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コゼットの持つ携帯端末にインストールされている某アプリケーション。
いつでも学園に関する情報共有を迅速に行う為には勿論、教師・生徒とのコミュニケーションの為に連絡先を公開している。
一通りの設定を済ませ、あとは受信を待つだけだ。
コゼットは暇な時間を見つけては端末を開いてみるが───
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・ゆるい日常からシリアス展開まで。会話の発展等でchatへと移る場合は私書箱に時間の都合のご相談を
・教師や生徒等の学園関係者、もしくはこれまでにコゼット本人と会話した事がある人物であれば連絡先を知っている
┖それ以外は何らかの方法で連絡先を知る必要がある。メッセージを送る事は出来る
・基本的に一対一で応じる。当事者が"他人を会話窓に追加する"等の行動を取った場合はその限りではない
┖その為、会話の内容を知る事が出来るのはその会話に参加している者のみ
オフライン
試験評価が一段落しただろう時期の夜に、コゼットの携帯端末に反応が一つ。
コゼットの実技授業を履修している女子生徒からのものだ。
『コゼット先生、こんばんは。
魔力の制御について相談したいのですが、お時間よろしいですか?』
真面目な生徒であるが故に、成績に影響を与えるかもしれない時期に個人的な連絡は避けたものと思われる。
その生徒は、少なくともコゼットの扱う四大元素魔術においては、問題のない成績を修めていると言って差し支えないはずだった。
それでも、生徒のことをよく見るコゼットであれば、彼女が時折魔術の出力に納得していないような、不可解な表情をしていたことを覚えているかもしれない。
オフライン
一方。
職員室にてコゼットは授業がひと段落し、のんびりと紅茶を飲みつつ休憩を取っていた。
その最中、ポケットに入れていた端末が振動し、通知を知らせる。
見ると、一通の新着メッセージ……生徒からのようだ。
『こんばんわ。今は大丈夫、なにかしら?』
と、慣れないフリック操作で打ち込んだ。
パソコンはすっかり慣れたものだが、端末での入力はまだ少々手間取る。
──しかし、魔力制御の件…彼女は特に問題なくこなしていたように見えたが、今思えばその表情はすっきりしないような、そんな印象だったような。
そんな様子を天井を見ながら思い出す。思ったような結果が出ない…そうゆう事なのだろうか?
兎も角、返信を待つ事にする。
オフライン
返信は、文章量の割にはそこまで時間をかけなかった。
発信元の生徒が端末の操作に長けているのか、あるいは相談内容が彼女にとって重要なので端末を離さないでいたのか。
無論、両方ということもあり得るだろう。
『ありがとうございます…。
以前から、元素の属性によっては思った以上の効果が出てしまって、どこかで問題を起こさないか不安を抱くことがあったのですが、
最近、身の危険を強く感じて焦ると魔力が暴走して雷の属性が暴発するようになってしまったんです。
強く念じれば暴発の規模は抑えられるし、日常はもちろん戦闘要素のない魔術訓練に支障がないのが不幸中の幸いですが、いずれ魔術の行使にも差し支えるのではないかと心配で…。
コゼット先生ならば、魔力の暴走を抑えるコツとか、そういったものをご存知ではないかと思ったのですが…
差し支えなければ、教えて頂いたりすることは可能ですか?』
生徒の相談内容は、コゼットの想像した方向とは違ったものだったかもしれない。
「思ったような結果が出ない」は、上の方に効果がずれること。
そして…不可解なのは、「属性を帯びた」「魔力の暴発」である。
コゼットはその「魔力の暴発」を目にしたことがないので、すぐに返事が出来ることには限界があるかもしれない。
ただ、その生徒が自分の「力」に不安を抱き、抑制を望んでいることは事実だった。
オフライン
飲み干した紅茶のおかわりを注ごうと席を立とうとした時、再び端末がそれを知らせる。
しかかっていた行動を取りやめ、画面を覗く。
メッセージの内容には彼女の相談内容が記されていた。
文字だけのやり取りとはいえ、文面から不安の表情が浮かぶようだった。
頭で情報を整理しつつ、指を動かす。
『魔力の制御には感情の影響も出ます。
美澄さんの場合、その焦りと不安が術の行使を不安定にさせているのでしょう。
もしこのまま戦闘行為へと持ち込めば不安要素となるのはまず間違いありません。
方法としては二つ。
一つは心を鍛える事。自信を持つとも言います。
美澄さんは実際に成績も良いし、授業中も今の所は大きな問題は出ていません。
貴女が言う様に自分は大丈夫なのだと強く念じる事が出来れば抑える事は出来るでしょう。
ただ、その場を凌ぐだけではなく日々の訓練が必要です。しっかりと行使に集中出来る力を養いましょう。
ゆっくりと落ち着ける場所で瞑想をしてみるのも良いです。
二つに魔力のコントロール。
行使する際の魔力出力を抑え、放つ。これを繰り返す。慣れてきたら少し出力を引き上げてこれを繰り返す。
単純ではあるけどある程度の制御は出来るようになるでしょう。
そして、万が一魔力が暴発しそうになった時は直ちに力を手放す事です。
力の流れを止めれるなら十分、出来なければ人の居ない空間へと放つ事。
術者である貴女自身の安全を優先して下さい』
淡々と文字を入力していく。
間違えて入力した所を消して入力しなおすを繰り返したお陰でやや返信に時間が掛かってしまった。
待たせてしまった事に申し訳ないと思いつつ、彼女の返答を待った。
オフライン
次の返信は、先ほどに比べると少し間があった。
『お返事、ありがとうございます。
焦りと不安による暴走は、その状況に心を馴らすことで対応すべきかと考えていましたが…
落ち着くためには自信と、精神の安定が重要ですね。
他のことに照らせば分かることなのに、「力」のこととなると臆病になってしまうようです。
やりたいことが多くて忙しく日々を過ごしてしまいがちなので、瞑想の時間も改めてとってみたいと思います。
出力を制御出来そうな範囲内に抑える練習は取り入れていたのですが、もう一度基礎に立ち返って、
思いっきり抑えて放つ練習を丁寧にやってみたいと思います。
「力」の取り扱いは、安全が第一ですよね。
周りに被害を出さないように制御しつつ、自罰的になり過ぎないように気を付けてみます。
相談に乗って下さって、ありがとうございました。』
第一のアドバイスの方が、生徒にとっては発想の外のものだったらしい。
時間がかかったのは、彼女なりに、コゼットの言葉を消化して返事を試みたためのようだ。
コゼットのアドバイスを受けて、生徒が制御のための鍛錬に前向きになれたのは、間違いないだろう。
オフライン
次の返事は少し間を置いて届いた。
どうやら望む回答は得られたようで一先ず安堵した。
『基礎が大事なのは魔術に関しても例外ではありません。
今すぐに成果が出る訳ではないけど、積み重ねた物はきっと無駄にならない筈です。
もし魔術の詠唱訓練をするのだったら実習区にある演習場を利用すると良いでしょう。
いえいえ。細かい事でも遠慮なくいつでも相談して下さいね』
短く返信を終え、ふぅと一つ息を吐いた。
──しかし。
こうした相談を見ると、一見実習の様子を見ただけでは判らないものだなと気付かされる。
まだまだ自分も観察力が足りない…という事か。
次の実習では生徒達を一層注意深く観察する事にしよう。
オフライン
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