2024/07/14 のログ
イーリス・ロッソルーナ > 「……アナタヲ……コロス……。ミンナ……コロス……」

先程流した涙を頬に残したまま、感情のない殺人兵器となったイーリスがただ無感情に植え付けられた殺害欲からなる殺戮のみを働こうとする。
タンスに備えられた重火器の銃口が一斉に火を噴く。本体であるイーリスが傷つこうが、エルピスさんが殺害できるならそれでよしという射撃である。
だが、雨のような弾丸はただソファーに無数の風穴をあけるだけとなった。

イーリス・ロッソルーナはエルピスさんの腕の中で藻掻いているが、それは無駄な足掻きとなっている。
タンスが四肢を使って、エルピスさんとイーリスを追いかける。
地下室の頑丈な扉に無数の弾丸を撃ち込んで破壊しようとしていた。

殺意は、“王”に植え付けられた感情。
その感情が、『想いを繋ぐ』力によりエルピスさんへと流れていく事になるだろうか。

「……ああぁっ…………!!」

突然、自身から植え付けられた殺害欲が抜けていく事に酷く頭痛を覚えて、両手で頭を押さえる。

「…………ぐっ! コロ…………。──……」

だんだん、イーリスの感情が蘇っていき──。

エルピス・シズメ >  
 強い殺意──殺害欲が雪崩れ込む。

 エルピスは無策で殺害欲を継いだ訳では無い。
 殺害欲の奔流に抗いながら、どうにか理性を保つ。

((■したい。)吞まれる、前に。違う。)
(……(■したい。)人間を、舐めるなッ!)

 目的は『炉』──『感情魔力混合炉』を通した殺害欲の分解。
 状況から推察するに、呪いとは分離されている命令だろう。
 なら、良くも悪くもどうにでもなる。

((■したい。)ファイアウォールが外れたコンピュ(■したい。)ーターにウイルスが投げ込ま(■したい。)れた状況かな。)

(■……余計なものがない殺害欲って、こんななんだ。)

 散らし切る。そして起き上がって支え直す。
 余計な感情の無い、植え付けられた純粋な殺害欲だった故に軽微で済んだ。

(本当に、純粋な殺害欲だけだった。……イーリスちゃん、本当にいい子だなあ。)

 思考を散らしながら殺害欲を流し、自身の『炉』にくべる。
 昂った殺害欲は仄かな熱の羽となり、エルピスの背中から流れ出す。
 制御も出来る。故に熱は誰かを『傷つけるには至らない』。

「イーリスちゃん、もう少しだよ。
 ……僕は大丈夫だから、覚悟を決めて、目を覚まして。」

電脳世界、イーリスの体内コンピューター > 私の中で、殺害欲が植え付けられて……それ以外の感情がなくなった殺人兵器となっていた。

イーリスの自我は電子化されている。それでも、それはイーリスの感情だった。
植え付けられた感情は、まさにウイルスとも言えるものになるだろう。
殺害欲で自我そのものが上書きされないよう、イーリスは抵抗する。

電子の世界にある感情の檻に閉じ込められたイーリスは、それでも植え付けられた殺害欲に抗おうとした。
イーリスは電脳世界でも存在できる。だが、殺害欲というウイルスを植え付けられたイーリスは、電子世界で捕らわれの身となっていた。

電脳イーリス「……負けません…………。エルピスさんも……現実世界で……頑張っているはずです……」

誰も殺したくなんてない……。誰かを殺すのなんて嫌だ……。
だけど、エルピスさんならきっと、イーリスを止めてくれる……。そもそも、《タンスガーディアン》なんかで、エルピスさんを殺せやしない。
そう強く信じて抗い続けていた。

