2016/01/13 のログ
ご案内:「ロビー」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 冬休みと言う名の学生にとって歓迎すべき至福の日々は終わりを告げ、
終わらない課題と繰り返される無理難題にまみれる日々が幕を開ける。
この時期は日程としては後期にあたり、主に前期に単位を落とした生徒が鎬を削っていた。
そんな、開幕1発目の授業が終わり、生徒にとっても教師にとっても、息抜きの時間。

しかし彼は、いつもの事ではあるのだが、自動販売機の前で提出された課題を眺めていた。
今回の課題は“術式の均一化”である。
炎を発生させることはできても、それを全く同じ火力で全く同じ指向性を持たせて複数回発生させるのは困難なことだ。
魔力の出力を細かく調節する技能と、緻密な術式構成が要求される。

「………ふむ…。」

彼の表情を見る限り、冬休み明け1発目の結果としては、あまり芳しくないようだ。

獅南蒼二 > 魔術の発動にムラがあるのは、生粋の魔術師によくみられる傾向がある。
彼らは感覚的に魔力を扱うことが出来る故に、微妙な調整を苦手としている。
つまり、思いの籠った強大な一撃を放つこともできるが、精神状態によっては粗末なものにもなりかねないのである。
その点、出力こそ生粋の魔術師にはかなわないが、努力して魔術を習得した生徒は調整力に長ける。

「………この生徒はまずまず、か?」

だが後期日程ともなると、そういった努力家の生徒はすでにこの【魔術学概論】の授業単位を取得し、次のステップへと進んでいる。
ある意味で一年で最も“難しい生徒”が集まる授業と言っても過言ではないだろう。

獅南蒼二 > だが、中には評判を聞いて後期日程から履修する生徒や、今期の中途に入学した生徒なども含まれている。
そういった生徒の中には、時折、ダイヤの原石を思わせる輝きを放つ生徒も、居ないわけではない。

「……独特の術式構成だが、悪くない。」

恐らく魔術の系統が異なるのだろう、その出自を見れば、異邦人らしかった。
だが、構成力はともかく魔力の出力を完全にコントロールできている。
また一人、面白い生徒が見つかった。

ご案内:「ロビー」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 規則正しいヒールの足音。
レジュメを挟んだクリップボードで戯れに肩を叩きながら、自動販売機コーナーまでやってくる。
赤い革財布から小銭を取り出しながら、見知った姿に気付く。

「……おや。年明けから熱心な教師ぶりだな、獅南」

相手にとってそこに熱心や真面目という心掛けなどないと、単なる地続きの日常でしかないと知りながら。
傍らで、自販機のボタンを押す。見るからに甘ったるい、缶入りのおしるこ。
プルタブを開けながら、笑って首を傾ぐ。

「何か良い発見でも?」

獅南蒼二 > それこそ、足音からもその主が誰であるか、すぐに分かった。
だが顔を上げることもしなければ、気付いたような素振りも見せない。
声を掛けられてもなお、視線は生徒の提出したレポートに向けたまま。

「年明け…か、随分と人間らしくなったもんじゃないか。
 年が明けようと暮れようと何も変わらん私より、余程人間らしい。」

珈琲を貰ってもいいか?なんて、言いつつ、ヨキへ向かって、コインを投げて渡す。
特に意味は無いが、わざと、顔面に向かうように。

「そうとも、素晴らしい大発見だ。
 ……見給え。」

差し出すレポートにはもうなんか意味不明な魔術言語がびっしりでありました。
なんというか、これはもう、ただの嫌がらせである。疲れ果てた顔をした獅南だが、その目は完全に笑っている。

ヨキ > 「だろう?
 ヨキは時候のならわしにはきちんと従うことにしているのさ。
 年賀状とか、おせち料理とか、鏡餅とかな。
 栗きんとんを食べて暮らしが豊かになった実感はないが、気分だけは楽しいぞ」

投げられたコインを、動揺もなく受け取る。
狙ったな、と言外ににやりとして。
再びボタンを押し、ブラックコーヒーを取り出す。
温かい缶を獅南に渡す代わり、差し出されたレポートに目を落とす――

