2016/07/01 のログ
ご案内:「教室」にステーシーさんが現れました。
ステーシー > 最後の授業が終わった。
ボーっとしていたことに気づき、慌てて黒板の文字をノートに書き写す。

最近、路地裏で人斬りとしての本能のようなものを自覚してから、日常と非日常の境が曖昧だ。
何もしていなくても、気がつけば自分が抜刀しているかのような気分になる。

シャーペンの芯が切れた。ペンをノックする。

ステーシー > 『……貴女が持つべき剣だとも、思えませんけれど。』

脳裏にルフス・ドラコが言った言葉が反響する。
あれから殺意に任せて刀を振るったことはないけれど、それでも自分に刃を持つ資格があるのか悩み続けている。

ペンをノックし続ける。

ステーシー > カチカチ。カチカチ。カチカチ。カチカチ。カチカチ。

『ちょっとステーシー、どうしたの?』
『そのペン、芯が空なんじゃないのー』
『思いつめた顔して、ちょっと怖いよ、ステーシー!』

同じ授業を受けていた同学年の子たちに声をかけられてハッとする。

「え、ええと……ごめんなさい、ボーっとしてて」

慌てて言い訳をして、ペンを机に下ろす。
自分はずっと空のペンをノックし続けていたのか。

『もう、変なステーシー』
『それじゃ私たちもう帰るね、また明日ー』
『生活委員会でね、サボったら怒るよ』

友達が帰るのを見送って、溜息を吐いた。

ご案内:「教室」にリビドーさんが現れました。
リビドー >  
「ふむ――。」

 忘れものか探しものか。
 最後の授業が終わった後の教室に新たに足を踏み入れる教師。
 制服ではないが、若い風貌からは知らなければ生徒と見紛うものはあるか。
 
 教壇の机の中を探すように覗いた後、周囲を見渡す。
  

ステーシー > 替え芯を取ろうとして筆箱の中身を教室の床にぶちまけてしまう。

「あわわわわ…!」

もう、何もかも滅茶苦茶だ。
心の制御どころか指先の制動がかなり怪しい。
筆箱の中身を拾っていた時に、教室に入ってきた男性と目が合った。

「あ……先生」

以前に会った人だ。頭を下げた。

「ど、どうもー……」

どうにもかっこわるい場面を見られてしまった。

リビドー > 「ああ、こんにちは。ふむ――。」

 会話を交わしながらも筆箱の中身を拾い上げていく。
 ある程度拾い上げれば、一旦机の上に置くだろうか。

「この前とは随分と具合が違うが……疲れている、いや、参っているのかい。
 多少の身体的な疲れで乱れる方ではないだろうからな。」

 少なくとも、リビドーはざっくりであるがそう認識している。
 当然・自然な調子で気に掛ければ、そのまま言及する。 

ステーシー > 「あ、あああ……すいません、ありがとうございます」

二人で筆箱の中身を拾って、最後の猫のワンポイントがついたボールペンを拾い終えた。
そして、頭を下げた。

「ええと………その…」

いくらなんでも、顛末を全て話すわけにはいかない。
言葉を選ぶことにした。

「少し、悩みがあって。自分のこととか、刀のこととか、色々…」

顔に笑顔を浮かべていたつもりだった。
しかし、自分でも薄々感づいていたけれど、ボンドで貼り付けたような表情をしていただろう。

リビドー >  
 張り付けた様な薄い笑みは把握できるし、それに連なる言い淀み言葉を択ぶ口ぶりや仕草もよく分かる。
 このように教師としても振る舞える以上その位は分かる。
 大きく、ため息を付く。

「全く、常世ディスティニーランドのマスコットのお面の方がよっぽど自然な笑顔だな。
 とは言え、話せないものを話させる訳にもいかんか。となればあまり多くは問えまいな。
 しかしこれでも教師だ。それほど参っている生徒はどうしても気に掛けてしまうよ。

 ――自分と来て、刀と来れば武術の道にでも悩んだか。理由のない暴力が嫌いか?」
 

ステーシー > 「と………っ」

常世ディスティニーランドのお面というとアレだろうか。
川添孝一が時々部室で自慢げにつけていたアレだろうか。
っていうかなんでつけてるんだあの先輩。学校だろ。
どっちにしろ可愛くない。絶句した。

