2026/02/26 のログ
■天琴 衣詞 >
天琴の家の者は、受け継ぐ神器の特性ゆえか、総じて耳が良い傾向が強い。
その中で、「最高の器」として仕上げられた少女のそれは、常人のそれを凌駕する。
(男の声…数は三。
どうやら、中に入られては困るらしい。)
少しばかり思案。
さて、こういう時は――――
「…ごめんなさい、生徒手帳を…忘れてしまったかもしれなくて。
えっと、教室の、一番窓際の、前から3番目の、机なんです、けど。」
声色を少しばかり弄り、気弱そうな少女の声。
元来声は高い方、中学生か、下手をしたら小学生にも聞こえるかもしれない、
気の弱そうな少女の声が扉越しに室内の者達に届くだろうか。
(――さて。この合間に、だ。)
ドアを開けて貰うのが理想だが、最悪、少しでも時間が稼げればよい。
精神の集中を高め、室内の気配を更に強く探りに向かう。
中には他に、誰かいないか? 邪なものは、感じられないか?
そこに、強く集中を向ける。
■伊都波 凛霞 >
『…どうする?』
『探してさっさと帰ってもらえ」
凛霞を押さえつけている生徒が顎先で伝えられた机を探るように促す。
『しょうがないな。探してやるからちょっと待ってろ』
一人が凛霞から離れ、窓際の三番目の机へと向かう──。
──部屋の中にはもう一人。弱々しい気配が感じられる。
中の男子生徒三人から感じられるものは、悪意、悪意、悪意。
通常ならあり得ないほどに増幅された悪意が人を動かしているかのような──。
「───」
誰か、来た…?
口を抑えられた少女の意識がそちらへと向く。
「ぅ、ん───、ぅぅぅ…!!」
痙攣する声帯で上げられるのは小さな呻き。それが精一杯。
■天琴 衣詞 >
(――――"聞こえた"。)
明確に感じられる3つの気配。
そこから感じるは、悪、悪、悪――取り憑かれたとしか思えぬ、悪しき想念。
更に、その悪の念に飲み込まれてしまいそうな、弱々しい気配と――
(――娘の、声。)
普通のものならば、聞き落としていたであろう、助けを求めるような、僅かな呻き声。
それを、少女は聞き逃さなかった。
(成程、狼藉事か。)
男が女を犯し、慰みものにする。
"よくある事"だ。この広い世界で、今、己の耳が届かぬ場所で、同じような事が
幾多も起こっていたとして、おかしくはない。
なれど、己の耳が届く所で起きた事ならば、話は別。
「ああ、もうよい。直接、失礼する。」
演じる事を止めた、美しくもひどく情動の欠けた声。
その声の直後。
《遷移・天詔琴》
■天琴 衣詞 >
ばしん、と、音を立て。
鍵がかけられていた教室の扉が、三重の✕字に刻まれ、残骸と化して教室内に転がり込む。
そこから現れたのは、千早のような薄手の上着を着た、浅葱色の袴の巫女服じみた服装の小柄な少女。
だらりと垂らされたその両手の指からは、まるで生えるように、琴の絃らしき糸がゆらりと伸びている。
日本人の顔立ちでありながら明らかに日本人離れした白群の色の瞳が、踏み入った室内を素早く見渡す。
■伊都波 凛霞 >
『何だ───?』
机を探っていた生徒。
扉のドアの前にいた生徒。
凛霞を抑えつけていた生徒。
三者三様に驚愕し、闖入者へと視線を向けていた。
ヤバイ、見られた。
どうする──口を封じるか。
葛藤はすぐに終わり、ドアの前にいた生徒が少女…衣詞の口を塞ごうと躍り出る。
どちらにしろこの物音だ。他に人が来るのも時間の問題──。
■天琴 衣詞 >
「 狼藉者め。 」
その声と共に、向かって来る三人の生徒に向かい、素早く両の腕が躍る。
同時に空を切るような音が響き渡り――ぱん、と小さく響く音を立てて、「糸の壁」が立ち入った少女と
襲い掛かる男子生徒の間に立ちはだかる。
異様な弾力と強靭さを見せる糸で編まれた壁に戸惑えば――その隙にそれぞれの
死角から襲い掛かるは、多数の琴の絃。
素早く巻き付き、締め上げんとする算段。
繰り出す絃はただの絃に非ず、神器と謳われた琴・天詔琴の絃。
金属製のワイヤーもかくや、という程の脅威の頑丈さを誇る代物!
