2025/01/08 のログ
■大神 璃士 >
「………離れられるなら、そう、したかった…んだがな……。」
どこか荒さを隠せない、深い呼吸を繰り返しながら、何とか立ち上がろうと両手を突く。
――が、駄目。抑えきれない本能が、後ろに下がるどころか、より前に向かわんと、
黒いジャケットの男の手を前に動かす。
「……さっきから、お前の、「匂い」に…引っ張られる。
一人、だったら…何とでも、我慢、出来たが……。」
満月の日。男も、下手に出歩けば激しい欲求に襲われる事がある。
基本、住処に籠るか、どうしても出る必要がある時は、他所の事に思考や精神を割いて、
表側に出ないようにしていた。
――それで、何とかなっていたのだ。一人の時は。
……今回は、事情が違っていた。
目の前には、惹きつけるような匂いを放つ、可憐な女
その表情が、仕草が、吐息が、男の本能を激しく刺激する。
理性でどうにかなる範囲は、とうに踏み越えてしまっていた。
思考をまだ保っていられる方が、奇跡といえる。
ざり、ざり、と、這う狼のような姿勢で、黒いジャケットの男は確実に距離を詰めて来る。
その度に――男の「匂い」も増していく。
「……嫌だったら、振り払って逃げろ…。」
それだけを口にした、黒いジャケットの男の眼。
琥珀色の瞳が、燦然と輝き、言葉にする必要もない欲望を伝える。
――――お前が、欲しい。
■ハインケル >
「ば、ばか、我慢しろって…! 後から後悔しても知らないから…!」
雄に追い詰められるように壁を背に、毛布を被った少女は動かない。
本能に訴える、血の呪いが、抵抗…そして反抗する力を奪っている。
理性をギリギリまで、保っていられているのは少女のほうだ。
「(こ、こうなったら気絶させてでも…)」
眼の前の青年が理性を失っていることは理解る。
血の衝動に突き動かされてしまっている。
それは呪わしき種の必定───。
「(悪く思うなよ…)」
互いの距離が縮まり、触れられるような距離に近づく。
これ以上は、少女も保っていられるかが、わからない。
「───っ」
身体を覆い隠す毛布が翻り、鋭さをもった蹴りが一閃。
雄となった青年の側頭部を狙って放たれる。
■大神 璃士 >
――少女の判断はある意味では正しく、ある意味では間違っていた。
正しかったのは、「気絶させる」という判断。
気を失ってしまえば、一時的とは言え本能の昂りは収まってはいた事だろう。
間違っていたのは「不意打ちを仕掛けた」事。
少女が知る由もない事だが、先日、男は命の奪り合いに等しい戦いを行っていた。
その影響は未だに残っており――結果、「攻撃」に対する鋭い「反応」となって現れる。
「――ァアッ!」
吼えるような掛け声と共に、側頭部を狙った蹴りを腕を盾に止める。
…蹴りは拳より威力がある。代わりに、止められた時の安定性、言ってみれば隙に問題がある。
その隙は、男にとっては絶好の機会。
「…「逃げろ」って、言っただろうが…!」
その声と共に毛布を乱暴に取り払い、その下に隠れる少女に思い切り手を伸ばす――!