「……その、ありがとうございます先生…」
「理由のない暴力は………嫌いです」
「でも、自分に正義がなかったら使う力は自然と暴力になってしまう」

ノートをぱたんと閉じながら、教師に向き直る。

「私は私の正義がよくわからなくなりました。でも、私は怪異対策室三課という対怪異組織に所属しています」
「このまま怪異と戦い続けていいのでしょうか…」
「私は、私の力を誇示するために怪異と戦っているんじゃないかって…」

リビドー >  
 想像しているアレ《ディスティニーマウス》であるだろう。
 基本的にリビドーは珍しいもの・新しいもの・想いの強いもの・見どころのあるもの――
 ――つまるところ、だいたいのものには興味を示す。

 閑話休題。
 出来事自体に触れる事を避けつつ、悩みそのものを探っていく。

「ふむ。その問題は難しい。
 古今東西、色々な者がその問題に向き合ってきたものだ。そうだな――
  ――少なくとも、大事なものだ。良く取り扱われるが決して陳腐にはあるまい。
 だが、その分野には教鞭を執るぐらい力は持っている。だから、少しだけ理性で分解できる手伝いをしよう。」

 正義でない力は暴力だ。
 理由のない暴力は嫌悪する。
 其処を取っ掛かりに、彼女に向ける意志を思案する。
 
「理由のない暴力は、大体欲求に直結する。
 少なくとも社会に身を置ける奴が行うそれは大体そうだ。
 気分が悪いから・認めたくないから・その欲求は自分の気持ちとしてはそうしたい――正義だろう。」

「だが、その感情を抱くとき、キミはこうも思うだろう。自分が思う常識・社会――これはやっちゃいけないことだと。」

「そして、怪異対策室三課だったな。住民の為に産まれた組織と聞いた。
 能力を誇示する為に戦っている。それは間違っていない。
 いない、が、それは悪く捉えすぎだよ。誰かの為になりたいから。そうじゃないか。
 ……誰かのためになれる実力を認められたい。それくらいはあるだろうが、大体のものは持っているものだよ。
 生活がある程度満たされているなら、それを求める事は自然な事だ。」

 ――出来得る限り専門的な用語を省きつつ、解釈を提示する。
 用語の権威を借りるのは後で良いし、用語の権威で納得させるものでもない。
  

ステーシー > 「……お願い、します」

理性。それは今の自分の腹の底にずんと響いた。
獣性と理合の狭間で振るう剣を身上としながら、理性が最近疎かになっていたのではないか、と。

リビドーの言葉を自分の心の中で咀嚼していく。
常識や社会性を教わった身であって、理由のない暴力は忌避すべきことだ。
ここまでは正しい。

「……自分の力を誇示しても、ある程度は仕方がないと?」

確か、授業でちょっと習った分野だったかも知れない。
承認欲求…確かこういう言葉だったような、違うような。

「先生の言うこと、正しいんですけど……こう…」
身振り手振り、なんか変な動き。
「正義は見返りを求めないとか、そういう風潮があって自分もそうだと思ってたり」
「あれ、でも私は怪異対策室三課や生活委員会の仕事でお金をもらっているから? あれ?」

自分の前提がおかしいのかな。しどろもどろ。

リビドー > 「エゴだよそれは。」

 斬り伏せると言わんばかり断言する。

「怪異対策室三課や生活委員会の肩書は一度置いておけ。
 そこへ所属すると選択した事も、お金をったう事も結果の話だ。
 月並みな話だが、それが良いと思ったから入ったんじゃあないかい。
 お金や立場が理由ならそこまで悩む必要はない風に思える。」

 表情を伺いつつ、少しずつ言葉を進める――
 ――つもりだが、饒舌ではあるかもしれない。

「それで暴力の話の前に見返りの話の戻ろう。
 見返りを求めない正義。ああ、そう言うものもいいだろう。
 だがそれだって、何故と突き詰めてしまえば そうしたいから に辿り着く。」



