2020/08/14 のログ
ご案内:「常世渋谷 底下通り」に紅葉さんが現れました。
紅葉 >  
夜の高架下。底下通りは今日も多くの露店で賑わいを見せている。
その中の一つ、出張居酒屋のような店構えの屋台で日本酒を呷る長身の女性の姿があった。
既に何杯めかのグラスを傾けながら、少し赤らんだ頬で異界産の鳥類を使った炭火焼き鳥に舌鼓を打っている。

「んむんむ……鶏とはまた違うた味わい……」

鶏肉にはない独特の苦味が炭火でさらに引き立てられており、これが意外と酒に合う。
酸いも甘いも噛み締めた大人にこそ相応しい味、といったところか。
付け合わせの野菜がまた良い味を出している。
まったく見たことのない品種だったが、食わず嫌いをしなくて正解だった。

「クセになってまいそ……♪」

からんと氷の小気味よい音を立てて、空になったグラスを置く。
次は甘めの果実酒と合わせてみても良さそうだ。

店主 >  
「お客さん、いい飲みっぷりだねぇ。客寄せにもなって一石二鳥ってやつだ。
 ま、鳥は俺っちだけどな! ピヨピヨピヨ!」

鳥肉を串に通しながら笑うのは、この屋台の店主である鳥型亜人。
共食い上等の屋台を開き、ブラックジョークをかます豪快な人物(?)だ。
ピヨピヨと笑うのがチャームポイント(本人談)。

紅葉 >  
「くふふ、おおきに♪
 鳥のことは鳥が一番よう分かっとるっちゅうことやなぁ」

何を思って焼き鳥を始めたのかなど知る由もないが、店主に合わせてころころと喉を鳴らす。
屋台ということもあって、彼女の飲み姿は道行く人の目にも留まることとなる。
それを見て立ち寄る客がぽつぽつ増えてきているので、集客効果が見込めるというのは本当のようだ。
中には横目でちらちらと視線を投げかけてくる者もいるが、にこりと微笑んだだけで目を背けられてしまう。
どうやら、店主に負けずとも劣らない立派な胸肉が目を惹いているらしい。

「ふ~……あっつい」

わざとらしく言って、上体を逸らし胸を強調するようにしながら上着を脱ぐ。
再び集まる視線を見回して蜘蛛の子のように散らすのが楽しい。

店主 >  
「ピヨッ! お客さん、いいモン持ってるじゃねぇか!
 こりゃ俺っちも負けてらんねぇなぁ!」

これには店主も思わず反応してしまった。
そう、対抗するように客の前で胸肉を強調するポージングを取り始めたのだ!
エプロン越しの巨乳、これが女性なら歓声ものだったろうが店主は男性である。
男性客からはブーイングが、女性客からは引き気味の眼差しが浴びせられた。

紅葉 >  
「大将もエエもん持っとるやん。それ売りもんにしたらええんとちゃう?」

彼女だけは笑いながら笑えない冗談を飛ばしている。
職業柄、あまり他人のことは否定しないのだ。
酒が入ったため箸が転んでもおかしいだけというのもあるが。

追加で注文した果実酒を先ほどの焼き鳥と一緒に味わう。
予想通り、果実酒の甘味が良い具合に苦味を引き立ててくれている。

紅葉 >  
アルコールが回り、いい具合に腹もふくれ、次第に眠気が襲ってくる。
グラス片手にうつらうつらし始め、店主への相槌も適当になってきた。
いや、それは元からか。

「ぁふ…………」

しまいにはその場で突っ伏してしまった。
立派な胸肉がつぶれ、さらに注目が集まるのもお構いなし。
店主はポージングを続けている。

男性客たち >  
ヒソヒソ...ヒソヒソ...
酔い潰れた彼女を前に、誰が声を掛けるか……"お持ち帰り"をするかの駆け引きが始まった。
しかし、実際に声をかける勇気のない客ばかりのようだ。
店主が鳥なら客もチキン揃いである。

ご案内:「常世渋谷 底下通り」に持流 童男さんが現れました。
持流 童男 > 「へーい!そこのお嬢ちゃ・・・・おじょ・・おじょうちゃ・・・?」

そう言ってちょっとナンパを仕掛る!僕もココでやけ酒してたからね!!
まだ、諦めてなかったのである・・!!ナンパを・・!

