ストーリー/第二特別教室
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&br;&br;&br;&br;&br;
CENTER:&size(30){もし、あの日の選択が違っていたら、屹度。...
&br;&br;&br;&br;&br;
#contents
*『室長補佐代理』-『クロノス』 [#v3878032]
0626 夕 第二特別教室で薄野ツヅラとの会話。~
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
~
0627 夕~深夜 落第街での大規模な戦闘。~
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627~28 深夜 公安委員会に回収される。(ログは最下部参照...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0628 深夜~早朝 落第街 薄野ツヅラの拠点のホテルへ到達。~
朱堂 緑、ゲートクラッシャー(否支中活路)、薄野ツヅラとの遭...
及び、"クロノス"の終了。
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
*第二特別教室 [#l63f788b]
0626 夕 薄野ツヅラ、クロノスとの接触。~
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
~
0627 夜 朱堂緑、五代基一郎との連絡。
同時に、五代基一郎と薄野ツヅラの接触。~
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 深夜 薄野ツヅラ、クロノスを第二特別教室で待機。~
しかし、この段階での接触は失敗。
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 深夜~早朝 落第街 薄野ツヅラ、住まいのホテルへ到達。~
朱堂 緑、ゲートクラッシャー(否支中活路)、クロノスとの遭遇...
及び、"クロノス"の物語の終わりを見届ける。
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 朝 朱堂緑、休職扱いとされていた第二特別教室への復帰...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 昼 薄野ツヅラ、落第街の廃ビルでの独白。クロノスの遺...
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 夕 朱堂緑────(これ以降の記述はない)
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
以上 此れをもって第二特別教室所属 活動名『クロノス』の物...
(活動名『堂廻目眩』の報告書より引用)
* Another Episode&br; [#kb7b4184]
** 序文《A preamble》 [#t6959e4b]
非常連絡局が解体され、早くも数日がたったらしい。&br;
偲様は病院で植物状態になっているらしい、面会に行ったら、...
まだ夏には早く、春というには早い微妙な季節、&br;
私は縋る物を失って、ただ呆然としていた。&br;
偲様の事は尊敬していた、もちろん、彼女の思想に賛同もした...
でも、それだけだ、私は彼女にはなれない。&br;
『賛同』するだけで、自分から『生み出す』事は出来ない。&br;
『公安委員会』から、『除名』ではなく『移籍』の書類が届い...
元非常連絡局員の内、偲様に近い人間の大半は『除名』されて...
私に届いたのは『移籍』の書類、それがなんだか少し悔しかっ...
『賛同』するだけで、自分から『生み出す』事は出来ない。&br;
それを見抜いたかのようなその書類を、ぼんやりと眺める。&br;
転属先は『第二特別教室』の『執行部』&br;
調査用の部署の『執行部』、つまり、凄まじいまでの閑職であ...
サメの着ぐるみを模したパジャマのヒレが、悲しげに揺れた。&...
彼女はこのパジャマを『可愛い』と言ってくれた、だからお気...
―――『第二特別教室』では『本名』を名乗らないのが通例らしい...
私、■■ ■■ は凡人である。&br;
何かを変える力も無く、何かを成す事も出来ない。&br;
だから、私は、『クロノス』になる事にした。&br;
我が子すら喰らい、父を殺し、叛逆を成し、&br;
世界に時という新たな秩序を与えた『神』&br;
厳つい鉄底の靴を買って、眼鏡を外してコンタクトにした。&br;
結んでいた髪を解き、公安委員会の制服をキッチリと着込み、&...
彼女から貰ったお気に入りの帽子を被る。&br;
コンプレックスだったちょっと目つきが悪い目も丁度いい。&br;
自信無さげだった表情は、出来るだけ笑顔を絶やさないように...
最後にパンパンと顔を叩くと、真っ黒い手袋を嵌める。&br;
今日から私は『クロノス』になろう。&br;
目的の為には手段を選ばない、非情の『死神』に。&br;
鎌を取り出すと、ひゅんと振った。&br;
大きな鎌は、お気に入りのティーセットを壊した。&br;
** 1 [#w9d15d9b]
偲様が呼び出した『炎の巨人』は、天使なんだと思う。&br;
目の前でゆれる、巨大な炎。&br;
あの事件を思い出すその巨大な炎は、どこか懐かしくて、&br;
でも、その『唯の炎』は彼女のそれには、遠く感じて。&br;
鉄底の靴が床にあたって、カツンと音を立てた。&br;
『クロノス』になった私は、まずは下準備をする事にした。&br;
今まで使わなかった『ガウスブレイン』を使用して、計算する...
『ガウスブレイン』が出した答えは、落第街での派手な活動だ...
『移動直後でなれていない』事を理由にした、上司に責任を押...
その『上司』に心の中で謝りつつ、私は落第街で派手な活動を...
この『派手な活動』の目的は2つ。&br;
まず1つは、私が『公安委員会』が思っているような人間では...
公安委員会は私が『同調していただけであって、自分から事を...
おそらくこの『閑職』への移動は、彼女の死を切欠に、
私が『公安委員会』に『都合のいい人間』になったか否かを試...
もし、私が大人しく『閑職』に甘んじて、特に何も『問題』を...
私は公安委員会にとっての『モブ』になり、適当な部署に移動...
では、そこで『問題』を起こしたらどうなるか。&br;
―――それは、想像に難く無い。&br;
もう1つは『落第街の人間』に私を覚えて貰うという事。&br;
無差別に放火し、多大な被害を生み出してれば、&br;
落第街の戦闘に自信の無い人間を隠れさせ、逆に戦闘に自信の...
加えて、『公安委員会』がそのような蛮行を働いているという...
『公安委員会』への敵対を煽る事が出来る上、犯罪を抑止する...
特に何も脅威が無ければ身内同士で争うが、外に敵を作ってや...
『外の』人間に少しでも落ち度が見えれば、必死に自身の側に...
『落第街』には、そういう人間が多いからだ。&br;
ついでに、犯罪者を餌に自分自身の異能力も強める事が出来る...
人の力を借りるだけの異能。『我が子喰らうサトゥルヌス』&br;
自分からはけして生み出せない、なんとも『私らしい異能』。&...
その異能は今まではなんとなく嫌いで、積極的に使う事は無か...
今は手段を選んでいる時じゃない。&br;
使える物はなんでも使う。異能も、魔術も、組織も、そして、...
** 2 [#b08e35f0]
『正義』とはなんなのか、私にとっては、西園寺偲様だ。&br;
想定どおり、上司に『注意』を受けた。&br;
ただ、実際に得た恩恵は想定以上だ注意が遅い。&br;
違反部活の大半を葬り去り、異能力と命を大分稼ぐ事が出来た...
使い勝手のいい異能も幾つか手に入れる事が出来た。十分だ。&...
上司と、正義に関する問答をした。&br;
彼にとっての正義と、私にとっての正義。&br;
それはそれぞれにとってはどちらも正しく、&br;
それぞれにとってはどちらも正しくない。&br;
他人の正義を意固地に否定することなく、&br;
『現場』の正義として肯定する『上司』。&br;
残念ながら、『彼の正義』には好感は持てないが、&br;
『彼自身』には好感が持てる。それに、なんとも甘い男らしい...
『彼』と『私』の正義の問答。&br;
私の『正義』は借り物だったはずだったけれど。&br;
「自分の気に入らない悪を倒し、自分の助けたい人を助ける。...
重くのしかかる彼の言葉に、咄嗟に『私』はそう答えた。&br;
果たして、それは『彼女』の正義だっただろうか。&br;
そんな疑問がふと浮かんで、ふわりと消えた。&br;
どうやら、彼が注意して来たのは落第街の少女に言われたから...
なんとなく、その少女に興味が湧いた。―――今度、挨拶にでも行...
彼は、話している間コーヒーを飲まなかった。&br;
冷めたコーヒーは美味しくなさそうだが、絶対に片付けてはや...
** 3 [#t951a4fd]
弱者は何に守られるべくもなく虐げられ、強者はより強い強者...
―――落第街という街は、そういう所だ。&br;
私は目の前にいる、耳のように髪の毛が伸び、&br;
ヘッドフォンをつけているジャージの少女を眺めながらそう思...
監視番号は109番だ、素行不良がやや目立つ上に、落第街に居を...
私は『クロノス』になってから、人の名前を呼ばなくなった。&...
非情の死神であり続けるため、仕事に私情を挟まないため。&br;
なんていうのはきっと言い訳で、実はただ臆病なだけなんだろ...
自分が殺した人間の名前なんて、これから殺す人間の名前なん...
一度知ってしまえば、忘れる事はきっと出来なくなる。その名...
『監視番号109番』、彼女は精神系の能力を持ち、&br;
自分なりの『正義』を持って、自分なりに情報収集をしている...
そんな姿が、過去の自分に重なった。&br;
たとえ『知れても』、自分では何も出来ない。&br;
どうしようもなく無力で、どうしようもなく苦しい。そんな頃...
精神系の能力者は常に孤独だ。&br;
普通の人間なら騙された事に気がつかない事でも、気づけてし...
普通の人間なら仲良くできる相手とも、仲良くできない。&br;
絶対に正しい自分の言葉が、親にも、友達にも、誰にも信じて...
能力を使わなければ、その『声無き声』を聞かなければ、知ら...
知れる手段があるのに、『知らずにいる』なんて、騙され続け...
―――そんな悪循環が、精神系の能力者を孤独にする。&br;
ただの笑顔を悪意に歪んで見えるようにする。&br;
少し話しただけだが、彼女はとても優秀で、善良に見える。&br;
『私情』が入っているような気はするが、いつか、私が『上に...
彼女のような人間を、部下に引き入れたいと思った。&br;
ええ、断じて顔が好みだったとか、そんな事ではなく。&br;
彼女と話して昔が懐かしくなった私は、スラムを訪れた。&br;
弱者は何に守られるべくもなく虐げられ、強者はより強い強者...
そこで出会ったのは『学園の被害者』だ。&br;
言葉を交わし、剣を交えた。&br;
でも、彼を『殺そう』とは、どうしても思えなかった。&br;
この街は、この学園は、昔と何も変わらない。&br;
だから、私が変えないといけないと思った。&br;
彼のカサカサした唇は、彼女の柔らかくて甘い唇とは全然違く...
**破文《A break》 [#y51f61b9]
―――ついに、『終わり』が『始まった』&br;
怪しげなホログラムが浮かぶ部屋に大きな黒い影と、小さな白...
未だ役割の無い影二つに、物語の書き手は役割を与える。&br;
黒い影、『室長補佐代理』へ、『一般人』として過ごすように...
白い影、『私』へ、『室長補佐代理』として過ごすように。&br;
この昇進の支持は、私に対する『大義名分』でもある。&br;
『過激な取締り行為』を『手柄』であると認め、昇進させる。&...
つまり『これからも存分に暴れるように』という辞令だ。&br;
そして同時に、私に公安委員会の為に、秩序の為に『死ね』と...
ホログラムが消えた部屋で、私は彼から室長補佐代理の腕章を...
それは、私を破滅に導く『願いを叶える猿の手』だ。&br;
腕章を握り締める、死という道に歩き出す恐怖と、&br;
必ずやり遂げるという使命感が、私の足を振わせた。&br;
『上手くやれよ』と言って去る黒い影を見送る。やはり、甘い...
