2015/09/12 のログ
■ライガ > すっ、すっ、と布の擦れる音がわずかにして、灯りの乏しいロビーを長身の人影が横切ってゆく。
そのシルエットはいささか慌てた様子で、ベンチを気にも留めず、教室へ通じる階段を上がってゆく。
……また少しして、同じような足取りで戻ってくると、途方に暮れたように頭を掻いた。
と、そこでベンチの人影に気付き、静かに歩み寄ってくる。
「あー、と。暗くてよくわからないけど、たぶん金工のヨキ先生…?
教室に忘れ物したみたいなんだけど、鍵持ってないですよね?」
実は髪の毛先までしっかりと見えているが、まあ、そういう視力は一般の生徒じゃないよなぁ。
■ヨキ > (廊下を横切ってゆく影を、じっと見るでもなしに一瞥する。
獣の目は、それが学生の姿であることをよく察した。
委員会によって自治が行われている常世島のこと、夜間にも校内へ入る学生はあるはずだ。
何も言わず様子を見ていたのが、投げられた声にいよいよ相手へ目を向ける。
金色の双眸が、蝋燭のように微かに光ったように見えた)
「こんばんは。そう――ヨキだ。君は確か公安の……ゴルバドコール君だったか。
鍵?ああ、今ならちょうど……」
(元より獣人の視力のこと、視えていることを隠し立てはしなかった。
点けるぞ、と言い添えて、壁のスイッチに手をやる。
自分たちの頭上の蛍光灯だけが、ふっと明かりを灯す。
眩しげに目を眇めてから、ライガへ笑い掛けた)
「見回りを終えて、帰る前だった。運がいいな。一緒に行ってやるぞ」
(左手に、巡回のための鍵束。
右手にコーヒーの缶と折り畳んだ紙切れを手にした姿だ。
その髪の毛先まで見通す目ならば、畳まれた紙から覗く『風紀委員会』の文字も察せられよう)
■ライガ > 「あ、ライガでいいですよ、長い名前なんで。
そっちの姓を呼ばれたのはあんまりないですけど」
仕事かと聞かれると、手を振って訂正する。
「いや今は仕事じゃなくて、眼鏡ケースどっかに置き忘れちゃって。
……仕事は、最近また、個人単位で挙動の怪しい人増えたもんですから、困ってるところなんですよね。生徒だけならまだ何とかなりそうですけど、それ以外となると。
といっても個人であちこち出張るほど、資金的に余裕あるのなんかそうそう多くないでしょうけど。
……資金出してるケツ持ちが判れば、すこしは楽なんですが」
やや遠い目をしながら、ぽつりとつぶやくように話す。
口座割り出して凍結したりとか、外交的な繋がりをたどってくとか。
グローバルな繋がりがあった場合のために、外国への『留学』制度を活用していたりもする。
まぁこの辺りは知っててまずい情報でもない。相手は教師であるし。
天井の一部が明るくなれば、助かります、と表情を明るくし、
あそこなんですけど、と階段を上がってすぐに見える教室の扉を指さす。
ヨキ先生が手に持つ紙切れからちらりと文字が見えると、顔をわずかにしかめた。
「あ、その掲示、僕も読みましたよ。
もしホントだとしたら、サイエル先生、なにやらかしてたんですかね……
以前公園で会ったことがありますけど、サボり魔スターってくらいしか印象わかなかったんで」
■ヨキ > 「はじめに姓を呼ぶのがヨキの慣わしでな。それでは遠慮なく、ライガ君と」
(ライガの話に、ふん、と鼻を鳴らす)
「公安といい、風紀といい、苦労が絶えんな。
