2020/09/09 のログ
水無月 沙羅 >  
「まぁ、ひっ迫してます。
 心配している人が予想以上に多いみたいで、随分人望の厚い人物だったみたいですね。
 家の身内も随分心配するでしょうし。
 えぇ、そうしていただけると助かります。」

実際、彼女の人柄は誰もを魅了しえるモノなのだろう。
あの神代理央が『弟』にされてしまうほどだ。
彼女が本気になったらそれこそ教会は人の山になってしまうかもしれない。

「スラムや落第街にある宗教施設に支援施設……ですか?
 わたしの知る限りそんなもの好きはほとんどいな……い。」

言葉の途中で、思い当たる人物が浮かんで、その次の言葉はさらに確信をもたらした。

「……それ。『シスター・マルレーネ』さんの事ですよね?」

この人もか……と、椅子から滑り落ちる様に脱力したのは言うまでもないだろう。

日下 葵 > 「それだけひっ迫してて手を貸してもらえないとは。
 過酷が過ぎませんかねえ」

不死身を休養不要のロボットと勘違いしていないだろうか。
いや、そういう不死身もいるのかもしれないけれど。

「いやー、やっぱりそんな人そうそういないですよねえ。
 となると過去の資料とかは望み薄ですかねえ」

そんなことをつぶやきながら段ボールやファイルの題目を一つ一つ追っていく、が。

「うん?ええ、そうですけど……沙羅さんも知り合いです?」

ずるり、と脱力する彼女の様子に、
意外な人も知り合いなもんだ、なんて感心して見せる。>

水無月 沙羅 > 「……今、正にその事件を追っているところですよ。
 良ければ資料見ます?
 あくまでも、可能性として挙がってきたものにすぎませんけど。」

調べ上げたディープブルーの資料、そして個人的にメモにまとめた、ディープブルーとマルレーネが関わった可能性を示唆したものを指さした。

「知り合いも何も、バーベキューの主催者は彼女だったじゃないですか。
 それに、私の同居人が『姉』と呼んでいるほどに親しい人で、なおかつ神代理央が異能殺しの事件の際に世話になった人物ですから。
 私が腰を上げないわけにも行かないんですよ。」

そういって肩をすくめて見せる。
要するに、彼女は自分の大切な人たちの恩人であるわけだ。

日下 葵 > 「……なるほど?」

それで誰かに手伝いをお願いすることも、休むこともできずにいたわけか。
この状況の全てを正しく把握した瞬間だった。

そして挙げられた資料を斜め読みする。
ディープブルーという組織。
この組織が関わっているのだとすれば、組織的な犯行になる。

「それはまぁ、そうですけど……
 でもそこまで交流の広い人だとは思いませんでした」

とはいえ、山本さんとも交流があると言っていたのだっけ。
だとすれば風紀委員に相当の知り合いがいるということになる。

「日月さん、という方と沙羅さんが知り合いかはわかりませんが、
 私も日月さんに相談されたもので。
 私も過去にマルレーネさんとは手合わせをさせていただいたこともあって、
 個人的に調べては居たんですが……
 一応、市民からの相談という形で報告書を上に上げておいたので、
 組織が絡んでいて、ことが大きくなるようなら人員も……」

そこまで言ってふと頭の中を整理する。
本当に組織ぐるみの犯行なのだろうか。
資料を見る限り、隠蔽性に長けた組織。
拉致の話だって可能性の域を出ない。
そんな組織が、これだけあの地域で顔の知れたシスターを拉致するだろうか。

「……いや、最悪は想定しないといけませんね。」

ぽつり。独り言>

水無月 沙羅 >  
「人員は裂けませんよ。
 組織的な可能性がある、それだけの為に風紀はこのことを事件としては扱いません。
 なぜなら、『異邦人』が独り勝手にいなくなっただけ、という可能性を捨てきれないからです。
 捜索願を出されているわけでもない、いなくなっても大多数の人間は困らない。
 それが今回の事件の大局的な見かたです。」

「そもそもとして、本当にディープブルーが関わっているという証拠すらないんです。
 警察機構は、『疑わしきは罰せず』ですからね。
 私たちは証拠なしに大きく動くことは出来ない。
 たかだか一人の行方不明に大きく人員を割いて、何の結果も得られず。
 ただお出かけしているだけでしたとなったら、責任をだれがとるという話になりますからね。」

自分たちは警察組織で、動くにはそれなりに責任が伴う。
大人数を動かすというのならば、それ相応の理由が無くてはならない。
それは、少なくともおそらくであってはならないのだ。
決定的な証拠なくして、『風紀』自体を動かすことは出来ない。

だからこそ、今出来る事がこうして大昔の関係があるかないかもわからない違反組織を調べることぐらいしかないのだ。
現場での聞き込みに、少しは収穫があるといいのだが。

日下 葵 > 「まぁ、現段階ではそういう動きしかできないのはわかります。
 だから私も報告書とはいっても市民からの相談程度にとどめているわけですから。

 たしかに彼女がいなくなって困る人は限られるでしょうけど
  ――それで納得できないから個人で動いているわけでしょう?
    なら最悪は想定しておかないと」

「責任なんて後からそれっぽい人がとればいいんですよ。
 とにかく動く理由がいる。
 でっちあげでも何でも、条件や状況をよくするために
 手段なんて選んでられませんよ」

言っていることが無責任極まりない上に無茶苦茶である。
まるで今までそうやって好き勝手してきたと言わんばかりの言動。
それでも彼女の資料に目を通していくと、時々相槌を打つ。

「手掛かりになりそうなのはこの資料と……
 現場とかの調査は進めてるんですかね?
 さっきの口ぶりだと神代さんあたりが現場に向かってそうですが」

日月さんは不自然ないなくなり方をした、といっていた。
なら、何か手掛かりが見つかるかもしれない。
とにかくフットワークを軽くするための手札が要る。

「山本さんもマルレーネさんと交流があるようですし、
 何かわかったら山本さんに連絡してくれと頼まれているんですが、
 彼とは何かやり取りを?」

権限がないなら個人で動いてくれる人を探すのがいいだろう>

水無月 沙羅 >  
「おそらくその責任を取るのがうちの上司になりそうなので慎重になってるんです。」

全くこの人は、とため息をついてから資料に目をやる。
現状得られている情報があまりにも少なすぎる。
だから彼女の言う通り、ある程度でっちあげる必要があるが、しかし、それは必ずしも『マルレーネ』である必要は無い。

「まぁ、落ち着いてくださいよマモル。
 私は何も、動く理由がない、何て言ってませんよ。」

放り投げるのは、違反部活の摘発における必要書類だ。
対象はもちろんディープブルー、その摘発理由として、これまで確認されている違反行為、そのほぼ全てが記されている。
まだ、認可の判は推されておらず、書類も完全に完成しているわけではない。

「おそらく、これほど機密性の高い組織です、現場に行ったとしても何かが見つかる事は無いでしょう。
 理央さんの苦労は徒労に終わると踏んでいます。
 だからこそ、この書類が私たちの鍵になるかもしれない。」

そう、最悪の展開を予想した、最悪に向けての打開策。
準備していない筈がなかった。
多くの『最悪の結果』になりかけた事件を走り抜けてきたからこそ、用意できる保険のようなもの。
しかし、それが保険で終わるとは思っていない。

「ディープブルーの活動拠点を見つけ出し、摘発します。
 そこに彼女が居る可能性があるというなら、『ついで』に探せばいい。
 私たちは、摘発した組織に捕らわれていたかわいそうな一般学生を保護したにすぎません。」

沙羅にできる準備と言えばそれぐらいだ。
無茶苦茶だと言われるなら、そう言われないように準備すればいい。
理由付けをしてやればいい。我ながら苦肉の策だなと自嘲する。
これで本当に彼女が見つからなかったら、骨折り損のくたびれ儲けだ。
もちろん、彼女が唯何かの事情で遠出しているだけ、というのが一番ではあるのだが。

「山本さんとは今は何も。」

彼の事には多くは触れなかった、触れられたくないという意思表示でもあった。
眉に少々皺が寄っているだろうか。

日下 葵 > 「おお、沙羅さん頭いいですねえ。
 上司の胃に穴をあけてきた私とは大違いです」

その上司が神代さんになりそう、と聞いて”それはそれで内心面白そう”と思った。
もちろん口にはしないが。
放り投げられた書類はなじみ深い書類だった。
なるほど、ついでという名目で探すのか。