■ハインケル >
朱い月の影響で、人間の姿のままでも力は増大している。
それでも、昏倒を狙った一撃は受け止められた。──当然だ。同種である眼の前の男の力もまた、高まっている筈なのだから。
「あ……」
華奢な身体を覆っていた毛布を引き剝がされる。
あたりに脱ぎちらした衣服が示す通り、少女は裸体を晒す。
男好きのするカラダ…とは言い難い、発展途上の雌。
それを曝け出され、伸ばされてる手を振り払うことも、最早できる筈もない。
理性は残りつつも、獣の本能は、既に───。
「リヒトが…近づくから………」
それも、無理な話だっただろう、お互いに。
眼の前には、格好の餌が、獣にとって蠱惑的な香りを撒き散らしているのだから。
■大神 璃士 >
――月も目の届かぬ、廃ビルの地下。
その中で互いに向き合う、男と女。
発展途上とはいえ、暗闇でも映えそうな肢体を晒す少女に、普段であれば目をそらす筈が、
男は今や琥珀色の瞳を輝かせながらその肢体と少女の瞳を遠慮なく覗き込む。
最早少女にも届くであろう男の「匂い」と、先程から男の残り少ない理性を
削り続ける女の「匂い」とが、区別がつかなくなる程に交じり合う距離で。
――男はゆっくりと、だが力強く、少女を押し倒していく。
互いの吐息が肌にまで感じ取れそうな程に身と顔を近づけ、
男は今一度…今度は声に出して、女に告げる。
「………お前が、欲しい、ハインケル。」
■ハインケル >
「───……」
乱雑に家具と着衣が散らばる廃屋の地下室。
剥ぎ取られた毛布の上に組み敷かれる形で、押し倒される。
手首を押さえられ、その肢体を隠すことも出来ず───。
理解っている。
こうなったらもう、抑えは効かない。
互いに高まるものを放熱する以外に、揺らいだ理性を取り戻すのは難しい。
残り僅かまで削り取られた理性が告げる。
「………ヤダって言ったら?」
視線は逸らさずに、黄金と琥珀が交差する。
頬は紅潮し、小さな胸が上下するほど、呼気は荒く。
珠のような汗が滲み──それが更に、雌を匂い立たせている。
言い訳はいくらでも出来る。
でも、目の前の雄は…絶対に後悔する……。
■大神 璃士 >
「――狡い女だよ、オマエは。」
言外に、今度こそ振り払って逃げればいい、とでも言うような。
そんな一言。
ゆる、と、頭を動かし、男は少女の喉元に顔を近づける。
抵抗しなければ――襲って来るのは、愛撫するような優しさを伴った噛み付き。
甘噛み。狼にとって最も分かり易い愛情表現。
その隙を狙えば、跳ね除ける事も難しくはない筈。
――受け入れたなら、
互いに、もう引き返せない。
■ハインケル >
───、仕方ない。
苦しいのは、自分も同じこと。
衝動に身を任せれば、解放される苦痛。
逃れる手段が目の前にある。
獣として、自然なこと───。
苦しみを知るからこそ、跳ね除けられる理由がない。
「ぁ、ぐ───ッ」
どこか色の交じる小さな悲鳴。
首元に牙を突き立てられ、小さな小さな痛みに、華奢な身体が弓形に跳ねた。
■大神 璃士 >
少女が上げた、色を帯びた悲鳴。
そして、跳ね上がる華奢な肢体。
もう、互いに歯止めは効かない、後戻りも出来ない。
首元に優しく噛み付いた口がゆるりと動き、鎖骨をなぞり、慎ましやかにも思える双丘…
その天辺の突起を、順々に、優しく愛撫していく。
遠慮など必要ないと、もっと声を上げさせようと。
意地悪とでも言える程に、執拗に、優しく。
一通りの愛撫が終われば、男の顔は再び少女の顔へ。
「――可愛いな、オマエ。」
荒い息交じりにそう声をかけ、少女の唇に一度人差し指を。
指が離れなければ…次に訪れるのは、唇。
■ハインケル >
「──月の影響で、そう見えるだけじゃない? ……ん」
数時間。
あるいは十数時間。
身を灼く発情状態に独り耐えていた少女のこと。
青年の指が触れる場所はそれだけで、既に"準備の出来た"反応を返してゆく。
伝える言葉こそ、素っ気なくとも。
「──ふ、……ぅ、ん……っ」
指が唇を押さえ、鼻から抜けるような声が漏れると共に、唇を奪われる。
舌を伸ばされれば受け入れ、自らも伸ばし、尖った犬歯が傷つけないよう───。
