2024/08/05 のログ
ご案内:「駄菓子屋『おおげつ』 私室」に宇賀野 実さんが現れました。
ご案内:「駄菓子屋『おおげつ』 私室」に如月 槐徒さんが現れました。
■宇賀野 実 > 可愛らしい装飾に彩られた、畳張りの部屋……。
その中心で、自分と相手は正対し正座している。
目線がじり…と交差する。
外から入り込んできた風に白いカーテンがふわりと揺れる。
先に動いたのはこちらだった。
「この度は異能の暴走により大変なご迷惑をおかけしました…!!」
小さな身体を更にコンパクトに折りたたむような土下座である。
異能の暴走により、相手を…先生を誑かしてしまった。
その事件かしばらくの後、お互いに落ち着いたところで、
相手から謝罪を申しこまれ、慌てて機会を設けたのであった。
「先生には大変失礼なことをしたのは自覚しております…!」
意図していないことを相手に強いてしまう…
その力がどれだけ禍々しいものなのかを、身を持って知ったのだ。
ぐりぐりと、畳の跡がつきそうなぐらいに額を押し付け、
文字通り平謝りの構えである。
■如月 槐徒 > 息が詰まる。
歳だけ積み重ね社会経験というものを狭い範囲でしか経験したことがないこ。
なので謝罪などの機会はそもそも稀だった。
それだけならいいのだ。それだけなら…
「や、やめてください。俺…いや私の方こそ自制が出来ず誠に申し訳ございません」
土下座に土下座で応じる。
この対応が正しいかは兎も角、先に頭を下げるべきであったのは此方の筈だ。
…襲ったのは、こちらなのだから。
性的に襲った事への謝罪は、どうするのが正解なのか。
分かる訳がない。我ながら意味が分からない。普通こうはならない。
お陰で、随分と時間が空いてしまった。本来もっと早くこうしに来るべきだったのだ。
そんな情けなさと自責の念から、めり込むのではないかと思うほど頭を畳に押し付ける。
実際少しめり込んでいる。馬鹿力のせいだ。
「いえ、私の方が大変失礼な事を…異能の影響があったとしても、到底許される事ではございません…
誠に申し訳ございません。ですので、どうか頭を上げてください。」
負けじと頭をこすりつける。
頭を上げてくださいって頭を下げながらいう言葉ではないよな、などと思いながら頭を下げ続ける。
普段は俺であった一人称も私になるほどの迫真っぷりである。
■宇賀野 実 > 「先生の謝罪のご意思はわかりましたから、どうか面をあげてくださって……
異能に関しては人の理から外れていることですから、
人の自制などでどうこうできるものでもありません…詫びるのはこちらの方で…!!」
低い位置から相手の声が聞こえてくる。おそらく相手も土下座である。
謝罪合戦の様相を呈してしまった。 ともあれ、相手の言葉に小さく唸る。
「わかりました…。ではお互い頭をあげましょう。
お互い謝罪の気持ちはあるのはわかりました。
そうなれば、大事なのは今後の対応策のはずです…。
暴走が制御出来ないのならば、せめて穏便に済む形に軌道修正をするべきかと。」
自分の異能が暴走したのは彼に対してだけではない。友人に対しても発動したのだ。
例えば、この異能の暴走が未成年相手に発動してしまったら?
