2024/10/29 のログ
ご案内:「命の水、あるいはホーソンベリー」に汐路ケイトさんが現れました。
■汐路ケイト >
陶器のコップにミネラルウォーター。
グラスは透けるから好きではない。
病院からもらってきた袋から、丁寧にブリスターを取り出す。
濃い色の錠剤。これがまあ、高い。
目下、アルバイトに汗水垂らしているのは、これのせい。
カーテンの締め切られた明け方の女子寮の個室。
今日は周期だ。寝る前にちゃんと飲まないと。
■汐路ケイト >
親指で押し出された錠剤が、ぽろりとコップのなかへ。
水面に波紋をつくり、しゅわ、とささやかな音を立てて溶けていく。
寝る前に一杯キメる炭酸水……とはいかなくて。
「うう……」
色水となったそれを、飲もうとして……
両手で包んだコップはなかなか唇に近づいてくれない。
明らかに拒絶反応を起こしていた。
胃のあたりがむかむかする。肌がざわざわする。
喉がひどく渇いていた。
■汐路ケイト >
「……んっ!」
意を決して。
そばかすの目立つ鼻を指で摘んで、片手でコップをグイ、とやる。
ごくっ――と喉を大仰に嚥下する。泥水のほうがいくらかマシな味がした。
「ん゛ッ! ん゛ぅ!」
あまり薄めすぎてはいけないので、測った水は規定量。
2リットルのボトルでやれれば、どれだけ楽だったことだろう。
数度に分けて、どうにか飲み干した。戻してしまいそうになるのを、口を手で覆って耐える。
もう肌寒くすらあるのに、全身に汗が滲んでいた。
「あぁ…まっず…」
日に日に、薬が受け付けなくなっていく。
もうあまり時間が残されていないという証左だった。
■汐路ケイト >
「………」
備え付けのテーブルに突っ伏した。
しばらくこうしていないと逆流してきそうになる。
こんな地獄のような時間を、いつまですごすことになるのか。
自分の異能疾患は、ごくありふれたものではあるけれど、
感染源が少し特殊で、医学的および呪術的な措置では完治は難しい、とのことだった。
……それでもあと5年、20歳くらいまでは猶予があると思っていたけども。
「……地獄かあ……」
ぽつり、と呟いた。
いつ、どの、地獄だろう。
まぶたを閉じる。今日も部活でつかれてしまった。お祭りの期間はずっとこうだろう。
人手が足りていないところがあるから、こうしておくすりにありつける。
時間稼ぎはできている。
■汐路ケイト >
地獄――
思い出すのは、ずっと、テーブルの下で震えていたあの時間。
あのとき、素足で逃げ出さなければ、ずっとあそこにいることになった。
今日まで生きていられは、しなかったと思う。
じゃあ、そうなったことは正解だったのかといえば……
「………」
意識が夢に落ちていく。
思い出すのは、そう、あのとき。
こんなあたしを、地獄から救い出してくれた――
「我が…」
落ちていく……
醒めなければ良かった、束の間の幸福のなかへ。
ご案内:「命の水、あるいはホーソンベリー」から汐路ケイトさんが去りました。