■伊都波 凛霞 >
『!? 何だこのガキ異能者か!』
自分よりも遥かに小さな少女の繰り出した糸に巻かれ、転がる。
『…やべえ、逃げ……』
窓際の机の側にいた生徒は慌てたように、
教室の中を除けぬよう引かれていた厚い遮光カーテンを開き、窓を開け逃げようとする。
この学園に通う生徒である彼らもまた何らかの異能者だ。
しかし争う力となる異能を運良く持っていたなら…このように抑えつけた欲望をもつには至らなかったのかもしれない。
縛り上げられた生徒の身体からは薄い滲むように、黒い靄が溢れる…。
それは教室の床に染み込むようにして、消えていくように見えた。
『くそ…邪魔するなよ…俺達の思いも知らないで──』
凛霞を抑えていた男もまた、逃げようと教室のもう一方のドアへと視線を巡らせる。
「……ぅ」
中途半端に衣服の剥がれた、スタンガンの影響で弛緩した身体が流れるように机からずり落ちる。
■天琴 衣詞 >
「逃さぬよ。」
逃げようとしてか、飛び出そうとする一人と視線を巡らす一人の動きを見逃す少女でもなく。
再度腕を動かせば、束となって琴の絃がそれぞれの生徒に蛇のように襲い掛かる。
両足を縛り上げるか、簀巻きにするか。いずれにしろ、動きは封じる形になろうか。
そして、先んじて糸に巻き付かれていた男子生徒に向け、軽く腕を捻れば、ぷつんという音と共に
縛り上げている糸が少女の手元から離れ、結ばれるような形で動きを封じ続ける。
「ああ、分からぬな。
年頃の娘を寄って集って嬲り者にして愉しもうなどと考える輩の事など、理解も出来ぬ。
したくもない。」
返る返事はひどく冷徹。
嫌悪、という感情すら感じられない、「理解出来ないもの」を見るような声と目だ。
「――済まぬが、少し待たれよ。」
不本意とは言え、あられもない姿を晒す形になってしまっている女子には、静かにそう一声。
■伊都波 凛霞 >
『分かんねえヤツが、邪魔するな──!』
『くそ……今日こそ、だったのに…』
『なんだよこれ……なんで、こんなことに』
糸に巻かれ、転がる男子生徒3人。
何らかの異能者ではあろうが、一般生徒の域を出ない三人は糸から抜け出る術も持たず…。
「………」
少しずつ、痺れが薄れていく。
ゆっくりと、床にへたりこんだ緩慢な動作で乱された衣服を正してゆく。
動けなくなり尚喚く彼らを見る視線は……ただ、昏かった。
「…その、ありがとう……」
感謝の言葉を絞り出すのがやっとだった。
■天琴 衣詞 >
「――――」
男子生徒全員の動きを封じれば、縛る糸だけを切り離し、残す形で手を自由に。
乱れた衣服を、緩慢に正していく恵まれた体形の少女には、無言で上に来ていた薄衣を脱ぐと
身と傷ついたであろう心を隠そうとするように、ふわりと被せる。
「……さて。」
縛られて転がる男子3人を一瞥すると、白い少女は軽く床に手を当てる。
縛り上げた男子の身体からは、薄いが滲むような黒い靄が見えた。
「それ」は、この部屋の床に沁み込むように消えた、と見えたが。
「……果たして、何処まで追えるものか。」
流石に見なかった事には出来ない。
ふぅ、と息を整えると、ぱん、と一つ手を合わせ。
「――掛けまくも畏き 伊邪那岐大神
諸諸の禍事 罪穢有らむをば
祓へ給ひ清め給へと 白す事を聞こし召せと
此処に天詔琴を持ちて 恐み恐みも白す――」
独自の改変が為された祓詞。
それを唱え、より強い形で「共銘」を試みる。