「……わあ」

目にみかんの汁でも飛ばされたような渋面を浮かべ、レポートを返す。

「見る者が見れば、鳥肌ものだな。文字がブツブツしている。
 君と君の生徒らの弛まぬ努力を察してやれないのが、ヨキには悲しいよ。

 …………、ぶ。ぐふッ」

悲しい、と言葉では言いながら、明らかな嫌がらせに負けて噴き出した。
あんこの甘い匂いを上らせながら、おしるこを啜る。

「ヨキもしこたま甘いジュースをくれてやればよかった」

獅南蒼二 > 「ははは、結構なことだ…現代人が忘れてしまった豊かさがそこにある。
 などと、民俗学の教授なら言うだろうさ。私に言わせれば…随分と面倒な娯楽だな。」

ブラックコーヒーを受け取ってプルタブを開け、ヨキの反応を伺った。
予想通りに、予想以上にヨキが反応すれば、ククク、と笑って、

「どうやらアンタを討伐するのなら、魔術を発動するまでもないようだ。
 どうだ、今度、私の研究している魔術の術式を眺めてみるか?」

ニヤニヤ笑いつつも、残りのレポート用紙をまとめて、クリアファイルにしまい込んだ。
珈琲を啜れば、小さく息を吐いて、

「ん、言わなかったか?甘いものは好きではないが、苦手でもないぞ?」

ヨキ > 「レコーダーにディスクを入れれば再生されるとか、画面を触るだけでゲームが遊べるだとか。
 普段の娯楽が、あまりにもインスタントなのでな。たまには面倒さを楽しむのも悪くない」

傍のベンチに腰を下ろしながら、わざとらしい半眼になって獅南を見遣る。

「学生でさえ目が潰れそうなのに、君の術式だなんて恐ろしくて堪らんな。
 だが『怖いもの見たさ』という奴で、興味はある。
 難解を通り越して、神々しささえ感じてしまうやも知れん」

獅南の言葉に、人差し指で額を掻く。

「…………。弱点を晒しているのはヨキばかりだな。
 何かないのか、こう……弱いものとか、怖いものとかいうものは?」

絞り出すようなジェスチャ。

獅南蒼二 > 「面倒さを楽しむ…か、週末にキャンプへ行くようなものだな。
 大自然の中で労働した結果得られるのは寝心地の悪い宿に、美味いとは言えない食事だ。
 そういったものを楽しむ感性というのも、人として生きるには必要なものかも知れんな。」

アンタにそれが必要かどうかは分からんがね?なんて、冗談じみた笑いをひとつ。
それから、ふむ、と小さく唸る。わざとらしく考え込んで、

「私が一番恐ろしいものは、そうだな……」
珈琲を一口啜ってから、何か思いついたように、笑う。
「……饅頭が恐ろしい。その話をしているだけでも気分が悪くなる。」
まんじゅうこわい。きっと、冗談が伝わるかどうかテストしているのだろう。
実際のところ、この男の弱点はあまり知られていないが…運動が得意だという話は、全く聞かれない。

ヨキ > 「君ほどキャンプの似合わん人間は居ないだろうな……。
 いや、大自然の中なら、遠慮なく魔力も放出出来たりするのか?
 どちらにせよ、君は娯楽も感性も、必要とはして居なさそうだ。

 ……は、言ってくれる。ヨキが外で作るカレーは物凄く美味いと、
 子どもらには評判ぞ。人間の鑑であろうが?」

やたらと偉そうに笑い返しながら、芝居めかして前髪を掻き上げる。
だが『恐ろしいもの』についての答えを聞くと、今度こそ本当に固まった。

言葉はないが、“これは冗談なのか?それとも本気か?いやこの獅南のことであるからきっと……”と、
顔中に書かれている。どう見ても固まった犬だ。

「……そうか。ならば今度、嫌がらせをしてやろう」

逡巡の末、『冗談』である方を選択したらしい。

「君の冗句は心臓に悪い」

獅南蒼二 > 「人間には多かれ少なかれ二面性があるという…私にも妙な趣味があるかもしれんじゃないか。
 そして残念だが、私は魔力に乏しい体質でな……大自然の中よりも管理された魔術試験場の方が余程力を発揮できる。
 が……そうだな、少なくとも今欲しいのは、そのどちらでもない。」

