2015/07/19 のログ
■自販機 > (何かとんでもない人と遭遇したような気がしたけど、
そんなことはどうでいい。重要なことじゃない。
自販機の布団が謎の力で吹っ飛んで厳かに本体がベッドから降りる。そう、営業開始である。ブーンと音を立てている。営業開始のゴングが鳴ったのである。
知らない天井? そんなものはどうでいい。
噂のアレ扱いされたソレはピコピコとボタンを点滅させた。)
■『男子生徒』 > 滑っちゃあだめだろう。このロール自体が滑っているのではないかな?
まあそんなこともどうでもいい。
買うか買われるかの瀬戸際である。
とりあえずは自販機の横で呻き声を上げている可哀想な睡眠中の方以外にライバルはいないようだが。
しかし、あるいは自販機の飲料を狙うライバルがあと20人超いるような気がした。
在庫は不明。
とあれば何者かに先をこされる前に速やかに購入しなければならぬ。
近づいて立ち上がった自販機の表面を確認した。
「100円」「500円」「1000円」そして「スペシャル」。
明滅するボタンがカラータイマーにも思える。
「どーれーにーしーよーうーかーなー」
■自販機 > (布団が吹っ飛んだのだ…………
そ、それはとにかく、自販機は営業中であった。潜在的なお客様が三十人くらいいたような気がするけどそんなことはなかったぜ!
接近してくるならば奇妙奇天烈なディスプレイやボタン配置が見えるだろう。見るものによって姿を変えるという自販機だけに男子生徒に何が見えているかは果てしなく謎である。
カラータイマー君は3分以内に買ってほしそうな空気をかもし出しつつ点滅している。
かーみーさーまーのーいーうーとーおーりー。
自販機なので、)
「ブーン」
(しか言えないのだ。悲しいね)
■『男子生徒』 > おお、見よ!
相手が間抜けにも気づかずスルーしたギャグを自分で解説する自販機の勇姿を!
幾何学的に狂った角度と、暗緑色の巨石で構築されたディスプレイを!
そして結局は並び立つボタンのどれを押すべきかという所に全ては集約される。
神か……最初に罪を考え出したつまらん男さ。
だから入れた。
コインではない。
ペイパアマニィ。
諭吉……と断言するのはこの世界観のために控えよう。みんな大好きなアレが財布から引き抜かれ、まっすぐ投入口へとIN!
■自販機 > (ヒューッ!
見ろよやつの一万円札を……まるで紙みてえだ)
「ブーン」
(札が投入されたのであれば、あとはボタンを押すだけである。そのはずなのだが押しても居ないのに飲料が勝手に出てきてしまったのである。
もう待ちきれないよ、早く出してくれ! という要望にお答えしたのかは誰も知らないことである。
出てきたのは、『あの世』なる飲み物。
ペットボトル飲料。500ml。中身は暗黒の色合いをしており見ることは叶わない。
製造は常世財団。とりあえず名前を出しとけといわんばかりの適当さ加減。成分表示その他はブラックで塗りつぶされており見ることができない。
ガコンと音を立てて出てきたそれ。
自販機は直立して待っている。)
「ブーン」
■『男子生徒』 > 正直ボタンを押したかった。
しかし出ちゃったものは仕方ない。
ベッドの上では問題発言なのでゴムは使えよ。
ドローッ!モンスターカード!!
とばかりの勢いで排出口から取り出した。
キャラがぶれている気がするが次出てくる時は別の姿なのでどうでもいいです。
キャラとしてのこの在り方、似ている……そっくりだ!
引いてきた運命のカード違ったボトルは『あの世』。
え、なにこれ飲むとあの世に行くの?
ブーンじゃないでしょ。
■自販機 > (設定がかたまっ おっと壁を突破しかけていた。
壁ってなんだ?)
「ブーン」
(売ったら後は知らないのだ。
ひっとえんどらーん ひっとえんどらーん)
(隣のベッドで寝ている人がウーンと苦しげにうめいている。
悪夢でも見ているのだろう。
飲料の中の黒はうねうねと冒涜的な渦を巻いている。飲んだらレベルアップしそうだね、うそつかないようそつかない)
■『男子生徒』 > 効果が確定していない以上、他人に渡して飲ませるにもやりにくい。
ああ、あれやってみたかったんだけどな。
何が温泉だよ東郷TELすっからここまで五分な。
というわけにもいかないので、飲もう。
そうしよう。
キャップを開いてみた。
あたかも『門』が開くかのごとく、漏れ出るは下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打と、呪われたフルートのかぼそき単調な音色。
ごくりと唾を飲んだ。まだ飲料は飲んでない。
レベルアップって何がレベルアップするんだろう。
性癖?