エロい・・!!エロいけど、酔いつぶれてる。のか心配して話しかける。

「おじょうちゃん?大丈夫?水いる?店主さん水ちょっと、用意してくれると嬉しいよー」

そう店主さんに笑いかける。

紅葉 >  
「……んぅ~?」

声をかけられ、突っ伏していた顔を上げた。
起きているのか眠っているのか分からない糸目のまま、ぼんやりと声の主を見つめる。
その間に店主が水を用意してくれた。

「ニイさん誰ぇ……? うちはまだ呑めるでぇ」

こてん、と首を傾げる様は年若い少女のようだが、長身の女性である。

持流 童男 > 「うーんそうだね、自己紹介したほうが良いね。忘れるかも知れないけどさ」
そう言って、困ったように笑って
水をそっと長身の女性に渡そうとする。仕草がいちいち可愛いな
と想いつつも

「えーっと僕の名前は、持流 童男。いまはヒーローを休業して色々と取り戻してる一般人だよ」
そう本心から笑ってから、
少しだけ真剣な表情をして

「全く飲み過ぎだよ、悪い男達にお持ち帰りされるよ?ほら、君の家にちゃんと送ってくから。」
といって頬を膨らませて少しだけ怒る。
その後に笑う

紅葉 >  
「んく、んくっ…………ぷはぁ。
 ……なんや、この酒えらい薄いな。もっと濃いの寄越しぃ」

手渡された水を一気飲みしてグラスを置き、酒のおかわりを注文しようとする。
しかし店主と童男から止められ、しぶしぶ呑みを切り上げた。

「ひぃろぉ~? よう分からんけど、大変やなぁ。
 うちは紅葉(くれは)。よろしゅうな~モテルドはん」

計算が面倒なのか、大雑把に数枚の万札を置きつつ自らも名乗った。
他の男性客からの羨ましそうな視線があなたに突き刺さる。

持流 童男 > 「うう・・・視線が痛いけど」

と羨ましそうん視線に少し引きつつも
万札が置かれてるのに気づいて

「ーーーうーん、いや、まさかと思うんだけど、・・いやまさかね」
そう言って一応財布の用意をしておく
多分、もしもだけど

「紅葉さん大丈夫?歩ける?・・うっとおしいかもしれないけどさ、ほっとけ無いんだよね。そういう性分でさ。家に帰れる?無理なら、付き添うけど。こう、さ、君ってキレイだから君が襲われるのが怖いんだよね」
そう紅葉さんに申し訳無さそうに言う

紅葉 >  
「釣りはいらんで~」

ということらしい。
店主はありがたく頂戴するつもりでいるようだ。

「くふふ、ニイさんたらお上手やわぁ。
 一人でも平気やけど……ほんなら"えすこぉと"お願いしよか」

そう言って赤ら顔のまま、あなたに寄りかかるように立ち上がった。

持流 童男 > 「おお良かった・・ごめんごめんちょっと杞憂だったよ」

そう言って寄りかかられてこちらも立ち上がる
優しく寄りかかられて紅葉さんがこけないように

「うん、エスコートなら任せて紅葉さん」
そうニット笑う
ドキッとしながらも、っていうかドキドキして赤面してから

「じゃあ、一緒に、君の家までってことでよろしくね!紅葉さん!」
ドキドキしながら快活に本心から笑う

紅葉 >  
「うち教師やし、これでも稼いどるんよぉ。
 ちゅーわけで教職員居住区までよろしゅう頼んます」

そのまま千鳥足で歩き出すだろう。
かなりフラついているが、不思議と通行人にぶつかる様子はない。

持流 童男 > 「うん、勿論!おせっかいは・・っていまは休業だった、まぁいいか!