「とはいえ、そうなると
『もし捕まっているならディープブルーに捕まっててほしいなぁ』
 ってことですよね。
 それともディープブルー摘発に乗じて周辺も捜索する感じです?」

「私、山本さんとはほとんど交流なくてですね。
 そのへんどうなんでしょうね?
 彼は協力先のアテになりそうですか?」

彼女の表情が曇る。
何となく、出してほしくない名前だったといった感じ。
もしダメならそれまでではあるが。>

水無月 沙羅 >  
「沢山失敗をしてきた反省を生かしただけですよ。」

感情だけで動くとろくなことが無い、というのはここ数か月で十分以上に学んだ。
だからこそ用意した、感情以外の理由だ。

「一斉摘発ともなると私の一存ではできませんよ。
 出来るのはここまでです。
 まぁ、違反部活の緊急摘発、なんてそう珍しくもありません。
 『ディープブルー』摘発の折、危険行為の現行犯で戦闘が起きたとしても、咎められる可能性は低いでしょうね。」

目を伏せながら、割と物騒なことを言う。
これは、『もしも』という話に過ぎないが、沙羅の口からはそんな雰囲気は感じられなかった。

「まぁ、多少の交流はあります。
 『加害者と被害者』という形でですが。
 彼自身も独自に動いているとは思いますよ?
 
 協力を求めれば応じては下さるでしょう。
 ……まぁ、その前にいろいろしないといけないことは多いですが。」

嫌なことに突っ込んでくるなと、少しだけ頬を膨らませる。
これに関しては自分が悪いのだが、触れたくないことに触れられるのは不機嫌になっても仕方がない。

日下 葵 > 「反省ですか。
 反省していい方向に向かってくれる部下を持つとは、
 上司も幸せ者ですねえ?」

反省はするがそれで何かが変わった試しなんてない身としては感心する。
とはいえ、変わらないといけないくらい反省するような
”ヘマ”をしてこなかったというのもあるが。

「まぁ、現状で切れる最大の手札ですかねえ。
 というか、これで見つからなかったら次は順当に捜索願でしょうし」

緊急の手段でとれる最大限はこんなところだろう。

「なーんでそんなに暗い顔するんですか。
 目の前にいる人を誰だとお思いで?
 沙羅さんに負けず劣らずの不死身ですよ?
 ここにいるのが私じゃなくたってそんな顔しないでください。
 給料もらって危ない仕事してる人なんですから」

上司の胃に穴を開けようが反省しないのも、
物騒なことになる可能性があっても落ち込まないのも、
友人が危険な目に合っているかもしれないのにニコニコしているのも、
恐怖心がないといういびつさ故だろう。

「おっと、それは随分なご関係で。
 どっちがどっちの立場なのかは敢えて聞かないでおきますが、
 それで動きづらくなるなら無理にお願いはしませんよ。

 というか、知り合いなら山本さんも動くでしょうし。
 今すぐどうのこうのって話ではありませんから」

不機嫌、というか触れてほしくないところに触れられたのだろう。
彼女の反応を見ればどちらが加害者なのかも予想がついた>

水無月 沙羅 >  
「これは直感ですけど、ディープブルーの拠点で見つかる、とは思っています。
 逆に言えば、それ以外の可能性の目が全く見当たらないとも言えますが。」

捜索願を出されたとしても、それ以上は動きようがないという実質的な白旗宣言だ。
それぐらい、今回の事件には手掛かりという手掛かりが存在し無かった。
ディープブルーで見つかったのだとしたら、黒幕は相当のやり手だ。
これからも被害が増えることは間違いないだろう。

「いえ、別に戦闘が起きることに落ち込んでいるわけじゃないです。
 戦闘で誰かが傷つくことを恐れているわけでもありません。
 いや、怪我はしてほしくないですけど。
 
 ただ、何と申しますか。
 私の大切な人たちの、大切な人を傷つけたのだとしたら。」

水無月 沙羅 >  
 
「手加減できる気がしないというだけです。」
 
 

水無月 沙羅 >  
そういう彼女の瞳は、紅から金に、チカチカとついては消えたりを繰り返している。
静かに落ち込んで居るように見えるのは、感情を抑えて、目を伏せがちにしている姿がそう見えたに過ぎないのだろう。

大きく深呼吸をした後に、その瞳の点滅もゆっくりと静まってゆく。

「山本さんには、連絡はしておきます。
 彼がマルレーネさんとどんな関係なのかは知りませんけど、現場に来られなかったと後悔してほしくもありませんから。」

日下 葵 > 「直感、ですか。
 むしろここで見つからなければ他に探しようがない」

 ――実質的な敗北?

そんなことを口にする。
あまり考えたくはないが、そういうことだろう。
直感がなんと言っていようが、
結果的に見つからなければここにある以上の手掛かりはない。

何者かがディープブルーに向かうように手が加えられているのか、
何者かが目くらましの為にディープブルーの尻尾を掴ませたのか、
はたまた何の関係もな偶然なのか。

どう転んだって私としてはここで見つかるといいね、くらいのことしか言えない。

「……手加減なんてする必要はあるんでしょうか?」

てっきり落ち込んでいるとか、
不安に思っているとか、そういうことなんだろうと思っていたがどうやら違うらしい。

彼女――沙羅さんは私が思う以上に感情的な人のようだった。
      それを、あえて抑えてうつむいた……?

「おっと、別に暴走して欲しいとか虐殺しろなんて、
 そういうことは思ってませんよ?」

「本当ですか?私から連絡してもいいんですけど。
 沙羅さんが気を遣わないというのであればお願いしましょうかね」

気を遣わないわけは無いのだろうけど、
ここで出しゃばってもなぁなんて。
現状、私にできることは摘発の時まではなさそうだ>

水無月 沙羅 >  
「そういう事です。だから私たちは、もう後には引けません。
 時間もそう長いことはかけられない。
 黒幕は、私たちのことを良く知っている人かもしれませんね。」

この機構、風紀のことを良く知る、『裏側』ではなく、『表』のこともよく知っているダレカ。
そんな黒幕の姿がちらつく。

「山本さんが一時期マルレーネさんの治療を受けていたのをご存知ですか?
 あれ、どうも私がやったらしいんです。
 もう、そんなことが無いようにコントロールしているといった感じですよ。」

少し自重的に、苦笑いをした。
もう怒りに身を任せたりはしない、そう心に刻むしかない。
あの悲劇を繰り返すことは、もう二度と。

「えぇ、わかりました。
 もし私たちが動くときには、マモルもよろしくお願いします。」

椅子から立ち上がって、書類をトントンとテーブルの上でまとめ上げた。
そのまま脇にかかえる様にして、自分のデスクに戻ろうとする。

「それじゃぁ。私はもう少し書類をまとめますから。」

少しだけ、おしゃべりで休憩をした顔には生気が戻っただろうか。
まだ、彼女の戦場は終わらない。

日下 葵 > 「黒幕、ですか。
 ぶっちゃけ黒幕が誰かは大して興味は薄いんですよねえ
 マルレーネさんが助かればいいかなぁ程度にしか」

とは言いつつ、もし裏にいるのが”厄介な存在”なら、
今後の面倒を減らすためにも相応の対応は必要だろう。
しかし、その程度の興味であった。

「いえ、全く知りませんでしたけど」

報告書読まない人間が、他人がどこで療養しているかなんて知らない。
『欠員が出たから代わりに警邏をする』程度だ。

「おやおや。沙羅さんも私に負けずやんちゃしてるんですねえ。
 となると山本さんも大変ですねえ」

ことの内容は重大なのだろうが、
聴いてるこちらは心底面白そうに笑う。
人によっては不快極まりない態度だが、彼女はどう思うだろう。

「基本私は人手の足りないところに回される”ピンチヒッター”ですので。
 動くときは連絡ください。
 やれることならお力添えしますよ。
 ――そうですか。たまには休憩してくださいね?
   不死身も疲労には弱いんですから」