狼藉者らときたら、『郷に入らば郷に従え』という言葉を全く知らんらしい。
この島では他ならぬ君が、君らこそが法だと言うにな。労いのひとつや二つでは、とても足りんよ。
……よくやってくれているとも」
(励ますように、ライガの背を軽やかに叩いた。
示された教室へ、相手を先導して歩き出す)
「ん……ああ、これか。サイエルの報せ、君も見たか。
……さあ、ヨキも彼のことを、詳しくは知らんでな。
ヨキは彼と一度酌み交わしたが――悪党にはとても見えなかったとも。
果たして利用されたか……よほど狡猾だったかの、どちらかだ」
(全く残念だ、という言葉が――些か無感情に冷たく、廊下に低く響いた。
靴音を微かに響かせて階段を登った先、目的の教室に辿り着く。
開錠し、扉を引く。ライガを顎先で室内へ促した)
■ライガ > 意を得たように、手を小さくポンとたたく。
「ああ、そう言う慣習だったんですか。
たしか、姓、ファミリーネームを優先させるのは、戦争やら何かしらで名声を上げる機会に、一族郎党全員がその恩恵を受けられるようにした結果だって、そういう説があるらしいですけど」
「僕なんかは、勝手に召喚された異邦人の身で、そう言うのとは微塵も関係ないですし、
何より、ゴルバドコールってのは、向こうで信仰してた雷帝の名前なんですよね、元は。
忘れないようにつけてるだけで姓は遠来の方ですよ」
肩をたたかれると、
ありがとうございます、と素直に頷き。
「前線で戦ってる方々と違って。
仕事がハッキリ成果に表れるわけじゃないですから、
時々、摘発にも顔出さずに何やってるんだって、言われるんですけどね」
手を顎に当てて考え込みながら、
足音をほとんど立てずに、すすす、と歩く。
「ま、あまりこの段階でこういう事は言いたくないんですが。
……もし、サイエル先生が本当にクロで、保健医をやってたことが、何かしら関係あるとすれば、ですけど。
怪我人病人の詳細な身体情報、自傷か・事故によるものか・事件に巻き込まれたか、
その辺からアプローチはいくらでもできるでしょうから。
他の一般的な教師より、警戒される可能性も低いでしょうし。
その紙には潜入ってだけ、書かれてますけど。
仮に情報でもひっこ抜かれてるとしたら、結構厄介ですね」
扉を開け、中へ促されれば、いそいそと早足で机の一つへ向かう。
引き出しを開けてひっくり返し、中を改め始めた。
■ヨキ > 「ほう……神の名を付けていたのか。遠方には、始祖たる神の名を冠する氏族も少なくないと聞く。
難しいな、人間の名というのは。どれが個人を指し、家族を示すのかがなかなか見当もつかん。
まあ、慣わしというに少々大げさではあるがな。癖のようなものさ」
(無人の校内を歩きながらに、視線は右左と警戒して動く。
ライガへは向かず、そのまま話を続ける)
「案ずることでもないだろう?君は君の仕事をこなしているのだからな。
人にはそれぞれ、領分というものがある。
『サボり』を標榜するでもなく、きちんと務めを果たしているなら、何も責められるべきことはないとも。
元よりヨキにとって、公安は高嶺に座する身分さ。
知り合いこそ少ないが……みな真面目にやっている。感心なことだ」
(顔だけで振り返り、肩越しににんまりと笑う)
「サイエルの人好きのする性質が、彼の暗器だったという訳だ。
……ふん、情報が抜かれたからとて何になる。
本土が財団を取り潰しに掛かるか?
