2015/08/05 のログ
ご案内:「教室」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > ──ここは『補習用教室』

夏季休校期間と銘打たれてはいるものの、期間限定の特別講義や
已むに已まれぬ事情で自習などを行う為の教室群から乖離されて存在する、
『前の学期に於いて理解力が著しく欠如しており
 現状のままでは次の学期での授業について行けない
 であろう生徒に特別措置として授業を行う為の教室』
                バカ        ブタバコ 
──要するに『学業における「弱者オブ弱者」のための特別教室』である。

東雲七生 > そしてこの補習室に今日も元気に登校する姿があった。

東雲七生、一年生。単位未習得科目数:6
普段の授業時間の約8割を『圧倒的睡眠』で費やす彼にとって、
補習なんてものは老人が散歩するのとほぼ同義である。

──知らないうちに身に染みついちゃってる、のだ。


「おっはよーございまーっす!
 さーて今日も元気に一学期の二周目をエンジョイしますかねーっと!
 ……今日の補習は何だっけ、えーと、現代文?」

──教室には今のところ彼しか居ない。

東雲七生 > 「現代文とかわざわざ授業でやらなくても大丈夫っしょー
 イマドキそんなもんで単位落す奴居る?『授業出てれば単位取れるじゃんラッキー☆』とか皆言ってるけど。

 それが居るんだなあ、ここに!」

──繰り返しになるが、教室には彼しか居ない。

気が触れている訳ではないのだ。
あまりにも重すぎる現実が目の前に突き付けられているので、軽く現実逃避しないと心が折れそうなのだ。
夏休みに一人で教室で授業。思春期にこの仕打ちは耐え難い。

東雲七生 > 「……はぁ。」

室内の静寂さに早くも

「補習とかマジ怠いけど無理やりテンション上げたらハイに乗り切れるんじゃねえの作戦」

が失敗に終わる。
そもそもテンションを上げてもやる事は数か月前と同じで、それなら授業本チャンでその作戦使えよと言われればそれまでだ。
だってしょうがないじゃん。思い付いたの夏休み直前だもん。

東雲七生 > 「せめてワイルド&セクシーな先生とかが担当ならやる気も起きるんだけど。
 夏休みだからって今日の先生休みじゃん。やる必要あるのかよ補習。絶対ねえだろ。」

教壇の上に置かれたハンコを手に取り、懐から取り出したカレンダーめいたカードに捺印する。
これは夏休み最初の補習日に手渡された「出欠確認カード」なる代物らしい。

どうみても初等部相当の生徒に渡すラジオ体操のカードの使い回しだ。
それくらい脳みそ初等部の七生にだって分かる。

東雲七生 > 「……さてと。
 えーと、教科書とー……ノートは要らないよな。
 あとは……」

着席して鞄からばさばさと取り出したのは「漢字ドリル」
学習能力初等部の七生に課せられた補習のうちの一つが「常用漢字の書き取り」だった。
それを告げられた当初は困惑を通り越して絶望すら垣間見えたが、
なかなかどうして始めてみるとそこそこ楽しい。

「でもなあ、授業中寝ちまうから漢字書けてもしょうがねえんだよなあ……」

根本揺るがす心の叫びが漏れた。

ご案内:「教室」にヨキさんが現れました。
東雲七生 > 「……ふぅ。」

ふと目を向けた窓の外では学生街で買い物する生徒たちが見えた。
楽しそうだとは思うが、そもそも団体で行動するのはどうも苦手な七生である。
いや、正確に言えば“自分より背の高い同級生たちに囲まれるのが嫌”なのだ。逆に目立つ。
よってもっぱら単独行動を取りたがるのだが、何やかんやで寂しいのは苦手なのでどうしても話し相手が欲しくなる。

──今だってそうだった。

「誰か来れそうなヤツ居ないかな……」

書き取りの手を止めて携帯端末を取り出す。
その中に収められている連絡先を眺めながら、独り言を呟いた。

ヨキ > 「何がしょうがないって?」

(低い声。
 早朝に地獄の底で叩き起こされた幽鬼のような声だった。

 現れたのは、七生より頭ひとつふたつと背の高い、半眼に唇を真一文字に結んだ獣人である。
 手には「学業における弱者オブ弱者」の名簿と、漢字ドリルの回答集と、その他教師然とした分厚いファイルが携えられている)