■大神 璃士 >
「ん――ふ……っ…。」
軽い口付けだけでは収まらず、互いに舌を伸ばし、受け入れ、絡め合う。
舌は敏感。流石に下手に歯を立てて怪我をさせる訳にはいかない。
それに…そんな事をしなくても、十分に昂る事は出来る。
短いような、長いような、愛撫の時間の中。
既に男も、着ていた服を脱ぎ捨て、少女と同じく身に纏うものはなく。
服を着ていた姿からは、少し想像が難しいかも知れない、しなやかでありながら強靭な肉体。
鍛錬と、受け継がれた血が創り上げた、力強い身体。
既に、「雄」の部分は力強くそそり立ち、見ているだけで熱すら伝わらん程。
小柄な少女には苦しいのでは、と思える大きさのそれは、角…あるいは牙のような。
「――もっと、準備、要るか?」
この期に及んで、意地の悪いと言えそうな問い掛け。
■ハインケル >
「……いる、って言っても我慢できないクセに」
近づくことを止められず、
押し倒すことも止められず。
言葉で止まるような状態じゃないことはわかりきっているのに。
せめてもの理性というべきか、残っているのが余計に───痛々しい。
四つん這いに、小ぶりな尻を持ち上げるような姿勢。
華奢な肢体には大きすぎるサイズであっても、この姿勢ならばまだ。
獣の本能がそれを悟り、自然とそういう姿勢を取らせるのだ。
「──イイよ。お互い、もう我慢なんてできないしょ…」
■大神 璃士 >
「そう、だな――我慢なんて効かない所に来ちまった。」
姿勢を変える少女に合わせ、膝立ちの姿勢に。
後ろから圧し掛かる形になる。
……最も、獣らしい、交わりの姿勢。
既に用意が整っている、少女の秘所へ、男の怒張が狙いをつけ――――
「――――ッッ!」
水気を帯びた音が響き、互いが繋がる感触。
一息には貫かず、慣らすように、しかし力強く分け入る。
「……っは……!」
少しの間、挿入の感触を味わうように留まり……少女の腰に伸びた手に、僅かに力が入る。
それが合図のように、水音と共に、律動が開始される。
抉るような、熱を帯びた動き。
「――締め付けられる、オマエの、中…!」
■ハインケル >
「──だから、最初に離れろって、い…───」
言ったのに。
それももう、後の祭り。
こうなってしまえば抑えも効かない。どうしようもない。
「は、ぅ───♡」
行為が、始まる。
華奢な体躯にはキツすぎるような怒張。
それでも頑丈に過ぎる少女の身体が壊れることはなく、それを深々と飲み込んでしまえば…。
「……そういうのせつめー、されるとよけーにはずかしい……」
毛布に顔を埋めて、くぐもった声でそう伝えるのだ。
■大神 璃士 >
「…構わないだろ。誰も見てないし、聞いてない――っ…!」
毛布に顔を埋める様子に、繋がりが更に熱を増す。
ぐちゅり、と、より大きな水音。
「――それに、そんなしおらしいカッコされると、余計に止まらなくなる…!」
動きが変わる。
引いて突き上げる形から、奥深くまで突き込み、掻き回すような形に。
より密接する形になった事で、上半身を少女の背に近づける余裕が出来る。
「……もっと、激しくして大丈夫か?」
熱を持った囁きは少女の耳に。
背後から伸びる腕は、少女の胸に。
更にもう片方は――少女の股間、小さな陰核へと。
三方向から、同時に攻め来る愛撫。
力づく、乱暴でない事が、恨めしく思えてしまいそうな。
■ハインケル >
普段快活である分、
この特別な日は周りが心配するほどに大人しい。
しおらしい、などと評されるのも仕方はない、が───。
「(マジ恥ずかしいから無理─────)」
そもそもこの少女、こういった行為への免疫が皆無だった。
こう…普段はなんかえっちなノリで人をからかったりするのも好きだけど。
いざ自分にコトが及ぶことは全く想定してない上に、こういう己の獣欲以外のアプローチに本当に慣れがない。
故に、ただただ羞恥が高まってゆく…。
「が、我慢できなかったよーなくせに、何いまさら~……」
なので、そんな恨みがましい声なんかもあげてしまうのだが。
ただでさえ昂っている、火照りきった身体は青年の逸物と、加えられた手指によってより跳ね上がるような反応を見せてしまう。
