、」
小さく声を零して片足を退くと、先程まで身に付けていたつば広の魔女帽子を微かに蹴飛ばしてしまった。
慌てて姿勢を正す。
……こんな状況だが――否、こんな状況だからこそ、少年の緊張とその中にある仄かな気配に喉が鳴った。
衣装の端をつまんで引っ張り、少年の意識と視線を此方に向けんとして。
「かずみん様……あの……狭いとかはいいんですけど、
……その、おいしそうなにおいが――……、」
ぐぅ、と、極々控えめに腹の虫が鳴いた。
■武知一実 >
「そ、そうか……」
黙ってるのも気まずくなりそうで話を振ってみたが、状況的に雑談が続けられるわけもなかった。
変に囁き合うような形になってしまって、余計に気まずさが増していくような感覚に陥る。
結局、リリィは顔を背けてしまうし、オレもオレでどうしたら良いのか分からず膠着状態へと至ってしまった。
「………っ」
ああもう早く向こう行けよアイツらァ……
そんな恨みの籠った念を試着室の外へ向けて放つも、それで相手がどこか行くような便利な能力など持ち合わせていない。
外からは変わらず、楽し気なダチの声が聞こえてくる。
背後の同級生と、正面のリリィ。交互に意識を向けながら、壁についていた手を離し額と首筋の汗を拭う。
狭い試着室に人が二人入れば、そりゃ暑くもなるだろと自分に言い聞かせて緊張を解こうとするが。
そんな中、衣装を軽く引かれて、リリィへと目を向ける。
「何だリリィ、におい? 悪い、やっぱ汗臭いか……?
――じゃなくて、おいしそう? ンな事言われても、見ての通り衣装着てるし食い物なんて何も持ってない――」
隣の試着室に置いてきたボディバッグにはあるが、と続けようとしたところで、リリィの腹の虫の声と、
外から『試着も出来るみたいだし、してみよっか』と声が聞こえた。
小さな腹の音が外に漏れたわけでも、一目見て使用中と分かる此処に人が来る事は無い、と分かっていても反射的にカーテンから離れるべく体が動く。
―――むにっ。
背後を気にしつつ再び壁につこうとした所為か、目測を誤ったか柔らかくも重量のある塊に手を押し当ててしまう。
……いっ、何だこれ……柔……ッ!?
■リリィ >
「そうじゃなくてぇ……。」
情けない声が出た。
空腹を自覚するとそれは余計に加速する気がした。
腹部に力を込めてせめて鳴らないように努めてみても、堪え性のない腹の虫は主張を止めない。
唇を噛んで俯くが、如何やら少年の友人らは存分に祭りを楽しんでいる様子。
脳内で食欲と必死に格闘する最中、突然少年が大きく動く。
反射的に下がろうとするが、元よりギリギリまで壁に身を寄せていた。
故、その手をどうこう出来る筈もなく、
だが悲鳴をあげなかったことだけは褒めて頂きたい。淫魔だけど。
否、淫魔なのに、というべきだろうか。
胸を鷲掴みにされただけで、耳の先から首の裏まで、瞬時に沸くよう真っ赤に茹だる。
食欲と羞恥心が鬩ぎ合い、そして――……、
■リリィ >
「っそのままでいいですから……ちょっとだけ、食べさせて……。」
少年の手に自らの手を重ねて押し付けるようにしながら、もう一方の手は少年の肩に添う。
決して広いとはいえない試着室の中だ。片方が身を寄せれば逃げ場はあるまい。
背伸びをすれば、ほら、すぐにおいしいものにありつける、よね……?
