2026/02/19 のログ
火倉 刹那 >  
「………」

大きく、ため息をつく。

別にそれを知られたところで何がある、というわけでもない。
ただ、この『余計な世話』を焼きそうな先輩が、後々自分の仕事の障害にならなければいいけれど。
そんな言葉にすることは憚られる、漠然とした危機感。

「…もう構いませんか。
 理解はしていただいたようですし。
 ご覧の通り、涼しい顔で動き回れるので業務に支障はありません」

「心配は不要です。
 支障があると判断したら他の者に任せますので」

大神 璃士 >  
「火倉。」

少女のそっけない言葉に返る言葉は、ひどく冷えた雰囲気の声。
先程までの熱を伴った鋭さが、嘘のような。

「――俺は、お前が強い人間だと思っていた。
異能もだが、「人間」らしい容赦の無さも含めて、風紀委員として、得難い実力者だと、そう思っていた。」

その目は、ひどく人間らしさの少ない――野性の獣じみた雰囲気を、漂わせている。

「その認識は、どうやら修正しなければいけないようだ。
お前は弱い。生物として、致命的に、だ。

お前の痛覚障害が、事故によるものか、あるいは望んでのものか。
それは俺には分からん。掘り返す気もない。

だが、痛みが鈍い、あるいはまるで感じないお前は、生物として、ひどく危険な弱さを抱えている。」

火倉 刹那 >  
もう構わないかと。
そう思い背を向けようとした矢先。

冷えた声色が名を呼ぶ。

「………」

告げられた言葉は……。
まぁ、理解らなくもない内容である。
意外というほどでもない。

「それで構いませんよ」

「弱い人間である私でも多くの異能犯罪者を処分することは出来ます。
 鬱陶しい連中(違反組織や違反部活)の根城を灰にすることも。
 私は私を強いとは思っていませんし、弱いという自覚もありますので、問題ありません」

踵を返し、背を向ける。
そして、視線だけを振り返らせ。

「それとも」

「そのようなくだらない理由で私の仕事を奪うおつもりですか?
 …さすがにそのような申請は特別攻撃課には通らないと思いますが」

大神 璃士 >  
「くだらない、か。」

少女に返す言葉は、やはりひどく冷えている。
容赦のない自然環境のような、突き刺すような冷たさ。

「火倉、何故「痛覚」なんて感覚が人間に、いや、生物にあるか、分かるか?
「危険」を自覚させる為だ。

これだけ痛むなら、危険な大怪我だ。
傷もないのにこんなに痛いなら、大変な病気かも知れない。
それを自覚させて、対処する為だ。

それを痛みとして感じられないお前は、気が付かないまま病気を患い――それが重症になっても認識できず。
突然、身体が動かなくなっても、まるでおかしくない。」

ゆらり、と、紺碧の瞳から、獣のような眼光がちらつく。

「――それに、知っているか?
捕食され易い個体は、まだ幼い個体、逆に年を取って動きが悪くなった個体、
そして、病気や怪我で弱った個体だ。
そう――今のお前のように、な。」

軽く手を振る。その仕草が、まるで獲物を狙う野の獣のような。

「風紀委員は、命がけの仕事だ。
行方不明者が出たら、捜索や痕跡調査も必要になる。

お前はくだらないと言うが――もしお前がこの後巡察に出て、そのまま帰らなかったりしたら、
他の委員にどれだけの皺寄せがかかるか、分かっているか?
下手をしたら特別攻撃課の管理問題にもなりかねない。

自分一人でどうとでもなると思い上がるのはやめろ
でなければ、」

その声と共にゆらり、と、黒いジャケットを着込んだ姿がゆらぎ、

大神 璃士 >  

         「気付かない内に喰い殺されるぞ。」


大神 璃士 >  
瞬間。
まるで一歩で、瞬時に距離を詰めたような動き。

伸ばされた右手は、少女の首にかかる直前で、止められている。

少女の目を見据えるのは――まるで、人の形をした、獣のような眼光。
否、その身体に、まさに巨大な獣の幻影が重なっているかのような。


痛みを意に介さない少女に、果たして感じられるだろうか。
より原始的、根源的な恐怖。喰う者と、喰われる者。生命の歴史そのものだ。

火倉 刹那 >  
「構いませんよ」

少女は、まるで動じなかった。

その言葉にも、行動にも。
それは危機感の薄れから感じていない、といった類のものではなく──。

「私が死ねば当然迷惑はかかるでしょう。ご苦労さまです。
 しかしそれも残された者の仕事であり業務。
 私の同僚が命を落とし、私が迷惑を被ったとしてもそれは同じです」