そう言って、資料室から出ていく彼女を見送る。


「さて、現状適切に?人が動いているようですし、
 私の出る幕はしばらくないですかねえ」

ひとりになった空間で、ぼそっと呟けば自分も資料室を後にするのだった>

ご案内:「風紀委員会本庁・資料室」から日下 葵さんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本庁・資料室」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「元・ホテル」に九重九十九さんが現れました。
九重九十九 > 常世渋谷の一角。位置としては些か歓楽街側に近い所に一件のホテルが建っていた。
それなりに良い立地で、ビジネルホテルとシティホテルの合いの子のような存在だったらしい。
きっと諸々を期待されていただろうに、如何な不思議かオープンして間も無く閉められてしまい今に至る。
一説には土地の霊脈に障っただとか、運営会社に何か問題が発生しただとか言われているけれど判然としない。

今、確かなのはこの10階建ての瀟洒なビルが廃墟として此処に在るという事と──

「──新たな怪談の舞台となること……!」

中々良い場所を見つけてしまった。
先日の廃病院での失敗をとっとと忘れることとし、わたしは今日も元気に怪談に勤しんでいる。
勿論二学期の授業もきちんと出ている。夏休みの宿題だってきちんと終わらせた。
ふふ、つづらちゃんポイント+1だ。

「わ、わりと……そこそこ綺麗なまま?でも、やっぱり誰かしら入ったりはしている感じかなあ」

敷地は封鎖されているけれど、おざなりなもの。
入ろうと思えば誰でも入れて、事実わたしがエントランスに入ると、スプレー缶の落書きであったりとか
誰かが酒盛りでもしただろうゴミが散乱している。中々雰囲気は、よいのかもしれない。むふふ。

ご案内:「元・ホテル」に宇津木 紫音さんが現れました。
九重九十九 > 「導線としては階段で……上手い具合に上まで登って来てくれると、いいんだけど……」

カウンター奥は鍵がかかっていて開かない。
わたしの異能でならば開けられるけれど、導線的に意味は無いと思うので、放っておく。
エレベータもそう、迷い込んだ人間に動かす術は(基本的に)無いから、考えなくても多分良い。

……でも念の為、ポルターガイスト現象を用いてエントランスまでエレベータを稼働させてみた。
本来ならば電力が無ければ動くはずの無い機械は恙無く動き、そして停止する。

「物自体はそのまま……本当に急に閉めてしまったんだね。一体何があったんだろう……」

ふむ、と考えるけれど、わたしは探偵ではないから解答は出ない。
一先ずはゆるゆると階段を登って2Fへと向かうこととする。
埃の積もったカーペットには他にも誰かの足跡がある、夏休みの間に誰か肝試しにでも訪れたのだろうね。

「ふむふむ……」

階段を上がり、開かれたままの防火扉から2Fの廊下へと出る。
客室の扉が見え、幾つかは開き、幾つかは閉じているのが視得た。

宇津木 紫音 > 「それじゃ、お疲れ様。
 お父様には心配はいらないと伝えて頂けるかしら。
 むしろ、お父様の口から失言が出ないか、常に見張っておいて頂ける?」

本土からの電話。
政治に携わる父の代わりに、秘書が近況報告を聞きに時々電話をくれる。
……のは建前で。
何かしらの判断が求められる際にアドバイスを求めてくることが大半だ。
溜息をついて携帯電話を閉じる女。

「くだらない。」

有力者二人のどちらかにつく。それは逆に言えばどちらかを捨てるということ。それがやはり怖くてなかなかできないらしい。
ため息交じりに吐き捨てながら、まだ明るい渋谷を歩く。
今日もまた、不思議な能力者や可愛い女の子を探して…………。

おや。

ホテルにするりと小柄な女の子が入っていくのが見える。


「こんなところに一人だと危ないでしょう。
 これはそのままにはしておけない。」

自分でもあまりの棒読みに笑ってしまいながら、その後ろを追いかけるように廃ホテルへと入っていく女。

1階に入ったころには、少女が2階に上がっていくのが見えて。
声はかけない。

少女からすれば、1階の扉が手動でまた開かれた音だけは感じるかもしれない。

九重九十九 > 何か、音がしたような気がした。
はて、と自分が上がって来た階段を振り返るけれど、音はそれきりなものだから
わたしは気のせいかと思ってそれきりにし、2Fの観察へと戻るものとする。

一番手近な客室の扉。これには鍵がかかっている。
2番目の客室の扉。ドアノブ付近が歪み、破壊され、半開きとなっている。

「荒っぽい人も居るものだね。どれ中は……」

室内は清掃すれば今にも普通に営業出来そうな調度だった。
そう広くはないけれど、洋風の室内にはベッドがあって、ドアを破壊した誰かが楽しんだ跡がある。
少し、異臭もした。まったくこれだからと嘆息をし、部屋から廊下へと戻ろう。

宇津木 紫音 > 2階からは扉が開くような音がしたり、足音がしたり。
ああ、怖いもの見たさでやってきたんだろうな、なんて思いをはせる。

夜ではないのは、完全な冒険心だからか、夜に来るには流石に怖すぎたからか。
そんな可愛らしい理由を想定しながら、ゆっくりと近づく。

悲鳴でもあげられたら都合が悪い。
………凄い悪い字面になるが、怯えさせるつもりは今のところはない、というだけ。


こつり、こつり、こつり、と足音を響かせて階段を昇れば、いかにも廃墟………と呼ぶにはまだしっかりとしたホテル。

買い取りでもしたら面白い使い方ができるかしら。

破天荒なことを考えつつ、少女を追いかける。
今度こそ、足音が聞こえるだろう。

振り向けば、ゆらりと長い髪をした女が、じ、っと見つめて。
視線が合えば、にこりと微笑む。

九重九十九 > 「それにしても……どうして一つ目の部屋に入らなかったんだろう。気まぐれかな?」

判然としないまま、廊下に掛けられた館内の見取り図を視る。
2Fから5Fまでは全室洋室で、6Fから8Fが和室。9Fから10Fは展望レストランであったり、大浴場であったらしい。
となると、導線的には和室辺りでどうこう、の方が盛り上がりそう。

「……はへ?」

廊下でそんな事を考えていたら足音がして、あれ、と思って顔を向けたら誰かが居る。
なんで?
そんな当惑がわたしの口から零れる。

背の高い黒髪の女。いや、少女と言ってもいいくらい。
きちんとした身形をして、少なくともドアノブを力任せに破壊するような輩には見えない。
緩やかに笑んだ様相は、こんな場所で無ければ、多分好ましく映るんじゃなかろうか──
いや観察している場合じゃないぞ、全くもって予定外じゃないか。

「こ、こんにちは……きみも肝試しに?」

けれど、都合がいい。きっと肝試しに訪れたのだろうしお一人様ご案内と行こう。
先ずは挨拶からだよね。

宇津木 紫音 > 突然の言葉に笑ってしまう。
ああ、なるほど、彼女は肝試しに来たのか。

「貴方は肝試しに来たのです? まだ明るい時間ですが。
 ああ、でもそうですね、私も肝試しかもしれません。
 ついつい、このような廃墟に入っていく姿をお見掛けしたので、興味本位で。」

微笑みながら、小柄な少女を見下ろす。

「大体、興味本位で廃墟に入るなんて、ホラーのありふれた展開ですから。
 私は宇津木紫音。 ……この学園の一年ですわ?」

丁寧にごあいさつをしながら、微笑みかけ。

「……まだ、上も見られるご予定で?」

九重九十九 > 「うん。ほら、SNSとかで少し噂になっているだろう?
 理由不明の謎の閉館。みたいな奴。そういうの、気になってしまって……
 って、入っていく所を見ていたのかい?困ったなあ、風紀の人には内緒にしておくれよ」

見上げながらに困った様に頬を掻く。即通報はせずに案じて後を追うところからして、
彼女は善性の人間で、尚且つ言葉の彼処に怪談に対する知見を窺わせる。

──驚かし甲斐がありそうじゃないか。

「あ、そうなんだ。わたしも一年生で、九重九十九っていうんだ。よろしくね、紫音くん」
 うん、まだ上も見ていこうかなって。ほら、この見取り図を見てみなよ。
 一先ず2Fと3Fはシングル用の洋室っぽい間取りだろう?だから、次は4F辺りを見てみようかなと」