「……君が、シノノメ・ナナミ君かね?
 今日、君の監督をするヨキだ」

東雲七生 > 「ほぁぁぁぁっ!?」

完全に意識が連絡帳に向いていたところに突然の声。
反射的に端末を足元の鞄へと放り込み、驚きの表情を浮かべたまま声の主を見遣る。

目で確認した姿は何度か校内でも見かけた事のある教員だった。
──確か、担当は美術の。

「あっ、えっと、はい!
 ……俺が、ナナミっすけど……その。」

どうして担当でもない強化の補習に監督しに来てるのか。
少年の紅い目が問いかけるように動く。

ヨキ > (独りしかいない生徒を前にして、教壇に立つ。
 椅子に腰掛けると、痩せぎすの見た目とは裏腹に、ぎ、と座面が重たげに鳴った)

「…………。
 何故ヨキなんぞが現代文の監督に、とでも訊きたそうな顔をしているな」

(金色の瞳が相手を見返す。
 不機嫌そうと見えた仏頂面が、やがてふっと吹き出す)

「駆り出されたのだ。
 現代文の先生が、休みを取ることになってな。
 ヨキは午後からデッサンの講習であるから――午前中は、君を見ていて欲しいと。

 ふふ。
 この専門でもない、ヨキに監督される程度の生徒と思われているらしいぞ、君は。
 やる気の出る話であろうが?」

(先ほどまでの表情とは打って変わった軽さで話をしながら、ファイルの表紙を開く。
 どうやら補講に関する日誌を付けているらしい)

東雲七生 > 「……っ」

金色の瞳が此方を向けば、何度か繰り返し頷いて。

普段あまり関わりの無い相手、
それも教員となると緊張の度合いも違ってくるものだろうか。
自然と姿勢を正して再び鉛筆を手に取る。

「あ、ははぁ……なるほど……
 いや、今日の担当の先生が休みだって言うのは前から聞いてたんすけどね

 そっか、代わりに……ヨキ先生が。」

一応納得はいったが、どことなく複雑な心境だった。
しかし緊張も多少緩和した事で表情からも硬さが抜ける。
いくら普段関わりが無いとはいえ、教員は教員。他の先生と変わりはないのだ、と自分に言い聞かせる。
そして同時に、思ってたより話しやすい先生かもなと、ほぼ一方的な評価を再編し始めた。

ヨキ > (七生の顔が変わってゆくのを見ながら、また日誌に目を伏せて笑う。
 左手の、短い四本指が器用に握ったボールペンで、さらさらと書き付けてゆきながら、)

「そう。まさか……
 “君とこんな形で顔を突き合わせることになるとは思わなかったが”」

(ペンを置く。顔を上げる。机に肘を突き、指先を顎に添えて、にんまりと七生を見る)

「君――トト君の友だちだろ。
 あの子からも、君のことを『よろしく頼む』と言われている。
 勉強が大変だという話、あながち冗談でもなかったらしいな」

(そこまで言うと、耐え切れなくなったようにくつくつと笑い出す)

「ヨキが監督することに、何か異論は?」

東雲七生 > 「まさか?
 えっと、先生俺の事知って──」

疑問は問う前に自然と解消された。
ヨキの口から出た友人の名前。そういえばその本人から会って話した旨を聞いた気がする。

─なるほど、俺のことまで話してたか……

「あの、先生。トトの奴、なんか変な事とか言ってませんでした?
 ……だとしたらすいません、何て言うか、あいつちょっとズレてるっていうか!
 根は悪い奴じゃないんすけど……よろしく頼む?」

何故か友人の弁護めいたことを始めてしまい、自分でも訳が分からなくなりかけたところで。
『よろしく頼む』とはどういう意味で言ったのだろう、と怪訝そうな顔になる。一体あの友人は何を話したというのか。
気になる。……気になるが。

