2015/07/24 のログ
ご案内:「保健室」に蓋盛 椎月さんが現れました。
蓋盛 椎月 > ドボドボドボドボ。
何の音だろうか?
伸ばされたホースから水が注がれる音である。
何に注がれている?
ビニールプールに。
ここはどこ?
常世学園、保健室。
では誰が?
養護教諭、蓋盛椎月である。

「やっぱ夏といえばさ~~~ビニールプールだよね~~~」
そうらしい。

ご案内:「保健室」に畝傍さんが現れました。
畝傍 > 今日一日分の授業がすべて終わると、畝傍は無性に気になっているある事柄について相談できそうな相手を探し、校内を彷徨い歩いていた。
それは自分自身の体や心のことではないものの、一番の親友のプライベートな部分に関係する事柄。
直接訊ねるわけにもいかないが、事情を知らない他人に対して無闇に話してしまうのも憚られる。
先日、偶然にも『それ』を見てしまってからというもの、恥じらいと戸惑いが入り混じったような感情が頭の中を巡っているのだ。
頼りになりそうな人物の心当たりは数人。その一人を訪ね、保健室に立ち入る。すると。
「……あれ?」
そこに、普通ならあるはずのないものがあった。大きなビニールプールだ。
傍らには目的の人物――何かと世話になっている養護教諭、蓋盛の姿。
「せんせー……これ、なに?」
蓋盛のもとへ近づき、問うてみる。

蓋盛 椎月 > 「やあ、畝傍」

現れたる女生徒、畝傍に対して手を振る。
保健室の中央にデンと鎮座する、控えめに水の張られたビニールプール。
周囲には申し訳程度にバスマットやタオルが敷いてある。
あとちっちゃいヒヨコのおもちゃが浮いている。
この異物は保健室を私物化すること甚だしい蓋盛のいつもの狼藉であった。

よくぞ聞いてくれた、とばかりに得意顔で説明を始める。

「ふふ、知らないのかい? これはビニールプールだよ。
 保健室に身体と魂を縛り付けられている保健医でも
 水遊びを楽しむことができる素敵なアイテムなんだ。
 ……昨年度ここで泳いでたらめっちゃ怒られた」
最後の方で笑いが苦いものになった。

「……それで、今日の用事は何かな?
 まさかビニールプールでチャプチャプするのを目当てに来たわけじゃないだろう」

畝傍 > 「うん。せんせーに、聞きたいことがあって」
言うまでもなく、ここに来た目的はビニールプールではない。
水着は買ったものの肝心の海にはまだ行っていなかったりもするので、泳いでみたい気持ちがないわけではなかったが。
「あのね。このまえ、ボクのトモダチが退院したんだ。おんなのこなんだけどね。おうちがないっていうから、女子寮のボクのへやで一緒にすむことにしたんだ。……それでね。いっしょに、おふろにはいったんだけど。そのときにね……ボク……」
少し間を置くと、恥ずかしそうに頬を赤らめ、狙撃銃のレプリカを抱える腕の間隔を狭めながら、問う。
「……ね、せんせー。おんなのこに……えと……『アレ』があるのって……ふつー、なのかな。びょうきとかじゃ、ないよね。だと、いいんだけど」
『アレ』が何を意味するかについては、保険医たる蓋盛ならば察してくれるだろう、と考えていた。

蓋盛 椎月 > 「ふむ……相談事かな」
事務椅子に座り、神妙に聞く体勢に入る。
靴と靴下を脱いでつま先でビニールプールをチャプチャプしていたがそれを除いては真面目だ。

「アレ……」
女子が“アレ”と表現するものはそう多くはない。
最初に思いついたのは生理だが、文脈からして違うだろう。
最近保健課に所属した例の生徒に見せられたものが脳裏に浮かぶ。