暫くの間、彼は日常に戻るのだろう。いや、そのまま戻ったほ...
でも、恐らくそれは叶わない。彼は、戦場でしか生きられない...
私は帽子をかぶりなおすと、その腕章をつける。&br;
その腕章はただの布のはずなのに、ずしりと重くて。&br;
そして、私の思い描いた『クロノス《反逆者》』は完成した。&...
公安委員会の書いた筋書きは、&br;
『西園寺偲を模倣する公安委員』に大義名分を与えて暴れさせ...
そしてそれを、『公安外部』の人間である彼に始末させる。&br;
―――と、まぁ、こんな所だろう。&br;
公安の狙いは、西園寺偲に影響を受けている人間への牽制と、&...
民間によって公安委員が殺害されたという事実による予算の増...
ついでに、この所の治安の悪化による公安に対する不満感を、&...
『民間代表』が『公安代表』を誅する事件を演出する事で軽減...
ついでに言うなら、先に聞いた情報から考えるに、&br;
彼が個人ではなく、『機能』であれるかを計るテストを兼ねて...
とはいえ、そんな事は私にはどうでもいい。&br;
きっとニ度と訪れる事はないその暗い部屋から、ゆっくりと踏...
残された時間は少ない、それまでに、『彼女の願い』を叶える...
私が、必ず。&br;
**1 [#tdb0d741]
それは、『万物を切り裂くアダマスの鎌』。&br;
―――世界に、私に、叛逆する力。&br;
『黄金の鎌』を握った時の全能感は、麻薬のように心を蝕む。&...
理不尽をそのまま形にしたような彼に久しぶりの奥の手を振っ...
自分が自分である事を確かめるように手を握り、そして開く。&...
『万物を切り裂くアダマスの鎌』、私が私として振えるのは、...
この魔術は私の中にある『縁』いや、&br;
あらゆる人間の内側に存在する自分以外の大いなる存在との『...
一種の『降神術』だ。自身の身体に、魂に神を降ろし、そして...
人の身に『神』などという大層な魂を降ろすという無茶をして...
当然のように、長く持てばゆっくりと自分自身の魂を犯して行...
そんな危険な魔術であるにも関わらず私がこの魔術を選んだの...
でも、『全能感』に身を委ねてしまおうと思った事は一度も無...
私が『鎌』を振うのはいつも一度だけで、&br;
この魔術自体も、極力発動しないようにしている。&br;
『自分を変えたいと願っている』のに、『誰よりも自分を変え...
だから、私にはこの魔術が使えるのかもしれない。&br;
ちなみに、それ以外の『魔術』は一切使えない。&br;
『降神術』なんて、『自分自身の存在』という最も危険な物を...
だからこそ簡単なわりに強力な魔術だが、正直、好き好んで使...
そんな事を考えながらも、私は目当てのホテルにたどり着いた...
『公安委員会』の名前を出せば、落第街のホテルの合鍵を手に...
落第街にあるホテルということは、つまり、『そういう事』だ...
そもそも私の顔を見た時点でそれはもうへこへこしていた。&br;
ま、建物が商売道具である以上、当然燃やされたら困るだろう...
ホテルの支配人の『善意』のご協力で合鍵を手に入れた私は、&...
彼女の部屋のドアを開けた。まだ、彼女は帰ってきていないら...
何処かに隠れて、油断した頃に声をかけてびっくりさせてやろ...
口元を歪めながら、私はベッドの下に隠れた。&br;
―――『全能感』、ちょっと私の心を蝕んでいる気がする。&br;
**2 [#z344c4cb]
私に、最初で最後の、『部下』が出来た。&br;
跳ねた毛と笑顔が可愛い、ヘッドフォンをつけた、笑い声の特...
目の前でガチガチに緊張している彼女を見ながら、&br;
ちょっと意地悪をしてやろうと考える。&br;
誰も居ない教室、そこに流れる空気は、落第街のものとは違う...
彼女を誘ったのは、つい昨日の事。&br;
明らかに彼女に有利しかない取引を持ちかけて、&br;
彼女は、それを信じて乗ってきた。&br;
悪い大人に騙されないかが少し心配になるが、&br;
彼女の性格を考えるに、私の事をしっかりと観察して、&br;
信用に足る人間である、と判断したのだろう。&br;
実際、騙すつもりはない。&br;
彼女は落第街どころか学生街にまで足を伸ばし、情報収集を行...
そして、ついに先日、『ロストサイン』との戦闘にまで巻き込...
『好奇心は猫をも殺す』という言葉の通り、彼女は放っておけ...
彼女のような、私のような人間が生き残るには、相応の地位が...
だから、私は彼女を公安委員会に誘った。&br;
私が与えられる場所は、ここだけだから。&br;
頬を、唇を、耳を、髪を撫でながら、彼女の顔を見る。&br;
それはきっと、過去の私が彼女にそうされた時の顔と同じなん...
そんな事を考えると、なんだか少し恥ずかしくなって来て、&br;
結局、意地悪も程々に部屋から出て行く。&br;
彼女は『堂廻目眩』と名乗った。&br;
すぐ抜けるとか、存分に利用するとか口では言っていたが、&br;
彼女は抜けないだろう、私の代わりに、いい公安委員になって...
信頼できる居場所は、居心地がいいはずだ。多分&br;
**3 [#j27d45fb]
悪趣味な人形の家を模したような不気味な内装、&br;
その暗がりで、彼は猫を抱いてまっていた。&br;
猫の瞳が私に向いて、小さくにゃあと鳴いた。&br;
『ようこそ公安委員会直轄第二特別教室……室長補佐代理殿&br;
まずは祝辞からがいいかな』
マッドティーパーティが、幕を開ける。&br;
私の尊敬する彼女が常々言っていた。&br;
『五代基一郎』血気盛んで、統制を取るのが難しい風紀委員会...
唯一人『指揮官』として纏めえる人材は彼しか居ない。と。&br;
もし、公安と風紀で戦争をするならば、彼の有無で勝敗が決ま...
私はそんな彼が少し羨ましかった。&br;
きっとそんな彼は、偲様と同じく『特別』な人間で。&br;
私のような凡人では一生かかっても成し得ないような事でも、...
だから、彼の事は監視番号ではなく、『101』と呼んで、席につ...
彼女と同じく、『特別』な人間ならば、きっと彼もまた、&br;
私が考えもつかない方法で、この学園を変えてくれるのだろう...
『助けてあげようか?』&br;
彼は私にそう声をかけた、私はあえてそれに挑発的に答える。&...
本心では、それに手放しで縋りたかった。&br;
私が願いの為に『クロノス』であり続けなくていいのなら、『...
だからこそ、見せてほしかった、その腹の内を、飄々とした態...
―――結果は、ただ、期待はずれだった。&br;
彼は私の命を助けると、ただそれだけ言った。それ以外は出来...
学園を変えるという事はしない、ただ何もせずただ座るだけ。&...
この『ドールハウス』に似合う、ただのお人形。&br;
私の『正義』をただ八つ当たりであると否定して、&br;
彼の『正義』を示そうとはしない。否定するだけの、臆病者だ...
これ以上、彼と話す事は無い。そう考えて、私は席を立つ。&br;
ただ、そんな彼を、彼女は評価していた。&br;
『分からない。』きっとそれが、『特別』の証なのだろう。&br;
『凡人』には分からないような考えが、その裏には隠れている...
私が席を立ったのは、そんな彼が怖かったからなんだと思う。&...
そんな彼から、目を背けて、逃げ出そうとしたからなんだと思...
ドールハウス、人形の屋敷から、足早に立ち去る。&br;
外に出ると、内装に見合わない、普通の建物が私の後ろには建...
彼もまた、外側は普通に見えても、内側ではきっと、私の考え...
その考え付かないような事を見せるには、私では役不足だと、...
そういえば、彼女もそうだったような気がする。&br;
自分の心のうちで何を考えているのかは結局教えないまま、&br;
どこか遠くを見つめて、そこを目指していた。&br;
………『八つ当たり』そんな彼の言葉が、心に、ちくりと棘を残し...
**4 [#a015a5ad]
―――私は、『彼女』に出会った。&br;
委員会街の一室で、サメの着ぐるみのようなパジャマのヒレが...
ペタンペタンと書類に判子を押しながら、ゆっくりと昔の事を...
スラムでの生活、弱者は強者に虐げられ、強者はさらに強い者...
一番上なんて存在しない、全員が虐げられる世界。落第街。&br;
私は生まれつき、人間を食べていた。&br;
人間を当たり前のように食べ物と思って、当たり前と思って食...
特に『おいしいから』とかそういう理由ではなく、&br;
単純に『それが当たり前だから』、ただ、食べていた。&br;
当然、そんな『人間』が学生街に居るというわけにもいかず、&...
私は、落第街に捨てられた。&br;
親が居たかは分からない、そんなもの、覚えていなかった。&br;
だから、誰が捨てたのかも、分からない。&br;
そこから先は、地獄のような日々が待っていた。&br;
虐げられながらも、なんとか日々を生き延びる。&br;
幸いにして、食料には困らなかった。&br;
そうしているうちに、ある魔術士と出会った。&br;
彼は私を拾って魔術を教え、そして、何よりも希望を教えた。&...
『私、公安委員に、正義の味方になる。』&br;
彼にそう言って、私は魔術を鍛え、異能の使い方を覚え、&br;
悪い頭で必死に勉強して、『一般学生』になる試験を受けて『...
そして『公安委員』の試験を受けて『公安委員』になった。&br;
少しでも、何かを変えられると信じて。&br;
それはもうやる気満々で公安委員会に入った私は、&br;
公安委員会の現状を見てそれはもう大層凹んだ。&br;
『法の番人』に憧れがあった事もあって、&br;
その凹みようは本当に凄まじいものだった。&br;
特に意味も無い事務仕事を特に意味もなくやり続け、&br;
特に意味を成していない監視任務を行い、&br;
やはり特に意味も無い取締りを申し訳程度に行う。&br;
『こんなもの、何もしてないのと変わらない。』&br;
そう思いつつも、なんだかんだで真面目な私は、&br;
それにもきっと何か意味があるんだ、と信じて真面目に仕事を...
結果としては、何も変わらなかった。&br;
久しぶりに訪れた落第街は、自分が出て来た時と何も変わらな...
ただ変わったのは、自分の生活だけだった。&br;
私を拾い上げた魔術士の家は、もぬけのからになっていた。&br;
死んだのか、はたまた、逃げ出したのか。それは分からない。&...
それはもう理不尽なレベルに強かったから、多分死んではいな...
そのスラムの現状をみて、自分の家に帰って、ただ泣いた。&br;
結局私は、何も変えられなかったと。&br;
そんな平凡な人間の平凡な日常の中、『彼女』に出会った。&br;
『西園寺偲』、公安を、学園を変えようと動く彼女を、&br;
私はそれはもう心の底から尊敬し、崇拝した。&br;
『西園寺偲様マジ神』とばかりに彼女の事を追いかけ、&br;
隙があれば陰からこっそりと見守り、&br;
口にする言葉や考え方を周辺の人物に聞いてまわってメモを取...
『彼女のようになろう、彼女のような人間になろう。』と必死...
