2016/06/20 のログ
ご案内:「屋上」に暁 名無さんが現れました。
暁 名無 > 日が落ちて間もない学校の屋上で、俺はタバコに火を着けた。
ここ数日の間常世学園の教員として働いてきたが、正直なところ考えが甘かったと認めざるを得ない状況だ。
初めの内こそ、女子生徒や先輩先生たちにちやほやされる華のある学園生活を夢見ていたが、

「まァ、所詮夢は夢か。」

大人になって吐くとこの上なく心にクる台詞と共に、紫煙が梅雨空の下に溶けて行った。
蓋を開けてみりゃ、生徒の名前は覚えらんねえわ、授業用の資料を作ってたら朝になってるわ、
一向にモテ期がくる気配は無いわ、そもそも何かモテ期使い切ってんなって感じするわで、

「散々じゃねえか……オイ……」

暁 名無 > まあ、どれだけ落ち込んでみたところで気運が変わるわけじゃねえってのは昔っから頭でというか、体で理解してるフシがある。
だから今日も、

「とりあえず邪念は捨てて、真面目にこつこつやってかねえとね~」

最初は生徒の名前を覚える所から。
いや、それは最悪最後になるかもしれない。
そんな風に切り替えていくことが、根っこに染みついた俺の頭の使い方だった。

「とりあえず、得意分野ならちょろいと思ってサーセンっした、って密かに謝っとこ。」

暁 名無 > ふかしているだけのタバコは、まだ残り半分ほどあった。
俺はタバコにいつ頃手を着けたのか、よく覚えていない。
学校を出て、あっちこっちフラフラしている間に手を出したのか、気が付けば嗜む程度にはなっていた。

「あの頃ァ色々とあったからなあ~」

ほんの10年ほど前の事を思い返す。
この島で過ごしてきた以上の出会いと、そして別れを繰り返して、
何の因果か、スタート地点に戻って来ちまった。
運命ってのは斯くも奇なるもの哉、ってとこだろう。

「せっかく戻って来たんだ、またモテたいもんだねえ。」

ご案内:「屋上」にフィアドラさんが現れました。
フィアドラ > 「はぁ…。」

また、失敗しちゃいました。
こんなんじゃ友達を百人作るなんていつの事になるのでしょう…。
何となくどこにも行きたくない気分になって屋上に来てみると何か変わった匂いがしました。
…どうやら匂いはあの人間の方からでてる煙からしているようです。

私は気になってしまってその匂い嗅ぐために煙が出てる方に近づきました。

暁 名無 > 「おう?」

何だか溜息と、そしてすぐに足音が聞こえて俺は咥え煙草のまま振り返る。
ゆらゆらと立ち上る紫煙に釣られてきたとは、流石に見抜けるはずもなく、此方に近づいてくる姿にひらひらと手を振って。

「おぅ、もう下校時刻過ぎンぞ。
 こんな時間にどうしたってんだ? アレか?思春期特有の黄昏たいモードってやつか?」

フィアドラ > うん、やっぱりこれです。あの口に銜えてるやつです。
気になる匂いがします。

「黄昏たいモード?分かりませんけどそうかもしれません…。」

なんとなく屋上に来たので理由は特に無かったのですがそれのような気がします。

「えーと、人間さんも黄昏たいモードだからここにいるんですか?」

暁 名無 > 「若いねえ~……って言うと俺もオジサンになったんだなーって思うなあ。」

自分でも判るほどに苦笑を浮かべた俺は、そういえばベンチが近くにあるのを思い出した。
人間さん、と呼ばれた事に一抹の懐かしさなんかを覚えたりしつつ、思わずその名を呼びかけて思い留まる。
余計な混乱を招くことは、今は、しない方が良いだろ?

「人間さんじゃねえよ、暁先生だ。暁おにーさんでも良いぜ。
 ま、何を悩んで黄昏てえんだか知らねェが、良かったら話してみな、少しは楽になるかもしれねえぜ。」

そこにベンチもある事だ、と俺はフェンスから離れて先立ってベンチに腰掛けた。

フィアドラ > ところで思春期ってなんなんでしょうか?

「暁先生、先生なんですか?…!そういえば確かにメガネかけてます!」

先生はみんなメガネをかけてる人が多いのです。
逆に言えばメガネをかけていれば誰でも先生っぽくみえます。

「あの、人への話しかけ方が分からなくて…。
 あの、人と話すときって何を話せばいいんでしょうか?」

友達の作り方が書かれた本にも話す中身については書いてくれてないのでした。

暁 名無 > 思春期にはちょっとばかし早かったか、と俺は内心で反省する。
まあ、それはそれ。

「だろ?……まあ俺も先生だって見て貰い易いだろうと思って掛けてんだけどな。」

ちなみに普段着てる白衣は職員室だ。
タバコを吸うときはどうも白衣は着ていたくない。それが何故かは、俺にも分からない。

「人への話し方なあ。
 ……何を、って構えなくても良いんだよ、そんなもんは。
 まあ基本は挨拶だ、朝ならおはよう、昼間ならこんにちは。夜ならこんばんは。
 後は適当に、初めて会う相手なら自己紹介と、そいつの事が気になるなら幾つか質問を投げてやりゃあ良い。」

前以て話題を準備する方が失敗しやすいもんだ、と我ながらアバウト過ぎないか心配になる回答をする。

フィアドラ > 「見た目で分かりやすいのは良いとおもいます。」

先生かどうかとかは区別がつきにくいので特にいいと思います。
先生は全員メガネをかければとても分かりやすいのではないのでしょうか?

