2025/03/15 のログ
ご案内:「転移荒野・夜」に銀の狼さんが現れました。
銀の狼 >  
転移荒野にはその名の通り、様々なモノが様々な世界から漂着してくる。
あるいは異世界の遺跡であったり、あるいは草原や沼といった自然環境であったり。

無論、建造物や自然環境だけではない。
生物が転移してくることも珍しくなどない。
それが、「危険性の無い生物」であれば、問題はないのである、が。

時に現れるのは、危険な生物である事も珍しくはない。
怪異、魔物。そのように呼ばれる、人外のモノ。
無論の事、放置すれば被害が現れる。
何も都市部にやって来て被害を出すばかりではない。
転移荒野の存在する未開拓地区には、其処を中心に活動する者達が作った集落があるのだ。

今宵。
転移して間もないであろう、魔物の群が、その集落の一つを襲おうとしていた。
緑の肌に醜悪な顔立ち、小さな体躯。俗に言う、ゴブリンである。

過去形であるのは――その悉くが、踏み潰されていたからである。
夜に紛れて移動しようとした10匹程度の小鬼の群は、突然現れた巨影に混乱した所を、一匹残らず。
逃げる事が許されないまま、次々と、あるいは爪で、あるいは体重を乗せた脚で。
反撃も許されないまま、潰されていった。

それを行ったのは――銀の毛並みを持つ、全長3mはあろうかという巨狼。
低く喉を鳴らす音を立てながら、己の脚が咲かせた、10輪程の赤い花を見下ろしている。
花…というには少々血腥い上、酷く不揃いな代物であったが。

銀の狼 >  
血の花、あるいは大地の染みと化した小鬼共を見下ろし、銀の狼は小さく目を細め、血に塗れた両の前脚を軽く振る。
銀色の毛並みに覆われた両前脚から、血の飛沫が軽く飛んで大地に小さな血の染みを増やした。

喰うでもなく、ただ獲物を「潰す」行い。
野生のモノとしては、決して褒められた行いではなかったろう。
それでも、小鬼共を放置していたら何らかの形で此処に住んでいる人間に危害が及んだかもしれない。
それは正直、「好ましくない」。

危険な生物が数を増やしているとヒトに知られれば、討伐の為にヒトがやって来る事も考えられる。
それを放置したら、自分が動いて回れる場所がまた少なくなる。
手を出さずにいて、問題を増やす事になる位ならば、例え気が進まなくとも手を出す方がマシだった。

……第一、連中はただ喰らおうとしただけではなかった。
明らかに「略奪」の害意を持って、ニンゲンに手を出そうとした。

遅かれ早かれ、奪って増えようとする危険生物は「駆除」されるのが運命だろう。
この島に住むニンゲンは、決してただ奪われるばかりの弱い生物ではない。
そも、ニンゲンでない者すら存在する。
いずれにしろ、この島の「規則」に従おうとする気配のないモノは、どんな形であろうが「排除」されていただろう。

――己が起こした事は、それを少し早めただけに過ぎない。


狼の心中を察する事が出来る者など、何処に居ようか。
夜が明ける前に、狼は此処を去る。
朝になって分かるのは、小鬼が潰れた跡だけだろう。

少し血の臭いが鼻につくが、銀の狼はゆるりと、しかし油断なく頭を巡らせる。
万一にでも、小鬼共の生き残りが出ていないように。

銀の狼 >  
暫しの間、頭を巡らせ、匂いを確かめ続けた銀の狼は、やがてゆるりと歩みを進め始める。
血の臭いが多かった為か、嗅覚が暫し邪魔をされたものの、確かめた限りでは小鬼の脅威はないものと判断したらしい。

歩を進める度、返り血に染まった前脚が粘つくような嫌な音を立てる。
それが気にかかったのだろうか、向かう先は比較的綺麗な川が流れている方向だった。
恐らくは其処で血の汚れを洗い流し、そこからまた別へと向かうのだろう。

銀の狼の残した血の色の足跡は、暫く続いてから川岸で途切れ、其処からは見つける事が出来なくなった。
朝になり、潰れた小鬼の残骸を見つける者が現れたとしても、その足跡を辿る事は出来ないだろう。

荒野に残されたのは、乾き始めて赤黒くなった大地の染みと、それを流した残骸だけだった。

ご案内:「転移荒野・夜」から銀の狼さんが去りました。