「次は遠峯君、か。
今日は受講してくれて有難う。デッサンは初めてであるかな。
嬉しいな、君のような子を待っていたよ。
さておき、講評に移ろう。
まずいちばん大事であるのは、君が時間内に描き上げたことだ。
『絵を描く』だけの三時間というのは、なかなか難しいものだったろう。
最後に差し迫ることもなく、落ち着いたペースが印象的だった。
それからもうひとつ、きちんと収めてくれたもの。そう、構図だ。
これだけの大きさの紙の上では妙に小さく縮こまってしまったり、
変なところが見切れて、落ち着かない絵になってしまったりする。
それらがなく、安定して見られる絵になった。
それで、彼女が試行錯誤していた質感について。
いずれのモチーフも、よく見て描こうとしていることが伺える。
特にケトル、光の描き込みに金属の硬さがよく出ているな。
このように、絵の中に『いちばん見せたい主役』のあることが重要なんだ。
このケトルと同じくらいに他を描き込みながら、
ケトルを引き立てるように抑える。
そうすると、絵の質が全体的に上がってくる。
時間とともに、配分の難しいところではあるな。
いかがだったかな。よい刺激になったろうか?
楽しめてもらえたならば、ヨキにとっても有難いことだ。
以上。お疲れ様、遠峯君」