「そんな感じでいいんですか?テレビとかドラマとかの話とかはしなくても大丈夫なんですか?」

クラスの他の人はテレビとかの話をいつもしているような気がします。
でも、テレビとかの話は良く分かりません。

「えーと、こんばんは。」

早速実践しようとしてみます。

暁 名無 > 「だろ? 俺も良いアイディアだと思ってな?」

実際、かなりの確率で先生だと思って貰えてる気がする。
赴任する前日に思いついた付け焼き刃だったが、割と上手くいってるんだ。

「そいつはある程度仲良くなったら、だ。
 いきなりテレビの話をしようにも、相手が何のテレビ見てるか分からなきゃ仕方あるめえ?」

最初の内は当たり障りのない話が一番、と俺自身あんまり実践出来てないにも関わらずアドバイス。
まあ、こういうのは自身を持たせるのが一番だろうから、別に構うもんか。

「おうよ、こんばんは。」

ニカッ、とよく子供っぽいだの言われる笑みを浮かべて挨拶を返してやろう。

フィアドラ > 「なるほど…。勉強になります!」

確かにそう言われればそうです。
知らないテレビの話をされても困ります。
…困りました。

「えーと、私の名前はフィアドラって言います。異世界から来ました。
 実は人間じゃありません。よろしくお願いします!」

うん、いい自己紹介が出来ました!
あとは質問です。

「暁先生が口に銜えているのは何ですか?お菓子?」

煙が出ているソレです。

暁 名無 > 「おう、良い返事だ。はなまる、やるよ。」

そう言って胸ポケットに手を伸ばすものの、
そういえば赤ペンが入ってるのは白衣の方か、と思い至る。

「おう、フィアドラだな。異邦人なのか。
 ……人間じゃないってのは、まあ、見たら分かるが。」

ぱらぱら、とレクチャー通りの自己紹介をした事にまず拍手。
素直ってのは教え甲斐があるもんだ、と俺は軽い感動を覚える。
そして未だに白くたなびく煙立てるタバコの事を問われれば、俺は少し頭を悩ませる事になった。
嗜好品、と言ってしまえばそれまでだが、果たして意味が通るかどうか。

「えーっと……まあ、なんだ。お菓子じゃあねえな。
 子供は手ェ付けちゃ駄目なもんだ、分かるか?まあ酒と一緒だな。」

咥えていたタバコを俺は一度口から離す。
人差し指と中指で挟んだそれを、意味も無く左右に振ったりなんかしつつ。

フィアドラ > 「お爺ちゃんがヒュ、ドラゴンなんですよ!だからクォーターっていうのらしいです。」

ヒュドラって言いそうになったのをドラゴンって言いなおしました。
ヒュドラは何となく悪いイメージがあるらしいのです。

「お酒ってジュースと一緒のものじゃないんですか?」

前にいた世界では特にお酒を飲んだらだめとかはなかったので普通に味のついた水として飲んでいたのです。
でも私は、この世界のジュースの方が好きです。

「こんなに気になる匂いがするのに食べちゃダメなんですね…。」

暁 名無 > 「ヒュ……ドラゴンか、なるほど。」

それでタバコに釣られてきた訳か、と合点がいった。
クォーターでも人外の血はしっかり流れてるもんだな、と場違いな感心をしつつ、俺はタバコを口へ戻す。

「あー、お前らにはそうなんだろうな。
 でも“こっち”の普通の人間、特にお前くらいの子供にゃあんまり良くないもんなんだ。
 間違っても周りに勧めたりすんじゃねーぞ?」

まあ高校生相当なら僅かな飲酒喫煙で大した影響があるとも思えないが、
そこはそれ、仮にも教員としてしっかり指導すべきところなので釘を刺しておく。
ジュースで満足しておけ、と、流石にこれは子供扱いに過ぎるか。

「そもそも食べもんじゃねえんだけどな?
 んまあ、気になるんなら一口だけ……いや、ダメだな。バレたら怒られんのは俺だしな。」

フィアドラ > 「分かりました。お酒とジュースは違うんですね。
 私もジュースの方がおいしいですと思います。」

お酒はなんか変な感じがしてあまり甘くないのです。
人間に勧めるならジュースにしておきましょう。

「えっいいんですか!じゃあ!」

(駄目だという前にタバコに火がついてる側から2センチほどのところを少女は食べた。
 その切り口は鋭利な刃物で切ったような断面をしていた。)