新たな世界に踏みだそう。Brave New World。
行く。
今度こそ飲んだ。
■自販機 > (かぽーん)
「ぶぃぃぃぃん」
(露天風呂になっていた。
ほかほかと湯気を上げる湯船。広大な山の景色。扇風機がぶんぶんと鳴り響き、のどかな風景が広がっていた。
空の太陽から妙な触手が生えていること以外はどこかの旅館の一風景を切り取ってきたみたいである。のどかな風景の中に自販機があった。あったのだが、牛乳瓶を売る古風なタイプに変更されていた。常世のおいしい牛乳が売れ筋らしい。
男子生徒はふと気が付くとその温泉の脱衣所に居ることになるのである。
何か妙な空間なので人斬り侍とか騎士とかが迷い込んでもおかしくはないとわたしはおもいます。鼻の短い民族とか言ってくる彫の深いおっさんとか)
「ぶぃぃぃぃん」
(コーヒー牛乳もあるよ!)
■『男子生徒』 > 周囲を見た。
空間転移か。あるいは幻影か。
いや考えるのは野暮というものなのだろう。
湯気を上げる風呂を眺め、呟いた。
「広がったっすね……」
空間のことか風呂敷のことかはぼやかしておく。
気づけばこの身はタオル一枚。
やおら踏み出すと、扉を開けっ放しのまま脱衣所の外へ。
桶を掴んでざばりざばりとかけ湯を済ませた。
そして足先が湯へと降りていく。
振り返った。
「一緒にどうかな?」
■自販機 > 「びぃぃぃん」
(たまにはブーン以外のセリフを……という願いはともかく、誰かいるのかもしれない。いないのかもしれない。いたとして誰のことかはわからない。
所詮自販機なので仕方ないね。
誰も居ないのならばどこからともなく人が出てきたご一緒するかもしれない。
ブーンならぬびぃぃんと音を上げて自販機は営業中。
太陽から伸びる触手がうねうねとしていること以外はごく普通のお風呂である。太陽に目とかついてるけど気にしてはいけないのだ)
「 ………びぃぃぃん」
(誰もいないのか、居るのか。自販機は佇んでいる)
■『男子生徒』 > 「なるほど」
頷きながら湯に体を沈めた。
「自分には自分の“役割(ロール)”がある……そういうことっすね、自販機さん」
ならば求めはすまい。
独り、湯の熱を体いっぱいに受ける。
見上げれば太陽と眼があった。何故くらまないのかはこの際気にしないで欲しい。
“ ”
――――――――ああ。
こんやはこんなにも たいようが、きれい――――だ―――――
■自販機 > (かぽーん。桶の音。
太陽の瞳は男子生徒を見つめ続けている。
かぽーん。湯船のどこかで桶を鳴らす音がする。
自販機さんのびぃぃんという音が止まっている。
湯船に妙に分厚い湯気がかかり始める。太陽はさんさんと邪悪な視線をそそいでいるが男子生徒にとってかゆくも無い刺激であろうか。
湯船の湯を掬う一人の影があった。
湯気に隠されて輪郭さえおぼつかない。何らかの手段でも検知は難しい。けれど確かに居た。湯船に別の人物がつかっていることだけは分かるだろう。太陽はさんさんと触手を蠢かせている。)
「 」
(湯気濃すぎて規制されたみたいになっているが、
特にそういう意図ではないのです。
湯船につかる誰かがため息を吐いて桶を置いた。頭にタオルをぐるぐる巻きにしている。顔や背丈はうかがえない。湯気が濃すぎるのだ)
■『男子生徒』 > 祈るとしたら今だった。
触手の伸びた太陽は、まあそんな感じのヤツとは付き合いあったからね。いいけどね。
ともあれ祈るべき相手がそれだというのならば祈ろう。
面白みもない男の半裸が湯に浮かんでいるのなら、
視聴ROM的な意味で来るべきは女体ではないだろうか。
祈った。
「いやー、いい湯すね」
この湯気がブルーレイで消去されることを。
■自販機 > 「で、ですね……」