「美味いのかも知れんが、私はそれを喰いたいとは思わんね…隠し味に何が入っているのか、分かったものじゃない。」
ヨキが反応に困る様子、必要以上に深読みしている様子、
その1つ1つがどうにも可笑しくて、肩を竦めつつではあるが、笑った。
素直に笑った。

「…そうか、それなら、ついでに濃いお茶が怖い。」
冗談だという方向にしっかりと舵を取って安心させてあげつつ、
「愉快な冗談を飛ばしながら話す、これもまた、人間の鑑だろう?」
楽しげに笑った。
疲労した表情ではあるが、どことなく、研究に没頭している時期よりかは人間味がある。と感じられるかもしれない。
それがまた、どことなく不気味であるかもしれないが。

ヨキ > 「君の妙な趣味、ね。それが道徳と法律に反していないことを願うばかりだ。
 どちらでもないもの――相変わらず、君は君だな。
 研究の糸口に、有望な人材に、資金といったところか」

「は。ヨキのカレーは毒も毒よ。他のカレーが食えなくなるぞ」

獅南の表情が和らぐのに釣られて、愉快げに目を伏せて笑う。
小さな缶のおしるこをあっという間に飲み干して、傍のくずかごへ差し入れる。

冗談と判れば、安心したような顔さえする。

「……判った、わかった。そのときには、眠気の飛ぶような奴を淹れてやる。
 我々はまったく、根っからの見事な人間同士らしいではないか」

一度、言葉を切る。

「…………。

 ヨキは元々、君になら迷わず討たれてもよいと思っていたが。
 人間として生きるためには、どうもそうは行かないらしい」

獅南蒼二 > 「なるほどそれは猛毒だな、アンタを殺すのが惜しくなってしまうだろう。
 ん……その3つは確かに欲しいが、本当に欲しいものは他にある。」

だがその“欲しいもの”を口に出すことはせずに、
相手の表情が変わるのを見ればこちらも、珈琲を飲み干した。

「期待していよう…もとい、恐ろしいものだ。」

楽しげに笑うも、つづけられた言葉…ヨキが静かに語った、その言葉に僅か目を細める。
小さく息を吐き、それから、ポケットから煙草を取り出した。

「私の趣味が、道徳と法律に反していないことを願うと言ったな?
 同じ言葉をアンタにも返そう。
 ……街に散った私の可愛い教え子たちが、野犬を恐れている。」

咎めるわけではなく、まるで忠告するように、獅南は静かにそうとだけ語った。
落第街で発生している殺人など取り上げればきりが無い。だが、特徴的な殺人もいくつかある。
そして、獅南はヨキの出自を知っている。となれば、ヨキと黒い噂を結びつける要素は多い。

「…アンタが本当に人間として生きたいのであれば、人間になることだ。」

ヨキ > 「他に?何だ。手に入れられる当てはあるのか」

ふうん、と声を漏らして、軽い調子で尋ねる。
答えが返らずとも、構わないとばかりに。

自分に向けて獅南が返す言葉に、真っ直ぐにその目を見る。
戸惑うでも、動揺するでもなく、他ならぬ獅南が『それ』に言及することを、
予め予期していたかのように。

「…………。
 君の教え子たちが――『街の外』へ、悪い影響を及ぼさねば済むだけの話だ」

落第街の外へ。

「……ヨキの心は広い。
 あの『街』で絶えず起こる、ありとある悪いこと。
 自分とその仲間たちの中だけで済ますならば、ヨキは何も言わんよ。
 公安にも、風紀にも、学園にだって言うものか」

眼鏡のフレームを押し上げる。

「『表の街』の人びとを巻き込まなければよい。
 むやみに人里を侵すから、猟犬が動く」

太陽が東から上り、西へ沈むこと。
それほど当然の事実を語るかのように、眼差しは平坦だ。

「それぞれの街区として区切られた秩序を守ることの、何が非道徳なのだ?」

獅南蒼二 > ヨキの平坦な眼差しを、見つめ返す獅南はどこか寂しそうだった。
信頼すべき友となり得た獣人は、一方で、やはり、飼い慣らされた犬でしかないのか。

「私の教え子たちはアンタと同じで“人間らしく”生きているに過ぎない。
 あの街に住んでいるのも“人間”だろう?
 あの街と表とを区別していること自体が、異様だということに気付かんのか?」

