PC/生徒/クラスカ・S のバックアップ(No.28)

西欧の集合魔術結社の一つ『ペンタリアン』を構成する氏族、シェリダンの三男坊。
魔術に造詣が深いものなら名前を耳に入れたことがあるかも、程度の規模。

なお実際のペンタリアンはただの古くから存在する魔術結社で、とりわけ大きな力を持っているわけではない。
幼い頃から魔術の才能に秀で、自然と周囲からはシェリダンひいてはペンタリアンの次代を担う者としての期待を寄せられていた。
自分の未来の展望は絶対であると信じていたし、事実一族の中でもクラスカを立てる気風は揺るがなかった。
周囲はこぞって神輿を担ぎ、魔術が世に完全に認知されたことによる新時代の到来と、新たな指導者の発芽に湧いた。
誰もまだ、純粋な少年の道がねじ曲がるとは思わなかったのだ。

魔術に願えば何でもできた。
火を起こせる。水を生み出せる。風を巻き上げられる。大地を割れる。
「何故、他の人たちは、こんな万能の力を大手を振って使わないのか？」
答えはすぐに出た。


「他の人間は、自分より劣っているからだ」


クラスカは魔術で人を傷つけるようになり、建築物の破壊は日常茶飯事、酷い時には地図から小さな村が一つ消えることすらあった。

成長し増長した少年はただ魔術こそが真理であり、また魔術の力で世界を革新できると病的な狂信を持つようになった。
魔術の力にも更に磨きがかかり、常軌を逸した思想は加速する。
複数の動物をモチーフした合成獣の研究。
駆動に魔術を要する魔導機械の理論。
効率的に対魔術戦闘を行うための大量広域先制破壊魔術（Mass Amplitude Preemptive-strike Magic）の開発。
高位魔術書の独自写本。
止めどなく続く少年の狂気を不安がる声は、いずれもペンタリアンの中でシェリダンがシェアを取ることを認めない者たちの少数派意見として駆逐された。
クラスカの歪みは続く。
クラスカは遂にペンタリアン内での禁忌、「現代社会への干渉」を画策するようになった。
21世紀が後半にさしかかり、魔術と異能が世界の枠組みの一部としてシステムに取り入れられてなお、氏族内では魔術は秘匿するもの、との風潮があった。
魔術は永劫に社会と相容れない、ならば魔術師は人目を避けて生きるべき。
そんな隠遁生活を脱し、ペンタリアンと自分の存在を世に知らしめるため、クラスカは西欧で力を持っていた魔術協会の一つへ宣戦布告を試みる。

一族の在り方の否定には、流石に多くの人間が心を動かされ、事態を重く見て彼を諌ようと試みた者は、反逆の見せしめとして処刑された。
逆らう者を抑圧し続け、魔術師による忠実な軍隊を作り、若干10歳にしてクラスカは狭い世界の孤独な王として君臨する。
クラスカ・シェリダンの名は、人の形をした災厄の魔術であるとさえ語られたのだった。

しかし、悪は必ず討たれるもの。

クラスカは決まって一人になった際に、何者かに襲われるようになった。
個人、集団、肌の色、男女、刺客の正体は様々。
殆どは魔術師で、ごく稀に奇妙な力を持つ（後に異能の力だと知るのだが）人間もいたが、全てをクラスカは退ける。
周囲の人間は実しやかに、クラスカを恐れた不穏分子、魔術協会から雇われた賞金稼ぎだと囁いた。
それらが自分を疎む勢力、ひいては自分を守ってくれるはずの血族より放たれた暗殺者だと気付けば、憎悪の対象は外だけでなくペンタリアン内部にまで向けられる。

そして革命は起きた。
『魔術結社ペンタリアンを牛耳る独裁者クラスカ・シェリダンの打倒』という形で。

ペンタリアンは魔術協会を敵に回すより、クラスカ一人の首を差し出し禊にしようと画策したのだ。
周囲の全てがクラスカの敵となり、一族を危険に曝したクラスカへの追討はどこまでも続いた。
なおこの時、公的にクラスカ・シェリダンは討伐され、12歳で死亡したものとされている。
逃亡生活の疲労が祟ったクラスカは、飢えから死を待つばかりの状況に追い込まれていた。
風前の灯の命のクラスカに手を差し伸べた人物がいる。
彼の者はクラスカを大逆人と知りながら救い、飢えを満たし、温かい家を与えた。


ある時、クラスカは彼に尋ねた。
「どうして俺にそんなに優しくしてくれるの？」

回答はこう返された。
「他人が優しく見えるのは、それはあなたの心を映しているからなんですよ」


全てを理解した少年は哭いた。
周囲が、世界が馬鹿らしく見えていた理由は、自分が愚かだったからだ。
そんな人間が使えば、魔術も単なる無軌道な殺戮の手段に貶められる。
本当の魔術はもっと温かいもので、他の人間を笑顔にもできるはず。

自分にはもう、誰かを傷つける力は必要ない。
次に魔術を使って戦う時は、自分の心が、もっと強くなった時だ。

誓いと共にクラスカは自分の魔力の大半を封印する。
二度と間違った心で魔術は使わない。

【魔術の力は魔術にあらず、心にあり】

16歳になったクラスカは、どこか遠くへ行きたいと願っていた。
恩人は、常世学園はどうかと薦めた。
魔術の研究も盛んであるし、クラスカのこれからの人生にとっての実りになると。

「常世はいいとこよ」

クラスカは恩人の伝えてくれる常世学園の話が好きだった。
だから自分も常世学園という開けた世界で、新たな人生を踏み出してみたいと感じていた。

旅立ちの日、クラスカは恩人にこれまで終ぞ聞き出せなかった、手配犯である自分を助けてくれた理由を訪ねた。

「単なるお節介さ」
「君が明日死ぬことすらにも満足できる、そんな、後悔ない人生を送ってほしかっただけ」
「私もこれで、満足して死ねるからね」


恩人はそういい残すと砂のように消えた。

恩人が何に満足できたのか分からないまま、クラスカは船に乗り国を離れ。

常世学園での生活が始まった。

永遠に未完成。
明日は明日の風が吹く。