2025/01/02 のログ
ご案内:「落第街_路地裏」に泳夢さんが現れました。
ご案内:「落第街_路地裏」にイスラさんが現れました。
■泳夢 >
落第街を裏通りを、その仄暗い雰囲気とは不釣り合いな車椅子が通り過ぎていく。
木製のレトロなデザインに、暗い色の車体。
それに乗る少女もまた、黒の衣装に白蝋めいた白磁の肌、そして白い髪をしていた。
作り物めいた関節球体の義肢と合わせれば、まるで車椅子に乗った西洋人形である。
「……つい来ちゃったけど、流石に先走っちゃったかなぁ」
そんな少女がこのような治安の悪い場所を進んでいるのは、端的に言えば好奇心の為。
いつぞやここで遭遇した先生に指摘されたように、"また"来てしまったのだ。
それも前回とはまた違うルート、路地裏を経由して"穴"へと向かう道の一つ。
最低限の人払い、隠密の為の魔術だけは施して、少女は密やかに暗い道を進んでいた。
■イスラ >
車椅子の少女の向かう先。
件の"穴"へと近づくほどに、その日は少し違う雰囲気が満ち始めていた。
不自然なくらい、見上げる空が、紅い。
あたりに自然のものではない、紅い霧が漂いはじめていて…それは"穴"へ向かう程により濃くなっていく。
暗い道を進めば、少女はきっとナニカを感じることが出来る。
なんとなく、理屈ではない──何かに誘われているような……。
この状況を怪しく、不安に思うよりも強く、少女を惹きつけるように。
それは路地の途中……入り組んだ、袋小路になっている、更に入り組んだ場所から、漂っていた───。
■泳夢 >
それを感じ取ったのは嗅覚や視覚、触角やらの五感ともまた違う部分だった。
ぞわぞわと身を竦ませるようなその感覚は、道を進むごとに増していく。
遂にはそれは視認しても分かるほどに。視界が紅く、それでいて肌を擽るような淡い寒気。
「……こっち、だよね」
誘われている。そう直感できる周囲の異常。
車椅子を進める道なりは、路地裏にしては異様なほどに無理もなく。
入り組んだ道…事前に調べた其れとも違う道をただ進む。
感覚を頼りに、惹かれるような方向にただ進む。
やがて、少女は辿り着く。"穴"へと続く、路地裏の終着点。
そこにあるのは鬼か蛇か、それと違う何者か。
いずれにせよ、少女は早なる鼓動を必死に抑えながら、其処に座す。
■イスラ >
「Bună ziua, păpușa trei」
そこに待っていたのは…聞き覚えのある声と、前に出会ったばかりの顔。
冥闇に佇む様に、打ち捨てられた木箱に座る、白灰の少女とも、少年ともとれる存在。
「ちゃんと会えるものだね♡
キミはキミの意思で此処へ来た。ワタシは嬉しいよ、泳夢♪」
にこやかな笑みを浮かべて、訪れた車椅子の少女へと笑いかけていた。
先の日に、体の不自由な少女を階段から突き落とした、張本人とは思えぬ程の馴れ馴れしさで……。
「どうして、此処に来たのかな?」
細い自らの顎先に指先をあて、問いかける…。
"ワタシ"が待っている…と、少女はきっと、なんとなくでも感じていただろう、と。
薄暗い路地でもはっきりとその輝きが見える黄金の眼は、静かに少女を見つめていた。
■泳夢 >
開けた視界の先。薄暗い闇の中に輝く金の瞳に、目を奪われる。
否、奪われたのはその言葉と、動きもだ。
高鳴る鼓動は、ここに来て更に激しくなっていく。
蒼い双眸の中に映り込む黄金の瞳に……少女は知らず知らずのうちに、魅入られていた。
「わ、たしは……。
ずっと……そう、ここに何があるのか、知りたくて──」
言葉を彷徨わせながら、少女はそう答えていた。
以前から、ずっと求めていたモノが此処にあると……そんな確信に導かれたのだと。
けれどもそう、それはきっと正確ではない。
或いはきっと少女自身にも自覚も、確信もまだないのだろう。
例えるのならば、それは無自覚な本能のように。
