2016/05/07 のログ
■獅南蒼二 > 「……ん?」
気付いてはいたのだが、声を掛けられるまでは敢えて反応しなかった。
煙草を吸っていたからでもあるが、曰くありげな生徒の状況もそれを手伝ったのだろう。
怪我の心配してほしい、という部類の生徒ではないだろう、と、この男はそう思っていた。
「……私も人の事は言えんだろうが、酷い有様だな?」
座るか? なんて言いつつ、
煙が流れないよう気を使ってか、半分ほど残っていた煙草の火を消した。
■十六夜棗 > 「……そうですね、以前の約束を果たすにはまだ遠い実力のようでして。」
こういう時、怪我の事に余り触れないだろう、と思っていたけれど、流石にこの様では触れられるかと一息つく。
ただ、それよりも以前闘技場で約束した件が未だと言う状況にはお詫びせねばならない、と頭を深く下げ。
誘いに、向かいの席を選んで腰を下ろし、置かれていた本のタイトルを見て。
「……本の内容で、思う所が?」
哲学、と言う物には余り詳しくはない。
自分なりの思想に近いものはあっても、他者の思想までは調べたり学んだりはしておらず。
タイトルから、表情を伺う様に視線を上げた。
■獅南蒼二 > 「はははは、何があったのかは知らんが、焦る必要も無いだろう。
まず最初に身に付けるべきなのは、治癒魔法の術式か…もしくは“誰かを頼る”ということだな。」
楽しげに笑いつつも、明らかに適切な処置を行っていない傷を見て、皮肉たっぷりに呟いた。
本を指摘されれば、あぁ、と小さく漏らしつつそれを手に取って、
「さて、どうだろうな…。
あまりにもありきたりで陳腐な内容だともいえるし、それだけに興味深いともいえる。
まさに哲学的だと思わんか?」
冗談っぽく言いつつ、それを差し出した。
そこには“平等”とは何か、という、ありきたりな命題についての考察が記されている。
■十六夜棗 > 「焦る必要はないとは申されますけれど、自分の弱点を理解すると結構致命的でしたからね。
前者は考慮の価値はありますが、後者は難しいでしょう。」
肩を大きく竦めて、洗い出した弱点をどうにかする方法を考えて、寝付けなかったと明かし。
後者を否定した声は、前半の語りに比べてしっかりした口調ながらも暗い。
「ありきたりの問題だからこそ、大勢が悩む問題でもある……のでしょうか。」
読んでみましょう、と本を受け取り、1頁捲る。
視線が文章をなぞり、また1頁捲る。
「世界は不平等に出来ている。
集団であれば不利益を被らずに済む場合が多くても、大勢であればあるほど、飲み込まないと生きていけない不平等が多い。
但し、集団の中に、不平等を押し付ける側が存在していることが原因になっている。
不平等を押し付ける側は力を持っている。平等とは、それぞれが押し付ける側に立てる可能性のある力を持つ機会があるという事に集約される。
と、私なら書きそうな命題ですね。」
■獅南蒼二 > 「致命的な欠陥か…実際に死ぬ前に見つけたのなら及第点だろう?」
小さく肩を竦めてから…予想通りの答えに苦笑する。
何かを言いかけたが、それ以上深く追求することはせず、口を閉じた。
「さて、そんなものに興味は無い、とでも言いたげな人間を、私はたくさん見て来たから何とも言えんな。
少なくとも、私の目の前に居る生徒は、どうやらこの命題に頭を悩ます人種らしい。」
命題に対する答えを静かに聞いてから、小さく頷いた。
まさか哲学的な問答をする日が来ようとは夢にも思っていなかったが…
「不平等を他者に押し付ける“力”と、それをもつ“機会”か。」
……小さくそうとだけ繰り返して、笑う。
「それならばある一点においては確かに平等であると言えるだろう。
不平等な世界において、誰もが強者となる“可能性がある”という点だ。
逆に言えば、弱者となり“押し付けられる側”に転落する危険も内包している。」
「お前としては、それで満足かね?」
■十六夜棗 > 「……そうですね、死ななければ補完の努力はできますから。」
弱点は認識している物は二つあった。
一つだと思っていたものがもう一つあり、それが見つかった事が及第点でもあり、そして頭を悩ます問題でもあった。