あるいは公衆の面前で発動してしまったら? 色々問題がありすぎるのである。
そのためにも、少しでもこの異能を制御する必要があるのだ。
顔をあげ、真剣な面持ちで語りかける。 完全な異能の制御が難しいなら、
少しでも無害になるようにすればよいのだ。 瞳は使命に燃えていた。
■如月 槐徒 > 「…分りました。それがよさそうですね」
異能が人の理から外れる存在であることは分かっている。
分かっているからこそ、ある程度事前に予測できたのではなんて思ってしまう。
それは勿論自分に対してだ。
とはいえ、このまま謝罪合戦をしていても不毛なままだ。
少し考えた後ゆっくりと頭を上げる。
額が少し熱い。
「確かに、今後の対策は必要ですね。
根本でも、対症でも何かしら講じなければ…」
口には出せないが、これは自分の努力だけでどうにかなる問題ではないというのは分かっている。
もし自分一人が完璧に対策出来たとしても、他の誰か前で暴走する可能性は残る。
だから、この問題をどうにかするには目の前の…彼自身の対策が必須だ。
瞳を見るに、かの…彼はかなりやる気のようだ。
「一先ず、問題についてよく知る必要がありますね。
異能が発現したきっかけ、経緯、その効果。そこから考えていきましょう」
一度自責の念やらなんやらを飲み込み、真剣の顔つきで応じる。
ここで真剣に彼の悩みに向き合う事が今できる最大の罪滅ぼしになるだろう。そう考えての事だ。
■宇賀野 実 > 「…ふふ…。」
ちょっと笑った。 相手の額は赤い。おそらく自分もだろう。
額を赤くした二人が、真剣な顔をしているなんてちょっと間抜けな光景に違いない。
「…はい、そうですね。 ここ最近の検査結果は…これです。」
印刷した検査結果を相手の前に差し出す。
たくさんの検査内容の最後に『食物神の権能が発現している可能性があり、
”相手に自らを捧げる”…それが暴走して”相手に自分を貪らせる”』旨が
記載されていた。
「きっかけは不明ですが、異能発動時に”美味しそうな”香りが漂うようです。
効果としては、自分を相手に捧げる…ということなのですが、
検査のあとの問診では『相手に自分を捧げてしまうのであれば、
捧げ方を調整できるのでは』とお話を受けました。
例えるなら、食べ物的な意味で捧げるのか、えっちな意味で捧げるのか、
あるいは…もっと愛玩的な意味で捧げるのかということです。」
そこまで言ったところでため息をひとつつく。
「しかし、異能のせいでこの姿にこの状況ですからね…。
なんとかしたいところですよね。」
■如月 槐徒 > 「?」
彼が何で笑っているのか分からないといった様子で、心の中で首を傾げる。
「拝見いたします」
差し出された検査結果を手に取り、目を通す。
その内容を即座に飲み込み、少しばかし遠くを見るような目つきを見せるだろう。
まあ、昔のサブカルチャーにハマっていた時期の記憶を思い出しただけだ。
「そうですね。確かにあの時…美味しそうな匂いは…しましたね」
あの日の事を思い出しまたもや遠くを見る様な目。
少し…いや、かなり恥ずかしい。耳が熱い。
あの時の記憶がふつふつと湧き上がってくるが頭を振って払う。
「捧げ方を調整、ですか…
食物神の権能由来なのであれば…いや、そうですね。愛玩の方向に振り切るのが一番安泰なのでしょうか」
それであれば、最悪彼のいうえっちな意味にはつながらないだろう。
多少異常な光景にはなるかもしれないが、まだギリギリ健全な範囲で納めることも…不可能ではないかもしれない。
勿論、もっと良い方法があればそちらの方がいい。
「…そうですね」
共感するべきか、少しばかし悩んだが素直に共感する。
言い方は悪いかもしれないが、今のままではいずれ何か大事になりかねないだろう。
なんとかしたい。あのような事を起こさぬ為にも。
■宇賀野 実 > 「いえ、二人しておでこを赤くしてるのが面白いと思って…。」
こほんと小さく咳払いして、話を続ける。
「この”匂い”というのは、実際に放たれているものではなく…。
つまり、嗅覚に影響しているわけではなく、脳が感じ取るもののようです。
あの、大丈夫ですか…?」