「あ、いや……監督自体に異論はないっす……ハイ。」

今はただ、大人しく漢字の書き取りをするのが良さそうだ、と。

ヨキ > 「ズレてる?――さあ。
 それを言ったら、このヨキも大概であるからな。
 彼女は変なことなど言ってはおらんよ、何一つな。

 君のことが『大事な友だちだ』と、臆面もなく言っていた。
 よほど君を気に掛けているらしい」

(“彼女”と呼ぶに、この男はトトを女性として認識しているらしかった。
 複雑そうな七生の顔に、また可笑しげに声を漏らす)

「それでは、とっとと終わらせるが吉だな。
 漢字はいいぞ、漢字は」

(七生が手にしている漢字ドリルの、回答集をぺらりぺらりと捲って覗く。
 その問題の内容には、あちゃあ、とでも言いたげだ)

「何しろ、覚えておくと友だちとのメールが捗る。
 恋文をしたためれば女性のハートは鷲掴みであるし、何よりオトナの漫画が読み放題だ」

(あまりにも俗っぽい用法だった)

東雲七生 > 「──あ、いや、その……
 何と言うか、ちょっと素直すぎるとこがあるっていうか……
 まあ、特に失礼が無かったんなら、良いんすけど。

 ……って、あいつ……。
 そ、そっすか。どこまで本気なんだか、どこまでも本気なんだか分かんないっすね。」

にわかに頬が赤らんで、それを誤魔化す様に呟きながら漢字ドリルと相対する。
彼、とも彼女、ともどちらとも呼べる七生の友人がこの教員と会ったのはきっと告白するもっと前のことだろう。
その時から既にそのように公言していたと知ると何だか嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。

「言われなくとも終わらせま───

 何すかそれ!
 つーか別にメールするのに苦労してないし、
 恋文なんて書く宛てが無えし!オトナの漫画だって──」

それはちょっと興味があるけれど。
思わず顔を上げてツッコんでみたは良いけれど、居た堪れなくなって再び顔を伏せる。

ご案内:「教室」に焔誼玖杜さんが現れました。
ヨキ > 「ふふ……少なくとも、一度しか会ったことのないヨキの目と耳にすら、嘘のあるようには見えなかったよ。
 親友の君から見ても『素直すぎる』のなら、トト君はそれだけ正直なのだろうよ」

(顔を赤らめる七生から自然と目を逸らすように、教員用の生徒名簿を見ている。
 自分の発言に相手が顔を上げると、視線だけを彼に向けて)

「………………。君こそえらく素直だな……。
 男らしくて結構なことではないか」

(結んだ唇が小さく震えたのは、笑いを堪えてのことらしい)

「それで?あと何ページ残っているのかな、七生君」

焔誼玖杜 >  
【補習を受ける生徒と、監督する教師。
 その様子を扉の影から覗き見る女生徒が一人】

「東雲さん、頑張ってるなあ……」

【あまりモチベーションは高い様子じゃなかったが、ソレは仕方ないだろう。
 さて問題は、差し入れのつもりで持ってきた弁当箱を渡すチャンスがあるかどうか。
 夏季休暇にはいって報告に帰ったり実家に顔を出したりと忙しかったが、ようやく暇が出来たのだ。
 友達の応援くらいはしたいところなのだが……、邪魔にならないか不安で教室に入っていけないのである。
 なので。両手で弁当箱を持ったまま、ちらちらと盗み見るばかり。
 様子はさながら不審者か、恋患う少女のようにも見えないこともないかもしれないが、実はただの人見知りと緊張があるだけである。
 すっかりと感情も性格も元通りなため、このまま弁当箱を置いて帰ってしまおうかと考えるくらいには後ろ向きだ。
 しかし、扉の影から赤いマフラーがちらちらと見え隠れしているため、ちらとでも視線を向ければ確実に気づかれるだろう】

東雲七生 > 「そう……っすか。
 俺からすれば、あんまりにも素直すぎてちょっと心配なんすけどね。」

鉛筆の尻で頬を掻きながら苦笑する。
いつだったか神社で戯言を真に受けていたこともあったな、とそんな事を思い出しつつ。

「俺だって一応健全な男子生徒なんで……。
 つーか人が真面目に補習してる時に変なこと言わんでください!

