2025/01/09 のログ
追影切人 > 「オマエみてぇなのが何処にでも居たら悪夢だけどな…。」

一瞬想像したら本当に悪夢だったので、渋い顔で脳内の想像を追い払った。
大人しく処置を受けているのは、業腹だがこういうのはきっちり仕事をする奴だというある種の信用があるから。

「――まぁ、道具として忠実なのは俺らの中だと…ミズリ辺りだろうよ。オマエや今の俺は勿論として、つるぎはあんな感じだし、キキもあれで”遊んでる”からな。」

――ただ、それぞれ別々の利用価値がある。その中で、自分が使い潰されるような扱いをされているのは。

(――与えられた仕事だけを淡々とこなす無味乾燥で、切れ味だけは鋭い刃を期待したんだろうが。)

法の正義――その盤石を崩さないための、”罪人”の再利用が自分たちだ。
別に、罪人がどうのこうのは今更だし、殺した奴の名前も顔も碌に覚えていない。
後悔は無いし、いずれ無様な死に方をするとも思っている。長生きは出来まい。

「……相談つぅかこれから話そうと思ってたんだよ…アイツとか、あとレイチェル辺りに。」

言い訳ではなくこれは本当だ。ただ、急に下された無茶な指令、更に間が悪くあっちが体調を崩していたのもある。
…それに、彼女の妹もケガ一つ負わせなかったとはいえとばっちりに巻き込んだ形だ。

――少なくとも、直に会ってきちんと話をする必要があるのは分かっているし、そのつもりでもある。

「……っ…!……興味がねぇとかじゃねぇよ。
そもそも頼り方っつぅのがよくわかんねぇんだよ…。」

他人に興味が無いかと言われたら否。だが感情を自覚したばかりの初心者は人への頼り方が不器用だ。
結果、それで余計な貧乏籤を引く羽目になるのだ。そこは分かっている。

「…あーいや、待った。今のは無し。言い訳にしかならねぇ。
頼るのが怖いんだよ。…別に何かを失うなんて今まで散々あったけどよ。」

健在な左手でくしゃり、と頭を掻き毟りつつ。こういう”弱音”は正直コイツに吐きたくなかった。

麝香 廬山 >  
続けて糸を通すのは腱、血管、微細な体の部位に指を伸ばした。
溢れる血液を気にせず両手に受け止め、真っ赤な両手があっという間に塞いでいく。
その速度と精巧性、その手の人間が見れば"神業"以外何者でもない。

「そうかな?案外、いっぱいいるかもね」

冗談とも本気ともつかない一言だ。
にこやかな笑みを浮かべて、わざと糸を締め上げる。
痛覚がちゃんとしてれば凄く痛いんだけどね。

「ボクは昔から変わらないさ。
 ボクが楽しい、面白いと思ったことをする。
 ……ずっと、変わらない。それだけはね」

どちらに傾くのも気分次第。
ある意味で最もで性質が悪い存在だ。
故に、能力は秀逸でも持て余す、"凶刃"と違う干された扱い。
使いっ走りの、便利な移動道具程度。別にそれに、文句はなかった。

「順序が違うなぁ、切人。
 キミが決めてしまったら、何のための監視員がいるかわからないな。
 まぁ、凛霞ちゃんも凛霞ちゃんかな。舐められているのはわかっているのに、
 キミを殴り飛ばして止めることもしなければ、もっと暴力的な訴えもしない」

いい子すぎるな。監視役に向いてもない」

余りにも正攻法、人間の善性を信じすぎている。
今の監視対象(ドウグ)の扱いを鑑みれば、強硬手段の一つ位は覚えるべきだ。
確かに面と向かって彼女を否定したが、廬山からすればどっちもどっちだった。

「…………」

その弱音を、笑いはしなかった。
気づけば最早接合部位も、後は肉と骨を繋ぐだけ。

「……今更喪失を恐れてるのかい?
 凛霞ちゃんを、キミの周りを?……笑いはしないよ。
 "人間"であれば、当たり前に持ち得る感覚だ。それで……?」

「その痛みを味わいたくないから、自分から壁を作っている、とでも?」

追影切人 > 「――ゾっとしねぇが……まぁ、案外そうかもな。」

別に、第一級監視対象という肩書がアレだが、自分たちは特別でも何でもない
むしろ、普通に愚直に頑張ってる奴らの方がどれだけ上等な事か。
…なんて、前の自分はそんな事をいちいち考えもしなかっただろうが。