そう言って千鳥足の紅葉さんと一緒にあるき出すだろう
不思議と通行人にぶつかる様子がないのを見て

「すごいね。紅葉さん、酔ってるとは思えないよ」
苦笑しながら、エスコートをする

紅葉 >  
あっちへふらふら、こっちへふらふら。
風に舞う木の葉のように不規則な動きで通りを蛇行していく。
この辺りの住人からは"よくある光景"と認識されているようで、それを咎める声もない。
視界の端を一匹の蝶が淡い燐光を帯びながら舞っていても、誰の目にも留まらない。

「くふふ、ちゃあんと酔うとるよぉ。うちも……あんたも」

うっすらと開いた瞼から、真紅の瞳が僅かに覗いた。

持流 童男 > 「はは、酔ってるかもね」
そう紅葉さんに笑いかける。うーん多分・・・意識阻害系の異能?まさかね

そう思っても口には出さない憶測で喋ったら、普通に駄目だ。
少しだけ頬を緩めてから

「きれいな瞳してるなぁ。別嬪さんなわけだよ」
そう本心からの言葉を、真紅の瞳がわずかに覗いたのを見て、
素直に笑った

紅葉 >  
「くふふ、おおきに。
 せや、えすこぉとの礼や言うたら何やけど……ちょいと夜話でもしよか」

歓楽街方面の出口が近付いてきたところで不意に足を止め、あなたに振り返った。
蝶が彼女の背後をひらひらと舞っている。

「あんたはん、"胡蝶の夢"っちゅう話を知っとるか?」

持流 童男 > 「うん?胡蝶の夢?あぁ、ごめん、知らないから教えてくれないかな」

そう困ったように、頬を掻いてから、紅葉さんに尋ねる

歓楽街方面の出口が近づいてきたところでいきなり止まったことに気づいて、驚いて、彼女の背後に蝶がひらひら止まってるのを見て「きれいだなぁ」と言う。

紅葉 >  
「中国のなんとかっちゅう人が残した説話でな。
 自分が蝶になった夢を見て、それがほんまに蝶になる夢やったんか、今が蝶の見とる夢なんか……ちゅう話」

彼女がおもむろに片手を肩の高さで挙げれば、そこに先ほどの蝶が止まった。
蝶はぼんやりとした輝きを纏い、思わず見惚れてしまうかもしれない。

「なぁ、あんたはんはどっちやと思う?」

この説話には続き、というか著者の考えが綴られている。
そうとは知らないあなたに投げかけられる問い。

持流 童男 > その蝶に思わず見惚れて、彼女にも見惚れてから

「いきなりなかなか難しいこと聞くね。ーーうーんだけど、僕はいま意識してるこの現実が、現実だと思うからさ。こう、君にも会えたしね。だからまぁ。蝶になる夢だったんじゃないかなってのは思うよ。っていうかそれは本人が決めることじゃないかなって思った!」

そう朗らかに言ってから

「それに君と会えたのが夢だとか悲しいし」
悲しい顔をしてから言った

紅葉 >  
あなたの回答を、ふんふんと相槌を打ちながら静かに聴いていた。
最後まで聴いたところで笑みを浮かべる。

「くふふ……せやね。夢かどうかは本人が決めること。
 あんたはんが現実や思うんなら、ここがあんたはんにとっての現実っちゅうわけや」

おおむね満足のいく回答だったようで、くつくつと喉を鳴らした。
指を少し動かすと、蝶はどこかへと飛び去っていく。
それを見送ってから───ふと気付くと、周囲の景色が様変わりしていた。
二人は今、常世渋谷でも歓楽街でもなく……教職員居住区の入口に立っている。

「せやけど逆もまた然りや。
 一瞬でも夢や思うたら、ほんまに夢に思えてくることもあるんやで」

先ほどまでの赤ら顔ではなく、落ち着いた様子で言う。
どれだけ思い出そうとしても間の記憶はなく、時間だけが経過していた。

「ほな、ここまででええわ。案内おおきに、モテルドはん♪」

何事もなかったかのように微笑んで、踵を返して立ち去ろうと。

持流 童男 > 「うおおお!?」
と驚いて、びっくりしてする

そしてあっれ~~と思ったけど。彼女が無事でよかったなぁって思って

「うん、また会おうね!紅葉さん!今度、いいおつまみとお酒持ってくよ」

そう素直に笑った。案内した覚えないんだけどな~って思いながらもこちらも帰路につくだろう。しかし蝶きれいだったなぁ

ご案内:「常世渋谷 底下通り」から持流 童男さんが去りました。
紅葉 >  
見送られ、そのまま去っていく。
誰もいなくなった路地を、一匹の蝶がひらひらと舞った。