それでも、体内コンピューターのコマンドにより《タンスガーディアン》がエルピスさんに危害を加えている……。

そんな時に、感情の檻を覆っていた闇がだんだんと晴れていくのを感じた。
殺害欲が、だんだんと取り払われていくのを感じる。

電脳イーリス「エルピスさん……私を……止めてくれたのですね」

檻が、破壊されていく。

Dr.イーリス > 「うぅ…………」

エルピスさんの腕の中で、ゆっくりと瞳を空けていく。

「エル……ピス……さん……」

埋め込まれた殺害欲がなくなれば、“王”の命令は呪詛を通して届かなくなり、やがて紅き文様が消えていく。右目の紅い瞳も青に戻っていく。

「はぁ……はぁ………」

無理やり殺害欲を植え付けられた負荷での疲労で、息を整える。

「……私を止めてくれたのですね。あなたのお陰で、誰も殺さずに済みました……。ありがとうございます、エルピスさん……」

ぎゅっと、エルピスさんの背中に両腕を回して抱きしめる。

「……ひぐっ……“王”の言いなりなって、私が私でなくなっていくのが……怖かったです……。あなたが傍にいてくださらなければ……私は取り返しのつかない事をしていました……。うぅ……本当に怖かった……ううぅ……」

エルピスさんを抱きしめながら、泣き声を上げた。
“王”に、イーリスの人格をも奪われると思った……。
自分が自分でなくなってしまう恐怖、抗ってもより苦痛を与える呪い。
それでも、エルピスさんが止めてくれたから、正気に戻れた。

エルピス・シズメ >  
「ぼくも、身体を張った甲斐があったよ。」

 イーリスに抱きしめられる感触を認めながらもゆっくり座り込み、二人とも楽になれるように力を抜く。
 
 イーリスを見る。
 瞳は戻った。息が荒さが見えた。
 イーリスが彼女なりに奮戦し、その結果として打破出来たのだろう。

 そう認識した彼は、疲労を伏せてでも笑ってみせる。

「……自分が自分でなくなる感覚は怖いよね。僕も少し、覚えがあってね。いや、それは置いといて……
 とにかく……イーリスちゃんが、イーリスちゃんでなくならなくて良かった。本当に。」

(気丈にふるまっても怖いものは、怖い……)
(……それが『普通』なんだ。)
(それでも、イーリスちゃんは何度でも頑張ってる。)

「だけど、結果としてイーリスちゃんはそうはならなかった。
 僕が居たからじゃなくて……ううん。居たからだとしても、
 打ち克った決め手は怖くても辛くても頑張ったイーリスちゃんが居たから。」

「間違えちゃ、だめだよ。
 怖かったのも辛かったのも本当だし、打ち克ったのも本当だから。」

 イーリスの恐怖を受け止めて、抱きしめた背中をゆっくりとさする。
 イーリスが落ち着くまで、そうするだろう。

「……イーリスちゃん、おちついた?
 それで……『次』への対策も、できそう?」

Dr.イーリス > 体を張ったという言葉に、イーリスは顔を上げた。
殺害欲がイーリスから消えていった、というわけではなくどこかに流れていく感覚がしたからだ。
その流れた先は、きっとエルピスさん……。というのは、はっきりとはしない……。だけど、状況を考えればエルピスさんという事は想像できる。

「エルピスさんは……大丈夫なのですか……? “王”が私に植え付けた殺害欲は、私の中からは消えましたが……まだどこかに……。きっと……あなたの中に……」

ひとまずエルピスさんの振る舞いから見て、殺害欲が流れているようには全く見えない。
エルピスさんが、“王”の殺害欲を浄化してくれたという事なのだろうか。

「……エルピスさんも似た体験があるのですね。なんとなくですが、あなたの事が少し分かってきた気が……いえ、今はよしておきましょう……」

殺害欲を“王”に植え付けられた事がヒントにもなり、エルピスさんの事を朧気であるが推測できる程度には理解できた気がする。
“前世の記憶”、“記憶の乖離”。これまでの数々のエルピスさんに対する疑問から、イーリスが導き出した仮定……。

「紛れもなくエルピスさんが私を鼓舞し、そして“王”の殺害欲を打ち払ってくださったからでございますよ。私一人では……“王”の殺害欲に潰されていたと思います……。あなたがいなければ、私は闇に飲まれておりました。ふふ。まさしくあなたは、“希望”ですね」

希望(エルピス)”、イーリスは彼の事をそのように感じられた。絶望のどん底に落ちてもなお、救い上げてくれる希望。
エルピスさんにさすっていただいて、その温かさで大分落ち着きを取り戻した。
イーリスは、エルピスさんの体から両腕を放した。