あの黒い靄が何だったのか――最低限、魔性のモノか否かは掴みたい所。
再度、ぱん、と白い少女が手を叩く音が響いた時。
へたり込んだ少女と、縛られて転がる男子たちの耳に、玄妙な響きの琴の音が届いた、かも知れない。
この教室には、琴など何処にもないというのに。
■伊都波 凛霞 >
黒い残滓──それは教室の床へと染み込んだように見えた。
現実に染み込んでいたのであれば、あるいは追うことも出来たのか。
ただそこにある残滓が語るものは実に雄弁に、悪意として残されている。
人の持つ欲求を、欲望を。
理性の枷から滲み出させ、漏洩させる。
人に良い顔ばかりして。
誰にも欲を見せず、心の中に仕舞い混んで。
普段は気の良い男子を演じて、その実その悪意はすぐ近くに。
素直になれば、こんなにも醜い欲が溢れてくる。
自分勝手で。
自分本位で。
どうしようもないのが、欲求。
そこに残されていた残滓は人の心の闇そのもの。
それが増幅され…溢れ出した残滓。
感じるものは膨張した人の悪意。あるいは人の体に抑え込めなくなったそれを怪異と呼ぶのなら、それは妖気としてその性質を伝えるのだろう。
■天琴 衣詞 >
じわり。それを感じ取った白い少女の額に、小さく汗の玉が浮かぶ。
残滓からでも感じられる悪意。
理性の枷から欲求を滲みださせる…膨張した人の悪意。
那岐流で見れば、「妖魔」のそれに最も近い。
人の想念より産まれた「魔」。
「これ」は…不幸中の幸いにして、そこまではっきりと形をもつものではない、と思える。
それでも、人が心に抱える昏い欲望を、理性という箍で閉じられた隙間から
漏れ出させ、悪しき行いに走らせる在り方は、看過出来るものではない。
「――ふぅ。」
ひとまずは共銘を解き、額の汗を拭う。
そして、今もへたり込んでいるであろう少女に改めて向き直り。
「…狼藉に遭いかけて、辛かろうとは思う。
だが、御身には知らせねばなるまい。」
相変わらず、感情というものが削げ落ちたような、どこか冷たい響きの声。
それでも、この少女なりの気遣いらしきものが、少しは感じられるだろう。
「…其処な狼藉者共が、御身への狼藉に至ったのは、一時の気の迷い、だけではない。」
そうして、己が感じ取ったものを、出来るだけ分かり易く、しかし正確に、少女へ伝える。
悪しきモノに影響されての凶行…なれども、その根源は、紛れもなく本人たちの心の底にあったもの。
隠すは易し、だが、後から事実が明らかとなればより心は強く傷つくだろう。
避けられぬものならば、最も速く、最も小さく留まる時に。
何処までも、「理」による判断だった。
■伊都波 凛霞 >
「………」
彼らがこの行為に及んだこのが気の迷いだけではない。
縛られた三人は禍根を口にする。
清楚ぶった顔で誘惑してきたやつが悪い。
今日こそ犯してやろうと思っていたのに。
耳に耐えない言葉ばかりが吐露される。
「………ともあれ、ありがとうございました。…助かりました」
服装を正した凛霞は立ち上がり、古めかしい言葉を使う小さな少女へと頭を下げる。
「…風紀委員に連絡して、彼らは引き取ってもらうことにします」
友人だと思っていた、彼らに視線をまっすぐに向けることも憚られた。
それ以上の言葉は…胸に閊え、出て来ることはなかった。
■天琴 衣詞 >
聞くに堪えない言葉を並べ立てる狼藉者に、ひどく冷え切ったようにも思える白群の瞳を一度だけ向け。
普通であれば挫けていてもおかしくはない筈の、自分とは…色々な意味で正反対な成りの少女に、