もはや『門の向こう』とあまりに近しいこの時世――
この常世島そのものを抜きにして、異能も異邦人をも語れるものか。
何があろうと、ヨキは財団に従うに過ぎん……
財団に、この島にとっての敵か味方か。判ずべきことはシンプルだ」
(教室の入口に緩く凭れ、ライガが探し物をする様子を眺める)
■ライガ > 始祖っていうほどのつながりもないんですけどね。と、
そう、苦笑する。
「ただ、雷帝に関しては、こっちの世界に来てから、
祈りが届きにくくなってるんで、
ちょっと心配になってきてはいるんですけど」
「この一番奥になかったらあきらめるしかないけど…いや、あった」
やがて引き出しの奥から、紺色の眼鏡ケースを取り出す。
中にクロスが入っていることを確認してひとつ頷くと、ポケットにしまいこんだ。
「よし、へこみも傷ももない、と
あとは終わりです」
教室の扉から出て、入り口付近にいたヨキ先生へ向かって答える。
「どうでしょうかね……敵対するわけでもなく。
得た情報を誰かに売りわたす、そういう可能性も考えられるでしょう。
見る人が見れば、この常世島は潰す対象でなく、むしろ宝の山でしょうから」
流出した情報をもとに、例えば異能者目当てでおしかけ、学生に危害を与えるような連中がやってきては困る。
■ヨキ > 「――ふむ?祈りを届ける、と。
届いたかどうかが感知できるのか、君の神は。
その恩恵が、君の力の源にでも?」
(『届きにくくなる』ことをも察せられるという、雷帝なるもの。
小首を傾げて尋ねる。
無事に失せ物を見つけたらしいライガが教室を出たのを確かめて、再び施錠する。
紐に繋がれた鍵束を、戯れにじゃらりと鳴らす)
「斯様に雑多な、坩堝のごとき常世島の情報が……どれだけ有用やら。
異能も、魔術も、異邦人も、そして怪異も、個々があまりにユニークに過ぎる。
……ふ、その『宝の山』の番人こそが、君ら公安の仕事ではないのか。
揺らいでもらっては困るな。異能とは元より――解析さえ果たすことの叶わない、超常の力よ。
売られるほどの情報で、その全貌が明かされるとは思わんな」
■ライガ > 「まあ、僕も半分くらいわかってないので、あまり偉そうなことは言えませんが。
要は“祈り”とか“信仰”を糧にするので、その手の感知や察しは難しくはないんではないでしょうか」
指摘されれば、表情が固まり、やがて息を大きくはいた。
「……そうでしたね、
ちょっと弱気になってました」
思えば、異能の先生相手に何言ってたんだろう。
「僕は異能、使えませんけど、『宝の山』を狙う『盗賊』くらいは撃退しておきたい、そう思うこともありますし」
施錠を目視した後、もう一度、頭を下げる。
「それじゃ、わざわざありがとうございました。
あとは今夜は帰ります、たまに休まないと」
■ヨキ > 「祈りや信仰を糧に……それもまた、異能と同じほどにブラックボックスのようだな。
判っていないにせよ、名に冠するほどの信仰を抱けるのならば。人間の信心とは、全く力強いと思うよ」
(息をつくライガに、ふっと笑い掛ける)
「公安ともなれば、この島で最も多忙な人間の集まりだ。
近ごろは、とみに騒ぎも多いからな……心に陰りが差したとて、おかしくはない。
ヨキはいつでも力になろう。撃退するにも、人手は必要だろうから」
(会釈を向けられて、緩く手を振り返す。
たまには休息を、と口にする彼の顔を覗き込む)
「どう致しまして。
気を付けて帰るのだぞ。……休めていないのならば、尚更だ。
こなせる仕事も、こなせなくなってしまうでな」
(おやすみ、と短く挨拶の言葉を投げて、踵を返す。
職員室へ向けて歩き出し、やがて廊下の暗がりの向こうへ姿を消す)
ご案内:「ロビー」からヨキさんが去りました。
ご案内:「ロビー」からライガさんが去りました。
ご案内:「ロビー」に雪城 氷架さんが現れました。
■雪城 氷架 > 休み時間
所謂講義と講義の間の、移動および準備のための時間である