眉間に皺がよりそうな問題を片隅に置いて。
「悩ましい問題です。けれど、ある種の答えを持ってぶれなければそれ以上答えを探って悩まずには済みます。」
苦笑にも似た笑みを浮かべて、問いかけを、聞く。
それは、出した答えに対する問いかけ。
「満足では、ないですね。
不満を持ちながら力を蓄え虎視眈々と狙う。
今はそういう状況だとしても、です。」
この点、自分はある二律背反を抱えている事も、最近自覚した。
アンドロイドを書き換えての、信用できる隣歩く者を欲する面と、そもそもその行動自体が押し付ける側になっていると言う面。
答えから脱する集団を作ろうとしながら、結局答えに沿った行動でしか作れないと言う事。
「他者に頼るとは、どちら側なんでしょうね?」
■獅南蒼二 > 「そうやって1つ1つ潰していけば、やがて“死”さえも克服できる日が来るかも知れん。
立ち止まってしまった時にこそ“死”に追いつかれるのかも知れないが、な。」
その問題と対峙するのは自分の役目ではない。
であるならば、助言を求められない限り、これ以上言うべきことも無かった。
尤も、いかなる欠陥を見出したのか、今の獅南には見当もつかなかったが。
「…なるほど、どうやらお前は哲学者には向いていないらしい。」
小さくそうとだけ呟いて笑い、それから、小さく息を吐く。
満足ではないという、その言葉も、苦悩する表情も、自分とは似ても似つかないが、どこか通ずるものを感じたか…
「人間の感じる“不満”とは、相対的なものに過ぎない。
自己よりも裕福なもの、恵まれたもの、優れたもの、それらに触れることさえ無ければ、人は不満など感じはしないだろう。
だが、不思議な事に“満足”とは絶対的なものだ。
恐らく、相対的な不満を解消したところで……他者に勝ったところで、満足感を得られるのはほんの僅かな時間だろう?」
「きっと、もっと上を見たくなる。
さて、それじゃ、お前が本当に満足するためには何が必要だろうな?」
なんて言いつつ、嗤って……
「……他者に頼る、というのは、私も苦手なことだが…
まぁ、お前の言葉を借りるなら“押し付ける側”でありながら“押し付けられる側”なのだろうな。」
「『信頼』とでも言い換えれば、分かりやすいかな?」
■十六夜棗 > 「寿命と言う要素をも一つ一つ潰していく事ができれば、可能なのかも知れませんけれど……想像できませんね」
死の克服とは、最後には寿命と言う要素に行き着くはずで。
それを為しえるとなるとどれだけの事に習熟し、そして自らを改造すればいいのかは、底が見えない。
思いを馳せる到着点だけがわかっても、遠く、道筋も広すぎる有様に思えた。
「…………。」
しばらくの間、静かに話を聞いていた。
表情を変えず、返す言葉が思い浮かばず。
幾つか、ほんの少し頬の包帯が動くばかり。
《触れることさえ無ければ》《他者に勝ったところで》《本当に満足するために》
「……探す事は難しいですね。
なぜなら、満足とは崩れるものだと思っています。
絶対的な価値観として何かを得て満足を得たとします。
それが、不変なものであれば満足し続けられるかも知れません。
あるとは思えませんけれど。」
そこまで言って、席を立ち、自販機へと向かう。
「……信頼と言う言葉はきっと、私にはないものです。」
財布を取り出す中、呟くように、言葉を搾り出した。
■獅南蒼二 > 「先駆者の1人も居てくれれば試してみる価値もあるのだがな。
残念ながら書物に残る偉大な魔術師は皆、墓石の下で眠っている。
いや、それとも、どこかに永遠の命をもった人間の1人くらいいるのかな?」
あまりにも遠い終着点だが、だからこそ、興味深い。
そうとでも言いたげなこの男は、立ち上がった貴方を真っ直ぐに見て…小さく肩を竦める。
「…なるほど。」
貴方の一挙一動を逃さず見ていた…というほどではないかもしれない。
だが、白衣の魔術教師は珍しく、茶化すことも皮肉を言うこともなく、生徒の言葉を受け止めた。
財布を探す貴方に、コインをひょいと放る。
それはこつんと頭に当たって、貴方の手のひらに落ちるだろう。
「それで、そこまで言うからには少しくらい考えているんだろう?