その出会いが一夜の夢だったのか、はたまた現実の出来事だったのか。
それを決めるのは、あなた自身───

ご案内:「常世渋谷 底下通り」から紅葉さんが去りました。
ご案内:「裏常世渋谷」にエコーさんが現れました。
エコー >  カメラを手に、レンズをこちらに向けるよう撮影をする女の姿。正確には女を模したアバターが映っている。
 解像度の荒い出力された映像のようにざらついていて、周囲の森の背景も相まって非常に古めかしい映像を演出している。

 傍から見れば、ドローンに出力された映像越しにカメラを無理やり握るポージングを取る無茶な体勢をしていた。

「このビデオを誰かが見ているということは、私は既にこの世にはいないだろう」

 神妙な面持ちで切り出した。呼吸を深く行い、胸は躍動する。
 緊張からか下唇を舐め、目線は左右にブレる。

「私はエコー、常世学園情報教師だ。誰かがこの映像を見ている時、それは私が消失した後に違いない。願わくば、誰か私を知っている人にこの映像が見えていることを望んでいる」

エコー > 「私は新開発した超小型投影装置により現実に投影されたアバターだ。よってここは現実に存在する場所だ。
 裏常世渋谷、私はその森に該当する場所にいる。
 この場所は非常に危険だ。もし迷い込んだか、あるいは私を助けに来てくれた数奇な者がいたなら、この映像から次の者に繋げられたら幸いだ」
 
 す、と一呼吸。散策しながら歩いているのか、カメラ目線は止めずに歩いている。カメラの画面は揺れており、彼女の足や腕に時折画面が揺れ動く。
 アバターに違いないが、地面との接地面はしっかりと演算されており、本当に歩いているかのように演出されていた。

「いいか、この森には危険な魔物が潜んでいる。私の体の一部をあいつはもぎ取って行ったんだ。
 上手く逃げ切れたが……もうどれだけもつか分からない。
 私は詰んだんだ。逃げきれっこないんだ。ちくしょう!」

 立ち止まって地団駄を踏み、出せない唾を吐き出すように悪態を付く。

エコー > 「……これはちょっと盛り過ぎかな。持って回った言い回しをしないと」

 ぷつ、とビデオを回すのを止めて、はー、とため息をつく。腰に手を当て考え込むように気にもたれかかる動作。勿論物理的に触れられないしドローンがぶつかるわけにもいかないので、あくまで演算によるモデリングの稼働である。

「辞世の句とか、ああいうビデオによる言い回しってどう演出してるんだろうね。あんなかっこよく出来るなんて思えないんだけど。
 次作るゲームのいいネタになると思ったのになぁ……」

 エコーは絶賛迷子だった。ドローンが『ナニカ』に潰されたのも本当だが、実情は非常に呑気だった。ゲームを作るために身をもって危険に曝したのに、こうして死期を悟る振りをしてごっこあそびに興じてもどうしようもない。

「もっと恐怖を演出する為に走るとか、得体の知れないのに追い回されてぐわーってやられてカメラがばたん!みたいな演出出来ないかな」

ぐっとカメラを天に掲げて首を傾げた。

エコー >  数分後、エコーは全速力で走っている。闇から逃げるように明るい場所を目指して森を疾走する。

「ハァ……ハァ、ハァ……」

 カメラが大きくブレる。腕を伸ばしたエコーの姿が辛うじて映されている。

「もう奴がすぐそこまで迫っている。誰か、誰か助けて!」

エコー > 「――あ、ごめん違う誰もいない想定なんだからもっと違う言い回しが適切よね」

 生放送じゃあないんだから。ぴっとカメラを止めて、深く溜息をついた。NGを出しまくる役者のように肩を竦めて首を横に振る。
 映画やドラマの制作スタジオのような状況と相成っていた。危機感ゼロ。この遭難した状況に甘んじて一人遊びをする始末である。

「あ~でも外に出られないと外にいる『私』に共有されないからもどかしいな~~ここの経験値をゲット出来ればゲームや心霊体験のいいネタが出来るのに。一基潰れたけど……」

エコー > 「――私はここまでのようだ。……私はもう間もなく死ぬ。
 だが安心してほしい。私のようなものが現れないよう、風紀委員や力のある者たちが必ず力になってくれるに違いない」