■大神 璃士 >
「…まだまだ元気、って所か。
それじゃ、もう少しだけ――"深く"、行くぞ…!」
恨めしそうな声を上げる少女に、まだまだ余裕があると見た男。
ならば遠慮はいるまい、と…愛撫で中が柔らかさを増した事を確かめてから、
両腕を少女の下腹部へと回し――抜けてしまわないように注意を払いつつ、一息に持ち上げる。
結果、体勢が大きく変わり…少女は男の上に腰掛けるような形に。所謂、背面座位の体勢である。
当然、その体勢の関係から…より深く繋がり、突き上げる形に。
「――こっちも悪くない。オマエの体温が、しっかり感じられる。」
体勢が変われば、攻め方も変わる。
あるいは下から突き上げ、繋がるように。
あるいは前後に揺すり、かき混ぜるように。
時には後ろから胸を愛撫し、後ろから顔を伸ばしては少女の肩へと甘噛みを残したり。
種族柄、というべきか。激しい交わりを続けながら、まるで疲れる様子はない。
だが、疲労はなくとも――「その時」は、やってくる。
「ハイン、ケル――そろそろ、いく、ぞ…!」
その声と共に、突き上げが力と速度を増す。
己だけでなく、少女もまた、絶頂へと引き摺り上げんとするように――。
■ハインケル >
「わ、ぅ…っ」
ぐい、と身体が引かれる。
鍛えられ、呪わしき血と力すら持つ青年にとっては余りにも軽く、薄い身体。
抱え上げられてしまえば、逸物はより深く、少女の身体を穿ち──空気が押し出される様な声が少女の喉から漏れた。
されど、それは苦しげなものではなく──交わりを是とする嬌声の混じったもの。
交わり、火照りきった身体はそれを受け止めて。
熱は引かず、灼けるような焦燥感だけが、満たされてゆく。
種として定められた獣欲が満たされれば、耐える苦痛は薄らいで───。
「(──…そろそろ、も、何も……っ)」
実はもう何度も達していて、今更ではあるのだけれど──。
速度と勢いが増し、宣言通りの時が近づけば、より激しく、抑えきれない喘ぎ声が地下室へと響き、満たす──。
■大神 璃士 >
少女の喘ぎが響く程に、男の動きもまた高まり、激しさを増す。
嬌声と、荒い息遣い、激しく混ざり合うような水音。
それらが激しさを高めていき――そして、絶頂は訪れる。
「――――――――ッッ!!」
叫びとも、咆哮ともつかぬ声。
その男の声と共に、最高潮まで高まった熱が解き放たれる。
激しく、脈打つ感覚が少女の胎内へ。
――収まり切らなかった熱は、接合部から、粘ついた音と共に漏れ、床を汚す。
「………っ、は……ふ……。」
流石に達した為か、男は一時動きを止め、息を整えながら少女の鎖骨へと指を伸ばし、ゆるりとなぞる。
だが、その息遣いは…軽く息を整える、といった程度。
そも、今日は人狼に最大の力を齎す満月の夜である。
――力果て、燃え尽きるなど、まだまだ早い。
その証明に、一度精を吐き出した筈の怒張は、少女の中で未だその硬さと熱を保ったままだ。
「……まだ、いけるか?」
暗に、抱えている少女も燃え尽きていないだろう、と確かめるような問い掛け。
■ハインケル >
熱の高まり、そして吐精が終われば、少女の華奢な体躯はしばらく青年の上で丸まるようにして震えて。
──それから数瞬、荒げた呼気に交じるようにして、ぽつちと。
「…お」
「…落ち着いたなら終わり…」
はぁ、ふぅ…と呼吸の乱れたまま、じとりとした黄金色の視線が背後に向けられる。
理性で歯止めがかけられるなら、これ以上は不要だと言いたげな顔をしていた、が───。
「……はぁ…。オンナノコとする時のえちけっとも知らないの…」
ゆっくりと身を起こして、あまり力の入らない腰を浮かせて、逸物を自ら引き抜く。
……その様子、威容を見れば全く萎えていないことが理解る。
それは無理もない。この月齢によるものだと自身も理解っているから。
「…納めてあげるから。こういう日はゴムくらい持ち歩いてよね……?」
何度目かの恨みがましげな声色と視線を残して、頭を青年の股座へと、埋めてゆく。
どうすれば体の熱を収められるのか…知ってはいても試すのは初めて。
