そうか…レイチェルが…
彼女は詳しいことは何も言わないからな。
良い方向に進んでいるなら嬉しいよ。
(以前はライガとは死に別れる運命だと覚悟を決めていた。
レイチェルの名前が出たことで心から安堵するのであった。
ライガによって佐伯貴子の舌が肥えたかどうかは謎である)
ああ、園刃についてのコメントは控えよう。
(手でバツを作った。
彼女に奢りでもしたのなら忘れておいたほうがいい。
佐伯貴子も彼女にコンビニ飯を奢ったことがある)
あ…ありがとう…
(目を逸らしながらお礼だけは言っておく。
外見がどうのという話をしたあとでそれを言うということは、浅からぬ意味を持っているはずである)
たこ焼きダメかー。
あ、ありがとう。ジェントル。
(椅子を引くのが紳士的なのかはよく知らない。
ボーイの仕事と言われるかもしれない。
しかし気が利くということに間違いはないだろう)
私はアイスティー。
ライガはなにか飲む?
(店員を呼び止め注文する。
こう見えてこの男、食に関して関心が薄いのかもしれない。
高そうな店を知っている割に、だが)
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「依頼人や依頼についての守秘義務はちゃんとするってか。真面目だね、僕は貴子になら言ってくれてもかまわないけどな。
ただ、あまり周囲に触れ廻ったりしないのが彼女のいいところなんだろう。
しっかりした友達だよね、大事にしなよ?」
実際、仕事を頼んではいるのだが、口止めなどは一切していない。
にもかかわらず、余計なことを漏らさないでいてくれるのはありがたく。この場に居ない人物であるが、ライガは深く感謝した。
もちろん貴子ならば大切な友人を蔑ろにすることはないだろう、それは分かっているつもりである。
「分かってくれて有難いよ……というか、
やっぱりそういう認識なのかい?食費、的な意味で」
実際、あれはカードを取り出すレベルであった。
遠慮がちに、おそるおそる尋ねる。
「そうそう、素直に喜んでおかなきゃ。社交辞令でも、貶してるわけでもないんだからさ」
言わなくても伝わる、そんな幻想は持ち合わせてはいないのであった。
もしかしたらこの辺りにも、2人の文化の違いは出てるのかもしれない。
「ジェントルは関係ないような。タコ焼きは夜に余裕があれば。
……この椅子、高さが微妙だな。ちょっと失礼」
どうやら、膝がつかえるらしい。
座ったまま、椅子を少し後ろに下げ、浅めに腰掛けなおした。
「じゃあ、そうだな。流石に昼間からアルコールは自重して……
アイスカフェラテかな。
飲み物以外は頼まないのかい?僕は朝夜で摂って、昼はあんまり腹に入れないほうだけど」
この男、昼は軽めにとり、朝と夜にガッツリ食べる派であった。
氷を1つ口に含み、舌で転がす。
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真面目とかそういう問題ではない。
信頼は何より大事だし、仁義というものがあるのだろう。
ああ、私の最高の親友だよ。
(微笑む。レイチェルが周囲から信頼されている理由でもあるのだろう。
しかし彼女は自分の背負っている宿命も話すことはない。
なにか重いものを背負っているように思える時もある)
うーん…悪いやつじゃない、とだけ言っておこうかな…
ははは…
(園刃も一応女子である。食費がかさむなどとははっきり言わないほうがいいのかもしれない。
もう遅いきらいはあるが)
そ、そうか…
ライガは別にカッコイイ!とか、そういうのじゃないからなんと言えばいいのかな…
別にけなしているわけではないぞ。
(反撃に転じようと思ったが、いい言葉が思い浮かばない。
外見で判断しているのではないので、言葉を選ばないと陳腐な褒め言葉になってしまう)
ライガはでかいなー。
食べてるのを一方的に見られるのは恥ずかしいんだけど…
こう暑いし、アイスクリームサンデーでも頼もうかな。
ストロベリーの。
(そう言うと店員を呼び止めて注文するのだった。
佐伯貴子も朝と夜に重点を置いた食生活をしている。
昼食を軽めに取るのではなく、昼食は好きに食べて、朝と夜にバランスを調節するのだ)
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「最高の親友、か。
それ以上ないってくらいの言葉だよね。それはおそらく向こうも思ってるだろう。
ちょっとだけ妬けちゃうかな、それくらい良い関係だと思うよ」
ライガもレイチェルの体質的なものについて知ってはいるが、その程度である。
やはりこちらも彼女の抱える何かは知らない。信頼する親友である貴子が知らないことを、どうしてこの男が知り得ようか。
「……単に、燃費が悪いだけなのかもしれないね。
まあ、ダイエットと称して全然食べないよりマシか」
貴子の答えは、微妙に答えになっていないように感じる。
あ、これは深入りしてはいけないようだ。ライガはこれ以上突っ込むのをやめた。
本人だって、こんな方向で話題にされたくはないだろう。
「あ、無理に合わせなくてもいいよ。
君は言葉を並べて相手を褒めちぎるタイプじゃあなさそうだし、
……でも、そうだな。それでも何か言いかえしてくれるんだったら。
今日の終わりにでも、訊いてみようかな。
考えた、僕の印象ってやつを、さ」
片手を顔の前で振り、気にしないように言っていたが、
気が変わったのか、何かを思いついたような悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「両方アイスか。
こりゃ、出てくるまで少し時間あるかな……?」
しかしその心配は杞憂のようで、少し待った後、注文された2品がトレーに乗って運ばれてきた。
しかし昼時とはいえ早すぎる。不思議に思って振り返ると、カウンター奥の厨房で、きびきび動くシェフたちの残像が見え……
いや、きっと気のせいだ。厨房だけ時間の経過速度が違うとか、ははは、まさかぁ。
ライガはおかしな考えを振り払い、自分のカップを手に取った。
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私はレイチェルと出会えたことが人生最大の幸運だと思っているからな。
少しくらい嫉妬してもらってもバチは当たるまい。
…いや、一番の幸運はそもそも生まれてきたことかな。
今もこうしてライガとデートできてるしな。
(微笑みながらそういう表情には嫌味はない。
相手を間違えれば不快感を抱かせてしまうような言葉であった)
私も園刃に関してはよくわからないんだ。
それを言ったら講義で一緒の知人などはどれだけ知ってるかという話だが…
亜人の食生活とかね。
(なんとか話をそらそうとする)
うーん…
今日の終わりに…
(考え続けて楽しめないのでは意味が無い。
心に留めて楽しむとしよう。
おそらく答えはシンプルになるはずだ)
おっ、いただきまーす。
…夏場は冷えたメニューは予め冷やしてあるから早いんじゃないのか?