(大きなお友達にレーザーとか称される濃度の霧がかかっている。霧が濃くなってきたな……。
でも湯気だからね、誰がなんと言おうと湯気だからね。
湯気の向こうから声がしてくるだろう。
おびえと好奇心を詰め込んだか細い女の子の声である。かすかにタオルで髪の毛が湯船につからないように配慮した陰が見えるかもしれない。
年齢はまだ若い方であろう。
『このロリコンどもめ』
空の太陽が男子生徒をしかりつける。はて、どもとは一体誰のことか? 触手をうねうねしながら太陽は空にいらっしゃる。
ブルーレイでも消去されない系統の霧もとい湯気さんが視界を遮っている。
ついでにお湯も白い濁り系である。水面下も見えない徹底振りであった)
■『男子生徒』 > もはや立ち込める湯気は超古代文明の戦闘ロボット『バーサーカー』のレーザーすら拡散させるだろう。
見えない。
相手が見えない。
着地点も見えない。
どちらかと言えばムチムチの方が好みです!という反論もかなわず、
少年は引きつった笑いとともに言葉を続けた。
「い、いやあー、混浴だなんて気づかなかったすわ、は、は、は、は……」
この湯気一つ消すことのできぬ、 を笑うがいい。
■自販機 > (見えぬ湯気に包まれてまさかの混浴。
だが待って欲しい。もし筋肉ムキムキマッチョマンの変態が登場したらどうすればよかったのだろう。
この手に限るとかいいながら逃げることしかなかったのではないか。
相手たる女の子も口を押さえて笑っていた。)
「わたしも気が付かなかったです……んふふ……ごめんなさいごめんなさい」
(そして猛烈に謝り始めるのだ。
ごめんなさいと何度も何度も。
混浴という美味しいシチュだからどやどややってきてもいいはずである。この異空間、何が迷い込んでも仕方ないのだ。もはや門全開状態のままの常世学園みたいなもののはずだった。
少女はタオルをはずして己の髪の毛を結いなおしている。)
「もしかして二人っきりでしょうか……?」
(イエスマム。
空の太陽がくわっと目玉をギョロ付かせている。
だが見えない)
■『男子生徒』 > 「は、はは。そうみたいっすね。いやいや!こっちこそ居づらいっすよね!すんません!」
引きつる笑いは変わらず。
謝罪に対して謝罪を重ねた。
少し体を乗り出して手を伸ばせば恐らく届く位置に女の子がいる。
だが、それは無限の距離だ。
あのラベルに『 』とあったのならば、 が妹の姿を見てどうなったのか。
はどれほどの代償を支払ったか。
だから立ち上がる。
ざばりと白い水面が揺れた。
「あッ、ぼく、そろそろ出ますんで……ご、ごゆっくり!」
■自販機 > 「いえ。どうぞごゆっくり~」
(少女らしき気配はまったりとした口調で言葉を重ねた。
言うなり気配は消失している。
無限の距離でも当人にあってはゼロ距離に等しい短距離であって。女の子にとってはほんの数歩の距離にあって。けれど気配は瞬時に消えうせており脱衣所にも姿はないのだ。
コーヒー牛乳を買えといわんばかりに直立する自販機だけがあるのだ。)
「びぃぃぃぃぃん」
(脱衣所に白いタオルが一枚だけ落ちていた。
扇風機が首を振っている)
■『男子生徒』 > 一瞥した背後は変わらず乳白色の闇。
そのまま振り切って脱衣所へとあがりこんだ。
鍵をあけたロッカーから取り出した財布。
分かっている。
今は自分が飲み手であり。
自販機、君が飲まれ手だ。
コイーン、と投入された硬貨が音を立てて。
風呂あがりの“ ( )”をこなすべく、押した。
今度こそ、押したぞ。
■自販機 > (出てくるのはもちろんコーヒー牛乳。
自販機は言っている。飲めと)
「びぃぃぃん」
(飲むときは、あのスタイルしかない――――)
■『男子生徒』 >
ガ
シ
イ
ッ
!
左手が腰にジョイント。
ジ
ャ
キ
ィ
イ
!