耳を赤くする相手を見て、ちょっとだけ心配げに声を掛ける。
あまり近づいたりすると危ないかもしれないから、手元にあったペットボトルを
そっと相手に差し出した。
「ええ、捧げ方を、です。 この年で愛玩されるというのは色々と
恥ずかしいのですが、背に腹は代えられません。 それに、
誰かに被害を与えるよりはずっと良いですからね!」力強く頷く。
異邦人の中には動物の特徴を持つ人もいるわけで、”そういったもの”として
扱われる限りは、社会的な影響などは最小限に抑えられるだろう。
「はい、そうです。 …異能で”間違いを犯させる”ことは防がねばいけません。
とはいえ、自分でも愛玩されることに耐性を持たないといけませんしね…。
獣耳でも付けてペットみたいにかわいがってもらうとか、お膝の上で撫でてもらうとか…?」
腕を組んで唸る。 成人男性として色んな意味で恥ずかしい。
もしそれで喜んで…幸せになってしまうことも恐ろしい。
■如月 槐徒 > 「ふふっ…確かに…」
言われてみればそうだ。気づいたら面白くなったのか、少しばかし笑ってしまった。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
貰った水を飲みながら落ち着こうとする。
冷たい水が胃に落ちる感覚で少し落ち着いた気がする。
「そうですね。とはいえ…先日も最初は愛玩であった筈…です。
どうにかしてそれを維持しなければなりませんね」
アレのお陰で話しやすいのは言葉にならない喉詰まりのようなものを覚えるが、仕方あるまい。
「獣耳ですか?そうですね、それは最終手段な気もしますが」
愛玩される存在として認めるのは、流石に抵抗がありそうだし、常にそれだとまた別の支障が出る気もする。
■宇賀野 実 > 「んふふ…よかった。ちょっと笑いが入ったら、気分がほぐれましたね。」
飲み物を飲んでくれた相手を眺めて楽しげに笑う。
真剣に対応しないといけないこととはいえ、二人で渋面を作っているよりは
にこやかに進めるほうがずっと良いはずなのだ。
「ふーむ、たしかに…。 獣耳を使って、こう、いうなれば…。
動物として愛玩されれば、そこからエスカレートしないんじゃないか、と思ったんですよね。
動物とえっちしたい…という人はそこまで多くはないでしょうから。
もっとも、そういうプレイだと認識されてしまったらアウトですけど…。」
うなりながら考え込む。 近くにあったぬいぐるみを抱きしめ、
その頭の上に自分の顎を乗せた。
「暴走した時に…うまく…それこそ”お菓子を食べたい”とか、
そういう方向に願望を持ってもらえれば、安全に収まりそうな気もしますね。」
なにかいいアイデアはないだろうか。
ぬいぐるみを抱きしめたまま、上目がちに相手を見上げた。
■如月 槐徒 > 「確かにそうですね。
流石にそういう人は…稀…でしょう」
だと思いたい。
とはいえ、良い発想だと思う。動物への愛玩と考えれば自然とストッパーがかかりそうなものだ。
気になるのは動物と割り切るにはそれなりの準備が必要そうという事で。
…獣耳つけただけで変わるのだろうか。
「やっぱり対象を食物そのものに移す事が出来るならそれが一番ですね。
うーん…常に持ち歩くとか…異能の一部でも食物…それこそ駄菓子などに移せればよい対策になりそうですね
暴走時はそれを避雷針にするみたいな…」
彼の異能がどの程度の力と影響範囲を持つかは未知数だが、暴走時に顕現する能力を事前にお菓子などに移しておければ、緊急時に避雷針として機能するのではないだろうか。
それが出来るかは分からないが、試す価値はあるのではないだろうか。
■宇賀野 実 > 「そうですそうです! 動物…いけるんじゃないでしょうかね…?」
目を輝かせながら相手に告げるも、やっぱり疑問があるのだろう。
そして自分もそれは払拭できない。
次に出された意見に、何度も頷いて答えた。
「なるほど…。 全部をどうにかしなくても、少しでも軽減できれば
それだけで意味がありますもんね。 いいアイデア!
お菓子はどんなのがいいかなー…。 先生はマシュマロとか好きですか?