言葉を連ねながらに考える。
導線としては──そうだね。
二人で廃ホテルを歩き、ポルターガイスト現象を用いて恐怖を煽る。
頃合いを見て白い手を使って彼女を掴み、気絶させるなりして、建物の入口に運ぶ。
うん、良いんじゃなかろうか。単純だけど、物事は得てしてそうした方がいい。
下手に手の込んだ真似をして、ロケット砲を担いだマッチョが出てきたり
鍵のかかった鉄扉を蹴り飛ばして破壊する炎の魔人が出てきたら大ごとだもの。
きちんとしたプランが練れるわたし偉いぞ、つづらちゃんポイント+1。

「紫音くんは希望とか、あるのかな」

それとなく隣に移動し、親しみを演出しながら訊ねもしよう。
……首尾よく行った後に、今後学園で出会った時のことも考えないとだけど、
それはまあ、一先ず置いておこうかな。

宇津木 紫音 > 「九十九さんですね、よろしくお願いいたします。
 ………確かに、ここまでそろえて、備品も引き上げずに閉館となると不思議ですね。
 まあ、立地的に犯罪の温床になると踏んだ可能性もありますし、むしろ犯罪の温床として作った可能性もありますけれど。」

閉館に関して少しだけ考えながら言葉を紡いで。
名乗る相手の手を取り、手の甲にキスを一つ。
さも当然のようにそんなことをしながら、見取り図に視線を映して。

「そうですね、階段だけで上がっていくとなると、上層部は人が立ち入ったことがあまりなさそうです。
 たまり場にするなら、ここか3階がいいところでしょうし。」

「であるなら、6階の和室などはどうでしょう。 人は立ち入ったことがなさそうですよ。」

微笑みながら、あえてホラー要素が強い場所を提案してみる。

九重九十九 > 「うん、そうなんだよね。エントランスにはまだ使えそうな椅子とかテーブルがそのままだし
 今、一部屋見たけれど掃除さえすれば立派に使えそうな内装のままだったんだ。
 立地的には……わたしは霊障とかを考えるけれど、紫音くんはリアリストなんだね──」

聡明な面差しで思案する紫音くん。
怪奇現象よりも現実的な理由を思案する様は、怪談の登場人物に相応しいものでついつい唇だって緩んじゃう。

「ひゃ」

彼女がわたしの手をとって、さも自然にキスをすると驚いて緩んだ言葉も出ちゃうけれど。
なんだか、ちょっと、妙な子だなあ。
慌てて手を引っ込めて、甲を摩りながらそんなことを思う。

「気障だなあ……ええと、そう?じゃあ6Fに行ってみようか。
 ふふふ、どうなっているか楽しみだね」

袖の隙間から、さも当然と懐中電灯を取り出して踊り場へと戻る。
3Fへ出る扉をスルーして4Fへと上がり際──異能を用いて3Fの扉を、鳴らす。

九重九十九 > だん
九重九十九 > それは恰も3F側から誰かが乱暴に叩いたような音。
通常、常人ならば足を止めて振り返るに相応しい音。
だから、わたしは足を止めて振り返って、次に紫音くんの顔を視る。

「……今の音、聴いた?」

宇津木 紫音 > 「これだけのホテルを建てる人間です。命よりも金を優先するような人間もいるでしょう。
 そして、命令されたものが残らず逃げ散るほどの霊障なら、もう私たちは無事ではいないでしょう。」

冷静な意見を述べながら、階段を歩く。
歩いて、歩いて。


「………。」

明かな音に、ぴくりと身体を揺らし。

「………たまり場になっている、が現在進行形ですかね。
 出くわしても面白くありません、早めに上がるとしましょうか。」

頭の髄までリアリストな意見を口にしながら、そっとその手をとって上に上がる。
そう簡単には出られない上層へ。

九重九十九 > 「でもそれ程の被害が出ていた。として、まるきり噂にならないのは不思議な所じゃない?」

実際、実害めいた噂は何一つ出ていない。ただただ、急に閉館してしまったことだけが不思議めいている。
どうしてそうなったのかは、わたしの与り知るところじゃあない。
改めて考えると結構怖い気がしなくもないけど、紫音くんの語調は頼もしく聴こえる。
うん、怪談の主人公的じゃないか。

「えっ」

ポルターガイスト現象に対する対応もまたその通り。
けれども音の出所を現実的なものだと判断されたのは予想外で、
手を握られて上階へと向かわれたのも予想外。
これまた存外、頼もしい腕力に引かれてわたし達は階段を駆け上がる。

「へひ……ち、ちょっとまって」

気が付けば6Fどころか8Fで、急に走ったものだからわたしの息が途切れかかる。
3Fから8Fまでで何故と思うなかれ、わたしは大層運動音痴なのだった。

「お、追っかけて来る気配はないよう。も、もう良いんじゃないかな……」

大きく深呼吸をすると埃っぽい空気が満ちて数度咳き込む。
電灯で暗い周囲を照らすと、成程此処までは誰かが来た痕跡は見当たらない。

「帰りはそっと歩くとして……どうする?8Fをみていく?
 一応此処も和室階だそうだけど」

宇津木 紫音 > 「そうですね。……この辺りなら、大きな音を出しても誰も来ませんね。」

ぜいぜい言っている少女を前に、安心ですね、みたいな口調でそんなことを言う。
その言葉が少しだけ変質していることに気が付くかどうか。

「まあ、少しばかり見ていきましょうか。
 ここまで来ておいてUターンもバカバカしいですし。
 この部屋、開いているみたいですよ。」

扉を開きながら、九十九の背中をぽんぽんと叩く。
ぜいぜいとしている少女を気遣いながら扉を開いて。

ぱたん、と閉じて室内へ。

「………埃っぽいところはありますが、まあ、普通の和室には見えますね。」

入ってすぐのところで周囲を確認する女。

九重九十九 > 「うん、それだけに性質の悪い誰かが根城にしていたり、なんてありそうに思うけど
 この様子じゃそれもなさそうだね」

ごほごほと咳き込みながらに安全性に同意する。
大きな音を出しても良いのなら、ポルターガイストの起こし甲斐もあるってものだ。
……わたしを気遣って、背を摩るようにしてくれる彼女を驚かすのは、ちょっと悪い気もするんだけど。
それはそれ、これはこれ。頑張って存在強度を上げなければ!

「紫音くんは勇敢だなあ。怖くない?」

それからのこと。
颯爽と8Fの廊下に出て、颯爽と部屋へ至る扉を開ける様に感嘆とも呆れともつかない声。
映画であるなら、一番最初に死ぬ役のような動きに表情だってそうなろうもの。

「部屋は……そうだね。洋室とは違って玄関があって、靴箱があって。
 あの扉は多分洗面所。奥の襖は……うん、居室だね」

とはいえ、玄関で周囲を確認する彼女に先立って居室に続く襖を開けるわたしも中々のものだ。
開けた先にはそれなりに広い畳部屋があり、卓袱台が鎮座している。
洋室同様、きちんと掃除をすればきちんと使えそうな内装が整っている。

その時、廊下側から部屋の扉をノックする音がした。
勿論、わたしがポルターガイスト現象で鳴らしている音だ。

「…………」

わざとらしく動きを止めてから、扉を視るぞ。つづらちゃん迫真の演技!