右手でしっかり握りしめた瓶。
背を反らし、瓶を上から口へと。
流れこむは褐色の愉悦。
熱を帯びた体へと行き渡る、冷たさと甘さのパーフェクトハーモニー。
「ゴギュ、ゴギュッゴギュッ、ゴギュッ」
■自販機 > (様式美。
それは日本人のソウルに刻み込まれた魂の輝き。
コーヒー牛乳。魔的な欲望が男子生徒に自然とポーズをとらせるのだ)
「びぃぃぃん」
(苺牛乳は邪道)
■『男子生徒』 > 「ぷはっ」
男は一気飲み。
親指で唇を拭った。
ああ、そう。レベルアップ。
レベルアップというお題目だった。
今ならわかる。
混浴なToLOVEる。そして湯上がりのコーヒー牛乳の爽やかさ。
こんな可能性もあったのだと、 があるいは経験しうる青春の日の一歩。
大人への階段の一つを、今ここで味わった……。
■自販機 > (大人の階段を上るのだ。シンデレラじゃなくて王子様なわけだが。
コーヒー牛乳を堪能したあとはもう一度つかりに行くのもアリだろうし、扇風機で様式美を堪能してもいい。
自販機的には売るだけなので牛乳をオススメするところだ。
二杯目を飲むとおなかを下す系統の存在であるとすると居悲しい結末が待っているだろうが)
「びぃぃぃん」
「ぶおおおおおおお」
(扇風機さんが首を振っている。ぶんぶん振っている)
■『男子生徒』 > 「いや」
瓶をその辺の棚においた少年は呟く。
“おとぎばなし(レベルアップ)”は終わりさ……。
帰る時がきた。
「ありがとう、楽しかったよ自販機」
そして少年ではない顔が自販機へと振り返った。
の表情で。
■自販機 > (さよなら、夢の国。
いらっしゃい、現実)
「 」
(風景がふっつりと消えうせていく。
夢のような国は消えていく。現実が戻ってくる。
あるいは現実と夢の国の境界線など無いに等しいのかもしれない。左右非対称の表情に対して自販機は居なかった。あったのは保健室のベッドと、かすかに誰かが寝ていたような温かみを帯びた布団だけ。ほんのりと香水の残り香が残留しているだけに過ぎない。
保健室備え付けの鏡がギシリと音を上げてひび割れた。
男子生徒の表情はもう見えなかった)
ご案内:「保健室」から自販機さんが去りました。
■『男子生徒』 > 保健室に独り残された男子生徒。
ゆっくりと一度口元を撫でる。
「ほんとにいい、経験だったな」
喜ばしきレベルアップを得て、ゆっくりと保健室から歩み去っていく。
その頃にはもう、『 』は居ないだろう。
ご案内:「保健室」から『男子生徒』さんが去りました。
ご案内:「保健室」にジブリールさんが現れました。
■ジブリール > 【日がな一日、夜になるまでここに過ごすのは日課になっていた。急患が駆け込んでくるでもなければ女が居座るのも自由にしていいとのこと。
日中の太陽が出る時間でも歩けないことはないが、安全な場所にいて過ごすのも悪くはない。勉強くらいならここでもできるし、オマケに管理下におかれている最中はクーラー付きで涼しいときた。
ベッドの上に体を預けながら、女は包帯で覆われた眼を休める。】
■ジブリール > 【窓からもっとも遠い場所にあるベッド。仕切りによりさらに遮断されたその隅は暗い。カーテンで覆われた外の明かりも、女を照らすには程遠い。】
「うー……ん」
【昼間はここで勉強。夕方は軽く歩き回って食事を摂り、またすぐ戻って今に至る。まどろみかけた頭を擡げて、女はぐっと伸びをした。
入り浸るに至る理由がないこともないが、それはともかく、たまにはこうしてだらけてみるのも悪くはない。
――銀の髪をさわりと撫でながら、するりとふかふかのベッドに手をついた。】
■ジブリール > 「……」
【女は薬品の置いてある棚を一瞥する。一時期あまりにヒマだったから、今日のような暗闇の中で薬の位置を記憶していたことがある。
右の棚には消毒薬、火傷薬、塗り薬。虫刺され、あちらには錠剤各種――位置さえ変えられていなければ場所は正確のはずだ。】
■ジブリール > 【アセトアミノフェン、エテンザミド―― イブプロフェン、カフェイン。】
「……薬事法でも勉強ましょうか」
【薬剤師。なるつもりはないけど。暇があれば勉強してみるのもいいかもしれない。どこぞには3日勉強するだけで資格をとれるものもあるというし。夏休みがくれば遊びも勉強も、色々やってみたい。】
【女はもうしばしの間、ベッドの中で楽しげに思案すること――。】
ご案内:「保健室」からジブリールさんが去りました。