「理想的な正義を実現し、憧れの正義になりたい。
 私の思う世界であってほしい、

 ――私や家族に酷いことをしたアレは悪だから正義になって復讐したい。
 アレのように私欲に塗れたくない。だから見返りを求めないし徴税もしない。
 などもこれにあたるか。」

「さて、キミは何で自分が正義でないと思った?
 したい事が出来なかったか。したい事を否定されたか。したくないことをしてしまったか。
 想いと 想いを批判する何か が 有ったはずだ。」
 
 

ステーシー > 「……はい、ありました」
「したくないことをしてしまいました……自分の意思じゃないと信じたかったけれど」
「やっぱり、自分のままだったと思います…」

苦しげに吐露する。
教室には他に人はいない。
正義と苦しみの個人面談。

「これが私の正義で、これがその結果なのだとしたら」
「終焉がほしいくらいです」

憔悴しきった表情から紡がれる、苦しみの言葉。

「やはり、私には刀を持つ資格はないのでしょうか」
「ただの異世界からの客人である私が、この世界の何かに干渉しようと言うのが思い上がりなのでしょうか」

猫耳が小さく震えた。
その言葉は、苦悶に満ちて。

リビドー >  

「――流石に叱るぞ、この戯け。」

 鼻を鳴らす。
 触るよりも慎重に、それこそ撫でるようにステーシーの頭を叩こうと奮う。
 避けても良いし、痛みはなくとも暴力だと訴える事も出来るだろう。

「お前の正義が何かは知らん。
 何をやったのかは知らん、キミの中の正義や法を犯したのかもしれんがボクは知らん。」
 
 切欠は何かしらの理念の元、想いを以って干渉したのだろう。
 拒まれた。間違えた。小我が大我に勝ってしまった。エゴがEsを抑えきれなかった。
 どうとでも推察出来るし、分解出来る。
 
 だから、腹立たしかった点はそこではない。

「だがな。完全でなければ刀を握ってはいけないと言うのか。」

 睨み、咎めるように口を尖らせる。
 理性と感情を丸ごと乗せる。

「はっきり言っておくぞ。"完全なものなどこの世界にない。"
 大きく間違えただけで降りる。完全でなければ資格が無いと嘯く。
 だから、言おう。」

 

リビドー >   
 
「――完全でなければならないと思うその苦悶こそ思い上がりだ。
 思い上がりも甚だしい、理想が正しく自分は正しくないと誇示するものだ。」
 
 前置きの後に間を置く。
 そうやってステーシーに構える時間を十分に与えてから、はっきりと言い放った。

 

ステーシー > 頭を軽く叩かれた。
耳が揺れて顔を上げる。

「!?」

自分の口からごめんなさい師匠、という言葉が突いて出そうだったのが何とも恥ずかしい。

でも、その後に続く言葉は。

「………っ」

響いた。まるで本物の師匠に言われた言葉であるかのように。
いや、違う。自分の剣の師匠と比べる必要はない。
この人は教師なのだ。自分の師そのものである。

「……ありがとうございます、先生」

頭を下げた。自分の未熟さを痛感した。

「不完全でも、みっともなくても、恥ずかしくても、不恰好でも」
「もう一度、自分と向き合ってみようと思います」
「思い上がりを正し、自分自身の真意を知ります」

胸の前でぎゅっと拳を握る。
尻尾がゆらりと揺れて。

「お題目より必要なことを、思い出せるように努力します」

真っ直ぐにリビドーを見て、そう言った。

「気分が上向きました、ちょっと走ってきます」

ノートと筆箱を鞄に詰め込む。

「先生、本当にありがとう!」

そう言ってもう一度頭を下げ、廊下へと歩いていった。

ご案内:「教室」からステーシーさんが去りました。
リビドー >  
「全く、立ち直りも早いな。
 染み込ませる為に一戦叩いておこうかとも思ったが――」

 あの調子なら蛇足だろう。
 また"ああ"なったら、身体で覚えさせる他ないが。
 その様に思案した後に身体を伸ばして解し、廊下へと足を向ける。

「――さて、ボクも行くか。
 忘れ物もここでは無さそうだからな。」

 ……歩みを進め、教室を去った。 
 

ご案内:「教室」からリビドーさんが去りました。