神社に行って、彼女と同じ部署になれますようになれますよう...
その『憧れ』を糧にそれはもう熱心に仕事をして、&br;
やがてその努力が通じたのか、彼女と、西園寺偲と同じ部署に...
すっかりもう手の届かない場所に行ってしまった彼女に、&br;
ガッチガチに緊張しながら配属の挨拶をしながら、&br;
やっぱり特別な存在なんだろうと、そう感じた。&br;
姿には後光が差すようで、その視線は、&br;
まるで私の心の中まで見透かすように鋭く私を刺して、&br;
それはもう兎に角美しかった。言葉には出来ない程に。&br;
彼女に配属の証である帽子を被せてもらい、何かの言葉をかけ...
―――そこで、私の意識は途切れた。&br;
目が覚めると病院で、夢かと思って勢いよく身体を起こした。&...
でも、夢じゃない事を示すように、傍らには彼女に被せてもら...
私はそれを見て、胸に抱えて涙を流し、彼女の為に頑張ろう、...
それが、私と彼女の出会い、&br;
『人生で一番楽しかった』彼女と過ごす時間の、始まりの思い...
ちなみにいきなり倒れた事については、&br;
後で『あまりに美しすぎて』と正直に答えた。&br;
彼女はそれを聞いて笑って、私はその笑顔でまた病院に搬送さ...
**5 [#z291f15b]
『正義の味方』になってみようと思う。&br;
―――上手くやってみるのも、それはそれでいいかもしれない。&br;
五代との会話以降、私は活動を大幅に縮小した。&br;
『八つ当たり』、『憂さ晴らし』、そんな言葉が私の心に刺さ...
彼の『助けてやる』という言葉を、やはり何処かで期待してい...
そんな私を許さないように、公安委員会から2つの指令が出る...
正式な指令ならば、さすがに動かずには居られない。&br;
1つは、『路地裏に居る『怪異』の調査、およびに『討伐』&br;
これは風紀委員の仕事のような気がするが、&br;
なんでも、路地裏に出現する不良に風紀委員が犯られただとか...
商店街に出没したロストサインに風紀委員が殺られただとかで...
今は、風紀委員側から危険生物への対処人員を裂けないとかな...
つまり、親や、近親や、友人への配慮だろう。&br;
風紀が動けないっぽいから動いて欲しい、&br;
という生徒会側からの御達しでもあったのかもしれない。&br;
忘れられがちではあるが、公安委員会も、風紀委員会も結局は...
学生のうちで解決できる事は学生が解決し、それ以外は五代の...
というのが、この学園の基本構造でもあり、学園で試験されて...
つまり、学生である以上PTAだとか、&br;
そういう保護者に対する配慮も必要なわけだ。&br;
当然、子供が死んで嬉しい親は居ない。&br;
死んだばっかりなのに死ぬかもしれない討伐の指令を出すとは...
まったくもって難儀なものである。&br;
危険生物は当然危険だから危険と言われているわけで、&br;
私も十二分に痛めつけられつつも、なんとかトドメを刺した。&...
再発する危険もあるが、まぁ、『公安委員会が討伐した』とい...
再発した場合はあくまで『別の怪異』。良くある事、仕方の無...
そしてもう1つは、ある学生への聴取だ。&br;
『否支中活路』二年前のロストサイン事件の重要参考人であり...
先にも言った通り、『ロストサイン』の人間が風紀委員を、し...
何の対策もせずに放置するわけにも行かなくなったから、手始...
という事を示すためにも、監視対象である重要参考人への聴取...
実際、『ロストサイン』は偲様も十二分に警戒していた相手で...
その意思を継ぐ、というのなら、私にとっても『敵』である事...
彼女の意思を継いで、絶対的な力でもって学園を変える、とは...
最良の部下との出会い、そして、五代との会話が、私からその...
『助けて』貰えるのなら、『助けて』もらってもいいかもしれ...
このまま、彼女と2人で『上手くやる』のも、それはそれでいい...
『そろそろ試験が始まるらしいし、彼女にテストの対策でも教...
聞いた話によると、彼女は無謀にもテストの答案を盗もうとし...
彼女と一緒にテスト勉強するのも、悪くないかもしれない。&br;
それが終われば夏休みがやってくる、一緒にお祭りに行って、...
『私の『クロノス』という鍍金が、剥がれ落ちはじめていた。...
**6 [#ed6565cb]
『彼』はニャルラトホテプ《混沌》と名乗った。&br;
活路から手に入れた情報は、信じ難いものばかりだった。&br;
『門』は破壊されておらず、ロストサインは壊滅していない。&...
つまり、二年前から今まで、『何も変わっていなかった』とい...
『バイクってあんなにスピード出るんですね』と、夕べの事を...
私はその情報を公安委員会に報告するべく、&br;
かつてニ度と踏み込む事はないだろうと思っていた暗い部屋に...
しかし、奇妙な事に、そこには『何も無い』。&br;
しばらくぐるぐると部屋をまわり、色々と調べていたが、&br;
当然ホログラムを出現させるようなものもなく、それ以外にも...
……ただの空き教室のように見える。いや、そこはただの空き教...
私は仕方なく、書面で報告するべく第二特別教室へと戻った。&...
やれやれと、必死に探して来た帽子の鍔を握りながら、席に着...
『次は誰でしょうね?』&br;
私の机の上には、A4の紙に12pxで一言だけそうかかれた紙と...
活路から得た情報を記載するように指示がされている、白紙の...
私はその報告書を書きながら、唇を噛む。&br;
私はもう『助からない』、その事実が、報告書の文字を滲ませ...
**終文《Epilogue》&br; [#d3580fbf]
―――彼女の唇は柔らかくて、そして、少ししょっぱかった。&br;
彼女に別れを告げた後、私は落第街のビルの上に立っていた。&...
ゆっくりと、落第街と、そして学生街を見下ろす。&br;
唇を指でなぞりながら、彼女を『尻尾』にさせない為に、私と...
そして、こんな最悪のシナリオを書いた公安委員会に、一矢報...
私は、『最後の詠唱』を始める。&br;
『―――序文《A preamble》』&br;
『―――偉大なる父《Ouranos》すら殺すクロノス《Kronos》の鎌...
『―――叛逆者の大鎌よ。』&br;
『―――我は叛逆を成さんとするもの。』&br;
『―――その意思を継ぐもの。』&br;
『―――その鎌は我が右手に宿りて、叛逆を成さん。』&br;
右手の鎌は、『公安委員会』への叛逆の為に、&br;
『世界で一番大切なあの人』の為に振おうと思う。&br;
私は決して、敷かれたレールを素直に走りはしない。&br;
全力で走って、走って、レールの終着駅を通り越して、自由に...
『上手くやります』と、憧れの元上司に呟いた。&br;
『―――破文《A break》』&br;
『―――天と地を裂き、時間を生み出したクロノス《Xronos》の鎌...
『―――時の大鎌よ。』&br;
『―――我は新たな秩序を成さんとするもの。』&br;
『―――その時を待ち望む者。』&br;
『―――その鎌は我が左手に顕りて、秩序を成さん。』&br;
左手の鎌は、『公安委員会』を守るために、&br;
『世界で二番目に大事な彼女』の為に振おうと思う。&br;
私は決して、公安委員会を本気で潰そうとはしない、&br;
ただ、彼女の為に、今より少しだけ、いい場所にしたい。&br;
『上手くやれよ』と少し嫌いな元上司に、呟いた。&br;
『―――終文《Epilogue》』&br;
『―――万物を引き裂くクロノス《CXronos》の鎌よ』&br;
『―――征服され得ぬアダマス《adamantine》の鎌よ。』&br;
『―――双つの鎌を寄る辺に、今ここに顕現せよ。』&br;
『―――我が名はクロノス《CXronos》』&br;
『―――『叛逆《Kronos》』の『時《Cronos》』を告げる者』&br;
最後の鎌は、『自分の正義』を守るために、『自分』の為に振...
『殺したい人を殺して、守りたい人を守る。』為に。&br;
他でも無い、自分自身の正義の為に。
それを、世界に示すために。&br;
たとえ死ぬ運命でも、最後まで足掻き続ける為に。&br;
私は、最後まで諦めない。&br;
たとえ、どんな罪を背負う事になったとしても。&br;
そして私は、その門に、鎌を振った。&br;
『門を叩きなさい、そうすれば与えられる。』&br;
聖書にはそう書かれているが、何が与えられるかは、書かれて...
**1 [#n0cc8593]
『この力があれば、全てを終わらせられると思った。』&br;
一度振った鎌を、そのまま振い続ける。『降神術』の禁忌を、...
でも、不思議と、自分が喰われていく感じはしない。&br;
何故かは分からない、『全能感』は全く感じなかった。&br;
私は、いつもの私だった。いつもの、無力な私だった。&br;
冷静に考えれば、自分が死ぬと分かっているのに、全能感も何...
自分から流れて行く赤い液体は、きっと私の涙なんだろう。&br;
自分の中から急速に『命』が失われていくのが分かる。&br;
臆病な私は、『命』を必要以上に使うのは嫌だった、&br;
―――でも、『死ぬ』と分かっているのなら、いくら使っても構わ...
鎌を握り締めて、その場に集まってくる人間を見る、見知った...
彼女がこの場にいなくて良かったと思った、&br;
本当に優秀な部下だと、心底思う。&br;
帽子の鍔を掴もうとしたが、残念ながら両手は塞がっていた。&...
地面に赤い海が広がって行く中、自分に向かってくる人を見る...
自分の口元が歪んでいるのが分かる。&br;
『クロノス』としての、最後の『仕事』だ。&br;
この『仕事』が、この場にいる人間は勿論、&br;
この場に居ない人間にも『何か』を残せるように。&br;
彼女に『欠片』を残せたように、&br;
たとえ、変えられなくても何かを残す事は出来ると信じて。&br;
私は、その鎌を構えた。&br;
**2 [#i04539aa]
『私は当然のように。』
私は、ビルの瓦礫の中をゆっくりと落ちて行く。&br;
『命』は、残り一つを除いて全て使ってしまった。&br;
私のような人間に手を差し伸べる人間を視界の端に捉えながら...
結局、私の『終わり』は訪れなかった。&br;
私を止めたのは、まったく無関係の民間人と、無関係な先生と...
甚大な被害が出たかと思いきや、迅速に敷かれた全面封鎖令の...
それほど大きな被害は出ずに終わったらしい。&br;
1人の人間が起こせる事件なんて、結局そんなもの、という事だ...
飛び交う声の中、私は公安委員会の人間に乱暴に連行される。&...
まったく、怪我人に対しても容赦がない。さすが公安委員会と...
いつかの部屋を思い出す暗い部屋に連れてこられた私は、聴取...
内容は、筆舌し難いほどに酷いものだった。&br;
どこから手に入れたのか分からない情報で、言葉で殴られ続け...
物理的攻撃が無い分、尚の事性質が悪い。&br;
身体は既に先の戦闘でボロボロになっている中、&br;
その言葉の数々は、私の心を丁寧に、そして残忍に抉り取って...
やがて、私はその真っ暗な部屋に取り残された。&br;
文字通り心身共に衰弱しきった私は、その暗い部屋で、静かに...