おそらく、相手もまた、そう。
不慣れな夜、独りきりで過ごさない紅の月の夜は、まだ長く、沈むまでに二匹の獣は、再び交じり合うことになるのだろう。
■大神 璃士 >
「……む、悪い。」
「そういうこと」への配慮の無さを責められれば、流石に謝らざるを得ない。
実際、使うような事態に陥る事が少ないからと携帯をしなかった自分にも落ち度はある、と。
肝心な所で抜けているというか、あるいは知識と実践がちぐはぐというか。
ともあれ、少女にゴムをつけられる体勢になれば、大人しくされるがままである。
先程までの激しさが、まるで錯覚か何かのように。
とは言え、その大人しさが直ぐに鳴りを潜めるのも、遠くはない事。
月の夜はまだ長い。
――どれだけの交わりを交わし、どれだけの絶頂を迎えて、互いの熱は収まったのか。
それを知るのは、互いに交じり合った二人だけ。
…交わりが終わった後に、少女の手に握らされるのは、住所の書かれた一枚のメモ。
学生街の居住区、その端の方にある安アパートの所在地と、部屋番号だった。
――もし本気できつくなりそうだったら、今日よりは丁寧にする、という伝言付きで。
ご案内:「落第街の一角」からハインケルさんが去りました。
ご案内:「落第街の一角」から大神 璃士さんが去りました。
ご案内:「Nameless karte」に麝香 廬山さんが現れました。
ご案内:「Nameless karte」に追影切人さんが現れました。
■『骸の騎士』 >
残滓殲滅のみならず、監視対象は所属的には風紀委員である。
当然、危険な違反者、怪異討伐もまた職務に含まれる。
落第街の最新部、月明かりも隠れる宵闇の中、唐突に廃墟の雑居ビルが崩れていく。
瓦礫と土煙を巻き上げて、起き上がる巨躯は鎧。
空気が歪む瘴気を全身から撒き散らす。
敢えて名称するなら『骸の騎士』装着者は不明だが、
死者を取り込む鎧は図書委員会にも封印していされている異物だ。
『……ハァ─────』
口元の髑髏から毒々しい瘴気は生者が吸えば害を生む。
もしかしたら、元一級の残滓もあるかもしれないとすれば、
『凶刃』が向かうのも必然だった。誰もいない二人きり。
化け物と化け物は、まさに激闘を繰り広げていた。
■追影切人 > 「―――…。」
崩落する雑居ビル、瓦礫と土煙が巻き上がり、地響きを立てて起き上がる巨躯。
弾かれるように飛び出した一つの影が、荒っぽい仕草で地面に着地する。
「……【七廻】の残滓…とは関係ねぇか。余計な仕事を回しやがって。」
自身が始末した三人の面影や能力とは違うし、他の四人ともおそらく違う。
気だるげに身を起こしながら、右肩にトンッと軽く担ぐように奇怪な鍔を持った橙色の刀身の刀を携えて。
「…報告だと…あー、【骸の騎士】…だっけか?まんまっつーか…。」
呟いて、左手でオモイカネを軽く一瞥して何やら操作。現れた結果を眺めて舌打ちと渋い顔。
「……こういうのは【化外殺し】の担当だろうが…あの女、捕まりやしねぇ。」
呟いて、やれやれと肩を竦め――いきなり、右手の刀を振り下ろした。
ただ、それだけの動作でいきなり空間が断裂し、骸の騎士を其の身ごと周囲の空間共々捩じ切ろうとする。
■『骸の騎士』 >
少なくともそこに残滓は存在しないが、既に逃げることは互いに出来ない。
背を向ければ互いに間合い。赤黒い瞳孔めいた光がどす黒く光る。
『──────!』
空間が、歪む。
堅牢な鎧が意図も容易く断裂していく。
血流めいた紫の瘴気が吹き上がり、周囲の瓦礫を溶かしていく。
力の差は明白ではあった。その理不尽な斬撃を避けることは出来ない。
しかし、その差にカマをかけたのが"慢心"に至ったのかもしれない。
『オォォォォォ……!!』
文字通り微塵と帰す寸前、不可視の斬撃が飛ぶ。
斬撃ではない、呪い、呪詛返しとも言えるものだ。
受けた"凶刃"そのものが跳ね返った。
塵芥と化すが、"凶刃"もまた、鮮血が弾けた─────。
■追影切人 > 「――残念だったな。テメェの呪詛じゃ俺を殺すにはちと足りねぇ。」
空間ごと、骸の騎士を捩じ切る。それは彼の騎士が放つ瘴気など容易く素通りして本体をバラバラに引き裂く。