「ありがとうございます。あなたに元気づけられて、凄く落ち着きました」

力強く頷く。

「エルピスさん、危険は承知の上でお願いします。丸一日の外出許可をください。私は一度、発電機などを持って戦闘跡地の地下ラボに戻ります。元々、あの地下ラボは対紅き屍骸用に用意した仮設のラボです。戦場跡地には未だメカの残骸も多くあると思いますし、“王”を倒すための準備には一度戻る必要があると思いました。明後日には帰ってこれると思いますが、もしかしたらその後もちょくちょく地下ラボには赴くかもしれません。その……申し訳ないのですが、地下の発電機も借りる事になってしまいます……」

言い辛そうに、発電機を借りるお願いをエルピスさんにする。
最近はだんだんイーリスを狙う人も増えているという事で、安全を考えてエルピスさんに極力一人で外出する事を控えるよう書き置きで伝えられていた。
だけど、“王”を撃つ準備を進めるために、一度地下ラボに戻りたい……。

エルピス・シズメ >  
「僕の中にいる。……じゃあ、都合がいいね。
 イーリスちゃんの動きは完全に見えなくなる。王は対策を打てなくなる。」

 宙を見る。
 本当に移っているのかどうかは分からないが、移っているのだとしたら。

「はじめまして。王様。
 ……イーリスちゃんは僕の、……大事な友達だ。
 誰かの自由には出来ない。そして僕もエルピスも我慢強いんだ。」

 理性が働いて、思い切った言葉を留める。
 何を言おうとしたのかは、彼のみぞ知る。

「根競べするより、首を洗っておいた方が良いんじゃないかな。」

 自分を鼓舞するように。
 イーリスを安心させるように。
 届くかどうかもわからない、啖呵を切った。

 ……イーリスが両腕を離した時、はっと気付いたように腕を離した。

「そうだね。その先は後にしよう。
 メンテナンスの時にでも、ゆっくりと……。」

 その時に想いを馳せる様に瞳を閉じる。
 閉じた瞳は、続くイーリスの言葉で直ぐに開いてしまったが。
 
「希望を……そう言ってくれてありがとう、イーリス。
 僕がどうあれ……きっと、"希望"だけは継ぎたかったんだ。」

 イーリスの言葉に強く響くものが在った。
 荷が降りたような安堵の表情の後、心底嬉しそうに頷いた。

「そうだね。もう今のイーリスは弱くない。タンスガーディアンだって、武器だって、意思だってある。
 大丈夫。でもそうだね、これを持って行って。……現状足りない『リソース』の一助になるかもしれないから。」

 義足を外し、接合部から正十二面体の結晶を取り出した。
 彼が先程使ってみせた『感情魔力混合炉』そのものだ。

 まだ少し熱い。握りしめ続け、熱を取る。
 その過程で、エルピスの想い(希望)がほんのりと篭る。

 そうしてから、イーリスに渡そうと手を伸ばす。

「あちち……そのまま使うと感情と魔力を全部動力に変える厄介な代物。
 制御出来ないと無差別に吸い取った後自爆する爆弾だけど、
 イーリスの技術力……異能と魔術と科学への理解力なら、きっとリソースの一つにはなる。」

「使い切れないと思ったら、遠慮なく返すか投げつけてやって。」

 "自我がはっきりしている間に伝える事を伝えよう。"
 その表れなのか、やや急ぐような早口になっている。
  
「発電機も好きなだけ使っていいよ。外し方もイーリスなら大丈夫。
 リソースは多いに越した事はないからね。だから……」

「行ってらっしゃい、イーリス。
 おかえりを言えるのは時々になるかもしれないけど、プリン位は用意しておけるから。」

Dr.イーリス > 「私に植え付けられた殺害欲を……エルピスさんが代わりに引き受けて…………」

申し訳なさそうに、視線を落とす……。
何らかの方法で、エルピスさんは殺害欲に飲み込まれずにいるようだ。それが、とても頼もしく思えた。

視線を落としたイーリスだが、“王”へと強気に言葉を浴びせるエルピスさんに顔を上げた。彼の、その強き意志がとても素敵に思えて、双眸の青い眼光が輝きだす。
エルピスさんが“王”の挑発を言い終えた後、イーリスは彼の右手を包み込むように両手で掴んだ。