中にチョコレートソースが入ってるやつ。 最近のは美味しいんですよ。」
相手のアイデアに何度もうなずきつつ、ポケットに入れてあった個別包装のマシュマロ…。
チョコレートが入ったそれを、袋の上からそっと差し出す。
「お菓子をバリア代わりにして弱めれば、その…行為に及ぶ前に暴走が終わるかも
しれませんもんね。 うん、うん…。」
手を差し出しながら考え込む。勝算がある気がする。
■如月 槐徒 > 「今もあるんですねチョコの入ったマシュマロ
懐かしいです。
マシュマロ好きですよ。子供のころよく食べていました」
ポケットに入っている事に少し驚きつつ、子供のころを思い出す。
子供のころはよく食べたものだ。今では食べなくなってしまったが。
「そうです。実際どうですか。少しでも移すみたいなことはできそうですか?」
それが出来れば現実味が増す。
現時点で出来なくとも、今後出来るようになる可能性はあるが、ひとまず現状を聞いてみたい。
■宇賀野 実 > 「よかった。 食べてもらわないことには効果がわかりませんからね。」
安堵の表情を浮かべて、にっこりと笑いかけた。
相手の問いかけに小さく頷くと、そっとマシュマロを両手で包むように持つ。
「やってみます! むむむむむ……!!」
”食べてもらいたい”…自分の中にある思いを思いっきり引き出すようにして祈る。
目を閉じて祈り続けると、とくとくと、小さな脈動ではあるが、
体内から生まれた何かが手に伝わっていくような感覚があった。
「…ふー…… 食べてみてください!」
目を開き、額の汗を拭ってから相手に呼びかける。
ずいずいと近づくと、えいやとマシュマロの袋を開けてつまみ、
相手の口元へとマシュマロを差し出した。
■如月 槐徒 > 彼がマシュマロに力を込めている様子をじっと見る。
口には出来ないがこうしてみても本当に幼児だ。
昔のアニメのカメカメ波でも撃とうとしているように見えなくもない。
「わかりました。…いただきます」
差し出されたマシュマロ。
受け取ってから口に運びたかったが、ここまで差し出されるとそれも少しばかり気が引ける。
とはいえ、そのまま食べるのは少し距離感が近すぎる気がしなくもない。
それでも食べてしまったのは、その匂い故だった。
甘いような不思議な匂いが、無意識にマシュマロを口にしていた。
…気にしないでおこう。
「…マシュマロってこんなにおいしいものでしたっけ」
そのマシュマロは記憶にあるマシュマロとは随分と違った。
記憶にあるマシュマロは、甘くて口の中でねっとりと熔けたり、ふわふわしてる食感を楽しむものだったと記憶している。
だが、このマシュマロは…
「マシュマロ、もっとあったりしますか?」
食感も味も変わりないように思える。
だが、香りが違った。口にした瞬間のあのふわりと広がる甘美な香りが忘れられない。
つい求めてしまうような、それでいて相手もそれを受け止めてくれるような感覚があった。
だから、この言葉もつい口をついてしまったようなものだ。
意識ははっきりしているようで、心そこに在らずといった雰囲気。その目も見ているものは…目の前の彼ではないように感じるだろう。
■宇賀野 実 > 「……。」ごくり。緊張に喉がなる。
相手の反応にぱあっと表情を明るくして、
思わず飛び跳ねそうなぐらいに何度も頷いた。
「は、はいっ、おいしいですよ!そりゃあもう!
何十年も前から愛されるベストセラーですからね!
おじさんも久しぶりに食べると美味しいなって思うんです!
