2016/05/25 のログ
ご案内:「職員室」に尋輪海月さんが現れました。
尋輪海月 > 「失礼しましたー……。……はぁ。」

【――職員室の扉を開け、扉の向こうへと一礼をしながら出てきた一人の女生徒は、扉が閉まるまでは愛想良さ気な笑顔でいた。扉が閉まり、中からの教師らの表情の見えなくなるまで閉まりきったのを確認して、……盛大な溜息と共に、頬を掻きながら数歩、その場でたたらを踏んだ。】

「……ッあぁー、マズったぁぁ……。何で大切なパスワードを忘れちまってんだあたしの馬鹿ぁー……」

尋輪海月 > 「……あああ、まずい、ひっじょうにまずい。どうすんだよ、これ。ホントどうしろってんだよー……!」

【……見るに、何かを利用する為の――それも、かなり重要な。――パスワードを忘れてしまったようで、職員室で誰かに頼ろうとし、見事に玉砕したようと思われる。しきりに片手で弄る手帳は乾いた音を立てて捲られ、女生徒の失態をぱさぱさに嘲笑っている。そんな手帳には、その忘れたパスワードとやらは、全くメモを取られて居なかったようだ。
ひとしきりに確認をした後、弍び溜息と共に、廊下の壁にどつっ、と額を打ち付けた。】

「……嗚呼、思い出せない……なんで思い出せないんだよぉぉ……!」
【どつっ、どつっ、どんっ、どんっ。リズムの良いおでこドラムの鈍い音が、廊下に只虚しく響いている。誰か傍らを通ろうものなら、その奇異な光景は間違いなく眉間に山を幾つも作らざるを得ない、そんな様。】

尋輪海月 > 「……あっ」

【――はっとしたように、やっと壁での演奏を止めた。着ているセーラー服の肋辺り、ポケットから取り出したスマホ。世の中にはこういう便利なものがあ】

「…………」

【画面には虚しく、空の電池表示が出ていた。
寝る前の充電は怠るべからず。
……ましてや、転校してきたばかりの彼女ならば、何だかんだで非常事態に見舞われる可能性もある。いざという備えを怠った結果だ。 故に、】

「ッー……!!」

【どつんっ。】

ご案内:「職員室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > おでこドラムの最後の一打ちのあと、廊下には規則正しいヒールの音が響いてくる。
片手に油性ペンで「職員室」と書かれたやかんを携えた教員――いやに背が高く、そうして垂れ下がった犬の耳が目立つ――が、
職員室までやってくる靴音だった。

「………………、」

セーラー服の少女が、壁に向かって項垂れている姿と鉢合わせた。

「……こんにちは?」


教師が着ているつなぎは随分と使い込まれて、布地の所々に白や薄茶の粘土がこびり付いた汚れが見える。
彼は語尾を緩く上げて、陰になった相手の顔を覗き込んだ。

「何かお困りのことでも?」

大型犬が笑ったような顔だった。

尋輪海月 > 「……へ……あ、こんにち」

【陽気な声、人の気配。あぁ、そう言えば此処学校だった。いや現を抜かれ過ぎているだろう私。
声を掛けられる今の今迄気付かないでいた非礼の詫び代わり、
せめてにこやかに――出来るならば、出来たらば――笑顔で、壁につけた額を軸に横に振り返】

「……わん」

【視線が顔を緩やかに通りすぎた。その耳を見た。もふそうなそれを見た。いや待て少女よ。格好を見ろ。相手を見ろ。教師だ。だがしかし、セーラー服の少女は空気の底冷えするような言葉の端くれを口から零し、数秒、呆然とした。

見る限り、着ているセーラー服はこの学校の制服……などにセーラー服があったとして、該当するデザインはない。
明らかに少女の風体は、なんというか、つい最近までは別の学校にいた。そう容易く推理の利く姿だ。】

尋輪海月 > 【首を不自然に曲げて、視線が顔が横なままに上側を見る。女性がしてはならないような、筆舌に尽くし難い、ひどい表情である事さえもきっとこの少女、忘れているか、無自覚か。】
ヨキ > こちらを見上げたまま固まった顔を見遣る。
意識があることを確かめるように、相手の眼前で小さくひらひらと手を振ってみせる。
鋭い爪の生えたいやに大きな手には、指が四本しかなかった。

「……わんわん?」

不思議そうに小首を傾げる。ハウンドの形をした、福耳にも見える無毛の耳朶が揺れた。

落ち着いた様子の言葉掛けは真っ当な教師のそれだが、何しろ身なりが獣人丸出しだった。
つなぎの裾から覗くハイヒールの形も、どうにも変だ。
中身の両足には明らかに踵がないことが察せられて、慣れぬ者には畸形とさえ映るだろう。