「……ん~、“ついて”いた、ということかい?」
軽い調子で確認する。
常世学園はさまざまな種族の人間が集う。
ありふれている、というほどでもないが、そう珍しい話でもない。

畝傍 > 「……うん。そう」
頷く。その顔は真っ赤になり、わずかに下を向いていた。
畝傍は同年代の女子とさえこういった話をすることはほとんどない。
年上である上に見知っている蓋盛にならば相談こそしやすかったが、やはり恥ずかしさは拭えなかった。
「ボクのトモダチは……ちがうセカイからきたって、いってたから。そっちのセカイだったら……めずらしくないのかも、しれないけど……」
付け加える。

蓋盛 椎月 > 「大丈夫、大丈夫。あたしに訊く、ってことはつまり本人は何も言ってなかったんでしょ?
 なら何も問題はないよ。
 “普通”って言うほど多い割合じゃないかもしれないけど、
 “病気”ってことはないから。安心しな」
にこ、と柔らかく笑む。
それよりも案ずることがあるとすればむしろ。

「畝傍ちゃんはどうなんだい。そのお友達のこと。
 ……気持ち悪くなっちゃったりした?」
問いただすのではなく、あくまでもただ確認といった調子で。

畝傍 > 「そっか……よかった」
蓋盛が柔らかな笑みを浮かべると、畝傍も微笑みを返す。そして。
「ううん。さいしょに見たときは、ちょっとふしぎだったけど……きもちわるくなったりなんて、してないよ」
確認するような彼女の言葉に、そう返す。
女性の肉体にないはずの器官が、畝傍の親友には備わっている。
だが、それは畝傍に嫌悪や恐怖の感情を抱かせるものではなかった。
「だって、トモダチだもん」
さらにその言葉を加え、また暖かい笑みを浮かべた。
畝傍と親友との友情は、約束は、肉体のわずかな違い程度で断ち切られるものではないのだ。

蓋盛 椎月 > 足元に流れてきたヒヨコちゃんをつま先で踏んで底に沈める。ばしゃ。
海に行けないことの代替にしてはなんかわびしい。
後日、改めて泳ぎに行こうという気持ちを強くする。

「なるほど。あたしが心配する必要もなかったな」
満足気に頷く。

大変容後、異能や魔術と同様に存在が明るみとなった両性具有の人間の存在。
両性具有についてどう教えるべきか、性教育指導方針はいまだ固まってはいない。
(おそらくは)若い二人である。懸念材料はもちろんあるが、
二人が信じあっているならば、何も問題とはならないだろう、と蓋盛は判断した。

「よく相談してくれたね、ありがとう。コレはおみやげにでも」
冷蔵庫から小さな紙パックのオレンジジュースを出して手渡す。

畝傍 > 「うん。ボクも、せんせーにおはなしきいてもらえて、よかった」
そう伝えた後、手渡された紙パックのオレンジジュースを左手で受け取る。
「わぁ……ありがと、せんせー」
軽く跳ねながら喜ぶ。畝傍の精神は実年齢に輪をかけて幼い。その分、喜びの表現も素直だ。
「それじゃ、ボクはそろそろ帰るから……またね、せんせー。きょうは、ほんとにありがと」
再び礼を告げ、橙色の少女は保健室を後にした――

ご案内:「保健室」から畝傍さんが去りました。
蓋盛 椎月 > 「うん、息災でね~」
手を振り、畝傍を見送る。少し発達が遅れているけれど、いい子だ。

「感謝するのは、こっちだよ」
最近は、重い課題や困難な問題に直面させられることが多い。
畝傍のささやかな悩みに付き合い、彼女の笑顔を得られたことは
蓋盛の多少の慰みとなった。

ばしゃばしゃ、と水を叩きながら冷凍庫から出したアイスをしゃくしゃく食べる。
この後うっかりビニールプールをひっくり返して大変なことになるが、
それはまた別のお話。

ご案内:「保健室」から蓋盛 椎月さんが去りました。