2025/01/07 のログ
ご案内:「落第街の一角」に大神 璃士さんが現れました。
ご案内:「落第街の一角」にハインケルさんが現れました。
■大神 璃士 >
日も沈んだ時間。
落第街のとある一角、人気の少ない通りにて。
「……大分、治って来たか。」
黒いシャツとジーンズに、黒いレザージャケットを着た男が、独りごちながら路地の端を往く。
先日の諸々で負った傷は、随分と癒えている。これなら明日明後日には
職務に復帰できるだろうと考えながら、軽く腹部を押さえる。
僅かに痛みはあるが、内出血などはもう痕も残っていない。
「………。」
腹に当てた手を、握り締める。
ぎり、と黒いレザーグローブが音を立てる。
思い返すのは、数日前の事件。
「………くそ。」
悪態を吐いて、思考を中断する。少し考えれば、どんどんと思考がネガティブな方向に転がっていく。
何故あんな男がのうのうと日の下を歩く事が許されるのか。
それを考えただけで、人間への不信感が増していくのが嫌でも感じられる。
自分でもよくない兆候だとは思う。
それでも、特に今日は良くない…ともすれば攻撃的な思考に囚われそうになる。
「――――ああ、そういえば、今日だったか。」
思わず空を見上げ、憂鬱そうに呟く。
視線の先には、真円を描き、光を放つ月。
満月は、身体能力や再生力を増大させるが、感情も増大し易い。
不信感や攻撃性が増してしまうのも無理はない。
「…………。」
自然の摂理故、悪態を吐いても意味などない。
傷の治りも早くなるのは寧ろ良い事だ。
だが、それでも今の心境に、真円の月は…少し堪える。
■ハインケル >
それは、きっと偶然に偶然が重なった。
落第街、あちこちに点在するはずの廃ビル。
そのうちの一つに、青年はおそらく視線を奪われる。
それは気配、というよりも、青年の持つ、種としての何かが反応し、感じるもの。
廃ビルは当たり前に荒廃し、普段ならば誰も近寄らない。
内部に貴重なものや金品なぞあるはずもないからだ。
けれど、そんな筈の場所に──。
踏み込むならば、更にその地下に、きっと感じるものが在る───。
まるで狼を誘うような、不可思議な気配が。
■大神 璃士 >
「――――――?」
奇妙な感覚。
何と言えば良いのか、言葉にするのは難しい。
敢えて表現するなら…「匂い」。
勿論、物理的に嗅覚に感じるものではない。第六感に感じるもの、と言えばいいのか。
己を引き寄せようとするような、そんな「匂い」。
「……今日は職務外だってのに。」
厄介事だとしたら、困った事だ。
だが、それを放り出すのは……何故か、躊躇われるものを感じる。
かつ、とブーツの音を鳴らし、勘を頼りに足を進める。
廃ビルの一つ。階層は…上、ではない、下。
下り階段を探し、降りていく。
(もしも荒事なら…気は進まないが、全力の「変異」が使える。
喰い破っていけばいい。)
用心を怠る事無く、しかし引き寄せられるように、人の身の狼は歩を進めて行く――。
■ハインケル >
裏切りの黒──。
落第街の地下にいくつか拠点を持つ、違反組織。
狼が嗅ぎ当てたのは、その一つ───。
といっても、重要拠点ではない、廃棄前提の拠点の一つだった。
地下には確かに気配があった。
しかし灯りは点いておらず、幽暗の中。
地下のただ広い、家具の散乱する中。
「───クゥ、ルル……ル………」
小さな獣が唸るような、そんな声が小さく小さく、響いていた。
■大神 璃士 >
「……。」
ただの廃屋、にしては、何かしら使われたような形跡を感じる。
しかし、生活感…というものは、あまり強くないような。
(何処かの違反部活辺りの、捨て地か何かか…?)