教え、諭すように、それこそ、無知なる者を、哀れむように。

「人間が人間らしく生きることが、秩序を乱すことに繋がるのなら。
 それは何のための秩序なのだろうな。」

獅南はただ、疑問を呟くのみだった。
平等、融和、そんな理想を掲げながら、そこに見えるものはなんと底の浅いことか。
そこで行われている行為の、何と理不尽なことか。

「私に言わせれば、あの街の人間も同じだ。
 学ぶ意欲のある者は学び、力を手にする資格がある。
 それが“平等”というものだろう?」

静かに立ち上がり、空き缶を放る。缶はゴミ箱の縁に当たり、中にきちんと落下した。

「アンタの理想はそんなに狭く、小さなものなのか?」

ヨキ > 「……ヨキは、あの街に世話になった。
 恩人だって居る。教え子も、馴染みの店も。
 知っている。人間だと、この島に住む人間じゅう誰しも、何一つ変わらぬ人間だと」

眉を顰める。

「街じゅうの人間が、街区の隔たりなく仲良くすればいい。
 共に助け合い、生きればいい。――なのに何故?」

それこそ疑問だとばかりに、首を振る。

「何故、見境なく襲うのだ。なぜ健康を害する薬物を広めようとする?盗み、奪い、女を襲って。
 ヨキは人間が生きることを、学ぼうとする心を、阻みたい訳ではない。

 ヨキと君が、友のように笑って語らうのと同じで――
 誰も互いに身も心も傷付けずに済むことを、望んでいるだけなのに」

立ち上がる獅南を目で追う。

「……ヨキは、君に殺されたかったよ。
 君の美しい術式に、討たれて散ることを望んでいた。

 だがそれは魔物の倫理でしかないと知った。
 ――生きることを、諦めるなと諭された」

獅南の寂しげな表情に呼応するように、動揺が過ぎる。

「ヨキは……」

間。
獣が人間となって間もなく、その異能のために教師に就いたことの歪み。

「この島で、『学生』になりたかった」

ぽつりと零した。

獅南蒼二 > 小さく肩を竦めて視線だけをヨキへと向けた。

「全ての人間が手と手を取り合い、共に歩むか……それこそが、理想だろう。
 それが、アンタが語った理想の終着点だ、違うか?」

何故、と、ヨキが口に出せば、それだ。とばかり、ヨキを指差して、

「我々はこうやって笑い合いながらも、刃を隠し持っている。
 その刃を互いに振るわないのは、私がアンタを知り、アンタが私を知ったからだ。
 いや、少なくとも、互いに興味を持ち、知ろうとしている…から、か。
 さて、今アンタは“何故”と言ったな? さて、何故だろうか。
 無論、悪党も居るだろう。そうせざるを得なかった者も居るだろう。
 だが、少なくとも、野犬に食い殺されることを望んでいた者は居ないだろう。
 アンタはそんな彼らを知ろうと、どのくらい努力を重ねたのだ?」

煙草に火をつけて、静かに、白い煙を吐き出す。

「理想を語るだけでは、何かを望むだけでは何も手に入りはしない。
 理想とは時には幾多の屍の上に、時には血のにじむような努力と研鑽の上に成り立つものだ。」

「学生になりたかった?ならば、今からでも学生になればいい。
 アンタがそう強く望むのなら、進む先に壁など無い。
 それが出来ないのなら……アンタが、理想を語るだけの馬鹿犬でしかないのなら。」

疲れ果てた瞳…しかし、決して輝きを失わない、鋭い瞳を向ける。

「獅南蒼二は、その望みに関わらず、教え子を脅かす野犬を殺す。」

ヨキ > 「そうだ。それこそヨキが望むものだ。
 誰もが、その身に持ついかなる要因に差別されることのない、共存だ」

獅南の言葉に、顔が歪む。
まるで吐き気と嫌悪感とを抑え込むかのように。

「……知ろうとした。したよ。
 ヨキだって馬鹿ではない。ただ狩るだけの獣でなど居たくなかった。
 彼ら彼女らとはみな教師として出会い、友として語り、恋人にさえなった。
 足を洗い、風紀に拾われ、刑期を経て更生したものだって少なくはない」