聞かせてみろ…お前が言う“絶対的な価値観”とやら、“不変なもの”とやらを。」
「全ての過程や障害を考えから取り去った…お前の“理想”は?」
■十六夜棗 > 「そして、永遠を持つ魔術師はそれを書には残さないのではないか、と思いますけれどね。」
遠い理由はそこにもあるのではないでしょうか、と先駆者は明かさないとの考えに自信を持って追加で述べる。
そして、その後、ことん、と小さな衝撃。受け取った感覚を手にして軽く掲げて。
「ん、そうですね。二つ、ありましたけど、今は一つです。
……”自分だけが持つ物”」
コインを投入し、一間あけて微笑み、振り返る。
「具体的なビジョンではないです。
人の心も、肉体も、物品も、立場も、不変と信じるには至りません。
けれど、変わったとしてもそれが”自分だけが持つ物”である事に変わりなければ、それには満足が行くのではないでしょうか。」
ホットココアのボタンを押す。
■獅南蒼二 > 「さて、どうだろうな?
少なくとも、私なら嬉々として論文を書き上げるだろう。」
ククク、と楽しげに笑いながら冗談じみた…しかし実に真実味のある答えを返す。
きっと、この男ならそうするだろう、という確信めいたものを感じられるはずだ。
「片方は潰えたか、それとも価値を失ったか…?
まぁ、ともかく……なるほど、それこそ、相対的には測りきれん絶対的な価値だな。
先ほどの問答の続きをするのなら……お前の答えは1つの“正解”なのかも知れん。」
コインをもう1枚放って、珈琲を頼む。と手短にお願いし、
「だが、私ならもう少しだけ、欲を出してしまうだろうさ。
例えば、それを誰かに認めてもらいたい、だとか、後世に残したい、だとか、な。
一人の世界は静かで、何もかもが澄み切っているが……狭く、冷たく、そして暗いものだからな。」
お前はどうなんだ?なんて、視線を向ける。
この男が“誰かに認めてもらいたい”などと思うのだろうか。
その言葉は、貴方を試しただけの言葉なのかも知れない。
■十六夜棗 > 「……私が書には残さないといった理由と、先生が書き上げる理由は、その欲があるかどうかではないでしょうか。」
コインを片手で受け取って、ココアを取り出しながら投入、コーヒーのボタンを押して。
しばらく待って、コーヒーも取り出した後、永遠の命を手に入れた者の行動の見解の違いを、"自分だけが持つ物”と重ねて。
教師の欲を真だと受け取った言葉で返した。
「少し話を戻すと、絶対的な勝利にはなり得なかった、と思っただけです。
それと……。いえ、多分私は残そうとは思わないでしょうね。
認めてもらうとしたら、それこそ”自分だけの物”になった存在にこそその欲が出るでしょう。」
コーヒーを差出ながらテーブルに戻り、ココアを自分側に置く。
「澄み切った場所を共有する存在こそ狭くても世界を暖かく明るくできると思いますよ。」
二律背反を抱え、信頼と言う言葉を持たず、尚求めた歪んだ答えを、微笑んで口にした。
■獅南蒼二 > 「なるほど、道理だな。
下世話な言い方をすれば、お前は随分と独占欲が強いらしい。」
対して言うならば、この魔術学教師は自己顕示欲が強い。
そしてそれは獅南自身の十分に自覚しているところであり、それ故に獅南は“世界”に理想を反映させようとするのだろう。
根本は似た木であったのかも知れないが、真逆の花を咲かせようとしている。
「“自分だけが持つ物”を持ち,“自分だけの物”になった相手と共に、狭い世界で暖かく明るく生きる…か。
どこまでも内向的だが、決して間違った考え方ではない。
……少なくとも永遠の命をばら撒きかねん私の考え方よりかは、他人に迷惑が掛からんだろうさ。」
珈琲を受け取ればタブを開けて、この男にしては珍しく……優しげに笑んだ。
■十六夜棗 > 「……一応これでも女の子ですから。」
内へと向く独占欲は決して性別を理由にするものではないけれど。
けれど、欲するものは外へと向いてはきっといる。
自分で自分だけの物を造り上げようとはしていないのだから。
「でも、この考え方は肯定する人は珍しいと思いますよ?