ただしそれは連続して履修した講義のある生徒にとってのことで
履修登録次第ではまるまる1回分か2回分の講義の時間が空くことがある
ロビーのソファーでタブレットとにらめっこする少女、雪城氷架もそんな一人であった
■雪城 氷架 > 大半の学生がそうであるように、氷架はゲームが好きである
主に女子寮の部屋でこっそりやるいかがわしい男性用ゲームが好きであったが、
さすがに学校でノートPCを持ち込んでやれるほど無敵ではない
流行のソーシャルゲームに留まるというわけだ
とはいえこの業界も昨今は成熟し、
単なるカード集めのゲームから、立派にゲームと呼べる内容のものに変わりつつある
氷架が子供の頃に近所の兄貴からもらったレトロゲームのようなものを思い出す
媒体が変わっただけで、内容はシンプルから凝ったものへ、
テレビの前で遊んでいた時代のゲームの歴史を、今は携帯やタブレットが高速でなぞるように進んでいるのだ
なので当然、遊ぶ側としては少しずつ難しくなってくる
大きな違いといえば、お金を支払うことでその難易度が変動することだろうか
「……あーやめやめ、だめだやっぱ進めない」
行き詰ったのか、ソファの脇にタブレットを放り出す
■雪城 氷架 > タブレットを鞄にしまって、ソファから立ち上がる
自販機に硬貨をいれ、コーラのボタンをプッシュ、ガタン、と結構な音と共にペットボトルが排出される
…いつも思うけどこの結構な勢いで落下したような音の割にコーラは振られていない
不思議なものである
ペットボトルを手にソファへ戻る
次の講義まで一時間弱、暇である
■雪城 氷架 > 真面目な子ならこういう時間は最大限利用して、前の時間の講義の復習や次の講義の予習に費やすのだろう
しかし氷架は座学が嫌いである
自身の異能力の理解に関わるため必修にされた異能物理学などの一部の講義と、
あとは楽に単位をとれそうなものしか履修していない
午後からは実習区に移動しての講義だ、どちらかといえばそっちの予習をしたい
ペットボトルのキャップをあけて、直接口につけてごくごくと飲む
ちょっとキツめの炭酸と甘みが心地よい
■雪城 氷架 > とはいえ、氷架の異能は殺傷行為を可能とするもの、に属すると判定を受けている
実習区以外での目立った行使は禁止である
バレない程度にはよく使っているのだが
そう、例えば───
手で長いツインテールをぱさりとソファの上へ散らす
立っていても地面に擦りそうな髪の長さだ。当然座れば床へと垂れる
そうなれば無論埃もつくし、汚れもする
そんな時には、前期の猛勉強で培った知識と異能の操作が役に立つ
雪城氷架の異能力は分子運動掌握<マクスウェル・コード>
繊細なイメージを必要とするが、髪についた汚れを分子分解することも容易い
目を閉じて呼吸を整え、ほんの僅かな時間の集中
パッ、とソファに垂れた長い銀髪が、風に踊るように跳ね、キラキラと光る
あっさりと、汚れの除去完了である
女の子なのだから身嗜みには気を使おう
男の子のような性格の氷架をせめて外見だけでもと頑張った母親達の努力は(一応)活きている
■雪城 氷架 > ソファにかけたまま、鞄から小さなポーチを取り出して化粧直しをはじめる
まわりには誰もいないし、気にすることもなく
手慣れた様子で薄化粧をなおしていく
───そんなに時間もかからずに終了
手鏡を覗き込んでぱちぱちと瞬き
よし、ばっちり可愛い
■雪城 氷架 > 講義終了のチャイムがなる
「ん」
残り少しになったコーラを飲み干して、ゴミ箱に放り投げる
ガンっとゴミ箱の縁にヒット、外れだ
が、落下するペットボトルの真下に出現した氷の粒がパンッと弾け、その勢いでペットボトルはゴミ箱に放り込まれる
「おーらいおーらい、よいしょっと」
他愛のない、日常に、自然に異能の力を使うこと
完全なる力の制御にはそれが第一歩である
「げ、次第二教室棟じゃん」
鞄を抱えて、少し慌てた様子の小走りで少女は走るのであった