(――思考停止してたんだろうな、っつぅのは今なら分かる。)

首輪で繋がれた罪人に未来も先も無い。使い潰されて利用されていずれ処分される。
遅いか速いかの違いで、処分されるのは皮肉にも平等だ。
ちなみに、痛みは感じているのだが、鈍っているのか慣れているのか顔色一つ変えない。
むしろ、鋭く抉り込んでくるようなコイツの指摘の方がダメージがあるくらいだ。

「――オマエとキキ辺りが悪巧みしたら面倒な事になりそうだな。」

一級の組み合わせで一番タチの悪いトップ2だ。考えたくも無い。
…そもそも、コイツは『六人目』と言えなくもない【不朽祭器】にちょっかい出したしな…。

「……わーってるよ。そこらも含めて一度きちんとアイツと話す必要がある。アイツの妹巻き込んだ詫びも含めてな。」

お互い、吐き出せるものはきちんと吐き出すべきだろう。
それで拗れたり、彼女が本当に監視役を下りるという事になっても――それが選択で結果だ。

「――あぁ、その通りだよ。…その当たり前の感覚ってのを俺は今まで知らなかった。」

喪失を恐れる心――それは弱さでしかなく、凶刃に最も不必要なものの一つ。
言ってしまえば錆でしかなかった――だが、今は違う。

「壁を作ってるつもりはねぇ…と、言いたいが実際そうなるんだろうな。
……あぁ、畜生め……。」

最後の悪態は己に向けてのものだろう。渋面で何やら唸っていたが。ゆっくりと息を吐き出して。

「――取り敢えず、アイツとはきちんと話す。まずはそれからだ。…で。」

廬山を隻眼で見遣る。黄金の瞳は昔ほどの切れ味鋭い無機質な刃ではないが。

「――お前”ら”の手も借りるからな。考えたらそもそも俺が仕留めりゃ別に単独である必要もねぇ。」

麝香 廬山 >  
神業とはいえ、突発的な治療行為だ。
すっかり両手は血まみれであり、指先に鮮血が滴る。
嫌な顔一つすらせず、気づけば既に皮膚の縫合は終わっている。
ピン、と糸を切れば後は固定し包帯でガッチガチだ。
"敢えて"、血まみれの手でやったので所々生臭い赤が滲んでいる。

「はい、コレで終わり。糸は勝手に分解されるから残らないよ。
 ……キミの回復力次第だけど、常人なら数週間はいるけどね」

少し右腕を動かせば、包帯の中で動く感覚はある。
ただし、つなぎ立てた。無理をすればまたプッツンだ。
きっと回復力は常人より高いだろうし、すぐ動くようにもなるだろう。
汗一つすらかいてはいない。手術(オペ)の集中力と体力は尋常ではない。
だが、廬山は涼しい顔のまま、彼の語りに耳を傾けていた。
相も変わらず笑みを浮かべたまま、何一つ言わない清聴。

「────驚いたなぁ、あの野生児からは聞かない言葉だ」

とてもではないけど、あの粗暴は"凶刃"のものとは思えない。
よりにもよって、監視役やその周りだけではなく、監視対象(どうるい)にも手を求めるか。
それがなんだかおかしくて、面白くてくつくつと喉を鳴らして笑っている。

「成る程、キミはそうなるのか
 いいよ、キミが行きたい道を行けばいい。
 人生は喪失とその補填の繰り返し……その痛みに慣れるか、受け入れ続けるかは人次第だ」

ボクはキミの怯えを弱さとは言わない
 感情と心は生きる上で健全な事だ。それに左右されることもある。
 ……大事なのは、立ち上がる事だね。歩き続けなければ、生きる意味はない」

山あり谷あり、人間一つの人生だって短いようで長いものだ。
刃は人の心を持った。それはより、人に近づいていく証でもある。
廬山は人の在り方を知っている。だからこそ、それを否定はしない。
人のままに、望むままに進むのなら、慣れぬ痛みに悶えればいい。
それこそが、生きる証になり得るのだから。