欠けていたものを求めるように、少女は突き動かされていることを、まだ知らぬのだ。
■イスラ >
少女の惑うような言葉を受けて、少女?は小さく肩を竦めて見せる。
「此処が、危険な場所だとわかっていても…ね」
「キミのその欲求の根源」
「ボクが教えてあげようか。泳夢」
もっと近くへ。
そう口にするかのように、小さく、手招き。
──少女の身体は、その誘いを危険と予感するかもしれないが──。
「此処に在るものがキミの求めているものかどうかは…おっと、それはまだいいね…?」
口を滑らせそうになった、とでも言いたげに。わざとらしく、白灰の髪の君は嘲笑う。
■泳夢 >
ドクリと、一段と胸が跳ねる音が耳へと届く。
この静かな空気の中であるのなら、目の前の少女?へと聞こえるのではないか、と言う程に。
知りたくないと言えば嘘になる。
あの日、突き落とされた時の言葉が、今も少女の中で渦巻いている。
まるで自らの事を”知って”いたかのようなあの口ぶりを。
ただ、知りたい。ただそれだけの感情が少女を支配していた。
「……あなたは、何者なの?」
だからそう問いかけた。
自らの事を知る、彼女の事を。
一歩、数歩。その分の距離を車椅子が前へと進む。
距離を詰めて、恐れながらも、その興味を止められない。
彼女を見上げる蒼の瞳は、震えながらも歪まぬままに。
■イスラ >
「キミのことを、キミよりもよく知る者」
淀みなく言葉を言い切る。
それはまるで、そう問われることを予想していたかのように。
くすり、と笑みを深め…そして破顔する。
「あっは、はははははっ♡」
「──なんて、ね…。
そういうことを聞いてるわけじゃないよねぇ。
キミはボクのことを覚えてない。
ワタシはキミのことをとてもよく知っている。
うん、実に気味が悪い♪」
見上げる蒼い瞳…。
震えている。本当は知るのが恐いに違いない。
だけど、問うてしまう…少女はその欲求を捨てられない。
「改めて自己紹介をしよう♪」
「ワタシはイスラ…。ヴラディスラウス・ドラクリヤ。
自らの拷問哲学と芸術作品を追い求める悠々自適なるヴァンパイアだ。
───キミとはこの島にやってくる前からの知り合いさ♡」
高らかに。
詠うように。
そう名乗りをあげる少女?の姿は…少女・泳夢の記憶のどこを探してもきっと見つからない。
けれどその身体に、不自由と不都合と、魔性を宿した白磁の肢体は──忘れられない何かを覚えているのだろう。
■泳夢 >
分かった上で言っているのだろう。
趣味が悪いともいえるし、彼女…イスラが口にする通り、キミが悪くて当然だ。
されど、その振る舞いすら不思議と不快には思わない。
馴染みがある、と言ってもいいくらいに、何故だかすっとそれを受け入れられる。
「イスラ…イスラ・ヴラディスラウス・ドラクリヤ…吸血鬼さん…で……」
それは彼女が吸血鬼だというからなのか。
否、きっとそうではない。
それを受け入れられるのはきっと──
「私の、知り合い……?」
その言葉が、紛れもない事実だから、なのだろう。
心がマヒしそうになるほどの衝撃を受けながらも、心のどこかで、少女は納得をしていた。
「なら……私が、”こう”なった理由も、しってるの?」
故に問う。問わずにはいられない。
抜け落ちた四肢。欠けていた記憶。
それを埋め合わせる答えが、そこにあるかもしれないのだから。
■イスラ >
「───……♪」
音もなく、木箱から立ち上がる。
路地の隙間から差し込む灯りは、少女?の影を地には移さない。
光が少女?の存在を認めていないと言わんばかりに、吸血鬼を名乗るイスラには…影自体が、なかった
愉しげにも思える軽い足取りの歩み。
車椅子の少女へと屈み込み…その顔はまるで、少女…泳夢へと口吻けるような距離…。
「そう…キミのことはよく知ってる♪
キミのカラダが、こうなる以前からね……♡」
吐息のかかるような距離。
イスラから漂うのは…甘くも感じる───血の匂い…?