ご案内:「ロビー」から雪城 氷架さんが去りました。
ご案内:「保健室」に平岡ユキヱさんが現れました。
■平岡ユキヱ > 放課後に入る時間帯、チャイムの音で目が覚めたのか、
ゆっくりと上半身をベッドから起こして頭を緩く振る。
「む…」
授業中に倒れ、どうも運ばれたらしい。廊下を歩いていて、
急激な倦怠感とめまいに逆らえなかったところまでは覚えている。
「あー…。無遅刻無欠勤が自慢だったんだけどなー…」
心当たりはある。指先でちらと自分の毛先をつまみ、それがほのかに青白く光るサマをまじまじと眺める。
制御しきれぬ異能の結果だ。
■平岡ユキヱ > 「…やっぱり止まらないな」
何もしなかったわけではないが、差し当たり世話になった病院では隔離処置扱いとなり慌てて自主退院。
どこぞの研究施設では副作用の激しい投薬で抑え込まれかかるなど、なかなか満足のいく直し方、というのと巡り合えないでいた。
ある医者曰はく、異能用の神経回路が先天的な欠陥を持っているようである。
ある科学者曰はく、異能そのものが命を代償にする類のようなので、投薬で異能を封じて一般人に戻るべきである。
あるい魔術師曰はく、君の脳髄をホルマリンに漬けて将来のために保管したい。
「…ダメだな。どれもイケてない」
ふう、と息を吐き、着衣をただす。寝癖がついていた。
ご案内:「保健室」に朝宮 小春さんが現れました。
■平岡ユキヱ > リボンを、シュシュを解き、髪を下す。
「鞄…あった!」
級友に感謝なり。と自分の中から身だしなみ用の道具を出すと、
軽く髪を濡らしてスプレーし、ピンと張った背筋のまま櫛を通す。
それは子女の化粧というよりは、かつて侍と呼ばれた者たちが行うような、
緊張感さえ漂う葉隠の思想に根差した「身だしなみ」を整える行為であった。
■朝宮 小春 > 本日は髪を太い一本の三つ編みにした眼鏡の教師。
倒れた生徒を保健室に運んだのはその場にいた一般生徒。彼女は、その生徒から通りがかりに「こんなことがあった」と聞いただけ。
もし知っている生徒であれば、と思い立てば、講義終わりに立ち寄った次第。
「………あ、ら。」
物音がする。もう起き上がっているのだろうか。
全く知らない生徒だったら、という不安をちょっとだけ頑張って打ち消して。
からり、と扉を開く。
「……あら、もう、大丈夫?」
こちらは、顔と名前が一致する程度には知っている。
もしも生物の授業を取っているならば相手も知っているだろうけれども……
教師の知名度というのは難しいものだ。 あの眼鏡、で覚えられる場合もあるのだ。
乳眼鏡とか言われた時には家でお酒久々に飲んだ。
■平岡ユキヱ > 「あっ、朝宮先生…!」
ベッドから立ち上がると、ぺこりと頭を下げた。
「すいませぇん。お騒がせして…。ちょうど、先生の授業を受けに移動する途中だったかと…」
あんまり覚えてないんですけどねー。と苦笑いしながら、
ストレートになっている頭を申し訳なさそうに軽く掻く。
知らぬ相手ではない。
教師陣の中でも若いほうで、この学園では逆に珍しく?
普通の先生枠の人だとユキヱは認識していた。
「仔細問題なし! 生まれ持った頑丈さが取り柄なんで!」
わはは! と豪快に笑ったのち、コホンと小さく痰がひっかかったような咳をする。
失敬、とバツが悪そうに苦笑した。
■朝宮 小春 > 「ああ、良いのよ、まだ座ってなさい?」
立ち上がる彼女に慌てて掌を向けて、どうどう、と抑えるように。
頭を丁寧に下げられれば、相変わらずの礼儀正しさにほっこりしてしまう。
「いいのよ、後で何処をやったのかを教えてあげるから、まずは心配しないで。
それよりも、すぐに目覚めたようでよかった。」
申し訳無さそうなその表情も、この素直な教師からすれば有り難いもの。
授業なんて休めてラッキー程度に考えている生徒には、どの先生も頭を悩ませているものだ。
悩ませずにすっぱり切り捨てる先生もいるにはいるけれど。