私は暁先生が加えているタバコの先を一口食べます。
火はついてますけど熱くはありません。私も頑張れば炎を吐けるので。

「うん、初めて食べましたけど変わった味がします…。外の紙はそのまま食べてもいいんですか?
 って、先生怒られちゃうんですか!?ごめんなさい!」

暁 名無 > 「おうよ、しっかり覚えとけよ。
 ちゃんと覚えとかねえと、それこそ友達減らしちまったりするからな。」

まあこれだけ脅しを掛けとけば充分だろう。
少なくとも、この時代の俺であれば馬鹿真面目に従う言い方だった。

「あっ、おいコラ!……ったく、人の、特に先生の話はちゃんと最後まで聞け。」

油断した一瞬の隙を突かれて、俺は苦々しく舌打ちをする。
幸い相手はヒュドラのクォーターだ、並の人間以上に有害な物には強いだろう。

「まあ、食っちまったもんは仕方ねえ。
 それにな、食いもんじゃねえって言ったろう?
 火のついてねえ方を吸ってな、煙だけ入れるんだよ、煙だけな。」

次から気を付けろよ、と俺は添えてから、果たして次があるのか、と疑問に思った。
まあ、もしあったとしてもその時はその時居合わせた奴が停めりゃ良いんだ。

フィアドラ > 「…友達減るんですか。分かりました絶対にお酒は勧めません!」

お酒とジュースの区別はつきませんが友達が減るとなっては大事です。
二人減ったら友達が一人もいなくなってしまうのです。

「ごめんなさい。気になってて一口っていわれたので…。」

やってしまいました…。
こんなんだから世間知らずとか常識が無いとか言われてしまうのです。

「…何で煙を吸うんですか?良く分かりません…。
 何かの練習なんでしょうか?あっでも結構癖になりそうな味でしたよ!」

食べ物じゃないのに口にくわえる意味が良く分かりません…。
食べた方が絶対においしいのに…。

暁 名無 > 「おう、減るぞー 超減る。
 ま、お前なら大丈夫だろ、うんうん。」

きっぱりと宣言するフィアドラの頭を撫でてやりたい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。
生徒と先生という立場である以上、軽率な事はしちゃいけない……とは思うのだが。
まあ思うのと実行するのはまた別問題だろう、と俺は手を伸ばして素直な少女の頭を撫でてやろうとするのだった。

「ちゃんと人の話は最後まで、な?
 人が持ってるものを食べたり飲んだりするときは、ちゃーんと相手に確認をするんだ。 いいか?」

まあこうやって失敗を重ねて人は成長するものだ。
俺自身何度も何度も失敗を重ねた結果、今此処に居る……ので、失敗もまあ、回数に制限があると思った方が良いのかもしれない。

「何でだろうな、あんまり食べるのは好きな味じゃないんじゃないか、人間には。」

噛みタバコという物もあるとは聞いたが、あれも最終的には吐き出すらしい。
結局のところ、有害である事に尽きるのだろうが、さすがにそれを説明するのは難しい。
だって種族からして有害な物のレベルが違う。

フィアドラ > 「そんなに減るんですか!って!な、なんで撫でるんですか?」

なんで撫でるのでしょうか?
…嫌ではないですけど。

「人の話は最後まで聞く…人の物を食べるのは相手に聞いてからにする。
 はい、次からは気をつけます。」

今度は最後までちゃんと聞かなければ!
また、世間知らずみたいな扱いになってしまいます。

「やっぱり人間って良く分かりません…。」

好きな味じゃないのに…本当に良く分かりません。

「あっもう、真っ暗ですね。そろそろ私帰ります。今日はありがとうございました!」

気がついたら辺りはもう真っ暗です。
そろそろ帰らなければ寮でご飯が食べられません!
急いで入口のドアに向かいます。

「また色々教えてください!暁先生!」

ご案内:「屋上」からフィアドラさんが去りました。
暁 名無 > 「おう、じゃあなフィアドラ。
 気を付けて帰れよ、最近何かと物騒だからな。
 さっき教えた二つは、よーく覚えとけよ。大事だぞ、だーいーじ。」

火の消えた、というか寸断されたタバコを片手に俺はフィアドラが帰ろうとするのをその場で見送る。
寮まで送って行きたいのはやまやまだが、どうせすぐに職員室で明日の資料作りがあるのだ。

「また色々教えてください、暁先生、か……。」


屋上を去ったフィアドラが最後に残した言葉を自分でも呟く。
うん、悪くない。
だけど女生徒に何か教えるなら、出来ればもうちっと、こう、
綺麗所に手取り足取り……と考えたところで、結局煩悩は払えないものだと気付いて軽く凹む俺だけが、屋上に残された。

ご案内:「屋上」から暁 名無さんが去りました。