何かあった時、捨ててもいい拠点を持つ違反部活や違反組織は珍しくもない。
風紀委員にとっては、潰しておければちょうどいい位、といった程度の認識。
そもそも今日は職務外なので、いちいちそんな事に精を出す必要も理由もない。
この拠点の事は特に報告の必要もない、と判断しながら、黒いジャケットの男は地下へと降りる。
暗い。降りた先は電灯を消しているのか、あるいはそもそも通っていないのか。
家具が散乱する中、何かの声が聞こえる。
満月の夜は、意識して抑えないと大変な事もある程、感覚は鋭くなる。
此処に来るまでも、万一を考えて聴覚辺りは抑え気味だったが、
それでも小さな唸り声が確りと聞こえる程度には耳が良くなっている。
「……誰かいるのか?」
野の獣が入り込んだのだろうか、と思いつつ、声をかけながら両目に力を入れる。
瞬間、黒みを帯びた青い瞳は琥珀の輝きを放ち、暗闇をものともしない視力を得る。
これもまた、犬神――人狼としての力。
その目が見つけるものは、果たして――。
■ハインケル >
「───!!」
青年が声を発すると、その場の空気が一瞬にして張り詰めた。
誰かが侵入ってきた。
それを警戒した獣が臨戦耐性に入ったかの様にも思える──そんな剣呑とした。
──闇を見通す瞳が唸り声に向けられれば、映し出されるのはくたびれた毛布に身を包んだ、少女の姿。
月の光を映した様な金眼。鋭く見開いた双眸は、同じく闇を見通し──互いの視線を交差させた。
「……リヒ…ト…?」
どうして此処に、と狼狽を隠せぬ様子の少女は呼気を荒げ、まるで熱病に侵された様に震え、顎先にまで伝うような大粒の汗を滲ませていた。
「……す、すぐでてったほうがイイ…」
視線を外しながらそう続けた声もまた、記憶にあるものよりも遥かに、弱々しいものだろう。
■大神 璃士 >
「……ハインケル、か…?」
琥珀の瞳が見通す先。其処に居たのは、以前に落第街の路地裏で偶然出会った少女。
偶然か、あるいは何らかの導きか……同種、あるいは同属と言うべき少女。
だが、その様子は以前とは随分異なっている。
口の回る、快活な少女の面影はなく、毛布に身を包んで震えている姿はまるで病人だ。
「出て行くって……そんな有様を放っておけるか。
一体何があった。病気か――?」
息が荒い様子に、風邪か何かを疑い、黒いジャケットの男は震える少女に向かって歩みを進める。
――この時、男は完全に失念していた。
ひとつは、震える少女が自分と同じ…あるいは近似した存在である、という事に。
もうひとつは――今日が満月の夜である、という事に。
■ハインケル >
「なんでこんなトコなんかに……く、来るなってバカ───」
慌てた様子で更に声をはりあげて、静止を試みる。
近づく前、毛布に身を包んでいる少女の…その周りに、
脱ぎ散らかされた彼女のものだろう衣類に気付ければあるいは、状況を多少なり理解できたのかもしれないが。
「びょ、病気でも怪我でもない…から、近づいて来るな──」
少女の表情はやや険しく、鋭く釣り上がるように、睨みつけて。
──匂いに敏感なのであれば、同族なればこそ、誘われてしまうのかもしれないが──。
■大神 璃士 >
「何でって…妙な気配を感じたんだよ、此処から。
まさかお前の寝床だったとは思わなかったが…。」
そう言いながら更に距離を詰めれば、暗闇を見通す視界に入って来るのは、脱ぎ散らかされた衣服。
それらが、毛布を被る少女の回りに散らばっている。
「病気でも怪我でもないって…ならお前、この服とその有様は――――」
其処までを口にした所で。
…「ライン」を踏み越えた事に、「匂い」で気が付く。
嗅覚と――言葉にならない「感覚」に訴えて…否、誘いかけてくる、「匂い」。
途端、視界がぐるりと回転したかのような感覚。
「怪我の治療」に意識と力を大きく割いていた事もあって、結果的に
抑え込まれていた「感覚」が一気に強まる。
「ハイン、ケル…お前――そ、いう、事か…!」
ぞわり、と全身の毛が逆立つような感覚。
少し遅れて、身体が一気に熱を持ったように熱くなる。
……性欲、というには似ているようで、少し異なる、感覚。
より原始的・動物的な――「種を残す」という本能。
抑えられていた分、反動も強い。
思わず片膝を突き、深呼吸のように荒くなる息。
――同時に、黒いジャケットの男の方からも「匂い」が流れ出る。
嗅覚ではなく、より本能的な感覚を刺激してくる「匂い」。
それが、毛布を被る少女に与える影響は――未知数。
■ハインケル >
満月期の中でも、特別な時期だ。
黄金の瞳を通して見る月が朱く染まる、特別な月。
そういう月が、呪わしき血族には存在した。
誰も来ない筈の暗闇の中で一人、己を鎮め…過ぎ去るのを待つ。
少女は常々、そうしてやり過ごして来たのだが───。
「っバカ…なんで、近づいて……」
──以前、スラム付近で出会った時に、少し話した。
自分以外の同族と初めて出会った…と、そう言えば言っていた、ような。
「(──知らない、のか…)」
苦しげに金眼を細め、身動き出来ずにいる。
その間にも漂う匂いは強くなる、より、少女の華奢な身体を灼くように。
「──いいから、離れろってば…知らない、よ…どう、なっても…」
それでも長年耐え続けてきた少女の精神は鋼。
仲間に、住人に迷惑をかけぬように、こうして耐え続けてきたのだ。