宇津木 紫音 > かちゃり、と鍵をかけた。
宇津木 紫音 > 「はい、これで安全ですね。 後は飽きて帰ってくれるのを待ちましょうか。」

微笑みながら、リアリストの極みの笑顔で部屋の中に入ってくる女。
ノックが何度鳴り響いても、うるさいな、くらいの顔しかしない彼女は、ちょっとオカシイことがそろそろ分かるかもしれない。

「勇敢ではないですよ、優先度の違いというものです。」

そこで改めて、説明と呼ぶにはよく分からない説明を加える女。
洗面所を見れば、トイレと一体型のお風呂もあることを確認して。

「水だけはなぜか生きているんですね。
 電気が無いので、お湯にはできそうにありませんが。」

こういうホラーでは最も危険ともいえる洗面所に入って水道を捻って、水が出ることを確認する女。

九重九十九 > 「………………」

あれ?今のは悲鳴をあげるとか、驚いて尻餅を搗くとか、そういう所じゃない?
凄く冷静に鍵をかけて平然と笑うところではなくない?
背後では、わたしの異能が扉をどんどんとノックし続ける。
それでも彼女は日常の一端であるかのように振る舞う。

わたしは、固まったまま紫音くんの言葉を聞く。

「……優先度?」

臆する様子を見せる事無く洗面所へ至る扉を開ける、その後姿へと続く。
シャワーカーテンを開け、浴槽の蛇口をひねる様に首を傾げよう。
なんだか、まるで、下見をしているかのような……。

扉をノックする音は何時しか止んでいて、室内には水の流れる音だけが平坦にある。

「……ところで紫音くん。ホラーとかだとさ、実は同行していた相手が……
 みたいなことってあるだろう。もし、わたしがそうだとしたらさ、きみはどうする?」

問いながら、居室側のほうで物音を鳴らす。
押入れが内側にしまわれた布団で倒壊した音さ。
まるで、布団が生物のように振舞わないとありえない怪現象。
そして折悪く重なるわたしの冗談のような言葉!
流石の彼女も、これには平然としてはいられないだろう!……たぶん。

宇津木 紫音 > 「ええ、優先度。 例えばお腹がとても空いてしまっていて辛い時に、添加物やらカロリーを気にする人はおりません。」

それだけ。具体的なことは口にはしない。

「そうですね。」

水をきゅ、っと捻りながら、後ろ姿だけで言葉を返す。
長い髪を少しだけゆらして、振り向かない。

「………肝試しに来たのですから、それはむしろ僥倖では?
 脅かして頂けるのでしょう。」

どさり、どさりと落ちる音。
成程霊障。ここには霊障があるらしい。
霊障の存在を確認しながらも、彼女の目的はブレることはない。


「……ところで九十九さん。 ホラーといえば様々なホラーがありますね。
 霊障ホラーと共に人気なのがサスペンスホラーですね。」

「実は同行していた相手が……みたいなことってありますよね。」


振り向かない。

九重九十九 > 「………?そりゃあ、そうだね、うん」

紫音くんの言葉は具体的なようで、少しあやふやだ。
安全の話かと思ったけれど、何かがズレているような。

「いやいや、紫音くん。そこは冗談……なんだからさ」

振り向かない彼女の言葉はズレている。
わたしの冗談に対する言葉として、明確に。
一歩、後退る。
居室からの物音にも一切反応しない、もしかして、全て気付いているのだろうか。
──まさか。

「サスペンス系は、あれだよね。
 幽霊よりも生きた人間が恐怖を撒き散らす部類。
 憑依系あり、薬物系あり、生来のサイコ系あり……」

人間を一所に集めて怪奇現象を起こし、慌てふためく様を眺めたことがある。
その時に、ただ一人だけ平然として、これ幸いと他者に踏み込んだ誰かを視たことがある。
理外の存在にわたしは恐怖して、その場を後にしてしまったことがある。
─まさか。

「や、やだなあ紫音くん。仕返しかい?わたしのはちょっとした冗談だよう。
 ほ、ほら、そろそろ帰ろうか。何かあってからじゃ遅いよ……」

愛とか友情とか信頼とか努力とか筋肉に負け、最近では理外のジャンル違いにも負けた。
今回はまさかのVSモノであったか。などとは思いたくない。
帰ろう。うん、それがいい。冷静な判断が出来てわたし偉い。つづらちゃんポイント+1。

宇津木 紫音 > 「ふふ、私もサスペンスなんて冗談ですよ。 そしてちょっとした仕返しです。」

にこりと微笑みながら振り向いて、そのまま洗面所から出てくる。
位置関係的に、入り口を背にして九十九に向かい合いながら。

「ですけれど。」

「私、貴方が可愛いなあ、なんて思っていまして。
 ちょっとゆっくり、お話なんてどうでしょうか。」

一歩二歩三歩、にじり寄るというより普通に歩み寄って、相手を壁に追いやる。

「姿勢が悪いようですね。 この距離感だとちょっと視線が合わない。
 もっと背筋を伸ばして、こちらを見上げてくださいな。」

顎をくい、っと持って、そっと持ち上げ、ゆっくりと体を近づければ身長差のためか、胸がぱふり、と上下に重なるくらいの距離に。

九重九十九 > 杞憂だった。
紫音くんは性質の悪い冗談を返しただけだった。

「なあんだ……びっくりしたなあ。ふふふ、紫音くんたら雰囲気作りが上手なんだから。
 でも、この建物。何かありそうだしさ……ん?」

でも、何処か得体のしれないものを感じる。
君子危うきに近寄らずとは人間の言。
いや、でもわたしが怪異側なのに何だかおかしくない?
心裡で首を傾げ、そうしている間に紫音くんが、近い。

「ひへっ。え、え?なんで?今そういうタイミングだったかい?」

壁を背に、おずおずと見上げる。
可愛いと言われたのは、それはそれとして嬉しいかもしれないけれど
今言うにはやっぱり何処か、ズレている。
だから視線もズレていて、それを咎められてしまって背を反らす。

「ちょ、近い近い近い!お話するなら、すこし離れてもいいんじゃないかなあ!」

意識こそしていなかったけれど、今だ夏の残滓を色濃く残す常世島は暑い。
空調なんかある筈も無い廃ホテル内はそれなりに熱が籠っていて、
身体が重なるならば更なりと云うもの。
一先ず彼女の体を押し退けようと手だって伸ばすし、口だって動かすんだ。

宇津木 紫音 > 「私がそうだと思ったら、タイミングなんです。
 自分が信じなくて、どうしてそのタイミングが作れましょうか。」

言葉で圧を加えて。背を逸らすのなら、あら可愛い、と頭を優しく撫でてあげて。

「私がこの距離がいいと思ったのです。
 それとも、何か"それではいけない"理由があるのでしょうか。
 私の行動を遮る、ということでしょうか。」

言葉で圧を加えて。

「それならば、別の場所にご案内しましょうか。 それならば、いいですね?」

微笑みで圧を加えて。

「いいですね。」

ピュアな狂気を湛えた瞳で相手を見つめて、圧を加えて。


その圧に耐えきれるかどうかは、彼女次第で。

九重九十九 > ──本当に怖いのは人間である。
ご案内:「元・ホテル」から九重九十九さんが去りました。
ご案内:「元・ホテル」から宇津木 紫音さんが去りました。
ご案内:「常世ディスティニーランド」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「常世ディスティニーランド」に伊都波 凛霞さんが現れました。
ご案内:「常世ディスティニーランド」に園刃 華霧さんが現れました。
レイチェル >  
ここは、常世ディスティニーランド。
学生達の夢の町である。
学生街からの専用バスに少しばかり揺られていれば、ここに辿り着くことができる。

「よっしゃー、やっと着いたぜー! せっかくだからじゃんじゃん遊ぼーな!」

黒のワンピースに茶色のジャケットをラフに羽織ったレイチェルは、
元気よく腕を天へと伸ばしてそう高らかに宣言する。
涼しげに吹く風が、金の髪を揺らしていた。

久々のオフ、そして久々の遊び場である。
普段よりずっと、テンションは高いようだった。

入り口からすぐの、運命のバザール。
様々なお土産品店やレストランが並ぶエリアを通り抜けながら。

「何処行こっかなぁ~?」

紙製のマップを開いて、そう二人に問いかけるレイチェル。
彼女の耳はちょっとピンと立っていて、少し揺れている。

伊都波 凛霞 >  
「いえーい♪」

レイチェルが腕を天に伸ばすのに合わせて、凛霞も拳を突き上げる
お出かけコーデに身を包んだ凛霞は普段よりもやや柔らかな印象
トレードマークのポニーテールはそのままに、リボンなんかは明るい色を選んで、休日を満喫する気マンマンである

「ふふ、時間はたっぷりあるから迷っちゃいますよね」

人気のあるアトラクションはやっぱり待ち時間あるのかなー?
なんて思いながら、横からマップを覗き込み、隣を歩いて

園刃 華霧 >  
「……ァー」

楽しみのはずだけれど、微妙にテンションがまだ上がらない。
ちょっと今日は格好が落ち着かない。

そんな自分は
黒のキャスケット、ワインレッドのワンピース。
さらにダークネイビーのカーディガンを羽織って、手には軽く片手で抱えられる程度のポーチ。

制服からガラリと変わった格好である。
戻して……アタシの制服……落ち着かない……


「うん、いくゾー」

微妙に格好に引っ張られたのか、まだおとなしめであった。

レイチェル >  
「そうだなー、時間はたっぷりあるもんな!
 絶叫系とかいけるか?
 このスペースエリアの……『大気圏突破ローラーコースター』とか、
 絶対すげーだろこれ! オレ、行ってみてーなー」