もう一個ですか? もう一個は…」
ごそごそ。ポケットを探る。あった。
もう一回念を込めてから袋を開け、相手の口元へ。
「はい、召し上がれ!」
にっこりと笑顔を浮かべて促す。
甲斐甲斐しいようでもあり、ままごとのような稚気めいたものもある。
それでも、自分の商品を美味しく食べてもらって嬉しいという気持ちは
嘘偽りのないものだった。
■如月 槐徒 > 「…」
差し出されたマシュマロを無言のままにいただく。
その動作は最初のマシュマロの時よりも明らかにすばやく、食い気味。
無言である事も相まって、尋常ではないように感じるかもしれない。
「…もうないですか?」
30秒ほどマシュマロをじっくりと堪能する。
口の中で舌が良く動いているのが見ているだけでも分かるぐらいに、じっくりと。
小さなマシュマロをまるで高級料理を嗜むように、じっくりと…
「もう1個ありますか?」
と言い手を出す。
しかしその手は受け取るものではなく、捕まえるものだというのは分かるだろう。
手のひらが、下を向いている。
そして、その宛先は…マシュマロのような雰囲気すら感じる彼。
そして、その指先が触れるギリギリで…
「みのりさん、獣耳つけてください」
反対の手で差し出した手を抑え込みながらつぶやく。
冷や汗を流しながらも、別人のような眼で彼を見つめる様子は、もう殆ど猶予がない事を伝えている。
■宇賀野 実 > 「先生、そんなにマシュマロが好き…」
なにか様子がおかしい。 礼儀正しいこの人が、無言で食べた上に
おねだりをするのも変だ。満足そうに食べているのも、
なにか違和感がある。
「あっ…」
差し出された手を見て気づく。暴走である。
異能の力を込めたマシュマロを食べればどうなるか、
少し考えればわかりそうなものなのに解決を急ぎすぎたのだ。
そして告げられた言葉に一瞬あっけに取られた。
「獣耳……は、はいっ!」
さっき言っていたことだ。 動物であるという定義によって、
愛玩の方に欲を割り振って満たす…。
段ボールをゴソゴソやって取り出したのは、犬耳と尻尾、
そして首輪のセットだった。
耳を頭に乗せ、尻尾をお尻と腰の付け根にぺたりとくっつける。
ぴりっとしたしびれるような感覚が走り、耳と尻尾が身体と”つながった”。
首輪を相手の前に置くと、ごくりと息を飲む。
そのままイヌの”ちんちん”の姿勢を取り、相手に口を開いた。
「わ、わんわんっ♡ みのりは…いぬ、です…わん…♡
いっぱいぃ、いっぱいなでて…かわいがってほしい、わん…♡」
顔を真っ赤にしながらも尻尾を揺らして鳴き真似をする様は、
色んな意味で尊厳がボロボロになるムーブである。
しかし、これが今取れる最善の…自分と、自分を助けようとしてくれている相手の
尊厳を最大限に守る方法なのだ。
■如月 槐徒 > 「本当、すみません」
犬のようでいて犬じゃないような。
それでいて必死に犬になりきってくれている彼を見て、精一杯の、それでいて苦笑いを浮かべる。
勿論、自分の情けなさに向けたものである。
そして、その言葉を皮切りに抑えていた手が落ち、抑えられていた手が―
「誠に申し訳ございません」
土下座。地面に3つ目の痕を付ける勢いの土下座。
頭部で隠れ見えない表情は今にも舌をかみ切る勢いの壮絶なものである。
今回は、以前ほど極まった行動こそしなかった。
だが、散々撫でまわし、撫でまわし、撫でまわし、撫でまわした。
何が自分は対策出来ても、だ。何も出来てないじゃないか。
前回があって、今回。しかも前よりもこうなるのは目に見えていた筈だ。
阿呆である。もう許される事ではない。
鬼気迫る綺麗かつ豪快な土下座であった。
■宇賀野 実 > しばらくの後……。
最初と同じように、二人は床に伏せていた。
片方は土下座、もう片方は伏せの姿勢である。
ものすごい勢いで土下座する相手に、懸命に声をかけた。
「あの、むしろうまくいったんじゃないでしょうか?
だってその…行為はしなかったわけじゃないですか!
面をあげてください、あの…その…。」
撫でてもらっていたときのことを思い出すと、耳まで赤く染まり、とろんと瞳が潤む。
尻尾を左右に揺らしながら、相手に呼びかける。
「先生には大変な苦労をかけてしまったとは思いますが…。
誇るべきすごいことなんですよ! だって暴走に指向性を与えられたんですよ!
これをうまく調整すれば、誰にも被害がない着陸点を探せます!
