2026/02/17 のログ
ご案内:「接触-商店街にて-」に牛丸 瑞璃さんが現れました。
ご案内:「接触-商店街にて-」にカタストロアさんが現れました。
■四奈川 瑠夏 >
学園の期末試験が、先日終わった。
学生達は街に繰り出して、それぞれの自由を謳歌している。
デートを楽しむカップルも居れば、一人で散歩を楽しむ学生も居る。
そして勿論、友人同士で食べ歩きを楽しむ学生たちも居る。
黒髪のショートボブの制服姿の少女――四奈川 瑠夏も、
大好きな友人との食べ歩きを楽しむつもりで商店街にやって来たのだが――。
「――もー、牛丸ってば……開店したてのホラーショップを見た途端、人が変わっちゃうんだから……」
気味の悪いマスクやグロテスクなスプラッター映画のフィギュア等が
所狭しと並べられたホラーショップ、『ザ・ヘル』。
一緒にやって来た親友をそんなお店に奪われてしまった少女、四奈川 瑠夏は、近場のベンチに腰掛けていた。
「怖いの苦手じゃなければ一緒に入れたんだけどなぁ……」
そんなことを言いつつ、オモイカネを取り出してイヤホンを耳につければ、
お気に入りの流行曲を流してSNSをチェックし始めることだろう。
既に始まりだしている商店街の異変に、気づく様子もなく――。
■カタストロア >
一斉に鳩が飛び立つ。
誰かが騒がせたからではない。
何かから逃げているから。
ベンチに座る少女に声をかけるスーツの男。
周りが何かに気付く。
スーツを着て。
サングラスをかけた、緑の鱗の、男性。
「人を待っているのかな、お嬢さん」
誰も気づかなかったのか。
それは知る由もなかったから。
彼がコートを脱げば。
彼がサングラスを外せば。
彼のマズルが延びて凶悪な歯列を見せながら笑い、
彼の身長が夏の影法師のように急に伸びれば。
連日報道される甲種不明犯。
カタストロアだとようやくわかるのだから。
「そのベンチは四人掛けだね? 良ければご一緒してもいいかな」
低い声が響けば、リザードマンが舌なめずりをする。
「なに、次のバスまで時間があるんだよ」
少女を見下ろす縦に裂けた瞳。
周囲が一気に騒然となった。
■四奈川 瑠夏 >
「ふふん、ふーん♪」
迷惑にならに程度に小さな声でお気入りのアーティストの曲を口遊む。
合間合間に、近くのファストフード店で購入してきたシェイクを口に含んでは、羅列された情報を見て暇を潰す。
そして、異変は――突然に。
3口目のシェイクを口に入れたその瞬間、鳩が一斉に飛び立った。
それが始まりだった。
SNSでインフルエンサーのファッション情報を調べていた少女も、
流石にSNSをスワイプする手が止まる。
そうして。
その悍ましい姿を目に入れた彼女は、思考が完全に停止したようだ。
恐怖、焦り。現実逃避――でき、ない。
先まで手にしていたシェイクがスカートをピンク色に染めても、
そんなことは気にも留まらないのか。
ヘビに睨まれた蛙のように、強張った表情でそのリザードマンを
見上げた。
――カタストロア。
「い、嫌ああああッ!!!」
巷を騒がせる凶悪な怪人を前に、少女は叫びながらベンチを離れ、
駆け出そうとする。
しかし、小石が彼女の進行を阻んだ。
大きくバランスを崩し、そのままうつ伏せの形で倒れ込んでしまう。
「な、なななんで、そんな……本物……?
