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人智魔術

人智魔術(Ordinal Magic)は、かつて地球上に存在していた技術体系。
アメリカ合衆国東海岸を本山とするカルト宗教が伝導していた。
第二次産業革命前後からその動きがみられ、比較的歴史が浅い魔術といえる。
肉体・精神に宿るエネルギー(魔力とされる部分)をリソースとして消費し、現実世界に様々な現象を励起させる。
非常にオーソドックスな魔術様式から分派したこの体系の唯一ともいえる特色は、
平均程度の魔力と知性があれば修得が容易ということにある。
すなわち際立った才覚を必要としない魔術だった。

『大変容』に端を発する、かつて超常能力と呼ばれていた異能や魔術が世界に公開を転機として、
どこかの基礎魔術体系に吸収・併合された。
先文明魔術史の範疇で、近代魔術史にこの魔術の存在は含まれない。
高等学習においてもある程度の専門知識分野で学習する『歴史』の1ページである。

あらまし

『大変容』前、近世代から存在が確認されはじめた魔術形態。
魔術としては非常に歴史が浅く、それゆえ神秘性は薄かった。
アメリカ合衆国を中心に活動していたとある宗教が起源とみられている。

起源とは言うものの、その理論や技法の殆どが、それまで地球上に存在していた技術のパッチワーク。
歴史的価値があるのは技術継承のための理論構築や徒弟制度といった人智の部分のみ。
現在の魔術史において「人に教える、伝える」という技法にある程度の影響は与えているものの、
『大変容』に際して大きな歴史の流れに飲み込まれた、ありふれた魔術のひとつだった。

魔術として

脳内に構築した理論を、霊体に刻み込まれた魔術紋によって制御し、
魔力をリソースとして現実世界に励起させて様々な現象を引き起こす。
修得難易度の低さからも、この魔術の存在を発見し門戸を叩くところまで行けば、
大半の人間が凡人から非凡への化身を果たすことができた。
誰にでも修めることができ、あらゆる現象を励起させる、万能の魔術である――理論上は。

しかし実際は、大きく分けて三つの欠点が確認されている、どこまでもお粗末な魔術理論だったといえる。

コストパフォーマンスの劣悪さ

たとえば「火を熾す」という行為ひとつにとっても、フリントオイルライターのほうが遥かに手軽だ。
「明かりを灯す」ならカンテラで事足りるし、水を求めるなら井戸や整備された水道から汲めばいい。
リソースが人体に廻るエネルギーである以上は災害時の補給手段としても使えたものではない。
逆風となったのは産業革命以降、地球上のあらゆる技術が目覚ましく発展したことにある。
「機械のほうが遥かに便利でお手軽だ」――『大変容』をむかえる前から、この魔術は滅びに直面していた。

ハードウェアの性能不足~

すなわち、この魔術を学んだ才覚なきものたち――非凡になることを目的とした凡人たちでは、
到底「理論上の最高性能」を引き出せるわけがなかった。
ほぼ大半の人智魔術師が、魔術を用いての戦闘行為を行う域に達することさえできなかったのである。
更に、人間が理解することできなかった「黄金の錬成」「死者の蘇生」「時間の遡上」といった、
魔術という言葉に期待されたあらゆる奇跡の実現は、机上の空論にさえ至らなかった。
「凡人はどこまでいっても凡人」――天才を輩出できなかったがゆえの、必然の衰退である。

習得方法の危険性

解体に至った最も大きな要因がこれだ。 「霊体に直接、制御のための魔術紋を刻む」。誰にでも修得できるようにするためのこの施策には大いなる危険があった。
傷ついた霊体の修復はこれら人智魔術師の技術レベルではほぼ不可能であり、ひとつふたつの魔術紋の刻印ですら、
決して低い確率ではない、霊体のほつれ(アストラル・ロスト)からの廃人化リスクが生じるからだ。
当然、高位の魔術を目指すなら大量の刻印が必要となる。当時の薬害の被害者と公表された患者のいくらかは、
実際のところこれによって霊体が崩壊したといわれている。
この問題が指摘されたのは『大変容』以降、魔術の存在が開かれてからだ。
いくらある程度の規模の宗教団体で技術継承が行われていたとはいえ、「秘匿」の原則に則ったクローズドサークルである。
さらに「幼少であれば廃人化のリスクが少ない」という根拠のない発案から、犠牲となった子どもたちもおり、
安定以降、この魔術を伝えていた本山である宗教団体は弾圧され解体。
「閉鎖環境下での魔術研究・伝導の危険性」という反面教師としても、この魔術の存在が伝えられる憂き目となった。


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