立ち上がる。
意志を持った瞳が、獅南を見返す。

「だが――そうでない者たちは、知れば知るほど反吐が出る。
 ただ楽しみのために弱者を嬲り、嘲笑い、のうのうと生き延びる者たちが。
 そいつらは言ったよ、女を殺すことがただひとつの娯楽なのだと。

 ヨキは、教えようとしたよ。
 人生の楽しみがそれだけではないことを。
 それが教師として、人間として、彼らの友としてあるべき姿だと思ったから。
 ……それでも、駄目だった。

 法を嘲笑い、それこそ『学ぶ意欲』のない者たちには、どう報いを与えればいい?」

金色の瞳に宿した焔が、ぐらりと揺れる。

「殺しに来い。
 ヨキを知って、知り尽くして、それでもヨキがただの駄犬にしか見えないのならば。

 そのときは――『魔術を使わずにヨキを殺せ』。

 ヨキは、」

吐き捨てるように告げる。

「……君の魔術を、汚したくない」

獅南蒼二 > ヨキの言葉…いや、その表情に、獅南は僅か、笑みを浮かべた。
先ほどまでの寂しげな表情とは異なる、楽しげな笑みを。

「それはまさに、教師として永遠の命題だな。
 確かに、命を狩ることも選択肢に入って然るべきかも知れん。
 つまり、野犬は己の欲を満たすために襲うのではなく、闇に潜む悪を、私刑に処す、ということか。
 まったく、まるでバットマンか何かだな……馬鹿げているが面白い。」

白い煙を吐き出して、吸い殻を携帯灰皿へと入れた。
ヨキの言葉に、その溢れ出す感情に、小さく、獅南は首を横に振る。

「馬鹿犬が、面倒なことを頼んでくれるな。
 どこぞの坊主はだいぶ苦労した挙句にそのザマなのだろう?
 ……その時はアンタには理解できんような、私の最高の魔術を見せてやる。
 撃ち殺すよりも殴り殺すよりも、その方がよほど楽だからな。」

そこに敬意があったかどうかは定かではない。
だが、ヨキが言うほどに、この男はヨキを“汚れたもの”と思ってはいないようだった。
それこそヨキはこの男にとっていまだに“信頼すべき友”であるのかもしれない。

「……ま、アンタがただの駄犬でないことを祈っているよ。
 そうだな、私も答えは分からんが、感じたことを1つ教えてやる。
 “報いを与えよう”と思うのは、アンタが自分自身を、その反吐が出るようなクソ共より上位の存在だと思っているからだ。
 “教えよう”と思うのも、同様だろう。それは、アンタが“教師”だからかな?」


「アンタは、やはり一度“学生”になるべきかもしれんな。」

そうとだけ言い残せば、ヨキにくるりと背を向けた。
それ以上何も言うことはなく、振り返ることもせず、小さく手だけを振って……。

ご案内:「ロビー」から獅南蒼二さんが去りました。
ヨキ > 「……君はヨキのことを、そんなにも調べ尽くしているくせに。
 ヨキのことを、まだ何も知らんようだな。
 このヨキは……人間として在ろうと決めてから、人を我欲のみに襲ったことはない」

きつく皺を寄せていた眉を緩め、下げる。
緊張がわずかばかり解して、小さく笑う。

『最高の魔術』。
どこまでも揺らぐことのない獅南の在りように、ひととき美しい景色を前にしたように目を伏せた。

「……判った。
 君のやりたいように、楽に殺してくれればそれでいい。
 面倒を掛けさせる嫌がらせは、君には通じんようだからな」

目を戻して唇を結び、獅南の言葉を聞く。
ぶら提げた両手は、友人を前に語る姿そのままに緩められていた。
言い残すままに踵を返す獅南に向けて、小さく笑う。

「…………。
 獅南。……君が“教師”で、良かった」

届くとも知れない呟きを、しんとした空気にひとつ落とした。

ご案内:「ロビー」からヨキさんが去りました。