やがて、甘い夢に落ちようと、そっと瞳を伏せた。&br;
**3 [#n8730ce1]
私は委員会棟を飛び出すと、ただひたすらに走った。&br;
魔術と異能を封じる手枷と足枷をものともせず、&br;
疲れた身体に鞭を打って、ただひたすらに、『彼女』を求めて...
『助けてあげようか?』&br;
その五代に言われた台詞が、頭を満たす。&br;
幽閉用の教室の鍵が開いていたのも、見張りが居なかったのも...
そして、何故か追っ手が無い事も。&br;
きっと、彼が何かをしてくれたんだと、&br;
都合のいい妄想を真実だと、勝手に思い込んで。&br;
すっかり聞きなれた鉄底の靴の大きな音ではなく、&br;
素足のぺたぺたという音が、やけに大きく聞こえて、&br;
でも、私は『彼』から『逃げる』為に、&br;
そして、『私の為』に、そこを目指して走った。&br;
―――今はただ、『彼女』に会いたかった。&br;
落第街まで来れば、私のような人間に興味を向ける人間は居な...
脱獄者が逃げ込んで来る。落第街では、よくあることだ。&br;
そんな『自分たちの側』へ落ちてくる人間には、落第街の人間...
そこに住む彼女なら、私の為に涙を流した彼女なら、&br;
きっと、今の弱い私も、受け入れてくれる。&br;
全能感よりも、もっと甘い、麻薬のような『奇跡』が、&br;
そんな普段なら絶対考えないような甘い考えが、私を蝕んで行...
いつかも訪れた落第街のホテルにたどり着くと、&br;
私は勢いよく階段を駆け上がり、そして、その扉を開け、&br;
血の味がする口を開いて、彼女の名前を―――。&br;
『よう――『室長補佐代理』』&br;
その声を聞いて、その顔を見て、頭の中がクリアになっていく...
『そんな都合のいい話、あるわけないでしょう?』&br;
頭の中の誰かがそう言って、全員が納得して、&br;
カチリ、カチリとパズルのピースがはめられていく。&br;
私は踊らされた、『公安委員会』に。&br;
『彼ら』はここまで計算していた。&br;
まず、暴走した私を捕らえる。&br;
そして、精神的に十二分に衰弱させ、思考力を奪う。&br;
精神的に衰弱した人間が取る行動は予想しやすい。&br;
あとは、牢を空けておけば『開くはずの無い扉』を開けようと...
そして、自分の心の拠り所である『彼女』の家に走って行くだ...
『ガウスブレイン』が、『その先』のシナリオすらも計算して...
いや、そんなものが無くても判る、『公安委員会』なら『やる...
この場にはあと『2人』来るはずの人間が居る。&br;
―――必要な役者は4人、そして、&br;
『私』がこの場所に来ている時点で、その2人は確実にこの場...
やつらは、私の心を、&br;
この彼女への気持ちを利用して、『最後の仕上げ』をした―――ッ...
許せない、許せない、許せるわけがない。私は、悔しくて、吼...
「貴方は―――ッ!!!『公安委員会』は―――ッ!!!!!&br;
ここまで、ここまで出来るんですか!!!!」&br;
「こんな―――こんな―――ッ!!!」&br;
人の心を弄ぶような真似、心底腐っている。&br;
そう言おうとした口は、何も言えずに閉ざされる。&br;
私こそ、許されるわけがない。&br;
私に、彼を、公安委員会を罵る資格はない。&br;
『―――それが、私の『正義』だから。』&br;
**4 [#ya43c22b]
ああ、きっとそれが、私の、&br;
他の誰でも無い、『私の正義』なんだと、私は思った。&br;
予想通りに、その場に彼女は現れた。&br;
ぴょこりと跳ねた毛に、ヘッドフォン、そしてジャージに、&br;
今にも泣き出しそうな、その顔。&br;
正直嬉しかった、それが公安委員会の書いたシナリオだったと...
彼女が私を助けに来てくれて、本当に嬉しかった。&br;
『助けて』と一言言えば、3人でこの男に立ち向かえば、&br;
きっと、私は『助かる』んだと思う。&br;
でも、悔しい事に公安委員会はここまで想定通りだったんだろ...
『私が助けてと言えば、きっと彼女も彼も助けてくれる。』&br;
でも、それを口に出すわけには行かなかった。&br;
他でも無い、彼女の正義が、それを許さなかった。&br;
目の前の男は『休職中』の執行官だ。&br;
ホログラムの男達が居たはずの部屋が空になっていた時点で、&...
私の机に『あの手紙』が届いた時点で、間違いないと確信した...
最初から、担がれていたんだ。私も、この男も。&br;
私が助けてといえば、『ツヅラ』が公務を妨害したとして処罰...
せっかく私の作った居場所を、他でもない私が、奪う事になる...
―――だから、私はその言葉を飲みこんで、彼女を制止する。&br;
「これ以上、私の『正義』を邪魔しないでくれますか。」&br;
きっと、こう言われたら、彼女は手を出したりはしない。&br;
心の中で、ずるい先輩でごめんなさい、と謝った。&br;
『最後に会えて、本当に嬉しかった。&br;
でも、私の『正義』を認めてくれた貴女の前で、&br;
情け無い姿を見せるわけにはいきませんよね。』&br;
『私が守りたい人を守る』ために、私は、ゆっくりと闇へと歩...
闇に飲まれる間際、私はにっこりと笑って振り返った。&br;
「ツヅラ」&br;
彼女の名前を呼ぶ、それは、最後の未練。&br;
『―――嫌だ、死にたくない、まだ、貴女と一緒に居たい。』&br;
そう、心の中で『誰か』が叫んで、口には出ずに、心の中で消...
あの日、私は『クロノス』になった。&br;
叛逆を成し、そして、愛する我が子によって殺される、そんな...
やっと『自分の正義』を見つけた『クロノス』は、にっこりと...
いつもと同じように、落第街に暴れに行く時のように。&br;
「―――これからも、いい仕事を期待しています。」&br;
最後にそう言って、私は闇に踏み込んだ。&br;
私を殺せば、公安委員会の筋書き通りに彼は『室長補佐代理』...
彼はきっと、これからも『うまくやる』。彼女の居場所は、き...
『私の部下を、頼みます。』そう闇の中で目を伏せると、闇が...
**5 [#h70ce302]
私の白が、黒に溶けて行く。&br;
『クロノス』を滅ぼすために作られた、ただの黒に。&br;
私はただ「死というのは、案外痛く無いんですね。」と思った...
ゆっくりと、眠りに落ちて行くように、私が死んでいくのが判...
―――私はただ、甘い夢を見る。&br;
『彼女』と出会った頃の夢、そして、『非常連絡局』で、彼女...
彼女の笑顔、そして、彼女との―――。&br;
やがて、滑り込むように、『夢』の場面が切り替わっていく。&...
出会った頃の『彼女』の夢、彼女が私の『部下』になった時の...
誰も居ない2人きりの教室で、唇を交わした時の夢。&br;
夢は、終わりすら越えて、まだ続く。&br;
夏に『彼女』とお祭りに行く夢&br;
秋に、一緒に本を読む夢。冬に、『彼女』と一緒に、雪の中を...
春に、一緒に進級する夢、何でもない日常に、第二特別教室の...
そして、再び、この季節を迎える夢。&br;
その甘い夢は、甘いのに何故かしょっぱくて、悲しくて、&br;
無いはずの目元から、涙が零れ落ちて、それもまた、黒に溶け...
夢も終わって、私はただゆっくりと、沈むように、眠るように...
そして、雪がアスファルトに溶けて、染みになるように。&br;
ただ、消えた。&br;
『次は、誰でしょうね。』&br;
―――私は、最後に皮肉をこめて、そう呟いた。&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
&br;
《 END 》&br;
* Extra Episode [#p5e608c9]
お盆というものは『死者が現世に帰る』と言われている。~
「まさか、本当に帰る事になるとは。」~
『冥界』というものを一つの異界とするのなら、『お盆』とい...
冥界に『彼女』の姿はなく、特別再会を喜ぶような相手も居な...
現世≪うつしよ≫の知り合いが来ない事を祈りながら黙々懲役に...
お盆休みというのは現世と冥界共通の休みらしく、私はこうし...
しかし、迎え火を焚く人間が居ない私は帰る場所もなく、~
箱庭のような世界を見下ろして、ただ静かに暑い夏の空に漂っ...
―――常世学園、私が壊そうとしたその世界は未だ何も変わらずに...
その世界の片隅にキラリと輝くものが見えた気がして、~
私はそれに誘われるように降りて行った、~
誰かが、ほんの少しでも私の事を思って線香を焚いてくれたの...
白い天冠を握って正しながら、しかし鉄底の靴の響く音はしな...
その光に近づくにつれて、その場所が何であるのかが見えてく...
「……妙な気分ですね、自分のお墓を自分で見る事になるとは。」~
やれやれと首を振りながら、その『お墓』に腰掛ける。~
そして、足をぶらぶらと動かしながら、~
私をここに導いた線香を焚いた人間であろう二人の人間を遠目...
「あの子は、まだ上手くやっているようですね。」~
そう小さく呟きながらクスクスと笑う。~
今にも泣きそうな酷い顔、そして、吐くような咳。~
あの時のような笑顔ではなくても彼女は生きて、未だ『そこに...
―――それだけでも、私は嬉しかった。~
「いい居場所を残してあげられなくてすみません。」~
そして、彼女に謝罪の言葉を口にする。~
彼女の今座る椅子は、彼女にとってあまりすわり心地が良くな...
抱きしめて優しい言葉の一つもかけられればいいのだが、死人...
私は彼女にかける言葉を持たないし、声をかける資格も無い。
そう心中で嘆く私の視線と、彼女の視線が一瞬交わった。~
気が付いたかと思ったが、どうやら違ったらしく、~
それを示すように、すぐに彼女は視線を男に戻した。~
―――風が、彼女の声を運ぶ。~
たまたま、聞こえたのかもしれないし、~
はたまた、それが私に向けられた言葉だから聞き取れたのかも...
何しろ、躰が無いのだ、~
声をどこの器官で聞いているかなんて分からない。~
『知ってる。絶対、ゼッタイあんな死に方はしたくない。~
───、死ぬのは怖いから。あの人みたいなことは絶対、しない...
彼女の、ツヅラのそんな言葉を聞いて、~
私は紅い目を細めて笑みを浮かべて、彼女の元へと歩み寄って...
歩み寄る私に、いや、おそらく、私の背後にある私のお墓に彼...
そして、何を思ってか目を閉じた彼女の唇に、そっと、唇を重...
「苦しくても、頑張ってください。~
―――来年も、また会いに来ますから。~
そうですね、その時には出来れば笑顔を見せてくれると嬉し...
そういって笑う私のそんな声は、きっと彼女には聞こえない。~
私にも彼女にも、お互いの唇の暖かさも感触も分からない。~
そのまま彼女の背を見送りながら、~
私も、白い天冠を正しながら、彼女へ背を向けて歩き出した。~
『死者』と『生者』の道は、決して交わらない。~
ただ僅かに触れ合って、そして、再び別れるだけだ。~
「では、ツヅラ、良い仕事を。」~
里帰りを済ませた私は『ふわり』と宙に溶けた。~
終了行:
&br;&br;&br;&br;&br;
CENTER:&size(30){もし、あの日の選択が違っていたら、屹度。...