「残念ながら、わんわんではないぞ。ヨキはヨキだ。
 見ぬ顔だが、困り事かね。それとも体調が宜しくない?」

にっこりと笑った。

尋輪海月 > 「……へっ?!あ、え、あ、その、ええと……!?」

【目の前を征く四本指の鋭い爪及び手。視線が緩慢に中指の付け根辺りを中心に眼が追った。その後凡そ五秒程の時間を開け、ばっと壁から額を離すと同時に居佇まいを直し、更に一歩か二歩程距離を置いて、……さあ、その後を考えてなかった。いや待てこの人凄い普通に話してるぞでもなんか掌とか凄い爪あるし四本だけだし足もなんかハイヒール履いてる上に踵無いよね?犬?犬なの?待って?狼男?今夜何月?十六夜?そして耳!めっちゃ柔らかそう!

等、最早「削除推奨のキャッシュ」レベルな情報が少女の脳内を一気に埋め尽くしていっているのが、手に取るように判るだろう。要は非常に動揺し、貴方の姿に驚き、そして繕おうと必死のようだった。】

「っいや、カラダはゼッコーチョーで…じゃなくて、だ、大丈夫ですッ……その、いや、すいません、わんわんは忘れて下さい。ちょっとその、忘れてしまいまして……ロッカーの電子鍵の、パスワードを。中に、生徒手帳入れたまんま」

【辛うじて聞き取り、何が言いたいかを汲み取れる位の、この動揺をしているにはよくやった方の語彙力で、貴方の問いかけに答える。一挙一動する度、もし貴方のその耳朶に挙動あらば、視線は即座にそれを追う事だろう。】

尋輪海月 > 【 「はっ。」 】

「……あ、す、すいません、名前教えて下さったのに。ええと、あたし……じゃなくてっ、私は、尋輪海月って言います。つい最近、この学校に転校…というか、編入?転入?してきたばっかで、まだその、色々知らない事ばっかで……」

【しどろ、もどろ。 名前を教えてくれた相手に名乗らず答えるだけ答えて、耳をガン見とは非礼が過ぎたと、視線をやや下気味に、うつむき加減で名乗った。】

ヨキ > きょとんとした金色の瞳が数度ぱちぱちと瞬いたのち、ようやく合点がゆく。

「……ああ!」

気付くのが遅い。
十人十色の老若男女そして魑魅魍魎が跋扈する、長い常世島暮らしの弊害だ。

「やあ失敬、驚かせてしまったかな。
 これでもヨキは異邦人でも人間に近い容姿であるのだが……。

 ……ああいや、そんなことはどうでもよい。
 何だ、ロッカーのパスワードを忘れたと?あはは、そうかそうか」

頷くたび、ぴらぴらと耳が揺れる。ふっくらとした耳たぶだ。

「ヒロワ君か。よしよし、覚えておこう。
 ここで金工を教えているヨキだ。金工の他にも、いろいろやっているよ。
 高いところの物を取ったりとかね」

冗談のつもりらしい。
職員室を覗いたあと、ちょっと待ってて、と廊下を見渡す。

「管理を担当している者に訊けば、マスターキーで開けてもらえるやも知れん。
 この学校、やたらと人が多くてな……ええと、誰だったかな。
 探してくるでな、ここで待っておれ」

鮮やかにウィンクした。軽やかな足取りで、とんかとんかと廊下を歩いてゆく。
擦れ違う生徒らと挨拶を交わす様子からして、良くも悪くも知られてはいるらしい。

尋輪海月 > 「……金工……へ、へぇ……」

【何かその言葉にでも惹かれたのか、その部分を二度繰り返した。何やら合点のいった様子なのに対し、只々困惑のままらしい。
……じい、と凝視する瞳は黒色だが、その縁に、微妙に違和を覚える程度、別の色が見え隠れしているように見える。
そしてその瞳はやはりなんというか、ええ、この人先生なの?嘘?みたいな遺志を隠そうとして隠せずにいる。】

「…よ、ヨキ先生……えぇと、あ、いや、え、え、えっ……?」

【話しかけようとする間に、自分と違ってテンポよく話を転がし足さえ動かし始めるその背中を、言葉が言い切る前にターニングターニング・アンドターニングする。言い切れないまま征く相手を、ただただ呆然と見つめ。】

「……わ、悪い人じゃあないんだよなぁ……多分……??」

【聞こえれば、それはもう、非常に失礼な。】