以前の男なら、もっと派手に好き勝手暴れて…それこそこの一帯が更地にでもなっていただろう。
だが、今は違う。標的は明確ならば、周囲に余計な被害など出す事もせず――一撃で無駄なく仕留める。
無秩序な暴虐の刃の嵐から、研ぎ澄まされた一閃へ。そして、その一閃は刃嵐よりも鋭い。
――そして、微塵に散華する直前、骸の騎士が齎した不可視の斬撃。
…いや、知り合いに言わせるなら呪詛返し…滅ぶ間際の最後の一手という所か。
男は避けもせず、その斬撃を喰らう――ああ、文字通り歯で噛んで受け止めたのだ。
唇などが少し裂けて血が迸るが、意にも介さず――呪詛をそのまま噛み砕いて散らせる。
「…ペッ、最後の一手ならもうちょい気合入れて来い。」
血の混じった唾を吐き捨てながら、オモイカネを操作して”上”へ報告。
――の、筈が既に【偽全者】が報告を今さっき挙げたらしい。アイツ、ちゃっかり近くで見てやがったな…。
「…まぁ、これで終わりだな。さっさと帰って寝るか。」
なんて、刀を軽く振り払ってから肩に担ぐように持ち直して踵を返し――…
■因果応報 >
此れはただの斬撃ではない。呪い、呪詛である。
ガチリ、と噛み砕いた斬撃は口内を傷つけた程度で終わるはずもない。
確かに威力は噛み砕かれたが、呪詛は体に至った。
瞬間、その右腕が"弾けた"。否、斬れたのだ。
鮮血が花火のように舞い上がり、肘より先が宙を舞う。
呪詛となった、"凶刃"の斬撃をその身を以て味わうことになってしまった。
既に骸は塵と還った。後に残るのは自刃による鮮血と────……。
■麝香 廬山 >
「あれ、終わったんだ」
振り返る頃に、既にその青年はいた。
同じ第一級を関する監視対象、麝香 廬山。
にこやかな笑顔を浮かべながら、飛んできた腕をキャッチする。
「……随分と斬れ味はいいじゃん、誰にやられたの?」
心配することをそっちのけで、腕の断面を見ていた。
滴る鮮血に目を細め、注意深く見据える視線は何を見ているかはわからない。
「意外と中身は……人間なんだな」
■追影切人 > 「――…あぁ?」
呪詛を噛み砕いて散らしはしたが、呪詛は呪詛…そして、噛み砕いたとはいえ食らった事に変わりは無い。
その余波は体内を駆け巡り――男の右腕の肘から先がいきなり弾けた――否、斬り飛ばされた。
それを怪訝そうに、まるで他人事のように眺め…慌てず騒がず、左手でやがて目の前に落ちてきた己の右腕をキャッチ。
取り敢えず、刀を握ったままだったので、それだけ器用に引っこ抜いて小脇に抱えつつ。
「…成程、呪詛ってこんな感じなんだな。」
痛みを感じていないのか、どくどくと鮮血が垂れ落ちる右腕の切断面を一瞥して。
――と、掛けられる声に露骨に嫌そうに顔を歪めてそちらを振り返る。
「――【骸の騎士】とかいう、図書委員が封印してた遺物絡みのやつ。最後の呪詛でやられた、」
と、淡々と答えつつ――まぁ、そもそもコイツが誰かの心配をする訳も無い、と分かり切った表情。
「――いや、当たり前だろ。親の顔は知らねぇが種族的には人間だぞ俺ぁ。」
ついでに言えば、血液型も普通にある。肉体が人外だとか混血とかいうのは無い。
■麝香 廬山 >
「それじゃあ、ハズレだったワケだ。
まさに"骨折り損"だったね。トんだのは腕だけど」
人が聞けば笑えない冗談だ。
しかし廬山はさも当然のように言ってのけた。
仰々しく腕を広げたと思えば、顎に指を添え断面図と右腕を交互に見る。
「そりゃまぁ、呪いを体に受けたらそうなるよ。
むしろなんで避けなかったの?最悪死んでたよ?」
寧ろなんで生きてるんだろうな、という疑問が過る。
侮らない方がいい。呪いとは古来より存在する仄暗い神秘だ。
今や当たり前に技術として存在していると言っても、術によっては致死に至る。
その中で封印指定の呪物のものを受けて生きている。
規格外と知っていたけど、此れには苦笑しか出なかった。
「切ちゃんを迎えに来たんだけど……丁度いいかもなぁ」
しかしこれは、渡りに船だ。
笑みを絶やさないまま、ちょいちょいと手招き。
「人外バトルしてる監視対象がそれ言う?