ですから、その…そんなふうに自分を責めないでください…。」
撫でてもらって幸せだった、と言いたいところだが、相手が余計苦しむだけだ。
あえて言わないようにしながらも、今回得た結果をもって、”うまくいったのだ”と
強調する。 そう、これは自分の異能をコントロールできた第一歩なのだ。
本当なら身体を寄せて落ち着いてもらいたいけれど、それすらできないのがもどかしい。
今は文字通り伏せるしかないのだった。
■如月 槐徒 > 「…」
葛藤。
彼の言葉に甘えてしまってもいいものか。
自分ではこんなことは許されないという感情があまりにも強い。
だが、その被害者であるはずの彼はそんな事気にしない、むしろ良かったというのだ。
苦しい。罪悪感に合わない言葉だ。いっそのこと責められた方がまだましなような。
とはいえ、そんなことを言うのは逆に失礼にもあたるだろう。
だから、素直に聞き入れて頭を上げるべきなのだろう。
正直苦しいが。
「そうですね…そういう事にさせてください」
目を強く瞑り、唇を噛みながら上半身を起こす。
酷い表情だが、なんとか耐えている。
唇から血が出た。
■宇賀野 実 > 「はい…あの、血が…。」
そろそろと相手に近づいて、ティッシュを唇にそっと押し当てる。
手当をしながら、ゆっくりと相手に告げる。
「先生、今回は得るものがあったんです。
力を込めた駄菓子には注意が必要であること、
それから、欲望を制御すればある程度暴走の向きをコントロールできること…。
あんまり悲しいと、わたしも悲しくなっちゃいます。
…よろしければ一休みしていかれませんか?
ちょうどスイカを買ってきてあるんです。
疲れたときは冷たい水分と甘さが効きますからね!」
教師として真面目であるがゆえに、今回の件は許せないのだろう。
なにより、負けてしまった自分が。
努めて明るく振る舞いながら、相手に休憩を勧める。
折角来てもらった手前もあるし、落ち着く時間も必要だろう。
尻尾を左右に揺らしながら、にっこりと…相手の苦しみを
少しでも緩和できればという思いを込めて、笑いかけた。
■如月 槐徒 > 「…」
わたしも悲しい。その言葉に少し間をおいてそっと目を開けて、唇からそっと歯を離す。
流石に、そんなことを言われては…
少し落ち着けた気がした。
「…ありがとうございます。
ありがたくいただきます。」
自分は情けないし、罪悪感は消えない。
だが、それはここで表に出すものではない。
「…ところで、その尻尾と耳…外せませんか?
ちょっと…その…」
そっと視線を逸らす。
まあ、そういう事だ。
左右に揺れる尻尾のせいで意識してしまい、ついさっきの事を思い出す。
■宇賀野 実 > 「はい、じゃあすぐ持ってきますね!」
相手の言葉に元気よく答えて立ち上がる。
ちぎれんばかりに尻尾を振りながら、
部屋を出てキッチンに方に行こうとしたところで、
相手のお願いに足を止めた。
「あっ…!! すみません。 いやー、すっかり馴染んじゃって、
付けてるの忘れてました。 今度は猫とかもいいですね。
先生は好きな動物とかありますか?」
犬耳を引っ張るとぽろりと取れる。 尻尾も同じだ。
ついさっきまでいっぱい撫でてもらっていた幸福が終わってしまったようで、
少し残念だが、緊急措置だったので致し方ないところもあるのだろう。
相手に質問を投げかけてから足早にキッチンへ向かい、少しの時間の後に、
カットしたスイカを乗せたお盆を手にして戻って来た。
■如月 槐徒 > 「…」
今度は猫とかもいいですね。
次は…無いようにしたいと思っているし、彼もそうだと思っていた。
だが…
実際彼がどう思っているのかは分からない。だが、自分が思っている程深刻な問題ではないのかもしれない。
そんな思考が脳裏をよぎるが頭を振ってかき消す。
そんなわけがない。それはおかしいと両頬を叩いて意識を引き戻す。小気味よい音が鳴り、赤くなった。
そもそも、あくまでもただのコスプレとしての話かもしれない。
馬鹿も休み休み言わなければならない。勘違いしてはいけない。
如月槐徒。
「俺が好きな動物は鳥だよ。自由に空を飛んでるのを見ると応援したくなるんだ。
特に猛禽類とかのたくましい種が好きかな」
戻ってきた彼にそう伝えるだろう。
少し普段の調子を取り戻したようだった。