「……まぁ、それはそれとしてもうちょっと"興味"を抱くことかな。
 会話をしなよ、会話を。相手が興味あるもの、趣味としているもの。
 知っていることは何でもいい。自分から、他人のことを聞くことだ」

血まみれの指先を宙に泳がせば、のっぺりとしたマスコット。
彼の周りの人間が好まれる"ネコマニャン"と呼ばれる存在が描かれた。

「それこそ、キミは知らなかったろう?
 ボクが医学にも精通してる上に、こんな神業(ゴッドハンド)だと言うことをね」

そういうことさ、と何処からともなく取り出したハンカチで手を拭う。
言わずもがな、知れば知るほど喪失の痛みは大きくもなる。
人となり得るなら、必要な痛み(コラテラルダメージ)からこそ敢えて説いた。

「……さて、ボクの手を借りたいっていったっけ?切ちゃん」

追影切人 > 何か所々が血でべとべとだが、絶対にコイツの事だからわざとだろう。
これだけの腕前なら、そんな不衛生なヘマをそもそもしない。
彼の言葉に従い、僅かにだが右腕を動かしてみる――神経組織も筋肉も問題無し。
時間を掛ければ回復するのは間違いない。この男の場合、回復力が常人を超えているので数週間はかかるまい。
とはいえ、流石に暫くは右腕は包帯ガッチガチであまり動かせないが。

「うっせぇな…昔とはとっくに変わってるのは俺自身が一番理解してる。
…とはいえ、俺自身の”根底”は多分物心ついた頃から変わってねぇ。」

誰であろうと、何であろうと。関わったモノは最後は必ず斬り捨てる。
…それは衝動とか感情とか思考とか、ましてや自動的な無意識の所業でもない。
この男が生まれたその瞬間からずっと背負い続けている業とも言えるもの。
これをどう乗り越えるか――きっと、これから先ずっと考えるべき男の命題だ。

「――歩く事は止めねぇよ。ただ、何も考えずに斬りたいだけで刃を振るうのはいい加減、そろそろ卒業しなきゃって話だ。」

剣術を学び始めたのもそう、少しずつだが周囲と話をきちんとするようになってきたのもそう。
――ましてや、”同類”にすら頼る事を躊躇しなくなったのもそうだ。
刃としては鈍ってしまっていても、人間として成長はしている。
――それを踏まえて。感情ある刃である事を男は決して諦めてはいない。

「……何かちょいちょい見掛けるなその猫っぽいの。」

ちなみに、とある理由で男は小動物――特に猫が苦手である。
若干何とも言えない表情でその描かれたマスコットを眺めていて。
…もしや、これ凛霞とかレイチェルとか、下手すりゃ真琴辺りも好んでるのか…?

座っていた姿勢から立ち上がる。小脇に抱えていた刀も背負い直す。
これも、”あのバカ”から己の意思で勝手に引き継いだ感情の一端だ。

「おぅ、取り敢えずオマエが仕留めた二人。さっきも言ったが情報が欲しい。特に能力。
あと、俺が知る奴で超長遠距離攻撃が得意な【残滓】が最低一人は居るから、そん時に俺を”飛ばして欲しい”。」

要するに、間合いを詰めてぶった斬りたいから能力で至近距離に送って欲しいという事らしい。
残念ながら、制限された今の男の異能では距離がありすぎると能力もいまいち効果が出ない。

「――まぁ、取り敢えずそんな所だ。他にも追々頼み事は増えるかもしれねぇが。」

見返りは?さて、特に無いがまぁそれはその時に考えよう。
むしろ、どさくさに紛れて俺以外が始末しても別にいいんじゃないか?と、思いもするが。

(――いいや、最後の始末は俺の手でする。)

誰に言われたからとかではない、そうしないと掴めない気がするから。
空振りになるかもしれないが、かつての同類…その残滓を斬る事は無意味ではない。

「…取り敢えず、そろそろ戻ろうぜ。面倒だが報告――…キキの奴がやってたっけか。」

アイツに変な借りとか作りたくねぇな、とかぼやきつつぼちぼち退散する頃合だろう。

麝香 廬山 >  
「……きっかけはその"目"かい?
 確か潰したのはレイチェルちゃん……だったかな?
 まぁ、何であれキミはこれからだろうねぇ、切ちゃん」

「近い内にきっと、キミ自身の"在り方"に悩む日はくるだろうけど、
 生きるっていうのはそういうものさ。本当に頼る時は、その時だろうね」

トントン、と自らの瞼を小突いてみせた。
気づいているかはさておき、恐らくそこから道は変わり始めた。
献身的に接していた周りのおかげかはさておき、自ら苦難の社会性に飛び込んだ。
実に興味深い。何れどうなるかだけは、見届けておきたい。