&br;&br;&br;&br;&br;
#contents
*『室長補佐代理』-『クロノス』 [#v3878032]
0626 夕 第二特別教室で薄野ツヅラとの会話。~
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
~
0627 夕~深夜 落第街での大規模な戦闘。~
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627~28 深夜 公安委員会に回収される。(ログは最下部参照...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0628 深夜~早朝 落第街 薄野ツヅラの拠点のホテルへ到達。~
朱堂 緑、ゲートクラッシャー(否支中活路)、薄野ツヅラとの遭...
及び、"クロノス"の終了。
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
*第二特別教室 [#l63f788b]
0626 夕 薄野ツヅラ、クロノスとの接触。~
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
~
0627 夜 朱堂緑、五代基一郎との連絡。
同時に、五代基一郎と薄野ツヅラの接触。~
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 深夜 薄野ツヅラ、クロノスを第二特別教室で待機。~
しかし、この段階での接触は失敗。
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 深夜~早朝 落第街 薄野ツヅラ、住まいのホテルへ到達。~
朱堂 緑、ゲートクラッシャー(否支中活路)、クロノスとの遭遇...
及び、"クロノス"の物語の終わりを見届ける。
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 朝 朱堂緑、休職扱いとされていた第二特別教室への復帰...
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 昼 薄野ツヅラ、落第街の廃ビルでの独白。クロノスの遺...
~
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
0627 夕 朱堂緑────(これ以降の記述はない)
[[■>http://guest-land.sakura.ne.jp/cgi-bin/uploda/src/aca...
以上 此れをもって第二特別教室所属 活動名『クロノス』の物...
(活動名『堂廻目眩』の報告書より引用)
* Another Episode&br; [#kb7b4184]
** 序文《A preamble》 [#t6959e4b]
非常連絡局が解体され、早くも数日がたったらしい。&br;
偲様は病院で植物状態になっているらしい、面会に行ったら、...
まだ夏には早く、春というには早い微妙な季節、&br;
私は縋る物を失って、ただ呆然としていた。&br;
偲様の事は尊敬していた、もちろん、彼女の思想に賛同もした...
でも、それだけだ、私は彼女にはなれない。&br;
『賛同』するだけで、自分から『生み出す』事は出来ない。&br;
『公安委員会』から、『除名』ではなく『移籍』の書類が届い...
元非常連絡局員の内、偲様に近い人間の大半は『除名』されて...
私に届いたのは『移籍』の書類、それがなんだか少し悔しかっ...
『賛同』するだけで、自分から『生み出す』事は出来ない。&br;
それを見抜いたかのようなその書類を、ぼんやりと眺める。&br;
転属先は『第二特別教室』の『執行部』&br;
調査用の部署の『執行部』、つまり、凄まじいまでの閑職であ...
サメの着ぐるみを模したパジャマのヒレが、悲しげに揺れた。&...
彼女はこのパジャマを『可愛い』と言ってくれた、だからお気...
―――『第二特別教室』では『本名』を名乗らないのが通例らしい...
私、■■ ■■ は凡人である。&br;
何かを変える力も無く、何かを成す事も出来ない。&br;
だから、私は、『クロノス』になる事にした。&br;
我が子すら喰らい、父を殺し、叛逆を成し、&br;
世界に時という新たな秩序を与えた『神』&br;
厳つい鉄底の靴を買って、眼鏡を外してコンタクトにした。&br;
結んでいた髪を解き、公安委員会の制服をキッチリと着込み、&...
彼女から貰ったお気に入りの帽子を被る。&br;
コンプレックスだったちょっと目つきが悪い目も丁度いい。&br;
自信無さげだった表情は、出来るだけ笑顔を絶やさないように...
最後にパンパンと顔を叩くと、真っ黒い手袋を嵌める。&br;
今日から私は『クロノス』になろう。&br;
目的の為には手段を選ばない、非情の『死神』に。&br;
鎌を取り出すと、ひゅんと振った。&br;
大きな鎌は、お気に入りのティーセットを壊した。&br;
** 1 [#w9d15d9b]
偲様が呼び出した『炎の巨人』は、天使なんだと思う。&br;
目の前でゆれる、巨大な炎。&br;
あの事件を思い出すその巨大な炎は、どこか懐かしくて、&br;
でも、その『唯の炎』は彼女のそれには、遠く感じて。&br;
鉄底の靴が床にあたって、カツンと音を立てた。&br;
『クロノス』になった私は、まずは下準備をする事にした。&br;
今まで使わなかった『ガウスブレイン』を使用して、計算する...
『ガウスブレイン』が出した答えは、落第街での派手な活動だ...
『移動直後でなれていない』事を理由にした、上司に責任を押...
その『上司』に心の中で謝りつつ、私は落第街で派手な活動を...
この『派手な活動』の目的は2つ。&br;
まず1つは、私が『公安委員会』が思っているような人間では...
公安委員会は私が『同調していただけであって、自分から事を...
おそらくこの『閑職』への移動は、彼女の死を切欠に、
私が『公安委員会』に『都合のいい人間』になったか否かを試...
もし、私が大人しく『閑職』に甘んじて、特に何も『問題』を...
私は公安委員会にとっての『モブ』になり、適当な部署に移動...
では、そこで『問題』を起こしたらどうなるか。&br;
―――それは、想像に難く無い。&br;
もう1つは『落第街の人間』に私を覚えて貰うという事。&br;
無差別に放火し、多大な被害を生み出してれば、&br;
落第街の戦闘に自信の無い人間を隠れさせ、逆に戦闘に自信の...
加えて、『公安委員会』がそのような蛮行を働いているという...
『公安委員会』への敵対を煽る事が出来る上、犯罪を抑止する...
特に何も脅威が無ければ身内同士で争うが、外に敵を作ってや...
『外の』人間に少しでも落ち度が見えれば、必死に自身の側に...
『落第街』には、そういう人間が多いからだ。&br;
ついでに、犯罪者を餌に自分自身の異能力も強める事が出来る...
人の力を借りるだけの異能。『我が子喰らうサトゥルヌス』&br;
自分からはけして生み出せない、なんとも『私らしい異能』。&...
その異能は今まではなんとなく嫌いで、積極的に使う事は無か...
今は手段を選んでいる時じゃない。&br;
使える物はなんでも使う。異能も、魔術も、組織も、そして、...
** 2 [#b08e35f0]
『正義』とはなんなのか、私にとっては、西園寺偲様だ。&br;
想定どおり、上司に『注意』を受けた。&br;
ただ、実際に得た恩恵は想定以上だ注意が遅い。&br;
違反部活の大半を葬り去り、異能力と命を大分稼ぐ事が出来た...
使い勝手のいい異能も幾つか手に入れる事が出来た。十分だ。&...
上司と、正義に関する問答をした。&br;
彼にとっての正義と、私にとっての正義。&br;
それはそれぞれにとってはどちらも正しく、&br;
それぞれにとってはどちらも正しくない。&br;
他人の正義を意固地に否定することなく、&br;
『現場』の正義として肯定する『上司』。&br;
残念ながら、『彼の正義』には好感は持てないが、&br;
『彼自身』には好感が持てる。それに、なんとも甘い男らしい...
『彼』と『私』の正義の問答。&br;
私の『正義』は借り物だったはずだったけれど。&br;
「自分の気に入らない悪を倒し、自分の助けたい人を助ける。...
重くのしかかる彼の言葉に、咄嗟に『私』はそう答えた。&br;
果たして、それは『彼女』の正義だっただろうか。&br;
そんな疑問がふと浮かんで、ふわりと消えた。&br;
どうやら、彼が注意して来たのは落第街の少女に言われたから...
なんとなく、その少女に興味が湧いた。―――今度、挨拶にでも行...
彼は、話している間コーヒーを飲まなかった。&br;
冷めたコーヒーは美味しくなさそうだが、絶対に片付けてはや...
** 3 [#t951a4fd]
弱者は何に守られるべくもなく虐げられ、強者はより強い強者...
―――落第街という街は、そういう所だ。&br;
私は目の前にいる、耳のように髪の毛が伸び、&br;
ヘッドフォンをつけているジャージの少女を眺めながらそう思...
監視番号は109番だ、素行不良がやや目立つ上に、落第街に居を...
私は『クロノス』になってから、人の名前を呼ばなくなった。&...
非情の死神であり続けるため、仕事に私情を挟まないため。&br;
なんていうのはきっと言い訳で、実はただ臆病なだけなんだろ...
自分が殺した人間の名前なんて、これから殺す人間の名前なん...
一度知ってしまえば、忘れる事はきっと出来なくなる。その名...
『監視番号109番』、彼女は精神系の能力を持ち、&br;
自分なりの『正義』を持って、自分なりに情報収集をしている...
そんな姿が、過去の自分に重なった。&br;
たとえ『知れても』、自分では何も出来ない。&br;
どうしようもなく無力で、どうしようもなく苦しい。そんな頃...
精神系の能力者は常に孤独だ。&br;
普通の人間なら騙された事に気がつかない事でも、気づけてし...
普通の人間なら仲良くできる相手とも、仲良くできない。&br;
絶対に正しい自分の言葉が、親にも、友達にも、誰にも信じて...
能力を使わなければ、その『声無き声』を聞かなければ、知ら...
知れる手段があるのに、『知らずにいる』なんて、騙され続け...
―――そんな悪循環が、精神系の能力者を孤独にする。&br;
ただの笑顔を悪意に歪んで見えるようにする。&br;
少し話しただけだが、彼女はとても優秀で、善良に見える。&br;
『私情』が入っているような気はするが、いつか、私が『上に...
彼女のような人間を、部下に引き入れたいと思った。&br;
ええ、断じて顔が好みだったとか、そんな事ではなく。&br;
彼女と話して昔が懐かしくなった私は、スラムを訪れた。&br;
弱者は何に守られるべくもなく虐げられ、強者はより強い強者...
そこで出会ったのは『学園の被害者』だ。&br;
言葉を交わし、剣を交えた。&br;
でも、彼を『殺そう』とは、どうしても思えなかった。&br;
この街は、この学園は、昔と何も変わらない。&br;
だから、私が変えないといけないと思った。&br;
彼のカサカサした唇は、彼女の柔らかくて甘い唇とは全然違く...
**破文《A break》 [#y51f61b9]
―――ついに、『終わり』が『始まった』&br;
怪しげなホログラムが浮かぶ部屋に大きな黒い影と、小さな白...
未だ役割の無い影二つに、物語の書き手は役割を与える。&br;
黒い影、『室長補佐代理』へ、『一般人』として過ごすように...
白い影、『私』へ、『室長補佐代理』として過ごすように。&br;
この昇進の支持は、私に対する『大義名分』でもある。&br;
『過激な取締り行為』を『手柄』であると認め、昇進させる。&...
つまり『これからも存分に暴れるように』という辞令だ。&br;
そして同時に、私に公安委員会の為に、秩序の為に『死ね』と...
ホログラムが消えた部屋で、私は彼から室長補佐代理の腕章を...
それは、私を破滅に導く『願いを叶える猿の手』だ。&br;
腕章を握り締める、死という道に歩き出す恐怖と、&br;
必ずやり遂げるという使命感が、私の足を振わせた。&br;
『上手くやれよ』と言って去る黒い影を見送る。やはり、甘い...