 ……あと5ページで今日の分は終わりっす。」

むす、とふくれっ面になりながらも先程から鉛筆は動かし続けている。
普通なら多少集中力が欠けるくらいの方が、むしろこの少年にとっては丁度いいのかもしれない。
しかし流石に扉の影に居る少女にまでは気付く様子は無かったようだ。

ヨキ > 「ならば、危ないときには君らのような友人が、トト君を守ってやるしかあるまいよ。
 その逆に、トト君の素直さが君を助けることだってあるのだろうから」

(平然と言って、穏やかに笑う)

「よいよい。大変真面目で、結構結構。それにしたって何を言う、『変なこと』とは。
 この天国のごとき夏休みに、地獄の学び舎で独り補講を受けねばならぬ君の、緊張を解してやろうというヨキの優しさぞ」

(悪びれもしなかった。あと5ページ、と聞くや、グッドラックとでも言わんばかりに目を細める)

(そうして、教室の外に佇む女生徒の姿に気付いて)

「――おや。こんにちは。七生君に何か用かね?
 どうぞ、入りたまえ」

(ひらひらと手を振って、迎え入れんとする。
 形のよい鼻を大型犬よろしく、すん、と小さく鳴らして)

「何やら、好い匂いのすることであるなあ」

焔誼玖杜 >  
【会話を盗み聞く限りでは、どうやらもうすぐ終わりらしい。
 なら邪魔にならないよう、扉の前に置いて行っても大丈夫だろうか。
 うん、それで大丈夫に違いない。監督の教師がいなければ直接渡しても良かったが、これは止むを得ない判断なのだ。と自己弁護しつつ、手帳から一ページ切って書き添える。
 まったく、数日前まで人の視線があっても渡せていた自分が信じられない気持ちである】

「――ひゃいっ!?」

【と、ソコまでしたタイミングで声を掛けられた。
 頓狂な声を上げながら、ぎこちない動作で姿を現すと、少年を見て、先生を見て、さらに目を泳がせる】

「え、えっと、お、も、もうすぐお昼、なので」

【かなりどもりつつ、扉に一番近い机に両手でもった弁当箱を、機械のように硬い動作で置くと】

「が、頑張ってください!」

【がくん、と腰を折って頭を下げると即座に回れ右。
 逃げるように教室を飛び出していくのでした】

ご案内:「教室」から焔誼玖杜さんが去りました。
東雲七生 > 「そりゃ……分かってますけど。」

もしかしたら既に何度か助けられているのかもしれない。
それは自分の気付かない様なところかも、と思い返してみる。
今思い返してもやっぱり思い当たる様な事は無かったが。
                 これ
「俺にとっちゃもう日常なんすよね、補習が。
 だから別に、変に気を使ってくれようとしなくても──」

言葉の途中でヨキの意識が自分から外れた事に気づき、
その視線を辿って初めて少女に気付いた。会話の中に出てきた“トト”とは別の、それでも変わりなく大事な友人。

「あれ、焔誼じゃん。
 どうしたんだよ、お前も補習──?」

いつも通りの軽い調子で声を掛けたのだが、
緊張していた少女の耳には届いたかどうか。あっという間に教室を出て行った少女を不思議そうな顔で見送った。

「……何だった……んすかね……?」

ヨキ > 「ふん、勘違いするでない。
 落第間近の生徒を指導せねばならぬのは、教師として当たり前の務めを果たしているだけに過ぎん」

(窓の外を見遣り、酷薄なほど冷淡に鼻を鳴らす――が、)

「……だが、もうひとつ。
 トト君から言われたことがあってな」

(七生に向けて顔を引き戻すと、その表情をひどく和らげる)

