2025/01/11 のログ
ご案内:「深い紅のサッシカイア」に汐路ケイトさんが現れました。
汐路ケイト >  
こんなこと、本当はいけないのに/どうして、我慢しなければいけないの
重なるふたつの声をしてどちらを選べるかで、人間の正しさが決まるのかもしれない。

理性をもって耐えるのが人間なら、
あたしはもう、根っこから人間ではなくなっていたのだろう。

濡れた音。柔らかな肉から引き抜かれる硬さ。深くまで交わった証。
流れていく、いつか遠目に見たサッシカイアのような色艶を一滴残らず拭い取る。
すべては曖昧な夢見心地のなかで行われて、
眼と眼を見合わせて、はい、おしまい――――

吸血鬼の食餌としては、むしろ古式ゆかしい密やかさをもった儀式だった。

汐路ケイト >  
「……はい!それじゃあ、気を付けてお帰りくださいね。
 このあたり治安が悪いですから、あっち行って……真っ直ぐ!
 そうしたら常世渋谷に出られますから、あとは学生手帳のガイドに従ってください!」

落第街の廃教会の出入り口。
懺悔を終えた少女を見送る、快活な笑顔の修道女がいた。
眼鏡にそばかす。人懐こい大型犬を思わせる幼い雰囲気。

『…えっ? えっ。 はい。 ……はい、あれ?』

懺悔をした少女はというと。
何か、しきりに首を傾ぎながらも、修道女の言う通りに踵を返す。
いくら落第街といったって、表層部分だ。そこまでの危険性はない。
しかし、こんなことは表側じゃできないから……ここまで誘い込まないといけなかった。

「ううん」

ひとりになると、眼鏡を取って、磨かれたレンズに視線を落とす。

汐路ケイト >  
「だいぶ、うまく"消せる"ようになってきちゃった」

短時間の記憶の消去/すり替え。
自分が主から授かった機能のひとつ。
起きた出来事がまるでなかったかのように……闇に紛れるための、吸血鬼の処世術。

「でも、こうやって使うもの……なんですよね」

だって、あのときもそうだった。
全部ぜんぶ、なかったことになったのだ。

別に、罰されるようなことをしているわけではない。
多少なりとこの眼の他の機能を使ったとは言え……合意の上の行為だから。
それでも忘却を願うのは、特段、相手に覚えておいて欲しいわけでもないから。

「………」

お腹のあたりをさする。
覚えておいてほしかったり、そういう特別に思う相手に出会うこともあるのかな。
眷属をふやす、なんてことは、まったく感覚がつかめない習性だ。
まだまだ自分は……幼いのか。それとも、必要とするかどうかは、個体によるのか。

汐路ケイト >  
こうやって、吸血行為を行うことが常態化し。
生活は崩れて、部活は全部やめた。
祭祀局の仕事をいくらかこなし、日々をいたずらに浪費するようになった。

「…………」

堕落、と。
そう言う者も、いるのだろうか。
勤勉、清廉を重んじて、敬虔ぶる日々をやめてしまって。
耽溺するのは快楽と飽食。

「……でも、我慢しなくってもいい、気がしてきてて」

灰色の空をぼんやり見上げて、ぽつと呟く。

「リリィちゃんは、なんでずっと我慢してるんだろう。
 どうして、よくないことだ……なんて、自分に言い聞かせているんだろう」

そうすること、そのものをおかしいというわけじゃない。
ただ、人から記憶を奪い取ったその唇で、消えた記憶の果てに思いを馳せる。

「………」

……だって、もったいなくない?
赤い唇に指を這わせた。そこにはルージュのように、僅かに残滓が残っていた。
指先を吸い上げて、離す。――うん。

汐路ケイト >  
 
 
「……美味し(Squisito)♥」
 
 
 

ご案内:「深い紅のサッシカイア」から汐路ケイトさんが去りました。