閉じた世界で生きてはいられない。
この言葉はどうしてもやってくる物です。
その点で言えば、きっと先生の考え方は私の考え方よりは他人に受け入れられやすいでしょう、ね。」
少し寂しそうに微笑み、ココアのタブを開けて、一気飲み。
そして、僅かに欠伸を漏らし。目の下を撫でた。
■獅南蒼二 > 「ほぉ、それならせめて生傷を作らんように努力することだ。」
意地悪な笑みを浮かべて、珈琲を啜った。
貴方が内面に秘めた思いのどれほどを読み取ったかは分からない。
だが少なくともそれを皮肉の種にするくらいには、普段通りの調子に戻って…
「いや、何事も可能だ。
閉じた世界で生きていられないなどと、誰が決めた?
お前だけが持つ物を求めるのなら、それを持ち続けられる閉じた世界をも創造すればいい。
それとも、本当はお前の考え方を皆に受け入れてほしいのか?」
相変わらず意地悪に笑ったまま、こちらも珈琲を飲み干した。
投げ入れるほど器用ではないから、静かに立ち上がって…先ほどの缶と、2つともゴミ箱へ入れる。
「……何にせよ、まずはゆっくり休むことだ。
それから、獅南の実験に付き合ったとでも言って治療してもらえ。
保健室の蓋盛に言えば、何も言わずに治療してくれるだろう。」
■十六夜棗 > 「但し恋人とかおしゃれとか、その辺には興味がなくて。生傷も今更でしたよ。
それに、生傷は大抵必要経費です。」
くすくすと、自分の傷を自分自身だけなら気にしていない、と笑う。
必要経費と言う言葉は1/4程しか本気ではないけれど。
「世界の創造、…………どうでしょうね。それこそ、どれだけの力を集めればいいのやら。
考え方が受け入れられれば狭い世界で閉ざす事も無くなるかも知れませんよ?
でもそれはきっと私だけが持つ物が、多くなっただけの世界です。」
さっきの閉じた世界に比べると大迷惑かも知れないですね?と茶化した。
「……そうします。
言い訳については目撃者もいるもので。
誰かを介在させない別の言い訳を用意しておきますよ。
では、また授業で。」
ココアの缶を握ったまま、小さく頭を下げて。
色々吐き出してすっきりした表情を浮かべて背を向ける。
背中越しに手を振り、そして、保健室の方向へと消えて行った。
ご案内:「ロビー」から十六夜棗さんが去りました。
■獅南蒼二 > 「やれやれ…内向的に見えたのは表面だけか。
思いのほかに、私より厄介な思想の持ち主かも知れんな。」
その背を見送りつつ小さく呟いて、それからテーブルの上の本を手に取った。
それを白衣のポケットへしまい込んでから、自動販売機を見る。
「……いっそのこと、新しい世界でも作ってしまった方が手っ取り早いかね?
まったく、我ながら、どこまでも途方の無い話だな。」
ご案内:「ロビー」から獅南蒼二さんが去りました。