「ふふ、なるほど? じゃあ私と一緒ね。 私もこう見えて頑丈なんだから。」
大きく笑う彼女の姿に、くすくすとこちらも笑って。 ぽん、と自分の胸を叩いてみせる。
「ただ、それでもここでは先生と生徒なのだから。
頑丈なものでも、傷はついてしまうものね。 急ぎでなければ、少しゆっくりしていくといいんじゃないかしら。
お茶でも入れましょうか?」
と、立ち上がる。
こういう時、人は日常生活にすぐに戻りたがるものだ、という経験。
様子を見る、という意味も込めてお茶に誘って。
■平岡ユキヱ > 「はい、いただきます」
ニッ、と笑ったのち、促されるままにベッドに座ると丁寧に再び頭を垂れた。
軽薄そうな外見とは裏腹に、どこまでも骨太なのがユキヱさんスタイルである。
「少しばっかり生き急いでいるのは自覚していますけど…。
ま、それでいいかなと考えています。
ずるずると明日こそ明日こそ、と留まるよりは、動いたほうがよっぽど良い」
今動かぬものに次はない! と冗談交じりに言い切った。
ところで…、最後付け加え。
「だけど、いいんですか、朝宮先生? この学園は生徒も多い。
放課後とはいえ先生方は仕事も多いのでは?」
ちょっとだけ心配そうに、そう小首をかしげた。
■朝宮 小春 > こういう古風な生徒は嫌いではない……というより、昔を思い出す。
自分もこうだったなあ………ああ、いや、もう少し自分の意志を示せないおどおど系だった気もする。
「ええ、じゃあ、少しゆっくりしましょう。
貴方のその考え方は、私もその通りだと思うわね。
動かないでいると、悩んでしまって、動けなくなってしまうもの。」
明日やろうは馬鹿野郎、って言葉もあるわね、とその言葉に合わせて、笑う。
「……?」
相手の言葉を聞いて、少しだけ微笑んで。
その額を、つん、っと突っついてやることにする。
「生徒がそんな心配はしないものよ。
先生と生徒、なんだから、甘えてしまえばいいのよ。 甘え過ぎも良くないけどね。
それに、生徒の相手をするのがお仕事でしょう? 今だって立派なお仕事中。
………お仕事中ってことにしておいて?」
なんて、お茶の準備に立ち上がり……振り向きながら、片目を閉じて舌を出した。
本当は、生徒の相手をするだけが仕事ってわけでもないのだけれど。
それでも、先生にまで気を遣う生徒にこそ、気を遣わせたくない、わけで。
■平岡ユキヱ > 額をつつかれ、少し力みすぎていたかと我に返り、思わず笑ってしまった。
「じゃ、遠慮なくー。…保健室ってお茶菓子ありましたっけ?」
ハッハー! 風紀のガサいれじゃー! とか言いながら立ち上がり、適当な棚から捜索を始め…
「…」
薬品ばかりである。煎餅の一つもねえ。
「朝宮先生! お茶菓子部隊は全滅であります!」
オ○ナインくらいしかねえ! とガッカリユキヱさん。
渋々と席に戻り、ふうと息を吐く。
「…失敬」
ふいに、ポケットに入れていた緊急連絡用の風紀用スマートフォンがなる。
オぺレーター曰はく、商店街にて事件発生、刑事課は蒼穹からの情報らしい。 ならば。
「…彼女がいるのか。ならば援軍は過剰戦力だな」
そう自信たっぷりに返すと、今は茶の時間である!
と言ってブチと通話を切ってしまった。
■朝宮 小春 > 「無いんじゃないかしら……? ああ、そういえば風紀委員だったわね。」
うぅん、と少し悩む仕草は見せつつ、お茶の缶を開けて。
二人分の準備をしている間に、後ろから悲しい報告が届く。
「………仕方ないわねー。
じゃあ、準備してあげるから、これ、お茶を二人分お願いできる?」
なんて、お湯を入れる前の急須をはい、どうぞ、っと差し出す。
「こんな時もあろうかと、ちゃんと自分の鞄に準備してあるのよ………。
………まあ、単なるおやつだけどね。」
言いながら、ごそごそと鞄を探り。
学食によく1個単位で売っている最中を取り出した。3つも取り出して、えへん、っと満足気に胸を張ってみせる。
準備がいいでしょう、とでも言いたげだった。
………?