一層ノイズの激しくなったカメラの映像。息も絶え絶えになったエコーが木に寄り掛かり、倒れ込んでいる。

「嗚呼、願わくば……あの風切り音には注意して……奴を倒して……く……」

バタ。脱力して倒れ伏し、カメラがごとんと横になる。その映像の先には、大きな刃を持った巨大な蟷螂の姿が映っていた……。

ご案内:「裏常世渋谷」に九十八 幽さんが現れました。
九十八 幽 > 「──嗚呼 やっぱり
 “誰か”居るような気配がして 来てみたのだけれど」

ざり ざり
雪駄が地面を踏み鳴らす音と共に 呑気な言葉と共に現れる影ひとつ
着流しの帯に括られた 小さな二つの鈴の音が涼やかに辺りに木霊する

「君 君 大丈夫かい
 良かったらここがどこなのか 教えてくれると大変嬉しいのだけど
 ……──それとも嗚呼 若しかすると 若しかするかも
 それどころでは無かったり するのだろうか?」

倒れ伏したエコーへと おずおずといった風に声を掛ける
その心配は蟷螂よりも もしかしたら何か邪魔をしてしまったのではという色合いが強かった

エコー > 「あ……」

 ノイズの走った体がいっそう強くザラついた。体の部分部分が負荷に耐えられずモザイクが走る。
 負傷を受けているとかそういうのは全く関係なく、ただドローン二基の出力が足りないのが問題なだけだ。まもなく消えかかっているというのは本当なのだが。

「ここは裏常世渋谷の森……? らしい?」

絶賛迷子の灯にも良くわからない。数日前に迷い込んでそのままなのだ。解決策も浮かばないまま彷徨い続けて今に至る。

「異界っていうのかしら、そういうトコロ? 迷い込んでやって着ちゃう場所とか。
 ああえっと、それどころじゃあない、ないんだけど……二重の意味でヤバくって」

そういう風に言われていた気がする。死にかけてた体はぐっと起こされる、が。

蟷螂 > 大型の蟷螂がエコーの目線の先……うつろう人のような気配の九十八の背後から現れる。
非戦闘型のエコーには非常に苦戦を強いられる相手だが、武人ならばはっきりと『弱い』存在だと分かる。その程度の相手と分かろうか。

九十八 幽 > 「──……裏 常世 渋谷? らしい?
 なるほど 君にもわからないんだね
 それならしょうがないけれど それだけわかれば十分だね
 異界 裏 なるほど ──常世の“裏”なら《うつしよ》なのかな」

ありがとう と身を起こしたエコーへと微笑み掛けて
ひとり合点が入ったと 大きく頷いた りん と腰元の鈴が鳴る

「──……それなら どうやら迷い込んでしまったらしい
 いいや もしかすると 呼ばれて来てしまったのかも
 どちらにせよ 未だ帰り道はわからないんだね?」

さて困ったなあ 困ってしまったなあと 端正な眉をつい、と寄せて
視線を前から後ろ エコーから蟷螂へと移す様に振り返る

「──だとしたら 呼んだのは君かな?
 いいや 違うのだろうね 違わないのかもしれないけれど
 呼ばれて来たのなら たぶん やるべき事もあるのだろうし」

それ を探さないとね
涼やかな鈴の音と共に 凛と腰の刀に手を伸ばして

エコー > 「わ、分かんない。助けを呼ぼうにも電波は通じないし、こうしてビデオ撮影をしてせめて目印にしようかと……」

カメラを携帯したドローンを指さす。うつしよというものも何か分からないし、そういう手合いは電子の世界にはない。
現実も現もカクリヨも常世も、未知であり不明のものだ。
心地良い鈴の音が、マイクで拾われる。

「き、キミも帰り道は分からない? 私、ずっとず~っとここをぐるぐるしてて電池切れかスクラップになるのを待ってたの。
 死ぬ? みたいな感覚になるのかなぁって思ってたんだけど、ワンチャンあったりしない? ない?」
 
 ひゃ、と尻もちをつく。蟷螂は爪を研ぐように二振りの刃をかちあわせて威嚇して来たのだ。

「あ、あれ! 私のドローンを潰したの! ぐっしゃぐしゃにめっちゃくちゃにされて……!」

蟷螂 > 「オォォォオオ!!!!」

涼やかな声と裏腹に、蟷螂は奇声を発しながら素早く彼に接近する。大きく振りかぶった二つの鎌は非常に鋭い光を放っている。
陽光を照らして反射する白刃は断頭台に添えられたギロチンのように正確な動作で彼の首元を狙って刃を振り下ろした。