『大気圏突破ローラーコースター』。
スペースシャトル型ジェットコースターで、
大気圏突破とトラブルをイメージしたアトラクションなのだとか。
なんとも豪快である。

遊園地に来るのが初めてのレイチェルは、ウキウキ気分で笑顔を
振りまきながら、二人に目をやる。

「しかしまぁ、制服脱ぐとオフって感じがするよなー。
 凛霞のコーデすげー似合ってるし、華霧もすげー可愛いよ」

凛霞のコーデは、いかにもお出かけ用といった感じで素敵だ。
華霧は……本人としては気に入っていないのだろうか。
少なくとも、そわそわしている感じがする。
まぁ、制服以外着てるの見たことないもんな、と。
ちょっと納得。それでも。

――可愛いんだけどな。

ちょっと困ったようにレイチェルは笑う。

伊都波 凛霞 >  
「ふふ、レイチェルさんもやっぱり制服姿とは印象違いますよねー」

温泉のときも思ったけどー、と笑う

さて、対してかぎりんのテンションはやや上がりきらない様子
落ち着かない様子からすると、場所のせいかそれとも服装のせいか

「かぎりんの制服以外の格好ってほとんどみないもんねえ…可愛いのでまず一枚!」

スマホを取り出して、レイチェルとのツーショットでパシャリ
今日はたくさん、楽しい記録を残すのだ

「あ、開幕から絶叫系いっちゃいます?名前からして凄そう~、いってみよ!」

園刃 華霧 >  
「この手ノとこハ、初めテだかラなー……」

一応、予備知識は持っているが……何しろ実地経験は皆無。
何が自分の性に合っているかも、ハッキリとはわからない。


「絶叫系? まァ、とリあえズ、行ってミればワカるかナ?
 アタシは、なンかこのパニック……なんとか?が気にナるカなー」

いわゆるお化け屋敷系のアレであった。

「ん、ヤ……うん……ちょっト、落ち着カなイんダけどナ……
 制服以外着るの、この間のバニーとかミたいナの以外じゃほボ初めてダし……」

気に入らない、というより落ち着かない。
いつもと違う感じ、という違和感はなかなか拭えないのだ。

「ァ、別に楽しくナイわけじゃナいぞ?」

あ、ちょっとしまったかな?と思い返し、にっこり写真に写る

レイチェル >  
「ったりめーだ! 開幕から全力で楽しんでいくぜ」

凛霞の問いかけには、そう答えて元気よく拳を握って戦いを前にするような、
不敵な笑みを見せるレイチェル。
せっかくお洒落なコーデをしているのだが、やはり中身はレイチェルであった。
遊園地は、戦いではないのだが。

そうしてツーショットを撮られれば、目を丸くする。
何だかちょっと恥ずかしいけれど、嬉しかった。
レイチェルも手元のスマホを取り出せば、華霧と凛霞をお返しと
ばかりにツーショットでぱちり。
そうして、へへっと笑って見せる。

「華霧も初めてなんだな、オレも初めてだよ。
 色々調べて知識は、一応あるんだけどなー。
 凛霞は結構こういう所慣れてそうだよな」

華霧の呟きにそう返しつつ、歩を進めていく。

「パニック……? ああ、このパニックゴーストハウスな。
 へー、華霧ってこういうホラー系好きなの?」

マップを開きながら歩いていけば、
『大気圏突破ローラーコースター』には、すぐにたどり着いた。
大した待ち時間もなく、すぐにスペースシャトル型コースターに
乗り込むことができるだろう。

伊都波 凛霞 >  
「あっ!ちょっと待って今半眼だった!たぶん!」

まさかのカウンターに慌てる
ぐぬぬ、意外とエンジョイパワーが溢れているぞこの先輩
そしてかぎりんからバニーの言葉が出る
そういえば、ゆっきーからなんか画像届いてたなあ、なんて

「へー、パニックゴーストハウス…?」

あ、これお化け屋敷的なヤツだ…
頬に汗しっとり
実は結構苦手、でも3人で入れるなら大丈夫…か…?

さて、到着してみれば幸い待ち時間もないようで、さっそく3人は乗り込むことができるのだろう

「早い時間だと案外混んでないのかもしれないですね」

ちょっとわくわく。絶叫系は実は結構すき

園刃 華霧 >  
「はー……」

思わず、見上げる。『大気圏突破ローラーコースター』とやら。
なんか、なんだ?
知ってはいたが、実物はもっとなんだろう、こう。
すごい。

「ンで、これ、乗るノ?うン。
 え、ナに? バーを、下ろス?」

完全にお上りさん状態で人形のように言われるままに、
ちょこん、と席に座る。

「アー、やッパ混むモんナんだナー。
 へー……」

動き出すまでの間、きょろきょろと周りを見回す。
やはりオノボリさん状態だ。

レイチェル >  
歩きながら頭に浮かべていたのはゆっきーから送られてきた
華霧のバニー姿だった。
どうしてああなったんだろう、と色々ぐるぐる頭に浮かべながら
何となく聞くことができなかった。
また機会を改めて聞こうか、などと思いつつ。

とにかく今は、遊園地だ!

「まー、華霧も楽しんでくれてるなら良かったよ」

気を遣わせてしまったかな、とちょっと申し訳なく思いつつ
柳眉を下げて笑うレイチェルであった。

「へへっ、良いじゃねぇかこれから沢山撮るんだから」

半眼写真に慌てる凛霞に悪戯っぽく返すレイチェル。
写真に対する反応一つとっても可愛らしさに溢れる後輩。
男子達に人気なのも頷ける話だ。



さて。『大気圏突破ローラーコースター』だ。
バーを下ろして、3人横並びになってシートに座る。
眼前に広がるのは、見るからに激しい動きをすることが
予想されるレールだ。天に登る直線レールやら、ぐるぐると
捻りながら進むレールやら。

「……なんかちょっと緊張してきた」

口元をきゅっと結びながら、しっかりとバーを掴むレイチェル。
そうして、コースターは動き出した……!

少しばかりの緩やかな上昇を続けた後、コースターは風を切り、
唸りを挙げながら上へ下へと暴れまわる。

「ちょ、待て! 捻りはなし! 捻りはなし!!!」

ただ落ちるくらいなら、経験がない訳ではない。
風紀活動の中で、高層ビルから飛び降りたことだってある。
でも。
でも。
捻りはなしだ。自分の意志と関係なく、右へ左へぐるぐると回るその感覚。
思わず小さく「ひっ」と悲鳴をあげてしまうレイチェルであった。
二人に聞かれてなかっただろうな、と目を丸くしつつ。
ちょっと耳まで赤い。

伊都波 凛霞 >  
カタカタと音を立てて登ってゆく

「この瞬間が一番どきどきするよねー」

わくわく、隣に視線を向けてみると
ほんの少し緊張した面持ちの先輩が見える
遊園地は初めてだって言っていたし、無理もないなーと表情を綻ばせる

さて、頂点に辿り着けば…あとは落ちてゆく

「うひゃーっ♡」

楽しげな黄色い悲鳴をあげる凛霞

ぎゅんぎゅんとうねるレールを超高速で駆け抜けてゆく

きゃーきゃー言いつつ、ちらりと様子を伺ってみると…
あ、それなりにガチの反応してる……かわいい

そして超スピードで右へ左へと駆け抜ける中で…
一番ヤバいポイントで笑顔と共にピースサイン、そう…アトラクション中の写真が撮影されることは予想済みである

園刃 華霧 >  
「おット」

がたん、と乗り物が動き出す。
うん、なんか上にゆっくり登っていく……
こっからものすごく動き出すんだっけ?

と、思う間に

ゴォッ

風を切る音とともに走り出す。
おー、すごい

宙を駆け降りた時以来かもしれない、この感覚


「ひゃっほおおおおおお!!」

思わず歓声をあげる。
なるほど、これは確かに楽しい!


「ぅん?」

なんか隣で小さな悲鳴が聞こえたな?
そっかー…そっかー……?