「何かあったの?」
一つ、尋ねる。援軍という言葉からして、荒事であることはなんとなく分かる。
■平岡ユキヱ > 「…い、委細承知!」
…ってお茶入れとかよく知らね。と、80度? だったかな? とかふんわりとした記憶で
急須に入れる前の湯を少しだけ覚ましてから、目視というか勘でぎこちなく急須に湯を注ぐ。
ああ乙女たらんとの修行不足なり平岡ユキヱ。
「2人で3つを分け合うんですか…?」
いやまてそもそもこの人、1人で3個常備してるのか、とか思ってないよという
思いが、戸惑いが多少出るがそれは仕方のないことだ。
「これが戦力の差…?」
教師の胸元を観察しながら、しばし考える。
荒事については、軽く笑って流す。
「異邦人街は商店街にてテロ騒ぎが。しかし心配ご無用。私の知人ですが、
刑事課のとびきりの奴がいるので敗北はありません!!」
えっへん! とこちらから一方的に認定した友人『蒼穹』なる者が、
いかに、魔術と異能に長けた『人間』であるかと力説した。
真実とは齟齬があるかもしれないが、噂は伝聞はえてしてそういうものである。
■朝宮 小春 > くすくすと笑ってしまう。一々古風ねえ、なんて口には出さないけれど。
ちなみにこちらもお茶の入れ方なんてよく知らないので、そのまま熱湯を注ごうとしていたのは秘密だ。
乙女度の高そうに見える風貌ではある。
「ええ、それくらいあれば足りるかな、って。
ほら、夜遅い時もあるから、お茶で一息つくことも多いのよ。
今日はここで一息かしらね。」
常備していた。にっこり笑顔で胸を叩き、私に任せなさい的なオーラを出す。
戸惑っているなんて思いもしていないようだ。
戦力の差を揺らしながらも、椅子に腰掛け。
「………………そう、なのね。
貴方が言うなら、その子はきっと凄く、強い子なんでしょうね。」
名前はともかく、その強さまでは理解の及ぶ範囲を超えている。
お茶をお互いの側に置いて、とりあえず一つづつ、最中を分けあって。
その上で、小さく吐息をついた。
「やっぱり、もしもその援軍がいなかったら、貴方は飛び出して向かっていたのかしら。」
相手の強い声に対して、こちらは少しだけ声のトーンを落として、じぃ、と首を傾げながら見やる。
■平岡ユキヱ > 「夜が遅い…ははあ。先生はやはりこなされる仕事も…。
いや、特にこの学園は大変かもしんないですね。
この島の計画は国連も噛んでいるとか…生徒とはいえ、何となく激務さは察します」
異能だ魔術だ。明らかに対応困難な生徒が沢山いては普通の教師の倍以上は激務だろう、と思う。
だからこそ敬意を示すのだ。そんな中で、普通であることがどれ程困難であることか、ユキヱには想像もできない。
「無論です。彼女の実力を信頼しないではありませんが。再度要請があれば、今ゆくのみです」
それは風紀がどう以前に、友情に反する。とさも当然のことであるかのように。答えた。
■朝宮 小春 > 「仕事が多いのは平気……と言いたいところなんだけれど。
まあ、そこは察してくれるわよね。」
お茶に口をつけながら、片目を閉じて苦笑を一つ。
その上で、目を少しだけ閉じて………………小さく吐息。
「分かってはいるんだけれどね。
貴方がきっとそう言うことも分かっているし、それが貴方のいいところでもあるし。
私だったら、少しばかり迷ってしまうかも。」
きっぱりと言い放つその姿を、凛としている、と言うのだろう。
「私がここに来て一番辛かったことは何だと思う?」
唐突な言葉を投げかけながら、最中をぱくり、と己の口に咥えて。
甘い餡の匂いとお茶は、よく合うものだ。………まとまらぬ思考をそのままに、首を傾げて。
「……こうやって教え導く立場でいながら、生徒に守ってもらわないといけないこと。
ごめんなさいね、いつも偉そうに言っているのにね。」
歪だと、彼女は思っていた。それに口を出す権利は無いことも、よく承知の上で。
■平岡ユキヱ > 一口で最中をもしゃり、と食べてお茶で豪快に喉に通す。
典雅さ、風雅、粋、たおやかさ、一切合切とは無縁の、あえて言えば「蛮」とでも言うべき豪快なふるまい。
「生徒を核弾頭から守れぬと心の底から嘆く教師は滑稽です。
本当にそう思うのであれば政治家にでもなればいい」
心無い異能や魔術による事件、暴力を核弾頭にたとえ、平岡ユキヱはそう答えた。