九十八 幽 > 「ごめんね ごめんなさい
 実のところ 帰り道はわからないんだ
 でも もしかしたら もしかするかも」

尻餅をついたエコーを 肩越しに振り返り
威嚇をする蟷螂に併せて 腰の刀をすらりと抜いて

「──……いくつか 思い出したんだ
 もしかすると 今だけかもしれないけれど
 ここが常世でないのなら 彼らが迷える御魂なら
 導き 見送り 見届けるのが きっと“僕”の役目なのでしょう」

幽の脳裏に 遠く遠く去りし日の記憶が甦る
病床に伏せり今わの際まで 仲間と共に戦いたいと 無念を語った剣士の姿
彼がその生を終えるまでの僅かな日々を 傍らで過ごした色褪せた記憶

「──うん ……力を 貸してね」

鎌が幽の首を 捉えるよりも速く
蟷螂との距離を 一歩、二歩、三歩と詰めて
青眼から寝かせた刃を滑らせるように 目にも留まらぬ刹那の早業で
相手の眉間 喉元 鳩尾と思しき箇所へと突き出した


『──“三段突き”』
 

エコー > 「そっか……」

ワンチャン程度の期待はしていた。ここに迷い込んだ知的生命体なら、あるいはと思った。
同じく迷い込んだ人は自分を助けてくれる存在だったかもしれない。
それはこの状況においては正しくそうなのだけど、その先は未だ非ず。

――ここは裏常世渋谷。常世にあって常世に非ず。数多の街入り乱れた境界線のハザマ。
異界にあって霊魂と怪異ら魑魅魍魎の住処であり、人非ざる者が跋扈する。
己のような実在性を持たないソフトウェアも彼のような不肖の存在も。

「キミは一体……何者?」

雰囲気ががらりと変わった、気がする。己は人ではないからよくは分からないが、声の音が違った反応を示した。
何かを思い出したと彼は言う。うつろな衣のように風になびくばかりの存在が、しゃんとしたスーツのように、芯のある姿。

蟷螂 > 蟷螂は素早かった。現代技術で生み出されたドローンの外殻を容易く破壊するパワーもあった。
人体の急所を学習し、彼のそっ首を叩き落とそうと一点を狙っていた。
されどソレは、なおも早い。
五間を割り、刃の間合いより肉薄して三点の急所を瞬時に突く。
巨体の体は攻撃を受けてから反撃しようと、生物的な反射行動を取って身をよじる。
そこで蟷螂の体は大きく崩れた。

「ギ……ガ……」

鳩尾付近の胴が崩れ、ひび割れるように外殻が壊れていく。その身の三か所に亀裂が走ったかと思えば、蟷螂の体はみるみる内に崩れて行った。
堅い地面に刃が鋭く突き刺さり、やがて風化した石めいて、蟷螂の体は森に溶け込むように掻き消えて行った。

九十八 幽 > りん と鈴の音が木霊する
刺突を繰り出した姿勢のまま 蟷螂の身体が朽ち消えるまで
静かに目を閉じて その存在の消滅を視覚以外のどこかで《視る》

「──……何者なのだろうね よくわからないんだ
 常世島に来る前の事は よく覚えていなくって
 ただ今は少しだけ覚えてる “僕”が何者か」

すい と居住まいを正し 刀を鞘に納めて
ふぅわりと 薄く口元に笑みを湛え エコーを静かに見詰める

「“僕”は渡し守
 彼岸と此岸を渡す舟 あるいは現世と常世を繋ぐ楔
 生と死の丁度の合間 けれど一番わかりやすく言えば──」

うーん 小さく唸り声を上げる
蘇った記憶が既に擦れ始めている なので言葉を紡ぐも正しいのかがわからない
そしてその言葉が 目の前の少女に届いているのかもわからない
けれども再び記憶が薄れてしまう前に どうにか理解を得ようと試みる

「──死神
 死を司り 終わりを先へと繋ぐモノ
 きっと ここが常世ではなくて 君が“死”を意識したから
 “僕”はこうして 此処に居るのだろうね」

穏やかに微笑んで 死を名乗る青年は手を伸ばす
立てる?と確認の声を掛けつつ エコーを引き起こす為に