ホラ、腕貸しなよ。繋げてあげるから。帰る前に、話したいこともあるしね」
「主に、凛霞ちゃんの事とか」
人に話題を乗せる方法は、まずは相手の興味の話題を出すことだ。
そこに座って、とその辺に転がる瓦礫を指した。
■追影切人 > 「…まぁ、生前の連中の見た目とかけ離れてるっぽいからな…正直、手掛かりがねぇと面倒。」
一人だけ――【白鯨】はこの前、監視役の妹と共に襲撃されたので、居場所の目星は付いている。
だが、残る六人についてはまだこれといった情報が手元にない。これでよく単独でやれと言ったものだ上の馬鹿共は。
「――呪詛を『理解』すりゃ完全に斬れるようになる。あのレベルの奴ならもう効かねぇよ。」
男の異能の特性は、対象を『理解』するほど切れ味が天井知らずに上昇する事。
噛み砕いて言えば、理解さえすれば”何でも斬れる”という事だ。勿論、今の男には制限があるが。
今食らった呪詛や――同等レベルのものなら、もう『理解』したので普通に斬れるようになる。
男からすれば、この麝香廬山という目の前の”同類”の方が規格外という認識だが…案外いい勝負なのかもしれない。
「…あぁ?オマエが迎えに来るとか訳わかんねぇな…案外ミズリ辺りが仕事柄来るかと思ったが。」
取り敢えず、無造作に切断された右腕をぽいっと彼に投げ渡す。自分の腕なのに扱いがぞんざいだ。
とはいえ、案外素直に知覚の瓦礫に移動して腰を下ろした。そもそも――…
「”相手を上手くこっちの話題に乗せるには、そいつの興味を惹く切り出し方が効果的”…だったか?」
嫌そうに口にしつつも、自分の【鞘】の名前を出されたら、無視も出来ない。
■麝香 廬山 >
存在に扱われた右腕をキャッチすると、パチン、と指を鳴らす。
すると、"空間が開いた"。境界線を操る異能による、次元の狭間。
はっきり言ってしまえば、この異能を使えば繋げることは容易だった。
「切ちゃんは痛くないし、麻酔はいらないよね?」
しかし、狭間から取り出したのは仰々しい機械とケース。
ケースが開くと同時に、薄いコートが広がり簡易的な無菌室が出来上がる。
そこに並ぶのは、数々の医療道具。ただし、大変容前だ。
とてもではないが、現代で使われるような代物ではない。
「移動するだけならボクが便利だからね。
キミが引き受けた"大仕事"だからね。上層部も時間が惜しいんでしょ」
くるりと指先で回したメスは、よく手入れがされていて汚れ一つもない。
まずは繋げる前に"整形"だ。切人に寄り添えば、その切断部位にメスを伸ばす。
一切の淀みも迷いもなく、精巧な手つきで損傷の激しい部位を削り落とす。
「流石は自分の断面、思ったよりも損傷部位は少ないね。
此れなら繋げやすそうだけど……ああ、ちゃんと教えたことは覚えてるね」
関心関心、とにこやかに頷いた。
「まぁ……それを踏まえて言えば、"切人"。キミはアホだ。
こんなバカ見たな後始末、どうしてすんなりと引き受けてしまったのかな?」
切断された右腕断面を整形しながら、じろりと相手を見据える。
■追影切人 > 「…つくづく、テメェの能力ってアレだよな…。」
あくまでほんの一端でしかないとはいえ。半眼でその光景を眺めつつも続く問い掛けに面倒臭そうに頷いて。
「…そもそも、麻酔の類はあまり効かねぇしな…昔、散々打たれたし。」
別に数を重ねても麻酔耐性が付く訳でもあるまいに、男の場合は本当に耐性が付いたらしい。