■宇賀野 実 > がさがさとビニールシートを敷いてから、スイカの乗ったお盆を置いた。
「鳥も良いですよね。 知り合いが飼ってたオウム可愛かったなー。
結構複雑な感情を持ってて、イヌとか猫みたいだったんですよ。
猛禽類もいいですね! 鳶とかも良く見たなあ。
あっ、スイカどうぞどうぞ!ぬるくならないうちに召し上がってくださいね!」
うんうん、と嬉しそうに何度も頷いてから、大慌てで相手を促す。
自分もスイカに手を付ける。 吸い付くようにして種を吸い出し、
ティッシュに吐き出してからかじる。 一連のやり取りで緊張していたのだろう。
冷たく甘い水気が全身に染み渡っていくようで、とても心地よかった。
■如月 槐徒 > 「ありがとうございます。
頂きます。」
お盆からスイカを受け取り、かぶりつく。
みずみずしい。そしてひんやりしていく感覚と、シャリシャリという音。
水分が口内で広がれば一緒に甘味も広がっていく。
果物は果汁が一番美味しい。これは個人的なこ好みではあるけれど、果汁が果物を果物たらしめている。
種をティッシュに吐き出しながら食べ進めていくと少し青くさい部分が出てくる。
ここもそれなりに美味しい。とはいえここいらでやめておかないとがっつり青くさい部分を食べる事になる。
「美味しいですね」
かなり落ち着いた。
スイカには体温を下げる効果がある。それが気持ちも冷却してくれたようで、先ほどまでの荒んだ気持ちもだいぶ落ち着いた。
「今日は色々すみません。」
と、自嘲気味に笑った。
とはいえ、それは思いつめたようなものではない。少し冗談めかしたともいえる落ち着いた笑み。
落ち着いたという事を伝えられればいいのだが。
■宇賀野 実 > 「はい、美味しいです。
もう、先生…大丈夫ですって!糸口が見えるというのは大事なことですよ。
今までは全く打つ手がなかったわけですしね。」
二人でスイカを食べながら、今回の研究について二人で総括する。
相手が落ち着いてくれたのを見て、こちらもにっこりと笑顔を返した。
スイカを食べる手を止めて、相手に問いかける。
「先生、また異能の調査をするってなったら、お手伝いいただけますか?
その…あんまり快い体験にはならないかもしれませんけど。」
一応確認。 先生として良く自分を助けてくれるのはありがたいが、
それが原因で彼にダメージを与えてはいけない。
少なくても、今は…少しでも糸口が見つかった、それで良いのだ。
■如月 槐徒 > 「そうですね。そう思っておきます」
まだ受け止めきれた訳ではないが、彼がそれでよいというのなら、それでよい。
そういうことにしておこう。それでいいのだ。
実際、何もわからない状況から少しでも進んだのだ。それはいいことだ。
「…そうですね」
少し頭を悩ませる。
今後もこういうことが続くかもしれない。
とはいえ、その本人からの願いだ。
「みのりさんが望むなら。お手伝いしますよ」
少し悩んだ末、引き受ける事にした。
苦笑いではあるが、笑って手を差し出す。
「今後も一緒に頑張りましょう」
■宇賀野 実 > 「よかったです!」
嬉しいオーラが満ち溢れる。
前に進むことができる…ということがわかった。
それだけで大金星なのだとわかってもらえたのが嬉しかった。
「……ありがとうございます!」
相手の答えを待つ間、真剣な表情だった。
OKをもらった瞬間、飛び跳ねるように喜ぶ。
差し出された手を、小さな両手で包むようにして丁寧に握手。
「先生、一緒に頑張りましょう!
きっとおくすりを必要とする機会も絶対ありますしね。
友人に…異能を制御しきれるところを見せて安心させてあげたいですし。」
小さな両手には、自信と希望が満ちている。
誇らしげな表情で相手を見据えて、しっかりとうなずきかけたのでした。
■如月 槐徒 > 「はい。俺が力になってみせます
その友人さんにも制御出来るところ、見せてあげましょう」
しっかりと小さな手を掴み、力強くいってのける。
…もし、また同じような…暴走するようなことがあっても。
それを上回るほど、力になろう。
そう誓い、力強く頷いてみせた。
ご案内:「駄菓子屋『おおげつ』 私室」から如月 槐徒さんが去りました。
ご案内:「駄菓子屋『おおげつ』 私室」から宇賀野 実さんが去りました。