暫くの間、彼は日常に戻るのだろう。いや、そのまま戻ったほ...
でも、恐らくそれは叶わない。彼は、戦場でしか生きられない...
私は帽子をかぶりなおすと、その腕章をつける。&br;
その腕章はただの布のはずなのに、ずしりと重くて。&br;
そして、私の思い描いた『クロノス《反逆者》』は完成した。&...
公安委員会の書いた筋書きは、&br;
『西園寺偲を模倣する公安委員』に大義名分を与えて暴れさせ...
そしてそれを、『公安外部』の人間である彼に始末させる。&br;
―――と、まぁ、こんな所だろう。&br;
公安の狙いは、西園寺偲に影響を受けている人間への牽制と、&...
民間によって公安委員が殺害されたという事実による予算の増...
ついでに、この所の治安の悪化による公安に対する不満感を、&...
『民間代表』が『公安代表』を誅する事件を演出する事で軽減...
ついでに言うなら、先に聞いた情報から考えるに、&br;
彼が個人ではなく、『機能』であれるかを計るテストを兼ねて...
とはいえ、そんな事は私にはどうでもいい。&br;
きっとニ度と訪れる事はないその暗い部屋から、ゆっくりと踏...
残された時間は少ない、それまでに、『彼女の願い』を叶える...
私が、必ず。&br;
**1 [#tdb0d741]
それは、『万物を切り裂くアダマスの鎌』。&br;
―――世界に、私に、叛逆する力。&br;
『黄金の鎌』を握った時の全能感は、麻薬のように心を蝕む。&...
理不尽をそのまま形にしたような彼に久しぶりの奥の手を振っ...
自分が自分である事を確かめるように手を握り、そして開く。&...
『万物を切り裂くアダマスの鎌』、私が私として振えるのは、...
この魔術は私の中にある『縁』いや、&br;
あらゆる人間の内側に存在する自分以外の大いなる存在との『...
一種の『降神術』だ。自身の身体に、魂に神を降ろし、そして...
人の身に『神』などという大層な魂を降ろすという無茶をして...
当然のように、長く持てばゆっくりと自分自身の魂を犯して行...
そんな危険な魔術であるにも関わらず私がこの魔術を選んだの...
でも、『全能感』に身を委ねてしまおうと思った事は一度も無...
私が『鎌』を振うのはいつも一度だけで、&br;
この魔術自体も、極力発動しないようにしている。&br;
『自分を変えたいと願っている』のに、『誰よりも自分を変え...
だから、私にはこの魔術が使えるのかもしれない。&br;
ちなみに、それ以外の『魔術』は一切使えない。&br;
『降神術』なんて、『自分自身の存在』という最も危険な物を...
だからこそ簡単なわりに強力な魔術だが、正直、好き好んで使...
そんな事を考えながらも、私は目当てのホテルにたどり着いた...
『公安委員会』の名前を出せば、落第街のホテルの合鍵を手に...
落第街にあるホテルということは、つまり、『そういう事』だ...
そもそも私の顔を見た時点でそれはもうへこへこしていた。&br;
ま、建物が商売道具である以上、当然燃やされたら困るだろう...
ホテルの支配人の『善意』のご協力で合鍵を手に入れた私は、&...
彼女の部屋のドアを開けた。まだ、彼女は帰ってきていないら...
何処かに隠れて、油断した頃に声をかけてびっくりさせてやろ...
口元を歪めながら、私はベッドの下に隠れた。&br;
―――『全能感』、ちょっと私の心を蝕んでいる気がする。&br;
**2 [#z344c4cb]
私に、最初で最後の、『部下』が出来た。&br;
跳ねた毛と笑顔が可愛い、ヘッドフォンをつけた、笑い声の特...
目の前でガチガチに緊張している彼女を見ながら、&br;
ちょっと意地悪をしてやろうと考える。&br;
誰も居ない教室、そこに流れる空気は、落第街のものとは違う...
彼女を誘ったのは、つい昨日の事。&br;
明らかに彼女に有利しかない取引を持ちかけて、&br;
彼女は、それを信じて乗ってきた。&br;
悪い大人に騙されないかが少し心配になるが、&br;
彼女の性格を考えるに、私の事をしっかりと観察して、&br;
信用に足る人間である、と判断したのだろう。&br;
実際、騙すつもりはない。&br;
彼女は落第街どころか学生街にまで足を伸ばし、情報収集を行...
そして、ついに先日、『ロストサイン』との戦闘にまで巻き込...
『好奇心は猫をも殺す』という言葉の通り、彼女は放っておけ...
彼女のような、私のような人間が生き残るには、相応の地位が...
だから、私は彼女を公安委員会に誘った。&br;
私が与えられる場所は、ここだけだから。&br;
頬を、唇を、耳を、髪を撫でながら、彼女の顔を見る。&br;
それはきっと、過去の私が彼女にそうされた時の顔と同じなん...
そんな事を考えると、なんだか少し恥ずかしくなって来て、&br;
結局、意地悪も程々に部屋から出て行く。&br;
彼女は『堂廻目眩』と名乗った。&br;
すぐ抜けるとか、存分に利用するとか口では言っていたが、&br;
彼女は抜けないだろう、私の代わりに、いい公安委員になって...
信頼できる居場所は、居心地がいいはずだ。多分&br;
**3 [#j27d45fb]
悪趣味な人形の家を模したような不気味な内装、&br;
その暗がりで、彼は猫を抱いてまっていた。&br;
猫の瞳が私に向いて、小さくにゃあと鳴いた。&br;
『ようこそ公安委員会直轄第二特別教室……室長補佐代理殿&br;
まずは祝辞からがいいかな』
マッドティーパーティが、幕を開ける。&br;
私の尊敬する彼女が常々言っていた。&br;
『五代基一郎』血気盛んで、統制を取るのが難しい風紀委員会...
唯一人『指揮官』として纏めえる人材は彼しか居ない。と。&br;
もし、公安と風紀で戦争をするならば、彼の有無で勝敗が決ま...
私はそんな彼が少し羨ましかった。&br;
きっとそんな彼は、偲様と同じく『特別』な人間で。&br;
私のような凡人では一生かかっても成し得ないような事でも、...
だから、彼の事は監視番号ではなく、『101』と呼んで、席につ...
彼女と同じく、『特別』な人間ならば、きっと彼もまた、&br;
私が考えもつかない方法で、この学園を変えてくれるのだろう...
『助けてあげようか?』&br;
彼は私にそう声をかけた、私はあえてそれに挑発的に答える。&...
本心では、それに手放しで縋りたかった。&br;
私が願いの為に『クロノス』であり続けなくていいのなら、『...
だからこそ、見せてほしかった、その腹の内を、飄々とした態...
―――結果は、ただ、期待はずれだった。&br;
彼は私の命を助けると、ただそれだけ言った。それ以外は出来...
学園を変えるという事はしない、ただ何もせずただ座るだけ。&...
この『ドールハウス』に似合う、ただのお人形。&br;
私の『正義』をただ八つ当たりであると否定して、&br;
彼の『正義』を示そうとはしない。否定するだけの、臆病者だ...
これ以上、彼と話す事は無い。そう考えて、私は席を立つ。&br;
ただ、そんな彼を、彼女は評価していた。&br;
『分からない。』きっとそれが、『特別』の証なのだろう。&br;
『凡人』には分からないような考えが、その裏には隠れている...
私が席を立ったのは、そんな彼が怖かったからなんだと思う。&...
そんな彼から、目を背けて、逃げ出そうとしたからなんだと思...
ドールハウス、人形の屋敷から、足早に立ち去る。&br;
外に出ると、内装に見合わない、普通の建物が私の後ろには建...
彼もまた、外側は普通に見えても、内側ではきっと、私の考え...
その考え付かないような事を見せるには、私では役不足だと、...
そういえば、彼女もそうだったような気がする。&br;
自分の心のうちで何を考えているのかは結局教えないまま、&br;
どこか遠くを見つめて、そこを目指していた。&br;
………『八つ当たり』そんな彼の言葉が、心に、ちくりと棘を残し...
**4 [#a015a5ad]
―――私は、『彼女』に出会った。&br;
委員会街の一室で、サメの着ぐるみのようなパジャマのヒレが...
ペタンペタンと書類に判子を押しながら、ゆっくりと昔の事を...
スラムでの生活、弱者は強者に虐げられ、強者はさらに強い者...
一番上なんて存在しない、全員が虐げられる世界。落第街。&br;
私は生まれつき、人間を食べていた。&br;
人間を当たり前のように食べ物と思って、当たり前と思って食...
特に『おいしいから』とかそういう理由ではなく、&br;
単純に『それが当たり前だから』、ただ、食べていた。&br;
当然、そんな『人間』が学生街に居るというわけにもいかず、&...
私は、落第街に捨てられた。&br;
親が居たかは分からない、そんなもの、覚えていなかった。&br;
だから、誰が捨てたのかも、分からない。&br;
そこから先は、地獄のような日々が待っていた。&br;
虐げられながらも、なんとか日々を生き延びる。&br;
幸いにして、食料には困らなかった。&br;
そうしているうちに、ある魔術士と出会った。&br;
彼は私を拾って魔術を教え、そして、何よりも希望を教えた。&...
『私、公安委員に、正義の味方になる。』&br;
彼にそう言って、私は魔術を鍛え、異能の使い方を覚え、&br;
悪い頭で必死に勉強して、『一般学生』になる試験を受けて『...
そして『公安委員』の試験を受けて『公安委員』になった。&br;
少しでも、何かを変えられると信じて。&br;
それはもうやる気満々で公安委員会に入った私は、&br;
公安委員会の現状を見てそれはもう大層凹んだ。&br;
『法の番人』に憧れがあった事もあって、&br;
その凹みようは本当に凄まじいものだった。&br;
特に意味も無い事務仕事を特に意味もなくやり続け、&br;
特に意味を成していない監視任務を行い、&br;
やはり特に意味も無い取締りを申し訳程度に行う。&br;
『こんなもの、何もしてないのと変わらない。』&br;
そう思いつつも、なんだかんだで真面目な私は、&br;
それにもきっと何か意味があるんだ、と信じて真面目に仕事を...
結果としては、何も変わらなかった。&br;
久しぶりに訪れた落第街は、自分が出て来た時と何も変わらな...
ただ変わったのは、自分の生活だけだった。&br;
私を拾い上げた魔術士の家は、もぬけのからになっていた。&br;
死んだのか、はたまた、逃げ出したのか。それは分からない。&...
それはもう理不尽なレベルに強かったから、多分死んではいな...
そのスラムの現状をみて、自分の家に帰って、ただ泣いた。&br;
結局私は、何も変えられなかったと。&br;
そんな平凡な人間の平凡な日常の中、『彼女』に出会った。&br;
『西園寺偲』、公安を、学園を変えようと動く彼女を、&br;
私はそれはもう心の底から尊敬し、崇拝した。&br;
『西園寺偲様マジ神』とばかりに彼女の事を追いかけ、&br;
隙があれば陰からこっそりと見守り、&br;
口にする言葉や考え方を周辺の人物に聞いてまわってメモを取...