「そうだよ泳夢」
「ワタシが君を"加工"したんだ…。
此処に訪れる前…この、愛らしいお人形さんのような姿にね…♡」
少女の頬を通り過ぎ、耳元へ…そっと、そう囁いた──。
■泳夢 >
仄暗いとはいえ、其処に差す光はある。
されどもその場に影はない。
イスラの下にだけ、それがない。
ああ、本当に吸血鬼なのだな…と。
そんな姿と、濃密に感じる”気配”から、少女は心の底から確信を得て。
目の前にまで迫るその姿へと、視線をずっと追っていた。
「………」
其処から続く言葉には、不思議と驚くことはなかった。
あらかじめ予感があったからか。
否、きっとそれは、その身体がどうしようもなく知っていたからなのだろう。
「何のために?」
だから、重要なのは──最もきっと大事だったのは、それだった。
何故に、人の手を借りねば生きれぬ身体になったのか。
何故に、自分は記憶すら無くしていたのか。
何のために、私は”加工”されたのだろう?と。
「あなたは……私を、どうしたかったの?」
その声は震えながらもハッキリと。
明確な意思を以って、問うていた。
■イスラ >
「キミが理想の素材だったから」
その吸血鬼は、悪びれもなくそう答えた。
少女の眼の前で、笑みを浮かべながら。
「ワタシはワタシの芸術を追求しているんだ。
長い時間をかけて完成を求めてきた…その礎になる最高の素材も、ね」
「その素材として、キミはとても優秀な素質があったんだ。
同じように加工した子達はみんな潰れてしまったけど、キミだけは違った。
絶望に落ちず、記憶を失くしてさえ、強かに生きる美しさを持っていた。
キミは記憶と共にボクの手元からは失われてしまったけど…こうしてまた会えた」
感慨深げに、感動的なまでの抑揚で吸血鬼は語る。
そして、我慢が出来なくなった様に、白蝋のような手指を伸ばし、少女の頭を優しく撫でようとする──。
「まだ疑問はあるよね…?
なぜキミが選ばれたのか──。
どうしてキミがワタシに加工されなきゃならなかったのか───」
再び、耳元へと唇を寄せる。
─────………。
……少女、泳夢にだけ届いた、言葉。
吸血鬼の語る言葉は真実か、それとも偽りか。判断する材料は…ない。
■泳夢 >
理想の素材。確か以前も、似たような言葉を口にしていた覚えがあった。
それは人に対して使うには、あまりにも非人道的。
モノとしてしか見ていないと公言するようなソレであるのには違いない。
普通ならば、それに恐れるか、怒るかをするのであろう。
人とは言えぬその扱いに、或いは困惑するのが常なのかもしれない。
「私は…アートの……素材……?」
だが──
「あは…っ」
少女の心の満ちたのは、違うものだった。
「そっか…そうだったんだ…。理由はあったんだ……。
……でも、うん。知りたい、知りたいなそれ──なんのために、加工したのか──」
それは喜び、歓喜の破顔。
輝いていると形容できるほどの微笑を、少女は見せた。
■イスラ >
「──まず一つの理由は…キミに類稀なる"才"があったからだよ、泳夢」
耳元で紡がれる吸血鬼の言葉…。
淡々としつつも、どこか懐かしむような──。
「君にも、君の家族達にも、とても素敵な"才能"があったんだ。
ワタシは、それを開花させてあげたかった。
もっと素敵な素材として花開くよう…色々なことをしたんだよ♪」
「四肢を切り落として…魔とまぐわせて。
魔に求められ、魔を虜にし…自らもまた、惹かれ…寄り添う。
そうしてキミは……ボクの最高の芸術品になる予定だった」
「──残念ながらその素材として開花したのは、キミだけだったんだけど」
少女…破顔する泳夢の後頭部にそっと手をまわし、優しく撫でながら──。
「ああ、でも可哀想に。
キミは変わり果てた家族の姿を見て、その記憶を閉ざしてしまった。
そして…何者かが私の下から事故を装ってキミを連れ去った。…ふふ、君の香りを辿れなければ此処で出会えなかったかもしれないね…♪」
──その言葉は、まるで刷り込みを与えられたかのように少女の中に何かに響くことか。
「だから本当に、また会えて良かったよ。
キミは、此処に来ても…何も変わっていなかった」
……それを確かめるために、あの夜に少女を突き落としたのだろう。
そう言って、大切なものに触れるように、そっと少女を吸血鬼は抱き締める──。
■泳夢 >
抱き寄せられたその身体は、決して人の温度を感じるものではない。
温かさなど欠片もない。血が通っているかすら怪しいもの。
されども、少女はその腕の裡に納まった時、確かに安堵を覚えたのだ。
「魔の……私が──」
語られるそれは、実に悍ましい事実。
自らの家族すらも、きっと彼女の手に掛かったのだ。
真っ当なものであれば、きっと目の前にいるのは怨敵だ。
仇であり、きっと殺意や刃を向けねばならぬ相手なのだ。
しかし、今の彼女の裡にあるのは、まったく別の感情であった。
「……私は、必要とされて……いや、今も必要とされている、んだよね?」
そこにあるのは、生きている意味があったという安心感。
何のために産まれたのかを知った、ただそれだけで……。
「うん」
これまでただ生かされるような日々が、報われたような気がしたのだ。
「そっか……。私……まだ生きていていいんだ…♪」