ちょっと別種の笑みも浮かんでいた。

レイチェル >  
さて、『大気圏突破ローラーコースター』を乗り終えた後。
出口で写真が売られていた。
そこに映っていたのは見事にピースサインを決めている凛霞と、
楽しそうに歓声を挙げている様子の華霧、そして――がちがちに
固まって、俯きながらカメラの方へ目線を向けている
レイチェルだった。

「うわぁ……」

写真を撮られるのは聞いていない。
めちゃくちゃに恥ずかしい。
流石にこの写真は買わない。
最後の方、慣れてきてからは楽しかったのだが、
それにしてもなかなかの刺激だった。
まだ頭がくらくらする、そんな感覚がある。


さて、三者三様にコースターを楽しんだところで、
出口の先で聞こえてくるのは子どもの鳴き声だった。

見れば男の子が一人で立ち尽くしている。
親とはぐれたのだろうか、不安そうに辺りを見回している。

レイチェルはそれに気がつくと近寄って。

「なぁ、お前……」

声を、かけたのだが。

迷子の男の子 >  
「うわあああああんっ!」

レイチェルの顔を見るなり、男の子は泣き出してしまった!

周囲の学生たちが、じっとりとした目で二人を見ている……。

レイチェル >  
「……」
レイチェルはぎこちない動きで首をぎぎぎ、と動かすと
無言のまま戦友二人に助けを求めたのだった。
男の子の方を、つんと指さして。

伊都波 凛霞 >  
「○○番くださーい!」

迷うことなくクライマックス時のアトラクション写真を購入している凛霞だった
元気いっぱいである
不本意な表情で映っているのもそれはそれ、楽しい記憶の一片である

「はー、迫力満点だったねえ… …ん?」

さて写真を受け取って戻ろうとすると、子供の泣き声
声の出処は……

「どうしたんです?」

きょとんとした顔で、泣きじゃくる子供と、それを指差して固まるレイチェルの姿
早足で駆け寄って、交互に顔を見る

「どうしたのボク?なんで泣いてるのー?」

しゃがみこんで、視線の高さを合わせながら問いかける
近くに親らしい姿は…なさそう。迷子かな…なんてアタリをつけて

園刃 華霧 >  
初めての絶叫系、とやらはなかなか楽しめた。
いいね、こういうの。
楽しくなってしまう。

「エ、写真? ふーン、こンなの撮ってタのカー。
 記念だシな、買おウ。」

なんかすごい顔のチェルもいるし……いいじゃない。


「ァん……? ガキ……?」


あーもー、チェルはすぐそういうのに手を出すんだからー
……あ、泣かせた
あーあ

「しょーガないナー、チェルはー」

なんて、寄る前にリンリンがさっと向こうに行った。
やるねぇ

「どーシたー? 迷子かー?」

同じく、少し離れてしゃがみこんで様子を見る

迷子の男の子 > 凛霞が視線を合わせて対応するのなら、男の子は涙を拭って、
嗚咽混じりに話し始める。

「おかーさん、いなくなっちゃった……」

視線を合わせてくれて理由を聞いてくれる凛霞に少し安心感を
覚えたのか、ちょっと落ち着いたようだ。
しかし、まだ泣いている。

そうしてもう一人、華霧が少し距離を空けて話を聞いてくれるのなら、
もう少し穏やかな表情になって、男の子の涙は止まり始める。

「……まいごになっちゃった」

レイチェル >  
「……悪ぃ、助かった」

二人の対応のおかげで、子どもは落ち着いたようだ。
周囲の人々の目線も、いつの間にか逸れていた。

子どもを泣かせてはいけないので華霧よりも更に距離を
空けた所までととと、と離れつつ。

「二人とも、すげぇな……」

そう口にして一歩だけ、子どもへと近づく。
すると、男の子はまたぐすり、と泣き始める。

「……うう」

レイチェルは大人しく華霧の後ろへと戻ったのだった。

「なぁ、二人とも。こいつのこと、何とかしてやりてぇと
 思うんだけど……」

この場の隅っこで、レイチェルはそうして、ぽつりと呟くのだった。
今日はオフだ。風紀委員の腕章は腕にない。
それでも。

伊都波 凛霞 >  
「お母さんとはぐれちゃったんだね。大丈夫、ちゃんと会えるよー」

元気づけるような言葉を投げかけつつ、安心させるように微笑んで
涙を拭う男の子のその手をとって、立ち上がる

「不安で泣いちゃったみたいですね」

レイチェルが怖くて泣いたわけではないだろう。…たぶん
あくまで不安で泣いちゃったんだということを強調するような言葉である
…あ、でも近づいたら更に泣いた。……威圧感でもあるのかな

「迷子センターってどこだっけ。園内放送かけてもらえばすぐ見つかるんじゃないかな」

なんとかしてやりたい、と言う彼女へ、微笑む
そんなの聞かれるまでもないですよ、という意思を込めて

迷子の男の子 >  
「ほんと……? ちゃんとあえる……?」

元気づけるような言葉に曇っていた顔が少しだけ、晴れやかになった。
レイチェルのことはまだ警戒しているようであるが、
凛霞と華霧には心を許し始めているようだった。特に怯える様子はない。

園刃 華霧 >  
「やレやれ……」

肩をすくめる。
どうせそう言うだろうと思った。
チェルが言わなくてもリンリンが。
リンリンが言わなきゃどうせアタシが。

まあ、誰かが言い出してただろう。

「マ―、そレが手っ取り早ソーネ。センター、とか探さナくてモ、
 どーセその辺に、此処のスタッフ、とかガいるダろ?
 そノほーガ確実デ早くナい?」

きょろきょろと辺りを見回す。
なんなら、騒ぎにもなったしもう近くまで来てるかもしれない。


「まカせナ。そコのおねーちゃンは、お話カら飛びデたシンデレラで。
 そこのおねーちゃンは、ああ見えテ、悪者をやっつケる優しクてたのもシいおねーサんだ。
 大体のコとは、ナんとかナるサ。」

けらけらと笑う。

迷子の男の子 >  
「しんでれら!? ほんと!? 
 おねーちゃん、しんでれらさんだったの……!?」

華霧の言葉に、男の子は目を丸くして凛霞を見上げる。
そうして、ぱあっと笑顔を咲かせる。
まだまだ物語に憧れる歳だ。
華霧の優しい嘘を、男の子はきっちり信じたらしい。

「……わるものをやっつける……ひーろーのおねえちゃん……?」

そうしてレイチェルの方を見やれば、少しまだ怖そうだが、
男の子の方から少しだけ近づいた。

レイチェル >  
「……おう」

凛霞のフォローが胸に刺さる。
後輩の優しさが胸に染み込んでじくじくと痛い。
頬を掻きながら、レイチェルは力なく笑うのだった。

「……ま、その通り! オレはヒーローだ! 
 そいつの言う通りだから、任せとけ!」

びしっと、男の子には指をさしつつ。
自分で言ってめちゃくちゃ恥ずかしくなりつつ。
それでもこの嘘には乗っておいた方が良いと思ったのだった。


「迷子センター……それもいいが、確かに華霧の言う通り、
 スタッフに引き渡すってのもありか」

そうして、華霧と共にきょろきょろと周囲を見回す。
母親が近くまで来ている可能性は、ある。

しかしレイチェルの目に、母親は映らない。

伊都波 凛霞 >  
「かぎりん!?」

何を言い出したのかと思えば…ドレスもガラスの靴もないっていうのに微妙じゃ…
と思えば、男の子は満面の笑顔になっていた
……嗚呼、頭ごなしに否定できる状況じゃない

「そ、そうだよぉ…あのお姉ちゃんも、強そうに見えるからちょっと怖かったんだねえ」

男の子の手を引いて、あたりを見渡す

スタッフは…着包みや仮装でキャストとして紛れている、はず

近くにいないかな?と探してみるが…

「ね、名前は?大きな声でお母さん、探してみようか」

男の子に問いかける
大きな声で迷子の母親を探せば、スタッフがいたら気付いてくれる可能性も高まる

「お、王子様も探さなきゃいけないんだけど…先に君のお母さんを探そう!」

れん >  
「ぼくは……れんっていうの。よろしくね、しんでれらさん!」

そうして凛霞に手を引かれながら、『れん』と名乗った男の子は
歩き出す。すっかり、凛霞に懐いているようだ。
笑顔で、自分の名前を明かすのだった。

「おかーさん……!」

言われた通り、精一杯声を出して母親を呼び始める『れん』。
凛霞と共に男の子が歩いていくその最中。


人混みの中、華霧の近くで、辺りをきょろきょろと見回している女性が
見えたことだろうか。

園刃 華霧 >  
「ひひひ、御伽話の世界ナんだロ?
 なら、アタシらも御伽噺にならナいとナ?」

抗議の声を上げるリンリンに笑って返す。
実際、効果はあったのだから勝ちである。
まあ、こういう使い方ならいいだろう?