『彼女のようになろう、彼女のような人間になろう。』と必死...
神社に行って、彼女と同じ部署になれますようになれますよう...
その『憧れ』を糧にそれはもう熱心に仕事をして、&br;
やがてその努力が通じたのか、彼女と、西園寺偲と同じ部署に...
すっかりもう手の届かない場所に行ってしまった彼女に、&br;
ガッチガチに緊張しながら配属の挨拶をしながら、&br;
やっぱり特別な存在なんだろうと、そう感じた。&br;
姿には後光が差すようで、その視線は、&br;
まるで私の心の中まで見透かすように鋭く私を刺して、&br;
それはもう兎に角美しかった。言葉には出来ない程に。&br;
彼女に配属の証である帽子を被せてもらい、何かの言葉をかけ...
―――そこで、私の意識は途切れた。&br;
目が覚めると病院で、夢かと思って勢いよく身体を起こした。&...
でも、夢じゃない事を示すように、傍らには彼女に被せてもら...
私はそれを見て、胸に抱えて涙を流し、彼女の為に頑張ろう、...
それが、私と彼女の出会い、&br;
『人生で一番楽しかった』彼女と過ごす時間の、始まりの思い...
ちなみにいきなり倒れた事については、&br;
後で『あまりに美しすぎて』と正直に答えた。&br;
彼女はそれを聞いて笑って、私はその笑顔でまた病院に搬送さ...
**5 [#z291f15b]
『正義の味方』になってみようと思う。&br;
―――上手くやってみるのも、それはそれでいいかもしれない。&br;
五代との会話以降、私は活動を大幅に縮小した。&br;
『八つ当たり』、『憂さ晴らし』、そんな言葉が私の心に刺さ...
彼の『助けてやる』という言葉を、やはり何処かで期待してい...
そんな私を許さないように、公安委員会から2つの指令が出る...
正式な指令ならば、さすがに動かずには居られない。&br;
1つは、『路地裏に居る『怪異』の調査、およびに『討伐』&br;
これは風紀委員の仕事のような気がするが、&br;
なんでも、路地裏に出現する不良に風紀委員が犯られただとか...
商店街に出没したロストサインに風紀委員が殺られただとかで...
今は、風紀委員側から危険生物への対処人員を裂けないとかな...
つまり、親や、近親や、友人への配慮だろう。&br;
風紀が動けないっぽいから動いて欲しい、&br;
という生徒会側からの御達しでもあったのかもしれない。&br;
忘れられがちではあるが、公安委員会も、風紀委員会も結局は...
学生のうちで解決できる事は学生が解決し、それ以外は五代の...
というのが、この学園の基本構造でもあり、学園で試験されて...
つまり、学生である以上PTAだとか、&br;
そういう保護者に対する配慮も必要なわけだ。&br;
当然、子供が死んで嬉しい親は居ない。&br;
死んだばっかりなのに死ぬかもしれない討伐の指令を出すとは...
まったくもって難儀なものである。&br;
危険生物は当然危険だから危険と言われているわけで、&br;
私も十二分に痛めつけられつつも、なんとかトドメを刺した。&...
再発する危険もあるが、まぁ、『公安委員会が討伐した』とい...
再発した場合はあくまで『別の怪異』。良くある事、仕方の無...
そしてもう1つは、ある学生への聴取だ。&br;
『否支中活路』二年前のロストサイン事件の重要参考人であり...
先にも言った通り、『ロストサイン』の人間が風紀委員を、し...
何の対策もせずに放置するわけにも行かなくなったから、手始...
という事を示すためにも、監視対象である重要参考人への聴取...
実際、『ロストサイン』は偲様も十二分に警戒していた相手で...
その意思を継ぐ、というのなら、私にとっても『敵』である事...
彼女の意思を継いで、絶対的な力でもって学園を変える、とは...
最良の部下との出会い、そして、五代との会話が、私からその...
『助けて』貰えるのなら、『助けて』もらってもいいかもしれ...
このまま、彼女と2人で『上手くやる』のも、それはそれでいい...
『そろそろ試験が始まるらしいし、彼女にテストの対策でも教...
聞いた話によると、彼女は無謀にもテストの答案を盗もうとし...
彼女と一緒にテスト勉強するのも、悪くないかもしれない。&br;
それが終われば夏休みがやってくる、一緒にお祭りに行って、...
『私の『クロノス』という鍍金が、剥がれ落ちはじめていた。...
**6 [#ed6565cb]
『彼』はニャルラトホテプ《混沌》と名乗った。&br;
活路から手に入れた情報は、信じ難いものばかりだった。&br;
『門』は破壊されておらず、ロストサインは壊滅していない。&...
つまり、二年前から今まで、『何も変わっていなかった』とい...
『バイクってあんなにスピード出るんですね』と、夕べの事を...
私はその情報を公安委員会に報告するべく、&br;
かつてニ度と踏み込む事はないだろうと思っていた暗い部屋に...
しかし、奇妙な事に、そこには『何も無い』。&br;
しばらくぐるぐると部屋をまわり、色々と調べていたが、&br;
当然ホログラムを出現させるようなものもなく、それ以外にも...
……ただの空き教室のように見える。いや、そこはただの空き教...
私は仕方なく、書面で報告するべく第二特別教室へと戻った。&...
やれやれと、必死に探して来た帽子の鍔を握りながら、席に着...
『次は誰でしょうね?』&br;
私の机の上には、A4の紙に12pxで一言だけそうかかれた紙と...
活路から得た情報を記載するように指示がされている、白紙の...
私はその報告書を書きながら、唇を噛む。&br;
私はもう『助からない』、その事実が、報告書の文字を滲ませ...
**終文《Epilogue》&br; [#d3580fbf]
―――彼女の唇は柔らかくて、そして、少ししょっぱかった。&br;
彼女に別れを告げた後、私は落第街のビルの上に立っていた。&...
ゆっくりと、落第街と、そして学生街を見下ろす。&br;
唇を指でなぞりながら、彼女を『尻尾』にさせない為に、私と...
そして、こんな最悪のシナリオを書いた公安委員会に、一矢報...
私は、『最後の詠唱』を始める。&br;
『―――序文《A preamble》』&br;
『―――偉大なる父《Ouranos》すら殺すクロノス《Kronos》の鎌...
『―――叛逆者の大鎌よ。』&br;
『―――我は叛逆を成さんとするもの。』&br;
『―――その意思を継ぐもの。』&br;
『―――その鎌は我が右手に宿りて、叛逆を成さん。』&br;
右手の鎌は、『公安委員会』への叛逆の為に、&br;
『世界で一番大切なあの人』の為に振おうと思う。&br;
私は決して、敷かれたレールを素直に走りはしない。&br;
全力で走って、走って、レールの終着駅を通り越して、自由に...
『上手くやります』と、憧れの元上司に呟いた。&br;
『―――破文《A break》』&br;
『―――天と地を裂き、時間を生み出したクロノス《Xronos》の鎌...
『―――時の大鎌よ。』&br;
『―――我は新たな秩序を成さんとするもの。』&br;
『―――その時を待ち望む者。』&br;
『―――その鎌は我が左手に顕りて、秩序を成さん。』&br;
左手の鎌は、『公安委員会』を守るために、&br;
『世界で二番目に大事な彼女』の為に振おうと思う。&br;
私は決して、公安委員会を本気で潰そうとはしない、&br;
ただ、彼女の為に、今より少しだけ、いい場所にしたい。&br;
『上手くやれよ』と少し嫌いな元上司に、呟いた。&br;
『―――終文《Epilogue》』&br;
『―――万物を引き裂くクロノス《CXronos》の鎌よ』&br;
『―――征服され得ぬアダマス《adamantine》の鎌よ。』&br;
『―――双つの鎌を寄る辺に、今ここに顕現せよ。』&br;
『―――我が名はクロノス《CXronos》』&br;
『―――『叛逆《Kronos》』の『時《Cronos》』を告げる者』&br;
最後の鎌は、『自分の正義』を守るために、『自分』の為に振...
『殺したい人を殺して、守りたい人を守る。』為に。&br;
他でも無い、自分自身の正義の為に。
それを、世界に示すために。&br;
たとえ死ぬ運命でも、最後まで足掻き続ける為に。&br;
私は、最後まで諦めない。&br;
たとえ、どんな罪を背負う事になったとしても。&br;
そして私は、その門に、鎌を振った。&br;
『門を叩きなさい、そうすれば与えられる。』&br;
聖書にはそう書かれているが、何が与えられるかは、書かれて...
**1 [#n0cc8593]
『この力があれば、全てを終わらせられると思った。』&br;
一度振った鎌を、そのまま振い続ける。『降神術』の禁忌を、...
でも、不思議と、自分が喰われていく感じはしない。&br;
何故かは分からない、『全能感』は全く感じなかった。&br;
私は、いつもの私だった。いつもの、無力な私だった。&br;
冷静に考えれば、自分が死ぬと分かっているのに、全能感も何...
自分から流れて行く赤い液体は、きっと私の涙なんだろう。&br;
自分の中から急速に『命』が失われていくのが分かる。&br;
臆病な私は、『命』を必要以上に使うのは嫌だった、&br;
―――でも、『死ぬ』と分かっているのなら、いくら使っても構わ...
鎌を握り締めて、その場に集まってくる人間を見る、見知った...
彼女がこの場にいなくて良かったと思った、&br;
本当に優秀な部下だと、心底思う。&br;
帽子の鍔を掴もうとしたが、残念ながら両手は塞がっていた。&...
地面に赤い海が広がって行く中、自分に向かってくる人を見る...
自分の口元が歪んでいるのが分かる。&br;
『クロノス』としての、最後の『仕事』だ。&br;
この『仕事』が、この場にいる人間は勿論、&br;
この場に居ない人間にも『何か』を残せるように。&br;
彼女に『欠片』を残せたように、&br;
たとえ、変えられなくても何かを残す事は出来ると信じて。&br;
私は、その鎌を構えた。&br;
**2 [#i04539aa]
『私は当然のように。』
私は、ビルの瓦礫の中をゆっくりと落ちて行く。&br;
『命』は、残り一つを除いて全て使ってしまった。&br;
私のような人間に手を差し伸べる人間を視界の端に捉えながら...
結局、私の『終わり』は訪れなかった。&br;
私を止めたのは、まったく無関係の民間人と、無関係な先生と...
甚大な被害が出たかと思いきや、迅速に敷かれた全面封鎖令の...
それほど大きな被害は出ずに終わったらしい。&br;
1人の人間が起こせる事件なんて、結局そんなもの、という事だ...
飛び交う声の中、私は公安委員会の人間に乱暴に連行される。&...
まったく、怪我人に対しても容赦がない。さすが公安委員会と...
いつかの部屋を思い出す暗い部屋に連れてこられた私は、聴取...
内容は、筆舌し難いほどに酷いものだった。&br;
どこから手に入れたのか分からない情報で、言葉で殴られ続け...
物理的攻撃が無い分、尚の事性質が悪い。&br;
身体は既に先の戦闘でボロボロになっている中、&br;
その言葉の数々は、私の心を丁寧に、そして残忍に抉り取って...
やがて、私はその真っ暗な部屋に取り残された。&br;
文字通り心身共に衰弱しきった私は、その暗い部屋で、静かに...