カ、カタストロアが……そんな、嘘でしょ……」
紳士的な口調と格好が、不気味さを際立たせていた。
少女には、その影を確認すべく、
振り返ることなど怖くてとてもできない。
何とかして逃げ出そうとするが、強張った身体が動かない。
彼の脅威を語る様々なSNSの情報が、ニュースが、
彼女の頭を駆け巡っていた――。
文字通りの怪物に抗える術など、彼女は一つとて持っていなかった。
周りの者達は、逃げるか、通報するか、遠巻きに息を潜めて見守るか、だ――。
■カタストロア >
躓いて倒れ込む少女に一歩だけ近づいた。
歩幅を考えればそれは急に動いたに等しいのだが。
尻尾が街路樹の表面を僅かに擦り、鱗が桜の木の表面を削り取る。
彼の尻尾には赤い樹液が滴っていた。
「そこの」
少女の足元を指差す。
人差し指には触れるものをズタズタに引き裂く鋭爪が延びている。
「いや、躓いた小石じゃあないんだ……」
「手袋が落ちている、ちょうどお嬢さんの後ろだ」
ぶち撒けられたシェイクの甘い香り。
フレイズ・パルファン。
イチゴのフレーバー。
「古くはないが、使い込まれている手袋だ」
「外に放置された感じはないから誰かが放り出したのかな?」
また一歩、近づく。
既にリザードマンの上背は230cmを超えている。
「まるでそういうオブジェかのように捨てられている」
「少し、手にとって見てもいいかな?」
笑うために口の端を持ち上げれば、濡れた牙。
「返事くらいしてくれてもいいんじゃあないかな」
■牛丸 瑞璃 >
蛙の方が、まだマシだったかもしれない。
突然現れた巨躯の怪人。
紳士的な物言い。
手袋への理解不能な執着。
それら『理解ができない』『先が見えない』ことへの恐怖が、
男の威圧感と共に、少女の身体を完全に掴んで離さずにいた。
『ひッ……!』
返事を要求されると同時に、恐怖のあまり目を瞑る、瑠夏。
カタストロアの所へ、右方向から漆黒の刃が飛来する。
黒曜石の刃――オブシディアンナイフだ。
それは彼のマズルの数センチ先を狙ったものであった。
彼が掴んだり弾いたりということをしなければ、
そのまま桜の木に突き刺さることだろうが。
続いて。
近場の店のドアが開き、頭を掻きながら登場するのは、
金髪碧眼の、人形の如き雰囲気を持つ少女だ。
「……確かに、カタストロアが出たら怖いからついてきてー、って。
言われたからついてきたけどさ……
ほんとに出るなんて……聞いてないなぁ?」
金髪の少女は、カタストロアの注意が自身へ向くように、
そちらの方を向いて、ナイフに続けてはっきりと言葉を投げ寄越す。
「その子から離れてくれないかな?
クレープ奢って貰った分は、きっちり仕事しなきゃだし。
何より止めなきゃいけないんだよね、友達として」
■カタストロア >
甲種不明犯のリザードマンが大きく口を開き。
“苺の味”を確かめるために前に出ようとした瞬間。
後方に一歩下がる。
眼前を通り過ぎた黒の煌めき。
桜の木に刺さったオブシディアンナイフは。
樹がカミキリムシに蝕まれた証である赤い樹液を滴らせる。
そこにいたのは。…刃物を投げたのは。
職人が心血を注いで引き延ばした金糸のような髪。
ヘザー・ブラウンの絵画に出てくる海にも似たブルーの瞳。
牙を立てれば柔らかな感触を返しそうな肌、常世の校章がついた制服……
どこか造り物のような美を持った少女だった。
「では、オレがこの子から離れたらどうしてくれるんだ?」
「キミが共にダンスでもしてくれるのかな」
大仰に首を傾げる。
「まだオレのほうがこの子に近い」
「助けたいなら急ぐといい、それとも…必要なのはカウントかな」
フス、とマズルから鼻息を吹くと。
リザードマンは拳を握る。
「2」
そして倒れた女子生徒に向けて拳を振り上げた。
「1」
