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落第街に存在する寂れた大劇場。 内装はワインレッドを基調とした高級感溢れるオペラハウスのような内装だが所々火を点けられた跡が残り、煤けている。 廃墟としてそのままにされていたが、最近此の大劇場を運営していたフェニーチェが戻ってきたことにより活気を取り戻している。 嘗てはここで演劇が上演されたり大規模なパーティが開かれていた。 劇団員の生活スペースとして地下に大きな蟻の巣のように部屋が配置されている。 或る部屋から腐臭がしていた、などきな臭い噂も多々ある。 地下1階、地上2階建て。 舞台は1階席からも2階席からもよく見えるようになっている。
深い深い闇の中、ぼうと瞬く橙の光。 其の光を頼りに落第街の奥に進めば、嘗て栄えた大劇場。 上演されていた演目は複雑怪奇、荒唐無稽で虚仮威しめいたものばかり。 忘れられ、煤けた大劇場にぼんやりと灯りが灯る。 ザッザと音を立てて砂の積もった入り口に踏み込めば、其処に広がるのは或る劇団の成れの果て。 其の目の前の舞台で主役だったのは浮浪者、街頭の孤児、娼婦、殺人嗜好者。 決して普通のつまらない演劇とは違った、スパイスの効いた折り目正しい舞台劇を莫迦にするような演劇。 刺激的で、何処か可笑しな舞台劇。 ヴ────ッ……、と開幕のブザーが鳴り響けば其処は彼ら"劇団フェニーチェ"の世界。 狂気的で喜劇的で刺激的な其の物語に、観客はどんどん呑まれていった。 其れはもう、現実と演劇の区別がつかなくなるくらいに非日常で塗りつぶしていく。 何もしなかったら、何も起こらない。 ───はて、此れは誰の言葉だったか。有名な劇作家の言葉であっただろうか。 故に、彼らは『何かする』。然すれば『世界は変わる』から。 彼らの芝居は大抵短篇で、複数本立てで上演されることが多かった。 観客動員数ばかりでなく、「観客のうち何人が失神したか」も彼らにとって劇の成功・不成功を測る尺度だった。 ───失神した観客が其のまま行方不明になる、と云うのも非常によくある話だったが。 そんな非日常で満ちた狂気を孕んだ劇場を、彼らは『ミラノスカラ劇場』と呼んだ。