やがて、甘い夢に落ちようと、そっと瞳を伏せた。&br;
**3 [#n8730ce1]
私は委員会棟を飛び出すと、ただひたすらに走った。&br;
魔術と異能を封じる手枷と足枷をものともせず、&br;
疲れた身体に鞭を打って、ただひたすらに、『彼女』を求めて...
『助けてあげようか?』&br;
その五代に言われた台詞が、頭を満たす。&br;
幽閉用の教室の鍵が開いていたのも、見張りが居なかったのも...
そして、何故か追っ手が無い事も。&br;
きっと、彼が何かをしてくれたんだと、&br;
都合のいい妄想を真実だと、勝手に思い込んで。&br;
すっかり聞きなれた鉄底の靴の大きな音ではなく、&br;
素足のぺたぺたという音が、やけに大きく聞こえて、&br;
でも、私は『彼』から『逃げる』為に、&br;
そして、『私の為』に、そこを目指して走った。&br;
―――今はただ、『彼女』に会いたかった。&br;
落第街まで来れば、私のような人間に興味を向ける人間は居な...
脱獄者が逃げ込んで来る。落第街では、よくあることだ。&br;
そんな『自分たちの側』へ落ちてくる人間には、落第街の人間...
そこに住む彼女なら、私の為に涙を流した彼女なら、&br;
きっと、今の弱い私も、受け入れてくれる。&br;
全能感よりも、もっと甘い、麻薬のような『奇跡』が、&br;
そんな普段なら絶対考えないような甘い考えが、私を蝕んで行...
いつかも訪れた落第街のホテルにたどり着くと、&br;
私は勢いよく階段を駆け上がり、そして、その扉を開け、&br;
血の味がする口を開いて、彼女の名前を―――。&br;
『よう――『室長補佐代理』』&br;
その声を聞いて、その顔を見て、頭の中がクリアになっていく...
『そんな都合のいい話、あるわけないでしょう?』&br;
頭の中の誰かがそう言って、全員が納得して、&br;
カチリ、カチリとパズルのピースがはめられていく。&br;
私は踊らされた、『公安委員会』に。&br;
『彼ら』はここまで計算していた。&br;
まず、暴走した私を捕らえる。&br;
そして、精神的に十二分に衰弱させ、思考力を奪う。&br;
精神的に衰弱した人間が取る行動は予想しやすい。&br;
あとは、牢を空けておけば『開くはずの無い扉』を開けようと...
そして、自分の心の拠り所である『彼女』の家に走って行くだ...
『ガウスブレイン』が、『その先』のシナリオすらも計算して...
いや、そんなものが無くても判る、『公安委員会』なら『やる...
この場にはあと『2人』来るはずの人間が居る。&br;
―――必要な役者は4人、そして、&br;
『私』がこの場所に来ている時点で、その2人は確実にこの場...
やつらは、私の心を、&br;
この彼女への気持ちを利用して、『最後の仕上げ』をした―――ッ...
許せない、許せない、許せるわけがない。私は、悔しくて、吼...
「貴方は―――ッ!!!『公安委員会』は―――ッ!!!!!&br;
ここまで、ここまで出来るんですか!!!!」&br;
「こんな―――こんな―――ッ!!!」&br;
人の心を弄ぶような真似、心底腐っている。&br;
そう言おうとした口は、何も言えずに閉ざされる。&br;
私こそ、許されるわけがない。&br;
私に、彼を、公安委員会を罵る資格はない。&br;
『―――それが、私の『正義』だから。』&br;
**4 [#ya43c22b]
ああ、きっとそれが、私の、&br;
他の誰でも無い、『私の正義』なんだと、私は思った。&br;
予想通りに、その場に彼女は現れた。&br;
ぴょこりと跳ねた毛に、ヘッドフォン、そしてジャージに、&br;
今にも泣き出しそうな、その顔。&br;
正直嬉しかった、それが公安委員会の書いたシナリオだったと...
彼女が私を助けに来てくれて、本当に嬉しかった。&br;
『助けて』と一言言えば、3人でこの男に立ち向かえば、&br;
きっと、私は『助かる』んだと思う。&br;
でも、悔しい事に公安委員会はここまで想定通りだったんだろ...
『私が助けてと言えば、きっと彼女も彼も助けてくれる。』&br;
でも、それを口に出すわけには行かなかった。&br;
他でも無い、彼女の正義が、それを許さなかった。&br;
目の前の男は『休職中』の執行官だ。&br;
ホログラムの男達が居たはずの部屋が空になっていた時点で、&...
私の机に『あの手紙』が届いた時点で、間違いないと確信した...
最初から、担がれていたんだ。私も、この男も。&br;
私が助けてといえば、『ツヅラ』が公務を妨害したとして処罰...
せっかく私の作った居場所を、他でもない私が、奪う事になる...
―――だから、私はその言葉を飲みこんで、彼女を制止する。&br;
「これ以上、私の『正義』を邪魔しないでくれますか。」&br;
きっと、こう言われたら、彼女は手を出したりはしない。&br;
心の中で、ずるい先輩でごめんなさい、と謝った。&br;
『最後に会えて、本当に嬉しかった。&br;
でも、私の『正義』を認めてくれた貴女の前で、&br;
情け無い姿を見せるわけにはいきませんよね。』&br;
『私が守りたい人を守る』ために、私は、ゆっくりと闇へと歩...
闇に飲まれる間際、私はにっこりと笑って振り返った。&br;
「ツヅラ」&br;
彼女の名前を呼ぶ、それは、最後の未練。&br;
『―――嫌だ、死にたくない、まだ、貴女と一緒に居たい。』&br;
そう、心の中で『誰か』が叫んで、口には出ずに、心の中で消...
あの日、私は『クロノス』になった。&br;
叛逆を成し、そして、愛する我が子によって殺される、そんな...
やっと『自分の正義』を見つけた『クロノス』は、にっこりと...
いつもと同じように、落第街に暴れに行く時のように。&br;
「―――これからも、いい仕事を期待しています。」&br;
最後にそう言って、私は闇に踏み込んだ。&br;
私を殺せば、公安委員会の筋書き通りに彼は『室長補佐代理』...
彼はきっと、これからも『うまくやる』。彼女の居場所は、き...
『私の部下を、頼みます。』そう闇の中で目を伏せると、闇が...
**5 [#h70ce302]
私の白が、黒に溶けて行く。&br;
『クロノス』を滅ぼすために作られた、ただの黒に。&br;
私はただ「死というのは、案外痛く無いんですね。」と思った...
ゆっくりと、眠りに落ちて行くように、私が死んでいくのが判...
―――私はただ、甘い夢を見る。&br;
『彼女』と出会った頃の夢、そして、『非常連絡局』で、彼女...
彼女の笑顔、そして、彼女との―――。&br;
やがて、滑り込むように、『夢』の場面が切り替わっていく。&...
出会った頃の『彼女』の夢、彼女が私の『部下』になった時の...
誰も居ない2人きりの教室で、唇を交わした時の夢。&br;
夢は、終わりすら越えて、まだ続く。&br;
夏に『彼女』とお祭りに行く夢&br;
秋に、一緒に本を読む夢。冬に、『彼女』と一緒に、雪の中を...
春に、一緒に進級する夢、何でもない日常に、第二特別教室の...
そして、再び、この季節を迎える夢。&br;
その甘い夢は、甘いのに何故かしょっぱくて、悲しくて、&br;
無いはずの目元から、涙が零れ落ちて、それもまた、黒に溶け...
夢も終わって、私はただゆっくりと、沈むように、眠るように...
そして、雪がアスファルトに溶けて、染みになるように。&br;
ただ、消えた。&br;
『次は、誰でしょうね。』&br;
―――私は、最後に皮肉をこめて、そう呟いた。&br;
&br;
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《 END 》&br;
* Extra Episode [#p5e608c9]
お盆というものは『死者が現世に帰る』と言われている。~
「まさか、本当に帰る事になるとは。」~
『冥界』というものを一つの異界とするのなら、『お盆』とい...
冥界に『彼女』の姿はなく、特別再会を喜ぶような相手も居な...
現世≪うつしよ≫の知り合いが来ない事を祈りながら黙々懲役に...
お盆休みというのは現世と冥界共通の休みらしく、私はこうし...
しかし、迎え火を焚く人間が居ない私は帰る場所もなく、~
箱庭のような世界を見下ろして、ただ静かに暑い夏の空に漂っ...
―――常世学園、私が壊そうとしたその世界は未だ何も変わらずに...
その世界の片隅にキラリと輝くものが見えた気がして、~
私はそれに誘われるように降りて行った、~
誰かが、ほんの少しでも私の事を思って線香を焚いてくれたの...
白い天冠を握って正しながら、しかし鉄底の靴の響く音はしな...
その光に近づくにつれて、その場所が何であるのかが見えてく...
「……妙な気分ですね、自分のお墓を自分で見る事になるとは。」~
やれやれと首を振りながら、その『お墓』に腰掛ける。~
そして、足をぶらぶらと動かしながら、~
私をここに導いた線香を焚いた人間であろう二人の人間を遠目...
「あの子は、まだ上手くやっているようですね。」~
そう小さく呟きながらクスクスと笑う。~
今にも泣きそうな酷い顔、そして、吐くような咳。~
あの時のような笑顔ではなくても彼女は生きて、未だ『そこに...
―――それだけでも、私は嬉しかった。~
「いい居場所を残してあげられなくてすみません。」~
そして、彼女に謝罪の言葉を口にする。~
彼女の今座る椅子は、彼女にとってあまりすわり心地が良くな...
抱きしめて優しい言葉の一つもかけられればいいのだが、死人...
私は彼女にかける言葉を持たないし、声をかける資格も無い。
そう心中で嘆く私の視線と、彼女の視線が一瞬交わった。~
気が付いたかと思ったが、どうやら違ったらしく、~
それを示すように、すぐに彼女は視線を男に戻した。~
―――風が、彼女の声を運ぶ。~
たまたま、聞こえたのかもしれないし、~
はたまた、それが私に向けられた言葉だから聞き取れたのかも...
何しろ、躰が無いのだ、~
声をどこの器官で聞いているかなんて分からない。~
『知ってる。絶対、ゼッタイあんな死に方はしたくない。~
───、死ぬのは怖いから。あの人みたいなことは絶対、しない...
彼女の、ツヅラのそんな言葉を聞いて、~
私は紅い目を細めて笑みを浮かべて、彼女の元へと歩み寄って...
歩み寄る私に、いや、おそらく、私の背後にある私のお墓に彼...
そして、何を思ってか目を閉じた彼女の唇に、そっと、唇を重...
「苦しくても、頑張ってください。~
―――来年も、また会いに来ますから。~
そうですね、その時には出来れば笑顔を見せてくれると嬉し...
そういって笑う私のそんな声は、きっと彼女には聞こえない。~
私にも彼女にも、お互いの唇の暖かさも感触も分からない。~
そのまま彼女の背を見送りながら、~
私も、白い天冠を正しながら、彼女へ背を向けて歩き出した。~
『死者』と『生者』の道は、決して交わらない。~
ただ僅かに触れ合って、そして、再び別れるだけだ。~
「では、ツヅラ、良い仕事を。」~
里帰りを済ませた私は『ふわり』と宙に溶けた。~
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