■牛丸 瑞璃 >
「ん~。お茶くらいなら付き合ってあげてもいいかな――」
注視していたのは、彼の腕や脚の動きだ。
既に、彼のことは言葉を交わす内に観察した。
次に取る行動は、常人よりもずっと早く、頭の中でシミュレートできる。
それが、牛丸 瑞璃に備わった特殊能力――来たるべき未来を永遠にだ。
拳が握られることは、既に視えていた。
故に、既に脚には十分に力を込めていたのだ。
間に合わない、などと。
そんな心配は一つだってしていない。
己の身体能力は熟知しているし、彼我の距離を鑑みて計算済みだ。
挙句の果てに、カウントダウンまでしてくれている。
相手は、余裕綽々といったところか。
「――キミのその太い指で砕けないティーカップが、あればだけどねぇ!」
余裕の態度に応じるように軽口を叩きながら、二人の間に割って入る。
閃くスカート。
太腿に巻き付けたホルダーに収められた、黒曜石のナイフが冬の太陽を受けて煌めく。
一閃。
黒曜石のナイフは、その剛腕を切り裂いた。
鱗も、肉も、骨も、何もかもが。
僅かな摩擦すらも生じていないとでもいうかのように、綺麗に切断される。
牛丸と同じ監視対象である、炉神、御津羽 つるぎにより鍛え上げられた漆黒の刃だ。
その切れ味は、折り紙付きだ。
「逃げて、瑠夏ッ! ここは何とかするから!」
スカートの下から新たなナイフを取り出して、正面から構える。
正直なところ、余裕など保っていられる相手ではない。
己の身体能力は、熟知している。
そしてこの眼の前の相手は――己のそれを、圧倒的に凌駕している。
比較するのもバカバカしいほどだ。
この男がその気になれば、己の身体など折り畳まれて即席のミートボールに、なんてことくらいは可能だろう。
力ではかなわない。計算などせずとも、自明の理だ。
■カタストロア >
カウント、ゼロ。
今の拳はミンチメーカーだ。
「………!!」
閃光。黒い、ひかり……
腕が肘の上から斬り飛ばされ、ベチャと粘着質な音を立てて地面に落ちる。
切断面から緑の濃血が流れる。
「う、おお……!!」
あんな刃渡りで!!
オレの腕を切断するのか!?
「なんて女だ……だいそれたことをする」
「新調したばかりの腕時計が台無しだぜ……」
ズルリ、と音を立てながら。
強張る筋がすぐに左腕を再生していく。
「何者だ、通りすがりなら慈悲を乞えッ!」
「正義の味方なら名を名乗れ!!」
ギミックはあの刃物か? 超絶技巧でもあるのか?
どちらにせよ半端な覚悟で間合いに入れば結果はわかりきっている。
尻尾をしなやかに伸ばし、四人掛けベンチの足に引っ掛ける。
地面に固定されていたボルトごと引き抜かれる、50kgのオブジェクト。
「砕けろッ!!」
それを金髪の娘に向かって投げつける。
半端に近づけないなら、近づかずに轢き殺す!!
■牛丸 瑞璃 >
――緑色の血に、凄まじい再生能力。現場で見たり、話に聞いたりしたのと同じだ。
すなわち、埒外だ。生物の域を超えているし、論理的に考えてどうこうなるものではない。
しかし、埒外の中にも理はある。
たとえば、緑色の血。
あれはおそらくビリベルジンによるものだろう。
ニューギニアには緑色の血を流すトカゲが存在する。
そのライムグリーンの血は、いつかに教材動画で観察したことがある。
この男はリザードマン。
何もかもが荒唐無稽、という訳でもない。
ならば。
――己の土俵で戦える予知は、まだある。
地面に落ちた腕に目をやりながら、呼吸を整えるべく一つ息を吐く。
どれだけ角度や速度を計算し尽くしても、どれだけ力いっぱいに振っても。
ただの刃を振るのであれば、こんな芸当は当然、不可能だ。
故に、カタストロアが驚愕するのも無理はない。
この刃もまた、埒外の代物であるが故に。