■武知一実 >
事故だ事故、と主張するよりも掌から伝わる真綿よりも柔らかな質量に、とれる言葉も行動も失う。
まるで手が張り付いたかのように、手首から先がオレの意思を遮断しているかのように動かせず、ただ現状を冷静に認識していく事にのみ思考が割かれる。
「っ、悪いリリィわざとじゃ―――」
耳まで真っ赤になったリリィを見てようやく手を胸から離そうとするも、それよりも先にリリィの手が抑える様に添えられて。
もう片方のリリィの手もオレの肩に添えられる。添えられているだけなのに、その場に縫い付けられるように動けなくなり
「――――っ」
目を瞑る暇もなく、これまで幾度か経験したリリィの吸精の為の捕食行動を受け入れていた。
掌から暖かく柔らかな感触と共に、鼓動が早打つのが伝わる。
それに負けず劣らず、オレ自身の鼓動も早鐘のように脈打ち、自分の心音が耳の中で響いているかのようで。
回を重ねるごとに、オレは快楽を強く覚える様になっていることを改めて自覚した。
きっと、この変化を一番理解してるのは、目の前の淫魔だろう。
■リリィ >
胸を触られて恥ずかしいとか。
ワケあって変にピュアな少年の多感な時期とか。
布一枚隔てた外は若者でごった返しているだとか。
色々考えるべきことはあるんだろうが、プツっとキた今はどうだってよかった。
そんなことより、ただおいしいものが食べたくて、
だから。
金縛りにでもあったかのように動けなくなる少年を差し置いて、目を伏せては手と唇に柔らかなものを押し付ける。
手の方はすぐに力を抜いたから、振り解くもそのままにするのも自由だし、なんなら揉んだって吸精に夢中になってる淫魔から文句が飛び出すことはないだろう。
舌先で合わせ目を割って押し入ったら、そのまま歯列を柔らかくなぞる。
ひらいて、と、言葉なき主張。
叶えば当然のように迎える舌に舌を重ねて、擦り合わせるようにして擽り、若い精気を啜らんとする。
淫魔が聖職者を食物にせんとする茶番めいた姿は、鏡しか知らないから大丈夫。
■武知一実 >
手と口と両方で、融けてしまいそうな程の柔らかさを感じ。
狭い試着室の中、カーテン一枚隔てた外の喧騒すら耳に届かなくなるほど、意識が目の前の淫魔へと集中していく。
鼻腔を擽る甘い匂いに、唇で感じる体温、掌から伝わる鼓動。
そのどれもが強い刺激となって、腰から背筋へと、ぞくぞくとした悪寒の様に快感が駆け上がる。
何も、こんなところで……と思わない訳じゃないが、既に何度かの吸精を受け入れてしまっている体は極々当たり前のようにリリィの求めるがままに求めるものを差し出していた。
歯列をなぞられ、くすぐったさと共に小さく口を開ければ、トロリとした唾液を引き連れて柔らかな舌が口の中へと侵入ってくる。
小さな水音を立てながら口の中を我が物顔で蹂躙し、オレの舌を弄んでは精気を吸い上げて行く。
体の芯からぼうっと暖かくなったかと思えば、加速度的に熱は増していき、思考はゆっくりと鈍っていく。
気が付けば壁に当てていた手はリリィの腰に回され、胸に当てられた手は互いの身体に潰される様に逃げ場を失っていた。
試着室の中の音だけしか拾わなくなった耳が、水音と、息継ぎの時に漏れるオレかリリィか、どちらのものともつかない鼻に掛かった溜息交じりの声をやけに大きく捉える。
まさかこの為にオレに修道服なんかさせたんじゃなかろうな、と微かな疑いを持つことでギリギリ理性を留めていた。
■リリィ >
少年の興奮を悟れば、極々薄く開かれた瞳は恐らく横たわる繊月に似る。
(ああ、そっか。こうすればもっとおいしくなるんだ。)
何処か他人事めいた声が頭の中で響いた。
だから、別段それは気にするべき事項ではなくて。
何度目かの行為に未だ拙くもあるが、確かに応じんとするいじらしさにほんの少しだけ洩れた吐息は笑みが雑じる。
たっぷりと唾液を含ませた舌を絡める。舌先で上顎を擽る。
歯の裏を、舌の裏を――少年が一層悦ぶところを探るような動きが続く合間に、互いの呼吸と湿った音が重なっては外の喧噪に紛れて消えていく。
最後に此方へと誘った舌を吸い上げて、濡れた舌を舐め上げたら――ぽう、と惚けた顔が間近にあるのを知るだろうか。
「はぁ……おいしかったぁ……ごちそうさまでした。」
恍惚とした表情のままゆっくりと離れる。遠い出来事のような賑やかさもやがて戻ってくるはずだ。
腹の虫は静かになったが、少年の友人らの声は如何だろう。