「彼女は、このヨキを友だちと言った。ヨキもそれを了承した。『先生の友だち』は初めてだと喜んでいたよ。
 君のことを頼まれた以上、ヨキにとっては『友だちの友だち』の力になるのが、いちばんの務めなのでな」

(だから、自分のしたいようにやっているに過ぎないのだと。
 小さく笑って、七生を見ていた)

「………………、」

(それから目をやった、まるでサイボーグと紛うばかりの少女の動き。
 ぱちぱちと目を丸くして、脱兎のごとく駆け出してゆくのを見届ける)

「……行ってしまったな」

(徐に教壇から立ち上がり、ホムラギと呼ばれた生徒が駆け去った廊下を見遣る。
 姿の影もかたちも見えないことを確かめると、彼女が置いていった弁当箱を手に取った)

「――七生君。どうやら、君を応援する者は多いらしいな」

(壊れ物のように恭しく手にした弁当を、にこりと笑って七生の前に置く)

「いいじゃないか、差し入れ。
 これでいよいよ熱が入るというものだろう?
 夏の弁当は足が早い。やるべきことを終わらせて、早いところ味わうがいい」

東雲七生 > 「うっ、そりゃそうっすよね……
 落第かぁ……言葉にすると結構重いっすよねぇ。」

あはは、と乾いた笑いとともに最後のページを片付けようとしたが。
続く言葉に顔を上げる。トト、という名前に反応したというのも否めないが。

「『友だちの友だち』……
 ははっ、そっすか……友達の友達かあ、俺も初めてっすよ、友達の友達が先生だなんて。」

何だか回りくどいっすね、と七生は無邪気な笑みを浮かべて付け加える。
それに先生まで友達にしてしまった友人が、何とも“らしい”ので笑いを堪えきれなかった。

「行っちゃいましたね──

 あ、今のは焔誼玖杜っていって、歳は一個下なんすけど同じ一年で。
 ちょっとした縁で夏休み前は弁当作って貰ったりしてたんすよ。
 ……まさか夏休みにまで作ってくるとは。」

呆れた、と言わんばかりに焔誼が去った後の扉を見ていたが。
ヨキの言葉と、机に置かれた弁当箱をじっと見つめて。

「応援……か。 確かに、そうっすね!
 せっかく作って貰ったんだし、ちょうど腹も減って来たし!
 あとちょっとなんで、早いとこ終わらせちゃいますよ!」

ヨキを見上げて日輪のような笑顔になる。
少なくとも自分を気にかけてくれてる友人が2人も居る。それはとても気恥ずかしく、しかし、とても暖かく感じられた。

ヨキ > (七生とともに、暫しくすくすと笑って。
 椅子に腰掛け直し、背凭れにゆったりと身を預け、七生の朗らかな顔を見ている。
 この教師の癖なのだろう、犬が動くものに目を奪われるかのように、真っ直ぐに)

「いい子だ」

(一言。七生へとも、トトへとも付かず、穏やかに呟いた。
 同級生についての話と、発奮したらしい七生の様子に、笑って頷き返す)

「焔誼君、か。
 成績はまだしも――ヨキ個人としては、それほど心配することはなかったな。
 漢字が書けなくとも、可愛い女の子が『少なくとも』二人は応援してくれる、と」

(まるで七生と同じ歳の頃の少年がからかうかのように、小さく肩を揺らして笑った。
 やがて鉛筆を動かす彼へ向けて、)

「……もうすぐ終わろうという頃合であるか。
 したらば、七生君。君、口の堅さに自信はあるかね。
 『今から起こること』を口外せんと、約束出来るか?」

(妙に堅苦しい調子を作って、首を傾げる)

東雲七生 > (笑い合っていたが、ヨキが席へと戻れば思い出したようにドリルに鉛筆を走らせる。
 同じ動きを少しずらしながら5回。そして少し横にずれて別の動きで同様に。)

「んぐっ、ちょっ、先生までそんな事言わないでくださいよ!
 ただでさえたまにからかわれるってのに……クラスメイトに、っすけど。」

(そんなんじゃないんすから、と“そんなん”の説明もなしに否定する。
 その顔は先程よりも赤くなっていた。)