「……正義の味方だなんて、喉を切り裂かれたって言うつもりはないかな。
だから、ただの通りすがりの……保健委員、って感じ、か――」
逆手に持ったナイフを構え直す。
「――なっ!?」
ボールを投げるのとは訳が違う。
地面に固定されたボルトごと引き抜くなど、あまりに滅茶苦茶だ。
頭が痛むが、角度計算――
想定される腕力、速度に角度、己の身体能力――
弾き出し、弾き出し――被害を抑えるなら、この位置しかない。
超人的な速度など、己は持ち得ない。多少の負傷は諦めるしかない。
瑞璃は、カタストロアの近くへ滑り込むように転がった。
「くっ……!」
ボルトが、左腕を掠めた。
赤い血が、裂かれた制服の血からぽたぽたと垂れ落ちる。
問題ない、計算内だ。計算が間に合っていなければ、今頃無惨な姿になっていたと考えれば。
安いものだ。瑞璃は冷静に、この計算結果をそう結論づけていた。
防戦一方というわけにもいかない。ナイフを握りしめる。
「ほんと、噂通りの馬鹿力……これ、生まれつきの怪力?」
後方でベンチがバラバラになる音を聞きながら、
逆手に構えたナイフを後方へ一気に振りかぶり、疾駆。
そのまま心臓部へ突き刺すと見せかけて、空いた左手でスカートを叩き、
ナイフを額目掛けて勢いよく投げる。フェイントだ。
■カタストロア >
「保健委員は楯鱗諸共、トカゲ男の腕を斬り飛ばす訓練もするのかね」
投げたベンチは地面で砕けた。
あの女は前に来るッ。
当然、後方に逃げれば破片で被害を受ける。
左右に動けば最初の娘が転んだ小石を蹴りつけて終いだ。
当然……真正面に来ざるを得ない…
このカタストロアの前にな。
「生まれる前からだ」
拳を右手を袈裟懸けに振る。
「卵の殻を割るのは重労働でな?」
何の技もない、ただの開いた手を振り下ろすだけの右。
この超パワーを持ってすれば、必殺の一撃になる。
……致命の斬撃にすら。
だが、右手は空振る。
音を破り空気が焦げる匂い。
制動ッ!? 投げ、黒、ナイフッ間に合え!!
左側に頭を大きく振って
女が投げたナイフを避ける。
そのまま姿勢を低くする、フォームは悪いが尻尾を低く振る。
地面を擦り、タイルを砕きながら払われる薙ぎ払い。
多少、不格好になった。
だが当たればどうなるかわかるだろうな!!
■牛丸 瑞璃 >
「あたし達アスクレピオスは脅威に立ち向かう保健委員、なんでね。
ま、今はオフだけど……」
――正直なトコ、男を切る趣味はないんだけどなぁ。
己の内にある本性が、心の内で舌打ちをする。
しかし、これだけの騒ぎ。既に、通報が行われている筈だ。
それに、監視対象たる自身を遠隔で見張っている風紀の監視チームも、情報を掴んでいる筈。
故に、少しだけ時間稼ぎができればそれで良い。
「今のは……自信あったんだけどなぁ!」
あくまで、身体の微細な運動から、短期的に動きを計算できるに過ぎない。
フェイントがこうも容易く躱されるのは、想定外だ。
しかし、次の動きは――目眩を覚えながら――計算に入る。
頭脳のオーバーワークだ。もう、後がない。
凄まじい速度で振るわれる尻尾。
かつて、スポーツ万能、だなどと。
クラスで持て囃されていただけのちっぽけな女がどうこうできるものではない。
故に、躱せない。
絶対に、躱すことなどできない。
だが、計算するのは、そうじゃない。
躱し方なんかじゃない。
■牛丸 瑞璃 >
如何に当たるか だ。
■牛丸 瑞璃 >
正面で受けることを防ぐ。内蔵や脊椎へのダメージを最小限にするため、
半身の形をとる。
膝は軽く曲げて、重心を落とす。
抗えない衝撃に抗うことはしない。
衝撃を利用するようにステップを踏み、後方へ吹き飛ぶ。
横っ腹への衝撃。骨が軋む音がする。
やるだけやってはみたが――下手すれば、何本か骨は折れていることだろう。