■武知一実 >
始めの内こそまだ余裕はあったけれど、身体の内からゆっくりとリリィの方へと力が流れてゆくのを感じれば次第に余裕も失っていく。
気を抜けば膝が折れそうな程に足腰を始めとして全身に倦怠感が包んでいく。
すがる様に手に力を込めても、柔らかな塊に力を吸い取られるかのように指が沈んでいくだけで。
すっかりリリィに体を預けてしまっている状態になって、今回の吸精は終わりを迎えた。
惚けた顔を至近距離で見せられ、自分も同じような顔をしてやいないかと心配するとともに、
やっぱりこんな表情他の奴に見せられない、見せたくないと思ってしまう。
笑いそうになる膝をどうにか奮い立たせていれば、意識の外に合った店内の喧騒が戻り、その中に聞きなれた声は無くなっていた。
「……はぁ、はぁ―――お、お粗末様……ふぅ」
まだかろうじて足は動く、真っ赤に染まりきった顔を隠す様にリリィへと背を向けるとカーテンの隙間から外の様子を窺う。
……うん、やっぱりアイツらいつの間にか移動してたみたいだ。
十分に確認した後、オレは肩越しにリリィを振り返り、
「もう大丈夫みてえだから、オレ外に出て隣で着替えるわ
アンタも、制服に着替えとけよ……?」
さっきの事を思い出して、首から下へ視線を向けられず。
そのまま逃げる様にして試着室から転がり出た後は、隣の試着室へと転がり込む。
そして震える足を何とか踏ん張りながら、オレは修道服から着替えたのだった。
■リリィ >
毎度の事ながら、吸精後の差が激しい。
が、衝動的だったにしろ、先日のように立てなくなるほど吸ったわけではない。
震える膝を叱咤しているとは知らず、艶めくポンコツはドヤ!とした雰囲気を背負っていたとかいないとか。
「はぁい♪」
尻尾を上機嫌に振りながら、試着室から出ていく背中を眺める。
ぺろりと舌なめずりをしたのは恐らく見られていない筈だ。
その後は着替えを進めながらも、何度も先程の味を反芻していた。
おかげで随分マイペースな着替えになっただろうか。着脱の苦労が多い少年と試着室から出るのは殆ど同時だった。
見慣れた姿になった少年へにっこりと花が咲くが如き笑顔を向ける。
「じゃ、当日は魔女と狼男で問題ないです? 購入とレンタルとあるみたいですが。」
レンタルでいいかなぁ、って思ってたが、存外少年がそういうことに興味がある様子であったので、どっちがいいか首を傾げて訊ねることに。
■武知一実 >
脱力感と戦いつつ着替えながら思う。
吸精を受けるたびに、自分でも知らなかった自分の事に気付かされる。
その事は素直に感謝しているが、それと同時にリリィの事も文字通り身を以て知っていっている気がする。
ふと自分の掌に目を向ければ、
「信じらんねえくらい柔かったな……」
と呟きが漏れ、はっとなって首を振って要らん感想を追い出す。
いや、もしかすると真っ当に年頃男子の感想なのかもしれねえが、今此処で感慨に浸るのは違ェだろ。
どうにか着替えを終え、試着室を出ればほぼ同時にリリィも隣から出て来た。
来た時と同じ制服姿に、ほっとしたような、名残惜しさを感じ……ないないないない。
ああもう、と内心苦々しく思っていたけれど、満面の笑みを浮かべるリリィに絆されてしまうことも否めない。
「ああ。……どうせなら買ってこう。
別にコスプレに興味とかじゃねえからな、少しでも多く金落としてかねえと、あんな事してた罪悪感がパネェってだけだからな!」
魔女と狼男の仮装はオレ持ちで買うことにする。異議は認めん。
■リリィ >
年頃の少年の葛藤を知らず満足気に鼻歌まじり着替えを終えた後のこと。
少年の眼差しの安堵と落胆が垣間見え……たのにも、このポンコツ淫魔は気が付かない。
「それを言うならわがままを言ったわたしが購入すべきでは?」
わがままを言ったというか、半ば襲ったようなものである。
眉を下げて小首を傾げた。
だがまあ、しかし、ここは甘えておくのが男を立てるってことなのかもしれない。
2,3応酬を重ねるが、最終的にはお礼を告げて頭を下げることにした。
購入しない衣装は元に戻して会計を済ませ、店を出る。
陽が落ちるのが随分早くなってきた。
衣装の置き場の相談でもしながら、薄暗い帰路を共に辿るべく。並ぶ影がふたつばかり。
ご案内:「常世渋谷 中央街」からリリィさんが去りました。
ご案内:「常世渋谷 中央街」から武知一実さんが去りました。