「ええまあ、もうすぐ終わりますよ。

 ……ほぇ?口の堅さ?
 まあお喋りなのは見とめますけど、
 言って良い事とそうじゃない事の区別くらいはつくと思うんすけどね!
 それに、約束は絶対に守るのが信条っすから。」

急に口の堅さを問われて怪訝そうな顔でヨキを見る。
いきなり何なんだろう、と紅い瞳が揺れ、鏡に映したように首を傾げた。

ヨキ > (どうやら七生も、負けず劣らず素直らしい、と、愉快そうに笑いながら。
 自分の言葉に不思議そうな様子を見せる七生を余所に、教壇の下で何やらごそごそと漁っている)

「うむ。ならば良し。
 トト君も……人と人とが交わす『約束』というものを、とても大事にしているようだった」

(問わず語りにつらつらと話しながら、取り出したのは小さな黒いポーチ。
 やおら椅子から立ち上がり、その中身を探りながら七生へ歩み寄る。
 近付いてみると、その身体は長身と相まって随分とひょろ長い)

「――これは、ヨキからの差し入れだ」

(弁当箱の隣に、ことり、と『白いもの』をひとつ置く。
 透明な袋に包まれてひんやりとしたそれは――

 アイスバーだった。
 真っ白なアイスの中に、桃やパインや、小豆がぎっしりと詰まっているのが見える。

 いわゆる白くま、と呼ばれる、アレだ)

「君にくれてやろう。貴重な買い置きの、最後の二本だ。
 夏場の弁当より、尚のこと短命ぞ」

(不適に笑って、七生の反応を伺うように見下ろす。
 その顔を見上げれば、答えも待たずに自分用の白くまアイスの包装を破り、一足先にぱくりと齧りついていた。

 練乳アイスの、ほんのりと甘い匂い)

東雲七生 > 「そういや、そうっすね。
 やたらと約束を推してくるんすよね、あいつ。
 別にダチなんだから約束なんてするまでもないだろ、って一回言ったんすけど。」

そんな事を思い出して語りながら、最後の一字を書き終える。
満足げに吐息を漏らしながら近づいてくる細い影を見上げた。
身長が、羨ましい。

「へ? 先生からの、差し入れ……

 ってぁ、これ白くまのアイスバーっすか?
 おおおお! 俺これ食うの初めてなんすけど!たまにスーパーとかで見かけても中々手出しづらかったんすよね!」

机に置かれたそれを手に取り、目を輝かせながら眺める。
夏場のアイスに勝るものなど少なくともこの島には無いだろう、と言わんばかりの表情である。
なるほど確かに教員が補習を受けている生徒に差し入れするのは口外出来ないな、とアイスバーとヨキの顔を交互に見て、
七生はこくこく頷いた。合点承知だ。

「りょーかい!
 ちょうど終わったし弁当の前に先にこっち食っちゃうっすね!」

包装を破って純白を外気に触れさせてやる。
うっすらと冷気を漂わせるそれを見て唾を飲み込むと、同じく齧りついた。

ヨキ > 「彼女にとっては『約束』が、それを交わすことが、交わせる相手のあること自体が、さぞ目新しく、甲斐のあることなんだろう。
 ヨキもそうだった。こちらの者たちにとっては瑣末な出来事のひとつひとつが、ひどく新鮮だったよ」

(話すうち、七生の手が止まる。
 無事に終わったらしいと見えて、ヨキの方もどことなくほっとしたかのように見えた。

 差し入れに喜ぶ相手を見下ろし、あっは、と声を漏らして笑う)

「――はは!よかった。
 今日は君ひとりと聞いていたのでな。
 人数が多ければ、ヨキが独りで二本とも食うところであった」

(心底から美味そうに齧りつく様子からして、いかにもヨキの好物であるらしい。
 七生の隣の座席に腰を下ろしながら、にやにやと笑って、アイスをもう一口)

「どうぞ、召し上がれ。
 やるべきことを終わらせた後ならば、美味さも一入であろうから」

東雲七生 > 「ああ、トトもそう言ってた。約束すること自体がとても嬉しいんだ、って。
 こちらの者……そっか、ヨキ先生も異邦人なんすね。」

なるほど、と何度も頷きながら聞いている。
人の素性に関しては疎い面がこの少年にはある。

「そりゃあ大変っすよね!美味いもんでも流石に食い過ぎは良くないっすし?
 特にこういう、牛乳ものはお腹もゆるくなったりするから…!