で、ついでに自分ももう一回、周りを見回す。

「ンー……?」

おっと、なんか探しものしてるっぽい人間発見。


「おーイ、シンデレラ。
 こっち……ってーカ、アッチ!」

アレじゃない?と指差し確認指示。
ついでに、チェルにも見えるように。

レイチェル >  
「……おっ? ありゃ、母親かもな」

華霧の指示を受けてレイチェルがそちらを見やれば、
確かに周囲を見渡している母親らしき女性が居た。
母親は気付いていないようで、
このままではこの場を通り過ぎていってしまう。
レイチェルは、動いた。足早に女性に近寄って、声をかける。

「あのー……男の子が迷子になってて……もしかして、
 あんた探してない?」

レイチェルはそう口にして凛霞と手を繋いでいる男の子を
指さす。

『れん君……!』

女性は頭を頭をぺこりと下げると、凛霞と『れん』の方へと
駆け寄っていく。


「……さんきゅー、華霧。お前が言ってくれなきゃ気付かなかった」

そう口にしてレイチェルは華霧に、にっと微笑みかけた。

れん >  
「あ、おかーさん……!」

凛霞に手を引かれていた男の子は、視界の端から駆け寄ってきた
母親の方へ指をさした。


凛霞に対しても、申し訳ありませんでしたと頭を下げる母親。


「しんでれらさんが、いっしょにさがしてくれたのー!」

男の子は、満面の笑みで母親にそう告げている。

伊都波 凛霞 >  
「れん君のお母さん、いませんかー?」

うるさくない程度に声を張り上げて、少年の母親を探す
不安にならないよう、きゅっと、しっかりその手を握って…

華霧とレイチェルが母親らしき人を見つければ、
良かったと胸を撫で下ろしつつ、少年の背中にそって触れて、母親の元へいくように促して…

「良かった。れん君のお母さんですね?
 怪我なんかをしてなくって、何よりです」

安心したような笑顔で、少年の母親を迎える

シンデレラさんと呼ばれれば、あははとちょっとだけ困った笑顔になってしまうけど

「見つかって良かったね。泣かなかったし、えらい!
 君ならきっと、王子様にもヒーローにもなれるよ。れん君」

男の子の前にしゃがみこんで、頭を撫でて…あとはお母さんに任せよう
もし母親がお礼をしようとするならばそれは丁重にお断りして、二人の元へと戻ろうか

れん >  
『本当に、なんとお礼を言っていいか……』

何度もぺこぺこと頭を下げる母親。
そして、『れん』はと言えば。

「おうじさまにも……ひーろーにもなれる……? 
 ほんと……!?」

男の子は、ぱあっと再び、笑顔を咲かせる。

「じゃあぼく、かっこいいおうじさまになって、
 しんでれらさんとけっこん、する!」

男の子は無邪気に笑って、バンザイの形で両手をあげるのだった。
こらこら、と母親に宥められつつ、人混みを抜けて去っていく。


その去り際に、近場に居た華霧にも、母親は
『本当に、ありがとうございました』と、深々と頭を下げて
去っていくことだろう。
『れん』もまた、「ありがとー!」と、華霧とレイチェルに手を振るのだった。

園刃 華霧 >  
子どもが母親の手に渡るのを確認する。
問題なさそうだな・

「じゃーナ、れんくん。
 今度ハ手ェ離すンじゃナいぞー?」

ばいばい、と手をふる。
最小限の動きで最大限の成果を得たので満足である。

そして、さん人集まれば……

「ほイほい、と解決解決。」

にしし、と歯を見せて笑う。

レイチェル >  
「いやー、ほんとオレだけじゃどうしようもなかったぜ……
 助かった」

目の前の二人は、自分が男の子を助けようと言い出さずとも、
きっと動いていただろう。そういう奴らだ。
だから、ありがとうは言わない。
そして、そんな関係だからこそ、
一緒に居るのが心地良いのだと、レイチェルは改めて感じていた。


「さて! 気を取り直して、ディスティニーを満喫するぜ!」

ぐっと拳を握るレイチェルは、マップを広げて場所を確認する。
ふむ、と少しばかり静止した後。

「ここからだとパニックゴーストハウスは近いな。
 せっかくだ、行ってみるかー!」

華霧が行きたいと言っていた、パニックゴーストハウス。
最近出来たばかりのアトラクションらしい。

少しすれば、辿り着く。

見た目は洋館で、おどろおどろしい雰囲気の佇まいだ。
紫色のライトに照らし出されたその建物の周囲には、
暗い顔をしてにこりとも笑わない執事服のスタッフ達が控えている。

行列は……あまり多くはないようだ。


「ははー、結構雰囲気あるなここ」

建物を見上げて、感嘆の声を漏らす。
恐怖は感じない。元より、悪霊退治だって幾らでもやってきているのだから、
作り物の悪霊に恐怖など感じることはない。
だから、余裕の表情でにこやかに二人へ声をかける。

「じゃ、いこーぜ!」

伊都波 凛霞 >  
ばいばーい、と男の子に笑顔で手を振り返して…二人の元へ

「かーぎーりーん!」

とつとつな無茶振りに、笑いながら肩をがくんがくん
まったく、アドリブは苦手なのに
でも結果として男の子は笑顔になったのだから…まぁ、いいか…

さて、気を取り直して…とランド散策の続き

おー!とレイチェルに乗るようにして次の行き先は……

「………」

ごくり

ああ、ものすごくなんというか、物々しいというか、わかりやすい……

「ちょ、ちょっと待ってね。まだ、こ、心の準備が……」

笑顔を取り繕ってはいるが、明らかにこう…ビビっている

園刃 華霧 >  
「わぶっ、わぶぶぶ」

がっくんがっくん
ゆれるゆれる、まって、やばいきつい
くびがもげる

……どうにかもげる前に助かった


「おー、なンか雰囲気ある?っていウのかナ?」


あれ?
リンリンが怯えてるように見える、けど……
気の所為、かな……?

場内音声 >  
「ようこそ、呪われた屋敷へ。この屋敷では過去に何人もの人間が
 息絶え、今も亡霊となって彷徨っている……。
 地獄と繋がった、悪霊の屋敷だ。入ったらもう、二度と出られない
 ……」

不気味な音声が鳴り響けば、入ってすぐの所にあった大きな鏡に
三人が映っている。

鏡の中の三人の後ろに、憎悪に満ちた表情の、腐り果てた死体が
現れて首元に腕を回そうとしているリアルな映像が映し出される。

レイチェル >  
「……へぇ」

不気味な声を耳にしながら、辺りを見回す。
装飾から何から、非常に凝っていて、本物の屋敷みたいだ。

そして、目の前に現れた巨大な鏡。
その鏡に映し出されたのは、三体のゾンビだ。

――なるほど、凝ってんな。

感心しながら、レイチェルは余裕の表情で立っている。
こんなもので驚くレイチェルではない。
捻りではビビってたが。

伊都波 凛霞 >  
ガシッ!!
ガッ!!!

鏡に映し出されたそれが出た瞬間、
右の手でレイチェルの左手を
左の手で華霧の右手を
それぞれ凄まじい速度で、捕まえて、握りしめる

「──………」

目を見開いて、鏡の中姿に釘付けになっている凛霞
二人の手を捕まえているその両手が小刻みにに震えている…

「て、て、手を繋いで、進もうね……!!
 暗いと あぶないかも しれない し…!!」

迫真のテンション

園刃 華霧 >  
「ン―…」

なるほど、こういう感じか。
あ、ゾンビ出てきた。

……違反部活のイカレ野郎のほうが怖い気がするな?

まあ適度に面白いから……

ガッ!!!

え?
なんか掴まれた。
思わずビクッとする。
何、この迫力
リンリンが怖い