だが――これで良い。
土煙と共に、瑞璃は近場の店――魚屋の店前に突っ込んだ。
段ボールの山をクッションにするが、そのまま勢いを殺しきれず転がり、
壁に全身を打ち付ける。
それでもまだ――生きてはいるようだ。
■カタストロア >
尾に確かな感触を覚え、立ち上がって首を鳴らす。
女はどこかの店舗に突っ込んだようだ。
左腕を見る。
腕時計は斬られた腕のほうか。
振り返って銀行前のデジタル時計を見るも、
先程投げられたナイフが刺さり機能停止していた。
嘆息して一歩ずつ前に出る。
周囲で遠巻きというにも離れて見ていた学生たちから悲鳴が上がった。
地面に落ちていた自分の腕だったものを踏み潰しながら前へ。
「コモドオオトカゲは獲物を弱らせてから狩る」
「現地での別名を人食いドラゴン」
「お前は善戦したよ、キミに興味が出てきた」
ゆっくりと吹き飛んだ女の方へ歩く。
わざと垂らした尻尾が歩を進める度に石畳を削る。
「名前を教えてもらえないなら」
鮮魚店の前まで来る。
「血の温度だけでも知っておきたいものだ」
■牛丸 瑞璃 > 「がはっ……映画のヒーローはこんなのに耐えてた……っての……?」
強く背中を打ったことで止まっていた呼吸。
吐くように呼吸を取り戻しながら、己を終わらせに来たその存在を耳が感じ取る。
そうしてやって来る死神へ、顔を向けた。
破片が掠めたのだろう。
博物館に飾られる人形の持つような白い頬から、一筋の赤い血が流れている。
死を前に絶望の表情を浮かべても良いはずだ。
震えて頭を抱えても良いはずだ。
しかし、少女はそうしなかった。
やって来るその死神を待ち受けていたかのように目を細めて声をかける。
「実は1つ……キミに聞きたいことがあってさ……」
少女は、あろうことか口元を緩めながら、その死神に問いかける。
「キミ、どうしてこんなに目立つところで暴れてるのかな、って……。
あたしも貴方に興味があって、ね……。
社会が気に入らない、とか……もっと自分のこと知ってほしい、とか……
或いは、何かを残し……たい、とか……?」
男が蹴り飛ばせば、その生命は簡単に潰えてしまうだろう。
腕を振るえば、その身は砕けるだろう。
きっと、どうとでもできる::存在だ。
しかし、少女は健気に、無垢にも見える瞳で死神の答えを聞こうとしていた。
■カタストロア >
腕の一本でも味わって帰ろうと思っていたが。
女は目を細めて問う。
カタストロアという存在が何故、目立つところで暴れているのかを。
「さっき言ったことに通じるが」
「オレは随分と長いこと卵の中にいてね」
「外の音を聞きながら思っていたんだ」
「早く殻を破って、何もかも滅茶苦茶にしてみたい…と」
随分と苦しそうだ。
衝撃で肺に空気が入っていかないと浅い呼吸になり、それがさらに苦痛を招く。
「ダディの名前は常世神」
「犬っころでもないのに随分と長く“待て”をされたもんだ…クク」
舌なめずりをしてマズルから垂れる唾液を舐め取る。
「ところで、右利きか? 左利きか?」
「オレも鬼じゃない……」
「よく使う方は食べ残しておいてやる」
■牛丸 瑞璃 >
「常世神……なるほどね……。
生まれる前からって言葉にも、納得がいった……なぁ……。
キミ、ずっと卵の中で眠ってたんだ、ねぇ……?」
その噂は聞いたことがあった。
願いを叶える代わりに、大きな代償を伴う。そんな、常世神の噂。
つまり、この埒外の力は、常世神に与えられた後天的なものなのだろう。
本来存在する筈の、彼の中にあったものが表に出たのか。
あるいは、歪められたのか。
それは、定かではない。
もう少し話ができればとも思うが――無論、そんな状況はない。
だが。
話の最中、呼吸を整える時間はあった。
「ん~……左利き、かな?