 けどまあ、こんな美味しい思いが出来るなら夏休み補習もまあ悪くないっすね!」

普段は滅多にない贅沢だが。
それでも十分にモチベーションは回復するのだろう。
笑みを崩さないままに、アイスバーを頬張る。

「んむ、あ、遅れたけどいただきまーす!
 うんうん、頭使って疲れた時は甘いもんが一番!」

ヨキ > 「そうだ。ヨキが未だに好きこのんで教師を続けているくらいには……ここの暮らしは、楽しい。
 だからこちらへ来て間もないトト君にとっては、今がよほど楽しいときなのではないかな。
 彼女は幸いにも、友人に恵まれたらしいから」

(君のことさ、と、戯れめかして微笑む。
 食い過ぎという語には、目を細めて首を振る)

「いいや?生憎とヨキは、この上背で、しかも犬なのでなあ。
 食っても食い足りんほどであるわ。

 ……果たしてこんな風に生徒を甘やかす教師が、ヨキの他にどれほど居ることか。
 調子に乗って補習を受けて、アイスの代わりに氷の魔術を食らっても知らんぞ」

(牙の並ぶ、大きく裂いたような作りの口で、ぱくぱくとアイスを頬張る。
 七生より一足先に食べ終えてしまうと、犬に似た薄い舌で、自身の唇を小さくぺろりと舐める。
 壁の時計を見遣って、徐に立ち上がる)

「……さて。
 君は無事に、一仕事終えたようだし。ヨキもそろそろ、『次の仕事』へ行くとしよう」

(次の仕事――つまりデッサンの夏期講習会、とやらだ。
 大きく伸びをしながら、七生が解き終えた漢字ドリルを回収する)

「今日は食堂も開放されているし……風も心地よい。
 日陰とて、斯様に湿っぽい教室よりは涼やかであろう。
 問題を解いて熱の入った頭、存分に冷やして過ごすがいい。

 補習は以上だ。
 ――それでは、東雲七生君。お疲れ様であった」

(書類をまとめ、七生に向かってひらりと軽く手を挙げる。
 ではね、と和やかに挨拶して、教室を後にする――)

ご案内:「教室」からヨキさんが去りました。
東雲七生 > 「そういうもんすか……俺、産まれも育ちもこの世界だからなあ。
 それでも初めて見るものとかいっぱいあるんすけどね。
 そういう意味じゃ異邦人も元々居た俺らもあんま変わんないかも。」

(買い被り過ぎっすよ、と笑いながら肩を竦める。
 むしろ友人に恵まれてるのは自分の方だ、と。)

「ヨキ先生は、犬……なんすか。
 普段は、今だってとてもそうは見ねえっすけど。
 なるほど、それなら一杯食っても大丈夫か。

 あはは……確かに。
 けどまあ、狙って受けられるもんでもないんすよね、補習って!」

牙を、舌を見れば確かに犬のそれに似ている気がして思わず感嘆する。
なるほど犬だ。でも、それ以外は人だ。
そういえばさっき焔誼が弁当を持って来た時も、この先生“嗅ぎ取って”いたなと思い出す。


「あっ、はい!
 ヨキ先生、お疲れ様でーす!」

軽く一礼して教室を後にする背を見送る。
このアイスの恩は忘れずに居よう、と心に決めた七生であった。

「とりあえず、せっかくのオススメだし食堂の方でも言ってみるかな。」

荷物を纏め、弁当を片手に。
本日の補習を終え自由の身となった少年は、教室を後にした

ご案内:「教室」から東雲七生さんが去りました。