「ネコマニャン知らないの?
 今度話題に出してみると良いよ。キミの思うよりは食いつきいいから」

そう言うと同時に投げ渡すのは、二枚のカルテ。
そこに名はない。ただ記されているのは、患者の情報。

「『白鯨』と……『磔刑』だったかな?
 正直殺した相手のことは、余程面白い相手じゃない限り覚えてないからさ。
 一応、カルテとしては残しておいたよ。まぁ、使うといいさ。ボクの記憶違いでなければ、ね」

他人のことを知り、記しておく。
数多い廬山の持つ趣味のなかでは、ずっと長く続いている。
少なくともその二人は、廬山の琴線には触れなかった。
最早文字(インク)の存在と相違無い。
興味なさげに流し見すれば、空をなぞり空間を割く。

「キキちゃんも待ってるしね。
 ま、その時はちゃんと協力してあげるから帰ろうか」

「おかえりはこちらです……ってね?」

追影切人 > 「――俺が自分で心当たりがある範囲では”そこ”だな。」

少し考える間を置いてから…ゆっくり頷いた。
あのタイマンで負けた時から、この【凶刃】は人の道を歩き始めたと言えなくもないだろう。
まぁ、それはそれとしてアイツには何時かリベンジはするつもりだが…。

「――馬鹿な俺にもそれは何となく感じてる。…まぁ、どのみちいずれ必ずぶつかる問題だろうしよ。」

先延ばしにしても、何処かで必ず突き当たる己の業の問題だ。答えを出せるのはまだまだ遥か先だ。
人生の分岐点はあの時に。そして分岐した道を進んだ先が今で――更にその先は?さて、その答えが出るのもまだまだ先の話だろう。

「…マジかよ…どんだけ人気なんだよ…。」

あちこちで見掛けるとは思っていたが、そこまで食い付きいいのか…そうか…。
猫が一番苦手な男からすると、いまいち良さが理解できないのだが…。
投げ渡されたカルテを左手で受け取る。【白鯨】と【磔刑】…ざっと目を通して。

(白鯨と磔刑、月蝕姫、…で、地均しと天征翔と…幻想恐獣…これで6人。)

【残滓】出現の元凶とも言える最後の一人、【悪聖因死】の情報が足りないが、こいつはどうせ最後になる。

受け取るものは受け取った。ミズリからも一度話を聞いてから、仕留める順番を考える必要がある。
その際、協力を仰ぐ必要も出てきたら素直に頼る…事を忘れてはいけない。

カルテは無造作に懐に仕舞い込んでから、廬山が用意して空間の裂け目に踏み込みながら。

「――ああ、一応言っておく。…”ありがとよ”。
オマエの事は昔から苦手だしこれからも変わらねぇし、理解できねぇ所も結構あるが。」

素直に感謝する。当たり前のようでいてこれは大事な事だとも学んだ。
そう、彼に軽く礼を述べてからこの場を後にするとしよう。

――さて、まずやるべきは―――【鞘】との対話、そして腐れ縁への協力要請だ。

ご案内:「Nameless karte」から追影切人さんが去りました。
麝香 廬山 >  
「……ありがとう、か……」

ぼんやりと呟き、踵を返す。
人の門出にケチをつける気はない。
それは祝福されるべきだ。面白ければ、万事それで良い。

退屈は、許されない

「にしても、ボク等を管理する上層部(ウエ)もつまらなくなったな。
 ……長年監視されてあげてたけど、そろそろ見切りどきかな……切ちゃんも、前に進み始めた」

形骸化し、今や鉄砲玉扱いだ。
はじめは面白いこともあったが、ここが見切り時かもしれない。
自らの制御装置(アクセサリー)をなぞれば、にやりと笑みを浮かべる。

「なべて世は、事もなし」

見せてくれ、凶刃。キミの生き様を。

ご案内:「Nameless karte」から麝香 廬山さんが去りました。