だから食べるなら、右腕を食べてほしいな……ど~ぞ。
……痛くは、しないでね――」
そうして、獣にとっての獲物は体を横を見せるように、体を転がした。
段ボールの山の中で、彼女の右半身が見える。
煤けた制服は、ところどころ破けていた。
「――なんて」
全てはこの為に。
少女は決して、無意味に吹き飛ばされた訳ではない。
少女は決して、ただ消極的に、段ボールを緩衝に使う為だけに、計算をしたのではない。
■牛丸 瑞璃 >
「あたしが言うと思うかな、カタストロア……!」
ライムグリーンの血。爬虫類の如き鱗。トカゲの尻尾の如き再生能力。
全ての計算は、この有力な仮説の証明のために。
段ボールの山から出した彼女の左腕には、消化器が抱えられていた。
躊躇いなく、噴射する。
ただの消化器ではない。CO2消化器だ。
中身は、高圧で圧縮、液化された二酸化炭素。
液化している二酸化炭素を放出することで二酸化炭素が気化し、潜熱による冷却作用が生じる。
本来ならば、電気設備に置かれていることの多いこの消化器。
何の因果か、いつも通る商店街で常々見かけていたことは僥倖だった。
「力勝負じゃ完全にあたしの負けだけど……。
でも、こういう戦い方はあたしの土俵だからね……」
――このロジックの導く解決法。分は悪くない筈だ。
相手が、爬虫類由来の力を持つならば。
■カタストロア >
「さて、どうだったかな?」
「皿の前の料理を前にあれこれ話をする気になれない」
表情を歪めるように凶悪に破顔して。
「右腕だな、わかったとも」
そのまま口を開けて“食事”を行う。
瞬間。
消火器から液化二酸化炭素を噴霧される。
「が、あぁ!?」
苦し紛れに何を。
しかし、何かがおかしい。
動かない。体が、生命活動が鈍る!!
何をしやがった。
その声も出ない。
そうか、液化二酸化炭素。
受ければマイナス78度の世界へご招待。
知らなかったぜ……オレは寒がりだったんだなァ…!!
凍りつく右腕を振り上げ、トドメを刺そうとした瞬間。
駆けつけた風紀委員の放った銃弾が右腕を砕き折った。
「な……!?」
戦車砲にも耐えるオレの楯鱗を一発の豆鉄砲で!!
いや、低温脆性か……!?
一部の大型爬虫類の牙が金属でコーティングされているように!
オレの鱗の靭性も体心立方構造金属に担保されてたってわけか!!
「ぐ、うう…!!」
喋ることすら覚束ない。
再生能力が上手く働かない!!
今は逃げ出すしかなかった。
道路を走って通れそうなマンホールへ急ぐ。
このオレが…カタストロアがこんな弱点を持っていたのか……!?
■牛丸 瑞璃 > 立ち込める二酸化炭素。突入してきた風紀委員達によってその白煙が晴れれば、
そこに現れる瑞璃の姿。
「……Q.E.D.ってとこかな」
人差し指を立てて、風紀委員達を前にそんなことを言ってみる少女であった。
無論、直後に横腹を押さえて呻く羽目になるのであるが。
「……さておいて……保健委員、牛丸 瑞璃からキミ達に報告。
カタストロアの……弱点は見ての通り、低温による生命活動の妨害だったよ。
凍結弾とかあれば……今後配備しといてほしいなって。
それから、常世神が関与してることを口にしてたから……
そこのところも洗っておいてほしいか、な……い、ててて……ごめん、限界……」
そこまで口にすると、力なく倒れ込む瑞璃。
「あ~あ……もうちょっと、ファイナル・ガール気分に……浸ってたいけど……なぁ……」
超速計算を重ねた脳疲労に、全身打撲。体は限界を迎えていた。
風紀委員の波の間に見える友人、瑠夏の泣きそうな顔を見て、
笑顔のウィンクだけ返すと――瑞璃は、そのまま意識を手放した。
ご案内:「接触-商店街にて-」からカタストロアさんが去りました。
ご案内:「接触-商店街にて-」から牛丸 瑞璃さんが去りました。