白い少女は改めて向き直る。
口も塞いで置くべきだった、と少ししくじりを覚えながらも。
「風紀委員。確か、この島での治安の維持と罪人の取締りを行う集まり…であったか。」
少し考えてから、改めて声をかける。
「なれば、此方も共に往かせて貰いたく。
信がない訳ではない。が、此方が感じたモノ、その仕組みを伝えねば、取調べに当たる者達の
理解は得られぬやも知れぬからな。」
身長差の大きさから、必然的に白い少女の方が見上げる形になる。
だが、その立ち居振る舞いは、心に傷を負ったであろう少女から見れば、
外見不相応、あるいは実年齢が分からなくなる程に大人びた、あるいは「理性」のみで動くように
見えたかも知れない。
■伊都波 凛霞 >
口ぶりからすると、まだこの島に馴染みのない人なのかもしれない。
小さな見た目、外見不相応な雰囲気なども、島に馴染んだ少女にとってはそれほど違和を与えなかった。
凛霞はオモイカネを手に、風紀委員へと連絡をつける。
少女自身、委員会のお世話になっている身、すぐに連絡はつく。
…手帳をもつ手は少しだけ震えていたが。毅然とした態度で、凛霞はその内容を伝えた。
──やがて数名の風紀委員が到着し、無事を確認すれば。後は本部のほうで、という流れとなる。
少年達はまだ口々に嘲るような言葉を繰り返していた。
…その様は、何かが憑いたようにも見えてしまう。
私も、と共に行こうとした凛霞を風紀委員は制止する。
今は休んで、と。そう告げた。
「……うん」
気遣いに素直に頷き。そして改めて…。
「ありがとうございました。あの、名前……」
そうして名前を効かせてもらえば自分も伊都波凛霞という名を名乗り返す…。
…どうしてこんなことになったのか。時間を経たとしても心に整理がつくのかは、わからなかった。
■天琴 衣詞 >
暫し待てば、風紀委員と思しい数人が到着する。
連絡を取っていた少女が使っていたのは、「生徒手帳」として自身も持っている筈のからくりと同じ物の筈。
思った以上に、浮世と言うものは発展しているものだ、と白い少女は声には出さず、内心で舌を巻く。
那岐流の端くれとして、自分たちが受け継いで来たものが、児戯に見えてしまう気さえする。
(――かような浮世とて、魔性の種は尽きまじ、か。)
これほどに発展しながら、尚も魔のモノは人の世にある。
それを思い、半ば本能じみた嫌忌を、極力表に出さぬよう努め。
さて、いざ同道――という所で、かけられたのは、連絡を取っていた少女からの礼と、名を訊ねる言葉。
「――家の名は、天琴。生まれと共に与えられた名は、衣詞。
故あって生家を離れ、この島にて世話になる事になった。」
そう返答を返し、少女の名を聞けば。
「――佳き名だ。」
短く、そう一言。
そして風紀委員についていく、その際に。
「凛霞殿、」
一度だけ振り返り、
「此度の事、御身には辛かろう。
されど、人を信じ、想う心を、どうか捨て去ってはくれるな。」
相変わらず、冷たい響きではあったが、白い少女なりの、出来る限りの配慮だったのだろう。
その言葉を残し、白い少女は風紀委員達と共に去っていく。
委員達に、今は休むように告げられた少女の身にかけたままの、薄衣だけを残して。
ご案内:「放課後の教室棟(過激描写注意)1」から天琴 衣詞さんが去りました。
ご案内:「放課後の教室棟(過激描写注意)1」から伊都波 凛霞さんが去りました。