(なにせ魔術と科学の島である。
自分に不利益がなければスルーしないと身がもたないのだ。
ソフトクリームを早速食べ始める)
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「おやおや、こりゃあ敵いそうにはないね。
僕の事なんか、気にしなくていいのに」
しかし、生まれてきたことが幸運か、と繰り返すようにつぶやいた。
ライガが地球に来る前、幼少時にあったはずの記憶は、どういうわけか断片的でほとんど覚えていない。
ただただ、その日を生きるために駆けてきた記憶しかないように思える。生まれたことがラッキーだなんて、考えたこともなかった。
「あー、あまり深く考えすぎないで。
忘れちゃってくれても、いいんだからさ」
目を細め、苦笑する。
実際、意識がそればかりに取られてしまうと、こちらとしても困るのであった。
「ふうん、そういうものかな。
いくらこの島とはいえ、これだけ早いと気になるところだけど」
カップに口をつける。それほど変わった様子はない、出てくるスピード以外は普通のアイスカフェラテだ。渇いたのどに冷たい液体が流し込まれると、ひんやりとした感覚が体中に広がる。これはたまらない、すぐに飲み終わってしまうだろう。
ちらりと視線を横へ流すと、外から見た以上に、広い空間とテーブルが続いていた。
だのに、厨房やカウンターからそれぞれの客へ食事を運ぶウェイトレスやウェイターは、どこへ向かっても2分とかからず戻ってくる。
「……たぶんだけど、時空がゆがんでるな、この店内限定で。ほんと、器用なことだよ」
ライガは気づかないが、フロアの模様と従業員の服には転移魔法の力が働いているようで、その魔法を見慣れた者ならば、店員が歩きながら床を高速で滑っていく姿が見えるかもしれない。
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敵うってなんだ?
私は同性愛者じゃない。
それに、なんとも思っていない相手とデートするほど暇でもない。
(何気ない口調である。
佐伯貴子も決していい人生を送ってきたわけではないが、つらい過去を思い出すほど暇でもない)
わかった。
(話を切り上げようとする相手に短く返す)
そうかな…
そうかも…
(ソフトクリームサンデーを食べる手を止めないまま、
ライガの視線を追ってみる)
転移魔法、かな。
あとは時間系の加速魔法。
専門分野じゃないからよくわからないが、魔術を使ってるみたいだ。
ライガはこっち系統には疎いのか?
(転移魔術ならみっちり勉強して会得した魔術だ。
ライガはそちらに関してはエキスパートだと思っていたので意外であった)
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「いや、ちょっとひがんでみただけさ。
それに、今の反応で少しだけ希望が見えたから。気を悪くしたなら謝るよ」
溶けかけたクリームをスプーンでかき混ぜる。
うーん、泡だけ残っちゃいそうだ。
「なるほど、転移魔法。
そう言われてみれば、コスチュームの模様が魔術記号にも見えるね。最初はただのデザインかとも思ってたけど。
へえ、時間系か。疎いわけじゃあないんだけど、ここまでありふれてると混乱するな。さすが常世学園」
首を回し、改めて注意すると、周囲には確かに魔法を発動するための術式やら道具やらが見える。
しかし、こういったものは見慣れていなければそれと判断するのも難しい。
「時間系は誰でも簡単に使えるわけじゃないからね。君たち風紀委員なら、見る機会も多いかもしれないけど。
転移魔法に関しては、ここじゃ技術開発が進んでるからかなり覚えやすくなってるみたいだけど、まだまだ世界的には希少だし。
あと僕は自力で転移使えないからね、魔道具使ってもダメだ。そういう点では、正常に扱える貴子をうらやましく思うよ」
そう言って片目を瞬かせる。
実際のところ、魔術に対する分析のほかは、不可視のカベをつくるしかできないのだ。
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ひがみ、か…僻まれるというのも複雑だな。
レイチェルが僻まれているのか私が僻まれているのか…
それほど深く人間関係を築いてこなかったからよくわからないんだ…
(気を悪くしたというより、少し悲しげな表情である。
佐伯貴子は平凡な日本人というわけではない。
特に精神面はそうである)
時間系・空間系は実際の生活で最も実用的な魔術の種類だ。
買い物から収納、掃除まで色々役に立つぞ。
勉強して損はないぞ。
(詳しくもないのになぜか自慢げである。
相手に対して知識で上回るということが少ないため、
ここぞとばかりに)
うん、簡単には使えないな。
風紀委員会じゃ戦闘から捜査までエキスパートがいるから…
…すまない、体質的に使えないのなら謝る。
(調子に乗っていた頭が下がる。
魔術や異能には相性というものがある。
魔術は特にそれが顕著だ)
(そんなことをしているうちに、
ソフトクリームの器は空になっていた)
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