そして、廬山が取り出したモノやコートが広がる事で形成された簡易無菌室を一瞥して。
(…古い医療器具…大変容前の時代の道具か。)
そのくらいは一応馬鹿な男でも分かるらしい。
なまじ、最先端の医療機器などはそれなりに見慣れてるせいかもしれないが。
「――の、割には碌に情報回さねぇし…ああ、丁度いい。
オマエ、確か7人の内2人始末担当してただろ…その二人の情報何でもいいから教えろ。」
元・一級監視対象にしてその【残滓】…生前とソレは同一でありながら別モノだが。
それでも、大まかな情報は矢張り欲しい。男は自分が始末した3人の情報しか知らないのだ。
(…確かミズリの奴も【月蝕姫】を始末してた筈だから、アイツにも情報貰わないといけねぇんだよな…。)
ちなみに、残る二人の一級監視対象はその始末に関与していない筈なので除外している。
「…”周囲と目線を合わせろ”…と、慰安旅行で説教してきたのはオマエだろ。
俺なりの解釈で多少は考えたり覚えたりしてんだよ、これでも。」
元の【凶刃】には二度と戻れず、ならば別の形の刃を目指すと大口を叩いた手前。
少しは成長でもしなければ、鈍の刃で終わってしまう。それは我慢ならない。
「――理由は大まかに3つ。
一つ。他の4人は兎も角、俺が始末した3人がきっちり死んでないのは据わりが悪い。
んで二つ目。達成したら特級のババァが俺から奪った異能の一部を返却する通達を出した。
…これだけなら信用ならねぇが、ババァから直に聞いたからまだ信憑性はある。
三つ目は――…俺らの同類達が何を思って無様な状態になりながらもこっち側に戻って来てるのか。それが知りたい。」
淡々と口にする男は、何時もの仏頂面だったり憮然としたチンピラじみた空気も無い。
■麝香 廬山 >
廬山の目には、人よりも見え方が違う。
物事、概念の境界線。何をどう弄れば変わるのか、見えている。
だから寸分図るなど、意図も容易い事だ。
ギプスめいた器具に乗せ、切断部位を合わせ、骨を固定する。
本来なら繋げるために骨も削ったりするが、廬山には問題ない。
「能力だけなら、"普通"だよ。コレ位ならきっと何処にでもいるさ」
今更異能の強大さあり方などに興味はない。
ワイヤーめいた糸と小さな銀の針。
道具自体は古いが、素材は最新だ。
腕さえあれば、骨の接合さえ出来る代物だ。
「上層部の考えに興味はないけど、
本当に"凶刃"のことを使い潰す気なのかもね。
……多分、キミの今の姿は、監視対象としては好ましくないだろうし」
飽く迄そういう評価をするのであれば、だ。
喋りながらも指先の動きは一切ブレることはない。
当たり前のように針と糸が事細かに骨と骨と間を通り、接合していく。
「ボクの言葉を覚えた上なら……聞き方を変えよう。
ごめんね、どうして誰にも相談しなかったのかな?
わかるよ、第一級の扱いを考えれば、事実上の強制かもしれない。
けれど、向こうもバカじゃない。その場で"廃棄"するなら、もうやってる」
きゅっ、と糸を締め上げる。
その隻眼を覗く橙は、何処か冷ややかだ。
「頭を使いなよ、切人。はぐらかすくらいは出来たろうに。
……だからボクに虐められるんだよ、凛霞ちゃんがさ。
けど、どうだろうな。キミも凛霞ちゃんも、案外他人に興味ないのかな?」
「それならお似合いコンビじゃないか、良かったね」