「私がその程度も加味せず特別攻撃課に身を置いているとお思いですか。
 大神先輩が如何な人生を歩んで来たかは存じませんし、問うこともしませんが…。
 この課の人間に、薄く浅はかな思想で仕事している人間などはいないかと思われます」

「ご指摘頂いた気遣いには感謝を。
 しかしそれは、もうとうに通り過ぎた部分です。…まだ、御用は御座いますか」

大神 璃士 >  
「――――――――」

静寂。
数秒にも、数分にも思える時間が過ぎ。

「……覚悟は決まっている、という事か。」

ふ、と、空気が揺らぐ。
巨大な肉食獣のような気配は幻のように消え失せ、青年の伸ばした手は少女からゆらりと引かれる。
そのまま、すい、と、青年は少女の横を通り過ぎ、部屋の入口へと歩みを進めていく。

「「赤」を着る者としての、覚悟が決まっている事は認める。
その上での行動なら、好きにするといい。
――くれぐれも、足元を掬われないようにな。」

がちゃ、とドアノブを捻る音。其処で一度足を止め、振り向かないままに。

「……覚悟が出来ている事は認めるが、残される者の事も考える事だ。
人間は存外、感傷的な生き物らしいからな。例え、業務上の付き合いだとしても、だ。」

そんな言葉を残して、青年は一足先に部屋を出ていこうとする。

火倉 刹那 >  
「深い関係になることは避けていますよ。
 そのような感傷で動けなくなるほど軟弱な人間は、特別攻撃課にはいないでしょう」

「例えそうであっても自らを奮い立たせ正義の名のもとに歩み続ける。
 年端も往かぬ生徒の身の上であっても、従事している仕事は大人のそれ」

軟な感傷など踏み越え歩む。
その覚悟があってこそ、この赤い制服を羽織る資格がある。
──少なくとも、少女はそう認識していた。

「そうですね」

「残される者のことを考えて歩みを止めるような者がいたら、転属することをお勧めすることにします」

部屋をでてゆく背に投げかけられるのはそんな言葉。

「ああ、それと──」

「一つ余らせていました。どうぞ」

呼び止め、すれ違うようにその横を通り過ぎて部屋を出る。
そのすれ違い様にポケットから取り出し渡したのは安物のチョコレート。

「気にしていただいたお礼です。それでは」

やはり淡々とした声色を残し、彼よりも先にと、その場を後にすることとした。

大神 璃士 >  
「………。」

渡されたチョコレートを手に、黒いジャケットの青年は無言で先に退室する少女を見送る形に。
その姿が見えなくなってから、青年は小さく息を吐く。

「――本当に、余計な世話だったな。」

余計な世話を焼いたものだ、と、自分でも思っている。
あの少女の性分と、何より彼女が使う異能は、本能的に忌避感を感じてしまう。
兵器を呼び出し、焼き払う異能。
鉄の炎は――それを作った人間を含め――多くの野の獣を駆逐して来たものだ。
そして、違反組織や違反部活を、関係のない者まで巻き込むやり方は、正直認める事が難しい。

――だが、それも自分の主観の事である。
押し付けたりするのはお門違いも良い所だ。

「……難儀な性分だ。」

自分と少女、双方のそれを、思わずそうぼやいてしまう。
「らしくない」真似だったかも知れない。
互いに意味があったのか、なかったのか。それもわからない。

だが、意味があろうとなかろうと、「人間」はそう動く者とているものだ。

「それらしい事」が出来ているだろうか、と考えながら、青年もまた、電気を落として部屋を後にする。
ポケットの中に仕舞った、安物のチョコレートは――明日にでも食べる事にしよう、と考えながら。

ご案内:「風紀委員会本庁・夜」から火倉 刹那さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁・夜」から大神 璃士さんが去りました。