「ありがとうございます、エルピスさん。“王”への啖呵、とてもかっこよかったです。しかし、あなたにも、私の呪いを背負わせる事になってしまいました……。呪いは……“王”を倒せば弱まり、解呪できるはずです。必ず“王”を滅し、あなたと私と分かち合う事になってしまった呪いを解いてみせます……!」

呪いは、イーリスだけのものではなくなった。
エルピスさんにも、“王”の殺害欲を背負わせてしまう事になった……。
呪いがある限り、手紙さんも異能を発動し続け、負担を掛ける事になる……。
だから、“王”滅する戦略を考えて……必ず討滅してみせる。

エルピスさんに“前世の記憶”があろうとも“記憶の乖離”があろうとも、今目の前にいるエルピスさんがイーリスの大切な友人で、凄く懸命にイーリスを助けてくれて、そしてまるで“希望”のような人である事は変わらない。

「私は、あなたからいっぱい“希望”を受け取りました。もう絶望を見なくても済むように……たくさんの“希望”を授かりました。感謝しています」

目を細めて、微笑んだ。
エルピスさんがイーリスにとっての“希望”になってくれるから、きっと大丈夫。“王”が絶望を振りまこうとも、負けない。

「あなたのお陰で、私は弱くないと再び思えるようになりました。何でしょう……?」

エルピスさんが義足を取り外して、中から結晶を取り出して、イーリスに差し出してくれた。
そっ、と結晶を受け取る。
まだ少し熱くはある。だが、それ以上にぽかぽかとして温もりを感じられた。
両手で、大切に、祈るように胸部の前で結晶を握りしめる。心に近い位置の方がエルピスさんの温かさをより感じられる。

「ありがとうございます。大切に、使わせていただきます。“王”を撃ち倒した後、必ず生きてあなたの元に戻り、お返しします」

エルピスさんの説明を聞き、どういった物かは大方理解した。
感情や魔力を全部動力に変えるというなら、それは彼の言う通り素晴らしいリソースとなる。

「エルピスさんの動力炉、必ず、役に立ちます……! 私の技術力なら必ず……!」

この動力炉を通して、エルピスさんも一緒に戦ってくれる……。
それは、とても心強い。

「感謝しますね。発電機は確認済みなので、ちゃんと外せますね。行ってきます、エルピスさん! プリン、ありがとうございます! 必ず、“王”に勝ちます……!」

エルピスさんに満面の笑みを浮かる。
その後、発電機を外したり、事務所に置いてある必要な機械を《タンスガーディアン》やカート型のメカに詰めて、エルピスさんに手を振った後に事務所を後にした事だろう。

エルピス・シズメ >  
「大丈夫。少なくとも呪いも悪意も受け慣れてる。
 『誰かを殺したい』気持ちだって、色んな所で感じていた。
 ……むしろ、カッコいいって言われる方が慣れないぐらいかな……。」

「色んなものから目を背けていた僕にとっては、いい機会なのかもしれないね。」

 彼は不安や懸念の言葉は口に出さない。
 前向きな言葉と、軽口を選んでイーリスに向けている。

「イーリスは、もともと希望を持っていたと僕は思う。
 そしてそれが弱くない、と奮い立たせてくれていると思う。
 ……それをちょっとでも大きくできたなら、とてもうれしいな。」

 強い意志を見て取れれば、安心と共に全身の力を抜く。
 少し、瞳がぼんやりとし始めた。……ただの疲労だ。

「うん。勝ち取って返しに来るのを待ってるよ。
 ……少なくともその中に王はいないよ。
 『炉の中に込めた希望の中には居ない』のは、確かめたから。」

 寝転がりながらイーリスが準備を始める様を見て、改めて瞳を閉じた。

(帰ってくる時に元気で居たいから、今のうちに休憩しないと。)
(……頑張ってね。イーリス。)

ご案内:「数ある事務所」からエルピス・シズメさんが去りました。
ご案内:「数ある事務所」からDr.イーリスさんが去りました。