「差し出がましいとは思いますが…朝宮先生、
私は先生を偉そうだと思ったことは一度もありません。
戦う事と、導く事は全く別種の行為です。
そして困難さでいえば、他人を信頼し、教導することの方がよっぽど大変ではないかと」
一息、残った茶をすする。
「そして、さらに難しいのは。そういった立場を客観的に自覚することです。
先生に異能や魔術はないかもしれませんが、実のところ武力よりも
ペンや言論が強い時があるのは歴史が証明しています」
なので先生はおそらくこの島でも相当に『強い』です。と快活にほほ笑んだ。
■朝宮 小春 > 豪快に食べるその姿は、先ほどの古風な返事と相まって。
昔の武士はこんな感じだったのかな、なんて失礼なことを考えてしまう。
花の女学生に対しての評価ではなかった。 首を横に振って。
「う。」
相手の言葉、それも一理ある。
その処理を生徒にさせている、という事実は心に刺さるけれど、
その現実を変えるためには、確かに嘆いてばかりも仕方ないわけで。
「ぅ。」
更に、相手の言葉に視線を落ち着きなくそわそわさせる。
自分に自信はそんなに無い。様々な生徒の集まるこの場所で、自分の言葉で一体何割の生徒が理解できているのだろうか、そういうことを考えてしまう。
だから、相手の言葉に少し、眩しい物を見るようになってしまって。
「……。」
更に、相手が爽やかに微笑みながら、こちらを「強い」と言えば。
何も言い返せずに、恥ずかしそうに視線を落とす。
生徒がこんなにも真っ直ぐなのに、できもしないことでクヨクヨ悩む自分が、ちょっと恥ずかしくなる。
「本当に、もう。
倒れた貴方の様子を見に来て、私が元気づけられてどうするのよ。
……ふふ、ありがとう。 どっちが先生か生徒かわかりゃしない。
ちょっとくらい甘えてもらわないと、釣り合いが取れないわ?」
きっと彼女は、現実を受け止めて、そこから思考を重ねるのだろう。
自分も受け止めている気でいたのだけれど、やっぱり、まだまだ足りないようだ。
苦笑交じりに冗談を返して。
■平岡ユキヱ > 「あはは、すいません! どうもこういう生意気なクチでして…」
治らないんですよねー。と微塵も反省していない口で笑い飛ばす。
「ではお言葉に甘えて、髪をといていただいても?」
ちょいと毛先が光っていますが気にしないでください。と相手に櫛を差し出す。
まだ身だしなみの途中だったようだ。
「それが次への力になる…。染めてはいますが、この長さは結構気に入っているんですよ?
洗うの大変ですけどねー」
まー乾かないこと、とかぼやいている。
■朝宮 小春 > 「生意気上等、ちょっとくらい生意気でないと生きていけないわ?
礼儀と敬意が伴っていれば、意見をしっかり口にできる強さは大切よ。」
笑い飛ばすその少女の髪をぽん、と撫でて。
「ええ、もちろん。
最初見た時はびっくりしたものよ。
ええと……きっと、お仕事の時だったのかしらね。
長い物を持って飛び出していくから、怖い子なのかなって、最初は怯えたものなんだけれどね。
こんなにしっかりしてて、可愛いとは思わなかったな。」
くすくすと笑いながら、髪を梳く。
動作そのものは特別上手いわけでもないけど、丁寧で。
傷つけたり、髪が抜けてしまわないように、慎重な様子が伺える。」
「………………これは、貴方の力、なのかしら?」
少し迷ったが、聞いてしまう。 毛先が光っていれば、二回瞬きをして……それだけ。
何も変わらずに、その髪も梳いて。
■平岡ユキヱ > 「アハハ、あいすみません」
どうにも同性の目上の人間に久々にあったせいか、妙にくすぐったい感情を抱きながら
頭をぽんと撫でられる。なんだが久しくこの感触を忘れていた気がする。
言葉を交わさないが、静かに心地よい時がしばらくは流れたか。
「いつもは物騒なモンですけど。ま、そうでなけりゃ
風紀も普通の学校と変わらないですよー?」
寝癖がしっかりおさまり、ありがとうございます。と先生に告げながら。
「過ぎた力です、命をすり減らす。
私がこの学期から、いわゆる『たちばな学級』に移ったことはご存知かもしれませんが」
つまり、異能が制御しきれない者たち用のクラスに動く事になってしまったと。
言葉は暗くないが、かなり深刻な状態である事を明かす。